説明

転がり軸受および転がり軸受装置

【課題】 軸受を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる転がり軸受および転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】 この転がり軸受は、内輪1および外輪2の転走面1a,2a間に転動体3を介在させている。外輪2の外径面2dと、この外輪2dの内周面2gにおける転走面近傍位置とを連通する潤滑油供給用の給油孔2cを前記外輪2に設けている。この外輪2の外径面2dに、前記給油孔2cに連通し、軸受外の給油孔2cとは異なる円周方向位置から供給される潤滑油を前記給油孔2cに導く円周溝2bを設けている。軸受外からの潤滑油を、円周溝2bを経由させていることで、流路に絞り効果を与えて、供給エア圧力が低くなり過ぎない様にある程度のエア圧力(0.2MPa程度以上)を維持しながら、給油孔出口のエア流速を下げ、騒音値の低減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、工作機械主軸等の支持に用いられる転がり軸受および転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受において、外輪に外径部から内径部に連通する給油孔を設けて、この給油孔から給油する方式がある(特許文献1)。例えば、工作機械主軸等の支持に用いられる転がり軸受を、前記方式によりエアオイル潤滑で高速回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−180726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図15は、内径φ100mmの軸受の13000min−1時の周波数分布結果を示す。
外輪に給油孔を設けた軸受を主軸等に組込み、エアオイル潤滑で高速回転させると、供給するエア流量や給油孔径によっては、非常に騒音値が大きくなる問題がある。これは、給油孔から噴射されるエアの転動体による風切り音であり、耳障りな高周波音である。この周波数は、外輪に対する転動体通過周波数と一致する。
この高周波な騒音値を低減することが可能となれば、主軸を高速回転で使用する場合に、騒音をあまり気にすることなく作業できる。つまり作業環境の改善につながる。
【0005】
この発明の目的は、軸受を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる転がり軸受および転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明における第1の発明の転がり軸受装置は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、前記外輪の外径面と、この外輪の内周面における転走面近傍位置とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設けたことを特徴とする。
前記「転走面近傍位置」とは、外輪の内周面のうち、転動体中心よりも転動体と外輪との反接触側で、給油孔から吐出される潤滑油が転動体にかかるまでの位置をいう。
【0007】
この構成によると、ハウジングの潤滑油導入孔から供給された潤滑油は、外輪の外径面とハウジングの内径面との嵌合面に設けた円周方向流路を経由して給油孔から軸受内の転走面近傍位置へ供給され、軸受の潤滑に供される。このようにハウジングの潤滑油導入孔から供給された潤滑油を、給油孔に直接導くのではなく、円周方向流路を経由させているため、潤滑油がこの円周方向流路を経由する過程において、絞り効果を与えて、供給エア圧力が低くなり過ぎない様にある程度のエア圧力(0.2MPa程度以上)を維持しながら、給油孔出口のエア流速を下げることで、騒音値の低減を図ることができる。この転がり軸受装置に回転自在に支持される主軸等を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる。
【0008】
前記円周方向流路は、外輪の外径面に設けた円周溝であっても良い。この場合、ハウジングの内径面に、円周方向流路を加工する工数が不要となる。
前記円周方向流路は、ハウジングの内径面に設けた円周溝であっても良い。この場合、軸受の外径面に、円周方向流路を加工する工数が不要となる。
【0009】
前記外輪の外径面とハウジングの内径面との嵌合面における、前記円周方向流路を挟む軸方向の両側位置に、それぞれ環状溝を設け、各環状溝にそれぞれ環状のシール部材を設けたものであっても良い。これら環状のシール部材により、前記嵌合面から潤滑油が不所望に漏れることを防止することができる。
【0010】
前記円周方向流路を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を、前記給油孔を同給油孔が延びる方向に垂直な平面で切断して見た断面積の22%以上53%以下としても良い。
前記給油孔の直径を1.2mm以上1.5mm以下とし、前記円周方向流路を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を0.4mm以上0.6mm以下としても良い。騒音値を低減させる手段として、配管内の油の流れを阻害しない程度のエア流量を確保しながら、給油孔の出口のエア流速を低減させる仕様として、給油孔の直径をφ1.5mm程度に大きくして、円周方向流路の前記断面積をφ0.8mm孔相当の断面積となる寸法に規制する仕様を考案した。給油孔の直径φdがφ1.2mm以上φ1.5mm以下で、円周方向流路の前記断面積Eが0.4mm以上0.6mm以下(つまり給油孔の断面積の22%以上53%以下)において、エア流速が下がる効果が認められた。
【0011】
転がり軸受装置は、前記潤滑油導入孔へ供給する潤滑油が、エアオイルまたはオイルミストの形態で供給されるものとしても良い。
前記給油孔を、前記外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けても良い。この場合、給油孔1個あたりのエア流量を半減することが可能となり、エア流速をさらに下げることができる。これにより、騒音値の低減をさらに図ることができる。また、2個の給油孔を180°対角位置に設けたため、潤滑油が円周方向流路を経由して円周方向に行き渡るため、外輪の冷却効果をより高めることができる。
【0012】
前記転動体が玉であって、前記外輪に転動体へ直接に潤滑油を給油できる位置に前記給油孔の出口を設け、前記給油孔の中心線と同じ円周方向位置に転動体の中心があるときに、この転動体の中心を含みかつ軸受軸心を含む平面内において、前記給油孔の中心線と前記転動体の外径面とが交わる交点と転動体の中心とを結ぶ直線が軸受半径方向に対して成す角度が10°以上30°以下の範囲になる位置に前記給油孔を位置させたものとしても良い。
前記角度をKとし、この角度Kが10°以上30°以下の範囲になる位置に前記給油孔を位置させた場合、角度Kが前記範囲から外れた位置に給油孔を位置させたものより、軸受運転時における騒音値を低減させることができる。なお角度Kが0°のときには、軸受運転時ある回転数で急に騒音値が大きくなる現象が見られた。
【0013】
前記転がり軸受に設ける転動体の個数が奇数個であって、給油孔を、前記外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けたものとしても良い。ハウジングの潤滑油導入孔から供給される潤滑油は、円周方向流路を経由して、前記外輪の2個の給油孔にそれぞれ導かれる。この場合に、1個の転動体が一方の給油孔を塞いている場合であっても、転動体の個数が奇数個で、給油孔を、外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けたため、他方の給油孔が転動体で塞がれることはない。奇数個の転動体は円周方向一定間隔おきに配置されるため、前記一方の給油孔が1個の転動体で塞がれるとき、180°対角位置に位置する前記他方の給油孔は、円周方向に隣接する転動体間に位置する。したがって、ハウジングから供給される潤滑油は、転動体で塞がれていないいずれかの給油孔を通るため、エア流量の変動が生じない。このため、エア流量を増やさなくても、潤滑油が転動体に届き難くなることを防止し得る。よって、エア流量を増やすことに起因する騒音値の低減を図ることができる。
【0014】
前記転がり軸受に設ける転動体の個数が偶数個であって、給油孔を外輪に2個設け、いずれか1個の転動体と一方の給油孔との円周方向位置が一致するときに、前記一方の給油孔の180°対角位置に近い転動体と、この転動体に隣接する転動体との間の外輪円周方向位置に、他方の給油孔を位置させたものとしても良い。転動体の個数が偶数個のとき、給油孔を、外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けると、2個の転動体が両方の給油孔を塞いでしまうことがあり得る。このため、一方の給油孔の180°対角位置に近い転動体と、この転動体に隣接する転動体との間の外輪円周方向位置に、他方の給油孔を位置させることで、両方の給油孔が転動体で同時に塞がれることはない。したがって、ハウジングから供給される潤滑油は、転動体で塞がれていないいずれかの給油孔を通るため、エア流量の変動が生じない。このため、エア流量を増やさなくても、潤滑油が転動体に届き難くなることを防止し得る。よって、エア流量を増やすことに起因する騒音値の低減を図ることができる。
前記転がり軸受がアンギュラ玉軸受であっても良い。
前記転がり軸受が円筒ころ軸受であっても良い。
【0015】
この発明の転がり軸受は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記外輪の外径面と、この外輪の内周面における転走面近傍位置とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面に、前記給油孔に連通し、軸受外の前記給油孔とは異なる円周方向位置から供給される潤滑油を前記給油孔に導く円周溝を設けたことを特徴とする。
前記「転走面近傍位置」とは、外輪の内周面のうち、転動体中心よりも転動体と外輪との反接触側で、給油孔から吐出される潤滑油が転動体にかかるまでの位置をいう。
【0016】
この構成によると、軸受外からの潤滑油は、外輪の円周溝を経由して給油孔から軸受内の転走面近傍位置へ供給され、軸受の潤滑に供される。このように軸受外からの潤滑油を、給油孔に直接導くのではなく、円周溝を経由させているため、潤滑油がこの円周溝を経由する過程において、絞り効果を与えて、供給エア圧力が低くなり過ぎない様にある程度のエア圧力(0.2MPa程度以上)を維持しながら、給油孔出口のエア流速を下げることで、騒音値の低減を図ることができる。この転がり軸受に回転自在に支持される主軸等を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる。
前記円周方向流路を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を、前記給油孔を同給油孔が延びる方向に垂直な平面で切断して見た断面積の22%以上53%以下とし、かつ前記給油孔の直径を1.2mm以上1.5mm以下とし、前記円周方向流路を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を0.4mm以上0.6mm以下としても良い。
【0017】
前記転動体が玉であって、前記外輪に転動体へ直接に潤滑油を給油できる位置に前記給油孔の出口を設け、前記給油孔の中心線と同じ円周方向位置に転動体の中心があるときに、この転動体の中心を含みかつ軸受軸心を含む平面内において、前記給油孔の中心線と前記転動体の外径面とが交わる交点と転動体の中心とを結ぶ直線が軸受半径方向に対して成す角度が10°以上30°以下の範囲になる位置に前記給油孔を位置させたものとしても良い。
【0018】
前記外輪の給油孔に導く潤滑油がエアオイルの形態で供給されるものであっても良い。
前記外輪の外径面における、前記円周溝の両側位置に、それぞれ環状溝を設け、各環状溝にそれぞれ環状のシール部材を設けても良い。これら環状のシール部材により、外輪の外径面から潤滑油が不所望に漏れることを防止し得る。
【0019】
この発明における第2の転がり軸受装置は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、前記外輪の外径面と、この外輪の転走面とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設け、前記転がり軸受に設ける転動体の個数が奇数個であって、給油孔を、前記外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けたことを特徴とする。
【0020】
この構成によると、1個の転動体が一方の給油孔を塞いている場合であっても、転動体の個数が奇数個で、給油孔を、外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けたため、他方の給油孔が転動体で塞がれることはない。したがって、ハウジングから供給される潤滑油は、転動体で塞がれていないいずれかの給油孔を通るため、エア流量の変動が生じない。このため、エア流量を増やさなくても、潤滑油が転動体に届き難くなることを防止し得る。よって、エア流量を増やすことに起因する騒音値の低減を図ることができる。給油孔は、外輪の外径面と、この外輪の転走面とを連通するため、軸受運転時における転動体のエアカーテンに影響されることなく、潤滑油を確実に転動体に供給することができる。また給油孔を、外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けることで、軸受全体を均一に冷却させることが可能となる。
【0021】
この発明における第3の転がり軸受装置は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、前記外輪の外径面と、この外輪の転走面とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設け、前記転がり軸受に設ける転動体の個数が偶数個であって、給油孔を外輪に2個設け、いずれか1個の転動体と一方の給油孔との円周方向位置が一致するときに、前記一方の給油孔の180°対角位置に近い転動体と、この転動体に隣接する転動体との間の外輪円周方向位置に、他方の給油孔を位置させたことを特徴とする。
【0022】
この構成によると、一方の給油孔の180°対角位置に近い転動体と、この転動体に隣接する転動体との間の外輪円周方向位置に、他方の給油孔を位置させることで、両方の給油孔が転動体で同時に塞がれることはない。したがって、ハウジングから供給される潤滑油は、転動体で塞がれていないいずれかの給油孔を通るため、エア流量の変動が生じない。このため、エア流量を増やさなくても、潤滑油が転動体に届き難くなることを防止し得る。よって、エア流量を増やすことに起因する騒音値の低減を図ることができる。給油孔は、外輪の外径面と、この外輪の転走面とを連通するため、軸受運転時における転動体のエアカーテンに影響されることなく、潤滑油を確実に転動体に供給することができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明における第1の転がり軸受装置は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、前記外輪の外径面と、この外輪の内周面における転走面近傍位置とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設けたものである。このため、軸受を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる。
【0024】
この発明における第2の転がり軸受装置は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、前記外輪の外径面と、この外輪の転走面とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設け、前記転がり軸受に設ける転動体の個数が奇数個であって、給油孔を、前記外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けたものである。このため、軸受を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる。
【0025】
この発明における第3の転がり軸受装置は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、前記外輪の外径面と、この外輪の転走面とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設け、前記転がり軸受に設ける転動体の個数が偶数個であって、給油孔を外輪に2個設け、いずれか1個の転動体と一方の給油孔との円周方向位置が一致するときに、前記一方の給油孔の180°対角位置に近い転動体と、この転動体に隣接する転動体との間の外輪円周方向位置に、他方の給油孔を位置させたものである。このため、軸受を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる。
【0026】
この発明の転がり軸受は、内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受において、前記外輪の外径面と、この外輪の内周面における転走面近傍位置とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面に、前記給油孔に連通し、軸受外の前記給油孔とは異なる円周方向位置から供給される潤滑油を前記給油孔に導く円周溝を設けたため、軸受を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(A)は、この発明の第1の実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は、同転がり軸受の要部の拡大断面図である。
【図2】同転がり軸受の外輪の給油孔と、潤滑油導入孔との位相のずれを示す外輪の概略断面図である。
【図3】回転速度と騒音値との関係を示す図である。
【図4】エア圧力とエア流量との関係を示す図である。
【図5】給油孔の直径とエア流速との関係を示す図である。
【図6】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図7】転がり軸受の外輪の給油孔と、潤滑油導入孔との位相のずれを示す外輪の概略断面図である。
【図8】(A)は、この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は、同転がり軸受の要部の拡大断面図である。
【図9】この発明の実施形態に係る転がり軸受装置を用いた工作機械用主軸装置の断面図である。
【図10】潤滑油導入孔と外輪給油孔との位相と、エア流量との関係を示す図である。
【図11】この発明の他の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図12】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図13】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図14】この発明のさらに他の実施形態に係る転がり軸受装置の断面図である。
【図15】軸受の13000min−1時の周波数分析結果を示す図である。
【図16】(A)は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は同転がり軸受の平面図である。
【図17】(A)は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図、(B)は同転がり軸受の平面図である。
【図18】さらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【図19】回転速度と騒音値との関係を示す図である。
【図20】外輪の給油孔位置の一例を示す転がり軸受の断面図である。
【図21】参考提案例に係る転がり軸受の平面図である。
【図22】外輪の給油孔位置の一例を示す転がり軸受の断面図である。
【図23】外輪の給油孔位置の一例を示す転がり軸受の断面図である。
【図24】参考提案例に係る転がり軸受の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図5と共に説明する。この実施形態に係る転がり軸受は、例えば、工作機械主軸の支持に用いられ、エアオイル潤滑で使用される。但し、この用途、潤滑方式に限定されるものではない。
図1(A)に示すように、この実施形態に係る転がり軸受は、内輪1と、外輪2と、これら内外輪1,2の転走面1a,2a間に介在する複数の転動体3とを備える。この例の転がり軸受はアンギュラ玉軸受であり、前記転動体3はボールからなる。各転動体3は、リング状の保持器4のポケット4a内に円周方向一定間隔おきにそれぞれ保持される。保持器4は、例えば、外輪2の内径面2fに案内される外輪案内形式のものが適用されている。
【0029】
図1(B)に示すように、外輪2には、円周方向流路である円周溝2bと、給油孔2cとが設けられている。図1(B)は、図1(A)のIB部の拡大図である。前記給油孔2cは、外輪2の外径面2dと、外輪2の内周面2gにおける転走面近傍位置とを連通する潤滑油供給用の孔である。外輪2のうち、転走面2aに対して接触角を成す作用線L1の偏り側と反対側に、前記給油孔2cが径方向に貫通するように1個設けられる(図2)。給油孔2cの直径φdは1.2mm以上1.5mm以下とされている。前記「転走面近傍位置」とは、外輪2の内周面2gのうち、転動体中心よりも転動体3と外輪2との反接触側で、給油孔2cから吐出される潤滑油が転動体3にかかるまでの位置をいう。
【0030】
図1(B)に示すように、前記円周溝2bは、外輪2のハウジング6に対する嵌合面となる外径面2dに設けられ、給油孔2cに連通して軸受外からの潤滑油をこの給油孔2cに導くように配設される。換言すれば、外輪2の外径面2dのうち、給油孔2cの開口先端のある箇所を円周溝2bが通るように設けられている。この円周溝2bは、ハウジング6からの潤滑油を前記給油孔2cに導くものである。詳しくは、円周溝2bと外輪2の外周面とで円周方向流路を形成している。図2に示すように、ハウジング6には、給油孔2cとは異なる円周方向位置で径方向に延びる潤滑油導入孔6cが設けられる。潤滑油導入孔6cの出口6caと、給油孔2cの入口2caとは、円周方向の位置が定められた角度βずれている。この潤滑油導入孔6cが円周溝2bを介して給油孔2cに連通している。図1(B)に示すように、円周溝2bは、同円周溝2bを軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積Eが0.4mm以上0.6mm以下とされている。円周溝2bの断面積Eは、給油孔2cを、同給油孔2cが延びる方向に垂直な平面で切断して見た断面積Sの22%以上53%以下になるように定められる。給油孔2cの直径φdのとき、給油孔2cの断面積Sは、円周率πに(φd/2)を乗じることで求められる。円周溝2bは、円弧形状の断面に形成され、例えば、円周溝2bの溝底位置が給油孔2cの中心軸線に合致するように配設されている。
【0031】
図1(A)に示すように、外輪2の外径面2dにおける、円周溝2bの両側位置に、それぞれ環状溝2e,2eを設けている。各環状溝2e,2eにそれぞれOリングからなる環状のシール部材5,5を設けている。すなわちハウジング6の内周面と、外輪2の外径面2dとの間における、円周溝2bおよび給油孔2cの両側位置に、それぞれ環状のシール部材5,5を設けることで、潤滑油の漏れ防止を図っている。
【0032】
図3は、回転速度と騒音値との関係を示す図である。図4は、エア圧力とエア流量との関係を示す図である。図5は、給油孔の直径とエア流速との関係を示す図である。
外輪2の給油孔2cを1個または2個とし、給油孔2cの直径φdおよび給油孔2cへ流すエア流量を種々変更したうえで、回転速度に対する騒音値の測定データを確認した。その結果、図3に示すように、給油孔が1個、給油孔の直径φdが0.8mm、エア流量が25NL/min.のものが最も騒音値が大きいことが分かる。これに対し、エア流量を15NL/min.へ減らしたものや、給油孔の直径φdが1.2mmでエア流量が25NL/min.のものは、騒音値がやや低下する。これは、図4、図5より、エア流速つまりエアの噴射速度が800m/s(エア圧力0.5MPa)から500m/s(エア圧力0.25MPa)、350m/s(エア圧力0.25MPa)程度にそれぞれ低下しているためと考えられる。ただし、この程度の騒音値の低下は、聴覚判断ではまだ耳障りである。
【0033】
騒音値をさらに下げるには、エア流速を下げればよい。そのためには、給油孔の直径φdを大きくするか、エア圧力を下げてエア流量を減らせばよい。しかし、給油孔の直径φdは、現実的には大きくても1.2mm〜1.5mm程度が妥当である。また、エア流量をあまり下げすぎると、図示外のエアオイル潤滑ユニットから軸受までの、例えば長さ数メートルで内径φ3mm前後のナイロン製チューブ等からなる配管の内部を、油が均等に流れないという問題が生じてくる。
【0034】
そこで、配管内の油の流れを阻害しない程度のエア流量20NL/min.程度を確保しながら、ある程度のエア圧力も維持し、給油孔出口のエア流速を低減させる仕様として、給油孔の直径φdを1.5mm程度に大きくして、円周溝の断面積Eをφ0.8mmの孔の断面に相当する断面積となる寸法に規制する仕様を考案した。給油孔の直径φdを1.2mm以上1.5mm以下とし、円周溝の断面積Eを0.4mm以上0.6mm以下とすることで、配管内の油の流れを阻害することなく、エア流速が下がる効果が認められた。給油孔直径φd、円周溝の断面積Eを前記数値にしてエア流速を下げる効果が得られるのは、概ね、軸受内径でφ30mm〜φ120mm程度である。
【0035】
通常、外輪における、ハウジングからの給油孔の直径は、φ3mm程度であるが、本実施形態に係る転がり軸受では、外輪の円周溝を経由する過程において流路に絞り効果を与え、最終出口となる給油孔で流路を再度広げている。潤滑油の流路途中でエアオイルの流路を絞っており、ある程度のエア圧力を与えないとエア流量が確保できないため、エア圧力を与えることにより、エア流量不足で配管内を油が流れにくくなるという問題を回避できる。なお、通常エア圧力はあまり低い値で使用されることは少なく、0.2〜0.5MPa程度を維持して使用されることが多い。
【0036】
以上説明した転がり軸受によると、軸受外からの潤滑油は、外輪2の円周溝2bを経由して給油孔2cから軸受内の転走面近傍位置へ供給され、軸受の潤滑に供される。このように軸受外からの潤滑油を、給油孔2cに直接導くのではなく、円周溝2bを経由させているため、潤滑油がこの円周溝2bを経由する過程において、絞り効果を与えて、供給エア圧力が低くなり過ぎない様にある程度のエア圧力(0.2MPa程度以上)を維持しながら、給油孔出口のエア流速を下げることで、騒音値の低減を図ることができる。したがって、軸受を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる。
【0037】
外輪2の外径面2dにおける、円周溝2bの両側位置に、それぞれ環状溝2e,2eを設け、各環状溝2e,2eにそれぞれ環状のシール部材5,5を設けたため、これら環状のシール部材5,5により、外輪2の外径面2dから潤滑油が不所望に漏れることを防止することができる。
給油孔2cの直径を1.2mm以上1.5mm以下とし、前記円周溝2bを軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を0.4mm以上0.6mm以下としたため、配管内の油の流れを阻害しない程度のエア流量を確保しながら、給油孔2cの出口のエア流速を低減させることができる。これにより、騒音値の低減を図ることができる。
【0038】
次に、この発明の他の実施形態について図6、図7と共に説明する。以下の説明において、第1の実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。図6、図7に示すように、この実施形態に係る転がり軸受では、潤滑油供給用の給油孔2cを、外輪2における180°対角位置に2個設けている。外輪外径面2dに設けた円周溝2bは、これら2個の給油孔2c,2cにそれぞれ連通している。
この場合、図7に示すように、給油孔1個あたりのエア流量を半減することが可能となり、エア流速をさらに下げることができる。これにより、騒音値の低減をさらに図ることができる。また、2個の給油孔2cを180°対角位置に設けたため、潤滑油が円周溝2bを経由して円周方向に行き渡るため、外輪2の冷却効果をより高めることができる。2個の給油孔2c,2cを180°以外の位相角度に配設することも可能である。また給油孔2cを3個以上設けても良い。
【0039】
図8のさらに他の実施形態では、給油孔2cの直径φdを1.2mm以上1.5mm以下とし、円周溝2bを軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積Eを0.6mm以上とした例を示す。この場合、前記各実施形態のものより配管内の油が流れにくくなる可能性はあるが、給油孔2cの出口のエア流速を低減させることができる。これにより、騒音値の低減を図ることができる。
転がり軸受は、円筒ころ軸受であっても良い。この場合にも、軸受外からの潤滑油を、給油孔に直接導くのではなく、円周溝を経由させることで、流路に絞り効果を与えて潤滑油の流速を下げることで、騒音値の低減を図れる。
潤滑方式として、エアオイル潤滑に代えてオイルミスト潤滑としても良い。
【0040】
次に、前記いずれかのアンギュラ玉軸受からなる転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を設置するハウジングとを備えた転がり軸受装置について、図9、図10と共に説明する。図9は、転がり軸受装置を用いた工作機械用主軸装置の断面図である。同図に示すように、主軸7の一端部7aに、図示外の工具またはワークのチャックが取り付けられ、主軸7の他端部7bに、モータ等の駆動源が回転伝達機構を介して連結される。主軸7は、軸方向に離れた一対の転がり軸受により回転自在に支持されている。これら転がり軸受は、背面組み合わせで配置されている。
【0041】
各転がり軸受の内輪1は主軸7の外周面に嵌合し、外輪2はハウジング8の内周面に嵌合している。外輪2の外径面と、この外輪2が嵌り合うハウジング8の内径面との嵌合面に、給油孔2cに連通して円周方向に延びる円周溝2b(図1)を設けている。これら内外輪1,2は、内輪押え9および外輪押え10により、主軸7およびハウジング8にそれぞれ固定されている。ハウジング8は、内周ハウジング8aおよび外周ハウジング8bの二重構造とされ、これら内周ハウジング8a,外周ハウジング8b間に冷却媒体流路11が形成されている。内周ハウジング8aには、エアオイル供給路12およびそのエアオイル供給口12aが設けられている。エアオイル供給口12aは、図示外のエアオイル供給源に接続されている。この内周ハウジング8aのうち、エアオイル供給路12の下流側先端の潤滑油導入孔12bと、前記外輪2の給油孔2cとの円周方向の位相を異ならせている。また、内周ハウジング8aには、内周面における転がり軸受の設置箇所付近にエアオイル排気溝13が設けられ、このエアオイル排気溝13から大気に開放されるエアオイル排気路14が設けられる。
この工作機械用主軸装置によると、潤滑油導入孔12bからのエアオイルを、給油孔2cに直接導くのではなく、円周溝2bを経由させているため、エアオイルがこの円周溝2bを経由する過程において、絞り効果を与えて、供給エア圧力が低くなり過ぎない様にある程度のエア圧力(0.2MPa程度以上)を維持しながら、給油孔出口のエア流速を下げることで、騒音値の低減を図ることができる。
【0042】
図10は、潤滑油導入孔と外輪給油孔との位相と、エア流量との関係を示す図である。各位相において、給油孔の直径φ0.8mmでエア圧力0.5MPa、給油孔の直径φ1.5mmでエア圧力0.5MPa、給油孔の直径φ1.5mmでエア圧力0.35MPaそれぞれのエア流量を確認した。
その結果、潤滑油導入孔と外輪給油孔の位相が0°のものでは、断面積を小さくした前記円周溝の絞り効果が見られないが、位相をずらしていくことで絞り効果が現れ始める。外輪に給油孔を1個設けたものでは、位相を90°以上ずらしてもそれ以上はエア流量はほとんど減少しなくなる。そのため、潤滑油導入孔に対して90°位相の異なる給油孔を2個設けることで、給油孔1個あたりのエア流量をさらに減少させてエア流速を低下させ、騒音値をより抑えることができる。
【0043】
前記各実施形態では、外輪2の外径面2dに、円周方向流路である円周溝2bを設けているが、図11に示すように、ハウジング6の内径面6aに、給油孔2cに連通して円周方向に延びる円周方向流路である円周溝6bを設けても良い。また前述のように、ハウジング6の潤滑油導入孔6cと、外輪2の給油孔2cとの円周方向位置が異なるように設けられる。この場合に、給油孔2cは、図2の形態と同様に外輪2に1個設けたものでも良いし、図7の形態と同様に外輪2に2個設けたものでも良い。さらにハウジング6の内径面6aにおける、円周溝6bの両側位置に、それぞれ環状溝6d,6dを設けている。各環状溝6d,6dにそれぞれOリングからなる環状のシール部材5,5を設けている。
【0044】
この図11の構成によると、ハウジング6の潤滑油導入孔6cから供給された潤滑油は、ハウジング6の円周溝6bを経由して給油孔2cから軸受内の転走面近傍位置へ供給され、軸受の潤滑に供される。このように潤滑油導入孔6cからの潤滑油を、給油孔2cに直接導くのではなく、円周溝2bを経由させているため、潤滑油がこの円周溝2bを経由する過程において、絞り効果を与えて、供給エア圧力が低くなり過ぎない様にある程度のエア圧力(0.2MPa程度以上)を維持しながら、給油孔出口のエア流速を下げることで、騒音値の低減を図ることができる。したがって、軸受を高速回転させるときの騒音値を低減し、作業環境の改善を行うことができる。
【0045】
図12に示すように、ハウジング6の内径面6aに円周溝6bを設け、外輪2の外径面2dにおける、円周溝2bの両側位置にそれぞれ環状溝2e,2eを設け、各環状溝2e,2eにそれぞれOリングからなる環状のシール部材5,5を設けても良い。
図13に示すように、外輪2の外径面2dに円周溝2bを設けると共に、ハウジング6の内径面6aに円周溝6bを設けても良い。
なお図14に示すように、外輪2の外径面2dに円周溝2bを設け、ハウジング6の内径面6aにそれぞれ環状溝6d,6dを設け、各環状溝6d,6dにそれぞれ環状のシール部材5,5を設けても良い。
これらの構成の場合にも、潤滑油が円周溝を経由する過程において、絞り効果を与えて供給エア圧力を高めながら、給油孔出口のエア流速を下げることで、騒音値の低減を図ることができる。
【0046】
ところで、潤滑油がエアオイルの形態で供給されるエアオイル潤滑のアンギュラ玉軸受の場合、主軸への軸受の組込みが完了した後、エア流量、オイル量を調整して、規定の設定値に調整され、その後試運転が行われる。
エア流量の調整については、図示外のエアオイル潤滑ユニットと、外輪に給油孔を設けた軸受までの配管の間に流量計を設置してエア流量の測定を行う。例えば、エア流量を30NL/minに設定したい場合には、前記エアオイル潤滑ユニットの調整ねじ等により、前記流量計が30NL/minとなるよう調整する。そのときの供給エア圧力が例えば0.3MPaであったとする。
【0047】
図20は、外輪2の給油孔位置の一例を示す転がり軸受の断面図である。この転がり軸受は、アンギュラ玉軸受であり、外輪2の給油孔2cを、前記各実施形態のものに比べて中心方向に近づけて配設している。この給油孔2cは、外輪2の外径面2dと、この外輪2の転走面2aのうち反接触側の部分とが軸受半径方向に沿って貫通するように形成されている。これにより、外輪2から転動体3へ直接に潤滑油を給油できる外輪2の位置に、給油孔2cの出口2cbが設けられる。前記「反接触側」とは、外輪2のうち、転走面2aに対して接触角を成す作用線L1の偏り側と反対側をいう。
図21は、参考提案例に係る転がり軸受の平面図である。この転がり軸受は、外輪2に1個の給油孔2cが設けられている。
【0048】
図20や図21の転がり軸受では、軸受運転時においていずれか1個の転動体3と給油孔2cとの円周方向位置が一致するとき、給油孔2cが転動体3で塞がれてしまい、給油孔2cの出口2cbからエアが出難い状態となる場合がある。給油孔2cと転動体3との円周方向位置が一致した場合、30NL/minで調整済み(エア圧を0.3MPaで固定)であったエア流量が10NL/minしか出ないという可能性がある。また逆に、たまたま給油孔2cと転動体3との円周方向位置が一致した状態で30NL/minのエア量調整を行ってしまい、その後両者の位相がずれた途端にエア流量が50NL/minへ増えるという可能性もあり得る。
【0049】
図22は、外輪2の給油孔位置の一例を示す転がり軸受の断面図である。この転がり軸受は、アンギュラ玉軸受であり、外輪2の給油孔2cを、図20のものより外輪正面側に遠ざけて配設している。この例では、給油孔2cが転動体3で塞がれることは無くなるが、給油孔2cの出口2cbと転動体3の距離が大となる。この距離が大となると、軸受回転時に転動体3のエアカーテンの作用により、エアで運ばれるオイルが転動体3に届き難くなる。このため、エア流量を増やす必要が出てきて、その結果、転動体3によるエアの風切り音に基づく騒音値が大きくなる。そのため、軸受を軸受軸心を含む平面で切断して見た断面において、給油孔2cの位置は、図23に示す最適位置に対して適用可能な範囲があると考えられる。
【0050】
図16(A)は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図であり、図16(B)は同転がり軸受の平面図である。図16(A)に示すように、給油孔2cは、外輪2の外径面2dと、この外輪2の転走面2aのうち反接触側の部分とが軸受半径方向に沿って貫通するように形成されている。また外輪2から転動体3へ直接に潤滑油を給油できる外輪2の位置に給油孔2cの出口が設けられている。さらに図16(B)に示すように、転動体3の個数が奇数個(この例では11個)であって、給油孔2cを、前記外輪2における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けている。
【0051】
この構成によると、ハウジング6の潤滑油導入孔6cから供給される潤滑油は、円周方向流路を経由して、前記外輪2の2個の給油孔2c,2cにそれぞれ導かれる。この場合に、1個の転動体3が一方の給油孔2cを塞いている場合であっても、転動体3の個数が奇数個で、給油孔2cを、外輪2における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けたため、他方の給油孔2cが転動体3で塞がれることはない。奇数個の転動体3は円周方向一定間隔おきに配置されるため、前記一方の給油孔2cが1個の転動体3で塞がれるとき、180°対角位置に位置する前記他方の給油孔2cは、円周方向に隣接する転動体3,3間に位置する。したがって、ハウジング6から供給される潤滑油は、転動体3で塞がれていないいずれかの給油孔2cを通るため、エア流量の変動が生じない。このため、エア流量を増やさなくても、潤滑油が転動体3に届き難くなることを防止し得る。よって、エア流量を増やすことに起因する騒音値の低減を図ることができる。但し、2個の給油孔2c,2cを180°対角位置に配置しても、図24に示すように、転動体個数が偶数個の場合には、両方の給油孔2c,2cが共に転動体3で塞がる場合があるため、エア流量の変動が生じる。
図16(A)に示すように、給油孔2cは、外輪2の外径面2dと、この外輪2の転走面2aとを連通するため、軸受運転時における転動体3のエアカーテンに影響されることなく、潤滑油を確実に転動体3に供給することができる。また図16(B)に示すように、給油孔2cを、外輪2における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けることで、軸受全体を均一に冷却させることが可能となる。
【0052】
図17(A)は、さらに他の実施形態に係る転がり軸受の断面図であり、図17(B)は同転がり軸受の平面図である。図17(A)の転がり軸受の断面構造は図16(A)の断面構造と同一である。図17(B)に示すように、転動体3の個数が偶数個(この例では10個)であって、給油孔2cを外輪2に2個設け、いずれか1個の転動体3と一方の給油孔2cとの円周方向位置が一致するときに、前記一方の給油孔2cの180°対角位置に近い転動体3と、この転動体3に隣接する転動体3との間の外輪円周方向位置P1に、他方の給油孔2cを位置させたものとしている。このように転動体3の個数が偶数個であっても、一方の給油孔2cの180°対角位置に近い転動体3と、この転動体3に隣接する転動体3との間の外輪円周方向位置P1に、他方の給油孔2cを位置させることで、両方の給油孔2c,2cが転動体3で同時に塞がれることはない。したがって、ハウジング6から供給される潤滑油は、転動体3で塞がれていないいずれかの給油孔2cを通るため、エア流量の変動が生じない。このため、エア流量を増やさなくても、潤滑油が転動体3に届き難くなることを防止し得る。よって、エア流量を増やすことに起因する騒音値の低減を図ることができる。給油孔2cは、外輪2の外径面2dと、この外輪2の転走面2aとを連通するため、軸受運転時における転動体3のエアカーテンに影響されることなく、潤滑油を確実に転動体3に供給することができる。
【0053】
図18に示す転がり軸受は、図16(B)または図17(B)に示す転動体個数、給油孔配置の構成において、外輪2に転動体3へ直接に潤滑油を給油できる位置に前記給油孔2cの出口2cbを設けている。図18に示すように、この転がり軸受は、前記給油孔2cの中心線L2と同じ円周方向位置に転動体3の中心P2があるときに、この転動体3の中心P2を含みかつ軸受軸心L3を含む平面内において、前記給油孔2cの中心線L2と前記転動体3の外径面とが交わる交点P3と転動体3の中心P2とを結ぶ直線L4が軸受半径方向に対して成す角度Kが10°以上30°以下の範囲になる位置に前記給油孔2cを位置させたものとしている。
【0054】
2個の給油孔が180度対角配置、転動体個数が奇数個の型番(具体的には、試験型番:5S-2LA-HSE020P4(軸受内径φ100mm) 玉数31個で試験)のアンギュラ玉軸受において、角度Kを種々変更(この例ではK=0°、25°、30°)したものを準備し、回転速度と騒音値との関係を調べるため試験したところ、図19に示す結果を得た。角度Kが10°以上30°以下の範囲になる位置に前記給油孔を位置させた場合、角度Kが前記範囲から外れた位置に給油孔を位置させたものより、軸受運転時における騒音値を低減させることができる。なお角度Kが0°のときには、軸受運転時ある回転数で急に騒音値が大きくなる現象が見られた。
【0055】
前述のいずれかの転がり軸受装置または転がり軸受において、角度Kが10°以上30°以下の範囲になる位置に前記給油孔を位置させても良い。
前述のいずれかの転がり軸受装置または転がり軸受において、転動体の個数が奇数個であって、給油孔を、前記外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けても良いし、転動体の個数が偶数個で、給油孔を外輪に2個設け、いずれか1個の転動体と一方の給油孔との円周方向位置が一致するときに、前記一方の給油孔の180°対角位置に近い転動体と、この転動体に隣接する転動体との間の外輪円周方向位置に、他方の給油孔を位置させても良い。
【符号の説明】
【0056】
1…内輪
2…外輪
1a,2a…転走面
2b,6b…円周溝
2c…給油孔
2e…環状溝
3…転動体
5…環状のシール部材
6,8…ハウジング
6c,12b…潤滑油導入孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、
前記外輪の外径面と、この外輪の内周面における転走面近傍位置とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設けたことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項2】
請求項1において、前記円周方向流路は、外輪の外径面に設けた円周溝である転がり軸受装置。
【請求項3】
請求項1において、前記円周方向流路は、ハウジングの内径面に設けた円周溝である転がり軸受装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記外輪の外径面とハウジングの内径面との嵌合面における、前記円周方向流路を挟む軸方向の両側位置に、それぞれ環状溝を設け、各環状溝にそれぞれ環状のシール部材を設けた転がり軸受装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記円周方向流路を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を、前記給油孔を同給油孔が延びる方向に垂直な平面で切断して見た断面積の22%以上53%以下とした転がり軸受装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、前記給油孔の直径を1.2mm以上1.5mm以下とし、前記円周方向流路を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を0.4mm以上0.6mm以下とした転がり軸受装置装置。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記潤滑油導入孔へ供給する潤滑油が、エアオイルまたはオイルミストの形態で供給される転がり軸受装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記給油孔を、前記外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けた転がり軸受装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記転動体が玉であって、前記外輪に転動体へ直接に潤滑油を給油できる位置に前記給油孔の出口を設け、前記給油孔の中心線と同じ円周方向位置に転動体の中心があるときに、この転動体の中心を含みかつ軸受軸心を含む平面内において、前記給油孔の中心線と前記転動体の外径面とが交わる交点と転動体の中心とを結ぶ直線が軸受半径方向に対して成す角度が10°以上30°以下の範囲になる位置に前記給油孔を位置させた転がり軸受装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記転がり軸受に設ける転動体の個数が奇数個であって、給油孔を、前記外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けた転がり軸受装置。
【請求項11】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記転がり軸受に設ける転動体の個数が偶数個であって、給油孔を外輪に2個設け、いずれか1個の転動体と一方の給油孔との円周方向位置が一致するときに、前記一方の給油孔の180°対角位置に近い転動体と、この転動体に隣接する転動体との間の外輪円周方向位置に、他方の給油孔を位置させた転がり軸受装置。
【請求項12】
内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受において、
前記外輪の外径面と、この外輪の内周面における転走面近傍位置とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面に、前記給油孔に連通し、軸受外の前記給油孔とは異なる円周方向位置から供給される潤滑油を前記給油孔に導く円周溝を設けたことを特徴とする転がり軸受。
【請求項13】
請求項12において、前記円周方向流路を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を、前記給油孔を同給油孔が延びる方向に垂直な平面で切断して見た断面積の22%以上53%以下とし、かつ前記給油孔の直径を1.2mm以上1.5mm以下とし、前記円周方向流路を軸受軸方向を含む平面で切断して見た断面積を0.4mm以上0.6mm以下とした転がり軸受。
【請求項14】
請求項12または請求項13において、前記転動体が玉であって、前記外輪に転動体へ直接に潤滑油を給油できる位置に前記給油孔の出口を設け、前記給油孔の中心線と同じ円周方向位置に転動体の中心があるときに、この転動体の中心を含みかつ軸受軸心を含む平面内において、前記給油孔の中心線と前記転動体の外径面とが交わる交点と転動体の中心とを結ぶ直線が軸受半径方向に対して成す角度が10°以上30°以下の範囲になる位置に前記給油孔を位置させた転がり軸受。
【請求項15】
請求項12ないし請求項14のいずれか1項において、前記外輪の給油孔に導く潤滑油がエアオイルの形態で供給されるものである転がり軸受。
【請求項16】
請求項12ないし請求項15のいずれか1項において、前記外輪の外径面における、前記円周溝の両側位置に、それぞれ環状溝を設け、各環状溝にそれぞれ環状のシール部材を設けた転がり軸受。
【請求項17】
内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、
前記外輪の外径面と、この外輪の転走面とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設け、
前記転がり軸受に設ける転動体の個数が奇数個であって、給油孔を、前記外輪における180°対角位置にそれぞれ位置させて2個設けたことを特徴とする転がり軸受装置。
【請求項18】
内輪および外輪の転走面間に転動体を介在させた転がり軸受と、この転がり軸受の外輪を内径面に嵌合させるハウジングとを備えた転がり軸受装置において、
前記外輪の外径面と、この外輪の転走面とを連通する潤滑油供給用の給油孔を前記外輪に設け、且つ、この外輪の外径面と、この外輪が嵌り合う前記ハウジングの内径面との嵌合面に、前記給油孔に連通して円周方向に延びる円周方向流路を設け、この円周方向流路に、前記給油孔とは異なる円周方向位置で連通して潤滑油を円周方向流路へ供給する潤滑油導入孔を前記ハウジングに設け、
前記転がり軸受に設ける転動体の個数が偶数個であって、給油孔を外輪に2個設け、いずれか1個の転動体と一方の給油孔との円周方向位置が一致するときに、前記一方の給油孔の180°対角位置に近い転動体と、この転動体に隣接する転動体との間の外輪円周方向位置に、他方の給油孔を位置させたことを特徴とする転がり軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−79711(P2013−79711A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221461(P2011−221461)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】