説明

車両の車体構造

【課題】この発明は、車両衝突時に車体に入力される衝突荷重をより確実に車両後方に伝達して、車室の変形を確実に抑制することができる車両の車体構造を提供することを目的とする。
【解決手段】ヒンジピラー1には、上下のドアヒンジ取付部1a、1aに対応してヒンジレインフォースメント33を備えており、上側のドアヒンジ取付部1aに対応するヒンジレインフォースメント33に、ヒンジピラーインナ2a側に延びて、該ヒンジピラーインナ2aに取付けられる取付部33b、33cを設けるとともに、車両前後方向に延びるフロントサイドフレーム25に入力された衝突荷重を、ヒンジピラーインナ2aを介して取付部33b、33cに伝達する分岐フレーム30、ガセット部材32を、フロントサイドフレーム25から分岐するように設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上下のドアヒンジに対応してドアヒンジ取付部が設けられるヒンジピラーを備えた車両の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の車体構造としては、例えば、特許文献1に開示された構造がある。
すなわち、フロントピラーと、車両前後方向に延びるフロントサイドフレームとを備えた車両の車体構造において、フロントサイドフレームのサスペンションタワー配設位置からサスペンションタワーに沿って斜め上方かつ車幅方向外側に向けて延び、フロントピラー前方のエプロンアッパメンバの後部及びカウルサイドの車幅方向端部に亘って補強部材を取付けた構造である。
【0003】
下記特許文献1によれば、上述した構造により、車両の前面衝突時に車体に入力される衝突荷重を、フロントサイドフレームから補強部材やカウルサイドを介してフロントピラーに伝達、分散できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−182633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示された従来構造は、あくまでも前記衝突荷重をフロントピラーに伝達、分散させるための構成に過ぎず、上述した補強部材のみでは、前記荷重をより後方に効率良く伝達させることができない。このため、上述した従来構造は、車室の変形を確実に抑制するには不十分であった。
【0006】
この発明は、車両衝突時に車体に入力される衝突荷重をより確実に車両後方に伝達して、車室の変形を確実に抑制することができる車両の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の車両の車体構造は、上下のドアヒンジに対応してドアヒンジ取付部が設けられるヒンジピラーを備えた車両の車体構造であって、前記ヒンジピラーには、前記ドアヒンジ取付部に対応してヒンジレインフォースメントを備えており、上側のドアヒンジ取付部に対応する前記ヒンジレインフォースメントに、前記ヒンジピラーのインナパネル側に延びて、該インナパネルに取付けられるインナパネル取付部を設けるとともに、車両前後方向に延びるフロントサイドフレームに入力された衝突荷重を、前記インナパネルを介して前記インナパネル取付部に伝達する衝突荷重伝達部材を、前記フロントサイドフレームから分岐するように設けたものである。
【0008】
この構成によれば、車両前突時等に発生する衝突荷重を、ヒンジレインフォースメントのインナパネル取付部に伝達させることで、前記荷重を、ドアヒンジ及びドアを介してより確実に車両後方に伝達、分散させることができる。このため、車室の変形を確実に抑制することができる。
【0009】
この発明の一実施態様においては、エンジンルームとその後方の車室とを仕切るダッシュパネルを備え、前記衝突荷重伝達部材が、前記フロントサイドフレームと前記ダッシュパネルとを連結する分岐フレーム、及び前記ダッシュパネルの前記分岐フレーム連結部後部と前記インナパネル取付部とを連結するガセット部材を備えたものである。
【0010】
この構成によれば、分岐フレーム、ガセット部材の間に車幅方向に延びるダッシュパネルを配設しながらも、前記荷重を確実にインナパネル取付部に伝達させることができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、前記分岐フレームを、タイヤハウスの外側に配設したものである。
【0012】
この構成によれば、エンジンルーム内に配設される各種部材との干渉を確実に回避しながら、デットスペースを利用して分岐フレームを配設することができる。さらに、タイヤハウスの車幅方向外側のデッドスペースを利用することで、分岐フレームのレイアウトの自由度を高めることができる。このため、フロントサイドフレームからダッシュパネルまでの間の荷重伝達が適切に行える経路配置とすることができる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、前記ダッシュパネルに、車幅方向に延びるダッシュクロスメンバを設け、前記分岐フレームと前記ガセット部材とを、前記ダッシュクロスメンバを介して対向配置したものである。
【0014】
この構成によれば、分岐フレームとガセット部材との連結部を、車幅方向に延設されたダッシュクロスメンバを利用して補強することができる。このため、前記連結部における変形を抑制することができ、前記荷重を分岐フレームからガセット部材に向けてより確実に伝達させることができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、前記ドアヒンジから車両後方に向かって延びるようにドア内部に配設され、前記インナパネル取付部に伝達された前記衝突荷重をドアの後方で上下に延在する第2ピラーに伝達するドア側衝突荷重伝達部材を設けたものである。
【0016】
この構成によれば、ドアヒンジから入力される前記荷重を、上下に延在する第2ピラーによってより確実に受け止めることができ、これによって、車室の変形をより確実に抑制できる。
【0017】
この発明の一実施態様においては、前記ドア側衝突荷重伝達部材を複数設け、前記ドアヒンジに対して車幅方向の内側及び外側に配設したものである。
【0018】
この構成によれば、ドアヒンジから入力される前記荷重をドア内で分散しながらより確実に第2ピラーに伝達させることができる。
【0019】
この発明の一実施態様においては、前記複数のドア側衝突荷重伝達部材を、後方に向かうにつれて互いが上下に離間するように配設したものである。
【0020】
この構成によれば、ドアの内外のみならず、その上下においても前記荷重を分散させることができる。これにより、上下に延在する第2ピラーでの前記荷重の入力範囲を上下に拡大することができ、前記荷重を分散して受け止めることができる。
【0021】
この発明の一実施態様においては、前記ヒンジピラーの上部から車両前方に延びるエプロンレインフォースメントを、前記フロントサイドフレームと略平行に設けたものである。
【0022】
この構成によれば、前記荷重をより分散して車両後方に伝達させることができ、荷重伝達効率を向上させることができる。このため、車室の変形をより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、車両前突時等に発生する衝突荷重を、ヒンジレインフォースメントのインナパネル取付部に伝達させることで、前記荷重を、ドアヒンジ及びドアを介してより確実に車両後方に伝達、分散させることができる。このため、車室の変形を確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施形態に係る車両の前部車体構造を示す側面図。
【図2】図1の車両の前部車体構造を車幅方向外側から見た状態で示す側面図。
【図3】図1の要部の斜視図。
【図4】図3のA−A線矢視断面図。
【図5】図3のB−B線矢視断面図。
【図6】ガセット部材付近を示す車室内側からの斜視図であり、ヒンジピラーのヒンジピラーインナを取外した状態を示す図。
【図7】図6の状態からガセット部材を取外した状態を示す斜視図。
【図8】車両のドア構造をドアアウタパネルを取外して車幅方向外側から見た状態で示す側面図。
【図9】図9のC−C線矢視断面図。
【図10】衝突荷重の伝達経路を説明するための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
図1は車両の前部車体構造を示す側面図(但し、車幅方向の中間部分から車幅方向外方を見た状態で示す側面図)であり、図2は図1の車両の前部車体構造を車幅方向外側から見た状態で示す側面図、図3は図1の要部の斜視図、図4は図3のA−A線矢視断面図、図5は図4のB−B線矢視断面図である。なお、図中において矢印(F)は車体前方、矢印(R)は車体後方を示し、矢印(IN)は車体内方、矢印(OUT)は車体外方を示す。
【0026】
図1、図2に示すように左右一対のヒンジピラー1、1(但し、図面では車両右側のヒンジピラーのみを示す)を設けている。このヒンジピラー1はヒンジピラーインナ2a(図1参照)とヒンジピラーアウタ2b(図2参照)とを接合して、車両の上下方向に延びるピラー閉断面を備えた車体剛性部材である。
【0027】
また、この左右の両ヒンジピラー1、1間、詳しくは左右の両ヒンジピラーインナ2a、2a間にはダッシュロアパネル3を接合固定して、このダッシュロアパネル3でエンジンルームERとその後方の車室4とを前後方向に仕切る一方、ヒンジピラー1の上部には、前部が低く、後部が高くなるようにフロントピラー5を接合固定している。
【0028】
また、上述のダッシュロアパネル3の下部後端部には、フロアパネル6を接合固定している。このフロアパネル6は後方に向けて略水平に延び、車室4の底面を構成するパネルであって、図3に示すように、このフロアパネル6の車幅方向中央部には、車室4内に突出し、かつ前後方向に延びるトンネル部7を一体または一体的に形成している。このトンネル部7は車体剛性の中心となるものである。
【0029】
また、図1、図3に示すように、ダッシュロアパネル3の上部後面側には、車幅方向に延びる断面ハット状のダッシュクロスメンバ8を接合固定し、このダッシュクロスメンバ8とダッシュロアパネル3との間に、車幅方向に延びるダッシュクロス閉断面8aを形成して、前部車体剛性の向上を図るように構成している。
【0030】
また、図1に示すように、上述のフロアパネル6の左右両サイド部(但し、図面では右側の構成のみを示す)には、車両の前後方向に延びるサイドシル9、9を設けている。このサイドシル9はサイドシルインナ10とサイドシルアウタとを接合して、車両の前後方向に延びるサイドシル閉断面を備えた車体剛性部材である。
【0031】
図1に示すように、上下方向に延在して上述のサイドシル9とルーフサイドレールとの間を接続するセンタピラー11を設けている。このセンタピラー11はセンタピラーインナ12とセンタピラーアウタとを接合して、車両の上下方向に延びるセンタピラー閉断面を備えた車体剛性部材である。
【0032】
そして、同図に示すように、ヒンジピラー1、フロントピラー5、サイドシル9、センタピラー11で囲繞された前席乗員の昇降口としてのドア開口部13を形成し、このドア開口部13をフロントドア14で開閉すべく構成している。
【0033】
上述のフロントドア14は、その前端部が、図2に示すような上下一対のドアヒンジ15、15を介してヒンジピラー1に開閉可能に連結されたものである。
【0034】
さらに、図1に示すようにフロントドア14の内部には前高後低状に傾斜して前後方向に延びる上下のインパクトバー16、17が設けられている。
【0035】
ところで、図1、図3に示すように、上述のダッシュロアパネル3の上端折曲部には、ダッシュアッパパネル18を接合固定し、このダッシュアッパパネル18の上部及び前部にはカウルパネル19を接合固定している。
【0036】
図1〜図3に示すように、上述のダッシュロアパネル3から前方に離間した位置にはサスペンションタワー20(以下単にサスタワーと略記する)を配設しており、このサスタワー20の車外側の面により、前輪(図示せず)のタイヤハウスを構成している。
【0037】
さらに、図3に示すように、上述のダッシュアッパパネル18の車幅方向両サイドには、前方に延びる延出部18aを一体形成し、この延出部18aを、連結部材21を介してサスタワートップの後面部にスポット溶接手段等により接合固定している。
【0038】
上述のサスタワー20の上部車幅方向外側には、図1〜図3に示すように、ヒンジピラー1の上部から前方に延びるエプロンレインフォースメント22が設けられている。
このエプロンレインフォースメント22は、図4に示すように、主にエプロンレインアウタ23と、エプロンレインインナ24とを備えている。
【0039】
また、上述のサスタワー20の下部車幅方向内側には、図1〜図4に示すように、フロントサイドフレーム25が接続されており、上述したエプロンレインフォースメント22と略平行に設けられている。
このフロントサイドフレーム25はエンジンルームERの両サイド部において車両前後方向に延び上述のサスタワー20に接続されると共に、後端部が下方に湾曲してフロアフレーム26(図1〜図3参照)の前部に接続された車体剛性部材である。
【0040】
また、上述のフロントサイドフレーム25はA−A断面位置においては、図4に示すように、その上下の接合フランジ部25a、25bがサスタワー20の側面部20aに接合固定されて、前後方向に延びる閉断面27を形成している。
【0041】
さらに、上述のフロントサイドフレーム25は、ダッシュロアパネル3の位置において、図1、図3に示すように、このダッシュロアパネル3の下部に接合固定されている。
【0042】
また、フロントサイドフレーム25の前端部には、前方からの衝撃荷重によって車両前後方向に圧縮変形するように構成されたクラッシュボックス(図示せず)を取付けるためのプレート28(図1、図2参照)が取付けられている。そして、このプレート28には、エプロンレインフォースメント22及びフロントサイドフレーム25の前端部に跨るようにして板状の連結部材29が取付けられている。
【0043】
また、本実施形態では、図1〜図3に示すように、フロントサイドフレーム25のサスタワー配設位置αから上方かつ後方に向けて分岐するように延び、該フロントサイドフレーム25と前述のダッシュロアパネル3の上部とを接続する分岐フレーム30を設けている。
【0044】
この分岐フレーム30は、図1〜図5に示すように、サスタワー20の側面部20aの車幅方向外側に配設されており、図3のA−A断面位置においては、図4に示すように断面略コ字状に形成されると共に、B−B断面位置においては、図5に示すように断面略L字状に形成されている。
【0045】
そして、分岐フレーム30は、図2に示すように、フロントサイドフレーム25に接合される下端フランジ30aと、図2〜図4に示すように、分岐フレーム30の長手方向中間部の上下に一体形成された中間上部フランジ30b及び中間下部フランジ30cと、図5に示すように、ダッシュロアパネル3に接合される後端フランジ30dと、を備えている。
【0046】
上述の分岐フレーム30は、サスタワー20の側面部20aの車幅方向外側に接合されて、分岐フレーム30と側面部20aとの間に、前後方向かつ上下方向に連続する閉断面31(図4参照)が形成されている。
【0047】
すなわち、図4に示すA−A線矢視断面位置においては、側面部20aの車幅方向内側の面に、中間上部フランジ30b、中間下部フランジ30cを接合して、側面部20aと分岐フレーム30との間に閉断面31を形成している。
【0048】
一方、図5に示すB−B線矢視断面位置及びその後方においては、側面部20aに中間下部フランジ30cを接合し、かつダッシュロアパネル3の上部車幅方向外側に後端フランジ30dを接合している。
【0049】
しかも、図1、図3、図5に示すように、ダッシュロアパネル3の分岐フレーム連結部β(具体的には分岐フレーム30の後端フランジ30dがダッシュロアパネル3と接合される部位)は、後述するガセット部材32が配置される高さと略同一高さ位置に配置されている。そして、本実施形態では、ガセット部材32の前端部と分岐フレーム30の上端部とがダッシュクロスメンバ8を介して対向配置されている。
【0050】
図6は、ガセット部材32付近を示す車室内側からの斜視図であり、ヒンジピラー1のヒンジピラーインナ2aを取外した状態を示す図である。ガセット部材32は、図1、図3に示すように、ヒンジピラーインナ2aの車幅方向内側に配設されている。そして、図5、図6に示すように、車幅方向外側に開口した断面略コ字状の本体部32aと、本体部32aの上下に形成されたフランジ部32bとを有し、全体的な断面形状はハット状とされている。このガセット部材32は、例えば鉄板を加工することによって形成されている。
【0051】
ガセット部材32は、全体的に、前方に向かうにつれて徐々に車幅方向内側に向かうように配設されており、ダッシュクロスメンバ8やガセット部材32を介してヒンジピラーインナ2aと分岐フレーム30の上端部とを連結している。
【0052】
また、ガセット部材32の前端部には、上下方向に間隔をあけて合計2個の取付部32c、32dが形成されている。上方の取付部32cの位置は、ダッシュアッパパネル18の高さ位置となるように位置設定されている。また、下方の取付部32dは、ダッシュクロスメンバ8の高さ位置に対応している。
【0053】
また、ガセット部材32の後端部には、上側のフランジ部32bの角部に取付部32eが形成されるとともに、下側のフランジ部32bから下方に延びる取付部32fが形成され、ガセット部材32は、この各取付部32e、32fで図6、図7に示すヒンジレインフォースメント33に連結されている。
【0054】
図7は、図6の状態からガセット部材32を取外した状態を示す斜視図である。ヒンジピラー1は、図6、図7に示すように、ヒンジピラーインナ2aの車幅方向外側に平面視で略断面ハット状をなすヒンジピラーレインフォースメント2cを有している。そして、ヒンジピラーレインフォースメント2cでは、これが略断面ハット状をなすことにより形成された車幅方向内側の凹部空間に、ヒンジレインフォースメント33が配設されている。
【0055】
ヒンジレインフォースメント33は、図7に示すように、車幅方向外側に向けて膨出された膨出部33aを有して、全体的には、車幅方向内方側に向けて開口されたカップ状に形成されて、剛性の優れたものとなっている。
【0056】
また、ヒンジレインフォースメント33は、その車幅方向内側部分において、上下一対の取付部33b、33cを有する。この取付部33b、33cは、膨出部33aからヒンジピラーインナ2a側に延びており、これらがヒンジピラーインナ2aに取付けられている。
【0057】
ここで、ガセット部材32の取付部32e、32fのうち、取付部32eは、ヒンジレインフォースメント33の上側の取付部33bに対応した位置とされている。一方、取付部32fは、ヒンジレインフォースメント33の下側の取付部33cに対応した位置とされている。
【0058】
本実施形態では、ヒンジレインフォースメント33とダッシュパネル(ダッシュロアパネル3、ダッシュクロスメンバ8、ダッシュアッパパネル18)とが、ガセット部材32によって連結されている。
【0059】
ガセット部材32と前記ダッシュパネルとの連結は、次のようにして行われている。すなわち、ガセット部材32の前端部の取付部32c、32dのうち、上側の取付部32cが、ダッシュアッパパネル18に対して、ボルト、ナット等の取付部材34を用いて取付けられている。また、下側の取付部32dが、ダッシュクロスメンバ8に対して、ボルト、ナット等の取付部材35を用いて取付けられている。
【0060】
ガセット部材32とヒンジレインフォースメント33との連結は、次のようにして行われている。すなわち、ガセット部材32の取付部32eとヒンジレインフォースメント33の取付部33bとでヒンジピラーインナ2aを挟んだ状態で、ボルト、ナット等の取付部材36を用いて取付けられる一方、ガセット部材32の取付部32fとヒンジレインフォースメント33の取付部33cとでヒンジピラーインナ2aを挟んだ状態で、ボルト、ナット等の取付部材37を用いて取付けられている。
【0061】
ところで、ガセット部材32と前述したエプロンレインフォースメント22とは、その高さ位置が略同じになるように設定されている(エプロンレインフォースメント22を後方へ延長した延長線の高さ位置範囲にガセット部材32が配置される)。
【0062】
次に、図8、図9を参照して、フロントドア14の構造及びその取付け構造について説明する。図8は、車両のドア構造をドアアウタパネル44を取外して車幅方向外側から見た状態で示す側面図であり、図9は、図9のC−C線矢視断面図である。
【0063】
図8、図9において、車両のフロントドア(但し、図面では車両右側のドアを示している)14は、ドアサッシュ部41とドア本体42とを備えている。
上述のドア本体42は車幅方向内側に位置するドアインナパネル43と、車幅方向外側に位置するドアアウタパネル44(図9中二点鎖線で示す)とを備え、これら両パネルを接合して、一体化している。
【0064】
上述のドアインナパネル43は、図8、図9に示すように、インナパネル主板部43aと、このインナパネル主板部43aの前部から車幅方向外方に延びる前辺部43bと、インナパネル主板部43aの下部から車幅方向外方に延びる下辺部43cと、インナパネル主板部43aの後部から車幅方向外方に延びる後辺部43dとを備えている。
【0065】
また、上述のドアインナパネル43における前辺部43bには、図8に示すように、上側ヒンジ取付部45と下側ヒンジ取付部46とが設けられており、これら上下の両ヒンジ取付部45、46には、図9に示すように、ドア側ヒンジブラケット47を取付けている。また、ドア側ヒンジブラケット47は、ヒンジピン48を介してボディ側ヒンジブラケット49に開閉可能に連結され、上下のドアヒンジ15、15が構成されている。
ここで、ボディ側のヒンジピラー1には、上下のドアヒンジ15に対応してドアヒンジ取付部1a、1a(図9参照)が備えられている。そして、上述のボディ側ヒンジブラケット49は、ヒンジピラー1におけるドアヒンジ取付部1aに対して、ボルト、ナット等の取付部材50を用いて取付けられたものである。
【0066】
上述のヒンジピラー1は、ヒンジピラーインナ2aと、ヒンジピラーレインフォースメント2cと、ヒンジピラーアウタ2bとを接合固定して、上下方向に延びるヒンジピラー閉断面1bを備えている。本実施形態では、ドアヒンジ取付部1aに対応して、ヒンジピラー閉断面1b内のヒンジピラーレインフォースメント2cとヒンジピラーインナ2aとの間に上述したヒンジレインフォースメント33を結合しており、ヒンジピラー1の剛性向上を図っている。
【0067】
また、上述のヒンジレインフォースメント33は、その車幅方向外側において、上述の取付部材50により、ボディ側ヒンジブラケット49と、ヒンジピラーアウタ2bと、ヒンジピラーレインフォースメント2cと共締め固定され、ヒンジピラー1によるフロントドア14の支持剛性向上を図っている。
【0068】
また、上述のドアヒンジ取付部1aでは、これに対応する上側のヒンジレインフォースメント33がガセット部材32と連結されており、これにより、分岐フレーム30の上端部と上側のヒンジレインフォースメント33(取付部33b、33c)とが連結されている。
【0069】
ところで、図8、図9に示すように、ドアインナパネル43の前辺部43bにおいて、上側ヒンジ取付部45の車幅方向外側には車両前方に延びる延設部43eを一体形成している。
【0070】
また、図8、図9に示すように、ドア本体42内には、車幅方向外側に位置し、かつドアヒンジ15から後方に延びるようにドア本体42内に配設された側突対応用のインパクトバー16と、ドア本体42内の車幅方向内側に位置し、かつベルトライン部に沿ってドアヒンジ15から後方に延びるようにドア本体42内に配設された前突対応用のインパクトバー17と、を備えている。
【0071】
図8に示すように、インパクトバー16は、その長手方向に延びる2条のビード16a、16aを有し、インパクトバー16の前端部は、フロントドア14の上側ヒンジ取付部45(ドアヒンジ15)の近傍における車幅方向外側に配置され、インパクトバー17の前端部は、フロントドア14の上側ヒンジ取付部45の近傍における車幅方向内側に配置されており、これらの両前端部と上側ヒンジ取付部45とが結合ブラケット51で結合されている。
本実施形態では、上述の結合ブラケット51は、ジャンクション52と、ブラケット53との2部材から構成されている。
【0072】
インパクトバー17は剛性丸パイプから構成されており、上述のジャンクション52は、インパクトバー17の前端部を車幅方向外方から抱持しながら、ドアインナパネル43のインナパネル主板部43a、及び前辺部43bに接合固定されている。
【0073】
また、上述のブラケット53は、平面視でL字状に一体連結した剛性部材であり、ジャンクション52に連結されつつ、上述のインパクトバー16の前端部に接合固定されている。
【0074】
そして、図9に示すように、ボルト、ナットなどの締結部材54を用いて、ドア側ヒンジブラケット47と、ドアインナパネル43の前辺部43bと、ジャンクション52と、ブラケット53の前部とを共締め固定することで、両インパクトバー16、17の前端部と、上側ヒンジ取付部45とを、ジャンクション52およびブラケット53から成る結合ブラケット51で結合したものである。
【0075】
また、インパクトバー16は上述の結合ブラケット51に加えて、ドアインナパネル43の前辺部43bに一体形成された上述の延設部43eにも結合されている。
さらに、インパクトバー16、17の前端部は、上側ヒンジ取付部45を挟んで車幅方向にオーバラップして設けられている。
【0076】
また、図8に示すように、インパクトバー16は上側ヒンジ取付部45からドア後部下方間に対角状に設けられている。すなわち、ドアインナパネル43の後方下部にはインパクトバー取付部43fが形成されており、インパクトバー16は上側ヒンジ取付部45からインパクトバー取付部43fにかけて側面視で、後方に向かうにつれてインパクトバー17から下方に離間するように傾斜配置されたものである。
【0077】
さらに、インパクトバー17は、上側ヒンジ取付部45からドア後部に向かって上方に傾斜して設けられている。
すなわち、ドアインナパネル43の後辺部43dの車幅方向外端には、該外端から後方に延びる段差部43gを一体形成し、前低後高状に傾斜させたインパクトバー17の後端部を、ドアインナパネル43のインナパネル主板部43aと後辺部43dと段差部43gとに渡るブラケット55を用いて、ドアインナパネル43内の後部に取付けることで、このインパクトバー17を上側ヒンジ取付部45からドア後部に向かって上方に傾斜して設けたものである。
【0078】
上述のインパクトバー17の前後方向中間部は、図8に示すように、剛性のインパクトバーホルダ56を用いて、ドアインナパネル43のインナパネル主板部43aに支持されている。
【0079】
ところで、車両の前突時、車両前方から衝突荷重が入力された時には、その一部が図10にて太矢印Xで示すようにフロントサイドフレーム25に入力され車両後方に伝達されることになるが、本実施形態では、前記荷重の一部が、図中の太矢印X1で示すように、フロントサイドフレーム25を介して車両後方下部に伝達される一方で、フロントサイドフレーム25から分岐する分岐フレーム30により、前記荷重の一部が、太矢印X2で示すように、ガセット部材32に伝達される。
【0080】
そして、この太矢印X2で示す前記荷重は、上側のヒンジレインフォースメント33の取付部33b、33c(図7参照)が、ヒンジピラーインナ2aを介してガセット部材32に連結されていることにより、ガセット部材32からヒンジピラーインナ2aを介して取付部33b、33cに伝達される。そして、前記荷重は、ドアヒンジ15及びフロントドア14(例えば、ドアインナパネル43、ドアアウタパネル44、インパクトバー16、17等)を介してさらに車両後方に伝達される。
【0081】
また、本実施形態の場合、前記荷重は、その一部が、図10にて太矢印Yで示すように、フロントサイドフレーム25と略平行に延設されたエプロンレインフォースメント22を介して車両後方に伝達される。このような荷重伝達経路であっても、前記荷重は、太矢印X2で示す場合と同様、ドアヒンジ15及びフロントドア14を介してさらに車両後方に伝達される。
【0082】
このようにして、車両後方に伝達された衝突荷重は、例えば、フロントドア14の後方で上下に延在するセンタピラー11(図1参照)に伝達され、このセンタピラー11によって確実に受け止められる。
【0083】
このように、本実施形態では、フロントサイドフレーム25から分岐する分岐フレーム30及びガセット部材32によって前記荷重をヒンジレインフォースメント33の取付部33b、33cに伝達させることで、前記荷重を、ドアヒンジ15、フロントドア14を介してより確実に車両後方に伝達、分散させることができる。このため、車室4の変形を確実に抑制することができる。
【0084】
また、フロントサイドフレーム25に入力された前記荷重を、分岐フレーム25及びガセット部材32を介してヒンジレインフォースメント33の取付部33b、33cに伝達させるように構成したことで、分岐フレーム25、ガセット部材32の間に車幅方向に延びるダッシュパネル(ダッシュロアパネル3、ダッシュクロスメンバ8、ダッシュアッパパネル18)を配設しながらも、前記荷重を確実に取付部33b、33cに伝達させることができる。
【0085】
また、上述した分岐フレーム30を、サスタワー20の側面部20aの車幅方向外側に配設することにより、エンジンルームER内に配設される各種部材との干渉を確実に回避しながら、デットスペースを利用して分岐フレーム30を配設することができる。さらに、側面部20aの車幅方向外側のデッドスペースを利用することで、分岐フレーム30のレイアウトの自由度を高めることができる。このため、フロントサイドフレーム25から前記ダッシュパネルまでの間の荷重伝達が適切に行える経路配置とすることができる。
【0086】
また、分岐フレーム30の上端部とガセット部材32の前端部とをダッシュクロスメンバ8を介して対向配置していることにより、分岐フレーム30とガセット部材32との連結部を、車幅方向に延設されたダッシュクロスメンバ8を利用して補強することができる。このため、前記連結部における変形を抑制することができ、前記荷重を分岐フレーム30からガセット部材32に向けてより確実に伝達させることができる。
【0087】
また、フロントドア14内に、ドアヒンジ15から車両後方に延びるインパクトバー16、17を配設したことにより、ドアヒンジ15から入力される前記荷重を、上述した各インパクトバー16、17を介して確実にセンタピラー11に伝達させることができる。これにより、上下に延在するセンタピラー11によって前記荷重を確実に受け止めることができ、車室4の変形をより確実に抑制できる。
【0088】
また、上述した2つのインパクトバー16、17が、フロントドア14内において車幅方向の内外に配設されることで、ドアヒンジ15から入力される前記荷重をフロントドア14内で分散しながらより確実にセンタピラー11に伝達させることができる。
【0089】
そして、インパクトバー16、17が車両後方で互いに上下に離間するように配設されることで、フロントドア14の内外のみならず、その上下においても前記荷重を分散させることができる。これにより、センタピラー11での前記荷重の入力範囲を上下に拡大することができ、前記荷重を分散して受け止めることができる。
【0090】
また、図10にて太矢印Yで示すように、車両前方から入力された前記荷重の一部を、エプロンレインフォースメント22を介して伝達できるようにすることで、前記荷重をより分散して車両後方に伝達させることができ、荷重伝達効率を向上させることができる。このため、車室4の変形をより確実に抑制することができる。
【0091】
なお、上述した実施形態では、分岐フレームを断面略コ字状に形成して、サスタワーの側面部とによって閉断面を形成することとしたが、本発明は必ずしもこれに限定されるものでない。例えば、分岐フレームを断面矩形状の管状フレーム部材で構成し、分岐フレームのみによって閉断面を形成するようにしてもよい。
【0092】
また、本発明は、分岐フレームをサスタワー側面部の車幅方向外側に配設することに必ずしも限定されるものではなく、エンジンルーム内の各種部材との間で干渉がなければ、サスタワー側面部の車幅方向内側に配設してもよい。
【0093】
この発明の構成と、上述の実施形態との対応において、
この発明の、インナパネル取付部は、取付部33b、33cに対応し、
以下同様に、
衝突荷重伝達部材は、分岐フレーム30、ガセット部材32に対応し、
タイヤハウスは、側面部20aに対応し、
第2ピラーは、センタピラー11に対応し、
ドア側衝突荷重伝達部材は、インパクトバー16、17に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0094】
1…ヒンジピラー
3…ダッシュロアパネル
4…車室
8…ダッシュクロスメンバ
11…センタピラー
15…ドアヒンジ
16、17…インパクトバー
18…ダッシュアッパパネル
20…サスペンションタワー
20a…側面部
22…エプロンレインフォースメント
25…フロントサイドフレーム
30…分岐フレーム
32…ガセット部材
33…ヒンジレインフォースメント
33b、33c…取付部
ER…エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下のドアヒンジに対応してドアヒンジ取付部が設けられるヒンジピラーを備えた車両の車体構造であって、
前記ヒンジピラーには、前記ドアヒンジ取付部に対応してヒンジレインフォースメントを備えており、
上側のドアヒンジ取付部に対応する前記ヒンジレインフォースメントに、前記ヒンジピラーのインナパネル側に延びて、該インナパネルに取付けられるインナパネル取付部を設けるとともに、
車両前後方向に延びるフロントサイドフレームに入力された衝突荷重を、前記インナパネルを介して前記インナパネル取付部に伝達する衝突荷重伝達部材を、前記フロントサイドフレームから分岐するように設けた
車両の車体構造。
【請求項2】
エンジンルームとその後方の車室とを仕切るダッシュパネルを備え、
前記衝突荷重伝達部材は、
前記フロントサイドフレームと前記ダッシュパネルとを連結する分岐フレーム、及び前記ダッシュパネルの前記分岐フレーム連結部後部と前記インナパネル取付部とを連結するガセット部材を備えた
請求項1記載の車両の車体構造。
【請求項3】
前記分岐フレームを、タイヤハウスの外側に配設した
請求項2記載の車両の車体構造。
【請求項4】
前記ダッシュパネルに、車幅方向に延びるダッシュクロスメンバを設け、
前記分岐フレームと前記ガセット部材とを、前記ダッシュクロスメンバを介して対向配置した
請求項2または3記載の車両の車体構造。
【請求項5】
前記ドアヒンジから車両後方に向かって延びるようにドア内部に配設され、
前記インナパネル取付部に伝達された前記衝突荷重をドアの後方で上下に延在する第2ピラーに伝達するドア側衝突荷重伝達部材を設けた
請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両の車体構造。
【請求項6】
前記ドア側衝突荷重伝達部材を複数設け、前記ドアヒンジに対して車幅方向の内側及び外側に配設した
請求項5記載の車両の車体構造。
【請求項7】
前記複数のドア側衝突荷重伝達部材を、後方に向かうにつれて互いが上下に離間するように配設した
請求項6記載の車両の車体構造。
【請求項8】
前記ヒンジピラーの上部から車両前方に延びるエプロンレインフォースメントを、前記フロントサイドフレームと略平行に設けた
請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−37289(P2011−37289A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183324(P2009−183324)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】