説明

転がり直動装置の作動状態監視方法および作動状態監視装置

【課題】転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを精度良く監視することのできる転がり直動装置の作動状態監視方法および作動状態監視装置を提供する。
【解決手段】ボールねじ1のボール循環チューブ1dに設けた振動センサ4から出力された信号を基にボールねじ1の作動状態が正常であるか否かを監視するに際して、ボールねじ1が一定距離だけ作動する間に振動センサ4から出力された信号のピーク値を予め設定した閾値と比較し、閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合のボールねじ1の合計作動回数(i+n)を分母とし且つ閾値を超えるピーク値が出現した場合のボールねじ1の作動回数(i)を分子とした高ピーク値出現割合(i/(i+n))を算出し、算出された高ピーク値出現割合(i/(i+n))が予め設定された設定値Tを超えたときにボールねじ1の作動状態が正常でないと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ、リニアガイド等の転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを監視する転がり直動装置の作動状態監視方法および作動状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ、リニアガイド等の転がり直動装置を備えた機械設備の作動状態が正常であるか否かを監視する方法として、転がり直動装置部品に設けたセンサ(例えば振動センサ、音響センサなど)の出力信号を基に、機械設備の所定の物理量を分析し、分析した結果と機械設備の異常の有無の判定基準となる情報とを第一の時間毎に比較照合して機械設備の異常の有無を仮判定し、比較照合を所定の回数行ったとき若しくは第二の時間毎に比較照合した結果に基づいて、異常と仮判定した回数が閾値以上である場合に異常と判定する総合評価を行う方法が知られている(特許文献1参照)。
上述した方法によると、転がり直動装置部品の磨耗や破損を発見するために、機械設備を定期的に分解したり、分解後に機械設備を組立て直したりする必要がないため、多くの時間や労力などを要することなく機械設備の保守点検を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−17128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ボールねじのナットやリニアガイドのスライダは荷重を負荷された状態で往復運動を繰り返すため、ナットやスライダの移動速度あるいは機械設備から受ける荷重によってセンサ出力が急峻に変化したり、機械設備内の様々な付帯設備から受ける影響によってセンサ出力にノイズが発生したりすることがある。このため、センサ出力の急峻な変化やノイズの影響などによって異常と仮判定する回数が多くなり、上述した方法を用いて転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを監視する場合には、センサ出力の急峻な変化やノイズの影響を受けない値に閾値を設定する必要がある。しかし、閾値を低く設定し過ぎた場合には異常が発生していない段階で異常有りと判定したり、閾値を高く設定し過ぎた場合には異常が発生しているにも係わらず異常なしと判定したりするという問題があった。
本発明は上述した問題点に着目してなされたものであり、その目的は、転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを精度良く監視することのできる転がり直動装置の作動状態監視方法および作動状態監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明に係る転がり直動装置の作動状態監視方法は、転動体の転がり運動を介して軸方向に往復運動する可動部材を有する転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを監視する方法であって、前記転がり直動装置が一定距離だけ作動する間に前記可動部材に付設された振動検出手段から出力された信号のピーク値を予め設定した閾値と比較し、前記閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合の前記転がり直動装置の合計作動回数を分母とし且つ前記閾値を超えるピーク値が出現した場合の前記転がり直動装置の作動回数を分子とした高ピーク値出現割合を算出し、算出された高ピーク値出現割合が予め設定した設定値を超えたときに前記転がり直動装置の作動状態が正常でないと判定することを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明に係る転がり直動装置の作動状態監視装置は、転動体の転がり運動を介して軸方向に往復運動する可動部材を有する転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを監視する装置であって、前記転がり直動装置が一定距離だけ作動する間に前記可動部材に付設された振動検出手段から出力された信号のピーク値を予め設定した閾値と比較する比較手段と、前記閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合の前記転がり直動装置の合計作動回数を分母とし且つ前記閾値を超えるピーク値が出現した場合の前記転がり直動装置の作動回数を分子とした高ピーク値出現割合を算出する算出手段と、前記算出手段で算出された高ピーク値出現割合が予め設定した設定値を超えたときに前記転がり直動装置の作動状態が正常でないと判定する判定手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合の転がり直動装置の合計作動回数を分母とし且つ閾値を超えるピーク値が出現した場合の転がり直動装置の作動回数を分子とした高ピーク値出現割合を算出し、算出された高ピーク値出現割合が予め設定した設定値を超えたときに転がり直動装置の作動状態が正常でないと判定することにより、閾値を低く設定し過ぎた場合や閾値を高く設定し過ぎた場合でも異常が発生していない段階で異常有りと判定したり、あるいは異常が発生しているにも係わらず異常なしと判定したりする可能性が低くなる。したがって、転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを精度良く監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る作動状態監視装置とボールねじを示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る作動状態監視装置の作動状態監視方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】振動センサから出力される信号の波形と閾値を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の第1の実施形態を図1に示す。同図において、符号1は転がり直動装置としてのボールねじを示し、このボールねじ1のねじ軸1aには、ボールねじ1を駆動する駆動モータ2の回転軸がカップリング3を介して連結されている。
ボールねじ1のねじ軸1bは、螺旋状のボール軌道溝(以下、「軸側軌道溝」という)1cを外周面に有している。この軸側軌道溝1cは可動部材としてのナット1bの内周面に形成された螺旋状のボール軌道溝(以下、「ナット側軌道溝」という)と対向しており、軸側軌道溝1cとナット側軌道溝との間には、転動体としての多数のボール(図示せず)が転動自在に組み込まれている。これらのボールはねじ軸1a(またはナット1b)の回転運動に伴って軸側軌道溝1cとナット側軌道溝との間を転動するようになっており、軸側軌道溝1cとナット側軌道溝との間を転動したボールはナット1bに組み付けられたボール循環チューブ1dに導入され、このボール循環チューブ1dを経由して元の位置に戻されるようになっている。
【0010】
ボールねじ1はボールの転がり運動によってボール循環チューブ1dに発生した振動を検出する振動検出手段としての振動センサ4を有しており、この振動センサ4から出力された信号は、本発明の第1の実施形態に係る作動状態監視装置5に供給されるようになっている。
作動状態監視装置5は中央演算処理装置(CPU)5a、リードオンリメモリ(ROM)5b、ランダムアクセスメモリ(RAM)5c、表示装置5d等からなり、CPU5aは図2に示すフローチャートに従ってボールねじ1の作動状態が正常であるか否かを監視している。
【0011】
すなわち、CPU5aは、先ず、ステップS1で閾値を超えるピーク値が出現しなかった場合のボールねじ1の作動回数nをn=0に設定すると共に、閾値を超えるピーク値が出現した場合のボールねじ1の作動回数iをi=0に設定した後、ボールねじ1が作動開始であるか否かを判定する(ステップS2)。ここで、ボールねじ1が作動開始でない場合はボールねじ1が作動開始となるまで待機する。また、ボールねじ1が作動開始である場合はステップS3に進み、振動センサ4から出力された信号と駆動モータ2に付設されたエンコーダの出力信号とを取り込み、振動センサ4の出力信号をA/D変換してRAM5cに格納する。
【0012】
振動センサ4から出力された信号がA/D変換されてRAM5cに格納されると、CPU5aはボールねじ1が作動停止状態であるか否かを判定する(ステップS4)。ここで、ボールねじ1が作動停止状態でない場合はステップS3に戻り、振動センサ4から出力された信号と駆動モータ2に付設されたエンコーダの出力信号とを取り込み、振動センサ4の出力信号をA/D変換してRAM5cに格納する。
【0013】
ボールねじ1が作動停止状態である場合はステップS5に進み、ボールねじ1の作動距離をエンコーダの出力信号に基づいて算出し、算出した作動距離が予め設定された所定の作動距離に達したか否かを判定する(ステップS6)。ここで、ボールねじ1の作動距離が所定の作動距離に達していない場合はステップS2に戻り、ボールねじ1が再び作動状態になるまで待機する。
ステップS6でボールねじ1の作動距離が所定の作動距離に達している場合はステップS7に進み、RAM5cに格納された振動センサ4の出力信号をフィルタリング処理し、さらに次のステップS8で振動センサ4の出力信号を周波数分析する。
【0014】
このようにして振動センサ4の出力信号を周波数分析したならば、CPU5aは振動センサ4から出力された信号の中から振動のピークとそのピーク値を検出する(ステップS9)。そして、検出したピーク値を予め設定しておいた閾値(図3参照)と比較し、閾値を超えるピーク値が存在するか否かをステップS10で判定する。ここで、閾値を超えるピーク値が存在しない場合はステップS11でn=n+1とした後、後述するステップS13に進む。
【0015】
また、閾値を超えるピーク値が存在する場合はステップS12に進み、i=i+1とした後、閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合のボールねじの合計作動回数(i+n)が予め設定しておいた所定の作動回数Nに達したか否かをステップS13で判定する。
ここで、ボールねじの合計作動回数(i+n)が所定の作動回数Nに達していない場合はステップS2に戻り、ボールねじ1が作動開始となるまで待機する。また、ボールねじの合計作動回数(i+n)が所定の作動回数Nに達している場合はステップS14に進み、閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合のボールねじの合計作動回数(i+n)を分母とし且つ閾値を超えるピーク値が出現した場合のボールねじの作動回数(i)を分子とする高ピーク値出現割合(i/(i+n))を算出する(ステップS15)。
【0016】
このようにして高ピーク値出現割合(i/(i+n))を算出したならば、CPU5aは算出した高ピーク値出現割合を予め設定しておいた設定値Iと比較し、i/(i+n)≧Iであるか否かを判定する(ステップS15)。ここで、高ピーク値出現割合(i/(i+n))が設定値Iを超えていない場合には、CPU5aはボールねじ1の作動状態が正常であると判定し、その判定結果を表示装置5dに出力する(ステップS16)。また、高ピーク値出現割合(i/(i+n))が設定値Iを超えている場合には、CPU5aはボールねじ1の作動状態が異常であると判定し、その判定結果を表示装置5dに出力する(ステップS17)。
【0017】
上述のように、ボールねじ1のボール循環チューブ1dに設けた振動センサ4から出力された信号を基にボールねじ1の作動状態が正常であるか否かを監視するに際して、ボールねじ1が一定距離だけ作動する間に振動センサ4から出力された信号のピーク値を予め設定した閾値と比較し、閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合のボールねじ1の合計作動回数(i+n)を分母とし且つ閾値を超えるピーク値が出現した場合のボールねじ1の作動回数(i)を分子とした高ピーク値出現割合(i/(i+n))を算出し、算出された高ピーク値出現割合(i/(i+n))が予め設定した設定値Tを超えたときにボールねじ1の作動状態が正常でないと判定することにより、閾値を低く設定し過ぎた場合や閾値を高く設定し過ぎた場合でも異常が発生していない段階で異常有りと判定したり、あるいは異常が発生しているにも係わらず異常なしと判定したりする可能性が低くなる。したがって、ボールねじ1の作動状態が正常であるか否かを精度良く監視することができる。
上述した第1の実施形態では、本発明の適用例としてボールねじを例示したが、ボールねじに限られるものではなく、例えばリニアガイドの作動状態が正常であるか否かを監視する場合にも本発明を適用することが可能である。
【符号の説明】
【0018】
1 ボールねじ
1a ねじ軸
1b ナット
1c 軸側軌道溝
1d ボール循環チューブ
2 ボールねじ駆動モータ
3 カップリング
4 振動センサ
5 作動状態監視装置
5a CPU
5b ROM
5c RAM
5d 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体の転がり運動を介して軸方向に往復運動する可動部材を有する転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを監視する方法であって、前記転がり直動装置が一定距離だけ作動する間に前記可動部材に付設された振動検出手段から出力された信号のピーク値を予め設定した閾値と比較し、前記閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合の前記転がり直動装置の合計作動回数を分母とし且つ前記閾値を超えるピーク値が出現した場合の前記転がり直動装置の作動回数を分子とした高ピーク値出現割合を算出し、算出された高ピーク値出現割合が予め設定した設定値を超えたときに前記転がり直動装置の作動状態が正常でないと判定することを特徴とする転がり直動装置の作動状態監視方法。
【請求項2】
転動体の転がり運動を介して軸方向に往復運動する可動部材を有する転がり直動装置の作動状態が正常であるか否かを監視する装置であって、前記転がり直動装置が一定距離だけ作動する間に前記可動部材に付設された振動検出手段から出力された信号のピーク値を予め設定した閾値と比較する比較手段と、前記閾値を超えるピーク値が出現した場合と出現しなかった場合の前記転がり直動装置の合計作動回数を分母とし且つ前記閾値を超えるピーク値が出現した場合の前記転がり直動装置の作動回数を分子とした高ピーク値出現割合を算出する算出手段と、前記算出手段で算出された高ピーク値出現割合が予め設定した設定値を超えたときに前記転がり直動装置の作動状態が正常でないと判定する判定手段とを備えたことを特徴とする転がり直動装置の作動状態監視装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−107030(P2011−107030A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263981(P2009−263981)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】