説明

車両用空調装置

【課題】エアコンON時の燃料カットリカバー時期とエアコンOFF時の燃料カットリカバー時期との間においてもエバポレータ冷力を適切に保持し得る装置を提供する。
【解決手段】減速時燃料カット中かつコンプレッサの作動要求時には減速時燃料カット中かつコンプレッサの作動非要求時より早い燃料カットリカバー時期に燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行う燃料カットリカバー実行手段を備え、コンプレッサ稼働度合制御手段は、減速時燃料カット中に、コンプレッサ作動要求時の燃料カットリカバー時期の直前の所定期間、コンプレッサの稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させ(図4のS2、S3、S5)、コンプレッサ作動要求時の燃料カットリカバー時期になったときまたは当該燃料カットリカバー時期の直前でコンプレッサの稼働度合を燃料カットの非実行中より低下させる(図4のS2、S3、S6、S8)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両空調装置、特に減速時燃料カット中の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
減速時ロックアップの実行開始直後からコンプレッサの稼働度合を減速時ロックアップの非実行中よりも増大させる。そして、減速時ロックアップの実行開始から所定時間Tupが経過した時点でコンプレッサの稼働度合の増大を終了し、この増大の終了直後からコンプレッサの稼働度合を減速時ロックアップの非実行中よりも低下させるものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4399989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1の技術では、上記所定時間Tupの設定いかんにより、エアコンON時のロックアップ解除車速とエアコンOFF時のロックアップ解除車速との間でエバポレータ冷力が足りなくなったり過剰となったりすることがある。
【0005】
上記特許文献1の技術は、ロックアップ解除車速に着目するものであるが、これを燃料カットリカバー時期にまで拡大して考えることができる。燃料カットリカバー時期にまで拡大して考えるときには、上記所定時間Tupの設定いかんにより、エアコンON時の燃料カットリカバー時期とエアコンOFF時の燃料カットリカバー時期との間でエバポレータ冷力が足りなくなることがある。また、過剰となることもある。
【0006】
そこで本発明は、エアコンON時の燃料カットリカバー時期とエアコンOFF時の燃料カットリカバー時期との間においてもエバポレータ冷力を適切に保持し得る装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用空調装置は、冷媒を吸入、圧縮、吐出するコンプレッサ、このコンプレッサから吐出された高温、高圧の冷媒を凝縮させるコンデンサ、このコンデンサで凝縮した冷媒を減圧する膨張弁、この膨張弁で低圧となった冷媒と周囲の空気との間で熱交換を行わせて冷媒を蒸発させるエバポレータを含む冷凍サイクルと、前記コンプレッサの稼働度合を制御可能なコンプレッサ稼働度合制御手段と、減速時に燃料カットを実行する減速時燃料カット実行手段と、この減速時燃料カット中かつ前記コンプレッサの作動要求時には減速時燃料カット中かつ前記コンプレッサの作動非要求時より早い燃料カットリカバー時期に前記燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行う燃料カットリカバー実行手段とを備えている。そして、前記コンプレッサ稼働度合制御手段は、減速時燃料カット中に、前記コンプレッサ作動要求時の燃料カットリカバー時期の直前の所定期間、前記コンプレッサの稼働度合を前記燃料カットの非実行中より増大させ、前記コンプレッサ作動要求時の燃料カットリカバー時期になったときまたは当該燃料カットリカバー時期の直前で前記コンプレッサの稼働度合を前記燃料カットの非実行中より低下させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、減速時燃料カットの実行開始時期に拘わらず、コンプレッサ作動要求時の燃料カットリカバー時期手前のエバポレータの冷力低下を防止し、コンプレッサの稼働度合の低下に伴う車室内の空調の効きの悪化を防止できる。また、コンプレッサの稼働度合の増大過剰によりエバポレータが凍りつくことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態の車両用空調装置の概略構成図である。
【図2】減速時燃料カット中の車速、コンプレッサ稼働度合、エバポレータ温度等の各変化を示すタイミングチャートである。
【図3】減速時燃料燃料カット中の車速、コンプレッサ稼働度合、エバポレータ温度等の各変化を示すタイミングチャートである。
【図4】減速時燃料カット中のコンプレッサ稼働度合制御を説明するためのフローチャートである。
【図5】減速時燃料燃料カット中の車速、コンプレッサ稼働度合、エバポレータ温度等の各変化を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態の車両用空調装置の概略構成図である。図1において、車両用空調装置の冷凍サイクルRには、コンプレッサ1、コンデンサ7、膨張弁10、エバポレータ11が含まれる。冷媒を吸入、圧縮、吐出するコンプレッサ1には動力断続用の電磁クラッチ2が設けてある。コンプレッサ1には電磁クラッチ2及びベルト3を介してエンジン4の動力が伝達されるので、電磁クラッチ2への通電及び非通電をエンジンコントロールモジュール5、アンダースイッチングモジュール6により断続することでコンプレッサ1の運転が断続される。
【0012】
コンプレッサ1から吐出された高温及び高圧のガス状の冷媒はコンデンサ7に流入し、冷却ファン8より送風される外気と熱交換して冷却され凝縮する。コンデンサ7で凝縮した冷媒は膨張弁10により低圧に減圧され、低圧の気液2相状態となる。膨張弁10からの低圧冷媒はエバポレータ11に流入する。エバポレータ11は車両用空調装置の空調ケース21内に設置され、エバポレータ11に流入した低圧冷媒は空調ケース21内の空気から吸熱して蒸発する。エバポレータ11の出口はコンプレッサ1の吸入側に結合されている。このようにして冷凍サイクルRは閉回路を構成している。
【0013】
空調ケース21において、上記エバポレータ11の上流側には送風機22が配置され、送風機22にはブロアファン23と駆動用モータ24とが備えられている。ブロアファン23の吸入側では、内外気切換ドア25により外気導入口27と内気導入口28とが開閉される。これにより、外気(車室外空気)または内気(車室内空気)が切換導入される。内外気切換ドア25はサーボモータからなる電気駆動装置26により駆動される。
【0014】
一方、上記エバポレータ11の下流側には、後述する蓄冷器12、エアミックスドア31が順次配置されている。エアミックスドア31の下流側にはエンジン4の温水(冷却水)を熱源として空気を加熱する温水式ヒータコア(暖房用熱交換器)33が設置されている。この温水式ヒータコア33の側方(上方部)には、温水式ヒータコア33をバイパスして空気(冷風)を流すバイパス通路34が形成されている。
【0015】
上記エアミックスドア31は回動可能な板状ドアであり、サーボモータからなる電気駆動装置32により駆動される。エアミックスドア31は、温水式ヒータコア33を通過する温風とバイパス通路34を通過する冷風との風量割合を調節するものであって、この冷温風の風量割合の調節により車室内への吹き出し温度を調節する。
【0016】
温水式ヒータコア33の下流側には空気混合部35が設けられ、ここで温水式ヒータコア33からの温風とバイパス通路34からの冷風が混合して、所望温度の空気が作り出される。
【0017】
さらに、空気混合部35の下流側には、デフロスタ開口部36、フェイス開口部37、フット開口部38が形成され、各開口部はそれぞれ回動可能な板状のデフロスタドア39、フェイスドア40、フットドア41により開閉される。3つのドア39、40、41は共通のリンク機構に連結され、このリンク機構を介してサーボモータからなる電気駆動装置42により駆動される。例えば、デフロスタドア39が開いているときには図示しないデフロスタダクトを介して車両フロントガラス内面に空気が、フェイス開口部37が開いているときには図示しないフェイスダクトを介して車室内乗員の上半身に向けて空気が吹き出す。また、フット開口部38が開いているときには図示しないフットダクトを介して車室内乗員の足元に向けて空気が吹き出す。
【0018】
制御アンプ51(コンプレッサ稼働度合制御手段)には温度センサ52からのエバポレータ温度(エバポレータ吹出温度)、エアコンスイッチ53からのエアコン信号が入力されている。制御アンプ51では、エアコンスイッチ53がON状態であるときに、温度センサ52により検出される実際のエバポレータ温度がエバポレータ11の目標温度と一致するようにコンプレッサ稼働度合を制御するためのデューティ信号をコンプレッサ1に出力する。
【0019】
また、エアコンスイッチ53がONにされたときには、制御アンプ51はコンプレッサ1を作動させる信号をCAN通信56でエンジンコントロールモジュール5に送信する。なお、制御アンプ51は、目標風量が得られるようにブロアファン駆動用モータ24を制御し、吹出口と吸込口の自動制御のため電気駆動装置26、32、42を駆動している。
【0020】
エンジンコントロールモジュール5は、エンジン4の運転状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン4への燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期を制御する。
【0021】
また、冷媒圧力センサ54からの冷媒圧力、アクセルセンサ55からのアクセル開度がエンジンコントロールモジュール5に入力されている。エンジンコントロールモジュール5ではこれらの信号により、コンプレッサ1を作動できると判断すると、コンプレッサON信号をCAN通信56でアンダースイッチングモジュール6に送信する。エンジンコントロールモジュール5からコンプレッサON信号を受信したアンダースイッチングモジュール6ではモジュール6内のエアコンリレーをONし、電磁クラッチ2を接続してコンプレッサ1を作動させる。
【0022】
また、エンジンコントロールモジュール5(減速時燃料カット実行手段)では、燃費向上のため、車両の減速時に燃料カットを実行する。そして、エンジンコントロールモジュール5(燃料カットリカバー実行手段)では、減速時燃料カット中かつエアコンON時に、 減速時燃料カット中かつエアコンOFF時より早い燃料カットリカバー速度で燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行う。ここで、エアコン(エアコンディショナー)ON時とはエアコンスイッチ53がON状態であるとき(つまりコンプレッサ1の作動要求時)、エアコンOFF時とはエアコンスイッチ53がOFF状態であるとき(つまりコンプレッサ1の作動非要求時)である。
【0023】
エバポレータ11のすぐ下流には蓄冷器12を備える。蓄冷器12は、図1に示すようにエバポレータ11と同一の前面面積を有する形状として、エバポレータ11通過後の冷風の全量(空調ケース21内風量の全量)が通過する構成となっている。これにより、蓄冷器12は空調ケース21内の空気流れ方向に対して厚さ寸法の小さい薄型構造とすることができる。
【0024】
熱交換器としての蓄冷器12の具体的な構成は、例えば熱伝導性に優れたアルミニュウム等の金属によりチューブ状部材を形成し、このチューブ状部材の内部に蓄冷剤を収納して密封するようになっている。このチューブ状部材は所定間隔を隔てて多数配置し、この多数のチューブ状部材相互間の隙間を空気が通過する構成になっている。蓄冷器12の構成は、これに限られるものでなく、エバポレータ11を流れる冷媒により冷却される蓄冷剤を内部に封入した蓄冷器の構成としてもかまわない。
【0025】
さて、減速時ロックアップの実行開始直後からコンプレッサ稼働度合を増大させる。そして、減速時ロックアップの開始から所定時間Tupが経過した時点でコンプレッサ1の稼働度合の増大を終了し、この増大の終了直後からコンプレッサ1の稼働度合を低下させる従来装置がある。これは、ロックアップ解除車速をエアコンON時のロックアップ解除車速からエアコンOFF時の解除車速まで引き下げることを可能として燃料カット時間を延長させるものである。
【0026】
ところで、上記従来装置では、上記所定時間Tupの設定いかんにより、エアコンON時のロックアップ解除車速とエアコンOFF時のロックアップ解除車速との間でエバポレータ冷力が不足したり、過剰となったりすることを避けることができない。
【0027】
上記従来装置は、ロックアップ解除車速に着目するものであるが、これを燃料カットリカバー時期にまで拡大して考えることができる。燃料カットリカバー時期にまで拡大して考えるときには、上記所定時間Tupの設定いかんにより、エアコンON時の燃料カットリカバー時期とエアコンOFF時の燃料カットリカバー時期との間でエバポレータ冷力が不足することがある。また、過剰となることもある。
【0028】
これについて図2、図3を参照して説明する。図2、図3のタイミングチャートは減速時燃料カット中に車速、コンプレッサ稼働度合、エバポレータ温度等がどのように変化するのかをモデルで示したものである。従来装置の場合の変化を破線で、本実施形態の場合の変化を実線で示している。さらに、従来装置で所定時間Tupが相対的に小さく設定された場合を図2に、所定時間Tupが相対的に大きく設定された場合を図3に示している。
【0029】
なお、従来装置は「減速時ロックアップ中」に限定しているが、本発明は、「減速ロックアップ中」を含んだ概念として「減速燃料カット中」を考える。このとき、従来装置の「減速時ロックアップ中」は本実施形態の「減速時燃料カット中」に置き換えることができる。
【0030】
図2から説明する。図2において、高車速(例えば100km/h)からt1のタイミングで減速時が開始された場合、車速は直線的に低下してゆく。この場合に、従来装置では、減速時の開始であるt1のタイミングより所定時間Tup、コンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させ、この増大の終了直後からコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より低下させている。所定時間Tupはコンプレッサ稼働度合を増大させる期間を定めるものである。この所定時間Tupがt1からt2までと相対的に短く設定されているときには、車速がエアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecに対して十分に減速されていないt2のタイミングでコンプレッサ稼働度合の低下が開始される。このため、車両がエアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecまで減速されるころにはエバポレータ温度が上昇し(つまりエバポレータ11の冷力が低下し)、コンプレッサ稼働度合の低下に伴う車室内の空調の効きが悪化してしまう。
【0031】
こうした車室内の空調の効きの悪化に対処するには、例えばt3のタイミングでコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させる(燃料カットを終了してエンジン4によりコンプレッサ1を駆動する)ことである。しかしながら、これではエアコンOFF時の燃料カットリカバー車速Vrecの手前で燃料カットを終了させることになってまい、燃費を向上できなくなるといった問題が生じる。
【0032】
次に、図3を説明する。図3においては、従来装置で、コンプレッサ稼働度合を増大させる期間を定める所定時間Tupが、今度はt1からエアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecとなるt4までと相対的に長く設定されている。このときには、長い所定時間Tupに比例してエバポレータ温度が下がり過ぎ(エバポレータ11の冷力が過大となり)、エバポレータ11が凍りついてしまうといった別の問題が生じる。
【0033】
そこで本発明の第1実施形態では、減速時燃料カット中に、エアコンON時(コンプレッサ作動要求時)の燃料カットリカバー車速Vacrec直前の所定期間、コンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させる。そして、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecになったときにはコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より低下させる。
【0034】
制御アンプ51(コンプレッサ稼働度合制御手段)により行われるこの減速燃料カット中のコンプレッサ稼働度合制御を、図4のフローチャートを参照して詳述する。図4のフローは一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0035】
まずステップ1では減速時燃料カット中であるか否かをみる。例えば、アクセル開度がゼロとなり(アクセルペダルが戻され)、かつそのときの車速が燃料カット車速Vfcを超えていれば、燃料カット許可条件が成立し、燃料カットフラグ=1となる。この燃料カットフラグ=1を受けてエンジンコントロールモジュール5が燃料カットを行う。従って、燃料カットフラグ=1であるときには減速時燃料カット中であると判断しステップ2、3、6に進む。
【0036】
ステップ2、3、6は、車速域を、〈1〉Vacrec<V<Vstの場合、〈2〉Vrec<V≦Vacrecの場合、〈3〉V≦Vrecの場合、〈4〉V≧Vstの場合の4つに切り分ける部分である。ここで、上記の「V」は車速センサにより検出される車速、「Vst」はコンプレッサ稼働度合増大許可車速、「Vacrec」はエアコンON時の燃料カットリカバー車速、「Vrec」はエアコンOFF時の燃料カットリカバー車速である。これら3つの車速の間にはVst>Vacrec>Vrecなる関係を有している。
【0037】
上記〈1〉の場合には、ステップ2、3よりステップ5に進みコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させる。これは、コンプレッサ稼働度合増大許可車速Vstの車速条件を設け、コンプレッサ稼働度合を増大する所定期間をVacrec<V<Vstの車速域とするものである。説明を飛ばしたステップ4については後述する。
【0038】
ここで、コンプレッサ稼働度合増大許可車速Vstとしては、次のように設定することが望ましい。すなわち、Vstを早期に設定するほどエバポレータ11の冷力が強くなり、この逆にVstを遅く設定するほどエバポレータ11の冷力が弱まる。従って、エバポレータ11を凍結させず、かつVacrec以下の車速域でコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より低下させた際に、Vrecに到達するまで空調性能を悪化させない冷力を蓄え得る車速に設定することが望ましい。具体的には実施形態では、Vacrecに10km/h程度を加えた値をVstとしている。
【0039】
ただし、所定期間(Vacrec<V<Vstの車速域)にあるとはいえ、エバポレータ温度がエバポーレータ下限温度Tlow以下のときにもコンプレッサ稼働度合を増大させたのでは、エバポレータ温度が下がり過ぎエバポレータ11が凍結するおそれがある。従って、エバポレータ温度がエバポーレータ下限温度Tlow以下のときに、コンプレッサ稼働度合を増大させることはしない。このため、ステップ5に進む前のステップ4で温度センサ52により検出されるエバポレータ温度Tevaとエバポレータ下限温度Tlowを比較し、エバポレータ温度Tevaがエバポーレータ下限温度Tlowを超えているときに限ってステップ5に進ませる。エバポレータ温度Tevaがエバポーレータ下限温度Tlow以下のときにはステップ4よりステップ9に進ませる。
【0040】
上記〈2〉の場合には、ステップ2、3、6よりステップ8に進みコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より低下させる。これは、コンプレッサ稼働度合を低下させる期間をVrec<V≦Vacrecの車速域とするものである。説明を飛ばしたステップ7については後述する。
【0041】
ただし、所定期間(Vrec<V≦Vacrecの車速域)にあるとはいえ、エバポレータ温度がエバポーレータ上限温度Thigh以上のときにもコンプレッサ稼働度合を低下させたのでは、エバポレータ温度が上がりエバポレータ冷力が不足するおそれがある。従って、エバポレータ温度がエバポーレータ上限温度Thigh以上のときに、コンプレッサ稼働度合を低下させることはしない。このため、ステップ8に進む前のステップ7で温度センサ52により検出されるエバポレータ温度Tevaとエバポレータ上限温度Thighを比較し、エバポレータ温度Tevaがエバポーレータ上限温度Thigh未満であるときに限ってステップ8に進ませる。エバポレータ温度Tevaがエバポーレータ上限温度Thigh以上のときにはステップ7よりステップ9に進ませる。
【0042】
上記〈3〉の場合にはステップ2、3、6よりステップ9に、上記〈4〉の場合にはステップ2よりステップ9に進む。ステップ9では、コンプレッサ1を燃料カットの非実行中(通常走行時)と同様のコンプレッサ稼働度合で制御する。
【0043】
次に、本実施形態の作用効果を、再び図2、図3を参照して説明する。前述したように、実線が本実施形態の場合である。
【0044】
まず図2から説明する。減速時燃料カットの実行開始車速Vfcからコンプレッサ稼働度合増大許可車速Vstまでの車速域では、コンプレッサ1を燃料カットの非実行中と同様のコンプレッサ稼働度合で制御する。このため、t11からt12の区間でコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させることとなり、エバポレータ温度がt11からt12の区間で低下している。
【0045】
そして、コンプレッサ稼働度合の増大を終了するt12のタイミングで反転してエバポレータ温度Tevaが上昇する(図2第5段目の実線参照)。ところが、t12の直ぐ後のt13のタイミングで車速がコンプレッサ稼働度合増大許可車速Vstに到達する。
このVstからVacrecまでの車速域(〈1〉の車速域)では、エバポレータ温度がエバポレータ下限温度Tlowを超えていることを条件として、コンプレッサ稼働度合を増大させるので、エバポレータ温度がt13からt14の区間で低下してゆく。これによって、車速がエアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecに到達するt14のタイミング手前でのエバポレータ11の冷力低下を防止することが可能となり、コンプレッサ稼働度合の低下に伴う車室内の空調の効きの悪化を防止できる。
【0046】
言い換えると、減速時燃料カットの実行開始車速からVstまでの車速域で燃料カットの非実行中と同様のコンプレッサ稼働度合制御が行われる場合に、その制御中のエバポレータ温度の変化は実験により予め知り得る。従って、車速がエアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecに到達するt14のタイミング手前でのエバポレータ11の冷力低下を防止できるように、コンプレッサ稼働度合増大許可車速Vstを適切に定めておくのである。
【0047】
次に、図3においても減速時燃料カットの実行開始車速Vfcからコンプレッサ稼働度合増大許可車速Vstまでの車速域で、コンプレッサ1を燃料カットの非実行中と同様のコンプレッサ稼働度合で制御する。このため、t11からt12の区間でコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させることとなり、エバポレータ温度がt11からt12の区間で低下し、t12のタイミングよりエバポレータ温度が上昇している。
【0048】
VstからVacrecまでの車速域になると、エバポレータ温度がエバポレータ下限温度Tlowを超えていることを条件として、コンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させるので、エバポレータ温度がt13からt14の区間で低下する。
【0049】
図3において、従来装置との相違は次の点である。すなわち、従来装置ではt1からt4(=t14)までの全区間でコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させている。これに対して本実施形態では、t13の手前のt12よりt13までの区間でコンプレッサ稼働度合を増大させていない。これは、Vstを絶妙に設定していることによる。この従来装置との相違により、従来装置によれば所定時間Tupが大き過ぎるためにコンプレッサ稼働度合の増大過剰によりエバポレータ11が凍結するところを、本実施形態によれば、こうしたコンプレッサ稼働度合の増大過剰によるエバポレータ11の凍結を防止できる。
【0050】
言い換えると、燃料カットの実行開始車速VfcからVstまでの車速域で燃料カットの非実行中と同様のコンプレッサ稼働度合制御が行われる場合に、その制御中のエバポレータ温度の変化は実験により予め知り得る。従って、Vstの手前でコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させない区間が生じるように、コンプレッサ稼働度合増大許可車速Vstを適切に定めるのである。
【0051】
このように本実施形態によれば、冷媒を吸入、圧縮、吐出するコンプレッサ1、このコンプレッサ1から吐出された高温、高圧の冷媒を凝縮させるコンデンサ7、このコンデンサ7で凝縮した冷媒を減圧する膨張弁10、この膨張弁10で低圧となった冷媒と周囲の空気との間で熱交換を行わせて冷媒を蒸発させるエバポレータ11を含む冷凍サイクルRと、コンプレッサ1の稼働度合を制御可能な制御アンプ51(コンプレッサ稼働度合制御手段)と、減速時に燃料カットを実行すると共に、この減速時燃料カット中かつコンプレッサ1の作動要求時(つまりエアコンON時)には減速時燃料カット中かつコンプレッサ1の作動非要求時(つまりエアコンOFF時)より早い燃料カットリカバー車速Vacrecで燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行うエンジンコントロールモジュール5(減速時燃料カット実行手段及び燃料カットリカバー実行手段)とを備え、制御アンプ51は、減速時燃料カット中に、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecの直前の所定期間、コンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させ(図4のステップ1、2、3、5参照)、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecになったときにコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より低下させるので(図4のステップ1、2、3、6、8参照)、減速時燃料カットの実行開始車速Vfc(実行開始時期)に拘わらず、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrec手前のエバポレータ11の冷力低下を回避し、コンプレッサ稼働度合の低下に伴う車室内の空調の効きの悪化を防止できる。また、コンプレッサ稼働度合の増大過剰によりエバポレータ11が凍結することを防止できる。
【0052】
VstからVacrecまでの所定期間にある場合に、エバポレータ温度がエバポーレータ下限温度Tlow以下のときにもコンプレッサ稼働度合を増大させたのでは、エバポレータ温度が下がり過ぎエバポレータ11が凍結するおそれがある。一方、本実施形態によれば、VstからVacrecまでの所定期間、コンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させるのは、エバポレータ温度が予め定めたエバポレータ下限温度Tlowより高いときであるので(図4のステップ4、5参照)、VstからVacrecまでの所定期間におけるエバポレータ11の凍結を防止できる。
【0053】
次に、図5のタイミングチャートも、図2、図3と同じに減速時燃料カット中に車速、コンプレッサ稼働度合、エバポレータ温度等がどのように変化するのかをモデルで示したものである。ただし、減速時燃料カット中だからといって従来装置を採用せず、燃料カットの非実行中と同様のコンプレッサ稼働度合制御を行った場合(図5では「コンプレッサ稼働度合を変化させない場合」で表示。)を破線で示している。破線で示す従来装置を採用しない場合には、ほぼ一定の周期でコンプレッサ稼働度合の増大と低下とが繰り返されている。すなわち、t21からt12までの区間でコンプレッサ稼働度合が増大し、t12からt22までの区間でコンプレッサ稼働度合が低下し、t22からt23までの区間でコンプレッサ稼働度合が増大している。
【0054】
このように従来装置を採用しない場合と実線で示す本実施形態を比較したとき、本実施形態によれば、コンプレッサ稼働度合を増大する所定期間を定めるVstを、エアコンON時(コンプレッサ作動要求時)の燃料カットリカバー車速Vacrec直前にエバポレータ11が凍りつかないように設定するので、エバポレータ11を凍らせることなく、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecにおいて冷力を多く蓄えた状態にすることができ、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrec後にコンプレッサ稼働度合の低下させられる期間(つまり燃料カット延長時間)を、従来装置を採用しない場合より長く確保することができる(図5第3段目参照)。
【0055】
実施形態では、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecに到達したときにコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より低下させる場合で説明したが、これに限られるものでない。例えば、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecに到達する直前でコンプレッサ稼働度合を燃料カットの非実行中より低下させるようにしてもかまわない。
【0056】
実施形態では、コンプレッサ1について詳述しなかったが、容量を調節可能な可変容量型のコンプレッサ、あるいはクラッチの離接によってON/OFFの2値的な制御を行う固定容量型のコンプレッサのいずれのコンプレッサにも本発明を適用可能である。
【0057】
例えば、可変容量型のコンプレッサを用いるときには、図4ステップ5においてコンプレッサ稼働度合としての容量デューティ比を、例えば最大値の100%へと増大させ、ステップ8においては容量デューティ比を、例えば最小値の0%へと低下させてやればよい。またステップ9では、エバポレータ温度が一定になるように容量デューティ比を制御する。
【0058】
一方、固定容量型のコンプレッサを用いるときには、ステップ5においてクラッチを接続してコンプレッサをONとし、ステップ8においてはクラッチを切離してコンプレッサをOFFにすればよい。またステップ9では、例えばエバポレータ温度が目標とするエバポレータ温度に対し高ければONとし、低ければOFFとするようにコンプレッサを制御する。
【0059】
実施形態では、ステップ4でエバポレータ凍結防止のための下限温度Tlow、ステップ7で空調性能悪化防止のための下限温度Thigh(Tlow、Thighはいずれも閾値)を設け、エバポレータ温度がそれぞれの閾値を越えないように制御を行っている。これは、エバポレータ温度を検出する温度センサ52を搭載する車両を前提とするものであるが、当該温度センサ52を持たずサーモスタットによる温度制御を行う車両にも本発明の適用がある。こうした車両でも、ステップ4においてコンプレッサ稼働度合を増大する継続時間が時間閾値に到達したらコンプレッサ稼働度合の増大を中止する。ステップ7でサーモスタットのコンプレッサON要求がない場合にステップ8に進ませ、サーモスタットのコンプレッサON要求があった場合にコンプレッサ稼働度合の低下を中止するためステップ9に進ませる。このような手法をとることで、エバポレータ温度センサ52を持たない車両であっても、減速時燃料カット中かつエアコンON時にエバポレータの凍結及び空調性能の悪化を防止することができる。
【0060】
本実施形態では 燃料カットリカバー時期が燃料カットリカバー車速である場合で説明した。これは、車速よりエンジンストールが生じるか否かを判断できるからである。エンジンストールが生じるか否かを判断できるパラメータであれば他のパラメータでもよく、例えば燃料カットリカバー時期が燃料カットリカバー回転速度である場合であってもかまわない。
【符号の説明】
【0061】
1 コンプレッサ
4 エンジン
5 エンジンコントロールモジュール(減速時燃料カット実行手段、燃料カットリカバー実行手段)
11 エバポレータ
51 制御アンプ(コンプレッサ稼働度合制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入、圧縮、吐出するコンプレッサ、このコンプレッサから吐出された高温、高圧の冷媒を凝縮させるコンデンサ、このコンデンサで凝縮した冷媒を減圧する膨張弁、この膨張弁で低圧となった冷媒と周囲の空気との間で熱交換を行わせて冷媒を蒸発させるエバポレータを含む冷凍サイクルと、
前記コンプレッサの稼働度合を制御可能なコンプレッサ稼働度合制御手段と
減速時に燃料カットを実行する減速時燃料カット実行手段と、
この減速時燃料カット中かつ前記コンプレッサの作動要求時には減速時燃料カット中かつ前記コンプレッサの作動非要求時より早い燃料カットリカバー時期に前記燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行う燃料カットリカバー実行手段と
を備え、
前記コンプレッサ稼働度合制御手段は、減速時燃料カット中に、前記コンプレッサ作動要求時の燃料カットリカバー時期の直前の所定期間、前記コンプレッサの稼働度合を前記燃料カットの非実行中より増大させ、前記コンプレッサ作動要求時の燃料カットリカバー時期になったときまたは当該燃料カットリカバー時期の直前で前記コンプレッサの稼働度合を前記燃料カットの非実行中より低下させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記所定期間を、前記コンプレッサ作動要求時の燃料カットリカバー時期または当該燃料カットリカバー時期の直前に前記エバポレータが凍りつかないように設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記所定期間、コンプレッサの稼働度合を燃料カットの非実行中より増大させるのは、前記エバポレータの温度が予め定めたエバポレータ下限温度より高いときであることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−1172(P2013−1172A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131838(P2011−131838)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】