車両用空調装置
【課題】 車両に主空調装置とシート空調装置とが併設されるとともに、主空調装置とシート空調装置との出力バランスを主空調装置の空調風の吹出方向を考慮して適正化できる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】 車両に主空調装置CAとシート空調装置50とを併設し、かつ、主空調装置CAの主空調風の風向を風向検出手段61,62により検出するとともに、検出される主空調風の風向に応じて、主空調装置CAの空調出力とシート空調装置50の空調出力との空調出力比が変化するように、主空調装置CA及びシート空調装置50の少なくともいずれかの動作を調整制御する。
【解決手段】 車両に主空調装置CAとシート空調装置50とを併設し、かつ、主空調装置CAの主空調風の風向を風向検出手段61,62により検出するとともに、検出される主空調風の風向に応じて、主空調装置CAの空調出力とシート空調装置50の空調出力との空調出力比が変化するように、主空調装置CA及びシート空調装置50の少なくともいずれかの動作を調整制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特許第3301109号公報
【特許文献2】特開2006−123874号公報
【0003】
自動車の車室内空間は、一般住居等に比較すると空間容積が小さく、また、窓を閉めきると密閉空間となり、例えば、ガラス越しに漏入する熱線により駐車中の車内温度は夏季には異常に上昇する。しかし、一般の自動車用空調装置は集中型であり、車室内の空間全体の空気温度を下げるべく設計されているので、どうしても温度調節に時間がかかる問題がある。そこで、特許文献1及び特許文献2には、シート内に局所空調装置を組み込み、ヘッドレストや手すり等に設けた吹出し口から冷風を吹き出すことで、車室内を分散空調する方式が提案されている。
【0004】
ところで、自動車等においては、車室内空間を包括的に空調する主空調装置(例えば、オートエアコン)が設けられるのが一般的である(例えば、特許文献2)。従来、こうした主空調装置とともにシート空調装置を設ける場合、温度設定も含め独立に動作制御されることが多かった。また、主空調装置は、内気温度(車室内温度)、外気温度、日射量等で決まる車両熱負荷が大きいほど、目標吹出温度(TAO)を冷房時では低く暖房時では高くするように作動制御するTAO制御方式が広く用いられているが、特許文献2では、主空調装置側から、算出されたTAO値を通信取得する形でシート空調装置の制御が実行されている。この方式では、当然のことながら、車両熱負荷に応じてシート空調装置も主空調装置に同調してTAOを高くするよう作動制御されるので、車両熱負荷が増加して主空調装置の出力が大きくなればシート空調装置の出力も大きくなり、逆に車両熱負荷が減少して主空調装置の出力が小さくなればシート空調装置の出力も小さくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、主空調装置は、例えば自動車のインパネに開口する吹出口から空調風を噴き出す構造になっているが、この吹出口からの空調風が直接当たることを嫌うユーザーが、例えば女性や年配者等のユーザーの中に多く見出される。特に、冷え性の女性等にあっては、外気温が相当高くなる夏季においても冷房風が体に直接当たると不調を感じやすく特に、車両熱負荷が大きくなる真夏等では目標吹出温度はかなり低くなり、低温の冷房風が大風量で吹き出す形になるので、これを体に直接当てたときの不快感は特に大きくなる。このようなユーザーは、例えば吹出口に取り付けられたルーバを操作して風向を変え、冷房風が体に直接当たらないようにする行動をとることになるが、冷房風が体に当たらなくなると、体から離れた位置での気流循環により車室内温度が自然に適温に到達するのを待つほかなくなり、逆に熱暑による不快感が大きくなるジレンマがある。特許文献2においては、主空調装置の空調風の風向とは無関係に、車両熱負荷が増加したとき、シート空調装置は主空調装置に同調して空調出力を増加させるだけであり、次のような問題を生ずる(同様の事情は暖房時にも当てはまる)。
【0006】
(1)主空調装置が低温の冷房風を大風量で吹き出す状態になっているとき、その冷房風がユーザーに直接当たる状態になっていると、それだけで十分に涼しくなり、シート空調装置側は出力増加により過剰冷房となって、かえって不快を感じる場合がある。また、シート空調装置の出力が過剰になる分、無駄なエネルギーが消費されることにつながる。
(2)冷房風がユーザーに直接当たらないように風向が操作された場合も、主空調装置はユーザーのいない向きに低温・大風量の冷房風の吹出を継続するので、同様に無駄なエネルギーが消費されることにつながる。
【0007】
本発明の課題は、車両に主空調装置とシート空調装置とが併設されるとともに、主空調装置とシート空調装置との出力バランスを主空調装置の空調風の吹出方向を考慮して適正化でき、ひいては空調風の吹出方向によらず快適な空調環境を創出でき、かつ、車両全体の空調効率を高めることができる車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車両用空調装置は、
シート以外の車室内構造物に吹出口を有し、車室内空間を包括的に空調する主空調装置と、
シートに設けられ、当該シートに着座する乗員に対する個別空調を行なうシート空調装置と、
シートに着座する乗員の操作に基づいて、主空調装置の吹出口からの主空調風の風向を変更する主空調風吹出方向変更手段と、
主空調風の風向を検出する吹出方向検出手段と、
検出される主空調風の風向に応じて、主空調装置の空調出力とシート空調装置の空調出力との空調出力比が変化するように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する空調制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
上記本発明の空調装置の構成によると、車両に主空調装置とシート空調装置とが併設され、かつ、主空調装置の主空調風の風向を検出するとともに、検出される主空調風の風向に応じて、主空調装置の空調出力とシート空調装置の空調出力との空調出力比が変化するように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御するようにしたので、シート空調装置との出力バランスを主空調装置の空調風の吹出方向を考慮して適正化することができる。その結果、空調風の吹出方向によらず快適な空調環境を創出でき、かつ、車両全体の空調効率を高めることができる。
【0010】
空調制御手段は、主空調風の風向が、シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御することができる。シートに着座する乗員を直接見込む向きに主空調風が吹き出されていると、乗員に主空調風が直接当たることになる。空調風が直接当たることを嫌う乗員は、主空調風吹出方向変更手段を用いて、自身に当たらない向き(つまり、乗員を直接見込む向きから遠ざかる向き)に主空調風の風向を変更する。これを受けて、空調制御手段は、主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率を大きくする調整制御を行なうので、乗員には主空調風が直接当たらず、かつ、主空調風が不足する分、シート空調の出力が補われるので、より快適な空調状態を実現できる。逆に、空調風が直接当たることを容認する乗員は、自身に当たる向き(つまり、乗員を直接見込む向きに近づく向き)に主空調風の風向を変更する。これを受けて、空調制御手段は、主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率を小さくする調整制御を行なうので、主空調風により十分な空調効果が実現しているにも拘わらず、シート空調の出力が過剰となって不快感を生ずる不具合を効果的に回避できる。また、シート空調装置の出力が抑制されることで、無駄なエネルギー消費を防止することができる。
【0011】
人間の習性として、暑さや寒さ(特に暑さ)を感じるとき、空調風は体全体に吹きかけずとも顔や首筋に向けて吹きかけることで、不快感を相当に軽減することができる。これは、顔や首筋が体温の主要な出入り口の役割を果たしていることとも関係する。つまり、乗員は、暑さ(あるいは寒さ)を強く感じている場合ほど、空調風を顔に向けて吹きかける傾向にあるといえる。シートに着座する乗員の顔位置は乗員の座高や着座姿勢によって変化する。そこで、乗員の顔位置を検出する顔位置検出手段を設け、空調制御手段を、主空調風の風向が、顔位置から遠ざかるほど主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御するようにしておくと、空調風が顔に直接当たることを嫌う乗員と、逆に容認する乗員とのいずれにとっても、主空調装置とシート空調装置との快適で効率のよい連携動作を実現できる。
【0012】
主空調風吹出方向変更手段は、吹出口に対し、乗員操作により角度変更可能に設けられた周知のルーバにて構成できる。ルーバの角度が決まれば主空調風の吹出方向も一義的に定まるので、吹出方向検出手段は、該ルーバの角度検出部として構成することにより、主空調風の吹出方向を容易に特定することができる。なお、主空調風の吹出ダクト(全体もしくは吹出口を含む末端部分)の向きそのものを可変に構成することもでき、この場合は、吹出方向検出手段は、該吹出ダクトの角度を検出する角度検出部として構成すればよい。ただし、この場合も吹出口にルーバ(整流板)が取り付けられていれば、吹出ダクトの角度変更によりルーバの角度も必然的に変更されるので、該吹出ダクト角度検出部をルーバ角度検出部とみなすことができる。
【0013】
上記の構成では、ルーバの角度が、主空調風が乗員に直接吹き付ける所定角度範囲にある場合に、当該所定角度範囲外となる場合よりも主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御するように構成できる。主空調装置ないしシート空調装置を、ルーバの角度に応じて容易にかつ的確に調整制御することができる。なお、上記所定角度範囲内においては、主空調装置とシート空調装置との空調出力比率を、ルーバ角度に応じて可変となるように調整制御してもよいし、ルーバ角度によらず一定となるように調整制御してもどちらでもよい。また、上記所定角度範囲は、例えばユーザーの顔位置を検出し、該顔位置に応じてユーザー毎にカスタマイズするようにしてもよいし、種々のユーザーの平均的な顔位置を見込むように、ユーザーによらず一定に設定するようにしても、いずれでもよい。
【0014】
空調制御手段は、主空調風の風向が、シートに着座する乗員を直接見込む向き(例えば顔を見込む向き)から遠ざかるほどシート空調装置の出力を大きくし、直接見込む向きに近づくほどシート空調装置の出力を小さく設定するように構成することができる。ユーザーが主空調風の風向を自身に直接当たらない向きに変更した場合には、乗員には主空調風が直接当たらず、かつシート空調装置の出力が大きくなるので、より快適な空調状態を実現できる。逆に、自身に直接当たる向きに変更した場合には、主空調風により十分な空調効果が実現している状況では、シート空調装置の出力が小さくなることで、シート空調の出力が過剰となることに由来する不快感を回避でき、また、シート空調装置における無駄なエネルギー消費を防止することができる。
【0015】
一方、空調制御手段は、主空調風の風向が、シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど主空調装置の出力を小さくし、直接見込む向きに近づくほど主空調装置の出力を大きく設定するように構成することもできる。ユーザーが主空調風の風向を自身に直接当たらない向きに変更した場合には、主空調装置がユーザーのいない向きに主空調風を大出力で吹出継続することがなくなり、主空調装置側の無駄なエネルギー消費を抑制することができる。また、逆に、自身に直接当たる向きに変更した場合には、主空調風により十分な空調効果が実現でき、シート空調装置の出力をそれほど高めずとも快適な空調環境を創出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の車両用空調装置に使用する操作ユニットの正面外観の一例を示すものである。この操作ユニット1は、車室内空間を包括的に空調する主空調装置の操作を行なうためのもので、表示ディスプレイ4と、該表示ディスプレイ4が封入される筐体2とを有し、筐体2の前面壁部2Fが、空調装置の操作部を表示ディスプレイ4とともに配列した操作パネル部を形成する(以下、操作パネル部2Fともいう)。表示ディスプレイ4は液晶ディスプレイにて構成され、空調装置の操作設定状態(風量、設定温度、吹出モード等)を表示する。操作パネル部2Fには、風量設定スイッチ72、温度設定スイッチ73、吹出モードを切り替えるモード切替スイッチ群75、リアデフスイッチ76、内外気切替スイッチ77、A/Cスイッチ78、ファンスイッチ79及びオート切替スイッチ80が設けられている。
【0017】
操作ユニット1は、図4に示すように、車両のインパネ部に設けられた、主空調装置CAの種々の吹出し口104,105,106の切替えと、各吹出し口における主空調風の吹き出し制御を行なうためのためのものである。図4には、主空調装置CAと後述のシート空調装置とからなる車両用空調装置全体の制御系統にかかるブロック図を合わせて示している。主空調装置CAは主ダクト101を備え、該主ダクト101には、車内空気を循環させるための内気吸い込み口113と、車外の空気を取込む外気吸い込み口114とが形成され、内外気切替ダンパー115によりいずれかが切替使用される。これら内気吸い込み口113ないし外気吸い込み口114からの空気は、ファン116によって主ダクト101内に吸い込まれる。
【0018】
主ダクト101内は、吸い込まれた空気を冷却して冷気を発生させるためのエバポレータ117と、逆にこれを加熱して暖気を発生させるヒータコア102(エンジン冷却水の廃熱により発熱動作する)とが設けられている。そして、これら冷気と暖気とが、エアミックスダンパー103の角度位置に対応した比率にて混合され、吹出し口104,105,106より吹き出される。このうち、フロントグラス曇り止め用のデフ吹出し口104はフロントグラスの内面下縁に対応するインパネ上方奥に、フェイス吹出し口105はインパネの正面中央に、フット吹出し口106はインパネ下面奥の搭乗者足元に対向する位置にそれぞれ開口し、吹出し口切替ダンパー107,108,109により個別に開閉される。
【0019】
具体的には、モータ120からのダンパー制御用の回転入力位相に応じて、ダンパー駆動ギア機構110により、フェイス吹出し口105のみを開いた状態(フェイス吹出モード)、フェイス吹出し口105とフット吹出し口6とを開いた状態(フット・フェイス吹出モード)、フット吹出し口106のみを開いた状態(フット吹出モード)、フット吹出し口106とデフ吹出し口104とを開いた状態(デフ・フット吹出モード)及びデフ吹出し口104のみを開いた状態(デフ吹出モード)の間で切り替えられる。各吹出モードの選択は、図1のモード切替スイッチ群75に含まれる対応するモード選択スイッチ(フェイススイッチ75A、フット・フェイススイッチ75B、フットスイッチ75C、デフ・フットスイッチ75D及びデフスイッチ75E)を個別に操作することにより行なう。
【0020】
また、内外気切替ダンパー115はモータ121により、エアミックスダンパー103はモータ119により、吹出し口切替ダンパー107,108,109はモータ120により、それぞれ電動駆動される。これらモータ119,20,21は例えばステッピングモータにて構成される。さらにブロワモータ123はブラシレスモータ等で構成され、PWM制御にて回転速度制御することにより吹出し風量が調整される。
【0021】
これらモータ(アクチュエータ)119〜121,123及びエバポレータ151は、主空調ECU150とシリアル通信バス130により接続され、該シリアル通信バス130を介して主空調ECU150により集中制御される。また、シリアル通信バス130には後述のシート空調ECU203が接続され、主空調ECU150との連携制御のための通信が可能となっている。
【0022】
主空調ECU150の実体はコンピュータハードウェアであり、その入出力部には、エバポレータセンサ151、内気センサ155、外気センサ156、水温センサ157及び日射センサ158が接続されている。また、主空調ECU150には、前述の風量設定スイッチ72、温度設定スイッチ73、吹出モードを切り替えるモード切替スイッチ群75、リアデフスイッチ76、内外気切替スイッチ77、A/Cスイッチ78、ファンスイッチ79及びオート切替スイッチ80が接続されている。
【0023】
主空調ECU150は、搭載された制御アプリケーションの実行により、以下のような制御を行なう。
・内外気切替スイッチ77の操作入力状態に対応して、内気側及び外気側のいずれかに内外気切替ダンパー115が倒れるよう、対応するモータ121の駆動ICに制御指令を行なう。
・A/Cスイッチ78の操作状態に応じて、エバポレータ117の作動をオン・オフさせる。
・リアデフスイッチ70の操作に伴い、図示しないリアガラスの電熱線に通電し、リアガラスの曇り除去を行なう。
【0024】
・オート切替スイッチ80の入力状態に基づいて、主空調装置CAの動作モードをマニュアルモードとオートモードとの間で切り替える。オートモードでは、温度設定スイッチ73による設定温度の入力情報と、内気センサ155、外気センサ156、水温センサ157及び日射センサ158の出力情報とを参照し、車内温度が設定温度に近づくよう周知のシーケンスに従い、エアミックスダンパー103の開度調整による吹出し温度調整と、ブロワモータ123による風量調整と、吹出し口切替ダンパー107,108,109の位置変更とがなされるよう、対応するモータ119,123,120の動作制御指令を行なう。
・マニュアルモードでは、風量設定スイッチ72とモード切替スイッチ群75との操作入力状態に対応して、ブロワモータ123による風量調整を行なうとともに、吹出し口切替ダンパー107,108,109が対応する開閉状態となるようにモータ120への駆動制御指令を行なう。
【0025】
オート空調制御は、具体的には、主空調風の目標吹出温度TAOを算出することにより行なう。この目標吹出温度TAOは、下記(1)式に基づいて算出されるものであり、車室内を設定温度TSETに維持するために必要な吹出温度を意味する。
TAO=E×(TSET+△T)
−F×TR−G×TAM−H×TS+C ・・・(1)
TSET:設定温度(通常:温度設定スイッチ74による設定温度/通信途絶時:ROM42に記憶されている所定温度)
TR :室内温度(内気センサ81により検出)
TAM :外気温(外気センサ82により検出)
TS :日射量(日射センサ84により検出)
△T,C:補正定数
E〜H :係数
【0026】
図1に示すように、操作ユニット1の筐体2の上側には、図4のフェイス吹出ダクト5からの空調気流WDを吹き出すフェイス吹出口105が開口している。フェイス吹出口105は横長に形成されるとともに、運転席用と助手席用とに中央で二分割され、それぞれ主空調風吹出方向変更手段をなすルーバ53,54が独立して設けられている。ルーバ53,54は、第一ルーバ53と第二ルーバ54とからなり、各々、互いに平行対向する形で配列する複数の風向板(整流板)からなる。
【0027】
図2に示すように、第一ルーバ53は、複数の風向板が、それぞれ左右方向の回転軸53a周りに回転可能に配置されるとともにラック部材91にリンク結合されている。フェイス吹出口105に設けられた左右風向調整ダイアル56を回転操作することにより、これと連動してギア90が回転し、該ギア90と噛み合うラック部材91が上下に移動することで、互いに連動して上下方向に角度が変化する。これにより、フェイス吹出口105からの主空調風の風向が上下方向に変更・調整可能である。また、該主空調風の上下方向の風向を示す第一ルーバ53の角度位置ηは、ギア90の回転軸に取り付けられたルーバ角度センサ(η)61により検出される。
【0028】
同様に、図3に示すように、第二ルーバ54は、複数の風向板が、それぞれ上下方向(前後に多少傾斜していてもよい)の回転軸54a周りに回転可能に配置されるとともにラック部材93にリンク結合されている。フェイス吹出口105に設けられた上下風向調整ダイアル55を回転操作することにより、これと連動してギア92が回転し、該ギア92と噛み合うラック部材93が左右に移動することで、互いに連動して左右方向に角度が変化する。これにより、フェイス吹出口105からの主空調風の風向が左右方向に変更・調整可能である。また、該主空調風の左右方向の風向を示す第二ルーバ54の角度位置ξは、ギア92の回転軸に取り付けられたルーバ角度センサ(ξ)62により検出される。
【0029】
上記のルーバ角度センサ(η)61及びルーバ角度センサ(ξ)62は、主空調風の風向を検出する吹出方向検出手段を構成するものであり、図4に示すように、主空調ECU150の入出力部に接続される。また、主空調ECU150には、シートに着座する乗員(ユーザー)を撮影する顔カメラ65も接続されている。顔カメラ65は、図8に示すように、シート(及びこれに着座する乗員)200を正面から撮影するものであり、乗員HKの上半身(少なくとも首から上の部分:すなわち、顔)が包含されるように撮影視野110Fを定め、その撮影画像から周知の画像解析により、乗員HKの顔の位置を特定することができる。
【0030】
次に、図5はシート空調装置の一例を示す全体概要図である。該シート空調装置50は、自動車の各シート200、例えば運転席と助手席とにそれぞれ組み込まれている。該シート200は、乗員の臀部を乗せる座部201と、背中を当てる背もたれ部202と、背もたれ部202の頂部に取り付けられたヘッドレスト302とを有する。そして、座部201及び背もたれ部202の各表皮203には吹出口204が形成されている。
【0031】
座部201及び背もたれ部202の各内部には空気ダクト205が形成されている。この空気ダクト205は車室内に一端が開口し、他端が上記吹出口204に開口している。そして、各空気ダクト205の途中にペルチェモジュール303が介装されている。ペルチェモジュール303は、一方の面が吸熱面、他方の面が放熱面となるように、厚さ方向に直流通電駆動される周知のペルチェ素子と、順方向通電時に冷却側、逆方向通電時に発熱側となる面に密着配置される金属製のヒートブロックと、同じく空調熱交換側となる面に密着配置される金属製のヒートシンクとを有し、ヒートシンクの裏面に熱交換を促進するためのフィが一体化された周知の構成を有するものである(例えば特開2005−280710号公報参照)。
【0032】
空気ダクト205の途中におけるペルチェモジュール303の上流側には、該ペルチェモジュール303の放熱フィンには車室内の空気を圧送する送風機304が設けられている。送風機304は放熱フィンに周囲の空気を吹き付けることにより温度調整された空気を生成し、この温度調整された空気が空気ダクト205を介して吹出口204から吹き出される。このように、空気ダクト205、ペルチェモジュール303及び送風機304を有したペルチェ空調ユニット210Aが背もたれ部202に、また、同様の構成のペルチェ空調ユニット210Bが座部201に、それぞれ個別に組み込まれた構造となっている。上記のような構造のペルチェ空調ユニット210A,210B(以下、両者を総称する場合には、「ペルチェ空調ユニット210」とも記載する)の組を有した車両用シート空調装置が、自動車の各シート(具体的には、運転席1(A)、助手席1(B),右後部座席1(C)、左後部座席1(D))に独立して組み込まれている。
【0033】
次に、図6は、上記車両用シート空調装置50の電気的構成の一例を示すブロック図である。要部をなすのはマイクロプロセッサとして構成されたシート空調ECU103(空調制御手段)を主体とする制御回路であり、温度入力設定手段をなす手元操作スイッチ(温調設定スイッチ212と手元電源スイッチ213が温調入力インターフェース222を介して、それぞれシート空調ECU103に接続されている。シート空調ECU103は、各シートのシート空調装置50毎に個別に設けられている。
【0034】
シート空調ECU103には、各々ペルチェモジュール303、送風機304、及びそれらの駆動制御を司る駆動ユニット221の組からなるペルチェ空調ユニット210A(背もたれ側)及び210B(座部側)が接続されている。駆動ユニット221は、ペルチェモジュール303を冷房使用時と暖房使用時とで互いに異なる極性にて通電駆動するものである。
【0035】
図5に示すように、各シート200には、乗員が操作するための空調装置用の手元操作スイッチ212が設けられている。シート空調ECU103は、該手元電源スイッチ213がオフ状態のときペルチェ空調ユニット210の動作を停止する。手元操作スイッチ212はプッシュ機能付のロータリースイッチであり、1回押圧すると引っ込んで手元電源スイッチ213をオフ状態とする。一方、さらに押圧すると飛び出して電源スイッチ213をオン状態とし、設定温度変更のための回転操作が可能となる。このとき、手元操作スイッチ212は、中立位置NTLに関して第一方向に回転させると暖房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度は高くなるとともに、当該第一方向の限界位置まで回転させると最高暖房温度の設定状態となる。また、中立位置NTLに関して第二方向に回転させると冷房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度が低くなるとともに、当該第二方向の限界位置まで回転させると最低冷房温度の設定状態となる。電源スイッチ213のオン/オフ状態、及び温度設定状態(さらには、冷暖房モード)は温調入力インターフェース222を介してシート空調ECU103に入力される。
【0036】
また、温調入力インターフェース222には、連動/独立切替スイッチ214が接続されている。図5に示すように、該連動/独立切替スイッチ214は、手元操作スイッチ222に近接してシート200に取り付けられ、該スイッチ214を第一位置(「連動」)側に操作すると、温調入力インターフェース222はシート空調装置50を主空調装置CAと連動制御する連動モードの選択信号をシート空調ECU10に出力し、第二位置(「独立」)側に操作すると、シート空調装置50を主空調装置CAとは独立して制御する独立モードの選択信号をシート空調ECU10に出力する。連動モードでは、後述のごとく、運転席側と助手席側とでそれぞれ、空調装置のフェイス吹出口105に設けられたルーバ53及び54の角度、すなわち主空調風の風向に応じてシート空調装置50の出力が調整制御されることとなる。
【0037】
図7は、駆動ユニット221の回路構成例を示すものである。駆動電源は、ペルチェ素子への過電圧印加防止を考慮して、絶縁型に構成されている。具体的には、車載バッテリー電圧+Bを入力電圧として受電する入力側DC電源250を有し、そのDC出力電圧が、昇圧用発振回路253により駆動される昇圧スイッチング用トランジスタ252(本実施形態ではパワーFETにて構成され、昇圧スイッチング周波数は10〜30kHz:例えば、15kHz)によりスイッチングされつつ、昇圧用のトランス251の1次側に入力される。該トランス251の2次側昇圧出力電圧は8〜15V(例えば12V)である。なお、昇圧用発振回路253は、トランス251の一次側インダクタンスの一部を流用した自励式発振回路として構成されている。
【0038】
トランス251の2次側昇圧出力電圧は、ダイオード254Dにより半波整流され、さらにコンデンサ254Cにより平滑化された後、PWMスイッチング用トランジスタ255に入力される。PWMスイッチング用トランジスタ255はパワーFETにて構成され、シート空調ECU103が決定するデューティ比(例えば50〜100%)にてPWMスイッチングされる。PWMスイッチング用トランジスタ255は、ゲート駆動用トランジスタ256を介してフォトカプラ265によりスイッチングされる。
【0039】
ペルチェ素子は導通断面積の大きい金属導体として構成されているので、PWMスイッチング電圧波形をペルチェ素子へ直接入力すると、波形エッジでの電流遮断時に渦電流が発生し、目的の極性と逆方向の電圧が供給されて冷却効率を低下させるジュール熱が多量に発生するので好ましくない。そこで、本実施形態では、コイル258とコンデンサ259とを有した駆動平滑化回路により、上記PWMスイッチング電圧波形をデューティ比に応じた直流駆動電圧(出力電圧範囲は、例えば6〜12V:出力電流範囲は、例えば3〜6A)として平滑化し、極性切替スイッチ260を介してペルチェモジュール303に供給するようにしている。なお、PWMスイッチング周波数は例えば1〜5kHzであり、昇圧スイッチング周波数よりも小さく設定される。
【0040】
極性切替スイッチ260は、本実施形態ではリレースイッチとして構成され、リレー駆動トランジスタ262を介してフォトカプラ263により動作制御される(ここでは、リレー駆動トランジスタ262がOFFのとき、端子260Aが電源入力/端子260Bが接地となり(順方向極性)、同じくオンのときは端子260Aが接地/端子260Bが電源入力となるよう(逆方向極性)、スイッチ260が切り替わる)。また、送風機304へのモータ駆動出力は、トランス251の2次側にてPWMスイッチング用トランジスタ255の前段より、電圧安定化用のレギュレータIC264を介して非スイッチング状態で取り出される。
【0041】
なお、本実施形態では車載バッテリー電圧+Bの変動を補償するために昇圧回路を組み込んでいるが、ペルチェ素子の動作が保障できる場合、例えば、ペルチェ素子への駆動出力電圧範囲が車載バッテリー電圧+Bの変動範囲よりも常時小さいことが保障できる場合には、この昇圧回路を省略することも可能である。この場合、ペルチェ素子への出力段に電圧モニタリング部を追加し、PWMスイッチングのデューティ比制御にこれをフィードバックして電圧を安定化するレギュレータ部を追加すればよい。また、ペルチェ素子への駆動出力電圧が車載バッテリー電圧+Bの変動範囲を若干上回る場合にあっても、該レギュレータ部を周知の昇圧型ステップアップ回路として構成すれば、昇圧回路は同様に省略できる。
【0042】
前述のごとく、電源スイッチ213のオン/オフ状態、及び温度設定状態(さらには、冷暖房モード)は温調入力インターフェース222を介してシート空調ECU103に入力される。電源スイッチ213がオフ状態のとき、シート空調ECU103は、入力側DC電源250へのバッテリー受電系路上に設けられた電源スイッチ250Sをオフにし、ペルチェモジュール303と送風機304とを双方ともに停止させる。一方、電源スイッチ213がオン状態のときは電源スイッチ250Sをオンにする。そして、手元操作スイッチ212が冷房側に回転していればリレー駆動トランジスタ262をオフとし、通電極性を順方向とする。また、暖房側に回転していればリレー駆動トランジスタ262をオンとし、通電極性を逆方向とする。
【0043】
また、冷房側及び暖房側のいずれにおいても、手元操作スイッチ212の操作角度は、例えばポテンショメータ等を介して温調入力インターフェース222により読み取られ、冷房設定温度θないし暖房設定温度θ’に変換されてシート空調ECU103に送られる。
【0044】
以下、フローチャートを用いて、上記車両用空調装置の動作説明を行なう。図12はシート空調ECU103によるシート空調制御の流れを示すフローチャートである(制御内容は各シートについてそれぞれ同様であり、かつ、独立した駆動制御が実施される)。まず、S101では手元電源スイッチ213がONになっているか否かを判定する。ONになっていなければS109に進み、ペルチェモジュール303及び送風機(ファン)304の動作を停止する。
【0045】
一方、S101では手元電源スイッチ213がONになっていればS102に進み、温調入力インターフェース222が手元操作スイッチ212の操作位置に基づいて決定した冷房設定温度θないし暖房設定温度θ’を取得する。また、S103では、図4の主空調装置CA側からは、内気センサ155の温度検出値Tを、通信バス130を介して取得する。そして、S104では、冷房時は図10のデューティ比テーブルを、暖房時は図11のデューティ比テーブルを参照して、適正なデューティ比η(電流値に対応する)を読み取る。冷房時はT−θが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηは高く設定され、暖房時はθ−Tが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηは高く設定される。
【0046】
次に、S105では、温調入力インターフェース222が連動/独立切替スイッチ214(図5、図6)の操作位置に基づいて出力するモード選択信号をリードする。独立モードであれば、図4においてシート空調ECU103は、該独立モードが選択されている旨を主空調ECU150に通信バス130を介して通知する。そして、S108に進み、シート空調ECU103は、読み取ったデューティ比ηをそのまま制御設定デューティ比(駆動デューティ比)η’として採用する。
【0047】
他方、連動モードであればS106に進み、該連動モードが選択されている旨を主空調ECU150に通知する。主空調ECU150側では、後述のごとく、シート空調装置50の出力を補正するための補正係数αを、ルーバ53,54(図1)の角度に基づいて演算する。シート空調ECU103は、S106にてこの補正係数αを主空調ECU150から通信取得し、S107で、読み取ったデューティ比ηを該補正係数αで補正し(ここでは、ηにαを乗じる補正演算を行なっているが、演算形態はこれに限定されない)、これを制御設定デューティ比(駆動デューティ比)η’として採用するする。
【0048】
そして、S109では、PWMスイッチング用トランジスタ255を上記制御設定デューティ比η’でスイッチング駆動して、ペルチェ素子の出力調整を行なう。なお、ルーバ53,54(図1)の角度に応じたシート空調装置の出力補正は、冷房時にのみ行なうようにしてもよい。
【0049】
次に、図13は、主空調ECU150による主空調制御の流れを示すフローチャートである。S201では、既に説明した周知の手法により目標吹出温度TAOを演算する。S202では選択中のモードにかかる情報をシート空調ECU103から取得する。これが独立モードであればS210に進み、演算されたTAOをそのまま制御設定TAOとして採用する。
【0050】
一方、連動モードであればS204に進み、ルーバ角度センサ61の検出角度ηと、ルーバ角度センサ62の検出角度ξとをそれぞれ読み取る。一方、図8に示すように、シートに着座する乗員の上半身が顔カメラ65により撮影されている。顔カメラ65の取付位置が固定であれば視野110Fは一定であり、図9の右に示すような直交座標系(水平方向:x、垂直方向:y)が予め設定されている。そして、顔カメラ65の撮影画像から周知の画像解析により、乗員HKの顔の位置(例えば、抽出された顔輪郭線の重心位置)が、上記直交座標系上の顔位置座標G(x0,y0)として特定されている。
【0051】
一方、図2に示すように、ルーバ角度センサ61の検出角度ηは、上記直交座標系のy軸に対する第一ルーバ53の角度として規定され、同様に図3に示すように、ルーバ角度センサ62の検出角度ξは、直交座標系のx軸に対する第二ルーバ54の角度として規定される。そして、各角度η及びξの動径ベクトルを合成したものが、主空調風の風向ベクトルとして定義できる。この風向ベクトルは、図9の左に示すように、ξ−η平面上の一点として定義できる一方、顔位置座標Gに対応する乗員HKの顔表面位置近傍を通ってx−y平面と平行な投影面を考えれば、風向ベクトルを一義的に定める風向座標(x1,y1)を,図1のフェイス吹出口105内の基準位置(例えば、開口重心位置)を通って風向ベクトルと平行な直線と該投影面との交点位置として定めることができる。ここで、(ξ,η)は角度座標系であり、直交座標系(x,y)との対応関係は三角関数を用いた周知の一次変換により結び付けられるから、その変換関係を予め求めておくことで、検出された現在の風向を示す角度値の組(ξ1,η1)を、上記直交座標系での座標値の組(x1,y1)に変換できる。図13のS205では、この変換処理を行なう。
【0052】
該座標値の組(x1,y1)は、図9に示すように、現在の風向を示す風向座標点Q’を意味するものであり、視野110F上にプロットすることができる。そして、この風向座標点Q’が顔位置座標Gに近いほど、シートに着座する乗員を直接見込む向きに風向が調整されていること、すなわち、主空調風がなるべく直接顔に当たるようにルーバ53、54を操作されていることを意味し、逆に顔位置座標Gから遠ざかるほど、主空調風が直接顔に当たらないようにルーバ53、54を操作されていることを意味する。すなわち、風向座標点Q’と顔位置座標Gとの距離dは、顔への直接風に対する乗員の志向を定量的に表すパラメータとして利用できる。図13のS206では、このdの演算を行なっている。
【0053】
本実施形態では、主空調風の上記風向Q’が、シートに着座する乗員を直接見込む向き(顔を見込む向き)Gから遠ざかるほど(つまり、dが大きいほど)シート空調装置50の出力を大きくし、直接見込む向きGに近づくほど(つまり、dが小さいほど)シート空調装置50の出力を小さく設定するように構成している。具体的には、図14に示すように、シート空調装置50の出力を示すデューティ比ηに乗ずるべき補正係数αの値を、0〜1の範囲でdが大きくなるほど増加するように、dの値毎に予め定めておく。図14においてαは、dが下限閾値(ここでは5cm)以下で一定の最小値(ここでは0.2)に設定され、dが上限閾値(ここでは30cm)以上で一定の最大値(ここでは0.8)に設定され、下限閾値と上限閾値との間ではαがdの増加とともに単調かつ連続的に増加するように定められている。ただし、破線で示すごとく、dの値に対して段階的にαが変化するように定めてもよい。最も単純な方式としては、dが閾値を超えるか否かにより、αを第一の値と第二の値との間で切り替える方式を例示できる。また、dが閾値を超えるか否かではなく、風向Q’のx座標(x1)及びy座標(y1)が、Gのx座標(x0)及びy座標(y0)をそれぞれ含むx座標値範囲及びy座標値範囲に入っているか否かに応じてαを切り替える方式を採用することもできる。
【0054】
他方、この実施形態では、主空調風の上記風向Q’が、シートに着座する乗員を直接見込む向き(顔を見込む向き)Gから遠ざかるほど(つまり、dが大きいほど)主空調装置CAの出力を小さくし、直接見込む向きGに近づくほど(つまり、dが小さいほど)主空調装置CAの出力を大きく設定するように構成する。図15に示すように、この主空調装置CAの出力を補正するための補正係数βは、主空調装置CAの出力を示すTAOに乗ずるべき係数として、0〜1の範囲でdが大きくなるほど減少するように、dの値毎に予め定めてある。βは、dが下限閾値(ここでは5cm)以下で一定の最大値(ここでは0.8)に設定され、dが上限閾値(ここでは30cm)以上で一定の最小値(ここでは0.8)に設定され、下限閾値と上限閾値との間ではαがdの増加とともに単調かつ連続的に減少するように定められている。ただし、破線で示すごとく、dの値に対して段階的にβが変化するように定めてもよい。本実施形態では、βはαに対し相補的に定義されており(すなわち、β≡1−α)、αの値からβを演算により決定するようにしている。
【0055】
図13に戻り、S207ではdに対応する補正係数αの値を読み取り、S208で、これをシート空調ECU103へ送信する。また、S209では、αの値からβを演算し、S201で演算されているTAOにβを乗じて補正し、その補正されたTAOを制御設定TAOとして採用する。
【0056】
なお、主空調装置CA側では主空調風の風向に応じたTAO(空調出力)の補正を特に行なわない構成とすることも可能である。この場合は、図13においてS209を省略することが可能である。また、S204で取得するルーバ角度ξ、ηの値をシート空調ECU103へ送信することで、シート空調装置用の補正係数αの演算処理をシート空調ECU103側で実施するようにしてもよい。
【0057】
さらに、乗員の顔位置を特に検出せず(この場合、顔カメラ65(図4)は省略できる)、図9に一点鎖線で示すように、着座時における種々のユーザーの平均的な顔位置を見込む領域DAを固定的に定めておき、この領域DA内に風向座標点Qが入っているか否かに基づいて、シート空調装置50(ないし主空調装置CA)の出力を上記と同様にして補正する態様も可能である。この場合、領域DAをξ−η平面上に定義しておくことで、現在の風向を示す角度値の組(ξ1,η1)を直交座標系での座標値の組(x1,y1)に敢えて変換する必要はなくなる。
【0058】
また、主空調風の風向に応じたシート空調装置の出力補正として、ペルチェモジュールの電流出力(上記の実施形態ではこれに対応したスイッチング入力波形のデューティ比)の補正とともに(あるいは、該補正に代えて)、送風機(ファン)304の出力補正を行なうようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】空調装置の操作ユニットとフェイス吹出口のレイアウト例を示す正面図。
【図2】フェイス吹出口に取り付けられる第一ルーバの駆動機構を作用とともに示す図。
【図3】同じく第二ルーバの駆動機構を作用とともに示す図。
【図4】本発明の車両用空調装置を構成する主空調装置の電気的構成を、その周辺部とともに示すブロック図。
【図5】本発明の車両用空調装置を構成するシート空調装置の一例を示す側面断面図。
【図6】シート空調装置の電気的構成の一例を示す全体ブロック図。
【図7】ペルチェモジュールの駆動ユニットの電気的構成の一例を示す回路図。
【図8】顔カメラの視野設定例を示す模式図。
【図9】視野に設定する風向角度座標系と直交座標系とを対比して示す模式図。
【図10】冷房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図11】暖房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図12】シート空調制御処理の流れを示すフローチャート。
【図13】主空調制御処理の流れを示すフローチャート。
【図14】風向に応じたシート空調装置の補正係数の演算態様を例示する図。
【図15】風向に応じた主空調装置の補正係数の演算態様を例示する図。
【符号の説明】
【0060】
CA 主空調装置
50 シート空調装置
53 第一ルーバ(主空調風吹出方向変更手段)
54 第二ルーバ(主空調風吹出方向変更手段)
61 ルーバ角度センサ(η)(吹出方向検出手段)
62 ルーバ角度センサ(ξ)(吹出方向検出手段)
65 顔カメラ(顔位置検出手段)
103 シート空調ECU(空調制御手段)
150 主空調ECU(空調制御手段)
200 シート
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特許第3301109号公報
【特許文献2】特開2006−123874号公報
【0003】
自動車の車室内空間は、一般住居等に比較すると空間容積が小さく、また、窓を閉めきると密閉空間となり、例えば、ガラス越しに漏入する熱線により駐車中の車内温度は夏季には異常に上昇する。しかし、一般の自動車用空調装置は集中型であり、車室内の空間全体の空気温度を下げるべく設計されているので、どうしても温度調節に時間がかかる問題がある。そこで、特許文献1及び特許文献2には、シート内に局所空調装置を組み込み、ヘッドレストや手すり等に設けた吹出し口から冷風を吹き出すことで、車室内を分散空調する方式が提案されている。
【0004】
ところで、自動車等においては、車室内空間を包括的に空調する主空調装置(例えば、オートエアコン)が設けられるのが一般的である(例えば、特許文献2)。従来、こうした主空調装置とともにシート空調装置を設ける場合、温度設定も含め独立に動作制御されることが多かった。また、主空調装置は、内気温度(車室内温度)、外気温度、日射量等で決まる車両熱負荷が大きいほど、目標吹出温度(TAO)を冷房時では低く暖房時では高くするように作動制御するTAO制御方式が広く用いられているが、特許文献2では、主空調装置側から、算出されたTAO値を通信取得する形でシート空調装置の制御が実行されている。この方式では、当然のことながら、車両熱負荷に応じてシート空調装置も主空調装置に同調してTAOを高くするよう作動制御されるので、車両熱負荷が増加して主空調装置の出力が大きくなればシート空調装置の出力も大きくなり、逆に車両熱負荷が減少して主空調装置の出力が小さくなればシート空調装置の出力も小さくなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、主空調装置は、例えば自動車のインパネに開口する吹出口から空調風を噴き出す構造になっているが、この吹出口からの空調風が直接当たることを嫌うユーザーが、例えば女性や年配者等のユーザーの中に多く見出される。特に、冷え性の女性等にあっては、外気温が相当高くなる夏季においても冷房風が体に直接当たると不調を感じやすく特に、車両熱負荷が大きくなる真夏等では目標吹出温度はかなり低くなり、低温の冷房風が大風量で吹き出す形になるので、これを体に直接当てたときの不快感は特に大きくなる。このようなユーザーは、例えば吹出口に取り付けられたルーバを操作して風向を変え、冷房風が体に直接当たらないようにする行動をとることになるが、冷房風が体に当たらなくなると、体から離れた位置での気流循環により車室内温度が自然に適温に到達するのを待つほかなくなり、逆に熱暑による不快感が大きくなるジレンマがある。特許文献2においては、主空調装置の空調風の風向とは無関係に、車両熱負荷が増加したとき、シート空調装置は主空調装置に同調して空調出力を増加させるだけであり、次のような問題を生ずる(同様の事情は暖房時にも当てはまる)。
【0006】
(1)主空調装置が低温の冷房風を大風量で吹き出す状態になっているとき、その冷房風がユーザーに直接当たる状態になっていると、それだけで十分に涼しくなり、シート空調装置側は出力増加により過剰冷房となって、かえって不快を感じる場合がある。また、シート空調装置の出力が過剰になる分、無駄なエネルギーが消費されることにつながる。
(2)冷房風がユーザーに直接当たらないように風向が操作された場合も、主空調装置はユーザーのいない向きに低温・大風量の冷房風の吹出を継続するので、同様に無駄なエネルギーが消費されることにつながる。
【0007】
本発明の課題は、車両に主空調装置とシート空調装置とが併設されるとともに、主空調装置とシート空調装置との出力バランスを主空調装置の空調風の吹出方向を考慮して適正化でき、ひいては空調風の吹出方向によらず快適な空調環境を創出でき、かつ、車両全体の空調効率を高めることができる車両用空調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び作用・効果】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の車両用空調装置は、
シート以外の車室内構造物に吹出口を有し、車室内空間を包括的に空調する主空調装置と、
シートに設けられ、当該シートに着座する乗員に対する個別空調を行なうシート空調装置と、
シートに着座する乗員の操作に基づいて、主空調装置の吹出口からの主空調風の風向を変更する主空調風吹出方向変更手段と、
主空調風の風向を検出する吹出方向検出手段と、
検出される主空調風の風向に応じて、主空調装置の空調出力とシート空調装置の空調出力との空調出力比が変化するように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する空調制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
上記本発明の空調装置の構成によると、車両に主空調装置とシート空調装置とが併設され、かつ、主空調装置の主空調風の風向を検出するとともに、検出される主空調風の風向に応じて、主空調装置の空調出力とシート空調装置の空調出力との空調出力比が変化するように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御するようにしたので、シート空調装置との出力バランスを主空調装置の空調風の吹出方向を考慮して適正化することができる。その結果、空調風の吹出方向によらず快適な空調環境を創出でき、かつ、車両全体の空調効率を高めることができる。
【0010】
空調制御手段は、主空調風の風向が、シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御することができる。シートに着座する乗員を直接見込む向きに主空調風が吹き出されていると、乗員に主空調風が直接当たることになる。空調風が直接当たることを嫌う乗員は、主空調風吹出方向変更手段を用いて、自身に当たらない向き(つまり、乗員を直接見込む向きから遠ざかる向き)に主空調風の風向を変更する。これを受けて、空調制御手段は、主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率を大きくする調整制御を行なうので、乗員には主空調風が直接当たらず、かつ、主空調風が不足する分、シート空調の出力が補われるので、より快適な空調状態を実現できる。逆に、空調風が直接当たることを容認する乗員は、自身に当たる向き(つまり、乗員を直接見込む向きに近づく向き)に主空調風の風向を変更する。これを受けて、空調制御手段は、主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率を小さくする調整制御を行なうので、主空調風により十分な空調効果が実現しているにも拘わらず、シート空調の出力が過剰となって不快感を生ずる不具合を効果的に回避できる。また、シート空調装置の出力が抑制されることで、無駄なエネルギー消費を防止することができる。
【0011】
人間の習性として、暑さや寒さ(特に暑さ)を感じるとき、空調風は体全体に吹きかけずとも顔や首筋に向けて吹きかけることで、不快感を相当に軽減することができる。これは、顔や首筋が体温の主要な出入り口の役割を果たしていることとも関係する。つまり、乗員は、暑さ(あるいは寒さ)を強く感じている場合ほど、空調風を顔に向けて吹きかける傾向にあるといえる。シートに着座する乗員の顔位置は乗員の座高や着座姿勢によって変化する。そこで、乗員の顔位置を検出する顔位置検出手段を設け、空調制御手段を、主空調風の風向が、顔位置から遠ざかるほど主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御するようにしておくと、空調風が顔に直接当たることを嫌う乗員と、逆に容認する乗員とのいずれにとっても、主空調装置とシート空調装置との快適で効率のよい連携動作を実現できる。
【0012】
主空調風吹出方向変更手段は、吹出口に対し、乗員操作により角度変更可能に設けられた周知のルーバにて構成できる。ルーバの角度が決まれば主空調風の吹出方向も一義的に定まるので、吹出方向検出手段は、該ルーバの角度検出部として構成することにより、主空調風の吹出方向を容易に特定することができる。なお、主空調風の吹出ダクト(全体もしくは吹出口を含む末端部分)の向きそのものを可変に構成することもでき、この場合は、吹出方向検出手段は、該吹出ダクトの角度を検出する角度検出部として構成すればよい。ただし、この場合も吹出口にルーバ(整流板)が取り付けられていれば、吹出ダクトの角度変更によりルーバの角度も必然的に変更されるので、該吹出ダクト角度検出部をルーバ角度検出部とみなすことができる。
【0013】
上記の構成では、ルーバの角度が、主空調風が乗員に直接吹き付ける所定角度範囲にある場合に、当該所定角度範囲外となる場合よりも主空調装置の空調出力に対するシート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、主空調装置及びシート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御するように構成できる。主空調装置ないしシート空調装置を、ルーバの角度に応じて容易にかつ的確に調整制御することができる。なお、上記所定角度範囲内においては、主空調装置とシート空調装置との空調出力比率を、ルーバ角度に応じて可変となるように調整制御してもよいし、ルーバ角度によらず一定となるように調整制御してもどちらでもよい。また、上記所定角度範囲は、例えばユーザーの顔位置を検出し、該顔位置に応じてユーザー毎にカスタマイズするようにしてもよいし、種々のユーザーの平均的な顔位置を見込むように、ユーザーによらず一定に設定するようにしても、いずれでもよい。
【0014】
空調制御手段は、主空調風の風向が、シートに着座する乗員を直接見込む向き(例えば顔を見込む向き)から遠ざかるほどシート空調装置の出力を大きくし、直接見込む向きに近づくほどシート空調装置の出力を小さく設定するように構成することができる。ユーザーが主空調風の風向を自身に直接当たらない向きに変更した場合には、乗員には主空調風が直接当たらず、かつシート空調装置の出力が大きくなるので、より快適な空調状態を実現できる。逆に、自身に直接当たる向きに変更した場合には、主空調風により十分な空調効果が実現している状況では、シート空調装置の出力が小さくなることで、シート空調の出力が過剰となることに由来する不快感を回避でき、また、シート空調装置における無駄なエネルギー消費を防止することができる。
【0015】
一方、空調制御手段は、主空調風の風向が、シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど主空調装置の出力を小さくし、直接見込む向きに近づくほど主空調装置の出力を大きく設定するように構成することもできる。ユーザーが主空調風の風向を自身に直接当たらない向きに変更した場合には、主空調装置がユーザーのいない向きに主空調風を大出力で吹出継続することがなくなり、主空調装置側の無駄なエネルギー消費を抑制することができる。また、逆に、自身に直接当たる向きに変更した場合には、主空調風により十分な空調効果が実現でき、シート空調装置の出力をそれほど高めずとも快適な空調環境を創出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明の車両用空調装置に使用する操作ユニットの正面外観の一例を示すものである。この操作ユニット1は、車室内空間を包括的に空調する主空調装置の操作を行なうためのもので、表示ディスプレイ4と、該表示ディスプレイ4が封入される筐体2とを有し、筐体2の前面壁部2Fが、空調装置の操作部を表示ディスプレイ4とともに配列した操作パネル部を形成する(以下、操作パネル部2Fともいう)。表示ディスプレイ4は液晶ディスプレイにて構成され、空調装置の操作設定状態(風量、設定温度、吹出モード等)を表示する。操作パネル部2Fには、風量設定スイッチ72、温度設定スイッチ73、吹出モードを切り替えるモード切替スイッチ群75、リアデフスイッチ76、内外気切替スイッチ77、A/Cスイッチ78、ファンスイッチ79及びオート切替スイッチ80が設けられている。
【0017】
操作ユニット1は、図4に示すように、車両のインパネ部に設けられた、主空調装置CAの種々の吹出し口104,105,106の切替えと、各吹出し口における主空調風の吹き出し制御を行なうためのためのものである。図4には、主空調装置CAと後述のシート空調装置とからなる車両用空調装置全体の制御系統にかかるブロック図を合わせて示している。主空調装置CAは主ダクト101を備え、該主ダクト101には、車内空気を循環させるための内気吸い込み口113と、車外の空気を取込む外気吸い込み口114とが形成され、内外気切替ダンパー115によりいずれかが切替使用される。これら内気吸い込み口113ないし外気吸い込み口114からの空気は、ファン116によって主ダクト101内に吸い込まれる。
【0018】
主ダクト101内は、吸い込まれた空気を冷却して冷気を発生させるためのエバポレータ117と、逆にこれを加熱して暖気を発生させるヒータコア102(エンジン冷却水の廃熱により発熱動作する)とが設けられている。そして、これら冷気と暖気とが、エアミックスダンパー103の角度位置に対応した比率にて混合され、吹出し口104,105,106より吹き出される。このうち、フロントグラス曇り止め用のデフ吹出し口104はフロントグラスの内面下縁に対応するインパネ上方奥に、フェイス吹出し口105はインパネの正面中央に、フット吹出し口106はインパネ下面奥の搭乗者足元に対向する位置にそれぞれ開口し、吹出し口切替ダンパー107,108,109により個別に開閉される。
【0019】
具体的には、モータ120からのダンパー制御用の回転入力位相に応じて、ダンパー駆動ギア機構110により、フェイス吹出し口105のみを開いた状態(フェイス吹出モード)、フェイス吹出し口105とフット吹出し口6とを開いた状態(フット・フェイス吹出モード)、フット吹出し口106のみを開いた状態(フット吹出モード)、フット吹出し口106とデフ吹出し口104とを開いた状態(デフ・フット吹出モード)及びデフ吹出し口104のみを開いた状態(デフ吹出モード)の間で切り替えられる。各吹出モードの選択は、図1のモード切替スイッチ群75に含まれる対応するモード選択スイッチ(フェイススイッチ75A、フット・フェイススイッチ75B、フットスイッチ75C、デフ・フットスイッチ75D及びデフスイッチ75E)を個別に操作することにより行なう。
【0020】
また、内外気切替ダンパー115はモータ121により、エアミックスダンパー103はモータ119により、吹出し口切替ダンパー107,108,109はモータ120により、それぞれ電動駆動される。これらモータ119,20,21は例えばステッピングモータにて構成される。さらにブロワモータ123はブラシレスモータ等で構成され、PWM制御にて回転速度制御することにより吹出し風量が調整される。
【0021】
これらモータ(アクチュエータ)119〜121,123及びエバポレータ151は、主空調ECU150とシリアル通信バス130により接続され、該シリアル通信バス130を介して主空調ECU150により集中制御される。また、シリアル通信バス130には後述のシート空調ECU203が接続され、主空調ECU150との連携制御のための通信が可能となっている。
【0022】
主空調ECU150の実体はコンピュータハードウェアであり、その入出力部には、エバポレータセンサ151、内気センサ155、外気センサ156、水温センサ157及び日射センサ158が接続されている。また、主空調ECU150には、前述の風量設定スイッチ72、温度設定スイッチ73、吹出モードを切り替えるモード切替スイッチ群75、リアデフスイッチ76、内外気切替スイッチ77、A/Cスイッチ78、ファンスイッチ79及びオート切替スイッチ80が接続されている。
【0023】
主空調ECU150は、搭載された制御アプリケーションの実行により、以下のような制御を行なう。
・内外気切替スイッチ77の操作入力状態に対応して、内気側及び外気側のいずれかに内外気切替ダンパー115が倒れるよう、対応するモータ121の駆動ICに制御指令を行なう。
・A/Cスイッチ78の操作状態に応じて、エバポレータ117の作動をオン・オフさせる。
・リアデフスイッチ70の操作に伴い、図示しないリアガラスの電熱線に通電し、リアガラスの曇り除去を行なう。
【0024】
・オート切替スイッチ80の入力状態に基づいて、主空調装置CAの動作モードをマニュアルモードとオートモードとの間で切り替える。オートモードでは、温度設定スイッチ73による設定温度の入力情報と、内気センサ155、外気センサ156、水温センサ157及び日射センサ158の出力情報とを参照し、車内温度が設定温度に近づくよう周知のシーケンスに従い、エアミックスダンパー103の開度調整による吹出し温度調整と、ブロワモータ123による風量調整と、吹出し口切替ダンパー107,108,109の位置変更とがなされるよう、対応するモータ119,123,120の動作制御指令を行なう。
・マニュアルモードでは、風量設定スイッチ72とモード切替スイッチ群75との操作入力状態に対応して、ブロワモータ123による風量調整を行なうとともに、吹出し口切替ダンパー107,108,109が対応する開閉状態となるようにモータ120への駆動制御指令を行なう。
【0025】
オート空調制御は、具体的には、主空調風の目標吹出温度TAOを算出することにより行なう。この目標吹出温度TAOは、下記(1)式に基づいて算出されるものであり、車室内を設定温度TSETに維持するために必要な吹出温度を意味する。
TAO=E×(TSET+△T)
−F×TR−G×TAM−H×TS+C ・・・(1)
TSET:設定温度(通常:温度設定スイッチ74による設定温度/通信途絶時:ROM42に記憶されている所定温度)
TR :室内温度(内気センサ81により検出)
TAM :外気温(外気センサ82により検出)
TS :日射量(日射センサ84により検出)
△T,C:補正定数
E〜H :係数
【0026】
図1に示すように、操作ユニット1の筐体2の上側には、図4のフェイス吹出ダクト5からの空調気流WDを吹き出すフェイス吹出口105が開口している。フェイス吹出口105は横長に形成されるとともに、運転席用と助手席用とに中央で二分割され、それぞれ主空調風吹出方向変更手段をなすルーバ53,54が独立して設けられている。ルーバ53,54は、第一ルーバ53と第二ルーバ54とからなり、各々、互いに平行対向する形で配列する複数の風向板(整流板)からなる。
【0027】
図2に示すように、第一ルーバ53は、複数の風向板が、それぞれ左右方向の回転軸53a周りに回転可能に配置されるとともにラック部材91にリンク結合されている。フェイス吹出口105に設けられた左右風向調整ダイアル56を回転操作することにより、これと連動してギア90が回転し、該ギア90と噛み合うラック部材91が上下に移動することで、互いに連動して上下方向に角度が変化する。これにより、フェイス吹出口105からの主空調風の風向が上下方向に変更・調整可能である。また、該主空調風の上下方向の風向を示す第一ルーバ53の角度位置ηは、ギア90の回転軸に取り付けられたルーバ角度センサ(η)61により検出される。
【0028】
同様に、図3に示すように、第二ルーバ54は、複数の風向板が、それぞれ上下方向(前後に多少傾斜していてもよい)の回転軸54a周りに回転可能に配置されるとともにラック部材93にリンク結合されている。フェイス吹出口105に設けられた上下風向調整ダイアル55を回転操作することにより、これと連動してギア92が回転し、該ギア92と噛み合うラック部材93が左右に移動することで、互いに連動して左右方向に角度が変化する。これにより、フェイス吹出口105からの主空調風の風向が左右方向に変更・調整可能である。また、該主空調風の左右方向の風向を示す第二ルーバ54の角度位置ξは、ギア92の回転軸に取り付けられたルーバ角度センサ(ξ)62により検出される。
【0029】
上記のルーバ角度センサ(η)61及びルーバ角度センサ(ξ)62は、主空調風の風向を検出する吹出方向検出手段を構成するものであり、図4に示すように、主空調ECU150の入出力部に接続される。また、主空調ECU150には、シートに着座する乗員(ユーザー)を撮影する顔カメラ65も接続されている。顔カメラ65は、図8に示すように、シート(及びこれに着座する乗員)200を正面から撮影するものであり、乗員HKの上半身(少なくとも首から上の部分:すなわち、顔)が包含されるように撮影視野110Fを定め、その撮影画像から周知の画像解析により、乗員HKの顔の位置を特定することができる。
【0030】
次に、図5はシート空調装置の一例を示す全体概要図である。該シート空調装置50は、自動車の各シート200、例えば運転席と助手席とにそれぞれ組み込まれている。該シート200は、乗員の臀部を乗せる座部201と、背中を当てる背もたれ部202と、背もたれ部202の頂部に取り付けられたヘッドレスト302とを有する。そして、座部201及び背もたれ部202の各表皮203には吹出口204が形成されている。
【0031】
座部201及び背もたれ部202の各内部には空気ダクト205が形成されている。この空気ダクト205は車室内に一端が開口し、他端が上記吹出口204に開口している。そして、各空気ダクト205の途中にペルチェモジュール303が介装されている。ペルチェモジュール303は、一方の面が吸熱面、他方の面が放熱面となるように、厚さ方向に直流通電駆動される周知のペルチェ素子と、順方向通電時に冷却側、逆方向通電時に発熱側となる面に密着配置される金属製のヒートブロックと、同じく空調熱交換側となる面に密着配置される金属製のヒートシンクとを有し、ヒートシンクの裏面に熱交換を促進するためのフィが一体化された周知の構成を有するものである(例えば特開2005−280710号公報参照)。
【0032】
空気ダクト205の途中におけるペルチェモジュール303の上流側には、該ペルチェモジュール303の放熱フィンには車室内の空気を圧送する送風機304が設けられている。送風機304は放熱フィンに周囲の空気を吹き付けることにより温度調整された空気を生成し、この温度調整された空気が空気ダクト205を介して吹出口204から吹き出される。このように、空気ダクト205、ペルチェモジュール303及び送風機304を有したペルチェ空調ユニット210Aが背もたれ部202に、また、同様の構成のペルチェ空調ユニット210Bが座部201に、それぞれ個別に組み込まれた構造となっている。上記のような構造のペルチェ空調ユニット210A,210B(以下、両者を総称する場合には、「ペルチェ空調ユニット210」とも記載する)の組を有した車両用シート空調装置が、自動車の各シート(具体的には、運転席1(A)、助手席1(B),右後部座席1(C)、左後部座席1(D))に独立して組み込まれている。
【0033】
次に、図6は、上記車両用シート空調装置50の電気的構成の一例を示すブロック図である。要部をなすのはマイクロプロセッサとして構成されたシート空調ECU103(空調制御手段)を主体とする制御回路であり、温度入力設定手段をなす手元操作スイッチ(温調設定スイッチ212と手元電源スイッチ213が温調入力インターフェース222を介して、それぞれシート空調ECU103に接続されている。シート空調ECU103は、各シートのシート空調装置50毎に個別に設けられている。
【0034】
シート空調ECU103には、各々ペルチェモジュール303、送風機304、及びそれらの駆動制御を司る駆動ユニット221の組からなるペルチェ空調ユニット210A(背もたれ側)及び210B(座部側)が接続されている。駆動ユニット221は、ペルチェモジュール303を冷房使用時と暖房使用時とで互いに異なる極性にて通電駆動するものである。
【0035】
図5に示すように、各シート200には、乗員が操作するための空調装置用の手元操作スイッチ212が設けられている。シート空調ECU103は、該手元電源スイッチ213がオフ状態のときペルチェ空調ユニット210の動作を停止する。手元操作スイッチ212はプッシュ機能付のロータリースイッチであり、1回押圧すると引っ込んで手元電源スイッチ213をオフ状態とする。一方、さらに押圧すると飛び出して電源スイッチ213をオン状態とし、設定温度変更のための回転操作が可能となる。このとき、手元操作スイッチ212は、中立位置NTLに関して第一方向に回転させると暖房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度は高くなるとともに、当該第一方向の限界位置まで回転させると最高暖房温度の設定状態となる。また、中立位置NTLに関して第二方向に回転させると冷房モードでの温度設定となり、中立位置NTLから離れるほど設定温度が低くなるとともに、当該第二方向の限界位置まで回転させると最低冷房温度の設定状態となる。電源スイッチ213のオン/オフ状態、及び温度設定状態(さらには、冷暖房モード)は温調入力インターフェース222を介してシート空調ECU103に入力される。
【0036】
また、温調入力インターフェース222には、連動/独立切替スイッチ214が接続されている。図5に示すように、該連動/独立切替スイッチ214は、手元操作スイッチ222に近接してシート200に取り付けられ、該スイッチ214を第一位置(「連動」)側に操作すると、温調入力インターフェース222はシート空調装置50を主空調装置CAと連動制御する連動モードの選択信号をシート空調ECU10に出力し、第二位置(「独立」)側に操作すると、シート空調装置50を主空調装置CAとは独立して制御する独立モードの選択信号をシート空調ECU10に出力する。連動モードでは、後述のごとく、運転席側と助手席側とでそれぞれ、空調装置のフェイス吹出口105に設けられたルーバ53及び54の角度、すなわち主空調風の風向に応じてシート空調装置50の出力が調整制御されることとなる。
【0037】
図7は、駆動ユニット221の回路構成例を示すものである。駆動電源は、ペルチェ素子への過電圧印加防止を考慮して、絶縁型に構成されている。具体的には、車載バッテリー電圧+Bを入力電圧として受電する入力側DC電源250を有し、そのDC出力電圧が、昇圧用発振回路253により駆動される昇圧スイッチング用トランジスタ252(本実施形態ではパワーFETにて構成され、昇圧スイッチング周波数は10〜30kHz:例えば、15kHz)によりスイッチングされつつ、昇圧用のトランス251の1次側に入力される。該トランス251の2次側昇圧出力電圧は8〜15V(例えば12V)である。なお、昇圧用発振回路253は、トランス251の一次側インダクタンスの一部を流用した自励式発振回路として構成されている。
【0038】
トランス251の2次側昇圧出力電圧は、ダイオード254Dにより半波整流され、さらにコンデンサ254Cにより平滑化された後、PWMスイッチング用トランジスタ255に入力される。PWMスイッチング用トランジスタ255はパワーFETにて構成され、シート空調ECU103が決定するデューティ比(例えば50〜100%)にてPWMスイッチングされる。PWMスイッチング用トランジスタ255は、ゲート駆動用トランジスタ256を介してフォトカプラ265によりスイッチングされる。
【0039】
ペルチェ素子は導通断面積の大きい金属導体として構成されているので、PWMスイッチング電圧波形をペルチェ素子へ直接入力すると、波形エッジでの電流遮断時に渦電流が発生し、目的の極性と逆方向の電圧が供給されて冷却効率を低下させるジュール熱が多量に発生するので好ましくない。そこで、本実施形態では、コイル258とコンデンサ259とを有した駆動平滑化回路により、上記PWMスイッチング電圧波形をデューティ比に応じた直流駆動電圧(出力電圧範囲は、例えば6〜12V:出力電流範囲は、例えば3〜6A)として平滑化し、極性切替スイッチ260を介してペルチェモジュール303に供給するようにしている。なお、PWMスイッチング周波数は例えば1〜5kHzであり、昇圧スイッチング周波数よりも小さく設定される。
【0040】
極性切替スイッチ260は、本実施形態ではリレースイッチとして構成され、リレー駆動トランジスタ262を介してフォトカプラ263により動作制御される(ここでは、リレー駆動トランジスタ262がOFFのとき、端子260Aが電源入力/端子260Bが接地となり(順方向極性)、同じくオンのときは端子260Aが接地/端子260Bが電源入力となるよう(逆方向極性)、スイッチ260が切り替わる)。また、送風機304へのモータ駆動出力は、トランス251の2次側にてPWMスイッチング用トランジスタ255の前段より、電圧安定化用のレギュレータIC264を介して非スイッチング状態で取り出される。
【0041】
なお、本実施形態では車載バッテリー電圧+Bの変動を補償するために昇圧回路を組み込んでいるが、ペルチェ素子の動作が保障できる場合、例えば、ペルチェ素子への駆動出力電圧範囲が車載バッテリー電圧+Bの変動範囲よりも常時小さいことが保障できる場合には、この昇圧回路を省略することも可能である。この場合、ペルチェ素子への出力段に電圧モニタリング部を追加し、PWMスイッチングのデューティ比制御にこれをフィードバックして電圧を安定化するレギュレータ部を追加すればよい。また、ペルチェ素子への駆動出力電圧が車載バッテリー電圧+Bの変動範囲を若干上回る場合にあっても、該レギュレータ部を周知の昇圧型ステップアップ回路として構成すれば、昇圧回路は同様に省略できる。
【0042】
前述のごとく、電源スイッチ213のオン/オフ状態、及び温度設定状態(さらには、冷暖房モード)は温調入力インターフェース222を介してシート空調ECU103に入力される。電源スイッチ213がオフ状態のとき、シート空調ECU103は、入力側DC電源250へのバッテリー受電系路上に設けられた電源スイッチ250Sをオフにし、ペルチェモジュール303と送風機304とを双方ともに停止させる。一方、電源スイッチ213がオン状態のときは電源スイッチ250Sをオンにする。そして、手元操作スイッチ212が冷房側に回転していればリレー駆動トランジスタ262をオフとし、通電極性を順方向とする。また、暖房側に回転していればリレー駆動トランジスタ262をオンとし、通電極性を逆方向とする。
【0043】
また、冷房側及び暖房側のいずれにおいても、手元操作スイッチ212の操作角度は、例えばポテンショメータ等を介して温調入力インターフェース222により読み取られ、冷房設定温度θないし暖房設定温度θ’に変換されてシート空調ECU103に送られる。
【0044】
以下、フローチャートを用いて、上記車両用空調装置の動作説明を行なう。図12はシート空調ECU103によるシート空調制御の流れを示すフローチャートである(制御内容は各シートについてそれぞれ同様であり、かつ、独立した駆動制御が実施される)。まず、S101では手元電源スイッチ213がONになっているか否かを判定する。ONになっていなければS109に進み、ペルチェモジュール303及び送風機(ファン)304の動作を停止する。
【0045】
一方、S101では手元電源スイッチ213がONになっていればS102に進み、温調入力インターフェース222が手元操作スイッチ212の操作位置に基づいて決定した冷房設定温度θないし暖房設定温度θ’を取得する。また、S103では、図4の主空調装置CA側からは、内気センサ155の温度検出値Tを、通信バス130を介して取得する。そして、S104では、冷房時は図10のデューティ比テーブルを、暖房時は図11のデューティ比テーブルを参照して、適正なデューティ比η(電流値に対応する)を読み取る。冷房時はT−θが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηは高く設定され、暖房時はθ−Tが大きくなるほどデューティ比(電流値)ηは高く設定される。
【0046】
次に、S105では、温調入力インターフェース222が連動/独立切替スイッチ214(図5、図6)の操作位置に基づいて出力するモード選択信号をリードする。独立モードであれば、図4においてシート空調ECU103は、該独立モードが選択されている旨を主空調ECU150に通信バス130を介して通知する。そして、S108に進み、シート空調ECU103は、読み取ったデューティ比ηをそのまま制御設定デューティ比(駆動デューティ比)η’として採用する。
【0047】
他方、連動モードであればS106に進み、該連動モードが選択されている旨を主空調ECU150に通知する。主空調ECU150側では、後述のごとく、シート空調装置50の出力を補正するための補正係数αを、ルーバ53,54(図1)の角度に基づいて演算する。シート空調ECU103は、S106にてこの補正係数αを主空調ECU150から通信取得し、S107で、読み取ったデューティ比ηを該補正係数αで補正し(ここでは、ηにαを乗じる補正演算を行なっているが、演算形態はこれに限定されない)、これを制御設定デューティ比(駆動デューティ比)η’として採用するする。
【0048】
そして、S109では、PWMスイッチング用トランジスタ255を上記制御設定デューティ比η’でスイッチング駆動して、ペルチェ素子の出力調整を行なう。なお、ルーバ53,54(図1)の角度に応じたシート空調装置の出力補正は、冷房時にのみ行なうようにしてもよい。
【0049】
次に、図13は、主空調ECU150による主空調制御の流れを示すフローチャートである。S201では、既に説明した周知の手法により目標吹出温度TAOを演算する。S202では選択中のモードにかかる情報をシート空調ECU103から取得する。これが独立モードであればS210に進み、演算されたTAOをそのまま制御設定TAOとして採用する。
【0050】
一方、連動モードであればS204に進み、ルーバ角度センサ61の検出角度ηと、ルーバ角度センサ62の検出角度ξとをそれぞれ読み取る。一方、図8に示すように、シートに着座する乗員の上半身が顔カメラ65により撮影されている。顔カメラ65の取付位置が固定であれば視野110Fは一定であり、図9の右に示すような直交座標系(水平方向:x、垂直方向:y)が予め設定されている。そして、顔カメラ65の撮影画像から周知の画像解析により、乗員HKの顔の位置(例えば、抽出された顔輪郭線の重心位置)が、上記直交座標系上の顔位置座標G(x0,y0)として特定されている。
【0051】
一方、図2に示すように、ルーバ角度センサ61の検出角度ηは、上記直交座標系のy軸に対する第一ルーバ53の角度として規定され、同様に図3に示すように、ルーバ角度センサ62の検出角度ξは、直交座標系のx軸に対する第二ルーバ54の角度として規定される。そして、各角度η及びξの動径ベクトルを合成したものが、主空調風の風向ベクトルとして定義できる。この風向ベクトルは、図9の左に示すように、ξ−η平面上の一点として定義できる一方、顔位置座標Gに対応する乗員HKの顔表面位置近傍を通ってx−y平面と平行な投影面を考えれば、風向ベクトルを一義的に定める風向座標(x1,y1)を,図1のフェイス吹出口105内の基準位置(例えば、開口重心位置)を通って風向ベクトルと平行な直線と該投影面との交点位置として定めることができる。ここで、(ξ,η)は角度座標系であり、直交座標系(x,y)との対応関係は三角関数を用いた周知の一次変換により結び付けられるから、その変換関係を予め求めておくことで、検出された現在の風向を示す角度値の組(ξ1,η1)を、上記直交座標系での座標値の組(x1,y1)に変換できる。図13のS205では、この変換処理を行なう。
【0052】
該座標値の組(x1,y1)は、図9に示すように、現在の風向を示す風向座標点Q’を意味するものであり、視野110F上にプロットすることができる。そして、この風向座標点Q’が顔位置座標Gに近いほど、シートに着座する乗員を直接見込む向きに風向が調整されていること、すなわち、主空調風がなるべく直接顔に当たるようにルーバ53、54を操作されていることを意味し、逆に顔位置座標Gから遠ざかるほど、主空調風が直接顔に当たらないようにルーバ53、54を操作されていることを意味する。すなわち、風向座標点Q’と顔位置座標Gとの距離dは、顔への直接風に対する乗員の志向を定量的に表すパラメータとして利用できる。図13のS206では、このdの演算を行なっている。
【0053】
本実施形態では、主空調風の上記風向Q’が、シートに着座する乗員を直接見込む向き(顔を見込む向き)Gから遠ざかるほど(つまり、dが大きいほど)シート空調装置50の出力を大きくし、直接見込む向きGに近づくほど(つまり、dが小さいほど)シート空調装置50の出力を小さく設定するように構成している。具体的には、図14に示すように、シート空調装置50の出力を示すデューティ比ηに乗ずるべき補正係数αの値を、0〜1の範囲でdが大きくなるほど増加するように、dの値毎に予め定めておく。図14においてαは、dが下限閾値(ここでは5cm)以下で一定の最小値(ここでは0.2)に設定され、dが上限閾値(ここでは30cm)以上で一定の最大値(ここでは0.8)に設定され、下限閾値と上限閾値との間ではαがdの増加とともに単調かつ連続的に増加するように定められている。ただし、破線で示すごとく、dの値に対して段階的にαが変化するように定めてもよい。最も単純な方式としては、dが閾値を超えるか否かにより、αを第一の値と第二の値との間で切り替える方式を例示できる。また、dが閾値を超えるか否かではなく、風向Q’のx座標(x1)及びy座標(y1)が、Gのx座標(x0)及びy座標(y0)をそれぞれ含むx座標値範囲及びy座標値範囲に入っているか否かに応じてαを切り替える方式を採用することもできる。
【0054】
他方、この実施形態では、主空調風の上記風向Q’が、シートに着座する乗員を直接見込む向き(顔を見込む向き)Gから遠ざかるほど(つまり、dが大きいほど)主空調装置CAの出力を小さくし、直接見込む向きGに近づくほど(つまり、dが小さいほど)主空調装置CAの出力を大きく設定するように構成する。図15に示すように、この主空調装置CAの出力を補正するための補正係数βは、主空調装置CAの出力を示すTAOに乗ずるべき係数として、0〜1の範囲でdが大きくなるほど減少するように、dの値毎に予め定めてある。βは、dが下限閾値(ここでは5cm)以下で一定の最大値(ここでは0.8)に設定され、dが上限閾値(ここでは30cm)以上で一定の最小値(ここでは0.8)に設定され、下限閾値と上限閾値との間ではαがdの増加とともに単調かつ連続的に減少するように定められている。ただし、破線で示すごとく、dの値に対して段階的にβが変化するように定めてもよい。本実施形態では、βはαに対し相補的に定義されており(すなわち、β≡1−α)、αの値からβを演算により決定するようにしている。
【0055】
図13に戻り、S207ではdに対応する補正係数αの値を読み取り、S208で、これをシート空調ECU103へ送信する。また、S209では、αの値からβを演算し、S201で演算されているTAOにβを乗じて補正し、その補正されたTAOを制御設定TAOとして採用する。
【0056】
なお、主空調装置CA側では主空調風の風向に応じたTAO(空調出力)の補正を特に行なわない構成とすることも可能である。この場合は、図13においてS209を省略することが可能である。また、S204で取得するルーバ角度ξ、ηの値をシート空調ECU103へ送信することで、シート空調装置用の補正係数αの演算処理をシート空調ECU103側で実施するようにしてもよい。
【0057】
さらに、乗員の顔位置を特に検出せず(この場合、顔カメラ65(図4)は省略できる)、図9に一点鎖線で示すように、着座時における種々のユーザーの平均的な顔位置を見込む領域DAを固定的に定めておき、この領域DA内に風向座標点Qが入っているか否かに基づいて、シート空調装置50(ないし主空調装置CA)の出力を上記と同様にして補正する態様も可能である。この場合、領域DAをξ−η平面上に定義しておくことで、現在の風向を示す角度値の組(ξ1,η1)を直交座標系での座標値の組(x1,y1)に敢えて変換する必要はなくなる。
【0058】
また、主空調風の風向に応じたシート空調装置の出力補正として、ペルチェモジュールの電流出力(上記の実施形態ではこれに対応したスイッチング入力波形のデューティ比)の補正とともに(あるいは、該補正に代えて)、送風機(ファン)304の出力補正を行なうようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】空調装置の操作ユニットとフェイス吹出口のレイアウト例を示す正面図。
【図2】フェイス吹出口に取り付けられる第一ルーバの駆動機構を作用とともに示す図。
【図3】同じく第二ルーバの駆動機構を作用とともに示す図。
【図4】本発明の車両用空調装置を構成する主空調装置の電気的構成を、その周辺部とともに示すブロック図。
【図5】本発明の車両用空調装置を構成するシート空調装置の一例を示す側面断面図。
【図6】シート空調装置の電気的構成の一例を示す全体ブロック図。
【図7】ペルチェモジュールの駆動ユニットの電気的構成の一例を示す回路図。
【図8】顔カメラの視野設定例を示す模式図。
【図9】視野に設定する風向角度座標系と直交座標系とを対比して示す模式図。
【図10】冷房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図11】暖房時に使用するデューティ比テーブルの模式図。
【図12】シート空調制御処理の流れを示すフローチャート。
【図13】主空調制御処理の流れを示すフローチャート。
【図14】風向に応じたシート空調装置の補正係数の演算態様を例示する図。
【図15】風向に応じた主空調装置の補正係数の演算態様を例示する図。
【符号の説明】
【0060】
CA 主空調装置
50 シート空調装置
53 第一ルーバ(主空調風吹出方向変更手段)
54 第二ルーバ(主空調風吹出方向変更手段)
61 ルーバ角度センサ(η)(吹出方向検出手段)
62 ルーバ角度センサ(ξ)(吹出方向検出手段)
65 顔カメラ(顔位置検出手段)
103 シート空調ECU(空調制御手段)
150 主空調ECU(空調制御手段)
200 シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート以外の車室内構造物に吹出口を有し、車室内空間を包括的に空調する主空調装置と、
前記シートに設けられ、当該シートに着座する乗員に対する個別空調を行なうシート空調装置と、
前記シートに着座する乗員の操作に基づいて、前記主空調装置の前記吹出口からの主空調風の風向を変更する主空調風吹出方向変更手段と、
前記主空調風の風向を検出する吹出方向検出手段と、
検出される前記主空調風の風向に応じて、前記主空調装置の空調出力と前記シート空調装置の空調出力との空調出力比が変化するように、前記主空調装置及び前記シート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する空調制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記空調制御手段は、前記主空調風の前記風向が、前記シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど前記主空調装置の空調出力に対する前記シート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、前記主空調装置及び前記シート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記シートに着座する前記乗員の顔位置を検出する顔位置検出手段を備え、
前記空調制御手段は、前記主空調風の前記風向が、前記顔位置から遠ざかるほど前記主空調装置の空調出力に対する前記シート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、前記主空調装置及び前記シート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する請求項2記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記主空調風吹出方向変更手段は前記吹出口に対し、乗員操作により角度変更可能に設けられたルーバであり、前記吹出方向検出手段は該ルーバの角度検出部である請求項2又は請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記ルーバの角度が、前記主空調風が前記乗員に直接吹き付ける所定角度範囲にある場合に、当該所定角度範囲外となる場合よりも前記主空調装置の空調出力に対する前記シート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、前記主空調装置及び前記シート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する請求項4記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記空調制御手段は、前記主空調風の前記風向が、前記シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど前記シート空調装置の出力を大きくし、前記直接見込む向きに近づくほど前記シート空調装置の出力を小さく設定する請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記空調制御手段は、前記主空調風の前記風向が、前記シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど前記主空調装置の出力を小さくし、前記直接見込む向きに近づくほど前記主空調装置の出力を大きく設定する請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項1】
シート以外の車室内構造物に吹出口を有し、車室内空間を包括的に空調する主空調装置と、
前記シートに設けられ、当該シートに着座する乗員に対する個別空調を行なうシート空調装置と、
前記シートに着座する乗員の操作に基づいて、前記主空調装置の前記吹出口からの主空調風の風向を変更する主空調風吹出方向変更手段と、
前記主空調風の風向を検出する吹出方向検出手段と、
検出される前記主空調風の風向に応じて、前記主空調装置の空調出力と前記シート空調装置の空調出力との空調出力比が変化するように、前記主空調装置及び前記シート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する空調制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記空調制御手段は、前記主空調風の前記風向が、前記シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど前記主空調装置の空調出力に対する前記シート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、前記主空調装置及び前記シート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する請求項1記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記シートに着座する前記乗員の顔位置を検出する顔位置検出手段を備え、
前記空調制御手段は、前記主空調風の前記風向が、前記顔位置から遠ざかるほど前記主空調装置の空調出力に対する前記シート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、前記主空調装置及び前記シート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する請求項2記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記主空調風吹出方向変更手段は前記吹出口に対し、乗員操作により角度変更可能に設けられたルーバであり、前記吹出方向検出手段は該ルーバの角度検出部である請求項2又は請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記ルーバの角度が、前記主空調風が前記乗員に直接吹き付ける所定角度範囲にある場合に、当該所定角度範囲外となる場合よりも前記主空調装置の空調出力に対する前記シート空調装置の空調出力の比率が大きくなるように、前記主空調装置及び前記シート空調装置の少なくともいずれかの動作を調整制御する請求項4記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記空調制御手段は、前記主空調風の前記風向が、前記シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど前記シート空調装置の出力を大きくし、前記直接見込む向きに近づくほど前記シート空調装置の出力を小さく設定する請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記空調制御手段は、前記主空調風の前記風向が、前記シートに着座する乗員を直接見込む向きから遠ざかるほど前記主空調装置の出力を小さくし、前記直接見込む向きに近づくほど前記主空調装置の出力を大きく設定する請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の車両用空調装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−18169(P2010−18169A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180673(P2008−180673)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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