説明

車両の船積み用フック部構造

【課題】フロントバンパのデザイン自由度を確保しつつ、フック部材の小型・軽量化と生産設備費用の削減を図ることができる車両の船積み用フック部構造を提供すること。
【解決手段】車体前部の左右下部に取り付けられた左右の各フック部材1に、フック付ロープのフック20を係止するための長孔1aをそれぞれ形成して成る車両の船積み用フック部構造において、左右一対の前記フック部材1の一方に前下がりの長孔1a、他方に後下がりの長孔1aをそれぞれ形成するとともに、両長孔1aの最下点位置を各フック部材1の車両前後方向中央に配置する。又、左右の前記フック部材1を、車両前後方向に延びる左右一対のエプロンサイドメンバ4の各前端部から垂直下方に延びるエプロンサイドメンバ延長部10の下端部とフロントロアクロスメンバとの連結部にそれぞれ取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を船積みして輸送する場合に車両を固定するための船積み用フック部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両を船積みして輸送する場合、該車両をフック付ロープ等の係止具によって船体に固定する必要がある。この場合、車両の船積み用フック部構造として、車体前部の左右下部に左右のフック部材を取り付け、各フック部材に形成された係止孔に例えばフック付ロープのフックを係止する構成が採用されている。
【0003】
ところで、上述のようにフック付ロープを用いて車両を船体に固定する場合、フック付ロープが車両のフロントバンパに干渉してフロントバンパに損傷を与えないよう両者間に車両前後方向の隙間を設ける必要があり、そのためには車両側のフック部材に形成される係止孔をフロントバンパ下端に対して車両後方位置に設ける必要がある。
【0004】
又、フック付ロープを用いて車両を船体に固定するためには下記条件を満たす必要がある。
【0005】
条件1:フロントバンパとフック付ロープとの間に車両前後方向の隙間を確保ために係止孔をフック部材の下方に配置する場合、車両の走行時にフック部材が道路の縁石に干渉しないこと。この条件を満たすためには係止孔の位置には下限が存在し、これに伴ってフロントバンパの下端位置に下限が生じ、フロントバンパのデザイン自由度が制限を受ける。
【0006】
条件2:フロントバンパの下端とフック付ロープとの間に車両前後方向の隙間を確保するためにフック部材を大型に延長してフック部材の係止孔をフロントパンパ下端に対して車両後方に配置すること。このため、フック部材が大型化し、その重量とコストが増加する。
【0007】
条件3:条件1,2を満足するために生じる問題を解消するためにフック部材に形成される係止孔をその最下点位置が車両前方になるよう傾斜した長孔とすること。この場合、フック部材を車両の左右について共用すると係合孔が左右で非反転形状となるため、係止孔の形状が異なる2種類のフック部材が必要となり、生産設備費用が2倍に増加してしまう。
【0008】
ところで、特許文献1,2には、車両を牽引するときに牽引ロープを引っ掛けるためのフック部構造がそれぞれ提案されている。具体的には、特許文献1には左右のフック部材に車両前後方向に長い水平な長孔を形成する構成が提案され、特許文献2には前下がりと後下がりの傾斜した2つの長孔を組み合わせた十字状(反転形状)の係止孔をフック部材に形成する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実用新案登録第2549564号公報
【特許文献2】実開平10−175412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来は前記条件1〜3の全てを満足する船積み用フック部構造は存在しなかった。又、特許文献1,2において提案されたフック部構造は牽引用のものであるため、当然ながら前記条件1〜3の全てを満足することはできない。
【0011】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、フロントバンパのデザイン自由度を確保しつつ、フック部材の小型・軽量化と生産設備費用の削減を図ることができる車両の船積み用フック部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、車体前部の左右下部に取り付けられた左右の各フック部材に、フック付ロープのフックを係止するための長孔をそれぞれ形成して成る車両の船積み用フック部構造において、左右一対の前記フック部材の一方に前下がりの長孔、他方に後下がりの長孔をそれぞれ形成するとともに、両長孔の最下点位置を各フック部材の車両前後方向中央に配置したことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、左右の前記フック部材を、車両前後方向に延びる左右一対のエプロンサイドメンバの各前端部から垂直下方に延びるエプロンサイドメンバ延長部の下端部とフロントロアクロスメンバとの連結部にそれぞれ取り付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、左右一対のフック部材の一方に前下がりの長孔、他方に後下がりの長孔をそれぞれ形成するとともに、両長孔の最下点位置を各フック部材の車両前後方向中央に配置したため、左右の両長孔に対してフック付ロープのフックが係止される最下点位置が車両前後方向で同じ位置となり、両長孔が非反転形状であっても、フック部材を左右で共用することができ、1種類のフック部材を生産するだけで済むために生産設備費用が低く抑えられる。
【0015】
又、フック部材に形成される長孔を前下がり又は後下がりの傾斜孔としたため、各フック部材の車両前後方向の幅を狭くして該フック部材の小型・軽量化を図ることができる。そして、フック部材をフロントバンパに対して車両後方に配置することによって、フロントバンパの下端位置に制限を受けることなく、該フック部材の長孔に一端が係止されるフック付ロープとフロントバンパ下端との間に隙間を形成して両者の干渉を防ぐことができ、フロントバンパのデザインに自由度が確保される。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、エプロンサイドメンバ延長部の下端部とフロントロアクロスメンバとの連結部は剛性が高い箇所であり、この剛性が高い箇所にフック部材を取り付けたため、該フック部材の取付部周辺が変形しにくく、左右のフック部材に一端が係止されるフック付ロープによって車両を船体に確実に固定した状態で輸送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る船積み用フック部構造を備える車両の前部下部の側面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明に係る船積み用フック部構造を備える車両前部の車体構造を斜め下方から見た斜視図である。
【図4】(a),(b)は左右のフック部材の長孔形状を示す部分側面図である。
【図5】フック部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は本発明に係る船積み用フック部構造を備える車両の前部下部の側面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は本発明に係る船積み用フック部構造を備える車両前部の車体構造を斜め下方から見た斜視図、図4(a),(b)は左右のフック部材の長孔形状を示す部分側面図、図5はフック部材の斜視図である。
【0020】
図1は車両を船積みして輸送する際に該車両の前部左右をフック付ロープ20(図1には一方のみ図示)を用いて船体に固定している状態を示しており、各フック付ロープ20の一端のフック20aは、船体の床面Fに固定された環21に引っ掛けて係止され、同フック付ロープ20の他端のフック20bは、車両の車体に取り付けられた左右一対の各フック部材1(図1には一方のみ図示)に形成された長孔1aに引っ掛けて係止されている。尚、図1において、2は左右一対の前輪(図1には一方のみ図示)、3は車両の前端下部に車幅方向(図1に紙面垂直方向)に配されたフロントバンパである。
【0021】
ここで、車体前部の構成を図3に基づいて以下に説明する。
【0022】
車両前部のエンジンルームSの左右には車両前後方向に延びる左右一対のエプロンサイドメンバ4が配されており、これらのエプロンサイドメンバ4の各前端からはランプサポートブレース5が上方に向かって延びている。尚、左右一対の各ランプサポートブレース5には不図示の左右の各ヘッドランプが支持される。
【0023】
左右一対の上記ランプサポートブレース5の各上端部同士は、車幅方向に水平に配されたフードロッククロスメンバ6によって連結されており、該フードロッククロスメンバ6の車幅方向中央には、フロントフード(ボンネット)7のストライカ8を受けるフードラッチ部材9が取り付けられている。
【0024】
他方、左右一対の前記エプロンサイドメンバ4の各前端からはエプロンサイドメンバ延長部10が下方に向かって延びており、これらのエプロンサイドメンバ延長部10の各下端部同士は、車幅方向に水平に配されたフロントロアクロスメンバ11によって連結されている。尚、フロントロアクロスメンバ11上には不図示のラジエータが支持される。
【0025】
従って、車両前部には、フードロッククロスメンバ6を上辺、左右一対のランプサポートブレース5とエプロンサイドメンバ延長部10を左右の縦辺、フロントロアクロスメンバ11を下辺とする矩形枠フレームが構成されている。
【0026】
而して、左右の前記フック部材1は、左右の各エプロンサイドメンバ延長部10の下端部と左右の各フロントロアクロスメンバ11との連結部にそれぞれ取り付けられている。
【0027】
次に、各フック部材1の構成とその取付構造について説明する。尚、左右のフック部材1の構成とその取付構造は同じである。
【0028】
各フック部材1は、図5に示すように、矩形平板状の上壁1Aと、該上壁1Aの一方の長辺側端部(車幅方向端部)から垂直下方に折り曲げられた縦壁1BとでL字状に屈曲成形されており、上壁1Aの左右方向(車幅方向)2箇所には円孔状のボルト挿通孔1bが形成されている。
【0029】
又、各フック部材1の縦壁1Bには上下方向に傾斜する前記長孔1aが形成されている。ここで、本実施の形態では、1種類のフック部材1を左右について共用しており、従って、図4(a)に示す車両右側に取り付けられるフック部材1においては長孔1aは後下がりとなり、図4(b)に示す車両右側に取り付けられるフック部材1においては長孔1aは前下がりとなる。尚、図5に示すように、フック部材1の縦壁1Bの上辺を除く周縁と長孔1aの周縁には車両内側に向かって直角に折り曲げられたフランジ1c,1dがそれぞれ形成されており、これらのフランジ1c,1dによってフック部材1の剛性が高められている。
【0030】
ところで、前述のように左右の各フック部材1の長孔1aには各フック付ロープ20の一端のフック20bが引っ掛けられて係止されるが、該フック20bはフック部材1の長孔1aの最下点位置cで係止される。
【0031】
而して、本実施の形態では、図4(a)に示す右側のフック部材1に形成された後下がりの長孔1aの最下点位置cと図4(b)に示す左側のフック部材1に形成された前下がりの長孔1aの最下点位置cは共に左右の各フック部材1の車両前後方向中央に配置されている。従って、本実施の形態のように1種類のフック部材1を左右で共用する場合には、図4(a)に示す右側のフック部材1については長孔1aが後下がりとなり、図4(b)に示す左側のフック部材1については長孔1aが前下がりとなるが、左右の長孔1aの最下点位置cは車両前後方向で同じ位置となるため、フック付ロープ20のフック20bの左右のフック部材1に対する係止位置は車両前後方向において同じとなる。尚、本実施の形態では、左側のフック部材1については前下がり、右側のフック部材1については後下がりとなるよう長孔1aを形成したが、これとは逆に左側のフック部材1については後下がり、右側のフック部材1については前下がりとなる長孔を形成しても良い。
【0032】
以上のように構成された各フック部材1は、エプロンサイドメンバ延長部10の下端部とフロントロアクロスメンバ11との連結部に以下のように取り付けられる。
【0033】
即ち、図2に示すように、フック部材1の縦壁1Bが車両の外側方に向くようにして上壁1Aをエプロンサイドメンバ延長部10の下面に当て、両者を図示のa点でスポット溶接することによって接合する。
【0034】
次に、フロントロアアクロスメンバ11の左右端をフック部材1の上壁1Aの下面に下側から当て、該フロントロアクロスメンバ11に形成された2つのボルト挿通孔11a(図2には一方のみ図示)とフック部材1の上壁1Aに形成された2つのボルト挿通孔1b(図2には一方のみ図示)とを合わせ、両ボルト挿通孔11a,1bに下方から挿通するボルト12をエプロンサイドメンバ延長部10の内部に溶着された溶接ナット13にねじ込んで締め付けることによってフロントロアクロスメンバ11とフック部材1がエプロンサイドメンバ延長部10の下面に取り付けられる。尚、図2には左側のフック部材1の取付構造のみを示すが、右側のフック部材1の取り付けも左側のフック部材1と同様になされる。
【0035】
而して、以上のようにエプロンサイドメンバ延長部10の下端部とフロントロアクロスメンバ11との連結部に取り付けられた左右のフック部材1に形成された長孔1aには、図1に示すように、フック付ロープ20の一端のフック20bが引っ掛けられて係止され、このフック付ロープ20によって車両前部の左右が船体の床面Fに固定されるが、フック20bはフック部材1の長孔1aの長手方向に沿って移動させることによって容易に長孔1aに係合するため、その引っ掛け作業がスムーズに効率良くなされる。又、長孔1aに周縁に形成されたフランジ1dは車両内側に折り曲げられているため、このフランジ1dがフック20bをフック部材1の長孔1aに引っ掛ける作業を阻害することがない。
【0036】
以上のように、本発明に係る車両の船積み用フック部構造によれば、左右一対のフック部材1の一方に前下がりの長孔1a、他方に後下がりの長孔1bをそれぞれ形成するとともに、両長孔1aの最下点位置cを各フック部材1の車両前後方向中央に配置したため、左右の両長孔1aに対してフック付ロープ20のフック20bが係止される最下点位置cが車両前後方向で同じ位置となり、両長孔1aが非反転形状であっても、フック部材1を左右で共用することができ、1種類のフック部材1を生産するだけで済むために生産設備費用が低く抑えられる。
【0037】
又、フック部材1に形成される長孔1aを前下がり又は後下がりの傾斜孔としたため、各フック部材1の車両前後方向の幅を狭くして該フック部材1の小型・軽量化を図ることができる。そして、フック部材1をフロントバンパ3に対して車両後方に配置することによって、フロントバンパ3の下端位置に制限を受けることなく、該フック部材1の長孔1aに一端が係止されるフック付ロープ20とフロンとバンパ3の下端との間に隙間を形成して両者の干渉を防ぐことができ、フロントバンパ3のデザインに自由度が確保される。
【0038】
更に、エプロンサイドメンバ延長部10の下端部とフロントロアクロスメンバ11との連結部は剛性が高い箇所であり、この剛性が高い箇所にフック部材1を取り付けたため、該フック部材1の取付部周辺が変形しにくく、左右のフック部材1に一端が係止されるフック付ロープ20によって車両を船体に確実に固定した状態で輸送することができる。
【0039】
尚、実際の車両においては、フロントバンパ3の左右のフック部材1の前方位置には不図示の開口部が形成され、この開口部は通常は不図示のキャップによって閉じられているが、フック部材1を車両を牽引する際に使用する場合には、フロントバンパ3の開口部を塞ぐキャップを取り外し、開放された開口部に不図示の牽引用ロープを通し、その一端のフックをフック部材1の長孔1aに引っ掛けて係止する。このようにすれば、フロントバンパ3と牽引ロープとの干渉を避けつつ、牽引ロープによって車両を牽引することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 フック部材
1a フック部材の長孔
3 フロントバンパ
4 エプロンサイドメンバ
5 ランプサポートブレース
6 フードロッククロスメンバ
10 エプロンサイドメンバ延長部
11 フロントロアクロスメンバ
12 ボルト
13 溶接ナット
20 フック付ロープ
c フック部材の長孔の最下点位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の左右下部に取り付けられた左右の各フック部材に、フック付ロープのフックを係止するための長孔をそれぞれ形成して成る車両の船積み用フック部構造において、
左右一対の前記フック部材の一方に前下がりの長孔、他方に後下がりの長孔をそれぞれ形成するとともに、両長孔の最下点位置を各フック部材の車両前後方向中央に配置したことを特徴とする車両の船積み用フック部構造。
【請求項2】
左右の前記フック部材を、車両前後方向に延びる左右一対のエプロンサイドメンバの各前端部から垂直下方に延びるエプロンサイドメンバ延長部の下端部とフロントロアクロスメンバとの連結部にそれぞれ取り付けたことを特徴とする請求項1記載の車両の船積み用フック部構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−126283(P2012−126283A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280411(P2010−280411)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】