説明

車両用空調装置

【課題】エアコンON時の燃料カットリカバー時期とエアコンOFF時の燃料カットリカバー時期との間にコンプレッサON要求があったときにおいても、燃料カット期間を延長させ得る装置を提供する。
【解決手段】減速時燃料カット中かつ冷凍サイクルの作動要求時には減速時燃料カット中かつ冷凍サイクルの作動非要求時より早い燃料カットリカバー時期に燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行う燃料カットリカバー実行手段を備え、コンプレッサ作動・非作動制御手段は、減速時燃料カット中に、コンプレッサの非作動状態でコンプレッサの作動要求時の燃料カットリカバー時期を過ぎたときには、その後コンプレッサの非作動要求時の燃料カットリカバー時期までにコンプレッサの作動要求があっても、前記燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサの非作動状態を継続する(図3のS1〜S7)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両空調装置、特に減速時燃料カット中の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
高い側からエアコンON時のロックアップ解除回転速度Nrls1、エアコンON時の燃料カットリカバー回転速度Nrcv1、エアコンOFF時のロックアップ解除回転速度Nrls2、エアコンOFF時の燃料カットリカバー回転速度Nrcv2の順に設ける。そして、コースト時に、エンジン回転速度がNrls1からNrcv2までの区間にある場合に、車室内温度の上昇によってコンプレッサON要求がきたとき、このタイミングでまずロックアップ解除信号を出力する。その後に実際にロックアップ解除状態となるタイミングで燃料カットリカバーを行わせると共に、エアコン用コンプレッサを駆動するものがある(特許文献1参照)。
【0003】
これは、ロックアップ解除信号を出力するタイミングで燃料カットリカバーを行わせたのでは、ロックアップ機構の解除応答遅れによってリカバーショックが生じるので、ロックアップ機構の解除応答遅れ後に燃料カットリカバーを行わせるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4337633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許得文献1の技術では、NeがNrls1からNrcv2までの区間にある場合にコンプレッサON要求がきたとき、ロックアップ解除信号を出力し、この出力タイミングより所定時間後に燃料カットリカバーを行うだけである。つまり、冷凍サイクルへの負荷を考慮していないので、燃費向上の観点より改善の余地がある。
【0006】
そこで本発明は、エアコンON時の燃料カットリカバー時期とエアコンOFF時の燃料カットリカバー時期との間にコンプレッサON要求があったときにおいても、燃料カット期間を延長させ得る装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用空調装置は、冷媒を吸入、圧縮、吐出するコンプレッサ、このコンプレッサから吐出された高温、高圧の冷媒を凝縮させるコンデンサ、このコンデンサで凝縮した冷媒を減圧する膨張弁、この膨張弁で低圧となった冷媒と周囲の空気との間で熱交換を行わせて冷媒を蒸発させるエバポレータを含む冷凍サイクルと、前記コンプレッサの作動・非作動を制御可能なコンプレッサ作動・非作動制御手段と、減速時に燃料カットを実行する減速時燃料カット実行手段と、この減速時燃料カット中かつ前記コンプレッサの作動要求時には減速時燃料カット中かつ前記コンプレッサの非作動要求時より早い燃料カットリカバー時期に前記燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行う燃料カットリカバー実行手段とを備えている。そして、前記コンプレッサ作動・非作動制御手段は、前記減速時燃料カット中に、前記コンプレッサの非作動状態でコンプレッサの作動要求時の燃料カットリカバー時期を過ぎたときには、その後コンプレッサの非作動要求時の燃料カットリカバー時期までにコンプレッサの作動要求があっても、前記燃料カットリカバーを禁止してコンプレッサの非作動状態を継続する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、減速時燃料カット中において、コンプレッサの作動要求時の燃料カットリカバー時期からコンプレッサの非作動要求時の燃料カットリカバー時期までの区間にコンプレッサON要求があったとき、即座に燃料カットリカバーを行うと共にコンプレッサ1をON状態にする参考例より燃料カット時間を延長することができ、燃費が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態の車両用空調装置の概略構成図である。
【図2】減速時燃料カット中の車速、コンプレッサON・OFF状態、エバポレータ温度等の各変化を示すタイミングチャートである。
【図3】減速時燃料カット中のコンプレッサ作動・非作動制御を説明するためのフローチャートである。
【図4】外気温に対するコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度の特性図である。
【図5】冷媒圧力に対するコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度の特特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0011】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態の車両用空調装置の概略構成図である。図1において、車両用空調装置の冷凍サイクルRには、コンプレッサ1、コンデンサ7、膨張弁10、エバポレータ11が含まれる。冷媒を吸入、圧縮、吐出するコンプレッサ1には動力断続用の電磁クラッチ2が設けてある。コンプレッサ1には電磁クラッチ2及びベルト3を介してエンジン4の動力が伝達されるので、電磁クラッチ2への通電及び非通電をエンジンコントロールモジュール5、アンダースイッチングモジュール6により断続することでコンプレッサ1の運転が断続される。
【0012】
コンプレッサ1から吐出された高温及び高圧のガス状の冷媒はコンデンサ7に流入し、冷却ファン8より送風される外気と熱交換して冷却され凝縮する。コンデンサ7で凝縮した冷媒は膨張弁10により低圧に減圧され、低圧の気液2相状態となる。膨張弁10からの低圧冷媒はエバポレータ11に流入する。エバポレータ11は車両用空調装置の空調ケース21内に設置され、エバポレータ11に流入した低圧冷媒は空調ケース21内の空気から吸熱して蒸発する。エバポレータ11の出口はコンプレッサ1の吸入側に結合されている。このようにして冷凍サイクルRは閉回路を構成している。
【0013】
空調ケース21において、上記エバポレータ11の上流側には送風機22が配置され、送風機22にはブロアファン23と駆動用モータ24とが備えられている。ブロアファン23の吸入側では、内外気切換ドア25により外気導入口27と内気導入口28とが開閉される。これにより、外気(車室外空気)または内気(車室内空気)が切換導入される。内外気切換ドア25はサーボモータからなる電気駆動装置26により駆動される。
【0014】
一方、上記エバポレータ11の下流側には、後述する蓄冷器12、エアミックスドア31が順次配置されている。エアミックスドア31の下流側にはエンジン4の温水(冷却水)を熱源として空気を加熱する温水式ヒータコア(暖房用熱交換器)33が設置されている。この温水式ヒータコア33の側方(上方部)には、温水式ヒータコア33をバイパスして空気(冷風)を流すバイパス通路34が形成されている。
【0015】
上記エアミックスドア31は回動可能な板状ドアであり、サーボモータからなる電気駆動装置32により駆動される。
エアミックスドア31は、温水式ヒータコア33を通過する温風とバイパス通路34を通過する冷風との風量割合を調節するものであって、この冷温風の風量割合の調節により車室内への吹き出し温度を調節する。
【0016】
温水式ヒータコア33の下流側には空気混合部35が設けられ、ここで温水式ヒータコア33からの温風とバイパス通路34からの冷風が混合して、所望温度の空気が作り出される。
【0017】
さらに、空気混合部35の下流側には、デフロスタ開口部36、フェイス開口部37、フット開口部38が形成され、各開口部はそれぞれ回動可能な板状のデフロスタドア39、フェイスドア40、フットドア41により開閉される。3つのドア39、40、41は共通のリンク機構に連結され、このリンク機構を介してサーボモータからなる電気駆動装置42により駆動される。例えば、デフロスタドア39が開いているときには図示しないデフロスタダクトを介して車両フロントガラス内面に空気が、フェイス開口部37が開いているときには図示しないフェイスダクトを介して車室内乗員の上半身に向けて空気が吹き出す。また、フット開口部38が開いているときには図示しないフットダクトを介して車室内乗員の足元に向けて空気が吹き出す。
【0018】
制御アンプ51(コンプレッサ作動・非作動制御手段)には温度センサ52からのエバポレータ温度(エバポレータ吹出温度)、エアコンスイッチ53からのエアコン信号が入力されている。制御アンプ51では、エアコンスイッチ53がON状態であるときに、温度センサ52により検出される実際のエバポレータ温度がエバポレータ11の目標温度と一致するようにコンプレッサ稼働度合を制御するためのデューティ信号をコンプレッサ1に出力する。
【0019】
また、エアコンスイッチ53がONにされたときには、制御アンプ51はコンプレッサ1を作動させる信号をCAN通信56でエンジンコントロールモジュール5に送信する。なお、制御アンプ51は、目標風量が得られるようにブロアファン駆動用モータ24を制御し、吹出口と吸込口の自動制御のため電気駆動装置26、32、42を駆動している。
【0020】
エンジンコントロールモジュール5は、エンジン4の運転状態を検出する各種センサからの信号に基づいてエンジン4への燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期を制御する。
【0021】
また、冷媒圧力センサ54からの冷媒圧力、アクセルセンサ55からのアクセル開度がエンジンコントロールモジュール5に入力されている。エンジンコントロールモジュール5ではこれらの信号により、コンプレッサ1を作動できると判断すると、コンプレッサON信号をCAN通信56でアンダースイッチングモジュール6に送信する。エンジンコントロールモジュール5からコンプレッサON信号を受信したアンダースイッチングモジュール6ではモジュール6内のエアコンリレーをONし、電磁クラッチ2を接続してコンプレッサ1を作動させる。
【0022】
また、エンジンコントロールモジュール5(減速時燃料カット実行手段)では、燃費向上のため、車両の減速時に燃料カットを実行する。そして、エンジンコントロールモジュール5(燃料カットリカバー実行手段)では、減速時燃料カット中かつエアコンON時に、 減速時燃料カット中かつエアコンOFF時より早い燃料カットリカバー速度で燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行う。ここで、エアコン(エアコンディショナー)ON時とはエアコンスイッチ53がON状態であるとき(つまりコンプレッサ1の作動要求時)、エアコンOFF時とはエアコンスイッチ53がOFF状態であるとき(つまりコンプレッサ1の作動非要求時)である。
【0023】
エバポレータ11のすぐ下流には蓄冷器12を備える。蓄冷器12は、図1に示すようにエバポレータ11と同一の前面面積を有する形状として、エバポレータ11通過後の冷風の全量(空調ケース21内風量の全量)が通過する構成となっている。これにより、蓄冷器12は空調ケース21内の空気流れ方向に対して厚さ寸法の小さい薄型構造とすることができる。
【0024】
熱交換器としての蓄冷器12の具体的な構成は、例えば熱伝導性に優れたアルミニュウム等の金属によりチューブ状部材を形成し、このチューブ状部材の内部に蓄冷剤を収納して密封するようになっている。このチューブ状部材は所定間隔を隔てて多数配置し、この多数のチューブ状部材相互間の隙間を空気が通過する構成になっている。蓄冷器12の構成は、これに限られるものでなく、エバポレータ11を流れる冷媒により冷却される蓄冷剤を内部に封入した蓄冷器の構成としてもかまわない。
【0025】
さて、高い側からエアコンON時のロックアップ解除回転速度Nrls1、エアコンON時の燃料カットリカバー回転速度Nrcv1、エアコンOFF時のロックアップ解除回転速度Nrls2、エアコンOFF時の燃料カットリカバー回転速度Nrcv2の順に設ける。そして、コースト時に、エンジン回転速度がNrls1からNrcv2までの区間にある場合に、車室内温度の上昇によってコンプレッサON要求がきたとき、このタイミングでまずロックアップ解除信号を出力する。その後に実際にロックアップ解除状態となるタイミングで燃料カットリカバーを行わせると共に、エアコン用コンプレッサを駆動する従来装置がある。ここで、上記の「コースト時」とは、燃料カット状態で車両が惰性走行しエンジン回転速度Neが低下してゆく運転時のことである。
【0026】
この従来装置では、エンジン回転速度がNrls1からNrcv2までの区間にある場合にコンプレッサON要求がきたとき、ロックアップ解除信号を出力し、この出力タイミングより所定時間後に燃料カットリカバーを行うだけである。つまり、外気温や冷媒圧力といった冷凍サイクルRへの負荷を考慮していないので、燃費向上の観点より改善の余地がある。
【0027】
これについて図2を参照して説明する。図2のタイミングチャートは減速時燃料カット中に車速、コンプレッサ1のON・OFF状態、エバポレータ温度等がどのように変化するのかをモデルで示したものである。本発明を採用しない場合を参考例として、この参考例の場合の変化を破線で、本実施形態の場合の変化を実線で示している。
【0028】
なお、上記従来装置は、エアコンON時、OFF時の違いと燃料カットリカバー回転速度とロックアップ解除回転速度との3つを対象として、ロックアップ機構の応答遅れに伴うリカバーショックを問題とするものであった。一方、本実施形態では、燃料カット期間をでき得る限り長くして燃費を向上させることを目的とするので、ロックアップ状態は示すものの、ロックアップ解除回転速度は示していない(図2参照)。
【0029】
また、上記従来装置は 燃料カットリカバー時期として燃料カットリカバー回転速度を用いるものである。これは、エンジン回転速度よりエンジンストールが生じるか否かを判断できるからである。エンジンストールが生じるか否かを判断できるパラメータであれば他のパラメータでもよいので、本実施形態では、燃料カットリカバー時期として燃料カットリカバー車速を用いている。もちろん、燃料カットリカバー回転速度である場合であってもかまわない。
【0030】
図2において、エアコンON時燃料カットリカバー車速Vacrecは、エアコンON状態(コンプレッサ1の作動状態)で車速がこの車速Vacrec未満となったとき、燃料カットリカバーを行わせるための車速である。一方、エアコンOFF時燃料カットリカバー車速Vrecは、エアコンOFF状態(コンプレッサ1の非作動状態)で車速がこの車速Vrec未満となったとき、燃料カットリカバーを行わせるための車速である。
【0031】
さて、図2において、高車速(例えば100km/h)からt1のタイミングでアクセル開度がゼロとなり(アクセルペダルが戻され)減速時が開始された場合、車速は直線的に低下してゆく。かつそのときの車速が燃料カット車速Vfcを超えていれば、燃料カット許可条件が成立し、t2のタイミングで燃料カットフラグ=1となる。この燃料カットフラグ=1を受けてエンジンコントロールモジュール5が燃料カットを行う。
【0032】
一方、参考例では、一般的なコンプレッサ作動・非作動制御を行っている。この制御は、コンプレッサON要求時のエバポレータ温度Tonと、コンプレッサOFF要求時のエバポレータ温度Toff(Toff<Ton)とを設け、エバポレータ温度がこの2つの温度の間に収まるように、ほぼ一定の周期でコンプレッサ1のON状態(作動状態)とOFF状態(非作動状態)とを繰り返すものである。図2ではt1より前のt0からコンプレッサ1をON状態とし、減速時燃料カット中になったt3でコンプレッサ1をOFF状態としている。このように、燃料カット中となったt3以降はエンジン4によりコンプレッサ1を駆動できないので、一般的なコンプレッサ作動・非作動制御は中断されることとなる。この結果、t3よりエバポーレータ温度は上昇してゆく。
【0033】
t3からのエバポーレータ温度の上昇を受けて冷凍サイクルRの効きが悪くなり、例えばt5のタイミングでコンプレッサON要求があったとする。t5での車速Vは、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrec未満であるので、t5のタイミングで即座に燃料カットリカバーが行われると共に、コンプレッサON要求に応えようとコンプレッサ1がON状態とされる。一般的なコンプレッサ作動・非作動制御が再開されるのであり、これによってエバポーレータ温度はt5より低下してゆく。そして、エバポーレータ温度がt7のタイミングでコンプレッサOFF要求エバポレータ温度Toffに到達するとコンプレッサ1がOFF状態とされる。
【0034】
このように、参考例によれば、t5のタイミングでコンプレッサON要求がなければ、車速がエアコンOFF時の燃料カットリカバー車速Vrecに到達するt6のタイミングまで燃料カットを行うことができたのに、t5のタイミングでコンプレッサON要求があったためにt5からt6までの区間だけ燃料カット期間が短くなってしまっている。
【0035】
さて、コンプレッサOFF要求エバポレータ温度Toffはエバポレータ凍結防止のため閾値、コンプレッサON要求エバポレータ温度Tonは車室内の空調性能悪化防止のための閾値である。このうち、コンプレッサON要求時のエバポレータ温度Tonはコンプレッサ1をON状態として冷凍サイクルRを働かせたとき、車室内の空調性能が悪化しないよう、外気温が所定値のときに適合される。なお、コンプレッサOFF要求時のエバポレータ温度Toffはコンプレッサ1をON状態として冷凍サイクルRを働かせたとき、エバポレータの凍結が防止されるよう、外気温が所定値のときに適合される。ここで、上記の所定値は適合時の外気温度である。このため、エバポレータ温度が同じであっても、外気温(冷凍サイクルに対する負荷状態)によってドライバの体感が異なるので、エバポーレータ温度が実際にはコンプレッサON要求エバポレータ温度Tonを超えていても暑く感じられないことがある。例えば、実際の外気温が適合時の外気温より低いほうが車両から熱が奪われるので、実際の外気温が適合時の外気温より低いときには、適合時の外気温度のときよりエバポレータ温度が高くても暑さを感じないものなのである。
【0036】
そこで、本発明の第1実施形態では、実際の外気温が適合時の外気温より外れて低いときにドライバが暑く感じられない温度の上限を「コンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLim」として新たに導入する。このコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLim(コンプレッサの非作動状態を継続することを許可する上限温度)は、図2第5段目に示したようにコンプレッサON要求エバポレータ温度Tonよりも高い位置にくる。つまり、実際の外気温が適合時の外気温よりより低ければt5でコンプレッサON要求があっても、エバポレータ温度が上限温度TLimに到達するまでは、ドライバには実際には暑く感じられないはずである。従って、エバポレータ温度が上限温度TLimに到達するまでは、ドライバの意思に従ってコンプレッサ1を即座にONへと切換えなくとも問題はない。それよりも燃料カットを継続して燃費を向上させたほうが好ましいといえる。
【0037】
そこで第1実施形態では、減速時燃料カット中に、エアコンON時の燃料カットリカバー車速VacrecからエアコンOFF時の燃料カットリカバー車速Vrecまでの車速域でコンプレッサON要求があったときには、燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態を継続する。
【0038】
制御アンプ51(コンプレッサ作動・非作動制御手段)により行われるこの減速燃料カット中のコンプレッサ作動・非作動制御を、図3のフローチャートを参照して詳述する。図3のフローは一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
【0039】
まずステップ1でコンプレッサ1がOFF状態(非作動状態)にあるか否か否かをみる。コンプレッサ1がON状態(作動状態)であるときには本発明の対象外であるので、ステップ12に進む。ステップ12では温度センサ52により検出されるエバポレータ温度TevaとコンプレッサOFF要求エバポレータ温度Toffを比較する。エバポレータ温度TevaがコンプレッサOFF要求エバポレータ温度Toff以下であれば、エバポレータ11の凍結を避けるため、コンプレッサ1をOFF状態とする。一方、エバポレータ温度TevaがコンプレッサOFF要求エバポレータ温度Toffを超えていればステップ12よりステップ14に進み、コンプレッサ1のON状態を継続する。
【0040】
ステップ1でコンプレッサ1がOFF状態にあるときにはステップ2に進み、温度センサ52により検出されるエバポレータ温度TevaとコンプレッサON要求エバポレータ温度Tonを比較する。エバポレータ温度TevaがコンプレッサON要求エバポレータ温度Ton未満であるときには、コンプレッサ1をONとする必要がないので、なにもせずそのまま今回の処理を終了する。
【0041】
一方、エバポレータ温度TevaがコンプレッサON要求エバポレータ温度Ton以上であるときには、適合時の外気温度であれば、冷凍サイクルRの効きが悪くなるので、基本的にコンプレッサ1をON状態にしてエバポレータ冷力を強化する必要がある。しかしながら、車室内の空調状態は実際の外気温の影響を大きく受けるので、燃料カット中に燃料カットリカバーを即座に行わなくても、車室内の空調状態が良好に維持される場合がある。つまり、この場合には燃料カットリカバーを行うこと禁止してコンプレッサ1をOFF状態に維持することで、燃料カット時間を長く維持することができ、燃費が向上する。
【0042】
ステップ3、4、5は燃料カット中に燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1をOFF状態に維持しても車室内の空調状態が良好に維持される場合であるか否かを判断する部分である。燃料カット中に燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1をOFF状態に維持しても車室内の空調状態が良好に維持される場合とは次の3つの条件を全て満たす場合である。
【0043】
〈1〉ステップ3で減速時燃料カット中であること。この条件を必要とするのは、燃料カット期間を継続するにしても、燃料カットが行われていることが前提となるためである。例えば、アクセル開度がゼロとなり(アクセルペダルが戻され)、かつそのときの車速が燃料カット車速Vfcを超えていれば、燃料カット許可条件が成立し、燃料カットフラグ=1となる。この燃料カットフラグ=1を受けてエンジンコントロールモジュール5が燃料カットを行う。従って、燃料カットフラグ=1であるときには減速時燃料カット中であると判断しステップ4、5に進む。
【0044】
〈2〉ステップ4で車速VがエアコンON時の燃料カットリカバー車速VacrecからエアコンOFF時の燃料カットリカバー車速recまでの車速域(Vrec<V<Vacrec)にあること。この条件を必要とするのは、この車速域でコンプレッサON要求があった場合に、即座に燃料カットリカバーを行ってコンプレッサ1をON状態にしたのでは、燃料カット期間が短くなってしまうためである。
【0045】
〈3〉ステップ5で温度センサ52により検出されるエバポレータ温度TevaがコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLim以下であること。コンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLimは、燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1をOFF状態に維持しても車室内の空調状態が良好に維持されるか否かを判別するための値である。この値は、冷凍サイクルRに対する負荷状態によって異なってくるので、冷凍サイクルRに対する負荷に応じた可変値として設定する。
【0046】
冷凍サイクルRに対する負荷として、例えば外気温や冷媒圧力等を挙げることができる。外気温を採用するときには、実際の外気温が適合時の外気温を外れて低くなるほど、コンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLimが高くなるように設定する。具体的には、図4に示したように適合時の外気温と実際の外気温とが一致するときのTLimをコンプレッサON要求エバポレータ温度Tonとして、適合時の外気温と実際の外気温との温度差ΔTが大きくなるほどTLimがTonより大きくなるようにする。これは、車室内の空調が必要とされる場合に、実際の外気温が適合時の外気温より低いときのほうが実際の外気温が適合時の外気温と一致するときより車両が冷やされる分、車室内の空調の効きが良くなる。つまり、実際の外気温が適合時の外気温より低いときには、車室内の空調の効きが良くなる分だけ、実際の外気温が適合時の外気温と一致するときよりエバポレータ温度が高くてもドライバは暑さを感じないものだからである。実際の外気温は外気温センサ57により検出すればよい。
【0047】
また、冷媒圧力(コンプレッサ1出口での冷媒圧力)が小さいほどコンプレッサ1にかかっている負荷が小さい、すなわち冷凍サイクルRに対する負荷が小さいことになるので、実際の冷媒圧力が適合時の冷媒圧力を外れて小さくなるほどコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLimが高くなるように設定する。具体的には、図5に示したように実際の冷媒圧力と適合時の冷媒圧力とが一致するときのTLimをコンプレッサON要求エバポレータ温度Tonとして、実際の冷媒圧力と適合時の冷媒圧力との圧力差ΔPが負の値で大きくなる(負の方向に大きくなる)ほどTLimがTonより大きくなるようにする。これは、実際の冷媒圧力が適合時の冷媒圧力より小さいときには、空調性能を維持するのにかかるコンプレッサの負荷が小さくて済み、車室内の空調の効きが良くなる分だけ、実際の冷媒圧力が合時の冷媒圧力と一致するときよりエバポレータ温度が高くてもドライバは暑さを感じないものだからである。
【0048】
上記〈1〉〜〈3〉の3つの条件を全て満たす場合に、燃料カット中にコンプレッサ1をON状態にせず、コンプレッサ1をOFF状態に維持しても車室内の空調状態が良好に維持される場合であると判断する。このときには、ステップ6、7に進んで燃料カットを維持すると共に、コンプレッサ1をOFF状態に維持する。
【0049】
上記〈3〉の条件を満たさないときにはステップ5からステップ8、9に進んで燃料カットリカバーを即座に行うと共に、コンプレッサをONへと切換える。エバポレータ温度TevaがコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLimを超えているときには、夏場において外気温が相対的に低いときといえども車室内の空調の効きが悪くなって暑さを感じる。そこで、このときには参考例と同様の一般的なコンプレッサ作動・非作動制御を行わせるとするものである。
【0050】
上記〈2〉の条件を満たさない、つまりVacrec≦V≦Vfcの車速域にあるときには、ステップ4からステップ10に進んで燃料カットを維持する。Vacrec≦V≦Vfcの車速域にあるときとは、燃料カット車速VfcよりエアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecまでの車速域にあるときである。これは、エアコンON時の燃料カットリカバー車速Vacrecに到達する前のこの車速域においては、もともと燃料カットを維持すべき領域であるためである。
【0051】
上記〈1〉の条件を満たさないときは本発明の対象外であるので、一般的なコンプレッサ作動・非作動制御を行わせるためステップ3よりステップ11に進んでコンプレッサ1を即座にONへと切換える。
【0052】
次に、本実施形態の作用効果を、再び図2を参照して説明する。前述したように、実線が本実施形態の場合である。
【0053】
図2第5段目に示したように、減速時燃料カット中にVrec<V<Vacrecの車速域において、エバポレータ温度はコンプレッサON要求エバポレータ温度Ton以上にありかつコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLim以下の温度域にある。このため、本実施形態では、燃料カット中にあるt4からt6までの区間においてはコンプレッサ1をON状態にせず、コンプレッサ1をOFF状態に維持しても車室内の空調状態が良好に維持されると判断し燃料カットを継続する。この結果、本実施形態では、t4からt6までの区間が燃料カット継続期間となる。
【0054】
さらに述べると、本実施形態では、図3のステップ4とステップ5の間にコンプレッサON要求があったか否かの判定を加えていない。つまり、Vrec<V<Vacrecの車速域では、コンプレッサON要求のあるなしに拘わらず、エバポレータ温度がコンプレッサON要求エバポレータ温度Ton以上かつコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLim以下にある限り、燃料カットが継続される。
【0055】
従って、仮にt5のタイミングでコンプレッサON要求があったとしたとき、参考例によれば、t5のタイミングで即座に燃料カットリカバーが行われる。一方、本実施形態では、仮にt5のタイミングでコンプレッサON要求があったとしたときでも、t5以降も燃料カットとコンプレッサOFF状態とが継続され、t6に至って燃料カットリカバーが行われる。参考例と比較したとき、本実施形態のほうが燃料カット期間がt5からt6まで期間だけ延長することができるのである。
【0056】
このように本実施形態によれば、冷媒を吸入、圧縮、吐出するコンプレッサ1、このコンプレッサ1から吐出された高温、高圧の冷媒を凝縮させるコンデンサ7、このコンデンサ7で凝縮した冷媒を減圧する膨張弁10、この膨張弁10で低圧となった冷媒と周囲の空気との間で熱交換を行わせて冷媒を蒸発させるエバポレータ11を含む冷凍サイクルRと、コンプレッサ1の作動・非作動を制御可能な制御アンプ51(コンプレッサ作動・非作動制御手段)と、減速時に燃料カットを実行すると共に、この減速時燃料カット中かつエアコンON時(コンプレッサ1の作動要求時)には減速時燃料カット中かつエアコンOFF時(コンプレッサ1の作動非要求時)より早い燃料カットリカバー車速Vacrecで燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行うエンジンコントロールモジュール5(減速時燃料カット実行手段及び燃料カットリカバー実行手段)とを備え、制御アンプ51は、減速時燃料カット中に、コンプレッサ1OFFの状態(コンプレッサ1の非作動状態)でエアコンON時(コンプレッサの作動要求時)の燃料カットリカバー車速Vacrecを過ぎたときには、その後エアコンOFF時(コンプレッサの非作動要求時)の燃料カットリカバー車速VrecまでにコンプレッサON要求(コンプレッサの作動要求)があっても、前記燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態(非作動状態)を継続する(図3のステップ1、2、3、4、5、6、7参照)。これによって、VacrecからVrecまでの区間にコンプレッサON要求があったとき、即座に燃料カットリカバーを行うと共にコンプレッサ1をON状態にする参考例より燃料カット時間を延長することができ、燃費が向上する。
【0057】
本実施形態によれば、燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態(非作動状態)を継続するか否かを冷凍サイクルRへの負荷により判定するので(図3のステップ5、6、7参照)、冷凍サイクルRへの負荷が相違しても、燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態(非作動状態)を継続するか否かの判定を精度良く行うことができる。
【0058】
本実施形態によれば、冷凍サイクルRへの負荷は外気温であり、この外気温に応じてコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLim(コンプレッサの非作動状態を継続することを許可する上限温度)を算出し(図4参照)、エバポレータ温度TevaがこのコンプレッサOFF許可エバポレータ上限温度TLim以下のときに、燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態(非作動状態)を継続すると判定するので(図3のステップ5、6、7参照)、外気温が相違しても、燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態(非作動状態)を継続するか否かの判定を精度良く行うことができる。
【0059】
本実施形態によれば、燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態(非作動状態)を継続する期間は、最大でエアコンOFF時(コンプレッサ1の非作動要求時)の燃料カットリカバー車速Vrecに到達するまでとするので(図3のステップ4、6、7参照)、燃料カット時間を延長しつつも、コンプレッサON禁止による空調性能の悪化を最小限に抑えることができる。
【0060】
実施形態では、燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態(非作動状態)を継続する期間を、エアコンOFF時の燃料カットリカバー車速Vrecに到達するまでとする場合で説明したが、これに限られるものでない。例えば、図2において燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサ1のOFF状態(非作動状態)を継続する期間を、t4から所定の時間だけ、つまりt6に届かない期間としてもかまわない。
【0061】
実施形態では、コンプレッサ1について詳述しなかったが、容量を調節可能な可変容量型のコンプレッサ、あるいはクラッチの離接によってON/OFFの2値的な制御を行う固定容量型のコンプレッサのいずれのコンプレッサにも本発明を適用可能である。
【0062】
実施形態では、コンプレッサOFF要求エバポレータ温度Toff、コンプレッサON要求エバポレータ温度Ton(Toff、Tonはいずれも閾値)を設け、エバポレータ温度がそれぞれの閾値を越えないように制御を行っている。これは、エバポレータ温度を検出する温度センサ52を搭載する車両を前提とするものであるが、当該温度センサ52を持たずサーモスタットによる温度制御を行う車両の場合にも本発明の適用がある。当該車両でも、外部負荷によってコンプレッサON禁止時間の閾値を設定し、制御する方法が考えられる。ただしこの場合、エバポレータ温度を使った厳密な温度管理ができないので、コンプレッサONの禁止を連続で継続した場合に空調性能を著しく悪化させる懸念がある。そこで空調悪化を防ぐための手段として、コンプレサ1のON/OFFを最低1回経験(サーモスタッドによりエバポレータ温度が管理された状態)しなければコンプレッサ1のON禁止を行わせないなどの方策が一例として考えられる。
【0063】
本実施形態では 燃料カットリカバー時期が燃料カットリカバー車速である場合で説明した。これは、車速よりエンジンストールが生じるか否かを判断できるからである。エンジンストールが生じるか否かを判断できるパラメータであれば他のパラメータでもよく、例えば燃料カットリカバー時期が燃料カットリカバー回転速度である場合であってもかまわない。
【符号の説明】
【0064】
1 コンプレッサ
4 エンジン
5 エンジンコントロールモジュール(減速時燃料カット実行手段、燃料カットリカバー実行手段)
11 エバポレータ
51 制御アンプ(コンプレッサ作動・非作動制御手段)
57 外気温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を吸入、圧縮、吐出するコンプレッサ、このコンプレッサから吐出された高温、高圧の冷媒を凝縮させるコンデンサ、このコンデンサで凝縮した冷媒を減圧する膨張弁、この膨張弁で低圧となった冷媒と周囲の空気との間で熱交換を行わせて冷媒を蒸発させるエバポレータを含む冷凍サイクルと、
前記コンプレッサの作動・非作動を制御可能なコンプレッサ作動・非作動制御手段と
減速時に燃料カットを実行する減速時燃料カット実行手段と、
この減速時燃料カット中かつ前記コンプレッサの作動要求時には減速時燃料カット中かつ前記コンプレッサの作動非要求時より早い燃料カットリカバー時期に前記燃料カットを解除して燃料カットリカバーを行う燃料カットリカバー実行手段と
を備え、
前記コンプレッサ作動・非作動制御手段は、減速時燃料カット中に、前記コンプレッサの非作動状態でコンプレッサの作動要求時の燃料カットリカバー時期を過ぎたときには、その後コンプレッサの非作動要求時の燃料カットリカバー時期までにコンプレッサの作動要求があっても、前記燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサの非作動状態を継続することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサの非作動状態を継続するか否かを前記冷凍サイクルへの負荷により判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記冷凍サイクルへの負荷は外気温であり、この外気温に応じて前記コンプレッサの非作動状態を継続することを許可する上限温度を算出し、前記エバポレータの温度がこの上限温度以下のときに、前記燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサの非作動状態を継続すると判定することを特徴とする請求項2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記燃料カットリカバーを行うことを禁止してコンプレッサの非作動状態を継続する期間は、最大で前記コンプレッサの非作動要求時の燃料カットリカバー時期に到達するまでとすることを特徴とする請求項2または3に記載の車両用空調装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−1344(P2013−1344A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137300(P2011−137300)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】