説明

転動装置の状態監視装置および監視方法

【課題】 転動装置における潤滑油中の混入水分濃度を監視して精度良く求めることができ、水素脆性の発生率の測定や、水素脆性によるはく離の発生時期の予測などに貢献できるようにする。また、振動異常等を含む総合的な異常判断を可能とする。
【解決手段】 転動装置1の潤滑油中の混入水分濃度を監視する機能を有する状態監視手段11を設ける。この手段11は、転動装置1の潤滑油中の静電容量および油温をそれぞれ検出する静電容量検出手段7および油温測定手段8と、検出された静電容量および油温から混入水分濃度を検出する水分濃度計算手段9とを有する。算出された混入水分濃度をしきい値と比較し、しきい値を超える場合に異常と診断する異常診断部10aを設ける。この他に、振動センサ70、変位センサ240、AEセンサ250、不純物のセンサ270等を用い、総合的な異常判断を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、軸受を備えた各種の転動装置、例えば風力発電装置内の転動装置を構成する各種軸受等の異常予測のための監視、特に、軸受の水素脆性による軸受はく離などを監視する転動装置の状態監視装置および監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受の異常予測がいくつかある(例えば、特許文献1)。その中で潤滑剤の劣化を測定し、寿命を予測することが行われている。潤滑剤が劣化すると軸受内の接触部の油膜厚さが減少し、摩耗や表面損傷が生じやすくなる。よって、潤滑油の劣化状態の測定により寿命低下を監視・予測している。
【0003】
ところで、転がり軸受や歯車などの転動部品は、水が混入する条件下(非特許文献1〜5)、すべりを伴う条件下(非特許文献6)で使用されると、水や潤滑剤が分解して水素が発生し、それが鋼中に侵入することで早期損傷が起きることがある。接触要素間の接触面で金属接触が起き、金属新生面が露出すると、水や潤滑剤の分解による水素の発生、鋼中への侵入が促進される。このことは,水や潤滑油を滴下しながらエメリー紙で転動部品用鋼をアブレシブ摩耗させた後に昇温脱離水素分析を行った結果、鋼中から拡散性水素が明瞭に検出された実験事実によって証明されている(非特許文献7)。それによると、潤滑油よりも水を滴下した方が多くの拡散性水素が検出されている。したがって、すべりが生じる条件で用いられる転動部品の潤滑剤に水が混入すると、さらに水素が発生し,鋼中に侵入しやすくなるといえる。水素は鋼の疲労強度を著しく低下させるため(非特許文献8)、さほど大きくない最大接触面圧でも、水素が侵入すれば早期損傷が起きる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−310611号公報
【特許文献2】特開2006−138376号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】エル.グランベルグ( L. Grunberg)著, Proc. Phys. Soc. (London), B66 (1953) 153-161.
【非特許文献2】エル.グランベルグ、ディ.スコット( L. Grunberg and D. Scott)著, J. Inst. Petrol., 44 (1958) 406-410.
【非特許文献3】エル.グランベルグ( L. Grunberg), ディ. ティ. ジャミソン、ディ.スコット(D. T. Jamieson and D. Scott)著, Philosophical magazine, 8 (1963) 1553-1568.
【非特許文献4】ピー.シャッツベルグ、アイ.エム.フェルセン( P. Schatzberg and I. M. Felsen)著, Wear, 12 (1968) 331-342.
【非特許文献5】ピー.シャッツベルグ( P. Schatzberg)著, J. Lub. Tech., 231 (1971) 231-235.
【非特許文献6】ケイ.タマダ、エッチ.タナカ( K. Tamada and H. Tanaka)著, Wear, 199 (1996) 245-252.
【非特許文献7】谷本啓, 田中宏昌, 杉村丈一, トライボロジー会議予稿集, (2010-5 東京), 203-204.
【非特許文献8】ワイ.マツバラ、エッチ.ハマダ( Y. Matsubara and H. Hamada)著, Bearing Steel Technology, ASTM STP1465, J. M. Beswick Ed., (2007), 153-166.
【非特許文献9】エッチ.ミカミ、ティ.カワムラ( H. Mikami and T. Kawamura) 著, SAE Paper, (2007), No. 2007-01-0113.
【非特許文献10】牧野智昭,学位論文(京都大学),(2000),134p
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素脆性で各種の転動装置の軌道面や転動面にはく離が生じれば、加速度振動センサなどで検出できるものの、この種のはく離による寿命は通常の転がり疲れによる寿命よりも大幅に短く、かつ、予備的な表面損傷を伴わず急にはく離が進行するため、振動加速度センサによる異常予測は困難である。また、風車の稼動停止時間の短縮化には、水素脆性によるはく離の発生時期の予測が求められている。
【0007】
また、上記のように、すべりが生じる条件で用いられる転動部品の潤滑剤に水が混入すると、さらに水素が発生し,鋼中に侵入しやすくなるといえる。転動部品は今後ますます水素が発生し易い条件で使用される傾向にある。したがって、潤滑油中の混入水分濃度を監視し、混入水分濃度過多を診断することで、水素脆性起因の早期損傷に対する注意を促し、必要な対策を取る必要がある。
特許文献2において、監視・診断システムの1機能として、後述の静電容量と比例関係にある誘電率を監視し、潤滑剤の酸化度合いを監視・診断するとある。しかしながら、概念のみが記されているだけであり、具体的なデータなどの記載はない。また転がり軸受の異常診断に限定されている。潤滑油中の混入水分濃度は静電容量だけでは求まらず,温度依存性も測定しなければならない。
【0008】
油潤滑方式の転動装置の潤滑油に水分が混入する理由を説明する。油潤滑方式の転動装置の潤滑油中の混入水分濃度は、特に風力発電装置のように屋外で用いられるものは、日々の寒暖、乾湿の変動により、マクロ的には閉鎖された領域内に潤滑油は留まっているように見えていてもミクロ的には装置内外で雰囲気は呼吸していると考えられる。すなわち、作動中は転動装置内の温度が外気温よりも高くなるため、転動装置内は正圧になり、転動装置内の雰囲気の一部が外部に放出される。一方、停止して転動装置内の雰囲気温度が外気温よりも低下すると、転動装置内は負圧になるため、転動装置内に外気が入り込む。入り込んだ外気が高湿の場合、転動装置内に結露が生じ、潤滑油中に水分が混入する。このように、通常の使用でも潤滑油中への水分混入が考えられる。風力発電装置や、建設機械装置のように、転動装置が豪雨や強い風雨にさらされる場合や、熱帯地域のような高温多湿環境で使用される場合には、さらに多くの水分が混入すると考えられる。
【0009】
この発明の目的は、軸受を備えた転動装置における潤滑油中の混入水分濃度を監視して精度良く求めることができて、結果的に、水素脆性の発生率の測定や、水素脆性によるはく離の発生時期の予測などに貢献でき、かつ振動検出による異常診断の併用で、転動装置の稼動停止時間の短縮化に必要な総合的な軸受の異常診断を行える転動装置の状態監視装置および監視方法を提供することである。
この発明の他の目的は、混入水分濃度がしきい値を超えた場合に異常診断することによって、水素脆性起因の早期損傷に対する注意を喚起し、密閉性に優れるシールへの交換、ヒーター等結露を防止するための加熱手段の起動などの対策を促すことである。
この発明のさらに他の目的は、上記異常診断を適切に行えるしきい値を求めて設定することができる転動装置の状態監視装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の転動装置の状態監視装置および監視方法は、転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視する機能を有する状態監視手段を設け、この状態監視手段は、転動装置の潤滑油中の静電容量および油温をそれぞれ検出する静電容量検出手段および油温測定手段と、これら静電容量検出手段および油温測定手段で検出された静電容量および油温から、定められた規則に従って混入水分濃度を検出する水分濃度計算手段とを有し、かつ前記転動装置を構成する軸受の振動を監視する振動センサと、この振動センサの出力を用いて前記軸受の異常を判定する振動異常の異常診断手段を有することを特徴とする。なお、この明細書において、前記「転動装置」とは、転がり軸受やギヤなど、転がりすべりする接触要素を含む部品からなる装置を言い、例えば、風力発電装置では、主軸の支持装置や増速機などがある。これら主軸支持装置や増速機には、各種の転がり軸受が用いられ、油により潤滑されている。
【0011】
軸受の水素脆性は、潤滑油中の水分が多くなると、発生確率が上がる。そこで、潤滑油中の水分濃度を測定することで、軸受の水素脆性によるはく離発生の確率を予測する。これは結果的に、はく離の発生時期の予測に繋がる。
上記構成によると、潤滑油中の静電容量および油温を検出する油温測定手段および静電容量検出手段と、その検出された静電容量および油温から混入水分濃度を検出する水分濃度計算手段とを設け、静電容量と油温から混入水分濃度を精度良く求めることができる。したがって、油潤滑方式の転動装置において、潤滑油中の混入水分濃度を監視して精度良く求めることができる。
また、前記状態監視手段に、前記転動装置を構成する軸受の振動を監視する振動センサと、この振動センサの出力を用いて前記軸受の異常を判定する振動異常の異常診断手段とを設け、混入水分濃度の検出と振動検出による異常診断とを併用するため、軸受の総合的な異常診断が行える。
【0012】
この発明において、水分濃度計算手段で算出された混入水分濃度をしきい値と比較し、しきい値を超える場合に異常と診断する異常診断手段を設けるのが良い。異常診断手段を設けた場合は、混入水分濃度がしきい値を超えた場合に異常診断することによって、転動部品の水素脆性起因の早期損傷に対する注意を喚起し、密閉性に優れるシールへの交換、ヒーター等結露を防止するための加熱手段の起動などの対策を促すことができる。
【0013】
この発明において、前記転動装置は前記軸受の潤滑を行う油浴潤滑機構を持ち、前記状態監視手段は、前記軸受の潤滑油を監視するものであっても良い。また、前記転動装置は前記軸受の潤滑を行う循環給油機構を備え、前記状態監視手段は、前記軸受の潤滑油を監視するものであっても良い。
【0014】
この発明において、前記転動装置のハウジングの内部または外部に、前記静電容量検出手段および油温測定手段が設置された静電容量および油温の測定室を設けても良い。また、前記転動装置の循環給油機構に静電容量と油温の測定室を設けても良い。前記静電容量と油温の測定室中の潤滑油を攪拌する攪拌手段を設けても良い。
潤滑油を攪拌することで、潤滑油と水の混合状態が良くなり、精度良く、混入水分濃度の検出が行える。したがって、測定室中に攪拌手段を設けることで、より一層、潤滑油と水の混合状態が良くなり、検出精度が向上する。
【0015】
前記測定室および攪拌手段を設けた場合に、前記静電容量と油温の測定室中に溜める潤滑油量を100mL以下とし、かつ変動量を±5mLとするのが良い。
【0016】
また、前記転動装置および静電容量と油温の測定室へ潤滑油よりも比重が大きい水や添加物を排出しやすくする手段を設けるのが良い。この手段は、例えば潤滑油貯留槽の底面の傾斜溝等によって構成される。傾斜溝の底面の最も低い部分から測定室内に潤滑油が流れるようにする。
【0017】
前記静電容量検出手段および油温測定手段として、静電容量と油温を測定できるセンサが一体型となったものを用いても良い。
【0018】
前記振動異常の異常診断手段は、第1および第2の演算部と、エンベロープ処理部と、診断部とを含むものであっても良い。第1の演算部は、振動センサを用いて測定された振動波形の実効値を算出する。エンベロープ処理部は、振動センサを用いて測定された振動波形にエンベロープ処理を行なうことによって振動波形のエンベロープ波形を生成する。第2の演算部は、エンベロープ処理部によって生成されたエンベロープ波形の交流成分の実効値を算出する。診断部は、第1の演算部によって算出された振動波形の実効値および第2の演算部によって算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値に基づいて転がり軸受の異常を診断する。
【0019】
好ましくは、転がり軸受によって支持される軸または転がり軸受の回転速度を検出するための回転センサをさらに備える。前記振動異常の異常診断手段は、修正振動度算出部と、修正変調度算出部とをさらに含む。修正振動度算出部は、第1の演算部によって算出された振動波形の実効値を回転速度で正規化した修正振動度を算出する。修正変調度算出部は、第2の演算部によって算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値を回転速度で正規化した修正変調度を算出する。そして、診断部は、修正振動度および修正変調度に基づいて転がり軸受の異常を診断する。
さらに好ましくは、診断部は、修正振動度および修正変調度の時間的変化の推移に基づいて転がり軸受の異常を診断する。
【0020】
好ましくは、前記転動装置を構成する軸受における、内外輪間の相対変位を検出する変位計と、この変位計の出力を用いて前記軸受の異常を判定する変位異常の異常診断手段とを設ける。そして、異常診断手段は、変位センサの検出値を用いて転がり軸受の異常を診断する。
【0021】
また、好ましくは、転がり軸受から発生するアコーステイィックエミッション波を検出するためのAEセンサをさらに備える。そして、異常診断手段は、AEセンサの検出値を用いて転がり軸受の異常を診断する。
【0022】
また、好ましくは、転がり軸受の潤滑剤に含まれる不純物の量を測定するためのセンサをさらに備える。そして、異常診断手段は、センサの測定値を用いて転がり軸受の異常を診断する。
【0023】
好ましくは、前記いずれかの異常診断手段は、前記水分濃度計算手段で検出された混入水分濃度が、定められたしきい値を超えた場合に、異常と判定するしきい値または判定方法を変化させるようにする。混入水分濃度が変わると、上記振動、変位、AEセンサの検出値、および不純物の量を測定するためのセンサの検出値が正常とみなせる範囲が変化する。そのため、異常判定のしきい値を混入水分濃度の判定結果によって変えることで、より精度の良い異常判定が行える。
【0024】
この発明において、前述のように、前記水分濃度計算手段が定められたしきい値に達した場合に異常と判定する混入水分濃度の異常診断手段を設けても良い。
また、上記の混入水分濃度の異常診断手段を設けた場合の異常判定のしきい値は、つぎのいずれかの方法で求めて用いる。
【0025】
例えば、潤滑油中に水を注入し、静電容量と油温を測定して混入水分濃度を監視し、混入水分濃度から求められる適切な水分量をフィードバックして混入水分濃度を一定の範囲に保つように水注入量を制御する転がりすべり疲労寿命試験によって求めた混入水分濃度のしきい値を求め、この求めたしきい値を用いても良い。なお、この試験で求めるしきい値は、判断に適切であるとして任意に定めた混入水分濃度となる値とすれば良い。また、上記の「適切な水分量」は、混入水分濃度と補給すべき水分量の関係を適宣定めた関係式やテーブル等の手段を用いて定められる量である。以下、各試験の場合も同様である。
【0026】
また、接触する要素間の運動機構によって接触面にすべりを生じさせる転がりすべり疲労寿命試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、この求めたしきい値を用いても良い。
接触する要素間の接触面に強制的にすべりを生じさせる転がりすべり疲労寿命試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、この求めたしきい値を用いても良い。
損傷が起きるまで加減速運転させる転がりすべり疲労寿命試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、その値を用いても良い。
【0027】
また、損傷対象を正極側として接触要素間に電流を流して損傷対象の摩耗を促進するため、スピンドルの支持軸受にセラミック製の転動体を用い、モータと試験部のスピンドルを絶縁する転がりすべり疲労寿命試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、その値を前記混入水分濃度の異常診断に用いても良い。
また、損傷対象を正極側として接触要素間に電流を流した場合、損傷対象の摩耗が促進するという現象が知られている。そこで、スピンドルの支持軸受にセラミック製の転動体を用い、モータと試験部のスピンドルとの間が絶縁構造となっている転がりすべり疲労寿命試験を用い、上記と同様の試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、その値を前記混入水分濃度の異常診断に用いても良い。
【発明の効果】
【0028】
この発明の転動装置の状態監視装置は、転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視する機能を有する状態監視手段を設け、この状態監視手段は、転動装置の潤滑油中の静電容量および油温を検出する静電容量検出手段および油温測定手段によって検出された静電容量および油温から、定められた規則に従って混入水分濃度を検出する水分濃度計算手段とを有する。そのため、転動装置における潤滑油中の混入水分濃度を監視して精度良く求めることができ、結果的に、水素脆性起因の早期損傷に対する注意を喚起し、対策を促すことで、転動装置の稼動停止時間の短縮化に貢献することができる。
また、前記状態監視手段に、前記転動装置を構成する軸受の振動を監視する振動センサと、この振動センサの出力を用いて前記軸受の異常を判定する振動異常の異常診断手段とを設け、混入水分濃度の検出と振動検出による異常診断とを併用するため、軸受の総合的な異常診断が行える。
また、内外輪間の相対変位を検出する変位計、AEセンサ、不純物の量を検知するセンサ等のうちのいずれかの検出値による異常診断を組み合わせた場合は、転動装置における軸受のより正確な異常診断を行うことができる。
この発明における各種センサよって求めた異常診断結果を、混入水分濃度の異常判定手段に適用した場合より精度良く混入水分濃度の異常診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る転動装置の状態監視装置の概念構成を示すブロック図である。
【図2】同状態監視装置の監視対象となる転動装置を備えた風力発電装置の破断側面図である。
【図3】同風力発電装置における増速機の一例の断面図である。
【図4】他の実施形態に係る転動装置の状態監視装置の概念構成を示す一部省略ブロック図である。
【図5】さらに他の実施形態に係る転動装置の状態監視装置の概念構成を示す一部省略ブロック図である。
【図6】さらに他の実施形態に係る転動装置の状態監視装置の概念構成を示す一部省略ブロック図である。
【図7】さらに他の実施形態に係る転動装置の状態監視装置の概念構成を示す一部省略ブロック図である。
【図8】さらに他の実施形態に係る転動装置の状態監視装置の概念構成を示す一部省略ブロック図である。
【図9】洋上や寒暖の変化が激しい地域での水分濃度(予測データ)を示すグラフである。
【図10】陸上や寒暖の変化が少ない地域での水分濃度(予測データ)を示すグラフである。
【図11】この発明の転動装置の状態監視装置で定める適切なしきい値を求めるための、転がりすべり疲労寿命試験方法に用いる試験装置の一例の概念図である。
【図12】同試験方法における加減速運転の最小パターン設定の例を示すパターン図である。
【図13】試験装置の他の例の概念図である。
【図14】試験装置のさらに他の例の概念図である。
【図15】(A)は同試験方法に用いる転動部品模擬体を構成する試験片の一例の正面図、(B)は同試験片を組み込んだ転動部品模擬体の断面図である。
【図16】図15の転動部品模擬体の試験片の試験に用いる試験装置の断面図である。
【図17】同試験で測定した混入水分量の変化を示すグラフである。
【図18】潤滑油の飽和水分濃度測定に用いる試験装置の模式図である。
【図19】図18の試験装置で測定した混入水分濃度と静電容量の関係を示すグラフである。
【図20】水混入油の静電容量測定に用いる試験装置の模式図である。
【図21】図20の試験装置で測定した混入水分濃度と静電容量の関係を示すグラフである。
【図22】同試験で測定した油温と静電容量の関係を示すグラフである。
【図23】第1の実施形態における状態監視装置を構成する振動異常の異常診断手段の概念構成を示すブロック図である。
【図24】軸受に異常が発生していないときの軸受の振動波形を示した図である。
【図25】軸受の軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生したときに見られる軸受の振動波形を示しか図である。
【図26】軸受の軌道輸にはく離が発生したときの初期段階における軸受の振動波形を示した図である。
【図27】はく離異常の末期段階に見られる軸受の振動波形を示した図である。
【図28】軸受の軌道輪の一部にはく離が生じ、その後、軌道輪全域にはく離が転移していったときの軸受の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示した図である。
【図29】軸受の軌道輸の面荒れや潤滑不良が発生したときの軸受の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示した図である。
【図30】同振動異常の異常診断手段の第2の具体例を示す概念構成のブロック図である。
【図31】同振動異常の異常診断手段の第3の具体例を示す概念構成のブロック図である。
【図32】同振動異常の異常診断手段の第4の具体例を示す概念構成のブロック図である。
【図33】同風力発電装置の状態監視装置のさらに他の実施形態を示すシステムの全体構成を概略的に示した図である。
【図34】同振動異常の異常診断手段の第5の具体例を示す概念構成のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
この発明の第1の実施形態を図1ないし図3と共に説明する。この転動装置の状態監視装置および監視方法は、転動装置1の潤滑油中の混入水分濃度を監視する機能を有する状態監視手段11を設けたものである。転動装置1は、前述のように、転がり軸受やギヤなど、転がりすべりする接触要素を含む部品からなる装置を言う。転動部品3は、上記転動装置1における転がりすべりする接触要素となる部品を言う。
この実施形態における転動装置1は、例えば、図2,図3に示す風力発電装置400における増速機440および主軸用軸受装置461が該当する。
【0031】
本状態監視装置を風力発電装置に適用した場合を例に実施形態を説明する。図2は、風力発電装置の構成を概略的に示した図である。風力発電装置400は、主軸420と、ブレード430と、増速機540と、発電機550と、主軸用軸受460を有する主軸用軸受装置461と、データ処理装置2とを備える。データ処理装置2は、この風力発電装置の状態監視装置における演算処理を行うコンピュータおよびプログラムからなる。増速機440、発電機450、主軸用軸受460、およびデータ処理装置2は、ナセル490に格納され、ナセル490は、タワー500によって支持される。
【0032】
主軸420は、ナセル490内に進入して増速機440の入力軸に接続され、主軸用軸受460によって回転自在に支持される。主軸420は、風力を受けたブレード430により発生する回転トルクを増速機440の入力軸へ伝達する。ブレード430は、主軸420の先端に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸420に伝達する。
【0033】
主軸用軸受460は、ナセル490内において軸受ハウジング462を介して固定設置され、主軸420を回転自在に支持する。これら軸受ハウジング462と、主軸用軸受460と、この主軸用軸受460を油潤滑する潤滑機構(図示せず)とで、図1の転動装置1の一つが構成される。主軸用軸受460は、転がり軸受によって構成され、例えば、自動調芯ころ軸受や円すいころ軸受、円筒ころ軸受、玉軸受等によって構成される。なお、これらの軸受は、単列のものでも複列のものでもよい。
【0034】
増速機440は、主軸420と発電機450との間に設けられ、主軸420の回転速度を増速して発電機450へ出力する。発電機450は、増速機440の出力軸に接続され、増速機440から受ける回転トルクによって発電する。発電機450は、たとえば、誘導発電機によって構成される。なお、この発電機450内にも、ロータを回転自在に支持する軸受が設けられている。
【0035】
図3は、増速機440の一例を示す。この増速機440は、入力軸21と出力軸22との間に、一次増速機となる遊星歯車機構23と、2次増速機24とを設けたものである。遊星歯車機構23は、入力軸21と一体のキャリア25に遊星歯車26を設置し、遊星歯車26を内歯のリングギヤ27と、太陽歯車28に噛み合わせ、太陽歯車28と一体の軸を中間出力軸29とするものである。2次増速機24は、中間出力軸29の回転を出力軸22に複数の歯車31〜34を介して伝達する歯車列からなる。上記遊星歯車26や、この遊星歯車26を支持する軸受35、リングギヤ27、2次増速機24の歯車31となる各転動部品3が、ハウジング4内の潤滑油貯留槽4aの潤滑油5内に浸漬される。潤滑油貯留槽4aは、ポンプおよび配管からなる循環給油手段(図示せず)によって循環させられる。なお、循環給油手段は必ずしも設けなくても良く、油浴潤滑形式としても良い。
【0036】
図1は、転動装置の状態監視装置の概念構成を示す。転動装置1は、風力発電装置400を構成する機構中で、回転動作を生じる装置の総称であり、例えば、増速機440である。転動装置1は、主軸用軸受装置461およびその潤滑機構(図示せず)からなる装置であっても良い。
【0037】
上記構成のいずれかの転動装置1に対して、この転動装置1を構成する潤滑油貯留槽4a内の潤滑油5の混入水分濃度を監視する混入水分濃度監視装置6を設けている。この混入水分濃度監視装置6は、潤滑油5中の静電容量および油温をそれぞれ検出する静電容量検出手段7および油温測定手段8と、混入水分濃度の異常診断手段10とからなる。この異常診断手段10は、前記静電容量検出手段7および油温測定手段8で検出された静電容量および油温から、定められた規則に従って混入水分濃度を検出する水分濃度計算手段9と、この水分濃度計算手段9で算出された混入水分濃度をしきい値S1と比較し、しきい値S1を超える場合に異常と診断する異常診断部10aとでなる。静電容量検出手段7は、液体中に浸漬されてその液体の静電容量の検出が可能なものであれば良く、各種の形式の静電容量計を用いることができる。油温測定手段8には、熱電対等が用いられる。静電容量検出手段7と油温測定手段8とは、互いに一体化された一体型の静電容量・油温手段7Aで構成されていても良い。
【0038】
水分濃度計算手段9および異常診断部10aを含む異常診断手段10は、マイクロコンピュータやパーソナルコンピュータ等のコンピュータとそのプログラムとで構成され、または専用の電子回路により構成される。この異常診断手段10は、例えば、図2と共に説明したデータ処理装置2に設けられる。
【0039】
水分濃度計算手段9は、静電容量と油温と混入水分濃度との関係を、計算式やテーブルで設定した関係設定手段9aを有していて、入力された静電容量と油温とから、関係設定手段9aに記憶された関係、すなわち上記の定められた規則を用いて混入水分濃度を計算する。
【0040】
上記構成の混入水分濃度監視装置6によると、潤滑油5中の静電容量および油温を静電容量検出手段7および油温測定手段8により検出し、その検出された静電容量および油温から、水分濃度計算手段9により混入水分濃度を検出する。このように、静電容量と油温とから混入水分濃度を求めるようにしたため、精度良く混入水分濃度を求めることができる。したがって、油潤滑方式の転動装置1において、潤滑油5中の混入水分濃度を監視して精度良く求めることができ、転動部品の水素脆性起因の早期損傷に対する注意を喚起することができる。また、異常診断手段部10aを有し、混入水分濃度がしきい値S1を超えた場合に異常の判定を行うようにしたため、転動装置8を構成する部品である転動部品3の水素脆性起因の早期損傷をより確実に予測し、注意を喚起することができる。静電容量と油温とから混入水分濃度を精度良く検出できる理由については、後に、しきい値S1の設定方法の説明欄において、説明する。
【0041】
この実施形態において、上記の状態監視手段11には、混入水分濃度の異常診断手段10の他に、振動異常の異常診断手段51と、変位異常の異常診断手段52と、内部クラックの異常診断手段53と、不純物の異常診断手段54と、総合異常診断手段55とを備えている。また、通信手段56が設けられている。
【0042】
振動異常の異常診断手段51は、前記転動装置1を構成するいずれかの軸受の振動を監視する振動センサ70の出力を用い、その軸受の異常を判定する手段である。振動センサ70で振動を監視する軸受は、例えば、前記主軸用軸受460であり、軸受ハウジング等に設置される。振動センサ70は、圧電素子を用いた加速度センサによって構成される。異常診断手段51は、振動センサ70の検出信号を処理して処理結果を、定められたしきい値S2と比較し、しきい値S2を超える場合に異常と判定する。異常診断手段51は、後に説明するように、前記軸受またはこの軸受で支持される軸の回転速度を、回転センサ210によって得て、検出した回転速度を異常判断のための信号処理に用いるようにしても良い。
【0043】
変位異常の異常診断手段52は、前記転動装置1を構成する前記軸受における、内外輪間の相対変位を検出する変位計である変位センサ240の出力を用い、前記軸受の異常を判定する手段である。この変位異常の異常診断手段52は、検出された相対変位、またはこの相対変位を信号処理した値を、定められたしきい値S3と比較し、しきい値S3を超える場合に、異常と判定する。
【0044】
内部クラックの異常診断手段53は、前記転動装置1を構成する前記軸受における、アコースティックエミッション波を検出するためのAEセンサ250の出力を用い、この出力またはこの出力を信号処理した値を、定められたしきい値S4と比較し、しきい値S4を超える場合に、異常と判定する。
【0045】
不純物の異常診断手段54は、前記転動装置1の潤滑油の中の摩耗粉またはその他の不純物の量を検知するセンサ270の出力を用い、この出力またはこの出力を信号処理した値を、定められたしきい値S5と比較し、しきい値S5を超える場合に、異常と判定する。
【0046】
これら振動異常の異常診断手段51、変位異常の異常診断手段52、内部クラックの異常診断手段53、および不純物の異常診断手段54は、いずれも、前記水分濃度計算手段9で検出された混入水分濃度が、定められたしきい値S1を超えた場合に、それぞれの異常診断手段51〜54が異常と判定するしきい値S2〜S5を変化させ、または判定方法を変化させるようにしても良い。
【0047】
総合異常診断手段55は、前記各異常診断手段10,51〜54の診断結果を、定められた規則によって総合的に判定する手段である。前記の水分濃度計算手段9で検出された混入水分濃度によって、各異常診断手段51〜54が異常と判定するしきい値S2〜S5を変化させ、または判定方法を変化させる処理は、総合異常診断手段55によって行うようにしても良い。
【0048】
なお、図1の例では、混入水分濃度の監視のための静電容量検出手段7や油温測定手段8を配置する測定室についての説明を省略したが、後に図4〜9に示すように測定室12(図4,図5,図7,図8)を設けることが好ましい。
【0049】
風力発電装置では、主軸用軸受装置461や増速機440内部には各種転がり軸受が利用され、油により潤滑されている。この潤滑油を供給するための管路やタンク、あるいは転動装置1の内部または外部のいずれかに、図4,図5,図7,図8に示すように測定室12を設け、混入水分濃度を測定する。
監視時の混入水分濃度の異常診断のしきい値S1は、後に図11〜22と共に説明するしきい値を適用する。監視中にしきい値S1を超えた場合、異常診断部10aにより、注意を促す信号を出力する。
混入水分濃度の測定に静電容量計7と熱電対からなる油温測定手段8とを用いているが、これらが一体となった静電容量・油温手段7Aを使用することで、個別にセンサを設置する場合の工数短縮が可能となる。また2つのセンサ(すなわち、静電容量計7および熱電対からなる油温測定手段8)を一体とするためのハウジング(図示せず)は、各センサを保持するカバーの役割であり、それらの破損低減効果が期待できることから、センサ自体の信頼性も向上すると考えられる。
【0050】
洋上や寒暖の変化が激しい地域では、混入水分濃度が高く、水素脆性による軸受損傷が多発すると考えられる。このような地域で本装置を利用した場合、図9に示すように、水分濃度が短時間でしきい値S1を超えることが予想される。なお、しきい値S1を超えた場合は、密閉性に優れるシールに変えることやヒーター等結露を防止するための加熱手段の起動などの対策をすることで水素脆性による損傷を防ぐこともできる。
また、陸上や寒暖の変化が少ない地域で本装置を利用した場合、図10に示すように、水分濃度は日々変化しても、しきい値S1を超えることがほとんど無いと考えられる。水素脆性によるはく離の発生時期については、しきい値S1を超えた運転時間または回転量の累積によって予測する。
なお、混入水分濃度の測定に関して、安全側での監視を行うためには、タンクや油槽より低い位置に測定室を設け、比重差を利用し、水や添加物をセンサ付近に取り込みやすくすることで、高めの混入水分濃度を測定するとよい。
【0051】
他のセンサとの組み合わせについて説明する。
水素脆性の影響によって対象軸受の実際の寿命が、設計上期待される寿命に到達するか否かを推定できる。しかし、実際に生じたはく離の確認や、その他の原因による軸受の損傷については検知することが困難である。そこで、以下に示す各種センサと組み合わせることで水素脆性はく離以外の軸受の損傷も同時に監視することが可能になる。
例えば、振動加速度センサ等の振動センサ70を併用することで、水素脆性はく離を含めた各種の異常による振動を検知することが可能になる。
【0052】
また、AEセンサ250を振動加速度センサの代わりに併用する場合、または同時に用いることで、表面のはく離だけでなく、金属内部に発生する水素脆性が原因のクラックを測定できる。このとき、AEセンサ250の単体によるクラックの判定は、原因不明のAE波が散見されるために難しいが、混入水分濃度が高い状態でAE波が出ている場合、内部クラックの発生が高い確立で生じていると予想され、異常を早期に正確に見積もることが可能になる。
【0053】
また、種々の原因による金属接触によって軸受内部に摩耗が生じた場合、水分濃度の測定だけでは検知することが難しい。そこで、変位センサ240を用いて、軸受の外輪に対する内輪の相対変位を収集することで摩耗を検知することができ、より総合的な状態監視が可能になる。
さらに、長時間の運用により、油の酸化やほこりの混入など潤滑油の劣化が予測されるため、油の劣化センサ等の不純物のセンサ270を併用することで、軸受の破損につながる潤滑不良を予測することができる。同時に混入水分濃度を考慮し、油劣化センサ等の不純物のセンサ270に補正を加えることで、より潤滑油が原因の軸受の早期損傷の予測が正確になる。
【0054】
上記のことから、水素脆性による軸受のはく離の発生確率あるいは、発生時期を予測することができる。これにより、風力発電装置においては、異常発生に備えメンテナンスの準備を予めしておくことで、異常発生後の稼動停止時間の削減が可能になる。
【0055】
図4〜図8は、混入水分濃度監視装置6の変形例を示す。図1〜図3の実施形態における風力発電装置の状態監視装置において、これら図4〜図8に示す混入水分濃度監視装置6を用いても良い。なお、これら図4〜図8では、この風力発電装置の状態監視装置におけるその他の構成は、図示を省略している。
図1の実施形態では、ハウジング4における潤滑油貯留槽4a内の潤滑油5の静電容量および油温を測定するようにしたが、図4に示すように、ハウジング4内の一部に、潤滑油貯留槽4a内と連通した測定室12を設け、静電容量検出手段7および油温測定手段8は、測定室12内の静電容量および油温をそれぞれ測定するように設置しても良い。この場合に、測定室12の中の潤滑油5を攪拌する攪拌手段13を設けても良い。測定室12は、例えば潤滑油貯留槽4a内の一部を仕切った仕切室とされる。測定室12がハウジング4内であると、測定室12を設けることによる転動装置の大型化が回避できる。攪拌手段13は、例えば攪拌用の回転翼と、この回転翼を回転させるモータとでなる。測定室12を設け、攪拌手段13を設けた場合、測定室中12に溜める潤滑油量を100mL以下とし、かつ変動量を±5mL以下とするのが良い。図4の実施形態におけるその他の構成は、図1に示す第1の実施形態と同様である。
【0056】
測定室12を設けることで、安定した静電容量および油温の測定が行える。また、攪拌手段13を設けることで、潤滑油と水の混合状態が良くなり、より安定した静電容量および油温の測定が行える。
【0057】
後に、転がりすべり疲労寿命試験と共に説明するが、潤滑油と水の混合状態が良好でない場合、混入水分濃度が高くなるにつれて、静電容量の値が不安定になる。このことは、油浴潤滑方式や循環給油方式の転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視する場合についても言えることである。故意に潤滑油と水の混合状態をよくする転がりすべり疲労寿命試験に対し、転動装置は停止中の場合もあるため、潤滑油と水の混合状態がよくないことは容易に想像できる。潤滑油と水が分離している場合もある。そのため、転動装置においても、なるべく潤滑油と水をよく混合させる機構を設け、なるべく正確に静電容量を測定することが望ましい。そのため、攪拌手段13を設けて攪拌することが好ましい。
【0058】
なお、測定室12を設けずに、攪拌手段13を潤滑油貯留槽4a内の隅部等に設けても良い。しかし、潤滑油と水との混合状態をなるべく良好にするために、間仕切りをして測定室12を設けるのが良い。間仕切りしなければ、潤滑油と水との混合状態を良好にするのは困難と考えられる。しかし、潤滑油と水の混合状態がよくない場合、高めの静電容量値が測定されるため、混入水分濃度が高くなる。すなわち安全側で監視することができる。ただし、潤滑油と水が分離している場合、さらに高めの静電容量値が測定されると考えられる。その場合、安全側過ぎる監視となり、メンテナンスの回数や費用が過剰になる可能性があるため,留意が必要である。
【0059】
測定室12は、図5に示すようにハウジング4の外部に設置しても良い。この場合に、測定室12は、ハウジング4に接して設けても、ハウジング4から離して設けても良い。離した場合は、測定室12とハウジング4の潤滑油貯留槽4aとは、連通管(図示せず)等で連通させる。測定室12をハウジング4外に設けると、ハウジング4に測定室12や静電容量検出手段7および油温測定手段8を設ける適切な場所がなくても、静電容量検出手段7および油温測定手段8による測定が行える。なお、図5の実施形態におけるその他の構成,効果は、図1に示す第1の実施形態と同様である。
【0060】
図6は、循環給油方式とした例、つまりハウジング4の潤滑油貯留槽4aに対して循環給油を行う循環給油手段14を設けた例である。循環給油手段14は、潤滑油貯留槽4aに両端が連通したパイプ等による油循環路15と、この油循環路15を介して潤滑油5を循環させるポンプ16とでなる。油循環路15は、潤滑油貯留槽4aの底部の排出口15aと、潤滑油貯留槽4aの中間高さ位置または上部の給油口15bとに連通する。その他の構成,効果は、図1に示す第1の実施形態と同様である。
【0061】
図7は、循環給油方式において、ハウジング4内の一部に、潤滑油貯留槽4a内と連通した測定室12を設け、静電容量検出手段7および油温測定手段8は、測定室12内の静電容量および油温をそれぞれ測定するように設置した例である。この場合にも、測定室12の中の潤滑油5を攪拌する攪拌手段13を設けても良い。その他の構成は、図6に示す実施形態と同様である。
【0062】
図8は、循環給油方式において、ハウジング4外に測定室12を設けた例である。測定室12は、油循環路15の途中に設けている。この測定室12に、内部の潤滑油の静電容量および油温を測定する静電容量検出手段7および油温測定手段8を設け、かつ測定室12内の潤滑油5を攪拌する攪拌手段13を設けている。このように攪拌手段13を設けることで、安定して正確に静電容量を測定し、混入水分濃度を正確に求めることができる。また、この実施形態では、潤滑油貯留槽4aの底部に傾斜溝17を設けている。傾斜溝17の底面の低い側の端部を潤滑油の排出口15aとし、定期的に、攪拌手段13を備えたリザーブタンクとなる測定室12中に潤滑油5をポンプ16で引き込んで溜め、そこで静電容量と油温を測定して混入水分濃度を監視すればよい。それにより、潤滑油よりも比重が大きい水が分離していても、水を測定室12中に取り込むことができ、高めの混入水分濃度が測定される。すなわち安全側の監視ができる。この実施形態において、特に説明した事項の他は、図1に示す第1の実施形態と同様である。
【0063】
次に、上記各実施形態の転動装置の状態監視装置において、混入水分濃度の異常診断手段10における異常診断部10aに設定する適切なしきい値S1を求めるための試験方法について説明する。
図11にこの試験方法に用いる試験装置の一例を概念図で示す。この転がりすべり疲労寿命試験装置は、試験装置本体140と、この試験装置本体140を制御する試験装置本体制御装置141と、水分濃度計算手段142とで構成される。試験装置本体140は、被試験体である転動部品模擬体3Aを浸漬させた状態に潤滑油5Aを入れる試験油槽101と、この試験油槽101内で転動部品模擬体3Aを動作させる転動部品模擬体駆動装置120と、試験油槽101の潤滑油中に水を注入する水注入手段であるシリンジポンプ104と、試験油槽101の潤滑油5Aの静電容量を測定する静電容量測定手段である静電容量計105と、試験油槽101の潤滑油5Aの油温を測定する油温測定手段である熱電対106とを有する。
転動部品模擬体3Aは、鋼製材料からなる転動部品用材料の被試験体を構成要素に含めて転動部品を試験用に模した部品である。図示の例では、転動部品模擬体3Aは、転動部品の一種であるスラスト玉軸受を模したものであり、内輪3aと外輪3bとの間にボールからなる転動体3cを設けて構成され、外輪3bが被試験体となる。この転動部品模擬体における被試験体である外輪3bは、円筒形状で端面が転走面となる。また、この転動部品模擬体3Aは、実際の転動部品であるスラスト軸受に比べて、転動体3cのサイズを大きくしてある。模擬の対象となる実際のスラスト軸受では、転動体が小さすぎ、わずかな荷重を与えるだけで接触面の最大面圧がかなり大きくなるため、転動部品模擬体3Aでは転動体3cを大きくした。内輪3aは、そのように大きな転動体3cが転動できる溝を有するものを特別に製作して用いる。
【0064】
水分濃度計算手段142は、静電容量計105で測定した静電容量と熱電対106で測定した油温から、定められた関係に従って前記潤滑油中の混入水分濃度を計算する手段である。水分濃度計算手段142は、静電容量と油温と混入水分濃度との関係を、計算式やテーブル等で定めた関係設定手段143を有し、入力された静電容量と油温とから、関係設定手段143に定められた関係を用いて混入水分濃度を計算する。
【0065】
試験装置本体制御装置141は、転動部品模擬体駆動装置120を制御する転動部品模擬体制御部144と、シリンジポンプ104を制御するポンプ制御部145と、試験装置本体140およびその他の駆動部分を制御する制御部(図示せず)とを備える。試験装置本体制御装置141は、コンピュータ式のシーケンサまたは数値制御装置であり、パーソナルコンピュータ等のコンピュータとこれに実行されるプログラムとで構成される。
水分濃度計算手段142は、パーソナルコンピュータ等のコンピュータとこれに実行されるプログラムとで構成される。水分濃度計算手段142は、試験装置本体制御装置141を構成するコンピュータを用いたものであっても、試験装置本体制御装置141とは独立したコンピュータを用いたものであっても良い。
【0066】
この転がりすべり疲労寿命試験方法は、上記構成の試験装置を用いて、次のように行う。試験油槽101に入れた潤滑油5Aに、被試験体である転動部品模擬体3Aを浸漬して動作させ、転動部品模擬体3Aを構成する被試験体である外輪3bの転がりすべり疲労寿命の試験を行う。ここでは、シリンジポンプ104を用いて、前記潤滑油5A中に水素源としての水を注入し、静電容量計105で計測した潤滑油5Aの静電容量と、熱電対106で計測した油温とによって、水分濃度計算手段142を用いて、潤滑油5A中の混入水分濃度を測定する。
【0067】
同図の試験装置では、試験油槽101に潤滑油5Aを入れる機構として、油浴潤滑機構を用いており、試験油槽101内の潤滑油5A中の混入水分濃度を測定する。上記「油浴潤滑機構」は、試験油槽1に潤滑油を溜めておき、その溜められた潤滑油で転動部品模擬体を潤滑する機構を言う。測定した混入水分濃度から得られる適切な水の注入量をシリンジポンプ104にフィードバックし、水注入量を変化させて混入水分濃度を制御する。すなわち、ポンプ制御部145は、水分濃度計算手段により出力された混入水分濃度に応じて、定められた規則に従い、混入水分濃度が定められた範囲に納まるように、シリンジポンプ104による注入量を変化させる。また、転動部品模擬体3Aの接触要素間(具体的には一対の軌道輪3a,3b間)に、通電手段147によって電流を流して金属接触率を測定する。転動部品模擬体駆動装置120における、サーボモータ107Aの主軸107と、転動部品模擬体3Aの構成要素となる内輪3aに結合されて転動部品模擬体3Aを動作させるスピンドル108とを直結して揺動運動させる。すなわち正逆に回転させる。スピンドル108は転動部品模擬体3Aを構成要素の一つとして持つものであっても良い。サーボモータの主軸107とスピンドル108とは絶縁カップリング132で連結する。スピンドル108の支持軸受には、セラミック転動体軸受133を用いている。
転動部品模擬体3Aは、前述のように、この実施形態ではスラスト玉軸受を模した部品とされ、被試験体となる外輪3bは、設置台(図示せず)等に固定設置され、内輪3aがスピンドル108に固定されている。
【0068】
上記スピンドル108およびセラミック転動体軸受133により、転動部品模擬体駆動装置120のヘッド部146が構成される。ヘッド部146は、転動部品模擬体駆動装置120における、それぞれが1個または1組の転動部品模擬体3Aを動作させる機構部を言う。この実施形態ではヘッド部146を1台のみ設けたが、複数のヘッド部146を設け、複数の転動部品模擬体3Aを同時に試験するようにしても良い。
【0069】
ところで、転がりすべり疲労寿命試験による耐水素脆性評価では、鋼中への拡散性水素の侵入濃度は制御できない。また、厳しい条件での加速試験であり、実機条件を模擬するものではない。鋼材質の耐水素脆性評価については、拡散性水素の侵入濃度を制御しての評価がある。それに対し、潤滑油の種類,潤滑油への添加物,接触要素の接触面への表面処理などの耐水素脆性評価は、この実施形態のように拡散性水素の侵入濃度が制御できない転がりすべり疲労寿命試験で評価する必要がある。したがって、なるべく外乱が少なく、なるべく実機を忠実に模擬した転がりすべり疲労寿命試験によって、水素脆性起因の早期損傷を効率よく起こさせ、使用条件に応じた対策要素を見極めるのに、この実施形態の転がりすべり疲労寿命試験方法は有効である。なお、ユーザーからの理解を得るという点からは、鋼材質についても、転がりすべり疲労寿命試験による耐水素脆性評価を実施することが望ましい。
【0070】
水素脆性起因の早期損傷が起きる様々な転動部品の使用条件を鑑みると、以下の(1)〜(5)の機能を有する転がりすべり疲労寿命試験が望ましい。なお、試験装置における各ヘッド部146間で互いに影響が及ばないように、図11では各ヘッド部に油浴潤滑機構を用いているが、循環給油機構を用いても良い。油浴潤滑機構であっても、また循環給油機構であっても、各ヘッド部に設けるのであれば、各ヘッドで異なる条件の試験ができる。
(1)潤滑油5A中に水素源としての水を注入する。
(2)潤滑油5A中の混入水分濃度を静電容量と油温で監視する。
(3)(2)で監視した混入水分濃度から求められる水の注入量をフィードバックし、水注入量を変化させて混入水分濃度を制御する
(4)一定回転速度,一方向回転だけでなく、加減速運転,揺動運動ができる。
(5)通電ができる。
【0071】
(1)の機能については、水を混入した潤滑油を定期的に交換する方法もあるが、多工数、休日交換はできないなど、効率が悪い。そのため、この実施形態のように、水をシリンジポンプ104やチューブポンプで注入するのが望ましい。シリンジポンプ104は微量注入に向いている。ヘッド部146に油浴潤滑機構を用いている図11の試験装置では、水の注入箇所は試験油槽101である。また、ヘッド部146に循環給油機構を用いる場合、水の注入箇所は試験油槽101または循環給油部とする。
【0072】
(2)の機能を持たせる場合に、鉱油系で無添加の潤滑油の飽和水分濃度は高々200重量ppm であることに留意する必要がある。混入水分濃度は静電容量と油温によって測定できるが、静電容量を計測する静電容量計5は次の2タイプに大別される。1つは飽和水分濃度以下までしか測れないものであり、もう1つは飽和水分濃度を超えて白濁状態になっても測れるものである。前者のタイプの方が多いが、後者のものの中には混入水分濃度が10%以上でも測定できるものもある。200重量ppm の濃度の水混入油を定期交換した転がりすべり疲労寿命試験では、水の悪影響は見られないという結果が得られている。鉱油系で無添加の潤滑油の飽和水分濃度は微量だが、合成油系の潤滑油や鉱油系でも添加剤の種類によっては、飽和水分濃度はかなり高い。また、前者のタイプの静電容量計は、潤滑油5Aの飽和水分濃度を測るのに用いることができ、混入水分濃度と転がりすべり疲労寿命の関係を求めれば、潤滑油固有の飽和水分濃度が耐水素脆性の1つの指標になり得る可能性がある。
【0073】
(3)の機能については、潤滑油5A中に一定濃度の水を混入し、マクロ的に閉鎖系として転がりすべり寿命試験をしても、混入水分濃度は約3h経過したあたりから大幅に減少する。潤滑油5A中に水を一定流量で連続注入した場合も、混入水分濃度が変化することは容易に想像できる。(1)の機能のために水は水素源として注入するが、そのためには、(2)の機能において静電容量と油温によって混入水分濃度から求められる適切な水分量をフィードバックし、水注入量を変化させて混入水分濃度を所定の範囲内に保つことが望ましい。
【0074】
(4)の機能について言えば、実際の転動部品3は一定回転速度,一方向回転で用いられることはない。そのため、一定回転速度,一方向回転の他に、加減速運転,揺動運動もできることが望ましい。加減速運転については、少なくとも図12のようなパターン設定ができる必要がある。すなわち、加速度(rmax-rmin)/t,高速回転数rmax,高速回転数での保持時間tmax,減速度(rmax-rmin)/t,低速回転数rmax,低速回転数での保持時間tminの6パラメータをそれぞれ任意に設定でき、それを1パターンとして加減速を繰り返すことである。揺動運動では、回転の場合とは異なり、損傷が起きても振動が大きく変化しない。クランク機構による揺動運動では、その振動が重畳するため、損傷が起きても振動で検出することが難しい。振動で損傷を精度よく検出できるようにするには、図11のようにサーボモータの主軸107と、転動部品模擬体3Aを構成部品の1つとして持つ試験機構のスピンドル108とを直結して揺動運動させることで、重畳する振動成分をなるべく排除する必要がある。さらに、できる限り試験機構のスピンドル108などの剛性を高くする必要がある。揺動運動条件としては、揺動の角度と周波数を任意に設定できることが望ましい。なお、サーボモータの主軸107と試験機構のスピンドル108を直結すると、クランク機構のような三角関数波形の速度変化を与えることは難しい。それを可能にするためには、シーケンサのプログラムによってサーボモータのアンプを制御すれば良い。
【0075】
(5)の機能を持たせる目的は次の2点である。
1つは微弱電流を転動部品模擬体3Aの接触要素間に流して接触面の金属接触率を測定することである。もう1つは1A程度の大電流を接触要素間に流して正極側を摩耗させることである。この現象を利用し、試験片を正極側にすることで、試験片の接触部に金属新生面を積極的に露出させ、水素の発生,侵入を促進することができる。このことは、非特許文献9にも開示されている。
【0076】
図11の試験装置を用いた転がりすべり疲労寿命試験方法では、(1)〜(5)の全ての機能を満たしており、転動部品模擬体3Aが揺動運転することを前提とし、サーボモータ107Aの主軸107と試験機構のスピンドル108を直結した機構になっている。なお、揺動運転が不要な場合、高価で定格回転数が高々3000rpm のサーボモータよりも、安価なインダクションモータなどで試験機構のスピンドル108をベルト駆動するのが良い。この場合、サーボモータ107Aの駆動をスピンドル108に伝達する駆動伝達径にプーリ機構を設け、プーリ比を変えれば、試験機構のスピンドル108の回転速度を高めることができ、加減速運転の速度差を大きくするのにも有効である。なお、ヘッド部146に循環給油機構を用いる場合は、比較的給油速度が速いチューブポンプなどを用いるのが良い。この場合、試験油槽101の潤滑油量をなるべく一定に保つように、潤滑油の流入出量を等しくすることが望ましい。
【0077】
図11に示した試験装置の概念図では、転動部品模擬体3Aがスラスト軸受型である場合を示したが、スラスト軸受型の場合も鋼球の自転方向と公転方向が異なるため、転動部品模擬体3Aにおける試験片と鋼球の接触面ですべりが生じる。さらに積極的に接触面にすべりを与えるには、接触要素の運動機構を工夫すればよい。転動部品模擬体3Aとして歯車材を評価する場合、歯車ではさらに大きなすべりが作用するため、試験片とそれに接触する物体の周速差を強制的に変えるなどし、接触面に大きなすべりを作用させる工夫が必要である。
【0078】
図13および図14は、この転がりすべり疲労寿命試験方法に用いる試験装置の他の例を概念図として示している。図13の試験装置では、試験油槽1に潤滑油5Aを入れる機構として、循環給油機構109を用いている。ここでの循環給油機構109は、循環路110の途中に循環ポンプ111、静電容量計105、および熱電対106を設けて構成される。この場合でも、静電容量計105および熱電対106は図11のように試験油槽101に設けても良い。
【0079】
ここで、潤滑油5Aへの水の混合状態が良好でない場合、混入水分濃度が高くなるにつれて、静電容量の値が不安定になる。そのため、潤滑油5Aと水がよく混合した状態で静電容量を測定することが望ましい。そこで、図14の試験装置では、図13の試験装置において、試験油槽101の潤滑油5Aの排出口と循環ポンプ111との間にリザーブタンク112を設け、そこに潤滑油5Aを溜めて磁気式攪拌機113などで攪拌し、静電容量と温度を測定するようにしている。熱電対106はリザーブタンク112に設ける。潤滑油5Aと水を十分に混合させるためには、リザーブタンク112の容積を小さくして攪拌効果を大きくする方が良い。目安として、潤滑油量は100mL以下とすることが望ましい。さらに望ましいことは、潤滑油5Aよりも比重が大きい水が、試験油槽101やリザーブタンク112から排出されやすくすることである。そのために、図14の試験装置では、試験油槽101およびリザーブタンク112のそれぞれの潤滑油5Aの排出口を底角部101a,112a(同図中に○を付して示す)としている。さらに、試験油槽1およびリザーブタンク112のそれぞれ内部を円柱状とし、底角部101a,112aの全周に連続して、いわゆるヌスミとなる外角側に凹む溝状の凹部101aa,112aaを設けることが望ましい。これらの工夫をすることにより、水よりも比重の大きな添加物質も循環しやすくなる。
【0080】
図11,図13,図14の試験装置を用いた試験方法では、シリンジポンプ104を用いて試験油槽101に水を注入するが、以下には、試験油槽1中の水混入油を定期交換して行った転がりすべり疲労寿命試験方法の具体例を示す。
軸受鋼SUJ2を用い、図15(A)に示すテーパ形状外輪試験片(熱処理後は研削仕上げ、内径軌道面は面粗さRq ≒0.03μm)114を製作した。熱処理は850℃のRXガス雰囲気中で50min加熱してずぶ焼入を施した後、180℃で120minの焼戻しを施した。試験は、図15(B)に示すように、テーパ形状外輪試験片114にアンギュラ玉軸受7306Bの内輪(SUJ2標準焼入焼戻品)115、鋼球(SUJ2標準焼入焼戻品,13個)116、保持器117を組み合わせて転動部品模擬体3Aとして行った。外輪試験片114をテーパ形状にしたのは、鋼球116と接触角をもって回転することにより、鋼球116がスピンして外輪試験片114との接触面にすべりが生じるためである。すべりが生じる場合、水素脆性起因の早期損傷が起きる頻度が高くなる。
【0081】
図16には、この具体的試験方法で用いる試験装置の模式図を示す。同図における左側の機構部が評価側部120a、右側の機構部がダミー側部120bである。同図中において、損傷対象のテーパ形状外輪試験片114はハッチングして示している。アキシャル荷重Fa =2.94kNのみを作用させ、2733min-1で内輪112を回転させた。潤滑油にはVG100の無添加タービン油(密度0.887g/cm3 ,動粘度100.9mm/s@40℃,11.68mm/s@100℃)を用い、それに200重量ppm ,5重量%の純水を混入した。評価側に60mLの水混入油を入れ、潤滑油の入口(下側)と出口(上側)をチューブ118でつないで閉鎖系とした。図12(B)に矢印で示す方向にポンプ作用によって潤滑油の流れが生じるため、水混入油は循環して攪拌される。試験は20h行い、その間に損傷が起きなければ、新たに作成した水混入油に交換した。損傷が生じるまで20hの試験と水混入油の交換を繰り返した。損傷検出は振動計で行った。なお、図16に示す試験装置における中央の円筒ころ軸受119はラジアル荷重を作用させるためのもので、今回の試験には無関係である。
【0082】
アキシャル荷重Fa =2.94kNのみを作用させた場合の弾性ヘルツ接触計算での外輪試験片114と鋼球116の間の最大接触面圧は3GPaである。なお、弾性ヘルツ接触計算では、ヤング率Eとポアソン比νはSUJ2標準焼入焼戻品の実測値であるE=204GPa,ν=0.3とした。水混入を無視した弾性流体潤滑計算でのテーパ形状外輪試験片114と鋼球116の間の油膜パラメータは約3である。ただし、鋼球116の面粗さは実測値Rq =0.0178μmで一定とした。テーパ外輪形状試験片114の単体の計算寿命L10h は、2円筒モデルに変換して計算すると2611hである。L10h の求め方は非特許文献10に開示されている。ただし、すべりの影響は無視した。
【0083】
初期混入水分濃度が5重量%の試験中に、定期的に潤滑油を少量サンプリングし、混入水分濃度を電量滴定法で測定して経時変化を調べた。その結果、図17にグラフで示すように、混入水分濃度は約3h経過したあたりから大幅に減少した。前述のように閉鎖系とはいえ、それはマクロ的であって、完全にすきまをなくすことは不可能である。水分は目視ではわからない小さなすきまから蒸発したと考えられる。この転がりすべり疲労寿命試験の結果は、表1に示す通りである。
【0084】
【表1】

【0085】
200重量ppm の水混入油では、試験片5個すべて1000hまで損傷は起きず、試験を打ち切った。一方、5重量%の水混入油では、試験片5個すべてに計算寿命の1/100のオーダーの早期損傷が生じた。損傷形態は、すべて表層を起点とする内部起点型はく離であった。なお、SUJ2製鋼球116にも3GPaの最大接触面圧が作用するが、はく離は生じなかった。鋼球116はテーパ形状外輪試験片114に比べて有効負荷体積が大きいためと考えられる。今回用いた潤滑油の飽和水分濃度の上限値程度の水混入では、寿命に及ばず水の影響はないといえる。一方、水が多量に混入する場合、水素が発生し、鋼中に水素が侵入することで極めて早期に内部起点型はく離が起きたと考えられる。表1には、5重量%の水混入油を定期交換した場合の寿命と2母数ワイブル分布に当てはめて求めたL10,L50,およびe(ワイブルスロープ)を示した。
【0086】
次に、図11,図13,図14の試験装置のように、試験油槽101中の潤滑油5Aに水を一定流量で微量注入して行った転がりすべり疲労寿命試験方法の具体例を示す。
前記試験方法の場合と同じ図15に示す試験片114、および図16に示す試験装置を用い、荷重条件、回転速度も同じ試験条件とし、同じ潤滑油(水混入なし)60mLを注入し、潤滑油の入口(下側)と出口(上側)をチューブ118で接続して閉鎖系とした。試験開始と同時に、シリンジポンプ104(図11)によってチューブ118の中間部より純水の連続注入を行った。純水の注入速度は0.5mL/hとした。この場合、混入水分濃度の経時変化は測定しなかったが、図17の結果から、この場合も混入水分濃度が変化することは容易に想像できる。この転がりすべり疲労寿命試験の結果は、表2に示す通りである。
【0087】
【表2】

【0088】
表2に示した試験結果の場合も試験片6個のすべてに、先の試験方法である5重量%の水混入油を定期交換した場合と同程度の寿命の早期損傷が生じた。損傷形態は、すべて表層を起点とする内部起点型はく離であった。また、SUJ2製鋼球16にも3GPaの最大接触面圧が作用するが、はく離は生じなかった。表2には、寿命を2母数ワイブル分布に当てはめて求めたL10,L50,およびe(ワイブルスロープ)を示した。
【0089】
次に、静電容量計105による潤滑油の飽和水分濃度と混入水分濃度の測定の具体例を説明する。
先述したように、潤滑油中の混入水分濃度は静電容量と温度によって測定でき、用いる静電容量計105は次の2つのタイプに大別される。1つは飽和水分濃度以下までしか測定できないものであり、もう1つは飽和水分濃度を超えて白濁状態になっても測定できるものである。
先ず、飽和水分濃度以下までしか測定できない静電容量計105を用い、潤滑油の飽和水分濃度を測定した。潤滑油は、先の転がりすべり疲労寿命試験の具体例で用いたVG100の無添加タービン油である。図18(A)に模式図で示すように、静電容量計5を取付けた容器121(例えば図11の試験装置における試験油槽1に見立てたもの)に潤滑油を入れ、シリカゲル入れを設けた上蓋122をして、温度調整ができる磁気式攪拌機113で攪拌しながら110℃に熱して1h放置し、その間に油中に混入していた微量水分を蒸発させて、シリカゲルに吸着させた。その後、図18(B)に模式図で示すように、40℃に保持してシリンジポンプ4を用いて純水を一定速度0.05mL/hで注入した。図19に静電容量の経時変化を示す。用いた静電容量計105は、水分活性として0〜1の値を出力する。「0」は混入水分濃度がゼロの場合、「1」は混入水分濃度が飽和水分濃度以上の場合である。図19のように、167重量ppm で測定値が1になったことから、その値が飽和水分濃度になる。混入水分濃度と転がりすべり疲労寿命の関係を調べれば、潤滑油固有の飽和水分濃度が耐水素脆性の1つの指標になり得る可能性がある。
【0090】
次に、飽和水分濃度を超えて白濁状態になっても測定できる静電容量計105を用い、潤滑油中の水分濃度を変えて静電容量を測定した。潤滑油は、先の転がりすべり疲労寿命試験の具体例で用いたVG100の無添加タービン油を使用した。図20(A)に模式図で示すように、100mLのビーカー131(例えば図11の試験装置における試験油槽1に見立てたもの)に70〜80mLの潤滑油と純水を混入し、十分に混合するまで温度調整ができる磁気式攪拌機113を用いて33℃に保持した状態で攪拌した。その後、図20(B)の模式図で示すように、静電容量計105を取付けて静電容量を測定した。その結果を、図21に示す。結果より、混入水分濃度と静電容量の線形関係が得られた。さらに、水混入なしの潤滑油について、約25℃(室温)から約115℃まで昇温しながら静電容量を測定した。その結果を、図22に示す。結果より、混入水分濃度と静電容量の線形関係が得られた。図18,図19から分かるように、静電容量は混入水分濃度と油温に依存する。変化し得る混入水分濃度と温度の範囲において、図21,図22のような関係を複数求め、目的変数を混入水分濃度、従属変数を静電容量,油温として関数にすれば、静電容量と油温から混入水分濃度を求めることができる。
なお、図21,図22のような検量線を求めるに当たっては、新油のみだけでなく、使用状況が異なる使用後油についても測定することが望ましい。
【0091】
前記実施形態の転がりすべり疲労寿命試験方法によると、試験油槽1に溜めた潤滑油5Aに被試験体を構成部品として含む転動部品模擬体3Aを浸漬して動作させ、潤滑油5A中に水を注入し、潤滑油5A中の混入水分濃度を静電容量と油温を測定することで、外乱が少なく、実機を忠実に模擬している。そして、水素脆性起因の早期損傷を積極的に生じさせることで、使用条件に応じた対策要素が見極められるようになる。
【0092】
つぎに、図1の振動異常の異常診断装置51の各具体例を、図23〜図34と共に説明する。
[具体例1]
図23において、振動センサ70は、図1の転動装置1を構成する軸受、例えば図2の主軸用軸受460に設置される。振動センサ70は、軸受の振動を検出し、その検出値をデータ処理装置2における振動異常の異常診断装置51へ出力する。振動センサ70は、前述のように、圧電素子を用いた加速度センサ等によって構成される。
振動異常の異常診断装置51は、ハイパスフィルタ(以下、「HPF(High Pass F11ter)」と称する。)510,550と、実効値演算部520,560と、エンベロープ処理部540と、記憶部580と、診断部590とを含む。実効値演算部520は、請求項で言う「第1の演算部」であり、実効値演算部560は、請求項で言う「第2の演算部」である。
【0093】
HPF510は、軸受の振動の検出値を振動センサ70から受ける。そして、HPF510は、予め定められた周波数よりも高い信号成分を通過させ、低周波成分を遮断する。このHPF510は、軸受の振動波形に含まれる直流成分を除去するために設けられたものである。なお、振動センサ70からの出力が直流成分を含まないものであれば、HPF510を省略してもよい。
【0094】
実効値演算部520は、直流成分が除去された軸受の振動波形をHPF510から受ける。そして、実効値演算部520は、軸受の振動波形の実効値(「RMS(Root Mean
Square)値」とも称される。)を算出し、その算出された振動波形の実効値を記億部580へ出力する。
【0095】
エンベロープ処理部540は、軸受の振動の検出値を振動センサ70から受ける。そして、エンベロープ処理部540は、その受けた検出信号にエンベロープ処理を行なうことによって、軸受の振動波形のエンベロープ波形を生成する。なお、エンベロープ処理部540において演算されるエンベロープ処理には、種々の公知の手法を適用可能であり、一例として、振動センサ70を用いて測定される軸受の振動波形を絶対値に整流し、ローパスフィルタ(LPF(Low Pass Filter))に通すことによって、軸受6の振動波形のエンベロープ波形が生成される。
【0096】
HPF550は、軸受の振動波形のエンベロープ波形をエンベロープ処理部540から受ける。そして、HPF550は、その受けたエンベロープ波形につき、予め定められた周波数よりも高い信号成分を通過させ、低周波成分を遮断する。このHPF550は、エンベロープ波形に含まれる直流成分を除去し、エンベロープ波形の交流成分を抽出するために設けられたものである。
【0097】
実効値演算部560は、直流成分が除去されたエンベロープ波形、すなわちエンベロープ波形の交流成分をHPF550から受ける。そして、実効値演算部560は、その受けたエンベロープ波形の交流成分の実効値(RMS値)を算出し、その算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値を記憶部580へ出力する。
【0098】
記億部580は、実効値演算部520により算出された軸受の振動波形の実効値と、実効値演算部560により算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値とを同期させて時々刻々記憶する。この記億部580は、たとえば、読み書き可能な不揮発性のメモリ等によって構成される。
【0099】
診断部590は、記憶部580に時々刻々記憶された、軸受の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値を記億部580から読出し、その続出された2つの実価値に基づいて軸受の異常を診断する。この異常診断に、しきい値S2を用いる。詳しくは、診断部590は、軸受の振動波形の実効値とエンベロープ波形の交流成分の実効値との時間的変化の推移に基づいて、軸受の異常を診断する。
【0100】
すなわち、実効値演算部520により算出される軸受の振動波形の実効値は、エンベロープ処理を行なっていない生の振動波形の実効値であるので、たとえば、軌道輪の一部にはく離が発生し、そのはく離箇所を転動体が通過するときのみ信号が増加するインパルス的な振動に対しては値の増加が小さく、軌道輪と転動体との接触の面荒れや潤滑不良等に発生する持続的な振動に対しては値の増加が大きくなる。
【0101】
一方、実効値演算部560により算出されるエンベロープ波形の交流成分の実効値は、軌道輪の面荒れや潤滑不良時に発生する持続的な振動に対しては値の増加が小さく、場合によっては増加しないが、インパルス的な振動に対しては値の増加が大きくなる。そこで、この具体的例1では、軸受の振動波形の実効値とエンベロープ波形の交流成分の実効値とを用いることで、一方の実効値だけでは検出できない異常を検出可能とし、より正確な異常診断を実現可能としたものである。
【0102】
図24〜図27は、振動センサ70を用いて測定される軸受の振動波形を示した図である。なお、この図24〜図27では、主軸420(図2)の回転速度が一定のときの振動波形が示されている。
【0103】
図24は、軸受に異常が発生していないときの軸受の振動波形を示した図である。図24を参照して、横軸は時間を示し、縦軸は、振動の大きさを表わす振動度を示す。
【0104】
図25は、軸受の軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生したときに見られる軸受の振動波形を示した図である。図25を参照して、軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生すると、振動度が増加し、かつ、振動度の増加した状態が持続的に生じる。振動波形に目立ったピークは発生していない。したがって、このような振動波形について、軸受に異常が発生していないときの振動波形の実効値(実効値演算部520(図23)の出力)およびエンベロープ波形の交流成分の実効値(実効値演算部560(図23)の出力)と比較すると、エンベロープ処理を行なっていない生の振動波形の実効値が増加し、エンベロープ波形の交流成分の実効値はそれ程増加しない。
【0105】
図26は、軸受の軌道輸にはく離が発生したときの初期段階における軸受の振動波形を示した図である。図26を参照して、はく離異常の初期段階は、軌道輪の一部にはく離が発生している状態であり、そのはく離箇所を転動体が通過するときに大きな振動が発生するので、パルス的な振動が軸の回転に応じて周期的に発生する。はく離箇所以外を転動体が通過しているときは、振動度の増加は小さい。したがって、このような振動波形について、軸受に異常が発生していないときの振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値と比較すると、エンベロープ波形の交流成分の実効値が増加し、生の振動波形の実効値はそれ程増加しない。
【0106】
図27は、はく離異常の末期段階に見られる軸受の振動波形を示した図である。図27を参照して、はく離異常の末期段階は、軌道輪の全域にはく離が転移している状態であり、異常の初期段階に比べて、振動度が全体的に増加し、パルス的な振動の傾向は弱まる。したがって、このような振動波形について、はく離異常の初期段階における振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値と比較すると、生の振動波形の実効値が増加し、エンベロープ波形の交流成分の実効値は低下する。
【0107】
図28は、軸受の軌道輪の一部にはく離が生じ、その後、軌道輪全域にはく離が転移していったときの軸受の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示した図である。なお、この図28および以下に説明する図29では、主軸420の回転速度が一定のときの各実効値の時間的変化が示されている。
【0108】
図28を参照して、曲線k1は、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値の時間的変化を示し、曲線k2は、エンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示す。はく離が発生する前の時刻t1では、振動波形の実効値(kl)およびエンベロープ波形の交流成分の実効値(k2)のいずれも小さい。なお、時刻t1における振動波形は、上述の図24に示した波形のようになる。
【0109】
軸受の軌道輪の一部にはく離が発生すると、図26で説明したように、エンベロープ波形の交流成分の実効値(k2)が大きく増加し、一方、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値(k1)はそれ程増加しない(時刻t2近傍)。
【0110】
さらにその後、軌道輪の全域にはく離が転移すると、図27で説明したように、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値(k1)が大きく増加し、一方、エンベロープ波形の交流成分の実効値(k2)は低下する(時刻t3近傍)。
【0111】
また、図29は、軸受の軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生したときの軸受の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示した図である。図29を参照して、図28と同様に、曲線k1は、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値の時間的変化を示し、曲線k2は、エンベロープ波形の交流成分の実効値の時間的変化を示す。
【0112】
軌道輸の面荒れや潤滑不良が発生する前の時刻t11では、振動波形の実効値(k1)およびエンベロープ波形の交流成分の実効値(k2)のいずれも小さい。なお、時刻t11における振動波形は、上述の図24に示した波形のようになる。
【0113】
軸受の軌道輪の面荒れや潤滑不良が発生すると、図25で説明したように、エンベロープ処理を行なっていない振動波形の実効値(k1)が増加し、一方、エンベロープ波形の交流成分の実効値(k2)の増加は見られない(時刻t12近傍)。
【0114】
このように、エンベロープ処理を行なっていない生の振動波形の実効値(k1)とエンベロープ波形の交流成分の実効値(k2)との時間的変化の推移に基づいて、軸受の異常診断をより正確に行なうことが可能である。
【0115】
このように、この具体例1によれば、振動センサ70を用いて測定された軸受の振動波形の実効値、および振動センサ70を用いて測定された振動波形にエンベロープ処理によって生成されるエンベロープ波形の交流成分の実効値に基づいて、軸受の異常を診断するので、従来の周波数分析による手法に比べてより正確な異常診断を実現することができる。また、不必要なメンテナンスを削減でき、メンテナンスに要するコストを低減することができる。
【0116】
[具体例2]
主軸420(図2)の回転速度が変化すると、主軸用軸受460等の軸受の振動の大きさが変化する。一般的には、主軸の回転速度の増加に伴い軸受の振動度は増加する。そこで、この具体例2では、軸受の振動波形の実効値およびエンベロープ波形の交流成分の実効値を主軸420の回転速度で正規化し、その正規化された各実効値を用いて軸受の異常診断が行われる。
【0117】
図30は、具体例2における振動異常の異常診断手段51の構成を機能的に示す機能ブロック図である。図30を参照して、異常診断手段51は、図23に示した具体例1における異常診断手段51の構成において、修正振動度算出部530と、修正変調度算出部570と、速度関数生成部600とをさらに含む。
【0118】
速度関数生成部600は、回転センサ210による主軸420の回転速度の検出値を受ける。なお、回転センサ210は主軸420の回転位置の検出値を出力し、速度関数生成部600において主軸420の回転速度を算出するものとしてもよい。そして、速度関数生成部600は、実効値演算部120により算出される軸受の振動波形の実効値を主軸420の回転速度Nで正規化するための速度関数A(N)、および実効値演算部560により算出されるエンベロープ波形の交流成分の実効値を主軸420の回転速度Nで正規化するための速度関数B(N)を生成する。一例として、速度関数A(N),B(N)は、次式によって表わされる。
【0119】
A(N)=a×N-0.5 …(1)
B(N)=b×N-0.5 …(2)
ここで、a,bは、実験等によって予め定められる定数であり、異なる値であってもよいし、同じ値であってもよい。
【0120】
修正振動度算出部530は、軸受の振動波形の実効値を実効値演算部520から受け、速度関数A(N)を速度関数生成部600から受ける。そして、修正振動産算出部530は、速度関数A(N)を用いて、実効値演算部520によって算出された振動波形の実効値を主軸420の回転速度で正規化した値(以下「修正振動度」と称する。)を算出する。具体的には、実効値演算部520によって算出された振動波形の実効値vrと速度関数A(N)とを用いて、修正振動度vr*は、次式によって算出される。
【0121】
【数1】

ここで、Vraは、時間0〜TにおけるVrの平均値を示す。
そして、修正振動座算出部530は、式(3)により算出された修正振動座Vr*を記億部580へ出力する。
【0122】
修正変調度算出部570は、エンベロープ波形の交流成分の実効値を実効値演算部560から受け、速度関数B(N)を速度関数生成部600から受ける。そして、修正変調度算出部570は、速度関数B(N)を用いて、実効値演算部560によって算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値を主軸420の回転速度で正規化した値(以下「修正変調度」と称する。)を算出する。具体的には、実効値演算部560によって算出されたエンベロープ波形の交流成分の実効値Veおよび速度関数B(N)を用いて、修正変調度Ve*は、次式によって算出される。
【0123】
【数2】

【0124】
ここで、Veaは、時間0〜TにおけるVeの平均値を示す。修正変調度算出部570は、式(4)により算出された修正変調度Ve*を記憶部580へ出力する。
そして、修正振動度算出部530は、式(3)により算出された修正振動度Vr*を記憶部580へ出力する。
【0125】
そして、時々刻々と記憶部580に記憶された修正振動度Vr*および修正変調度Ve*が診断部590によって読出され、その読出された修正振動度Vr*および修正変調度Ve*の時間的変化の推移に基づいて、診断部590により軸受の異常診断が行なわれる。
【0126】
なお、上記において、回転センサ210は、主軸420に取り付けられてもよいし、軸受に回転センサ210が組み込まれた回転センサ付軸受を診断対象の前記軸受に用いてもよい。
【0127】
以上のように、この具体例2によれば、軸受の振動波形の実効値を回転速度で正規化した修正振動度Vr*と、エンベロープ波形の交流成分の実効値を回転速度で正規化した修正変調度Ve*とに基づいて異常を診断するので、回転速度の変動による外乱を除去してより正確な異常診断を実現することができる。
【0128】
[具体例3]
この具体例3では、さらに正確な異常診断を行なうために、上記の具体例1または具体例2に加えて、周波数分析による異常診断が併用される。
図31は、具体例3における振動異常の異常診断手段51の構成を機能的に示す機能ブロック図である。図31を参照して、異常診断手段51は、図30に示した異常診断手段51の構成において、周波数分析部620,630をさらに含む。
【0129】
周波数分析部620は、直流成分が除去された軸受の振動波形をHPF510から受ける。そして、周波数分析部620は、その受けた軸受の振動波形に対して周波数分析を行ない、その周波数分析結果を記憶部580へ出力する。一例として、周波数分析部620は、HPF510から受ける軸受の振動波形に対して高速フーリエ変換(FFT)処理を行ない、予め設定されたしきい値を超えるピーク周波数を記憶部580へ出力する。
【0130】
また、周波数分析部630は、直流成分が除去されたエンベロープ波形の交流成分をHPF550から受ける。そして、周波数分析部630は、その受けたエンベロープ波形の交流成分に対して周波数分析を行ない、その周波数分析結果を記億部580へ出力する。一例として、周波数分析部630は、HPF350から受けるエンベロープ波形の交流成分に対してFFT処理を行ない、予め設定されたしきい値を超えるピーク周波数を記憶部580へ出力する。
【0131】
そして、診断部590は、修正振動度Vr*および修正変調度Ve*とともに周波数分析部620,630による周波数分析結果を記憶部580から読出し、修正振動度Vr*および修正変調度Ve*の時間的変化の推移とともに周波数分析結果を併用することによって、より信頼性の高い異常診断を行なう。
【0132】
たとえば、周波数分析部620,630による周波数分析結果は、修正振動度Vr*および修正変調度Ve*に基づく異常診断によって異常が検知されたときに異常の発生部位を推定するのに用いることができる。すなわち、軸受内部において損傷が発生すると、損傷部位(内輪、外輪、転動体)に応じて、軸受内部の幾何学的構造および回転速度から理論的に決定される特定の周波数に振動のピークが発生する。そこで、上述した修正振動度Vr*および修正変調度Ve*による異常診断に、周波数分析部620,630による周波数分析結果を併用することによって、異常発生部位をより正確に診断することが可能になる。
【0133】
なお、上記においては、具体例2において周波数分析部620,630を追加するものとしたが、図23に示した具体例1における異常診断手段51に周波数分析部620,630を追加したものであってもよい。
【0134】
以上のように、この具体例3によれば、周波数分析による異常診断が併用されるので、異常診断の信頼性をさらに高めることができるとともに異常発生部位をより正確に診断することができる。
【0135】
[具体例4]
具体例4では、軸受の異常診断の信頼性をさらに高めるために、種々のセンサの検出値が併用される。具体例4は、図1の変位異常の異常診断手段52、内部クラックの異常診断手段53、および不純物の異常診断手段54を設ける代わりに、またはこれらの異常診断手段52〜54に加えて、振動異常の異常診断手段51に、上記変位異常、内部クラック、不純物の異常の機能を付加したものである。
【0136】
図32は、具体例4における振動異常の異常診断部51の構成を機能的に示す機能ブロック図である。図32を参照して、異常診断部51は、図32に示した異常診断部51の構成において、診断部590に代えて診断部590Aを含む。
【0137】
この具体例4では、振動センサ70および回転センサ210に加えて、変位センサ240、AE(Acoustlc Emlssion)センサ250、温度センサ260、および不純物のセンサ270である磁気式鉄粉センサ(以下「磁気式鉄粉センサ270」と称す)の少なくとも一つがさらに備えられる。そして、診断部590Aは、その備えられた変位センサ240、AEセンサ250、温度センサ260および磁気式鉄粉センサ270の少なくとも一つから検出値を受ける。また、診断部590Aは、修正振動度Vr*、修正変調度Ve*および周波数分析部620,630による周波数分析結果を記憶部580から読出す。
【0138】
そして、診部590Aは、修正振動度Vr*、修正変調度Ve*および周波数分析部620,630による周波数分析結果とともに、変位センサ240、AEセンサ250、温度センサ260および磁気式鉄粉センサ270の少なくとも一つから受ける検出値を併用することによって、軸受の異常診断を行なう。
【0139】
変位センサ240は、軸受に取り付けられ、軸受60の外輪に対する内輪の相対変位を検出して診断部590Aへ出力する。振動センサ70の検出値を用いた上記の修正振動度Vr*および修正変調度Ve*ならびに周波数分析手法では、転動面の全体的な摩耗に対する異常の検出が難しいところ、外輪に対する内輪の相対変位を変位センサ240により検出することによって、軸受内部の摩耗を検出することができる。そして、診断部590Aは、変位センサ240からの検出値が予め設定された値(しきい値S3)を超えると、軸受に異常が発生したものと判定する。なお、変位センサ240は外輪および内輪間の相対変位を検出することから、非測定面の精度を高品質に保つ必要がある。
【0140】
AEセンサ250は、軸受に取り付けられ、軸受から発生するアコースティックエミッション波(AE信号)を検出して診断部590Aへ出力する。このAEセンサ250は、軸受を構成する部材の内部クラックの検出に優れており、AEセンサ250を併用することによって、振動センサ70では検出しにくい内部クラックが要因となって発生するはく離異常を早期に検出することが可能となる。そして、診断部590Aは、AEセンサ250により検出されるAE信号の振幅が設定値を超えた回数がしきい値S4を超えたり、検出されたAE信号またはAE信号をエンベロープ処理した信号がしきい値を超えたりすると、軸受に異常が発生したものと判定する。
【0141】
温度センサ260は、軸受に取り付けられ、軸受の温度を検出して診断部590Aへ出力する。一般的に、軸受は、潤滑不良や軸受内部のすきまの過少などによって発熱し、転動面の変色や軟化溶着を経て焼き付き状態になると回転不能になる。そこで、軸受の温度を温度センサ260により検出することによって、潤滑不良等の異常を早期に検出し得る。なお、軸受に取付けられた温度センサ260の代わりに、前記の油温を検出する油温測定手段8を用いても良い。
【0142】
そして、診断部590Aは、修正振動度Vr*および修正変調度Ve*が図29に示したような挙動を示した場合、温度センサ260の検出値をさらに参照することによって潤滑不良等の異常診断を行なう。なお、診断部590Aは、温度センサ260からの検出値が予め設定された値を超えた場合に、それのみをもって軸受に異常が発生したものと判定してもよい。
【0143】
なお、温度センサ260は、たとえば、サーミスタや白金抵抗体、熱電対等によって構成される。
【0144】
磁気式鉄粉センサ270は、軸受の潤滑剤に含まれる鉄粉量を検出し、その検出値を診断部590Aへ出力する。磁気式鉄粉センサ270は、たとえば、磁石を内蔵した電極と棒状電極とによって構成され、軸受の潤滑剤の循環経路に設けられる。そして、磁気式鉄粉センサ270は、潤滑剤中に含まれる鉄粉を磁石によって捕獲し、鉄粉の付着により電極間の電気抵抗が設定値以下になると信号を出力する。すなわち、軸受が摩耗すると、摩耗により生じた鉄粉が潤滑剤に混ざるので、軸受の潤滑剤に含まれる鉄粉量を磁気式鉄粉センサ270により検出することによって軸受60の摩耗を検出することができる。そして、診断部590Aは、磁気式鉄粉センサ270から信号を受けると、軸受60に異常が発生したものと判定する。
【0145】
なお、特に図示しないが、磁気式鉄粉センサ270に代えて、光の透過率により潤滑剤の汚れを検出する光学式センサを用いてもよい。たとえば、光学式センサは、発光素子の光を潤滑油に照射し、受光素子に到達する光の強度の変化によって潤滑油中の軸受磨耗粉の量を検出する。なお、潤滑油中に異物混入がない状態の受光素子の出力値と酸化鉄を混入させたときの受光素子の出力値との比によって光の透過率が定義され、診断部590Aは、その透過率が設定値を超えると、軸受に異常が発生したものと判定する。
【0146】
なお、図32では、変位センサ240、AEセンサ250、温度センサ260および磁気式鉄粉センサ270が示されているが、必ずしも全てを備える必要はなく、少なくとも一つのセンサを備えることによって異常診断の信頼性を高めることができる。
【0147】
この具体例4によれば、以上のように、種々のセンサの検出値を異常診断に併用するので、異常診断の信頼性をさらに高めることができる。特に、変位センサ240を併用することによって軸受内部の摩耗についても診断可能となり、AEセンサ250を併用することによって、内部クラックが要因となって発生するはく離異常を早期に診断可能となる。また、温度センサ260を併用することによって潤滑不良等の異常について早期に診断可能となり、磁気式鉄粉センサ270や光の透過率により潤滑剤の汚れを検出する光学式センサ等を併用することによって軸受の摩耗を診断可能となる。
【0148】
なお、図1の変位異常の異常診断手段52、内部クラックの異常診断手段53、および不純物の異常診断手段54は、いわば、図32の診断部590Aにおける、変位異常の異常診断、内部クラックの異常診断、および不純物の異常診断の各機能を行う手段を、振動異常の異常診断手段51とは独立して設けたものである。
【0149】
図33は、この風力発電装置における転動装置の状態監視装置の拡張例を示す。ナセル490(図2)は高所に設置されるので、この風力発電装置の状態監視装置は、メンテナンス性を考慮すると、本来的にはナセル490から離れた場所に設置するのが望ましい。しかしながら、振動センサ70を用いて測定される軸受の振動波形そのものを遠隔地へ転送することは、転送速度の速い送信手段が必要であり、コスト増を招く。また、上述のようにナセル490が高所に設置されていることを考慮すると、ナセル490から外部への通信手段には、無線通信を用いることが望ましい。
【0150】
そこで、図33の例では、水分濃度の算出、修正振動度Vr*および修正変調度Ve*の算出、並びに周波数分析処理(周波数分析を併用する場合)については、ナセル490内に設けられるデータ処理装置において実行され、算出された水分濃度、修正振動度Vr*および修正変調度Ve*並びに周波数分析結果(ピーク周波数)の各データが無線によってナセル490から外部へ送信される。そして、ナセル490から無線送信されたデータは、インターネットに接続された通信サーバによって受信され、インターネットを介して診断サーバに送信されて軸受の異常診断が実施される。
【0151】
図33は、この遠隔地への通信手段を用いた風力発電装置における転動装置の状態監視装置の全体構成を概略的に示した図である。図33を参照して、風力発電装置の状態監視装置は、風力発電装置400と、通信サーバ310と、インターネット320と、軸受状態診断サーバ330とを備える。
【0152】
風力発電装置400の構成は、図2,3で説明したとおりである。なお、後述のように、この例における風力発電装置400のデータ処理装置においては、診断部に代えて無線通信部が設けられる。そして、風力発電装置400は、振動センサ70(図1)の検出値を用いて上述した修正振動度Vr*および修正変調度Ve*ならびに周波数分析結果(周波数分析を併用する場合)を算出し、その算出結果を無線により通信サーバ310へ出力する。
【0153】
通信サーバ310は、インターネット320に接続される。そして、通信サーバ310は、風力発電装置400から無線により送信されたデータを受信し、その受信したデータをインターネット320を介して軸受状態診断サーバ330へ出力する。軸受状態診断サーバ330は、インターネット320に接続される。そして、軸受状態診断サーバ330は、通信サーバ310からインターネット320を介してデータを受信し、風力発電装置400において算出された修正振動度Vr*および修正変調度Ve*ならびに周波数分析結果(周波数分析を併用する場合)に基づいて、風力発電装置400に設けられる軸受の異常診断を行なう。
【0154】
〔具体例5〕
図34は、図33に示した風力発電装置400に含まれるデータ処理装置における振動異常の異常診断手段51の構成を機能的に示す機能ブロック図である。図34を参照して、異常診断手段51は、図31に示した異常診断手段51の構成において、診断部590に代えて無線通信部280を含む。無線通信部280は、修正振動度Vr*および修正変調度Ve*ならびに周波数分析部620,630による周波数分析結果を記憶部580から続出し、その続出されたデータを無線により通信サーバ310(図33)へ送信する。
【0155】
なお、同図の異常診断手段51のその他の構成は、図31に示した異常診断手段51と同じである。
【0156】
なお、上記においては、ナセル490と通信サーバ310との間は無線通信が行なわれるものとしたが、ナセル490と通信サーバ310との間を有線で接続することも可能である。この場合は、配線が必要となるものの、無線通信装置を別途設ける必要がなくなり、かつ、一般的には有線の方が多くの情報を伝達可能であるので、ナセル490内においてメイン基板上に処理を集約することができる。
【0157】
また、上述した風力発電装置の状態監視装置は、既存の発電監視システムとは独立して構成することが望ましい。このように構成することによって、既存のシステムに変更を加えることなく、風力発電装置の状態監視装置の導入コストを抑制することができる。
【0158】
以上のように、この具体例5によれば、風力発電装置400に設けられる軸受の異常診断を、遠隔地に設けられる軸受状態診断サーバ330において実施するので、メンテナ
ンス負荷およびコストを低減することができる。
【0159】
また、ナセル490は高所に設置されるので作業環境が劣悪であるところ、無線通信部280および通信サーバ310を設けることによりナセル490からの信号出力を無線化したので、ナセル490における配線工事を最小限に抑えることができ、ナセル490を支持するタワー500内の配線工事も不要となる。
【0160】
図1の水分濃度算出手段9は、ナセル490に設置されたデータ処理装置2に設けても良く、また図33の軸受状態診断サーバ330に設けても良い。
【0161】
なお、上記実施形態は、風力発電装置を構成する転動装置1に適用した場合につき説明したが、この発明は、その他の各種の機械を構成する転動装置、例えば、産業機械、工作機械、建築機械等を構成する転動装置における状態監視に適用することができる。
また、今回開示された実施の形態は、すべての点て例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範回内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0162】
1…転動装置
2…データ処理装置
3…転動部品
3A…転動部品模擬体
4…ハウジング
4a…潤滑油貯留槽
5…潤滑油
6…混入水分濃度監視装置
7…静電容量検出手段
7A…静電容量・油温手段
8…油温測定手段
9…水分濃度計算手段
10…混入水分濃度の異常診断手段
10a…異常診断部
11…状態監視手段
26…遊星歯車
51…振動異常の異常診断手段
52…変位異常の異常診断手段
53…内部クラックの異常診断手段
54…不純物の異常診断手段
55…総合異常診断手段
70…振動センサ
210…回転センサ
240…変位センサ
250…AEセンサ
270…不純物のセンサ
400…風力発電装置
420…主軸
430…ブレード
440…増速機
450…発電機
460…主軸用軸受
461…主軸用軸受装置
490…ナセル
500…タワー
510,550…HPF
520,560…実効値演算部、
530…修正振動産算出部
540…エンベロープ処理部
570…修正変調度算出部
580…記憶部
590,590A…診断部
600…速度関数生成部
620,630…周波数分析部
680…無線通信部
S1〜S5…しきい値


























【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視する機能を有する状態監視手段を設け、この状態監視手段は、転動装置の潤滑油中の静電容量および油温をそれぞれ検出する静電容量検出手段および油温測定手段と、これら静電容量検出手段および油温測定手段で検出された静電容量および油温から、定められた規則に従って混入水分濃度を検出する水分濃度計算手段と、前記転動装置を構成する軸受の振動を監視する振動センサと、この振動センサの出力を用いて前記軸受の異常を判定する振動異常の異常診断手段とを有する転動装置の状態監視装置。
【請求項2】
請求項1において、前記転動装置は、前記軸受の潤滑を行う油浴潤滑機構を持ち、前記状態監視手段は、前記軸受の潤滑油を監視する転動装置の状態監視装置。
【請求項3】
請求項1において、前記転動装置は、前記軸受の潤滑を行う循環給油機構を備え、前記状態監視手段は、前記軸受の潤滑油を監視する転動装置の状態監視装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、前記転動装置のハウジングの内部または外部に、前記静電容量検出手段および油温測定手段が設置された静電容量および油温の測定室を設けた転動装置の状態監視装置。
【請求項5】
請求項3において、前記転動装置の循環給油機構に静電容量と油温の測定室を設けた転動装置の状態監視装置。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、前記静電容量と油温の測定室中の潤滑油を攪拌する攪拌する攪拌手段を設けた転動装置の状態監視装置。
【請求項7】
請求項3ないし請求項6のいずれか1項において、前記静電容量と油温の測定室中に溜める潤滑油量を100mL以下とし、かつ変動量を±5mLとする転動装置の状態監視装置。
【請求項8】
請求項3ないし請求項7のいずれか1項において、前記転動装置および静電容量と油温の測定室から潤滑油よりも比重が大きい水や添加物を排出されやすくする手段を設けた転動装置の状態監視装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記静電容量検出手段および油温測定手段として、静電容量と油温を測定できるセンサが一体型となったものを用いた転動装置の状態監視装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記振動異常の異常診断手段は、
前記振動センサを用いて測定された前記振動波形の実効値を算出する第1の演算部と、 前記振動センサを用いて測定された前記振動波形にエンベロープ処理を行なうことによって前記振動波形のエンベロープ波形を生成するエンベロープ処理部と、
前記エンベロープ処理部によって生成された前記エンベロープ波形の交流成分の実効値を算出する第2の演算部と、
前記第1の演算部によって算出された前記振動波形の実効値および前記第2の演算部によって算出された前記エンベロープ波形の交流成分の実効値に基づいて前記転がり軸受の異常を診断する診断部とを含む、転動装置の状態監視装置。
【請求項11】
請求項10において、 前記転がり軸受によって支持される軸または前記転がり軸受の回転速度を検出するための回転センサをさらに備え、
前記振動異常の異常診断手段は、
前記第1の演算部によって算出された前記振動波形の実効値を前記回転速度で正規化した修正振動度を算出する修正振動度算出部と、
前記第2の演算部によって算出された前記エンベロープ波形の交流成分の実効値を前記回転速度で正規化した修正変調度を算出する修正変調度算出部とをさらに含み、
前記診断部は、前記修正振動度および前記修正変調度の時間的変化の推移に基づいて前記転がり軸受の異常を診断する転動装置の状態監視装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記転動装置を構成する軸受における、内外輪間の相対変位を検出する変位計と、この変位計の出力を用いて前記軸受の異常を判定する変位異常の異常診断手段とを設けた転動装置の状態監視装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項において、前記転動装置を構成する軸受における、アコースティックエミッション波を検出するためのAEセンサと、このAEセンサの出力を用いて前記軸受の異常を判定する内部クラック異常の異常診断手段とを設けた転動装置の状態監視装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、潤滑油の中の摩耗粉またはその他の不純物の量を検知するセンサを設け、このセンサの出力を用いて潤滑油の異常を判定する不純物異常の異常診断手段を設けた転動装置の状態監視装置。
【請求項15】
請求項1ないし請求項14のいずれか1項において、前記いずれかの異常診断手段は、前記水分濃度計算手段で検出された混入水分濃度が、定められたしきい値を超えた場合に、異常と判定するしきい値または判定方法を変化させるようにした転動装置の状態監視装置。
【請求項16】
請求項1ないし請求項15のいずれか1項おいて、前記水分濃度計算手段が定められたしきい値に達した場合に異常と判定する混入水分濃度の異常診断手段を設けた転動装置の状態監視装置。
【請求項17】
請求項1ないし請求項16のいずれか1項おいて、前記転動装置は、風力発電装置に設けられた転動装置の状態監視装置。
【請求項18】
請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の転動装置の状態監視装置を用いて前記転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視し、検出された混入水分濃度から異常であるか否かを判定する異常診断を行う方法であって、混入水分濃度による異常診断のしきい値を求める過程として、
注水手段により潤滑油中に水を注入し、静電容量と油温を測定して混入水分濃度を監視し、この測定結果により得られた混入水分濃度から求められる適切な水分量を前記注水手段にフィードバックして混入水分濃度を一定の範囲に保つように水注入量を制御する転がりすべり疲労寿命試験によって、混入水分濃度のしきい値を求め、この求められたしきい値を前記混入水分濃度の異常診断に用いる転動装置の状態監視方法。
【請求項19】
請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の転動装置の状態監視装置を用いて前記転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視し、検出された混入水分濃度から異常であるか否かを判定する異常診断を行う方法であって、混入水分濃度による異常診断のしきい値を求める過程として、
接触する要素間の運動機構によって接触面にすべりを生じさせる転がりすべり疲労寿命試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、その値を前記混入水分濃度の異常診断に用いる転動装置の状態監視方法。
【請求項20】
請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の転動装置の状態監視装置を用いて前記転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視し、検出された混入水分濃度から異常であるか否かを判定する異常診断を行う方法であって、混入水分濃度による異常診断のしきい値を求める過程として、
接触する要素間の接触面に強制的にすべりを生じさせる転がりすべり疲労寿命試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、その値を前記混入水分濃度の異常診断に用いる転動装置の状態監視方法。
【請求項21】
請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の転動装置の状態監視装置を用いて前記転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視し、検出された混入水分濃度から異常であるか否かを判定する異常診断を行う方法であって、混入水分濃度による異常診断のしきい値を求める過程として、
損傷が起きるまで加減速運転させる転がりすべり疲労寿命試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、その値を前記混入水分濃度の異常診断に用いる転動装置の状態監視方法。
【請求項22】
請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の転動装置の状態監視装置を用いて前記転動装置の潤滑油中の混入水分濃度を監視し、検出された混入水分濃度から異常であるか否かを判定する異常診断を行う方法であって、混入水分濃度による異常診断のしきい値を求める過程として、
損傷対象を正極側として接触要素間に電流を流して損傷対象の摩耗を促進するため、スピンドルの支持軸受にセラミック製の転動体を用い、モータと試験部のスピンドルを絶縁する転がりすべり疲労寿命試験によって混入水分濃度のしきい値を求め、その値を前記混入水分濃度の異常診断に用いる転動装置の状態監視方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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