説明

車体前部構造

【課題】サイドフレームの前周壁にステーを立設しても、サイドフレームの衝撃吸収のための変形を妨げない車体前部構造を提供する。
【解決手段】車体前部構造11は車両前部54から車室27まで延びて正面衝突のときに車両後方へ向かって座屈することで衝撃を吸収するサイドフレーム14と、サイドフレーム14の前周壁15に立設しているステーと、を備える。ステーは、サイドフレーム14の長手方向に直交し車室27へ向いているステー基壁部63と、ステー基壁部63の車幅方向の内端64又は外端65のどちらか一方の端から車両前方へ延びているステー側壁部67と、ステー側壁部67からステー基壁部63の他方の端まで延びているステー斜壁部68と、で略三角形の閉断面形状を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部から車室まで延びるサイドフレームに前の骨格をなす部材を結合した車体前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車体前部構造には、一般的に見られるように、車室まで延びるサイドフレーム(サイドメンバー)に前の骨格をなす部材、例えば、ラジエータを支持するフロントバルクヘッド(ラジエータサポート)が結合され、サイドメンバー側で正面衝突の際の衝撃を吸収しているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−249075号公報(第5頁、図2)
【0003】
しかし、特許文献1のような車両のフロントエンド構造では、ラジエータサポートとサイドメンバーを結合すると、ラジエータサポート(ステーに相当)でサイドメンバーが拘束され、正面衝突の際にサイドメンバー自身の潰れ(移動)が妨げられるという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、サイドフレームの前周壁にステーを立設しても、サイドフレームの衝撃吸収のための変形を妨げず、サイドフレームの衝撃吸収を高めた車体前部構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、車両前部から車室まで延びて正面衝突のときに車両後方へ向かって座屈することで衝撃を吸収するサイドフレームと、サイドフレームの前周壁に立設しているステーと、を備えた車体前部構造において、ステーは、サイドフレームの長手方向に直交し車室へ向いているステー基壁部と、ステー基壁部の車幅方向の内端又は外端のどちらか一方の端から車両前方へ延びているステー側壁部と、ステー側壁部からステー基壁部の他方の端まで延びているステー斜壁部と、で略三角形の閉断面形状を形成していることを特徴とする。
【0006】
請求項2に係る発明では、ステー側壁部は、サイドフレームの長手方向に沿って配置されていることを特徴とする。
【0007】
請求項3に係る発明では、ステーは、車体の前端の骨格をなすフロントバルクヘッドに含まれるフロントバルクヘッドサイドの上ステーであり、サイドフレームの上部に溶接で接合され、フロントバルクヘッドサイドの下ステーが、サイドフレームの下部に上ステーよりも車両後方にオフセットされて溶接で接合されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明では、サイドフレームと、前部に立設しているステーと、を備え、ステーは、サイドフレームの長手方向に直交し車室へ向いているステー基壁部と、ステー基壁部の車幅方向の内端又は外端のどちらか一方の端から車両前方へ延びているステー側壁部と、ステー側壁部からステー基壁部の他方の端まで延びているステー斜壁部と、で略三角形の閉断面形状を形成しているので、サイドフレームへの拘束力をステー斜壁部によって低下させることができ、サイドフレームの潰れを妨げないという利点がある。その結果、サイドフレームはステーに必要以上拘束されずにステーとともに車両後方へ向かって潰れ続けることができ、サイドフレームの衝撃吸収を高めることができる。
【0009】
請求項2に係る発明では、ステー側壁部は、サイドフレームの長手方向に沿って配置されているので、サイドフレームへの拘束力をステー斜壁部によってより低下させることができ、結果的に、よりサイドフレームの衝撃吸収を高めることができる。
【0010】
請求項3に係る発明では、ステーは、フロントバルクヘッドサイドの上ステーであり、サイドフレームの上部に溶接で接合され、フロントバルクヘッドサイドの下ステーが、サイドフレームの下部に上ステーよりも車両後方にオフセットされて溶接で接合されているので、上ステーと下ステーを溶接したときの冷却後に発生する応力はサイドフレームの上部と下部で相殺されて、小さくなり、サイドフレームの溶接変形を抑制することができる。
【0011】
また、下ステーが上ステーよりも車両後方にオフセットしているので、フロントバルクヘッドに取付ける前部品(例えば、コンデンサやラジエータ)を斜め下向きに搭載でき、大型の前部品(例えば、ラジエータ)を搭載することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は、本発明の車体前部構造を採用したフロントボデーの斜視図である。
図2は、フロントボデーの側面図である。
車体前部構造11は、車体12のフロントボデー13に採用され、サイドフレーム14と、サイドフレーム14の前周壁15に接合して車体12の前の骨格をなすフロントバルクヘッド16と、を備える。後で具体的に説明する。
【0013】
車体前部構造11の左側を主体に説明するが、車体前部構造11は車幅方向(X軸方向)の中心軸線Cを基準にほぼ対称である。
【0014】
フロントボデー13は、前に触れたサイドフレーム14、フロントバルクヘッド16と、サスペンション(図に示していない)を支持しているダンパハウジング24と、前輪(図に示していない)の上方のホイルハウスアッパメンバ25と、を備える。27は車室である。
【0015】
フロントバルクヘッド16は、上のフロントバルクヘッドアッパ31と、下のフロントバルクヘッドロアー32と、フロントバルクヘッドサイド33と、からなり、フロントバルクヘッドサイド33を上のステー(上ステー)35と下の下ステー36に2分割している。
【0016】
ステー(上ステー)35は、車体12の前の骨格をなすフロントバルクヘッド16に含まれるフロントバルクヘッドサイド33の上ステーであり、サイドフレーム14の上部(上辺部)に溶接で接合され、一方、フロントバルクヘッドサイド33の下ステー36が、サイドフレーム14の下部(下辺部)に上ステー35よりも車両後方(矢印a1の方向)に距離Eだけオフセットされて溶接で接合されている。
【0017】
図3は、本発明の車体前部構造の前部品を支持する状態を示す図である。図1を併用して説明する。
車体前部構造11のフロントバルクヘッド16には、前部品37(例えば、コンデンサやラジエータ)が取付けられている。上のフロントバルクヘッドアッパ31に前部品37(コンデンサ)の上部が上取付部材(図に示していない)で取付けられ、前部品37(コンデンサ)の横部41が横取付部材42で第2部品取付ブラケット22を介してサイドフレーム14に取付けられ、フロントバルクヘッドロアー32に前部品37(コンデンサ)の下部43が下取付部材(図に示していない)で取付けられている。
【0018】
サイドフレーム14は、中空形状のアルミニウム押し出し成形材で、上へ向いている上辺部46、下辺部47、車両内側(矢印a2の方向)に向いている内辺部48、車両外側(矢印a3の方向)に向いている外辺部49を有している。そして、サイドフレーム14の軸線51に直交させて上ステー35が立設され、下ステー36が直交して垂下され、外辺部49に、上ステー35の下方に且つ下ステー36より車両前方(矢印a4の方向)に第1部品取付ブラケット21が結合されている。
【0019】
サイドフレーム14の周壁52は、上辺部46、下辺部47、内辺部48、外辺部49がつながり連続したもので、周壁52のうち前側が前周壁15である。
【0020】
再び図1に戻って車体前部構造を見る。
車体前部構造11は、車両前部54から車室27まで延びて正面衝突のときに車両後方へ向かって座屈する(矢印a5の方向)ことで衝撃を吸収するサイドフレーム14と、サイドフレーム14の前周壁15に立設しているステー(上ステー)35と、下ステー36と、を備える。
【0021】
図4は、本発明の車体前部構造の斜視図である。図1〜図3を併用して説明する。
下ステー36は、中空形状で、サイドフレーム14に溶接(ビード56)で結合している。さらに、端部57に連続した補強部58がサイドフレーム14の外辺部49に溶接(ビード61)で結合している。そして、下端にフロントバルクヘッドロアー32を結合している。
【0022】
図5(a)、(b)は、本発明の車体前部構造のステーを説明する図である。(a)は斜視図、(b)は(a)のb矢視図であり、図面右が車両前方(矢印a4の方向)である。
図6は、図5(a)の6矢視図である。図面上が車両後方(矢印a1の方向)である。
【0023】
ステー(上ステー)35は、サイドフレーム14の長手方向(Y軸方向)に直交し車室27へ向いているステー基壁部63と、ステー基壁部63の車幅方向(X軸方向)の内端64から車両前方(矢印a4の方向)へ延びているステー側壁部67と、ステー側壁部67からステー基壁部63の外端65まで延びているステー斜壁部68と、で略三角形の閉断面形状を形成している。71はステー(上ステー)35を接合している溶接のビードである。
ステー(上ステー)35は、中空形状のアルミニウム押し出し成形材であり、製造は容易である。
【0024】
ステー側壁部67は、サイドフレーム14の長手方向に沿って配置されている。具体的には、サイドフレーム14の内辺部48に平行に形成され、さらに内辺部48に重ねた内辺重なり部73が形成され、上部には車両内側へ延びる前アッパ結合部74及び後アッパ結合部75が形成されている。
そして、前アッパ結合部74、後アッパ結合部75がフロントバルクヘッドアッパ31に接合している。その結果、フロントバルクヘッドアッパ31との接合に用いる溶接部の溶接長を長くすることができ、強度を高めることができる。
【0025】
ステー斜壁部68は、車両前方へ斜めに角度θで向いている平坦な部位であり、詳しくは、正面側壁部76が車両前方へ向けてステー基壁部63に平行に形成されている。正面側壁部76を形成することで、フロントバルクヘッドアッパ31に結合する前アッパ結合部74の強度を高めることができる。
角度θは、サイドフレーム14の軸線51やステー側壁部67に対する角度である。
【0026】
次に、本発明の車体前部構造11の作用を説明する。
図7(a)、(b)は、比較模式図である。(a)は比較例を模式的に示し、背景技術の縦サイド部分201を上下に分割した場合に相当する。(b)は実施の形態を模式的に示している。
【0027】
(a):車両が正面衝突したときに、衝撃が矢印b1のように加わると、サイドフレーム202が距離Y1だけ潰れることで衝撃を吸収するが、ステー側壁部203、204がサイドフレーム202を拘束しているため、サイドフレーム202の潰れが妨げられる。
【0028】
(b):正面衝突で同じ衝撃が矢印b2のように加わり、サイドフレーム14が潰れ始めると、ステー(上ステー)35はステー斜壁部68によってサイドフレーム14の潰れとともに変形するので、サイドフレーム14は、従来に比べ、より大きく潰れ、距離Y2(Y2>Y1)だけ潰れて衝撃を吸収することができる。つまり、サイドフレーム14の潰れを妨げないという利点がある。
【0029】
図2、図3に示している車体前部構造11では、フロントバルクヘッドサイド33の上ステー35よりも車両後方にフロントバルクヘッドサイド33の下ステー36をオフセットすると、フロントバルクヘッド16に取付ける前部品37(例えば、コンデンサやラジエータ)を斜め下向きに搭載でき、大型の前部品37(例えば、コンデンサやラジエータ)を搭載することができる。
【0030】
尚、本発明の車体前部構造は、実施の形態ではステー(上ステー)35を直角三角形に形成したが、直角三角形に限定しない。例えば、二等辺三角形でも可能であり、二等辺三角形にすることで、図7(a)と(b)との中間の作用効果を発揮する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の車体前部構造は、サイドフレームの前周壁にステーなどの部材を取付けた車両に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の車体前部構造を採用したフロントボデーの斜視図である。
【図2】フロントボデーの側面図である。
【図3】本発明の車体前部構造の前部品を支持する状態を示す図である。
【図4】本発明の車体前部構造の斜視図である。
【図5】本発明の車体前部構造のステーを説明する図である。
【図6】図5(a)の6矢視図である。
【図7】比較模式図である。
【符号の説明】
【0033】
11…車体前部構造、12…車体、14…サイドフレーム、15…サイドフレームの前周壁、16…フロントバルクヘッド、27…車室、33…フロントバルクヘッドサイド、35…ステー(上ステー)、36…下ステー、46…サイドフレームの上部(上辺部)、47…サイドフレーム14の下部(下辺部)、54…車両前部、63…ステー基壁部、64…内端、65…外端、67…ステー側壁部、68…ステー斜壁部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部から車室まで延びて正面衝突のときに車両後方へ向かって座屈することで衝撃を吸収するサイドフレームと、該サイドフレームの前周壁に立設しているステーと、を備えた車体前部構造において、
前記ステーは、前記サイドフレームの長手方向に直交し前記車室へ向いているステー基壁部と、該ステー基壁部の車幅方向の内端又は外端のどちらか一方の端から車両前方へ延びているステー側壁部と、該ステー側壁部から前記ステー基壁部の他方の端まで延びているステー斜壁部と、で略三角形の閉断面形状を形成していることを特徴とする車体前部構造。
【請求項2】
前記ステー側壁部は、前記サイドフレームの長手方向に沿って配置されていることを特徴とする請求項1記載の車体前部構造。
【請求項3】
前記ステーは、車体の前端の骨格をなすフロントバルクヘッドに含まれるフロントバルクヘッドサイドの上ステーであり、前記サイドフレームの上部に溶接で接合され、
前記フロントバルクヘッドサイドの下ステーが、前記サイドフレームの下部に前記上ステーよりも車両後方にオフセットされて溶接で接合されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車体前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−58583(P2010−58583A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224643(P2008−224643)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】