車両用フード下構造
【課題】重量増、コスト増を小さくしつつフードの浮き上がりを抑制可能な車両用フード下構造を提供する。
【解決手段】車体前部の開口部からフード11下方のエンジンルームに流入した空気を外部に排出する排出口11a,11bがフード11に形成され、フード11の下面37aに取付けられたシール部材と、このシール部材の下方に配置されるエンジンカバーとの間でシールすることでフード11とエンジンカバーとの間に空気通路が形成される車両用フード下構造であって、シール部材が、フード11の外周縁部よりも内方に、フード11の左右縁部に沿って配置される内側シール部材41,42である。
【解決手段】車体前部の開口部からフード11下方のエンジンルームに流入した空気を外部に排出する排出口11a,11bがフード11に形成され、フード11の下面37aに取付けられたシール部材と、このシール部材の下方に配置されるエンジンカバーとの間でシールすることでフード11とエンジンカバーとの間に空気通路が形成される車両用フード下構造であって、シール部材が、フード11の外周縁部よりも内方に、フード11の左右縁部に沿って配置される内側シール部材41,42である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フード下構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用フード下構造として、フードの開閉機構とは別に、フードの浮き上がりを防止するラッチ機構が設けられたもの(例えば、特許文献1参照。)や、フードの前端部下部にシール構造を備えるもの(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【0003】
特許文献1の図5、図7によれば、車体の前部に開閉自在に取付けられたフード7の前端部を車体側にロックするフードロック機構9とは別に、車体の前端部の両側部に、フード7の浮き上がりを防止するラッチ機構25が設けられている。
【0004】
ラッチ機構25は、車体側に揺動自在に取付けられた係止爪26と、フード7側に設けられたストライカ27とからなり、車両が走行を開始すると、アクチュエータにより係止爪26が揺動し、ストライカ27に係止される。
【0005】
特許文献2の図1、図3によれば、エンジンフード1の前端部とエンジンフード1の下方に配置されたラジエータグリル2との間に、これらの隙間を塞ぐフードシール6が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−182640公報
【特許文献2】特開2006−21547公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1の図5、図7に示されたラッチ機構25及びこのラッチ機構25を駆動するアクチュエータを設けることで、重量増、コスト増を招く。また、歩行者が衝突した際に歩行者保護のためにフードを上方に持ち上げて衝撃を軽減するポップアップフード構造を備えたものでは、その機能を阻害する可能性がある。
引用文献2の図1、図3では、フードシール6によって、車体前部の見栄えは良くなるが、車両の高速走行中のフード浮き上がりを抑制することは難しい。
【0008】
図11に示されるように、車両100が高速走行中には、フード101の上方を白抜き矢印a,b,cのように流れる空気流によって、フード101には白抜き矢印dで示す上向きの揚力が発生し、フード101が持ち上げられる。
【0009】
また、フード101の下方にはエンジン102の周囲の上方を覆うエンジンカバー103が設けられ、車両走行中に、車体前端部のフロントバンパ104の下方に設けられた開口部106から白抜き矢印eで示すようにフード101の下方のエンジンルーム107に流入した空気は、ラジエータ108を通過し、ラジエータ108の後方を白抜き矢印fで示すように上昇して、フード101とエンジンカバー103との間に出来た空気通路を白抜き矢印g,h,j,kで示すように後方へ流れ、白抜き矢印mで示すように、フード101の後部に形成された排出口110から外部に排出される。
【0010】
上記したフード101とエンジンカバー103との間の空気通路の流れを利用して、フード101の下方の圧力を低下させることができれば、フード101に揚力とは向きが反対の引き下げ力を発生させることが可能になる。
【0011】
次に、上記したフード101とエンジンカバー103との間の空気流について説明する。図中の白抜き矢印は空気流を示し、矢印(FRONT)は車両前方を表している。
図12(a)に示されるように、フード101の下面の前縁部及び左右縁部前部に前部外周シール部材111が取付けられ、また、フード101の下面の後縁部に後部外周シール部材112が取付けられた前後シール配置構造では、フード101の後部左右にはシール部材が配置されていないので、フード101の前側から流れる空気流は、白抜き矢印pで示されるように、フード101の下方の後部左右から外部に排出される。
【0012】
フード101とエンジンカバー103との間の空気通路の断面積は大きいため、空気の流速は低くなっている。従って、図11で説明したエンジンルーム内に発生する負圧は小さい。
【0013】
図12(b)に示されるように、フード101の下面の外周縁部全周に外周シール部材115が取付けられた全周シール配置構造では、フード101の下方から外部に空気を排出しにくく、フード101の下方における空気流の流速は極めて低い。
以上の図12(a),(b)から、フード101下方のシール部材の配置を工夫することによりフード101下方における空気の流速を速めることが望まれる。
【0014】
本発明の目的は、重量増、コスト増を小さくしつつフードの浮き上がりを抑制可能な車両用フード下構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、車体前部の開口部からフード下方のエンジンルームに流入した空気を外部に排出する排出口がフードに形成され、フードの下面に取付けられたシール部材と、このシール部材の下方に配置される下部部品との間でシールすることでフードと下部部品との間に空気通路が形成される車両用フード下構造であって、シール部材が、フードの外周縁部よりも内方に、フードの左右縁部に沿って配置される内側シール部材であることを特徴とする。
【0016】
内側シール部材の車幅方向内側と車幅方向外側とにそれぞれ空気通路が形成され、これらの空気通路の途中を狭めることで空気通路内の空気の流速が速められる。
また、2つの空気通路を通って排出口から空気が排出される際に、フードの外表面に沿う空気流によっても排出口から排出される空気の流速が速められる。
【0017】
請求項2に係る発明は、フードの前縁部及び左右縁部前部に設けられた前部外周シール部材と、この前部外周シール部材の後端部よりも車幅方向内側に配置された内側シール部材とを有し、これらの前部外周シール部材と内側シール部材とが前後に重なるように配置されることを特徴とする。
【0018】
内側シール部材の車幅方向内側に第1の空気通路が形成され、内側シール部材と前部外周シール部材との間に第2の空気通路が形成され、内側シール部材と前部外側シール部材とによって第1の空気通路及び第2の空気通路の途中を狭めることで、第1の空気通路内及び第2の空気通路内の空気の流速が速められる。
【0019】
請求項3に係る発明は、フードの全周に配置される外周シール部材と、この外周シール部材の内方に配置された内側シール部材とを有し、この内側シール部材が、排出口近傍に湾曲して排出口に向かう湾曲部を有することを特徴とする。
【0020】
内側シール部材の車幅方向内側に第1の空気通路が形成され、内側シール部材と外周シール部材との間に第2の空気通路が形成され、内側シール部材と外側シール部材とによって第1の空気通路及び第2の空気通路の途中を狭めることで、第1の空気通路内及び第2の空気通路内の空気の流速が速められる。
第1の空気通路を流れる第1の空気流と、第2の空気通路を流れる第2の空気流とが湾曲部によって排出口から排出される直前に互いにぶつかり合うことがない。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明では、シール部材が、フードの外周縁部よりも内方に、フードの左右縁部に沿って配置される内側シール部材であるので、排出口へ向け、内側シール部材の内側と外側とで2つの空気通路を形成することができ、空気通路の途中を狭めることで空気の流速を速めることができる。また、排出口からは更に外部の空気の流れにより空気を吸い出すことができ、空気通路の空気の流速を更に速めることができる。
【0022】
このように、効果的に空気流の流速を速めることができ、フードを引き下げる負圧を大きくすることができて、車両が高速走行中の揚力によるフード浮き上がりを抑制することができる。
【0023】
請求項2に係る発明では、フードの前縁部及び左右縁部前部に設けられた前部外周シール部材と、この前部外周シール部材の後端部よりも車幅方向内側に配置された内側シール部材とを有し、これらの前部外周シール部材と内側シール部材とが前後に重なるように配置されるので、車体前部の開口部からフードの下方に流入した空気は、内側シール部材で二分割されて2つの空気通路を形成するため、前部外周シール部材及び内側シール部材の各シール長さを調整することで、排出口を含む空気の外部への出口までの空気通路の断面積を狭めることができ、効果的に空気の流速を速めることができる。
従って、フードを引き下げる負圧を大きくすることができ、車両の高速走行時のフード浮き上がりを抑制することができる。
【0024】
請求項3に係る発明では、フードの全周に配置される外周シール部材と、この外周シール部材の内方に配置された内側シール部材とを有し、この内側シール部材が、排出口近傍に湾曲して排出口に向かう湾曲部を有するので、内側シール部材の内側、及び外周シール部材と内側シール部材との間の各空気通路に流れた空気が、それぞれ排出口から排出される直前に互いにぶつかり合うことがなく、空気の排出の妨げになることを防止することができ、効果的に空気流の流速を速めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るフード下構造を採用した車両の前部斜視図である。
【図2】本発明に係るフード下構造を採用した車両からフードを外した状態を示す前部斜視図である。
【図3】図1の3−3線断面図(実施例1)である。
【図4】本発明に係るシール部材の断面図(実施例1)である。
【図5】本発明に係るシール部材の配置を示すフードの底面図(実施例1)である。
【図6】本発明に係るフード下構造を示す断面図(実施例1)である。
【図7】本発明に係るフード下構造の作用を示す第1作用図(実施例1)である。
【図8】本発明に係るフード下構造の作用を示す第2作用図(実施例1)である。
【図9】本発明に係るフード下構造のフード引き下げ力と隙間面積との関係を示すグラフである。
【図10】本発明に係るシール部材の配置を示すフードの底面図(実施例2)である。
【図11】従来のフード下構造の作用を示す第1作用図である。
【図12】従来のフード下構造の作用を示す第2作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、説明中の左、右、前、後は車両に乗車した運転者を基準にした向きを示している。また、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施例1を説明する。図中の矢印(FRONT)は車両前方を表している。
図1に示すように、自動車10は、前部に、エンジンが収納されたエンジンルームの上方を覆うフード11が設けられ、フード11が、その後端部で車体側に左右一対のヒンジ12(手前側のヒンジ12のみ図示)を介して開閉自在に取付けられている。
【0028】
自動車10が高速走行中には、フード11に、フード11の上面に沿って流れる空気により揚力が発生し、フード11が持ち上げられるため、自動車10には、フード11を引き下げる力を発生させるフード下構造が採用されている。
【0029】
図中の符号11a,11bは、フード11の下方を流れる空気を排出する排出口、14,15はフード11の両側方に配置されたフロントフェンダ、16,17はフード11とフロントフェンダ14,15との間に配置された左右一対のヘッドランプ、18はフロントバンパ、19はフロントバンパ18の中央に形成された空気取入用の開口部、21,22はフロントピラー、23はフロントピラー21,22間に取付けられたウインドシールドガラスである。
【0030】
図2は図1の状態からフード11(図1参照)を外した状態を示している。
フード11によって上方が覆われるエンジンルーム31には、エンジン32を除いてエンジン32の周囲の上方を覆うエンジンカバー33が設けられ、エンジンカバー33によってエンジンルーム31が上下に隔てられている。
エンジン32とエンジンカバー33との間には、所定面積の隙間34(輪郭が太線で示された部分である。)が形成されている。
【0031】
隙間34は、フード11(図1参照)とエンジンカバー33との間に形成される後述する空気通路と、エンジンカバー33の下方の空間とを連通させる部分であり、エンジン32の前部側と左右側部側とに亘って設けられ、隙間34の左右側部側は、エンジン32の後端まで延びるように形成されている。
【0032】
このような隙間34によって、上記の空気通路を空気が速く流れるときに、エンジンルーム31内、即ち、空気通路及びエンジンカバー33の下方の空間の圧力が低下して負圧になり、フード11を引き下げる力が発生する。この結果、フード11の浮き上がりが抑制される。
【0033】
図3に示すように、フード11は、外観面を構成するアウタパネル36と、このアウタパネル36の内側に取付けられたインナパネル37と、これらのアウタパネル36及びインナパネル37のそれぞれの間に補強のために設けられた補強パネル38とからなり、インナパネル37の下面37aに内側シール部材41,42(一方の符号41のみ示す。)が取付けられ、フード11を閉じた状態では、シール部材41,42は、インナパネル37とエンジンカバー33との間に挟まれて潰れ、シール部材34の車幅方向内側(図の左方)とシール部材34の車幅方向外側(図の右方)とが隔てられ、内側空気通路43と外側空気通路44,45(一方の符号44のみ示す。)とが形成される。
【0034】
図4(a)に示すように、内側シール部材41は、ゴム製であり、フード11のインナパネル37に開けられたシール取付穴37bに挿入されて係合される係合突部41aと、この係合突部41aの端部に一体成形された管状のシール本体部41bとからなる。
【0035】
シール本体部41bは、図の表裏方向に長く形成され、このシール本体部41bに間隔を置いて複数の係合突部41aが形成されている。
内側シール部材42(図5参照)は、内側シール部材41と同一構造であり、説明は省略する。
【0036】
図4(b)はフード11を閉じた状態を示している。内側シール部材41のシール本体部41bがインナパネル37とエンジンカバー33との間に挟まれて左右の空間の間をシールしている。
【0037】
図5において、各シール部材にはクロスハッチングを施している。
図5に示すように、フード11のインナパネル37の下面37aには、インナパネル37の前縁部37d及び左縁部前部37e、右縁部前部37fに亘って前部外周シール部材51が取付けられ、後縁部37hに後部外周シール部材52が取付けられ、前部外周シール部材51の左後端部51a及び右後端部51bよりも車幅方向内側に左右一対の内側シール部材41,42が取付けられている。
【0038】
内側シール部材41は、前部外周シール部材51の左後端部51aに沿うように前端部側から後方斜め左側方に一体に延びる前部傾斜部41aと、この前部傾斜部41aの後端からインナパネル37の左側縁部37kに沿って後方に延びる後部延出部41bとからなる。
【0039】
前部外周シール部材51の左後端部51aと内側シール部材41の前部傾斜部41aとは前後方向に長さLだけ重なり、左後端部51aと前部傾斜部41aとの間の通路は、左側の外側空気通路44の中で最も狭められ、断面積が小さくされた小断面通路44aを形成している。
【0040】
内側シール部材42は、前部外周シール部材51の右後端部51bに沿うように前端部側から後方斜め右側方に一体に延びる前部傾斜部42aと、この前部傾斜部42aの後端からインナパネル37の右側縁部37mに沿って後方に延びる後部延出部42bとからなる。
【0041】
前部外周シール部材51の右後端部51bと内側シール部材42の前部傾斜部42aとは前後方向に長さLだけ重なり、右後端部51bと前部傾斜部42aとの間の通路は、右側の外側空気通路45の中で最も狭められ、断面積が小さくされた小断面通路45aを形成している。
【0042】
ここで、符号37pはフード11を車体側に係合させるストライカを取付けるためにインナパネル37の前端部に形成されたストライカ取付部、37q,37qはヒンジ12(図1参照)を取付けるためにインナパネル37の後端部左右に形成されたヒンジ取付部である。
【0043】
図6に示すように、フロントバンパ18を構成するバンパビーム61の後方にはラジエータ62が配置され、このラジエータ62の後方には、ラジエータ62に接続されたラジエータホース63、エンジンカバー33の下方に配置されたラジエータリザーブタンク64等が配置されている。
【0044】
フード11とエンジンカバー33との間には内側空気通路43が形成され、この内側空気通路43が、エンジン32とエンジンカバー33との間の隙間34を介してエンジン32とラジエータリザーバタンク64との間を通ってエンジン32の前方を下方に延びるエンジン前方空気通路66に連通している。なお、符号δは隙間34の前後長である。
【0045】
以上に述べた車両用フード下構造の作用を次に説明する。
図7に示すように、自動車が高速走行中には、フード11の前側から白抜き矢印Aのように流れる空気は、更に後方斜め外側方の内側シール部材41,42を境にして内側空気通路43と外側空気通路44,45とに分かれて流れる。
【0046】
内側空気通路43では、空気は、白抜き矢印B,Cで示すように、内側シール部材41,42の車幅方向内側を内側シール部材41,42に沿って後方へ流れ、排出口11a,11bからフード11の表側に沿って流れる空気流に吸い出されるように排出される。
【0047】
また、外側空気通路44,45では、白抜き矢印Dで示すように、前部外周シール部材51と内側シール部材41との間の小断面通路44a,45aを通り、白抜き矢印Eで示すように、前部外周シール部材51と後部外周シール部材52との間の開口から外部に排出される。
【0048】
図8に示すように、自動車10が高速走行中には、白抜き矢印Gで示す前方から流れる空気は、フード11の上方を白抜き矢印H,J,Kのように流れ、この空気流によって、フード11には白抜き矢印Mで示す上向きの揚力が発生し、フード11が持ち上げられる。
【0049】
また、フロントバンパ18の下方に設けられた開口部19から白抜き矢印Nで示すようにフード11の下方のエンジンルーム31に流入した空気は、矢印Oで示すようにラジエータ62を通過し、ラジエータ62の後方を白抜き矢印Pで示すように上昇して、フード11とエンジンカバー33との間の内側空気通路43を白抜き矢印Q,Rで示すように後方へ流れ、更に白抜き矢印Sで示すようにエンジンフート11の排出口11a,11bから外部に吸い出されるとともに、エンジン32とエンジンカバー33との隙間34を通って白抜き矢印T,Uで示すようにエンジン前方空気通路66を下降して車体下方を流れる空気流に吸い出されるようにしてエンジンルーム31の外部に排出される。
【0050】
このとき、途中が絞られた内側空気通路43では空気の流速が速められるため、内側空気通路43内及びエンジン前方空気通路66等のエンジンルーム31内に負圧が発生する。この負圧によってフード11を引き下げる力が発生し、揚力によるフード11の浮き上がりが抑制される。
【0051】
また、図7において、外側空気通路44,45においても、小断面通路44a,45aで空気の流速が速められるため、外側空気通路44,45内の圧力が低下し、エンジンルーム31(図8参照)内が負圧になるのを助長するため、フード11の浮き上がりが更に抑制される。
【0052】
図9はエンジンルーム内に発生する負圧、即ち、フードを引き下げる圧力と、エンジン及びエンジンカバーのそれぞれの間の隙間の総面積との関係を示すグラフであり、隙間の総面積がS=55±20mm2(35〜75mm2)の範囲では、負圧が急激に大きくなることが分かる。図2に示したエンジンカバー33では、隙間34の面積を上記Sとなるように設定している。
上記総面積Sを設定する際の条件は次の通りである。
車速:時速260km
エンジンフード縦幅:約1300mm(フードの前後方向最大寸法)
エンジンフード横幅:約1700mm(フードの車幅方向最大寸法)
内側空気通路の断面積:24000mm2(左右の内側シール部材の各前端間の断面積)
外側空気通路の断面積:1300mm2 ×2(一方の小断面通路の長さ方向中央部における断面積の2倍)
【実施例2】
【0053】
次に本発明の実施例2を説明する。なお、図5に示した実施例1と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図10に示すように、フード11のインナパネル37の下面37aには、インナパネル37の外周縁部全周に配置された外周シール部材71と、この外周シール部材71の内方、詳しくは、インナパネル37の左側縁部37k及び右側縁部37mの車幅方向に内側に配置された左右一対の内側シール部材72,73とが取付けられている。
【0054】
内側シール部材72は、外周シール部材71の側縁部71aに沿って延びる側縁延出部72aと、この側縁延出部72aの後端から屈曲して車幅方向内側、詳しくは左側の排出口11aの前端部11cに向かって延びる幅方向延出部72bとからなる。
【0055】
内側シール部材73は、外周シール部材71の側縁部71bに沿って延びる側縁延出部73aと、この側縁延出部73aの後端から屈曲して車幅方向内側、詳しくは右側の排出口11bの前端部11dに向かって延びる幅方向延出部73bとからなる。
【0056】
上記の内側シール部材72,73間には内側空気通路75、外周シール部材71と内側シール部材72との間には外側空気通路76、外周シール部材71と内側シール部材73との間には外側空気通路77が形成される。
上記の外側空気通路76,77はそれぞれ、途中に最も狭められて断面積が小さくされた小断面通路76a,77aを備える。
【0057】
以上に述べた内側空気通路75及び外側空気通路76,77の空気の流れを次に説明する。
内側空気通路75では、空気は、白抜き矢印V,Wで示すように、内側シール部材72,73の車幅方向内側を内側シール部材72,73に沿って後方へ流れ、排出口11a,11bからフード11の表側に沿って流れる空気流に吸い出されるように排出される。
【0058】
また、外側空気通路76,77では、白抜き矢印X,Yで示すように、外周シール部材71と内側シール部材72,73との間を通り、白抜き矢印Zで示すように、幅方向延出部72b,73bの後方を排出口11a,11bに向かって流れ、排出口11a,11bから排出される。
【0059】
このとき、幅方向延出部72b,73bによって、内側空気通路75を流れる空気と、外側空気通路76,77を流れる空気とが、排出口11a,11bから排出される直前で互いにぶつかり合うことがなく、空気の排出が妨げられない。従って、内側空気通路75及び外側空気通路76,77を流れる空気の流速を効果的に高めることができる。
【0060】
上記の図5、図6に示すように、車体前部の開口部19からフード11下方のエンジンルーム31に流入した空気を外部に排出する排出口11a,11bがフード11に形成され、フード11の下面37aに取付けられたシール部材と、このシール部材の下方に配置される下部部品としてのエンジンカバー33との間でシールすることでフード11とエンジンカバー33との間に空気通路が形成される車両用フード下構造であって、シール部材が、フード11の外周縁部よりも内方に、フード11の左右縁部に沿って配置される内側シール部材41,42であるので、排出口11a,11bへ向け、内側シール部材41,42の内側と外側とで2つの空気通路(内側空気通路43と外側空気通路44,45)を形成することができ、内側空気通路43及び外側空気通路44,45の途中を狭めることで空気の流速を速めることができる。また、排出口11a,11bからは更に外部の空気の流れにより空気を吸い出すことができ、内側空気通路43及び外側空気通路44,45の空気の流速を更に速めることができる。
【0061】
このように、効果的に空気の流速を速めることができ、フード11を引き下げる負圧を大きくすることができて、車両が高速走行中の揚力によるフード浮き上がりを抑制することができる。
【0062】
上記の図5に示すように、フード11の前縁部及び左右縁部前部に設けられた前部外周シール部材51と、この前部外周シール部材51の後端部よりも車幅方向内側に配置された内側シール部材41,42とを有し、これらの前部外周シール部材51と内側シール部材41,42とが前後に重なるように配置されるので、車体前部の開口部19からフード11の下方に流入した空気が、内側シール部材41,42で二分割されて2つの空気通路(内側空気通路43及び外側空気通路44,45)を形成するため、前部外周シール部材51及び内側シール部材41,42の各シール長さを調整することで、排出口11a,11bを含む空気の外部への出口までの空気通路の断面積を狭めることができ、効果的に空気の流速を速めることができる。
従って、フード11を引き下げる負圧を大きくすることができ、車両の高速走行時のフード浮き上がりを抑制することができる。
【0063】
上記の図10に示すように、フード11の全周に配置される外周シール部材71と、この外周シール部材71の内方に配置された内側シール部材72,73とを有し、これらの内側シール部材72,73が、排出口11a,11b近傍に湾曲して排出口11a,11bに向かう湾曲部としての軸方向延出部72b,73bを有するので、内側シール部材72,73の内側、及び外周シール部材71と内側シール部材72,73との間の各空気通路(内側空気通路75及び外側空気通路76,77)に流れた空気が、それぞれ排出口11a,11bから排出される直前に互いにぶつかり合うことがなく、空気の排出の妨げになることを防止することができ、効果的に空気の流速を速めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のフード下構造は、自動車に好適である。
【符号の説明】
【0065】
10…自動車、11…フード、11a,11b…排出口、19…開口部、31…エンジンルーム、33…下部部品(エンジンカバー)、37a…下面、41…内側シール部材、42…内側シール部材、51…前部外周シール部材、71…外周シール部材、72,73…内側シール部材、72b…湾曲部(幅方向延出部)、73b…湾曲部(幅方向延出部)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フード下構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用フード下構造として、フードの開閉機構とは別に、フードの浮き上がりを防止するラッチ機構が設けられたもの(例えば、特許文献1参照。)や、フードの前端部下部にシール構造を備えるもの(例えば、特許文献2参照。)が知られている。
【0003】
特許文献1の図5、図7によれば、車体の前部に開閉自在に取付けられたフード7の前端部を車体側にロックするフードロック機構9とは別に、車体の前端部の両側部に、フード7の浮き上がりを防止するラッチ機構25が設けられている。
【0004】
ラッチ機構25は、車体側に揺動自在に取付けられた係止爪26と、フード7側に設けられたストライカ27とからなり、車両が走行を開始すると、アクチュエータにより係止爪26が揺動し、ストライカ27に係止される。
【0005】
特許文献2の図1、図3によれば、エンジンフード1の前端部とエンジンフード1の下方に配置されたラジエータグリル2との間に、これらの隙間を塞ぐフードシール6が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−182640公報
【特許文献2】特開2006−21547公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
引用文献1の図5、図7に示されたラッチ機構25及びこのラッチ機構25を駆動するアクチュエータを設けることで、重量増、コスト増を招く。また、歩行者が衝突した際に歩行者保護のためにフードを上方に持ち上げて衝撃を軽減するポップアップフード構造を備えたものでは、その機能を阻害する可能性がある。
引用文献2の図1、図3では、フードシール6によって、車体前部の見栄えは良くなるが、車両の高速走行中のフード浮き上がりを抑制することは難しい。
【0008】
図11に示されるように、車両100が高速走行中には、フード101の上方を白抜き矢印a,b,cのように流れる空気流によって、フード101には白抜き矢印dで示す上向きの揚力が発生し、フード101が持ち上げられる。
【0009】
また、フード101の下方にはエンジン102の周囲の上方を覆うエンジンカバー103が設けられ、車両走行中に、車体前端部のフロントバンパ104の下方に設けられた開口部106から白抜き矢印eで示すようにフード101の下方のエンジンルーム107に流入した空気は、ラジエータ108を通過し、ラジエータ108の後方を白抜き矢印fで示すように上昇して、フード101とエンジンカバー103との間に出来た空気通路を白抜き矢印g,h,j,kで示すように後方へ流れ、白抜き矢印mで示すように、フード101の後部に形成された排出口110から外部に排出される。
【0010】
上記したフード101とエンジンカバー103との間の空気通路の流れを利用して、フード101の下方の圧力を低下させることができれば、フード101に揚力とは向きが反対の引き下げ力を発生させることが可能になる。
【0011】
次に、上記したフード101とエンジンカバー103との間の空気流について説明する。図中の白抜き矢印は空気流を示し、矢印(FRONT)は車両前方を表している。
図12(a)に示されるように、フード101の下面の前縁部及び左右縁部前部に前部外周シール部材111が取付けられ、また、フード101の下面の後縁部に後部外周シール部材112が取付けられた前後シール配置構造では、フード101の後部左右にはシール部材が配置されていないので、フード101の前側から流れる空気流は、白抜き矢印pで示されるように、フード101の下方の後部左右から外部に排出される。
【0012】
フード101とエンジンカバー103との間の空気通路の断面積は大きいため、空気の流速は低くなっている。従って、図11で説明したエンジンルーム内に発生する負圧は小さい。
【0013】
図12(b)に示されるように、フード101の下面の外周縁部全周に外周シール部材115が取付けられた全周シール配置構造では、フード101の下方から外部に空気を排出しにくく、フード101の下方における空気流の流速は極めて低い。
以上の図12(a),(b)から、フード101下方のシール部材の配置を工夫することによりフード101下方における空気の流速を速めることが望まれる。
【0014】
本発明の目的は、重量増、コスト増を小さくしつつフードの浮き上がりを抑制可能な車両用フード下構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、車体前部の開口部からフード下方のエンジンルームに流入した空気を外部に排出する排出口がフードに形成され、フードの下面に取付けられたシール部材と、このシール部材の下方に配置される下部部品との間でシールすることでフードと下部部品との間に空気通路が形成される車両用フード下構造であって、シール部材が、フードの外周縁部よりも内方に、フードの左右縁部に沿って配置される内側シール部材であることを特徴とする。
【0016】
内側シール部材の車幅方向内側と車幅方向外側とにそれぞれ空気通路が形成され、これらの空気通路の途中を狭めることで空気通路内の空気の流速が速められる。
また、2つの空気通路を通って排出口から空気が排出される際に、フードの外表面に沿う空気流によっても排出口から排出される空気の流速が速められる。
【0017】
請求項2に係る発明は、フードの前縁部及び左右縁部前部に設けられた前部外周シール部材と、この前部外周シール部材の後端部よりも車幅方向内側に配置された内側シール部材とを有し、これらの前部外周シール部材と内側シール部材とが前後に重なるように配置されることを特徴とする。
【0018】
内側シール部材の車幅方向内側に第1の空気通路が形成され、内側シール部材と前部外周シール部材との間に第2の空気通路が形成され、内側シール部材と前部外側シール部材とによって第1の空気通路及び第2の空気通路の途中を狭めることで、第1の空気通路内及び第2の空気通路内の空気の流速が速められる。
【0019】
請求項3に係る発明は、フードの全周に配置される外周シール部材と、この外周シール部材の内方に配置された内側シール部材とを有し、この内側シール部材が、排出口近傍に湾曲して排出口に向かう湾曲部を有することを特徴とする。
【0020】
内側シール部材の車幅方向内側に第1の空気通路が形成され、内側シール部材と外周シール部材との間に第2の空気通路が形成され、内側シール部材と外側シール部材とによって第1の空気通路及び第2の空気通路の途中を狭めることで、第1の空気通路内及び第2の空気通路内の空気の流速が速められる。
第1の空気通路を流れる第1の空気流と、第2の空気通路を流れる第2の空気流とが湾曲部によって排出口から排出される直前に互いにぶつかり合うことがない。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明では、シール部材が、フードの外周縁部よりも内方に、フードの左右縁部に沿って配置される内側シール部材であるので、排出口へ向け、内側シール部材の内側と外側とで2つの空気通路を形成することができ、空気通路の途中を狭めることで空気の流速を速めることができる。また、排出口からは更に外部の空気の流れにより空気を吸い出すことができ、空気通路の空気の流速を更に速めることができる。
【0022】
このように、効果的に空気流の流速を速めることができ、フードを引き下げる負圧を大きくすることができて、車両が高速走行中の揚力によるフード浮き上がりを抑制することができる。
【0023】
請求項2に係る発明では、フードの前縁部及び左右縁部前部に設けられた前部外周シール部材と、この前部外周シール部材の後端部よりも車幅方向内側に配置された内側シール部材とを有し、これらの前部外周シール部材と内側シール部材とが前後に重なるように配置されるので、車体前部の開口部からフードの下方に流入した空気は、内側シール部材で二分割されて2つの空気通路を形成するため、前部外周シール部材及び内側シール部材の各シール長さを調整することで、排出口を含む空気の外部への出口までの空気通路の断面積を狭めることができ、効果的に空気の流速を速めることができる。
従って、フードを引き下げる負圧を大きくすることができ、車両の高速走行時のフード浮き上がりを抑制することができる。
【0024】
請求項3に係る発明では、フードの全周に配置される外周シール部材と、この外周シール部材の内方に配置された内側シール部材とを有し、この内側シール部材が、排出口近傍に湾曲して排出口に向かう湾曲部を有するので、内側シール部材の内側、及び外周シール部材と内側シール部材との間の各空気通路に流れた空気が、それぞれ排出口から排出される直前に互いにぶつかり合うことがなく、空気の排出の妨げになることを防止することができ、効果的に空気流の流速を速めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るフード下構造を採用した車両の前部斜視図である。
【図2】本発明に係るフード下構造を採用した車両からフードを外した状態を示す前部斜視図である。
【図3】図1の3−3線断面図(実施例1)である。
【図4】本発明に係るシール部材の断面図(実施例1)である。
【図5】本発明に係るシール部材の配置を示すフードの底面図(実施例1)である。
【図6】本発明に係るフード下構造を示す断面図(実施例1)である。
【図7】本発明に係るフード下構造の作用を示す第1作用図(実施例1)である。
【図8】本発明に係るフード下構造の作用を示す第2作用図(実施例1)である。
【図9】本発明に係るフード下構造のフード引き下げ力と隙間面積との関係を示すグラフである。
【図10】本発明に係るシール部材の配置を示すフードの底面図(実施例2)である。
【図11】従来のフード下構造の作用を示す第1作用図である。
【図12】従来のフード下構造の作用を示す第2作用図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、説明中の左、右、前、後は車両に乗車した運転者を基準にした向きを示している。また、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例1】
【0027】
本発明の実施例1を説明する。図中の矢印(FRONT)は車両前方を表している。
図1に示すように、自動車10は、前部に、エンジンが収納されたエンジンルームの上方を覆うフード11が設けられ、フード11が、その後端部で車体側に左右一対のヒンジ12(手前側のヒンジ12のみ図示)を介して開閉自在に取付けられている。
【0028】
自動車10が高速走行中には、フード11に、フード11の上面に沿って流れる空気により揚力が発生し、フード11が持ち上げられるため、自動車10には、フード11を引き下げる力を発生させるフード下構造が採用されている。
【0029】
図中の符号11a,11bは、フード11の下方を流れる空気を排出する排出口、14,15はフード11の両側方に配置されたフロントフェンダ、16,17はフード11とフロントフェンダ14,15との間に配置された左右一対のヘッドランプ、18はフロントバンパ、19はフロントバンパ18の中央に形成された空気取入用の開口部、21,22はフロントピラー、23はフロントピラー21,22間に取付けられたウインドシールドガラスである。
【0030】
図2は図1の状態からフード11(図1参照)を外した状態を示している。
フード11によって上方が覆われるエンジンルーム31には、エンジン32を除いてエンジン32の周囲の上方を覆うエンジンカバー33が設けられ、エンジンカバー33によってエンジンルーム31が上下に隔てられている。
エンジン32とエンジンカバー33との間には、所定面積の隙間34(輪郭が太線で示された部分である。)が形成されている。
【0031】
隙間34は、フード11(図1参照)とエンジンカバー33との間に形成される後述する空気通路と、エンジンカバー33の下方の空間とを連通させる部分であり、エンジン32の前部側と左右側部側とに亘って設けられ、隙間34の左右側部側は、エンジン32の後端まで延びるように形成されている。
【0032】
このような隙間34によって、上記の空気通路を空気が速く流れるときに、エンジンルーム31内、即ち、空気通路及びエンジンカバー33の下方の空間の圧力が低下して負圧になり、フード11を引き下げる力が発生する。この結果、フード11の浮き上がりが抑制される。
【0033】
図3に示すように、フード11は、外観面を構成するアウタパネル36と、このアウタパネル36の内側に取付けられたインナパネル37と、これらのアウタパネル36及びインナパネル37のそれぞれの間に補強のために設けられた補強パネル38とからなり、インナパネル37の下面37aに内側シール部材41,42(一方の符号41のみ示す。)が取付けられ、フード11を閉じた状態では、シール部材41,42は、インナパネル37とエンジンカバー33との間に挟まれて潰れ、シール部材34の車幅方向内側(図の左方)とシール部材34の車幅方向外側(図の右方)とが隔てられ、内側空気通路43と外側空気通路44,45(一方の符号44のみ示す。)とが形成される。
【0034】
図4(a)に示すように、内側シール部材41は、ゴム製であり、フード11のインナパネル37に開けられたシール取付穴37bに挿入されて係合される係合突部41aと、この係合突部41aの端部に一体成形された管状のシール本体部41bとからなる。
【0035】
シール本体部41bは、図の表裏方向に長く形成され、このシール本体部41bに間隔を置いて複数の係合突部41aが形成されている。
内側シール部材42(図5参照)は、内側シール部材41と同一構造であり、説明は省略する。
【0036】
図4(b)はフード11を閉じた状態を示している。内側シール部材41のシール本体部41bがインナパネル37とエンジンカバー33との間に挟まれて左右の空間の間をシールしている。
【0037】
図5において、各シール部材にはクロスハッチングを施している。
図5に示すように、フード11のインナパネル37の下面37aには、インナパネル37の前縁部37d及び左縁部前部37e、右縁部前部37fに亘って前部外周シール部材51が取付けられ、後縁部37hに後部外周シール部材52が取付けられ、前部外周シール部材51の左後端部51a及び右後端部51bよりも車幅方向内側に左右一対の内側シール部材41,42が取付けられている。
【0038】
内側シール部材41は、前部外周シール部材51の左後端部51aに沿うように前端部側から後方斜め左側方に一体に延びる前部傾斜部41aと、この前部傾斜部41aの後端からインナパネル37の左側縁部37kに沿って後方に延びる後部延出部41bとからなる。
【0039】
前部外周シール部材51の左後端部51aと内側シール部材41の前部傾斜部41aとは前後方向に長さLだけ重なり、左後端部51aと前部傾斜部41aとの間の通路は、左側の外側空気通路44の中で最も狭められ、断面積が小さくされた小断面通路44aを形成している。
【0040】
内側シール部材42は、前部外周シール部材51の右後端部51bに沿うように前端部側から後方斜め右側方に一体に延びる前部傾斜部42aと、この前部傾斜部42aの後端からインナパネル37の右側縁部37mに沿って後方に延びる後部延出部42bとからなる。
【0041】
前部外周シール部材51の右後端部51bと内側シール部材42の前部傾斜部42aとは前後方向に長さLだけ重なり、右後端部51bと前部傾斜部42aとの間の通路は、右側の外側空気通路45の中で最も狭められ、断面積が小さくされた小断面通路45aを形成している。
【0042】
ここで、符号37pはフード11を車体側に係合させるストライカを取付けるためにインナパネル37の前端部に形成されたストライカ取付部、37q,37qはヒンジ12(図1参照)を取付けるためにインナパネル37の後端部左右に形成されたヒンジ取付部である。
【0043】
図6に示すように、フロントバンパ18を構成するバンパビーム61の後方にはラジエータ62が配置され、このラジエータ62の後方には、ラジエータ62に接続されたラジエータホース63、エンジンカバー33の下方に配置されたラジエータリザーブタンク64等が配置されている。
【0044】
フード11とエンジンカバー33との間には内側空気通路43が形成され、この内側空気通路43が、エンジン32とエンジンカバー33との間の隙間34を介してエンジン32とラジエータリザーバタンク64との間を通ってエンジン32の前方を下方に延びるエンジン前方空気通路66に連通している。なお、符号δは隙間34の前後長である。
【0045】
以上に述べた車両用フード下構造の作用を次に説明する。
図7に示すように、自動車が高速走行中には、フード11の前側から白抜き矢印Aのように流れる空気は、更に後方斜め外側方の内側シール部材41,42を境にして内側空気通路43と外側空気通路44,45とに分かれて流れる。
【0046】
内側空気通路43では、空気は、白抜き矢印B,Cで示すように、内側シール部材41,42の車幅方向内側を内側シール部材41,42に沿って後方へ流れ、排出口11a,11bからフード11の表側に沿って流れる空気流に吸い出されるように排出される。
【0047】
また、外側空気通路44,45では、白抜き矢印Dで示すように、前部外周シール部材51と内側シール部材41との間の小断面通路44a,45aを通り、白抜き矢印Eで示すように、前部外周シール部材51と後部外周シール部材52との間の開口から外部に排出される。
【0048】
図8に示すように、自動車10が高速走行中には、白抜き矢印Gで示す前方から流れる空気は、フード11の上方を白抜き矢印H,J,Kのように流れ、この空気流によって、フード11には白抜き矢印Mで示す上向きの揚力が発生し、フード11が持ち上げられる。
【0049】
また、フロントバンパ18の下方に設けられた開口部19から白抜き矢印Nで示すようにフード11の下方のエンジンルーム31に流入した空気は、矢印Oで示すようにラジエータ62を通過し、ラジエータ62の後方を白抜き矢印Pで示すように上昇して、フード11とエンジンカバー33との間の内側空気通路43を白抜き矢印Q,Rで示すように後方へ流れ、更に白抜き矢印Sで示すようにエンジンフート11の排出口11a,11bから外部に吸い出されるとともに、エンジン32とエンジンカバー33との隙間34を通って白抜き矢印T,Uで示すようにエンジン前方空気通路66を下降して車体下方を流れる空気流に吸い出されるようにしてエンジンルーム31の外部に排出される。
【0050】
このとき、途中が絞られた内側空気通路43では空気の流速が速められるため、内側空気通路43内及びエンジン前方空気通路66等のエンジンルーム31内に負圧が発生する。この負圧によってフード11を引き下げる力が発生し、揚力によるフード11の浮き上がりが抑制される。
【0051】
また、図7において、外側空気通路44,45においても、小断面通路44a,45aで空気の流速が速められるため、外側空気通路44,45内の圧力が低下し、エンジンルーム31(図8参照)内が負圧になるのを助長するため、フード11の浮き上がりが更に抑制される。
【0052】
図9はエンジンルーム内に発生する負圧、即ち、フードを引き下げる圧力と、エンジン及びエンジンカバーのそれぞれの間の隙間の総面積との関係を示すグラフであり、隙間の総面積がS=55±20mm2(35〜75mm2)の範囲では、負圧が急激に大きくなることが分かる。図2に示したエンジンカバー33では、隙間34の面積を上記Sとなるように設定している。
上記総面積Sを設定する際の条件は次の通りである。
車速:時速260km
エンジンフード縦幅:約1300mm(フードの前後方向最大寸法)
エンジンフード横幅:約1700mm(フードの車幅方向最大寸法)
内側空気通路の断面積:24000mm2(左右の内側シール部材の各前端間の断面積)
外側空気通路の断面積:1300mm2 ×2(一方の小断面通路の長さ方向中央部における断面積の2倍)
【実施例2】
【0053】
次に本発明の実施例2を説明する。なお、図5に示した実施例1と同一構成については同一符号を付け、詳細説明は省略する。
図10に示すように、フード11のインナパネル37の下面37aには、インナパネル37の外周縁部全周に配置された外周シール部材71と、この外周シール部材71の内方、詳しくは、インナパネル37の左側縁部37k及び右側縁部37mの車幅方向に内側に配置された左右一対の内側シール部材72,73とが取付けられている。
【0054】
内側シール部材72は、外周シール部材71の側縁部71aに沿って延びる側縁延出部72aと、この側縁延出部72aの後端から屈曲して車幅方向内側、詳しくは左側の排出口11aの前端部11cに向かって延びる幅方向延出部72bとからなる。
【0055】
内側シール部材73は、外周シール部材71の側縁部71bに沿って延びる側縁延出部73aと、この側縁延出部73aの後端から屈曲して車幅方向内側、詳しくは右側の排出口11bの前端部11dに向かって延びる幅方向延出部73bとからなる。
【0056】
上記の内側シール部材72,73間には内側空気通路75、外周シール部材71と内側シール部材72との間には外側空気通路76、外周シール部材71と内側シール部材73との間には外側空気通路77が形成される。
上記の外側空気通路76,77はそれぞれ、途中に最も狭められて断面積が小さくされた小断面通路76a,77aを備える。
【0057】
以上に述べた内側空気通路75及び外側空気通路76,77の空気の流れを次に説明する。
内側空気通路75では、空気は、白抜き矢印V,Wで示すように、内側シール部材72,73の車幅方向内側を内側シール部材72,73に沿って後方へ流れ、排出口11a,11bからフード11の表側に沿って流れる空気流に吸い出されるように排出される。
【0058】
また、外側空気通路76,77では、白抜き矢印X,Yで示すように、外周シール部材71と内側シール部材72,73との間を通り、白抜き矢印Zで示すように、幅方向延出部72b,73bの後方を排出口11a,11bに向かって流れ、排出口11a,11bから排出される。
【0059】
このとき、幅方向延出部72b,73bによって、内側空気通路75を流れる空気と、外側空気通路76,77を流れる空気とが、排出口11a,11bから排出される直前で互いにぶつかり合うことがなく、空気の排出が妨げられない。従って、内側空気通路75及び外側空気通路76,77を流れる空気の流速を効果的に高めることができる。
【0060】
上記の図5、図6に示すように、車体前部の開口部19からフード11下方のエンジンルーム31に流入した空気を外部に排出する排出口11a,11bがフード11に形成され、フード11の下面37aに取付けられたシール部材と、このシール部材の下方に配置される下部部品としてのエンジンカバー33との間でシールすることでフード11とエンジンカバー33との間に空気通路が形成される車両用フード下構造であって、シール部材が、フード11の外周縁部よりも内方に、フード11の左右縁部に沿って配置される内側シール部材41,42であるので、排出口11a,11bへ向け、内側シール部材41,42の内側と外側とで2つの空気通路(内側空気通路43と外側空気通路44,45)を形成することができ、内側空気通路43及び外側空気通路44,45の途中を狭めることで空気の流速を速めることができる。また、排出口11a,11bからは更に外部の空気の流れにより空気を吸い出すことができ、内側空気通路43及び外側空気通路44,45の空気の流速を更に速めることができる。
【0061】
このように、効果的に空気の流速を速めることができ、フード11を引き下げる負圧を大きくすることができて、車両が高速走行中の揚力によるフード浮き上がりを抑制することができる。
【0062】
上記の図5に示すように、フード11の前縁部及び左右縁部前部に設けられた前部外周シール部材51と、この前部外周シール部材51の後端部よりも車幅方向内側に配置された内側シール部材41,42とを有し、これらの前部外周シール部材51と内側シール部材41,42とが前後に重なるように配置されるので、車体前部の開口部19からフード11の下方に流入した空気が、内側シール部材41,42で二分割されて2つの空気通路(内側空気通路43及び外側空気通路44,45)を形成するため、前部外周シール部材51及び内側シール部材41,42の各シール長さを調整することで、排出口11a,11bを含む空気の外部への出口までの空気通路の断面積を狭めることができ、効果的に空気の流速を速めることができる。
従って、フード11を引き下げる負圧を大きくすることができ、車両の高速走行時のフード浮き上がりを抑制することができる。
【0063】
上記の図10に示すように、フード11の全周に配置される外周シール部材71と、この外周シール部材71の内方に配置された内側シール部材72,73とを有し、これらの内側シール部材72,73が、排出口11a,11b近傍に湾曲して排出口11a,11bに向かう湾曲部としての軸方向延出部72b,73bを有するので、内側シール部材72,73の内側、及び外周シール部材71と内側シール部材72,73との間の各空気通路(内側空気通路75及び外側空気通路76,77)に流れた空気が、それぞれ排出口11a,11bから排出される直前に互いにぶつかり合うことがなく、空気の排出の妨げになることを防止することができ、効果的に空気の流速を速めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のフード下構造は、自動車に好適である。
【符号の説明】
【0065】
10…自動車、11…フード、11a,11b…排出口、19…開口部、31…エンジンルーム、33…下部部品(エンジンカバー)、37a…下面、41…内側シール部材、42…内側シール部材、51…前部外周シール部材、71…外周シール部材、72,73…内側シール部材、72b…湾曲部(幅方向延出部)、73b…湾曲部(幅方向延出部)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部の開口部からフード下方のエンジンルームに流入した空気を外部に排出する排出口が前記フードに形成され、フードの下面に取付けられたシール部材と、このシール部材の下方に配置される下部部品との間でシールすることでフードと下部部品との間に空気通路が形成される車両用フード下構造であって、
前記シール部材は、前記フードの外周縁部よりも内方に、フードの左右縁部に沿って配置される内側シール部材であることを特徴とする車両用フード下構造。
【請求項2】
前記フードの前縁部及び左右縁部前部に設けられた前部外周シール部材と、この前部外周シール部材の後端部よりも車幅方向内側に配置された前記内側シール部材とを有し、これらの前部外周シール部材と内側シール部材とが前後に重なるように配置されることを特徴とする請求項1記載の車両用フード下構造。
【請求項3】
前記フードの全周に配置される外周シール部材と、この外周シール部材の内方に配置された前記内側シール部材とを有し、この内側シール部材は、前記排出口近傍に湾曲して前記排気口に向かう湾曲部を有することを特徴とする請求項1記載の車両用フード下構造。
【請求項1】
車体前部の開口部からフード下方のエンジンルームに流入した空気を外部に排出する排出口が前記フードに形成され、フードの下面に取付けられたシール部材と、このシール部材の下方に配置される下部部品との間でシールすることでフードと下部部品との間に空気通路が形成される車両用フード下構造であって、
前記シール部材は、前記フードの外周縁部よりも内方に、フードの左右縁部に沿って配置される内側シール部材であることを特徴とする車両用フード下構造。
【請求項2】
前記フードの前縁部及び左右縁部前部に設けられた前部外周シール部材と、この前部外周シール部材の後端部よりも車幅方向内側に配置された前記内側シール部材とを有し、これらの前部外周シール部材と内側シール部材とが前後に重なるように配置されることを特徴とする請求項1記載の車両用フード下構造。
【請求項3】
前記フードの全周に配置される外周シール部材と、この外周シール部材の内方に配置された前記内側シール部材とを有し、この内側シール部材は、前記排出口近傍に湾曲して前記排気口に向かう湾曲部を有することを特徴とする請求項1記載の車両用フード下構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−264885(P2010−264885A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118028(P2009−118028)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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