説明

車体フレーム部材

【課題】ハイドロフォーム成形等により製造された閉断面部材を有する車体フレーム部材において、大型化や重量増を抑えかつ量産向けの方法を用いた上で、前記閉断面部材の断面内に補強部材を追加することを目的とする。
【解決手段】アッパフレーム3のフレーム本体3aに、その閉断面を形成する一側の壁部(前壁部21)から他側の壁部(後壁部22)まで到達するように棒状部材25を挿入し、該棒状部材25の前後端部33,34と前記フレーム本体3aの前後壁部21,22とを結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、閉断面部材を有する車体フレーム部材に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な乗用車等の車両の車体において、パネル部品と骨格部品とを溶接等により一体に接合してなるモノコック構造とし、その軽量化及び高剛性化を図ることが多い。このような車体のフレーム部材の内、比較的複雑な形状を有して延びる管状の閉断面部材を有するものにおいて、部品精度の向上や剛性の確保が要求される場合がある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−166848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のような閉断面部材は、既存のハイドロフォーム成形(金型にセットした金属管内に液体を充填し、該液体を加圧し前記金属管を膨出させて前記金型の内部形状に倣った形状とする工法)により製造することが望ましい。
一方、上記閉断面部材において、例えば衝撃荷重等の大荷重が加わった際に閉断面が圧潰すると、前記荷重を安定して受けることができなくなるので、該閉断面部材における荷重が集中し易い箇所には、その断面内に例えば筋交い部材(ダイアゴナルメンバ)等の補強部材を追加することが望ましい。
しかし、特にハイドロフォーム成形で製造した閉断面部材は、液圧を充填することから完全な閉断面を有しており、かつその断面形状も長手方向位置によって変化すると共に曲げや潰しも適宜施されることから、その断面内に補強部材を追加することが難しいという課題がある。また、閉断面部材の断面外周を覆うように補強部材を追加することも考えられるが、この場合、車体フレーム部材の大型化や大幅な重量増を招き易くという課題がある。
そこでこの発明は、ハイドロフォーム成形等により製造された閉断面部材を有する車体フレーム部材において、大型化や重量増を抑えかつ量産向けの方法を用いた上で、前記閉断面部材の断面内に補強部材を追加することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、閉断面部材(例えば実施例のフレーム本体3a)を有する車体フレーム部材(例えば実施例のアッパフレーム3)において、前記閉断面部材に、その閉断面を形成する一側の壁部(例えば実施例の前壁部21)から他側の壁部(例えば実施例の後壁部22)まで到達するように棒状部材(例えば実施例の25,125,225)を挿入し、該棒状部材の両端部(例えば実施例の前後端部33,34)と前記閉断面部材の両壁部とを結合したことを特徴とする。
【0005】
請求項2記載した発明は、前記閉断面部材は、ハイドロフォーム成形により製造されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、前記閉断面部材における閉断面を形成する一対の壁部に適宜孔開け加工を行い、該閉断面部材に棒状部材を挿入、固定することのみで、閉断面部材における任意の箇所の断面内にダイアゴナル状の補強部材としての棒状部材を追加することができる。すなわち、閉断面部材の断面外周を覆う補強部材を追加するような場合と比べて大型化や重量増が抑えられ、かつ閉断面部材への孔開け加工や棒状部材の挿入、固定といった量産向けの方法を用いた上で、ハイドロフォーム成形等により製造された閉断面部材の断面内にダイアゴナル状の補強部材を追加することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明を乗用車の車体のフロントバルクヘッドのアッパフレームに適用した例を図面を参照して説明する。なお、以下の説明における前後左右等の向きは、特に記載が無ければ車両における向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印LHは車両左方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示す。
【0008】
図1は、一般的な乗用車におけるパネル部品と骨格部品とを溶接等により一体に接合してなるモノコック構造の車体1の前部を示す。車体1の前部には、不図示のラジエータを支持、保護する枠状のフロントバルクヘッド2が設けられる。フロントバルクヘッド2は、その上部を構成するアッパフレーム3と、下部を構成するロアフレーム4とを主になる。
【0009】
アッパフレーム3は、左右に延びる上辺部5と、該上辺部5の両側から斜め後外側に向けて湾曲して延びる左右斜辺部6とを有してなる。一方、ロアフレーム4は、左右に延びる下辺部7と、該下辺部7の両側から上方に向けて湾曲して延びる左右側辺部8とを有してなる。
【0010】
アッパフレーム3の上辺部5両側の下面には、ロアフレーム4の左右側辺部8の上端部が接合される。アッパフレーム3の左右斜辺部6の後端部は、その後方において前後に延在するホイルハウスアッパメンバ12の前端部に接合される。ロアフレーム4の左右側辺部8の後面には、その後方において前後に延在するフロントサイドフレーム13の前端部が接合される。なお、図中符号14はダンパハウジングを、符号16はダッシュアッパパネルをそれぞれ示す。
【0011】
ここで、アッパフレーム3は、中空の断面形状(閉断面構造)を有して前記上辺部5及び左右斜辺部6に沿って延びる管状のフレーム本体3aを主になる。フレーム本体3aは、例えば丸形鋼管にハイドロフォーム成形等を施してなり、その長手方向位置によって異なる断面形状を有する。
【0012】
図2を併せて参照し、フレーム本体3aにおける少なくとも上辺部5の左右両側に位置する部位の断面形状は、例えば概ね前後方向に直交する前後壁部21,22と、やや前下がりに傾斜する上下壁部23,24とを有するやや縦長の矩形状とされる。
ここで、フレーム本体3aの上辺部5の左右両側は、例えば車両前方からの荷重作用時に該荷重が集中し易い部位でもある。
そこで、フレーム本体3aの上辺部5の左右両側には、その閉断面を前後壁部21,22に渡って貫通するように、例えば前後方向に沿う鉄鋼製の棒状部材25が挿入、固定される。
【0013】
棒状部材25は、その本体部である円柱状の軸部26と、該軸部26の一端側(図では前端側)に形成された円板状のフランジ部27とを有してなる。軸部26の少なくとも前側の軸中心には、その長手方向に沿うようにナット孔28が穿設される。ナット孔28は、軸部26におけるフランジ部27側の端面(前端面)に開口し、該ナット孔28には、例えばストラットタワーバーやホーン等を支持する支持ステー29がボルトBにより固定される。すなわち、棒状部材25は、所定の軸方向長さを有するカラーナットとして機能する。なお、ナット孔28が軸部26を貫通するものであってもよい。換言すれば、棒状部材25が中空状(パイプ状)の部材であってもよい。また、棒状部材25はフレーム本体3aの左右それぞれに複数ずつ(図では二つずつ)設けられるが、その数量や配置は適宜変更可能である。
【0014】
フレーム本体3aの前後壁部21,22には、棒状部材25の軸部26を挿通可能な前後挿通孔31,32がそれぞれ形成される。棒状部材25は、その軸部26をフランジ部27と反対側の端部(後端部34)から前挿通孔31を通じてフレーム本体3aの断面内に挿入し、該後端部34を後挿通孔32からフレーム本体3aの断面外に所定量(例えばフランジ部27の厚さと同程度)だけ突出させる。
【0015】
このとき、フランジ部27の軸部26側の面が前壁部21の前面(フレーム本体3aの外面)に当接し、この状態でフランジ部27(棒状部材25の前端部33でもある)の外周がフレーム本体3aの前壁部21に例えばアーク溶接により全周に渡って溶接され、かつ軸部26の後端部34の外周がフレーム本体3aの後壁部22に同じくアーク溶接により全周に渡って溶接されることで、棒状部材25の前後端部33,34がフレーム本体3aの前後壁部21,22にそれぞれ結合され、棒状部材25とフレーム本体3aとが一体化される。
【0016】
これにより、棒状部材25がフレーム本体3aの所定箇所の断面内に追加されたダイアゴナル状の補強部材として機能し、衝撃荷重等の大荷重が加わった際にもフレーム本体3aの閉断面が圧潰することを抑制し、フレーム本体3aが安定して前記荷重を受けることを可能として該荷重を前記ホイルハウスアッパメンバ12やフロントサイドフレーム13に伝達可能とする。特に、棒状部材25のフランジ部27が比較的広面積でフレーム本体3aの前壁部21に接することで、該前壁部21の前挿通孔31周りの変形を効果的に抑え、前記圧潰を効果的に抑制する。また、棒状部材25が他部品の固定部を兼ねることで、部品点数削減等の設計の合理化をも可能とする。
【0017】
次に、上記アッパフレーム3の製造方法について図3を参照して説明する。
まず、フレーム本体3aの素材となる例えば直線状の丸形鋼管Pを用意し、該鋼管Pにパイプベンダー機等を用いた曲げ加工を施してフレーム本体3aの概略形状を形成する(図3(a)参照)。
次いで、上記曲げ加工後の鋼管Pの所定部位(図では前記上辺部5に相当する部位)に、プレス機等を用いたプリクラッシュ加工(後のハイドロフォーム成形用の金型に入るように閉断面を所定量潰す加工)を施す(図3(b)参照)。
【0018】
次いで、上記プリクラッシュ加工後の鋼管Pをハイドロフォーム成形用の金型にセットし、該鋼管Pに低液圧を加えながら金型を閉じることで、鋼管Pの所定部位を所定量潰したり曲げたりするハイドロベンド加工を施す(図3(c)参照)。
上記金型を閉じた後には、鋼管Pに高液圧を加えてハイドロフォーム成形を施し、所望の立体形状を有するフレーム本体3aを形成する(図3(d)参照)。
【0019】
上記形成後のフレーム本体3aには、前記前後挿通孔31,32の形成を含む孔開け加工等を施した後、該フレーム本体3aに前記棒状部材25を前述の如く挿入、固定することで、フレーム本体3aの所定箇所の断面内にダイアゴナル状の補強部材としての棒状部材25を追加したアッパフレーム3を構成する(図3(e)参照)。
なお、前述したハイドロフォーム成形とは、金型にセットした鋼管P内に液体を充填し、該液体を加圧し前記鋼管Pを膨出させて前記金型の内部形状に倣った形状とする既存の工法である。
【0020】
以上説明したように、上記実施例における車体フレーム部材(アッパフレーム3)は、ハイドロフォーム成形により製造された閉断面部材であるフレーム本体3aを主とするものにおいて、前記フレーム本体3aに、その閉断面を形成する一側の壁部(前壁部21)から他側の壁部(後壁部22)まで到達するように棒状部材25を挿入し、該棒状部材25の前後端部33,34と前記フレーム本体3aの前後壁部21,22とを結合したものである。
【0021】
この構成によれば、前記フレーム本体3aにおける閉断面を形成する一対の壁部21,22に適宜孔開け加工を行い、該フレーム本体3aに棒状部材25を挿入、固定することのみで、フレーム本体3aにおける任意の箇所の断面内にダイアゴナル状の補強部材としての棒状部材25を追加することができる。すなわち、フレーム本体3aの断面外周を覆う補強部材を追加するような場合と比べて大型化や重量増が抑えられ、かつフレーム本体3aへの孔開け加工や棒状部材25の挿入、固定といった量産向けの方法を用いた上で、ハイドロフォーム成形により製造されたフレーム本体3aの断面内にダイアゴナル状の補強部材を追加することができる。
【0022】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば図4(a)に示すように、前記棒状部材25に代わり、軸部26の前端側ではなく後端側にフランジ部27を有する棒状部材125を用いた構成としてもよい。棒状部材125は、その軸部26を前端部33から後挿通孔32を通じてフレーム本体3aの断面内に挿入し、該前端部33を前壁部21における前記前挿通孔31に代わる前ボルト孔31’周囲の後面(フレーム本体3aの内面)に当接させる。なお、前ボルト孔31’は前挿通孔31に対して同軸かつやや小径のものである。
【0023】
このとき、フランジ部27の軸部26側の面が後壁部22の後面(フレーム本体3aの外面)に当接し、この状態でフランジ部27(棒状部材125の後端部34でもある)の外周がフレーム本体3aの後壁部22に例えばアーク溶接により全周に渡って溶接され、軸部26の前端部33は前記ボルトBが締め込まれることで前壁部21に固定されることで、棒状部材125の前後端部33,34がフレーム本体3aの前後壁部21,22にそれぞれ結合され、棒状部材125とフレーム本体3aとが一体化される。
なお、図では棒状部材125の前端部33がフレーム本体3aの前壁部21に溶接されないが、該前端部33を前壁部21に溶接するようにしてもよい。このとき、棒状部材125の前端部33を前壁部21から突出させるようにしてもよい。
【0024】
また、図3(b)に示すように、前記棒状部材25に代わり、フランジ部27及びナット孔28を有さない単なる円柱状の軸部26からなる棒状部材225を用いた構成としてもよい。棒状部材225は、フレーム本体3aの閉断面をその前後壁部21,22に渡って貫通し、その前後端部33,34を前後壁部21,22から所定量突出させ、この状態で該前後端部33,34の外周がフレーム本体3aの前後壁部21,22にそれぞれ例えばアーク溶接により全周に渡って溶接することで、棒状部材225の前後端部33,34がフレーム本体3aの前後壁部21,22にそれぞれ結合されることで、棒状部材225とフレーム本体3aとが一体化される。
なお、棒状部材225の前後端部33,34の少なくとも一方が、前述の如くボルトBによりフレーム本体3aに固定される構成としてもよい。このとき、他部品を共締めするか否かは問わない(図2、図3(a)の場合も同様である。)。
【0025】
さらに、例えばフレーム本体3aの上下壁部23,24に渡るように棒状部材を設けた構成としてもよい。また、フレーム本体3a(閉断面部材)の断面形状は矩形状に限らず、したがって、閉断面部材の閉断面を構成する一側の壁部からこれと概ね対向する他側の壁部まで到達するように棒状部材を設けた構成であればよい。
しかも、閉断面部材は、ハイドロフォーム成形により製造されたものの他に、ロールフォーム成形により製造されたもの、パイプの単純加工により製造されたもの、複数の部材を適宜組み合わせて製造されたもの等であってもよい。また、閉断面部材の素材は、丸形鋼管に限らず角形等の断面形状を有する金属管(アルミ管やステンレス管等を含む)であってもよい。同様に、棒状部材も鉄鋼以外の各種金属さらには樹脂を用いたものであってもよい。
そして、上記実施例における構成はこの発明の一例であり、フロントバルクヘッドのアッパフレームへの適用に限らず、かつ乗用車以外の車両(バス、トラック、自動二輪及び三輪車、原動機付自転車、自転車、四輪バギー車等)にも適用できることはもちろん、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の実施例における車体前部の斜視図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】上記車体のフロントバルクヘッドのアッパフレームの製造工程を(a)〜(e)の順に示す説明図である。
【図4】(a),(b)共に上記実施例の変形例を示す図2に相当する断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 車体
2 フロントバルクヘッド
3 アッパフレーム(車体フレーム部材)
3a フレーム本体(閉断面部材)
21 前壁部(壁部)
22 後壁部(壁部)
25,125,225 棒状部材
33 前端部(端部)
34 後端部(端部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉断面部材を有する車体フレーム部材において、前記閉断面部材に、その閉断面を形成する一側の壁部から他側の壁部まで到達するように棒状部材を挿入し、該棒状部材の両端部と前記閉断面部材の両壁部とを結合したことを特徴とする車体フレーム部材。
【請求項2】
前記閉断面部材は、ハイドロフォーム成形により製造されることを特徴とする請求項1に記載の車体フレーム部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−161040(P2009−161040A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−428(P2008−428)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】