説明

車両走行制御方法及び装置

【課題】 車両の追従走行時に於いて、消費エネルギーを大幅に増大せずに、後方の車両へ導入されるべき空気流量の低減を抑制する車両走行制御方法及び走行制御装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の走行制御方法及び装置では、自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容されて、自車内へ吹き込まれる流入空気流量が、空気流によって冷却される対象物の必要とする必要空気流量よりも少ないときに、自車内に空気を導入する部位を他車の後方の空気流の剥離域から外すことにより流入空気流量を増大することを特徴とする。これにより、自車の冷却システムの性能が維持された状態で、自車と他車の双方に於いて空気抵抗低減効果による消費エネルギーの節約と走行安定性向上とが達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の走行制御方法及び車両走行制御装置に係り、より詳細には、複数の車両の隊列走行時又は追従走行時に於いて、車両の周囲及び内部の空気流を考慮して、車両の空気抵抗低減や横風に対する走行安定性向上を実現し、車両の運動性能を改善すると共に、車両のエンジンの冷却、空調装置の性能維持を良好に達成するための方法及び装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に於いて、エンジンの冷却のために、典型的には、エンジン冷却水が流通するラジエータに空気流を通過させ、これにより、エンジン冷却水の放熱をする構成が設けられている。ラジエータに通過させる空気流は、車両の前方から導入される車両の走行中の走行風と、ラジエータの後方に配置されてエンジンにより回転駆動される冷却ファンにより強制的に生成される空気流とで構成される。かかる構成に於いて、走行風の流量は車速によって変化し、また、空気流の温度は、外気温によって大幅に変動するので、エンジン冷却水温を適切なレベルに維持すべく、車両の前方から導入される外気の流量を制御するための構成が提案されている。例えば、特許文献1には、空気導入口となる車両前部のグリルに於ける開口面積をエンジン温度に基づいて調節する構成が提案されている。また、特許文献2には、風圧の増加に伴って、車両前部のグリルの開口面積が自動的に調整される構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−142126
【特許文献2】特開2010−120458
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、走行中の車両の周囲の空気流は、走行抵抗の一つとして作用すると共に、車両の走行安定性に影響するので、かかる空気流を制御して、車両の走行中の消費エネルギーを低減し、或いは、走行安定性を向上する試みが種々提案されている。例えば、従来の技術に於いては、車両の周囲の空気の流れ場を安定させるために、車体にウィング等のデバイスを取り付けることにより、車体を路面に押し付ける力を発生して、走行安定性の向上が図られたり、外乱風に対抗可能とし空気抵抗を低減するべく車体形状を最適化するといったことが行われている。この点に関し、或る二つの車両が近接して走行しているとき、双方の車両の正面が空いており、それぞれが正面から空気流を受ける場合と、二つの車両が隊列走行し、後方車両が前方車両の後方の空気流の剥離域内に在る場合とでは、後者の場合の方が双方の車両の受ける空気抵抗が低減され、又、車両の走行安定性も向上される(図1参照)。また、後方車両が前方車両の後方の空気流の剥離域内から剥離域外へ脱出すると、その効果は激減し、又、車体に揺り返しが発生し、車両の走行安定性が過渡的に悪化する。従って、二つの車両が近接して走行している時には、一方の車両は、積極的に他方の車両の後方の剥離域内に収容されるよう走行することにより、消費エネルギーの低減と車両の走行安定性向上が期待できる。そこで、本発明の発明者は、二つの車両が近接して走行しているときには、自車と他車の双方の走行安定性能向上と消費エネルギーの節約を図るべく、一方の車両が他方の車両の後方の空気流の剥離域内へ積極的に収容されるよう車両の走行位置を制御する車両の走行制御装置を提案した。(特願2011−65081参照)
【0005】
しかしながら、一方の車両が他方の車両の後方にて追従走行する場合、特に、上記の如く後方の車両が前方の車両の後方の空気流の剥離域内に収容されて走行する場合、後方の車両に於いては、走行動圧の減少によって、エンジン冷却水の放熱用のラジエータや空調装置などの冷却システムへの通気風量の低減や放熱フィンへの接触風量の低減が生じ、その結果、エンジン冷却性能、空調性能の低下が惹起され得る。勿論、エンジン冷却性能や空調性能の低下は、電動又は油圧駆動の冷却ファンによる強制的な通気風量の増大により抑制可能であるが、その場合、ファンの回転量の増大に伴って、消費エネルギーが増大し、電力使用量及び/又は燃料消費量が増大されることとなる。
【0006】
かくして、本発明の主な目的は、車両の隊列走行時又は追従走行時に於いて、消費エネルギーを大幅に増大せずに、後方の車両へ導入されるべき空気流量の低減を抑制する車両走行制御方法及びかかる走行制御を達成する車両走行制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記の課題は、車両の走行制御方法であって、自車内へ吹き込まれる空気流によって冷却される対象物が必要とする必要空気流量を算出する過程と、自車内へ吹き込まれる流入空気流量を測定する過程と、自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容され、流入空気流量が必要空気流量よりも少ないときに自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を他車の後方の空気流の剥離域から外すことにより流入空気流量を増大する過程とを含むことを特徴とする方法によって達成される。かかる構成に於いて、自車内へ吹き込まれる空気流によって冷却される対象物とは、エンジン冷却水の放熱用のラジエータ、車室内空調装置のエバポレータ等であってよい。また、「自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容」された状態とは、自車の車体がほぼ他車の後方の空気流の剥離域内に収容されて、空気抵抗の低減が実現されている状態であり、空気抵抗の低減効果に大幅に影響しない程度に於いて、自車の車体の一部(タイヤ、アンテナ等の突起物、外部空気導入口など)が剥離域から逸脱している状態も含まれる。「自車内に空気を導入する部位」とは、典型的には、車両前部のグリルであってよいが、これに限定されず、エンジン冷却水の放熱用のラジエータ、車室内空調装置のエバポレータ等へ外気を導入できる部位であれば、任意の部位であってよい。
【0008】
かかる構成によれば、自車が他車に追従走行してその後方の空気流の剥離域内に実質的に収容されることにより、走行動圧の減少が生じたとき、自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を他車の後方の空気流の剥離域から外す処理が実行され、これにより、車両に吹き込まれる流入空気流量が増大されることとなる。そして、かかる流入空気流量の増大により、冷却システムへの通気風量の低減が抑制され、エンジン冷却水の温度上昇や空調性能の低下が抑制される。従前であれば、冷却システムへの通気風量の低減時には、冷却ファンの回転を増大して、ファンにより強制的に車両内へ導入される風量を増大する処理が実行されるところ、上記の本発明の構成によれば、通気風量の不足分の全てを冷却ファンの回転の増大によって補うのではなく、空気を導入する部位を他車の後方の空気流の剥離域から外すという処理によって通気風量の増大を図るので、従前の処理に比して、ファンの回転のための消費エネルギーの節約が達成されることとなる。
【0009】
上記の構成に於いて、自車が他車の後方の空気流の剥離域内に収容されたときに、速やかに流入空気流量の増大処理が実行できるように、上記の本発明の構成に於いて、自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容されているか否かを判定する過程が実行されると好ましい。自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容されているか否かの判定は、後述の実施形態の欄にて説明されている如く、風速計により検出される風速と、車輪速計により検出される車輪速又はそれから算出される車速とを比較することにより、実行可能である。
【0010】
また、上記の流入空気流量の増大処理は、二つの車両が近接して走行しているときに自車と他車の双方の走行安定性能向上と消費エネルギーの節約を図るべく、一方の車両が他方の車両の後方の空気流の剥離域内へ積極的に収容されるよう車両の走行位置を制御する車両の走行制御の実行時に為されてよい。従って、本発明の方法に於いては、自車が他車の後方の空気流の剥離域の範囲を決定するパラメータに基づいて推定される推定剥離域内に自車が実質的に収容されるよう自車の走行位置を制御する過程が実行され、上記の流入空気流量の増大過程は、前記の自車の走行位置を制御する過程の実行中に実行されるようになっていてよい。なお、この構成に於いて、「他車の後方空気流の剥離域の範囲を決定するパラメータ」とは、他車の車速、横幅、車高等であってよく、「推定剥離域」とは、他車が横風等の外乱の影響により横揺れなどが発生していないときに、前記のパラメータを用いて理論的に想定される剥離域であってよい。また、「推定剥離域内に自車が実質的に収容される」状態とは、自車の車体がほぼ推定剥離域内に収容されて、空気抵抗の低減が実現されている状態であり、空気抵抗の低減効果に大幅に影響しない程度に於いて、自車の車体の一部(タイヤ、アンテナ等の突起物、外部空気導入口など)が推定剥離域から逸脱している状態も含まれる。
【0011】
上記の自車の走行位置を制御する過程によれば、自車は、他車と近接して走行している時に、他車の後方の空気流の剥離域内へ積極的に収容されることとなる。そうすると、自車の正面からの空気流量の低減による自車の受ける空気抵抗の低減だけでなく、自車と他車の双方に於いて空気抵抗低減効果と走行安定性向上効果が得られることとなる。また、上記の制御中は、基本的には、自車の走行位置が他車の後方の空気流の剥離域内に維持されることとなるので、自車が他車の後方の空気流の剥離域内外の出入りの機会が大幅に減少し、空気抵抗の急激な変動を受ける機会も低減される。そして、本発明による流入空気流量の不足分を補う流入空気流量の増大処理によって、通気風量の低減に起因する冷却システムの性能低下も抑制可能となる。なお、自車の走行位置の制御は、具体的には、前方を走行する他車の後方空気流のレイノルズ数に基づいて達成されてよい。一般に、車両の後方空気流に於ける剥離域の大きさは、後方空気流のレイノルズ数の関数であり、レイノルズ数は、車両の速度の関数である。即ち、他車の車速を検出することにより、レイノルズ数が決定され、他車の後方空気流の剥離域の大きさが決定可能である。従って、自車を他車の後方空気流の推定剥離域の範囲内に収容させる制御は、他車の後方空気流のレイノルズ数に基づいて比較的簡単な演算処理にて達成可能である。また、他車の後方空気流の剥離域の範囲を決定するパラメータは、他車の相対位置、相対速度、車幅等が検出可能なセンサ、例えば、ミリ波レーダー、ビデオカメラ等を用いて任意の手法にて検出されてよい。実施の形態に於いては、自車走行位置制御は、上記のパラメータを用いて画定される他車の後方空気流の推定剥離域の範囲内に自車が実質的に包含されているか否かを判定し、かかる判定結果に基づいて、自車の制駆動力制御、操舵制御を実行するよう構成されていてよい。なお、他車の後方空気流の剥離域の範囲を決定するパラメータ、又は、かかるパラメータから画定される推定剥離域の範囲の情報は、他車に装備された任意の情報処理装置から受信されるようになっていてもよい。更に、好適には、情報を送受信する通信手段が自車と他車に設けられ、自車は、他車の後方空気流の推定剥離域の範囲内への自車の進入の許可を受信してから、他車の後方空気流の推定剥離域内へ進入する制御を実行するようになっていてもよい。
【0012】
上記の自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を他車の後方の空気流の剥離域から外す過程は、より具体的には、例えば、他車の後方を走行する自車を減速して、他車との相対的位置を後退させるなどして、空気を導入する部位の少なくとも一部が、他車の後方の空気流の剥離域から外れるよう自車と他車との車間距離を調節することによって達成可能である。自車と他車との車間距離の調節に於いて、上記に触れた自車走行位置制御の手法が利用されてもよい。また、車両に於ける空気を導入する部位の位置を変位することのできる機構が設けられている場合には、かかる機構を作動して空気を導入する部位を剥離域外に変位するようになっていてもよい。
【0013】
ところで、上記の構成に於いて、ラジエータの通気風量を強制的に増減させる冷却ファンの作動制御については、任意の手法により為されてよいところ、本発明に於いて、好適には、冷却ファンの制御ゲインが必要空気流量と流入空気流量との関係に基づいて変更されるようになっていてよい。かかる構成によれば、自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容されたとき、空気を導入する部位の少なくとも一部が剥離域外に出るまでの間については、冷却ファンの制御ゲインを増大し、これにより、強制的に通気風量を増大して、エンジン冷却水の温度上昇や空調性能の低下の回避が為される。そして、空気を導入する部位の少なくとも一部が剥離域外へ出たときには、通気風量の増大が見込まれるので、冷却ファンの作動量が低減され、これにより、消費エネルギーの節約が為されることとなる。
【0014】
また、一般に、特に、車両に対する空気抵抗の影響が大きくなる高速走行中に於いては、空気を導入する部位の少なくとも一部が剥離域外へ出たときに、走行風量が高いことにより、ラジエータが過冷却状態となり得る。その場合、従前の典型的なエンジン冷却水温のための制御では、ラジエータを迂回してエンジンの冷却水を循環させる制御が実行される(典型的には、エンジンの冷却水の循環流路中に、エンジン冷却水温に応答して循環流路を切り換えるサーモスタットが設けられる。)。この従前の構成は、制御応答性が必ずしも迅速ではなく、また、サーモスタットに於ける圧損やウォーターポンプの駆動負荷変動が比較的大きい。そこで、本発明の構成では、上記の如く、必要空気流量と流入空気流量との関係に基づいて冷却ファンの制御ゲインが低減され、これにより、冷却ファンの作動量の調節が為されてよい。かかる必要空気流量と流入空気流量との関係に基づく冷却ファンの作動量の調節制御、即ち、風量に基づく冷却ファンの作動制御によれば、循環流路中の冷却水量やウォーターポンプの駆動負荷は実質的に一定となるので、効率が良く、冷却水温の変化に対しても応答性が優れている。
【0015】
上記の本発明の方法は、車両に搭載される走行制御装置として実現される。かくして、もう一つの態様として、本発明によれば、車両の走行制御装置であって、自車内へ吹き込まれる空気流によって冷却される対象物が必要とする必要空気流量を算出する手段と、自車内へ吹き込まれる流入空気流量を測定する手段と、自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容され自車内へ吹き込まれる空気流量が必要空気流量よりも少ないときに自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を他車の後方の空気流の剥離域から外すことにより流入空気流量を増大する手段とを含むことを特徴とする装置が提供される。
【0016】
かかる本発明の装置に於いて、自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容されているか否かを判定する手段が設けられていてよい。また、更に、本発明の装置に於いて、自車が他車の後方の空気流の剥離域の範囲を決定するパラメータに基づいて推定される推定剥離域内に自車が実質的に収容されるよう自車の走行位置を制御する手段が設けられ、流入空気流量を増大する手段は、自車の走行位置を制御する手段による自車の走行位置制御の実行中に流入空気流量を増大するように構成されていてよい。また、自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を他車の後方の空気流の剥離域から外して流入空気流量を増大するために、好適には、自車と他車との車間距離を調節する手段が設けられてよい。更に、本発明の装置に於いても、ラジエータの通気風量を強制的に増減させる冷却ファンの制御ゲインを必要空気流量と流入空気流量との関係に基づいて変更する手段が設けられ、エンジン冷却水の温度上昇や空調性能の低下或いは過冷却の防止が速やかに為されるよう構成されていてよい。
【発明の効果】
【0017】
かくして、上記の本発明によれば、車両の冷却システムに関して、車両が他車の後方にて走行しているか否かについての走行状態を考慮して、自車が他車の後方の空気流の剥離域内にて走行しているときに、自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を剥離域から外す構成により、ファンの回転のための消費エネルギーの節約をしながら、走行動圧の低減に起因する冷却システムの性能低下が回避されることとなる。本発明の制御は、自車が他車の後方の空気流の剥離域の範囲を決定するパラメータに基づいて推定される推定剥離域内に自車が実質的に収容されるよう自車の走行位置を制御する自車走行位置制御とともに実行されてよく、その場合、自車と他車の双方に於ける空気抵抗低減効果と走行安定性向上効果、冷却システムの性能低下の抑制効果、及び、ファンの回転の消費エネルギーの節約効果が同時に得られる点で有利である。
【0018】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、他車の剥離域内に進入して追従走行を実行する走行制御の態様を表す車両の模式的な平面図である。(A)は、自車が他車の剥離域内に進入していない状態であり、(B)は、自車が他車の剥離域内に進入した状態である。(C)は、(A)の場合と(B)の場合に於ける車両の受ける空気抵抗の変化の模式図である。
【図2】図2は、(A)自車両が単独で走行している場合、(B)自車両が空気導入口Gを含めて他車の剥離域内に収容されている場合、及び、(C)空気導入口Gの一部が他車の剥離域外に出されている状態で自車両が剥離域内に収容されている場合の、それぞれの車両の模式図(側面図)と、車両の受ける抵抗、必要なエネルギー、受容する風量の変化を棒グラフの型式にて表した図である。
【図3】図3は、本発明による制御装置の構成をブロック図の形式で表した図である。
【図4】図4は、本発明による制御により実行される他車の剥離域内にて走行するための制御処理の例をフローチャートの形式にて表した図である。(A)は、自車の前後方向の走行位置の制御に於ける処理であり、(B)は、自車の左右方向の走行位置の制御に於ける処理である。
【図5】図5(A)、(B)は、本発明の制御により達成されるべき他車の剥離域の範囲と自車の位置との関係を表した車両の模式的な側面図と平面図である。図5(C)は、剥離域の再付着の位置とレイノルズ数との関係を表したグラフ図である。
【図6】図6(A)は、自車両が他車の剥離域内に収容されているか否かを判定する処理の例をフローチャートの形式にて表した図である。図6(B)は、自車両が他車の剥離域内に収容されているときに、空気導入口Gの少なくとも一部を他車の剥離域外に出すための他車との車間距離を調整するための走行位置制御処理の例をフローチャートの形式にて表した図である。図6(C)は、冷却ファンの制御ゲインを風量に基づいて制御する処理の例をフローチャートの形式にて表した図である。図6(D)は、図6(C)のステップ430で参照されるマップである。
【符号の説明】
【0020】
10…自車
20…他車
25…表示部
G…空気導入口(グリル)
W…剥離域
af…空気流
R…道路
C…車両の気流センター軸
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0022】
本発明の制御の原理
(i)他車の剥離域内での走行
図1を参照して、図1(A)に例示されている如く、二つの車両10、20が近接して走行している場合、双方の車両に於いて、それぞれの正面から側面へ空気流afが独立して流れるので、それぞれの車両には、空気流に相応した空気抵抗が発生する。一方、車両の後方には、空気流量の低下した剥離域Wが発生するところ、図1(B)に例示されている如く、一方の車両10が他方の車両20の剥離域内に収容されると、車両10の受ける空気流量が低減され、また、剥離域W内は、動圧が低下していることから、車両10に作用する空気抵抗が低減する。また、車両20に於いても、その剥離域W内に車両10が進入することにより、車両後方に作用する空気抵抗が低減する。即ち、図1(C)に模式的に描かれている如く、二つの車両10、20のそれぞれが受ける空気抵抗とその和は、(A)の場合よりも(B)の場合の方が低下し、双方の車両の消費エネルギーが節約されることとなる。また、剥離域内は、外乱風の影響も受けにくく、車両10の走行安定性も向上する。
【0023】
そこで、本発明に於いては、自車10が他車20に近接して走行している場合には、積極的に、他車20の後方の空気流の剥離域内に進入して走行するよう、自車の走行位置が制御される。かかる制御に於いては、端的に述べれば、自車10に於いて、他車20の車高、車幅、車速を任意の方法にて検知し、それらのデータから他車の剥離域の範囲を推定すると共に(推定剥離域)、自車の制駆動装置等による前後力制御及び/又は操舵制御装置等による横力制御を通じて、推定剥離域内に自車の車体が実質的に収容されるよう走行位置が制御される。他車20の車高、車幅、車速等の検知は、車載の距離センサ(ミリ波レーダーなど)を用いて自車内にて他車の相対位置、寸法を検出することにより算定されてもよく、或いは、他車との相互通信により他車より取得される情報を用いて為されてよい。なお、「剥離域内に自車の車体が実質的に収容される」とは、既に述べた如く、自車の車体が完全に他車の剥離域内に収容されている場合の空気抵抗の低減効果に比して大幅に低下しない程度に於いて、自車の車体がほぼ推定剥離域内に収容されている状態である。具体的には、自車の後方上端部が推定剥離域内に収容されている状態であってよい。[従って、自車の車体の下端部やタイヤ、或いは、上方から突出するアンテナ等は、推定剥離域から逸脱していてよい。]
【0024】
(ii)他車の剥離域内での走行中に於ける冷却システム性能維持のための対策
上記の如く、自車両10が他車20の後方の剥離域Wに実質的に収容されている場合(図2(B)左)、自車両の受ける全抵抗は、車体の周囲の空気流から受ける抵抗(空気抵抗)の低減により、自車両10が単独で走行している場合(図2(A))に比して、図2(A)、(B)右の棒グラフにて示されている如く、例えば、10%程度低減し、これに対応して、空気抵抗に対抗する車両の走行に必要なエネルギーも低減する。しかしながら、図2(B)左の如く、自車の前部に設けられるグリルなどの車内へ空気を導入する部位(空気導入口G)も剥離域W内に完全に収容されているときには、エンジン冷却水の放熱用のラジエータや空調装置などの冷却システムへの通気風量や放熱フィンへの接触風量(冷却風量)が、例えば、20%程度、低減することとなる。そこで、冷却風量を増大すべく、ファンの回転数を増大すると、その回転数の増大に伴うエネルギー消費量(ファン駆動エネルギー)が増大し、結局、冷却システムの性能の維持のために車両に必要な全エネルギーの十分な低減が達成されないこととなる。
【0025】
かくして、本発明に於いては、空気を導入する部位Gの少なくとも一部が剥離域から外れるように、自車と前方の他車との車間距離の調節が実行される。より具体的には、図2(B)に示されている如く、空気導入口Gを含めて自車が前方の他車の剥離域に実質的に収容され、冷却システムにて要求される風量が車内に吹き込まれていないときには、図2(C)左の如く、自車を相対的に後退させて自車と前方の他車との車間距離を拡大し、これにより、空気導入口Gが少なくとも部分的に剥離域外に露出されてより多くの走行風が車内に導入可能な状態とされる。その際、剥離域外に露出する自車の領域が大きくなり、その分、自車の周囲の空気流から受ける空気抵抗の増大(例えば、単独走行時の5%程度の低減)によって、これに対抗する車両の走行に必要なエネルギーが相対的に増大する可能性がある。しかしながら、空気導入口Gからの冷却風量の増大により、冷却ファンの回数数が相対的に低減可能となり、従って、ファン駆動エネルギーが低減され、車両に必要な全エネルギー量が低減可能となる。
【0026】
なお、上記の自車と前方の他車との車間距離の調節制御は、自車が他車の剥離域内に収容されている際に実行される。そこで、本発明に於いて、自車が他車の剥離域内に収容されているか否かを判定する処理が実行されてよい。具体的には、例えば、ピトー管などの風速計により検出される風速と、車輪速又はそれから算定される車速とが比較され、車輪速又は車速が風速を上回っているとき、自車が他車の剥離域内に収容されていると判定されてよい(自車が他車の剥離域内に在るとき、風速は車速に比して相対的に低減する。)。
【0027】
また、自車と前方の他車との車間距離の調節により、自車の空気導入口Gの少なくとも一部が他車の剥離域外に外れ、自車に進入する走行風が適当な量になるまでの間に於いては、冷却風量の低減による冷却システムの性能低下を回避すべく、冷却ファンが必要な冷却風量を得られるよう作動されてよい。その際、好適には、冷却ファンの回転数の制御は、冷却システムの放熱手段(ラジエータ)を通過する風量に基づいて実行される。更に、冷却風量が過大であり、冷却システムの放熱手段が過冷却状態のときには、放熱手段を通過する風量に基づいて冷却ファンの回転数が低減されてよい。
【0028】
本発明の装置の構成
本発明の走行制御装置が組み込まれる車両は、任意の自動車等の車両であってよい。車両には、通常の態様にて、各輪に制駆動力を発生する動力装置と、ステアリング装置と、各輪に制動力を発生する制動装置とが搭載される(図示せず)。動力装置、制動装置及び操舵装置は、それぞれ、運転者による操縦入力とは別に、走行制御装置による指令に従って、制駆動力又は操舵角を変更し制御する制御装置(駆動制御装置、制動制御装置、操舵制御装置)によって作動されるようになっていてよい。また、有利に横力を発生する目的で、車両の両側にジェット噴射装置が設けられていてもよい。かかるジェット噴射装置は、対応する作動制御装置の指令に従って、車両の側方にジェット噴射を実行することにより、車両に横方向の推力を生ずる。
【0029】
本発明の走行制御装置、駆動制御装置、制動制御装置、操舵制御装置等は、それぞれ、通常の形式の、双方向コモン・バスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。図3は、自車10に於いて装備されるべき本発明による走行制御装置の構成を制御ブロックの形式にて表している。
【0030】
図3を参照して、自車10に於いて装備されるべき本発明による走行制御装置に於いては、まず、後により詳細に説明される他車の剥離域内に進入して空気抵抗の低減を図るための走行位置制御のために、CPU50に対して、距離センサ等の他車の位置及び寸法を検出するためのセンサ51が接続される。かかるセンサとしては、任意の形式のミリ波レーダー、カメラ等であってよい。好適には、他車との相互情報通信を達成する通信装置52が設けられ、CPU50に対して他車からの情報が与えられるとともに、CPUからの情報を他車の通信装置へ与えられるようになっていてよい。また、自車が他車の剥離域に進入した状態に於いて走行風の車体への流入を適正にする車間距離修正制御のために、CPU50に対して、更に、自車が他車の剥離域に収容されているか否かの判定のための情報を取得する手段と、ラジエータを通過する実際の流入空気流量を検出するための情報を取得する手段とから、それぞれ、情報が与えられる。自車が他車の剥離域に収容されているか否かの判定のための情報を取得する手段としては、具体的には、自車の受ける風速を検出するためのピトー管などの風速計55と、車輪速又は車速を検出するための車輪速センサ54とが採用され、それぞれのセンサの出力が、CPU50へ入力される。また、ラジエータを通過する実際の流入空気流量を検出するための情報を取得する手段としては、ラジエータの入口の気温を検出する温度センサ53aとラジエータの出口の気温を検出するセンサ53bとが採用され、それぞれのセンサの出力が、CPU50へ入力されてよい。なお、ラジエータの流入空気流量を検出する手段は、風車型流量計、熱電風速計、ピトー管、レーザードップラー流速計等の風力計であってもよい。更に、CPU50に於いては、ラジエータを通過する空気流量の必要量(必要空気流量)を決定するために、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ56のセンサ出力が入力される。
【0031】
そして、走行制御装置のCPUは、車両に前後力又は横力を発生させる要求を出力すべく、駆動制御装置60、制動制御装置62及び操舵制御装置等63と相互に連結し、また、冷却ファンの回転数を制御すべく、冷却ファン回転制御装置64にも相互に連結される。
【0032】
装置の作動
本発明の制御装置に於いては、(a)他車の剥離域内での走行位置制御、(b)他車への追従走行実行可否制御、(c)他車の剥離域に収容されているか否かの判定、(d)空気導入口の少なくとも一部を他車の剥離域から外すための車間距離制御、(e)冷却ファン回転制御が、それぞれ適宜実行されてよい。なお、各制御は、メモリに記憶されたプログラムに従ったCPU等の処理作動により実現される。以下、各制御に於ける処理について説明する。
【0033】
(a)他車の剥離域内での走行位置制御
図1に関連して説明された他車の剥離域内での走行位置制御に於いては、端的に述べれば、他車の剥離域の前後方向の範囲と左右方向の範囲を推定し、自車が実質的に剥離域内に収容されるように、より詳細には、自車の上方後端が推定剥離域内に収容されるように、自車の前後走行位置と左右走行位置とがそれぞれ制御される。図4(A)、(B)は、自車の前後走行位置制御、左右走行位置制御に於ける処理の例をフローチャートの形式にて表している。なお、図示の処理は、自車が他車の剥離域内に進入することが決定された後に実行される処理である。(自車が他車の剥離域内への進入の可否判断は、後述の制御によって為される。)
【0034】
先ず、図4(A)を参照して、自車の前後走行位置制御に於いては、距離センサ等の出力結果を用いて、他車(前方車)との直線距離(ステップ10)と他車の上端部の仰角(ステップ20)を決定した後、他車の車高Hが算定され(ステップ30)、他車の車高H、車速等を用いて他車の剥離域の前後範囲が推定される(ステップ40−推定剥離域の前後範囲)。他車の推定剥離域の前後範囲(図5(A)参照)の決定に於いては、典型的には、まず、他車の車速(他車との相対距離の時間変化と自車の車速とから算定されてよい。)から他車の後方の空気流のレイノルズ数Re#が決定されてよい。レイノルズ数は、車速と空気の状態を表す状態値とにより決定されるので、車速及びを空気の状態値を変数とする予め準備されたマップを用いて決定されてよい。その際、空気の状態値は、その都度計測されてもよく、標準的な値を既知数として用いてもよい。そして、レイノルズ数Re#と、剥離域の始端(前方車後端)から剥離域の終端(剥離域の再付着点)までの距離Lとの関係は、車高Hが分かると、図5(C)に例示されている如く予め決定可能であり(Re#=10のとき、概ね車高Hの7倍(7H)となる。)、前方車の後端からの距離に対する剥離域の境界の高さも、レイノルズ数Re#と車高Hとを用いて予め決定可能である。そこで、レイノルズ数Re#と車両の車高Hとを変数として、自車の高さHc(既知数である。)に合致する高さに於ける推定剥離域の境界の前後方向距離Lsを与えるマップが予め準備され、かかるマップを用いて、他車20のレイノルズ数Re#と車高Hとに基づいて、他車20の後端から自車の高さHcに合致する高さの推定剥離域の境界までの前後方向距離Lsが決定される。なお、Lsは、近似的に、Ls=7(H−Hc)×α×Re#にて与えられてもよい。(αは、係数。図中の一点鎖線参照。)
【0035】
かくして、自車の高さHcに合致する高さを有する剥離域の境界の他車20の後端からの距離Lsが決定されると、自車の前後方向が推定された剥離域の前後に収容されているか否かが判定される(ステップ50)。より具体的には、他車後端から自車の上方後端部(図中、黒丸)の位置までの距離が、距離Lsより小さいか否かが判定されてよい。そして、自車の上方後端部(図中、黒丸)の距離が距離Lsより大きいとき、自車の前後方向が推定剥離域の前後方向範囲に収容されていないと判定されて、自車を他車に近接させるべく、増速処理、より具体的には、駆動制御装置に対する駆動力の増大の要求が実行される(ステップ60)。一方、自車の上方後端部(図中、黒丸)の距離が距離Lsより小さいときには、自車の前後方向が推定剥離域の前後に収容されていると判定される。しかしながら、自車が他車に過剰に近接している場合には(ステップ70)、自車を相対的に後退させるべく、減速処理、より具体的には、駆動制御装置に対する駆動力の低減の要求及び/又は制動制御装置に対する制動力の増大の要求が実行されてよい(ステップ80)。
【0036】
かくして、上記の処理を反復して実行することにより、自車の前後走行位置が、その後端が他車の推定剥離域の前後範囲内に収容された状態となるよう進入し維持されることとなる。かかる処理は、隊列走行の終了時まで反復して実行されてよい。なお、他車の車高Hは、一旦算定されればよく、他車の車高Hの算定のための処理は、反復されなくてよい。
【0037】
自車の左右走行位置制御に於いては、距離センサ等の出力結果を用いて、他車(前方車)の車幅(ステップ110)、他車の左右方向の中心位置(ステップ120)及び他車の左右端の仰角(ステップ130)を決定した後、それらの値を用いて、他車の剥離域の左右範囲が推定される(ステップ140−推定剥離域の左右範囲)。他車の推定剥離域の左右範囲の境界の位置は、他車の後方空気流のレイノルズ数Re#と車幅Wとから予め準備されたマップ等を用いて決定されてよい。そして、図7(B)に例示されている如く、自車の車幅(既知数である。)を考慮して、自車の後方左右端が他車の推定剥離域の左右範囲内に収容されているか否か、即ち、推定剥離域の境界の位置よりも内側に存在しているか否かが判定される(ステップ150)。なお、近似的に、他車の中心軸(図中、点線)からの自車の後方左右端の中心位置(図中、黒丸)のずれwsが、ws<w/2であれば、自車の後方左右端が他車の推定剥離域の左右範囲内に収容されていると判定されてよい。
【0038】
かくして、自車の後方左右端が他車の推定剥離域の左右範囲内に収容されていないと判定されるときには、操舵制御装置又はジェット噴射装置を作動して、車両の横移動処理が実行される(ステップ160)。かかる処理に於いては、他車の中心軸からの自車の後方左右端の中心位置のずれwsが低減される方向に横力が発生される。上記の処理は、自車左右端が推定剥離域の左右範囲内に収容された状態となるよう反復して実行される。かかる処理は、隊列走行の終了時まで反復して実行されてよい。なお、他車の車幅wは、一旦算定されればよく、他車の車幅wの算定のための処理は、反復されなくてよい。
【0039】
(b)追従走行実行可否制御
上記の他車の剥離域内での走行位置制御は、自車が他車の剥離域内に収容可能なことが条件となる。従って、他車の剥離域内での走行位置制御の実行に先だって、追従走行実行可否を決定する制御が実行されることが好ましい。追従走行実行可否制御は、例えば、以下の如く実行されてよい。
【0040】
(1)相互通信可能でない場合
他車が自車と相互通信可能な状態でない場合、自車は、自身で検知した他車の寸法と車速に基づいて、上記の如く剥離域の大きさを推定し、推定された剥離域の大きさが自車を収容可能であるときにのみ、上記の他車の剥離域内での走行位置制御を実行するようになっていてよい。
【0041】
(2)相互通信可能な場合
他車が自車と相互通信可能な状態である場合、自車は、自身で検知した他車の寸法と車速に基づいて推定された他車の推定剥離域の大きさ或いは他車との相互通信により得た推定剥離域の大きさが自車を収容可能であるときに、他車に対して、通信装置を通じて、自車が後方に追従してよいか否かの問い合わせをするようになっていてよい。これに対し、自車が後方に追従してよい旨の応答を他車が発したときにのみ、自車は、上記の他車の剥離域内での走行位置制御を実行するようになっていてよい。自車の問い合わせに対する他車の応答は、通信装置を通じて、或いは、他車後端の表示部灯火の点灯を通じて、自車の運転者に認識されるようになっていてよい。
【0042】
(c)他車の剥離域に収容されているか否かの判定
上記の(a)の制御が実行され、自車が他車の剥離域内に収容されると、剥離域内では、走行風が車速よりも下回ることとなる。そこで、自車の受ける走行風の風速と、車速又は車輪速とを参照して、自車が他車の剥離域内に収容されているか否かが判定される。具体的な判定処理に於いて、例えば、図6(A)に例示されている如く、まず、ピトー管などの風速計55の出力から走行風の風速が、車輪速センサ54の出力から車輪速又は車速が、それぞれ、検出される(ステップ210)。なお、車速は、任意の態様にて車輪速から決定可能である。次いで、風速が車輪速又は車速を下回っているか否かが判定され(ステップ220)、風速が車輪速又は車速を下回っているときには、自車が他車の剥離域内にて走行していると判定される(ステップ230)。一方、風速が車輪速又は車速を下回っていないときには、自車が他車の剥離域外にて走行している(通常の領域にて走行している)と判定される(ステップ240)。なお、図6(A)の処理は、車両の走行中に於いて、或いは、上記の追従走行実行が可能であることが判定された後に於いて、反復して実行されてよい。
【0043】
(d)空気導入口を他車の剥離域から外すための車間距離制御
既に述べた如く、空気導入口を含めて自車が他車の剥離域内に収容されると、自車へ吹き込まれる冷却用の空気流量が低減する。これを回避するために、自車と他車との車間距離を修正して、空気導入口の少なくとも一部を剥離域から外すことが試みられる。
【0044】
図6(B)は、空気導入口の少なくとも一部を剥離域外に露出させるための車間距離修正制御の処理過程の例を示している。同図を参照して、図6(A)の判定処理に於いて、剥離域内走行判定が為されると(ステップ310)、自車内の冷却用の空気流量の必要量、即ち、冷却目標風量ft(必要空気流量)が決定される(ステップ320)。冷却目標風量ftは、エンジン冷却水温を参照して、予め準備されたマップを用いて決定されてよい。次いで、実際に自車に流入している空気流量、即ち、実流入風量fa(流入空気流量)が決定される。実流入空気流量faは、ラジエータの入口の気温と出口の気温との温度差に基づいて、予め準備されたマップを用いて決定されてよい(ステップ330)。かかるマップは、風雨量(任意のセンサにより検出)とラジエータの入口−出口気温差とを変数として実流入風量を与えるマップであってよい。なお、既に触れた如く、実流入風量は、グリル或いはラジエータの入口又は出口に設けられた風車型流量計、熱電風速計、ピトー管、レーザードップラー流速計等の風力計によって検出してもよい。
【0045】
かくして、冷却目標風量ftと実流入風量faとが決定されると、冷却目標風量ftから実流入風量faを差し引いた差分(ft−fa)、即ち、冷却風量の不足分が、所定の微小量δfを上回っているか否かが判定される(ステップ340)。冷却風量の不足分ft−faが所定の微小量δfを上回っているときには、自車を他車よりも相対的に後退させ、空気導入口の少なくとも一部が他車の剥離域から外れるように減速処理が実行される(ステップ350)。かかる減速処理は、具体的には、駆動制御装置に対する駆動力の低減の要求及び/又は制動制御装置に対する制動力の増大の要求であってよい。一方、冷却風量の不足分ft−faが所定の微小量δfを上回っていないときには、増速処理、即ち、駆動制御装置に対する駆動力の増大の要求が実行される(ステップ360)。かかる減速処理と増速処理とによれば、冷却風量の不足分ft−faが解消され、実流入風量faが冷却目標風量ftに概ね一致するよう空気導入口が他車の剥離域外に露出された状態となることが期待される。なお、図6(B)の処理に於ける減速処理又は増速処理が、図4(A)に於ける自車の前後走行位置制御の処理中の増速処理又は減速処理と整合しない場合には、図6(B)の処理に於ける増速処理と減速処理が優先して実行され、冷却システムの性能維持が図られる。なお、図6(B)の処理は、車両の走行中に於いて反復して実行されてよい。
【0046】
(e)冷却ファン回転制御
上記の一連の処理に並行して、冷却ファンの回転数の制御が実行され、強制的に自車へ吹き込まれる風量が調整されるようになっていてよい。具体的には、図6(C)に例示されている如く、冷却目標風量ftの決定(ステップ410)、実流入風量faの決定(ステップ420)が実行される。冷却目標風量ftと実流入風量faとは、図6(B)と同様に実行されてよい。次いで、冷却風量の不足分ft−faに基づいて、冷却ファンの回転数を決定するファン制御ゲインKfがマップを用いて決定される(ステップ430)。かかるマップは、図6(D)にて例示されている如く、冷却風量の不足分ft−faが大きいほど、制御ゲインKfが増大するよう予め実験的に又は理論的に調製されてよい。かくして、ファン制御ゲインKfが決定されると、その値に基づいてファンの回転数が制御される。具体的には、ファン制御ゲインKfの大きさに対応してファンの回転数が増大するよう冷却ファン回転制御装置64(図3参照)に制御指令が与えられる。冷却ファンがエンジンの出力軸の回転に連結して作動する型式のファンである場合には、冷却ファン回転制御装置64は、ファン・クラッチの連結の強さを要求される回転数に応じて変化させるようになっていてよい。また、冷却ファンが電動ファンである場合には、冷却ファン回転制御装置64は、要求される回転数が達成されるようファンモーターに与えられる電流値及び周波数を制御する。
【0047】
上記の冷却ファンの回転数の制御は、車両の走行中に於いて反復して実行されてよい。理解されるべきことは、冷却ファンの回転数の制御は、自車への走行風の流入量に応じて増減するという点である。例えば、自車が他車の剥離域に収容された後、空気導入口が剥離域内にあるときには、ファン回転数が増大するが、図6(B)の制御により、自車と他車との車間距離が調整され、空気導入口が剥離域外に露出するにつれて、ファン回転数が低減し、これにより、消費エネルギーの節約が為されることとなる。また、実流入風量が過大であるときには、ファン回転数は、通常よりも低減され、ラジエータの過冷却状態が回避できるようになっていてよい。この冷却目標風量と実流入風量とに基づく制御は、エンジン冷却水温をラジエータに於ける通気風量により制御するものであり、典型的なサーモスタットによるエンジン冷却水の循環流路の切換によるエンジン冷却水温制御に比して、応答性が良い点で優れている。
【0048】
かくして、上記の実施形態によれば、自車が他車の後方の剥離域内にて走行することにより、自車と他車の双方の走行安定性能向上と消費エネルギーの節約を図ろうとする際に、冷却システムの冷却性能を維持するとともに、かかる冷却性能維持のためにファンの駆動に消費されるエネルギーを節約できることとなる。
【0049】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
【0050】
例えば、図6(B)に例示した車間距離修正制御は、図4に例示した他車の剥離域内での走行位置制御の実行の有無にかかわらず、自車が他車の剥離域内に進入したときに実行されてよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行制御方法であって、自車内へ吹き込まれる空気流によって冷却される対象物の必要とする必要空気流量を算出する過程と、前記自車内へ吹き込まれる流入空気流量を測定する過程と、前記自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容され前記流入空気流量が前記必要空気流量よりも少ないときに前記自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を前記他車の後方の空気流の剥離域から外すことにより前記流入空気流量を増大する過程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、前記自車と前記他車との車間距離を調節することにより前記自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を前記他車の後方の空気流の剥離域から外すことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1の方法であって、更に前記自車が前記他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容されているか否かを判定する過程を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1の方法であって、更に前記自車が前記他車の後方の空気流の剥離域の範囲を決定するパラメータに基づいて推定される推定剥離域内に前記自車が実質的に収容されるよう前記自車の走行位置を制御する過程を含み、前記自車の走行位置を制御する前記過程の実行中に前記流入空気流量を増大する過程が実行されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1の方法であって、更にラジエータの通気風量を強制的に増減させる冷却ファンの制御ゲインを前記必要空気流量と前記流入空気流量との関係に基づいて変更する過程を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
車両の走行制御装置であって、自車内へ吹き込まれる空気流によって冷却される対象物の必要とする必要空気流量を算出する手段と、前記自車内へ吹き込まれる流入空気流量を測定する手段と、前記自車が他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容され前記自車内へ吹き込まれる空気流量が前記必要空気流量よりも少ないときに前記自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を前記他車の後方の空気流の剥離域から外すことにより前記流入空気流量を増大する手段とを含むことを特徴とする装置。
【請求項7】
請求項6の装置であって、前記自車と前記他車との車間距離を調節することにより前記自車内に空気を導入する部位の少なくとも一部を前記他車の後方の空気流の剥離域から外すことを特徴とする装置。
【請求項8】
請求項6の装置であって、更に前記自車が前記他車の後方の空気流の剥離域内に実質的に収容されているか否かを判定する手段を含むことを特徴とする装置。
【請求項9】
請求項6の装置であって、更に前記自車が前記他車の後方の空気流の剥離域の範囲を決定するパラメータに基づいて推定される推定剥離域内に自車が実質的に収容されるよう前記自車の走行位置を制御する手段を含み、前記流入空気流量を増大する手段が、前記自車の走行位置を制御する手段による前記自車の走行位置制御の実行中に前記流入空気流量を増大することを特徴とする装置。
【請求項10】
請求項6の装置であって、更にラジエータの通気風量を強制的に増減させる冷却ファンの制御ゲインを前記必要空気流量と前記流入空気流量との関係に基づいて変更する手段を含むことを特徴とする装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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