説明

車両用空調装置

【課題】蒸発器のフロスト防止と乗員の空調フィーリング悪化の抑制を両立させる。
【解決手段】圧縮機11の吐出冷媒を蒸発器9で蒸発させ車室内への吹出空気を冷却する冷凍サイクル10と、蒸発器9の温度を検出する蒸発器温度センサ34と、蒸発器温度センサ34の検出値が第1設定温度を下回ると圧縮機11を作動停止させ、第2所定温度を上回ると作動再開させるフロスト防止制御手段と、第1設定温度を設定する温度設定手段と、圧縮機11の稼動率を算出する稼働率算出手段と、圧縮機11の稼働率に基づいて蒸発器9の冷房熱負荷状態を推定する冷房熱負荷推定手段とを備え、温度設定手段は、蒸発器9の冷房熱負荷状態が、フロストが発生し易い第1状態である場合に第1設定温度を基準温度よりも高温に設定し、蒸発器9の冷房熱負荷状態が、フロストが発生し難い第2状態である場合に第1設定温度を基準温度よりも低温に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を吸入圧縮する圧縮機の作動を断続制御して、蒸発器の温度を制御する車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用空調装置では、圧縮機を外部駆動源(エンジン等)により駆動している場合等には、圧縮機の作動を電磁クラッチ等により断続して蒸発器の温度を制御するようにしている。
【0003】
より具体的には、蒸発器の空気吹出直後の代表的な部位に温度センサを配置し、温度センサの検出温度(蒸発器の吹出空気温度)が蒸発器のフロスト防止のための予め設定された基準温度(オフ側目標温度)より低下すると、圧縮機の作動を停止する。そして、温度センサの検出温度がオフ側目標温度に所定のヒステリシス幅を加えた温度(オン側目標温度)より高くなると、圧縮機を再起動するようにしている。
【0004】
ここで、通常の車両用空調装置の圧縮機の制御では、上述のフロスト防止のために設定したオフ側目標温度を一定値としているため、蒸発器の吹出空気の温度変化が大きい場合には、圧縮機の作動停止等の応答遅れによって蒸発器にフロストが発生する場合があった。
【0005】
この蒸発器のフロスト発生を抑制するために、例えば、特許文献1では、蒸発器の吹出空気の単位時間当たりの温度変化率を検出し、温度変化率が所定値以上である場合に、圧縮機の作動停止条件であるオフ側目標温度を、予め設定された基準温度よりも高い温度に変更している。
【特許文献1】特開2007−302020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、夏季等のように冷房能力が不足している状態(蒸発器の冷房熱負荷が高い状態)においては、蒸発器の吸込み側の空気温度が高いこと等から、蒸発器にフロストが発生し難い状態となっている。このような状態において、特許文献1に記載の圧縮機制御を実行すると、温度変化率が所定値以上、かつ、蒸発器の吹出空気の温度が基準温度よりも高温に設定されたオフ側目標温度を下回ると、圧縮機の作動が停止されることとなる。この場合、蒸発器のフロストが発生し難い状態であって、冷房能力が不足している状態にもかかわらず圧縮機が停止されるため、車室内温度の上昇により乗員の空調フィーリングが著しく悪化するといった問題がある。
【0007】
本発明は、上記点に鑑み、蒸発器のフロスト防止と車室内乗員の空調フィーリング悪化の抑制とを両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、圧縮機(11)から吐出された冷媒を蒸発器(9)内で蒸発させて車室内に吹き出す空気を冷却する冷凍サイクル(10)と、蒸発器(9)の吹出空気温度または蒸発器表面温度を検出する蒸発器温度検出手段(34)と、蒸発器温度検出手段(34)で検出された検出値が、予め設定された基準温度に初期設定された第1設定温度を下回ると圧縮機(11)の作動を停止するとともに、第1設定温度よりも高温に設定された第2所定温度を上回ると圧縮機(11)の作動を再開する制御を実行するフロスト防止制御手段と、第1設定温度を設定する温度設定手段と、フロスト防止制御手段によって圧縮機(11)の作動が制御されている際の圧縮機(11)の停止時間、および圧縮機(11)の作動時間に基づいて圧縮機(11)の稼動率を算出する稼働率算出手段と、稼働率算出手段で算出された稼働率に基づいて、蒸発器(9)の冷房熱負荷状態を推定する冷房熱負荷推定手段とを備え、温度設定手段は、冷房熱負荷推定手段によって蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が蒸発器(9)にフロストが発生し易い第1状態と推定された場合に、第1設定温度を基準温度よりも高い温度に設定し、冷房熱負荷推定手段によって蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が蒸発器(9)にフロストが発生し難い第2状態と推定された場合に、第1設定温度を基準温度よりも低い温度に設定することを特徴とする。
【0009】
これによれば、圧縮機(11)の稼働率に基づいて前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が蒸発器(9)にフロストが発生し易い第1状態と推定された場合、基準温度よりも高い温度に設定された第1設定温度を下回ると圧縮機(11)の作動が停止する。そのため、蒸発器(9)にフロストが発生し易い第1状態において、圧縮機(11)の作動停止等の応答遅れによる蒸発器(9)のフロスト発生を防止することができる。なお、蒸発器(9)にフロストが発生し易い第1状態では、蒸発器(9)の冷房熱負荷が小さく、冷房能力が過多気味であるため、圧縮機(11)の作動停止による車室内乗員の空調フィーリングを悪化させることはない。
【0010】
一方、圧縮機(11)の稼働率に基づいて前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が蒸発器(9)にフロストが発生し難い第2状態と推定された場合、初期設定された基準温度よりも低い温度に設定された第1設定温度を下回るまで圧縮機(11)が停止されない。そのため、蒸発器(9)にフロストが発生し難い第2状態において、圧縮機(11)の作動継続時間を長くすることができ、圧縮機(11)の作動停止による車室内乗員の空調フィーリングの悪化を抑制することができる。なお、蒸発器(9)にフロストが発生し難い第2状態では、蒸発器(9)の冷房熱負荷が大きく、冷房能力が不足気味であるため、蒸発器(9)の温度が蒸発器(9)にフロストが発生する温度まで低下し難い。
【0011】
従って、蒸発器(9)の冷房熱負荷状態に応じて、第1設定温度を変化させることで、蒸発器(9)のフロスト防止と車室内乗員の空調フィーリングの悪化の抑制を両立させることができる。
【0012】
ところで、蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が、蒸発器(9)にフロストが発生し易い第1状態である場合には、圧縮機(11)の作動再開後の蒸発器(9)の温度変化率が大きいほど(冷却速度が速いほど)、蒸発器(9)にフロストが発生し易くなる。逆に、蒸発器(9)にフロストが発生し難い第2状態である場合には蒸発器(9)の冷却速度が遅いほど蒸発器(9)にフロストが発生し難くなる。
【0013】
そこで、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、圧縮機(11)の作動開始から停止までの作動期間における蒸発器温度検出手段(34)の検出値の最大値と最小値との温度偏差、および作動期間における圧縮機(11)の作動時間に基づいて蒸発器(9)の冷却速度を算出する冷却速度算出手段()を備え、温度設定手段は、冷房熱負荷推定手段によって蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が第1状態と推定され、かつ、冷却速度算出手段で算出した冷却速度が予め設定された第1基準速度よりも速い場合に、第1基準速度よりも遅い場合に比べて第1設定温度を高い温度に設定し、冷房熱負荷推定手段によって蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が第2状態と推定され、かつ、冷却速度算出手段で算出した冷却速度が予め設定された第2基準速度よりも遅い場合に、第2基準速度よりも速い場合に比べて第1設定温度を低い温度に設定することを特徴とする。
【0014】
このように、蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が第1状態である場合であって、蒸発器(9)の冷却速度が第1基準速度よりも速い場合には、第1設定温度を高い温度に設定することで、蒸発器(9)のフロスト発生をより確実に防止することができる。
【0015】
一方、蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が第2状態である場合であって、蒸発器(9)の冷却速度が第2基準速度よりも遅い場合には、第1設定温度を低い温度に設定することで、圧縮機(11)の作動継続時間をより長くすることができる。そのため、圧縮機(11)の作動停止による車室内乗員の空調フィーリングの悪化をより効果的に抑制することができる。
【0016】
また、具体的には、請求項3に記載の発明のように、請求項1または2に記載の発明において、熱負荷推定手段は、稼働率が予め設定された第1基準値を下回った場合に蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が第1状態と推定し、稼働率が前記第1基準値に比べて高い値に設定された第2基準値を上回った場合に蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が第2状態と推定することができる。
【0017】
また、請求項4に記載の発明のように、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の発明において、稼働率算出手段では、圧縮機(11)の作動停止から、作動再開を経て、再度作動停止するまでの期間を1サイクルとした場合に、1サイクルに要した時間のうち圧縮機(11)の作動時間の占める圧縮機作動割合を稼働率として算出してもよい。
【0018】
また、請求項5に記載の発明のように、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の発明において、稼働率算出手段では、圧縮機(11)の作動停止から、作動再開を経て、再度作動停止するまでの期間を1サイクルとした場合に、1サイクルに要した時間のうち圧縮機(11)の作動時間の占める圧縮機作動割合を複数サイクル分算出し、算出した複数サイクル分の圧縮機作動割合の平均値を稼働率として算出してもよい。
【0019】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1〜図8に基づいて説明する。図1は、本実施形態の車両用空調装置の全体システム構成の概要を示すもので、車両用空調装置は車室内最前部の計器盤(図示せず)の内側部に配設される室内空調ユニット1を備えている。この室内空調ユニット1はケース2を有し、このケース2内に車室内へ向かって空気が送風される空気通路を構成する。
【0021】
このケース2の空気通路の最上流部に内気導入口3および外気導入口4を有する内外気切替箱5を配置している。この内外気切替箱5内に、内外気切替手段としての内外気切替ドア6を回転自在に配置している。
【0022】
この内外気切替ドア6はサーボモータ7によって駆動されるもので、内気導入口3より内気(車室内空気)を導入する内気モードと外気導入口4より外気(車室外空気)を導入する外気モードとを切り替える。
【0023】
内外気切替箱5の下流側には車室内に向かう空気流を発生させる電動式の送風機8を配置している。この送風機8は、遠心式の送風ファン8aをモータ8bにより駆動するようになっている。送風機8の下流側にはケース2内を流れる空気を冷却する蒸発器9を配置している。この蒸発器9は、送風機8の送風空気を冷却する冷房用熱交換器で、冷凍サイクル10を構成する要素の一つである。
【0024】
ここで、冷凍サイクル10は、圧縮機11の吐出側から、凝縮器12、受液器13および減圧手段をなす膨張弁14を介して蒸発器9に冷媒が循環するように形成された周知のものである。凝縮器12には電動式の冷却ファン12aによって室外空気(冷却空気)が送風される。
【0025】
本実施形態では、冷凍サイクル10の圧縮機11として常に一定の吐出容量で作動する固定容量型圧縮機を採用しており、圧縮機11は電磁クラッチ11aを介して車両エンジン(図示せず)により駆動される。
【0026】
また、蒸発器9は、膨張弁14にて減圧された後の低温低圧の気液2相状態の冷媒が送風機8の送風空気から吸熱して蒸発することにより、送風空気を冷却する。ここで、上述の圧縮機11の電磁クラッチ11aの通電の断続により、圧縮機11の作動の断続制御することで、蒸発器9の温度を制御することができる。
【0027】
一方、室内空調ユニット1において、蒸発器9の下流側にはケース2内を流れる空気を加熱するヒータコア15を配置している。このヒータコア15は車両エンジンの温水(エンジン冷却水)を熱源として、蒸発器9通過後の空気(冷風)を加熱する暖房用熱交換器である。ヒータコア15の側方にはバイパス通路16が形成され、このバイパス通路16をヒータコア15のバイパス空気が流れる。
【0028】
蒸発器9とヒータコア15との間に温度調整手段をなすエアミックスドア17を回転自在に配置してある。このエアミックスドア17はサーボモータ18により駆動されて、その回転位置(開度)が連続的に調整可能になっている。
【0029】
このエアミックスドア17の開度によりヒータコア15を通る空気量(温風量)と、バイパス通路16を通過してヒータコア15をバイパスする空気量(冷風量)との割合を調節し、これにより、車室内に吹き出す空気の温度を調整するようになっている。
【0030】
ケース2の空気通路の最下流部には、車両の前面窓ガラスWに向けて空調風を吹き出すためのデフロスタ吹出口19、乗員の顔部に向けて空調風を吹き出すためのフェイス吹出口20、および乗員の足元部に向けて空調風を吹き出すためのフット吹出口21の計3種類の吹出口が設けられている。
【0031】
これら吹出口19〜21の上流部にはデフロスタドア22、フェイスドア23およびフットドア24が回転自在に配置されている。これらのドア22〜24は、図示しないリンク機構を介して共通のサーボモータ25によって開閉操作される。
【0032】
次に、本実施形態の電気制御部の概要を説明すると、空調制御装置(A/C ECU)30は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。この空調制御装置30は、そのROM内に空調制御のための制御プログラムを記憶しており、その制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行う。
【0033】
空調制御装置30の入力側にはセンサ群31〜35からセンサ検出信号が入力され、また、車室内前部の計器盤(図示せず)付近に配置される空調パネル36から各種操作信号が入力される。
【0034】
センサ群としては、具体的には、外気温(車室外温度)Tamを検出する外気センサ31、内気温(車室内温度)Trを検出する内気センサ32、車室内に入射する日射量Tsを検出する日射センサ33、蒸発器9の空気吹出部直後に配置されて蒸発器吹出空気温度TEを検出する蒸発器温度センサ34、ヒータコア15に流入する温水(エンジン冷却水)温度Twを検出する水温センサ35等が設けられる。
【0035】
また、空調パネル36には各種操作スイッチとして、車室内温度を設定する温度設定スイッチ37、吹出モードドア22〜24により切り替わる吹出モードをマニュアル設定する吹出モードスイッチ38、内外気切替ドア6による内気モードと外気モードをマニュアル設定する内外気切替スイッチ39、圧縮機11の作動指令信号(電磁クラッチ11aのON信号)を出すエアコンスイッチ40、送風機8の風量切替をマニュアル設定する送風機作動スイッチ41、空調自動制御状態の指令信号を出すオートスイッチ42等が設けられる。
【0036】
空調制御装置30の出力側には、圧縮機11の電磁クラッチ11a、各機器の電気駆動手段をなすサーボモータ7、18、25、送風機8のモータ8b、凝縮器冷却ファン12aのモータ12b等が接続され、これらの機器の作動が空調制御装置30の出力信号により制御される。
【0037】
次に、上記構成において本実施形態の作動を説明する。最初に、室内空調ユニット1の作動の概要を説明すると、送風機8を作動させることにより、内気導入口3または外気導入口4より導入された空気がケース2内を車室内に向かって送風される。また、電磁クラッチ11aに通電して電磁クラッチ11aを接続状態とし、圧縮機11を車両エンジンにて駆動することにより、冷凍サイクル10内を冷媒が循環する。
【0038】
送風機8の送風空気は、先ず蒸発器9を通過して冷却、除湿され、この冷風は次にエアミックスドア17の回転位置(開度)に応じてヒータコア15を通過する流れとバイパス通路16を通過する流れとに分けられる。ヒータコア15を通過する流れは加熱されて温風となり、バイパス通路16を通過する流れは冷風のままである。
【0039】
従って、エアミックスドア17の開度によりヒータコア15を通る空気量(温風量)と、バイパス通路16を通過する空気量(冷風量)との割合を調節し、これにより、車室内に吹き出す空気の温度を調節できる。そして、この温度調節された空調風が、ケース2の空気通路の最下流部に位置するデフロスタ吹出口19、フェイス吹出口20およびフット吹出口21のうち、いずれか1つまたは複数の吹出口から車室内へ吹き出して、車室内の空調および車両の前面窓ガラスWの曇り止めを行う。
【0040】
ここで、車両用空調装置では、圧縮機11の電磁クラッチ11aの通電ON/OFFによって圧縮機11のフロスト防止制御を行なっている。圧縮機11のフロスト防止制御では、蒸発器温度センサ34で検出された蒸発器9の吹出空気温度TE(以下、蒸発器検出温度という)がオフ側目標温度(第1設定温度)TEOまで低下すると、圧縮機11を停止(電磁クラッチ11aの通電OFF)している。
【0041】
また、オフ側目標温度TEOに所定のヒステリシス幅(例えば1℃)を加えたオン側目標温度(第2設定温度)より高くなると、圧縮機11の作動を再開(電磁クラッチ11aの通電ON)するようにしている。このような圧縮機11のフロスト防止制御により蒸発器9の温度を調整することで、蒸発器9のフロスト発生を抑制している。
【0042】
ところが、圧縮機11の作動を停止する条件であるオフ側目標温度TEOを、予め設定された基準温度(例えば1.5℃)に固定すると、蒸発器9の冷房熱負荷状態によっては、蒸発器9にフロストが発生するといった課題がある。
【0043】
この対策として、圧縮機11の作動再開後の蒸発器検出温度の温度変化に応じてオフ側目標温度を高くすると、蒸発器9の冷房熱負荷が高い状態では、圧縮機11の停止時間の長時間となり、車室内乗員の空調フィーリングが悪化するといった課題がある。
【0044】
そこで、本発明者らは、蒸発器9の冷房熱負荷を変化させた場合における蒸発器検出温度TEの変化、および圧縮機11の挙動の変化を調査した。具体的には、冬季等のように蒸発器9の冷房熱負荷が低い低熱負荷状態と、夏季等のように蒸発器9の冷房熱負荷が高い高熱負荷状態とを想定して、蒸発器9の吸込み側の空気温度を低温(例えば10℃)と高温(例えば30℃)にして調査を行なった。
【0045】
この調査結果を図2、図3に基づいて説明する。ここで、図2は、蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態である場合(蒸発器9の吸込み側の空気温度を低温にした場合)の蒸発器検出温度の変化、および圧縮機11の挙動を示している。図3は、蒸発器9の冷房熱負荷が高熱負荷状態である場合(蒸発器9の吸込み側の空気温度を高温に設定した場合)の蒸発器検出温度の変化、および圧縮機11の挙動を示している。
【0046】
調査結果によれば、図2に示すように、蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態である場合には、圧縮機11の作動再開後の蒸発器検出温度TEの単位時間当たりの温度変化率が大きい傾向、すなわち蒸発器9の冷却速度が速い傾向となっている。
【0047】
また、圧縮機11の挙動は、圧縮機11の作動停止から、作動再開を経て、再度作動停止するまでを1回の制御サイクル(1サイクル)とした場合に、1サイクル当たりの圧縮機11の停止時間が作動時間よりも長い傾向となっている。
【0048】
つまり、蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態である場合には、蒸発器検出温度TEがオフ側目標温度TEO以下となる時間が長く、蒸発器9の冷却速度も速いことから、圧縮機11の停止後の応答遅れ等により蒸発器9にフロストが発生し易い状態となっている。なお、蒸発器9の冷房熱負荷の低熱負荷状態が、本発明における蒸発器9の冷房熱負荷の第1状態に相当している。
【0049】
一方、図3に示すように、蒸発器9の冷房熱負荷が高熱負荷状態である場合には、圧縮機11の作動再開後の蒸発器検出温度TEの温度変化率が、低熱負荷状態である場合に比べて小さい傾向、すなわち蒸発器9の冷却速度が遅い傾向となっている。
【0050】
また、圧縮機11の挙動は、1サイクル当たりの圧縮機11の作動時間が停止時間よりも長い傾向となっている。さらに、圧縮機11の停止後の蒸発器検出温度TEの昇温速度が、低熱負荷状態である場合に比べて速い傾向となっている。
【0051】
つまり、蒸発器9の冷房熱負荷が高熱負荷状態である場合には、蒸発器検出温度TEがオフ側目標温度TEOより高い温度となる時間が長く、蒸発器9の冷却速度も遅いことから、蒸発器9にフロストが発生し難い状態となっている。なお、蒸発器9の冷房熱負荷の高熱負荷状態が、本発明における蒸発器9の冷房熱負荷の第2状態に相当している。
【0052】
ここで、調査結果の傾向に従えば、蒸発器9の冷房熱負荷の低熱負荷状態と高熱負荷状態は、圧縮機11の作動再開後の蒸発器9の冷却速度および1サイクルにおける圧縮機11の挙動によって判別可能と予想される。
【0053】
本発明者らは、この調査結果による蒸発器9の冷房熱負荷の判別予想の有効性を確かめるために、蒸発器9の吸込み側の空気温度を10℃〜35℃の間で変化させた場合の蒸発器9の冷却速度、および1サイクルにおける圧縮機11の挙動を検証した。
【0054】
この検証結果を図4、図5に基づいて説明する。ここで、図4は、蒸発器9の吸込み側の各空気温度における蒸発器検出温度TEの最大値と蒸発器9の冷却速度との関係を示している。図5は、蒸発器9の吸込み側の各空気温度における蒸発器検出温度TEの最大値と圧縮機11のON/OFF比との関係を示している。なお、圧縮機11のON/OFF比は、圧縮機11の作動停止から、作動再開を経て、再度作動停止するまでを1サイクルとした場合の作動時間と停止時間の比を示している。
【0055】
検証結果によれば、図4に示すように、蒸発器9の吸込み側の空気温度が約10℃〜20℃となる低温領域(低熱負荷状態)の冷却速度と、蒸発器9の吸込み側の空気温度が約25℃〜35℃となる高温領域(高熱負荷状態)の冷却速度とが混在する領域(図4の混在領域)がある。
【0056】
つまり、この混在領域においては、蒸発器9の冷房熱負荷が、蒸発器9にフロストが発生し易い低熱負荷状態であるのか、蒸発器9にフロストが発生し難い高熱負荷状態であるのかを推定すること困難となっている。
【0057】
一方、図5に示すように、蒸発器9の吸込み側の空気温度が低温領域(低熱負荷状態)である場合には、圧縮機11のON/OFF比が小さい傾向(図5では約0.3以下)となっている。
【0058】
また、蒸発器9の吸い込み側の空気温度が高温領域(高熱負荷状態)である場合には、圧縮機11のON/OFF比が大きい傾向(図5では約2以上)となっている。なお、蒸発器9の吸い込み側の空気温度が約20℃〜25℃となる中間領域(中間熱負荷状態)である場合には、圧縮機11のON/OFF比が中間値(図5では約0.3〜2)となっている。
【0059】
つまり、蒸発器9にフロストが発生し易い低熱負荷状態では、圧縮機11のON/OFF比が、中間熱負荷状態の圧縮機11のON/OFF比を挟んで、蒸発器9にフロストが発生し難い高熱負荷状態の圧縮機11のON/OFF比よりも小さい値となっている。
【0060】
従って、蒸発器9の冷房熱負荷状態は、圧縮機11の挙動(例えば、ON/OFF比)によって推定することが可能といえる。そして、圧縮機11の制御において、圧縮機11の挙動に応じて、蒸発器9の冷房熱負荷状態を推定することで、推定した冷房熱負荷状態に応じて圧縮機11の停止条件であるオフ側目標温度TEOを適切な値に設定可能となる。
【0061】
次に、本実施形態の圧縮機制御の流れを図6に基づいて説明する。図6は空調制御装置30のマイクロコンピュータにより実行される圧縮機制御のフローチャートである。
【0062】
圧縮機11の制御は、車両エンジンのイグニッションスイッチの投入状態においてオートスイッチ42が投入され、各種カウンタやフラグ等を初期化、センサ群30〜35の検出信号、空調パネル36からの各種操作信号等を読み込み後にスタートする。
【0063】
圧縮機11の制御がスタートすると、先ず、ステップS10にて圧縮機11の電磁クラッチ11aを通電ONして圧縮機11の作動を開始する。
【0064】
そして、ステップS20にて、蒸発器温度センサ34の検出値である蒸発器検出温度TEが、基準温度を下回っているか否かを判定する。ここで、基準温度は、経験上、蒸発器9にフロストが発生し難いと判断される温度(例えば、1.5℃)に設定され、空調制御装置30のROM等に予め記憶されている。なお、蒸発器検出温度TEは、蒸発器温度センサ34にて周期的に検出されている。
【0065】
ステップS20にて蒸発器検出温度TEが、基準温度を下回っていると判定された場合に、ステップS30に進み、圧縮機11のフロスト防止制御を行なう。なお、本実施形態におけるステップ30の制御処理が、本発明のフロスト防止手段に相当している。
【0066】
圧縮機11のフロスト防止制御では、上述のように蒸発器検出温度TEがオフ側目標温度TEOまで低下すると、圧縮機11の作動を停止する。圧縮機11の作動停止後、蒸発器検出温度TEがオフ側目標温度TEOに所定のヒステリシス幅(例えば、1℃)を加えたオン側目標温度(TEO+1℃)より高くなると、圧縮機11を再起動するようにしている。なお、オフ側目標温度TEOは、初期値として基準温度が設定されている。
【0067】
そして、ステップS30で圧縮機11のフロスト防止制御を実施した後、ステップS40にてフロスト防止制御における圧縮機11の挙動が1回の制御サイクル(1サイクル)を経過したか否かを判定する。ここで、圧縮機11の制御サイクルは、上述のように圧縮機11の作動停止から、圧縮機11の作動再開を経て、再度作動停止するまでの1回としている。
【0068】
ステップS40にて圧縮機11の挙動が1サイクルを経過したと判定された場合には、ステップS50圧縮機11の稼働率φを算出する。なお、本実施形態におけるステップS50の処理が、本発明の稼働率算出手段に相当している。
【0069】
この圧縮機11の稼働率φの算出は、1サイクルに要した時間における圧縮機11の作動時間ON-timeの占める割合(圧縮機作動割合)であり、下記数式F1にて算出している。
φ=ON-time(n)/(ON-time(n)+OFF-time(n))…(F1)
但し、OFF-timeは1サイクルにおける圧縮機11の停止時間、nは制御サンプリングである。なお、圧縮機11の稼働率φは、圧縮機のON/OFF比と対応するものであり、圧縮機11の稼働率φによっても蒸発器9の冷房熱負荷を推定することが可能である。
【0070】
次に、ステップS60にて、圧縮機11の作動再開後の蒸発器9の冷却速度Kを算出する。なお、本実施形態におけるステップS60の処理が、本発明の冷却速度算出手段に相当している。
【0071】
蒸発器9の冷却速度Kは、図7に示すように、1サイクル中の圧縮機11の作動再開(作動開始)から作動停止までの作動期間における蒸発器検出温度TEの温度変化率である。具体的には、蒸発器9の冷却速度Kは、蒸発器検出温度TEの最大値TEmaxと最小値TEmin、および作動時間に基づいて、下記数式F2にて算出している。
K=(TEmax(n)−TEmin(n))/ON-time(n)…(F2)
但し、TEmaxは1サイクル中の圧縮機11の作動期間における蒸発器検出温度TEの最大値、TEminは1サイクル中の圧縮機11の作動期間における蒸発器検出温度TEの最小値である。なお、図7は、蒸発器9の冷却速度の算出方法を説明する説明図であり、蒸発器9の冷却速度は、蒸発器9の温度変化の傾きに相当している。
【0072】
次に、ステップS70にて、稼働率φが第1基準値以下であるか否かを判定する。この第1基準値は、圧縮機11の挙動(稼働率)における蒸発器9の冷房熱負荷の低熱負荷状態と中間熱負荷状態との境界値に設定されており、例えば、図5のON/OFF比0.3に相当する0.25に設定することができる。なお、第1基準値は、予め空調制御装置30のROM等に記憶されている。
【0073】
ステップS70にて圧縮機11の稼働率φが第1基準値以下である場合は、蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態であると推定することができる。そのため、ステップS80にて、蒸発器9の冷房熱負荷が低負荷状態の場合における圧縮機11の停止条件である第1オフ側目標温度TEO1を算出する。
【0074】
ステップS80では、図8(a)に示す制御マップに基づいて第1オフ側目標温度TEO1を算出する。図8(a)は、蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態である場合の蒸発器9の冷却速度と第1オフ側目標温度TEO1との対応関係を定めた制御特性図である。
【0075】
ここで、上述のように蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態であって、蒸発器9の冷却速度が速い場合は、他の状況と比較して蒸発器9にフロストが発生し易い状況となる。そのため、本実施形態では、第1オフ側目標温度TEO1は、蒸発器9の冷却速度が第1基準速度を上回った場合に、冷却速度の向上に比例して基準温度(例えば1.5℃)から徐々に昇温させた温度に設定している。
【0076】
この第1基準速度は、例えば、実験等によって算出され、予め空調制御装置30のROM等に記憶されている。なお、第1オフ側目標温度TEO1が高温となり過ぎるのを防止するため、第1オフ側目標温度TEO1に上限温度(例えば4.5℃)を設けている。
【0077】
そして、ステップS90にて、ステップS80で算出した第1オフ側目標温度TEO1をオフ側目標温度TEOに設定して、ステップS30の圧縮機11のフロスト防止制御に戻る。
【0078】
このように、冬季等のように蒸発器9が低熱負荷状態となる場合であって蒸発器9の冷却速度が速い場合、オフ側目標温度TEOを予め設定された基準温度より高温に設定することで、蒸発器9のフロスト発生をより確実に防止することができる。なお、蒸発器9の冷房熱負荷が低負荷状態である場合には、冷房能力が過剰気味であるため、圧縮機11の停止による乗員の空調フィーリングの悪化は生じ難い。
【0079】
ステップS70にて圧縮機11の稼働率φが第1基準値より大きい場合は、ステップS100に進み、圧縮機11の稼働率φが第2基準値を上回っているか否かを判定する。この第2基準値は、圧縮機11の挙動(稼働率)における蒸発器9の冷房熱負荷の中間熱負荷状態と高熱負荷状態との境界値に設定されており、例えば、図5のON/OFF比2に相当する0.75に設定することができる。なお、第2基準値は、予め空調制御装置30のROM等に記憶されている。
【0080】
ステップS100にて圧縮機11の稼働率φが第2基準値よりも大きい場合は、蒸発器9の冷房熱負荷が高熱負荷状態であると推定することができる。そのため、ステップS110にて、蒸発器9の冷房熱負荷が高熱負荷状態の場合における圧縮機11の停止条件である第2オフ側目標温度TEO2を算出する。
【0081】
ステップS110では、図8(b)に示す制御マップに基づいて第2オフ側目標温度TEO2を算出する。図8(b)は、蒸発器9の冷房熱負荷が高熱負荷状態である場合の蒸発器9の冷却速度と第2オフ側目標温度TEO2との対応関係を定めた制御特性図である。
【0082】
上述のように、蒸発器9の冷房熱負荷が高熱負荷状態であって蒸発器9の冷却速度が遅い場合には、他の状況と比較して蒸発器9にフロストが発生し難い状況となる。そのため、第2オフ側目標温度TEO2は、蒸発器9の冷却速度が第2基準速度を下回った場合に、冷却速度の低下に比例して基準温度から徐々に降温させた温度に設定している。
【0083】
この第2基準速度は、例えば、実験等によって算出され、予め空調制御装置30のROM等に記憶されている。なお、第2オフ側目標温度TEO2が低温となり過ぎるのを防止するため、第2オフ側目標温度TEO2に下限温度(例えば0.5℃)を設けている。
【0084】
そして、ステップS120にて、ステップS110で算出した第2オフ側目標温度TEO2をオフ側目標温度TEOに設定して、ステップS30の圧縮機11のフロスト防止制御に戻る。
【0085】
このように、夏季等のように蒸発器9が高熱負荷状態となる場合であって蒸発器9の冷却速度が遅い場合、オフ側目標温度TEOを基準温度より低温に設定することで、圧縮機11の作動継続時間を長くすることができる。従って、圧縮機11の作動停止による乗員の空調フィーリング悪化をより効果的に抑制することができる。なお、蒸発器9の冷房熱負荷が高負荷状態である場合には、蒸発器9の吸込み側の空気温度が高く冷房能力が不足気味であるため蒸発器9にフロストが生じ難い。
【0086】
また、ステップS100にて圧縮機11の稼働率φが第2基準値以下、つまり圧縮機11の稼働率φが第1基準値〜第2基準値の範囲にある場合には、春季・秋季等のように蒸発器9の冷房熱負荷が比較的安定する中間熱負荷状態であると推定することができる。そのため、ステップS120にて、蒸発器9の冷房熱負荷が中間熱負荷状態の場合における圧縮機11の停止条件である第3オフ側目標温度TEO3を算出する。
【0087】
ステップS120では、図8(c)に示す制御マップに基づいて第3オフ側目標温度TEO3を算出する。図8(c)は、蒸発器9の冷房熱負荷が中間熱負荷状態である場合の蒸発器9の冷却速度と第3オフ側目標温度TEO3との対応関係を定めた制御特性図である。
【0088】
ここで、中間熱負荷状態では、蒸発器9にフロストが発生し易いこともなく、蒸発器9の冷房熱負荷も比較的安定しているため、第3オフ側目標温度TEO3は、蒸発器9の冷却速度に関係なく基準温度としている。なお、蒸発器9の冷却速度が比較的速い場合等には、第3オフ側目標温度TEO3を多少昇温させる等してもよい。
【0089】
そして、ステップS140にて、ステップS130で算出した第3オフ側目標温度TEO3をオフ側目標温度TEOに設定して、ステップS30の圧縮機11のフロスト防止制御に戻る。
【0090】
なお、本実施形態におけるステップS70およびステップS100の判定処理が、本発明の冷房熱負荷推定手段に相当し、ステップS80、ステップS110およびステップS130の処理が、本発明のオフ側目標温度(第1設定温度)を設定する温度設定手段に相当している。
【0091】
以上説明したように、本実施形態の圧縮機11のフロスト防止制御では、圧縮機11の稼動率により推定した冷房熱負荷状態に応じてオフ側目標温度を変化させることで、蒸発器9のフロスト発生防止と乗員の空調フィーリング悪化の抑制を両立させることができる。
【0092】
さらに、本実施形態では、蒸発器9の各冷房熱負荷状態における蒸発器9の冷却速度に応じてオフ側目標温度を変化させており、蒸発器9のフロスト発生を確実に防止することができるとともに、乗員の空調フィーリング悪化をより効果的に抑制することができる。
【0093】
ここで、本実施形態の圧縮機11のフロスト防止制御によれば、以下の副次的な効果を奏することができる。例えば、蒸発器9のフロスト発生防止することで、蒸発器表面に付着した水分のフロストに伴う異臭発生を防止することができる。また、蒸発器9の冷房熱負荷が高熱負荷状態である場合に、圧縮機11の作動停止時の蒸発器9の急激な昇温による水分(蒸発器表面に付着した水分)の蒸発に伴う異臭発生を抑制することができる。
【0094】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。上記第1実施形態と同様または均等な部分について同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0095】
上述の第1実施形態では、圧縮機11の稼働率に基づいて蒸発器9の冷房熱負荷状態を推定し、推定した冷房熱負荷状態における蒸発器9の冷却速度に応じて圧縮機11の作動停止条件であるオフ側目標温度TEOを変更している。
【0096】
本実施形態では、圧縮機11の稼働率に基づいて蒸発器9の冷房熱負荷状態を推定し、推定した冷房熱負荷状態応じて圧縮機11の作動停止条件であるオフ側目標温度TEOを変更する。具体的に本実施形態では、第1実施形態で説明した図6におけるステップS80、ステップS110の処理が異なっている。
【0097】
本実施形態では、図6におけるステップS80において、蒸発器9の冷却速度に関わらず、第1オフ側目標温度TEO1を上限値(例えば4.5℃)に設定する。これにより、蒸発器9にフロストが発生し易い蒸発器9の低熱負荷状態において、蒸発器9のフロスト発生を防止することができる。
【0098】
また、図6におけるステップS110において、蒸発器9の冷却速度に関わらず、第2オフ側目標温度TEO1を下限値(例えば0.5℃)に設定する。これにより、蒸発器9にフロストが発生し難い蒸発器9の高熱負荷状態において、圧縮機11の作動停止による乗員の空調フィーリング悪化を抑制することができる。
【0099】
従って、本実施形態の圧縮機11のフロスト防止制御によっても、蒸発器9のフロスト発生防止と車室内乗員の空調フィーリング悪化の抑制とを両立させることができる。
【0100】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、以下のように種々変形可能である。
【0101】
(1)上述の各実施形態では、1サイクルに要した時間における圧縮機作動割合を圧縮機11の稼働率φとしているが(数式F1参照)、これに限定されない。例えば、1サイクルに要した時間における圧縮機作動割合を複数サイクル分算出して、複数サイクル分の圧縮機作動割合の平均値を圧縮機11の稼働率としてもよい。例えば、mサイクル分の圧縮機作動割合の平均値を圧縮機11の稼働率φ(n)として算出する場合には、下記数式F3にて算出すればよい。
φ={φ(n)+φ(n−1)+…+φ(n−m+1)}/m…(F3)
(2)上述の第1実施形態では、1サイクル中の圧縮機11の作動期間における蒸発器検出温度TEの温度変化率を蒸発器9の冷却速度としているが(数式F2参照)、これに限定されない。例えば、1サイクル中の圧縮機11の作動期間における蒸発器検出温度TEの温度変化率を複数サイクル分算出して、複数サイクル分の蒸発器検出温度TEの温度変化率の平均値を蒸発器9の冷却速度としてもよい。例えば、mサイクル分の蒸発器検出温度TEの温度変化率の平均値を蒸発器9の冷却速度K(n)として算出する場合には、下記数式F4にて算出すればよい。
K={K(n)+K(n−1)+…+K(n−m+1)}/m…(F4)
(3)上述の第1実施形態では、ステップS80、ステップ110において、蒸発器9の冷却速度と第1、第2オフ側目標温度との関係を定めた各制御マップによって第1、第2オフ側目標温度TEOを算出しているが、これに限定されない。第1、第2オフ側目標温度TEOは、例えば、実験結果等によって蒸発器9の冷却速度と第1、第2オフ側目標温度との関係を規定した数式によって算出してもよい。
【0102】
また、第1オフ側目標温度は、所定条件を満たした場合に蒸発器9の冷却速度の向上に比例して昇温させ、第2オフ側目標温度は、所定条件を満たした場合に蒸発器9の冷却速度の低下に比例して降温させているが、これに限定されない。例えば、第1オフ側目標温度は、所定条件を満たした場合に蒸発器9の冷却速度に応じて段階的に昇温させ、第2オフ側目標温度は、所定条件を満たした場合に蒸発器9の冷却速度に応じて段階的に降温させてもよい。
【0103】
(4)上述の各実施形態では、圧縮機11の稼働率で蒸発器9の冷房熱負荷状態を推定しているが、圧縮機11の稼働率に加え、車両情報(エンジン回転数等)や車両用空調装置の運転状態(内気温、外気温、日射量、圧縮機回転数等)を考慮して推定してもよい。
【0104】
例えば、圧縮機11の回転数が高回転の場合には、圧縮機11の冷媒圧縮能力が高くなるため、蒸発器9にフロストが発生し易い状態となる。そこで、例えば、蒸発器9の低熱負荷状態の推定する際の判定(ステップS70)を、圧縮機11の稼働率が第1基準値以下であって圧縮機回転数が所定回転数以上である場合に、蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態と推定し、オフ側目標温度を高温に設定してもよい。
【0105】
また、外気温が低温である場合には、凝縮器12の冷却能力が高くなるため、蒸発器9にフロストが発生し易い状態となる。そこで、例えば、蒸発器9の低熱負荷状態の推定する際の判定を、圧縮機11の稼働率が第1基準値以下であって外気温が所定温度以下である場合に、蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態であると推定してもよい。
【0106】
また、送風機8による蒸発器9への空気の送風量が少ない場合であって、蒸発器9の冷却速度が速い場合には、蒸発器9にフロストが発生し易い状態となる。そこで、例えば、蒸発器9の低熱負荷状態の推定する際の判定を、圧縮機11の稼働率が第1基準値以下、送風機8の送風量が所定風量以下、および蒸発器9の冷却速度が第1基準速度以上である場合に、蒸発器9の冷房熱負荷が低熱負荷状態であると推定してもよい。
【0107】
ここで、蒸発器9の冷房熱負荷を推定する際の判定条件は、圧縮機11の稼働率に加えて、上記蒸発器9の冷却速度、圧縮機11の回転数、外気温、送風機8の送風量等の条件を種々組合せた条件としてもよい。なお、蒸発器9が低熱負荷状態である場合について説明したが、低熱負荷状態と推定されない場合の条件に応じて、蒸発器9が高熱負荷状態である場合の条件を設定して蒸発器9の冷房熱負荷状態を推定してもよい。
【0108】
(5)上述の各実施形態では、蒸発器温度センサ34を蒸発器9の空気吹出部直後に配置して蒸発器吹出温度を検出しているが、蒸発器温度センサ34を蒸発器9の表面に配置して蒸発器表面温度を検出してもよい。
【0109】
(6)上述の各実施形態では、圧縮機11として固定容量型圧縮機を採用した例について説明したが、これに限定されない。圧縮機11としては、例えば、圧縮機11の吐出容量を変更可能な可変容量型圧縮機や、電動モータによって駆動される圧縮機構を備える電動圧縮機を採用することができる。なお、電磁クラッチが設けられていない可変容量型圧縮機を採用する場合には、蒸発器検出温度TEがオフ側目標温度TEO以下となった際に、圧縮機11の吐出容量を実質的にゼロにする制御を行なえばよい。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】実施形態に係る車両用空調装置の全体システム構成図である。
【図2】冷房熱負荷が低熱負荷状態である場合の蒸発器検出温度と圧縮機の挙動を説明する説明図である。
【図3】冷房熱負荷が高熱負荷状態である場合の蒸発器検出温度と圧縮機の挙動を説明する説明図である。
【図4】冷房熱負荷状態と蒸発器の冷却速度との関係を説明する説明図である。
【図5】冷房熱負荷状態と圧縮機の挙動との関係を説明する説明図である。
【図6】実施形態に係る圧縮機制御の流れを示すフローチャ−トである。
【図7】蒸発器の冷却速度の算出方法を説明するための説明図である。
【図8】蒸発器の冷却速度と各オフ側目標温度との対応関係を定めた制御特性図である。
【符号の説明】
【0111】
9 蒸発器
10 冷凍サイクル
11 圧縮機
30 空調制御装置
34 蒸発器温度センサ(蒸発器温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機(11)から吐出された冷媒を蒸発器(9)内で蒸発させて車室内に吹き出す空気を冷却する冷凍サイクル(10)と、
前記蒸発器(9)の吹出空気温度または蒸発器表面温度を検出する蒸発器温度検出手段(34)と、
前記蒸発器温度検出手段(34)で検出された検出値が、予め設定された基準温度に初期設定された第1設定温度を下回ると前記圧縮機(11)の作動を停止するとともに、前記第1設定温度よりも高温に設定された第2所定温度を上回ると圧縮機(11)の作動を再開する制御を実行するフロスト防止制御手段と、
前記第1設定温度を設定する温度設定手段と、
前記フロスト防止制御手段によって前記圧縮機(11)の作動が制御されている際の前記圧縮機(11)の停止時間、および前記圧縮機(11)の作動時間に基づいて前記圧縮機(11)の稼動率を算出する稼働率算出手段と、
前記稼働率算出手段で算出された前記稼働率に基づいて、前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態を推定する冷房熱負荷推定手段とを備え、
前記温度設定手段は、前記冷房熱負荷推定手段によって前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が前記蒸発器(9)にフロストが発生し易い第1状態と推定された場合に、前記第1設定温度を前記基準温度よりも高い温度に設定し、前記冷房熱負荷推定手段によって前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が前記蒸発器(9)にフロストが発生し難い第2状態と推定された場合に、前記第1設定温度を前記基準温度よりも低い温度に設定することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記圧縮機(11)の作動開始から停止までの作動期間における前記蒸発器温度検出手段(34)の検出値の最大値と最小値との温度偏差、および前記作動期間における前記圧縮機(11)の作動時間に基づいて前記蒸発器(9)の冷却速度を算出する冷却速度算出手段()を備え、
前記温度設定手段は、
前記冷房熱負荷推定手段によって前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が前記第1状態と推定され、かつ、前記冷却速度算出手段で算出した前記冷却速度が予め設定された第1基準速度よりも速い場合に、前記第1基準速度よりも遅い場合に比べて前記第1設定温度を高い温度に設定し、
前記冷房熱負荷推定手段によって前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が前記第2状態と推定され、かつ、前記冷却速度算出手段で算出した前記冷却速度が予め設定された第2基準速度よりも遅い場合に、前記第2基準速度よりも速い場合に比べて前記第1設定温度を低い温度に設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記冷房熱負荷推定手段は、
前記稼働率が予め設定された第1基準値を下回った場合に前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が前記第1状態と推定し、
前記稼働率が前記第1基準値に比べて高い値に設定された第2基準値を上回った場合に前記蒸発器(9)の冷房熱負荷状態が前記第2状態と推定することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記圧縮機(11)の作動停止から、作動再開を経て、再度作動停止するまでの期間を1サイクルとした場合に、前記稼働率算出手段は、前記1サイクルに要した時間のうち前記圧縮機(11)の作動時間の占める圧縮機作動割合を前記稼働率として算出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記圧縮機(11)の作動停止から、作動再開を経て、再度作動停止するまでの期間を1サイクルとした場合に、前記稼働率算出手段は、前記1サイクルに要した時間のうち前記圧縮機(11)の作動時間の占める圧縮機作動割合を複数サイクル分算出し、算出した複数サイクル分の圧縮機作動割合の平均値を前記稼働率として算出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−105466(P2010−105466A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277772(P2008−277772)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】