説明

軸荷重付与装置

【課題】試料軸受の剛性を正確に評価することができる軸荷重付与装置を提供する。
【解決手段】軸荷重付与装置10は、回転軸2に与えるための軸方向荷重Faを発生する軸力発生装置11と、内輪が回転軸2に固定された軸力伝達用転がり軸受12と、軸力発生装置11からの軸力を、軸力伝達用転がり軸受12を半径方向に拘束することなく回転軸2に伝達する軸力伝達機構14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受によって回転可能に支持された回転軸に対して軸方向荷重を付与する軸荷重付与装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ころ軸受や玉軸受のような転がり軸受において、回転部の摩擦エネルギーを低減すること、すなわち摩擦トルクを低減することは省エネルギー化・高効率化に寄与し、高剛性を得ることはコンパクト化に寄与する。このため、摩擦トルク低減と高剛性化の両立が可能な転がり軸受の開発が進められている。
【0003】
このような転がり軸受の開発において、摩擦トルクや剛性を測定するために、軸受試験装置が用いられる。図4に、従来の軸受試験装置30の一例を示す。この軸受試験装置30は、回転軸32と、回転軸32を回転駆動するモータ33と、支持軸受36を介して回転軸32に半径方向荷重Frを与える径方向荷重付与装置35と、回転軸32に軸方向荷重Faを与える軸荷重付与装置40とを備える。試験対象となる試料軸受37は、回転軸を支持するものとして設置される。
【0004】
軸荷重付与装置40は、軸方向荷重Faを発生する軸力発生装置(ばね装置やシリンダ装置など)41と、内輪が回転軸32の一端に固定された軸力伝達用転がり軸受42と、軸力発生装置41と軸力伝達用転がり軸受42の外輪との間に配置された軸力伝達部品43とを有する。このような軸荷重付与装置40の構成により、静止(非回転)側である軸力発生装置41からの軸方向荷重Faを、回転側である回転軸32に伝達するようになっている。
【0005】
上記の軸受試験装置30において、モータ33と回転軸32との間にはカップリング(たわみ軸継手)38、39を介してトルク検出器34が配置されており、このトルク検出器34からの測定値をもとに、支持軸受36と軸力伝達用転がり軸受42の摩擦トルク分を考慮することで、試料軸受37の摩擦トルクが得られる。また、図示しない変位計により回転軸32の撓みを測定することで試料軸受37の剛性が得られる。
【0006】
なお、図4に示したような従来の軸受試験装置は、例えば、下記非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】松山博樹、他4名、「高効率デフ用超低トルク円すいころ軸受の開発」、トライボロジー会議予稿集(名古屋2008年9月)、社団法人トライボロジー学会、p.21−22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の軸受試験装置30において、軸荷重付与装置40により回転軸32に軸方向荷重Faを与えるとき、軸荷重付与装置40によって回転軸32を径方向に拘束するため、結果的に径方向荷重付与装置35からの径方向荷重Frの一部を軸荷重付与装置40で支持することになる。このため、試験対象である試料軸受37の剛性を正確に評価することが困難であるという問題がある。
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、試料軸受の剛性を正確に評価することができる軸荷重付与装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するため、本発明の軸荷重付与装置は、以下の技術的手段を採用する。
(1)本発明は、軸受によって回転可能に支持された回転軸に対して軸方向荷重を付与する軸荷重付与装置であって、回転軸に与えるための軸方向荷重を発生する軸力発生装置と、内輪が回転軸に固定された軸力伝達用転がり軸受と、前記軸力発生装置からの軸力を前記軸力伝達用転がり軸受を介して前記回転軸に伝達する軸力伝達機構と、を備え、前記軸力伝達機構は、間隔をおいて平行に向き合う第1部材及び第2部材と、前記第1部材と前記第2部材の間に配置された少なくとも3つの球体と、前記第1部材と前記第2部材とを、互いに平行を保持したまま所定可動範囲内で相対移動可能に連結する連結手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、軸力伝達機構により、軸力発生装置からの軸力を、軸力伝達用転がり軸受を半径方向に拘束することなく回転軸に伝達できるので、回転軸に作用する径方向荷重の一部を軸荷重付与装置で支持することはない。したがって、軸荷重付与装置は回転軸に対して軸方向荷重のみを与えることができるので、試料軸受の剛性を正確に評価することが可能となる。また第1部材と第2部材の間に挟まれた球体の転動によって、第1部材と第2部材が互いに平行を保持したまま相対移動できるので、回転軸に対して径方向のあらゆる方向を非拘束とすることができる。また、少なくとも3つの球体が配置されることにより、第1部材と第2部材を安定して平行に保持できる。
【0012】
(2)また上記の軸荷重付与装置において、前記軸力伝達機構は、前記第1部材と前記第2部材の相対移動に伴う各球体の転動を許容しかつ各球体を前記第1部材と前記第2部材の間に保持するための柔軟材料からなる保持部材を有する。
【0013】
上記の構成によれば、保持部材により、複数の球体を第1部材と第2部材との間で適切な位置に保持でき、かつ、第1部材と第2部材の相対変位に必要な球体の動きを拘束することがない。
【0014】
(3)また上記の軸荷重付与装置において、前記連結手段は、前記複数の球体を囲むように前記第1部材と前記第2部材の間に配置された環状部品と、前記第1部材と前記環状部品とを、軸方向に対して垂直方向に所定可動範囲内で互いに相対移動可能な状態で連結する第1ボルトと、前記第2部材と前記環状部品とを、軸方向に対して垂直方向に所定可動範囲内で互いに相対移動可能な状態で連結する第2ボルトと、を有する。
【0015】
上記の構成により、第1部材と第2部材を互いに平行を保持したまま所定可動範囲内で相対移動可能に連結する手段を、簡単な構成で実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回転軸に対して径方向を拘束することなく軸方向荷重のみを与えることができるので、試料軸受の剛性を正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る軸荷重付与装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る軸荷重付与装置における軸力伝達機構の構成例を示す図である。
【図3】図2(B)におけるIII−III線断面図である。
【図4】従来の軸受試験装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る軸荷重付与装置10の構成を示す図である。軸荷重付与装置10は、軸受試験装置1の一部を構成している。軸受試験装置1は、回転軸2と、回転軸2を回転駆動するモータ3と、支持軸受6を介して回転軸2に半径方向荷重Frを与える径方向荷重付与装置5と、回転軸2に軸方向荷重Faを与える軸荷重付与装置10とを備える。
【0020】
回転軸2は、試験対象である一対の試料軸受7によって回転可能に支持されている。各試料軸受7は、転がり軸受である。試料軸受7となる転がり軸受は、ころ軸受と玉軸受のいずれでもよい。
【0021】
径方向荷重付与装置5は、回転軸2に半径方向荷重Faを与えることが可能であれば特定のものに限定されない。径方向荷重付与装置5として、例えば、ばね装置や油圧シリンダ装置を用いることが可能である。支持軸受6は、図示例では軸方向に間隔をおいて2つ設けられているが、1つでもよい。また各支持軸受6は、転がり軸受である。支持軸受6としての転がり軸受の種類は特に限定されず、ころ軸受、玉軸受のいずれを用いてもよい。
【0022】
軸荷重付与装置10は、軸力発生装置11と、軸力伝達用転がり軸受12と、軸力伝達機構14と、軸力伝達部品13とを備える。
【0023】
軸力発生装置11は、軸方向荷重Faを発生するための装置である。軸力発生装置11として、例えば、ばね装置や油圧シリンダ装置を用いることが可能である。
軸力伝達用転がり軸受12は、内輪と外輪とその間に配置された転動体を有する転がり軸受であり、内輪が回転軸2の一端に固定されている。軸力伝達用転がり軸受12としては、ころ軸受、玉軸受のいずれを用いてもよい。
【0024】
軸力伝達機構14は、軸力伝達用転がり軸受12の外輪と軸力発生装置11との間の軸力伝達経路上に配置され、軸力発生装置11からの軸力Faを回転軸2に伝達する機能を有する。
【0025】
軸力伝達部品13は、軸力伝達機構14と軸力伝達用転がり軸受12の間に配置された部品であり、一端面(図示例で左端面)で軸力伝達機構14から軸力を受け、他端面(図示例で右端面)で軸力伝達用転がり軸受12の外輪に当接して軸力を伝達するようになっている。軸力伝達部品13の他端側は回転軸2の端部(図示例で左端部)及び軸力伝達用転がり軸受12の内輪に接触しないように軸方向に凹んだ形状となっている。
【0026】
上述した軸荷重付与装置10の構成により、静止(非回転)側である軸力発生装置11からの軸方向荷重Faを、回転側である回転軸2に伝達するようになっている。
【0027】
上記の軸受試験装置1において、モータ3と回転軸2との間にはカップリング(たわみ軸継手)8、9を介してトルク検出器4が配置されており、このトルク検出器4からの測定値をもとに、支持軸受6と軸力伝達用転がり軸受12の摩擦トルク分を考慮することで、試料軸受7の摩擦トルクが得られる。また、図示しない変位計により回転軸2の撓みを測定することで試料軸受7の剛性が得られる。なお、カップリング8、9により、モータ3側で回転軸2を半径方向に拘束することを避けられる。
【0028】
図2は、軸力伝達機構14の構成例を示す図であり、(A)は正面図、(B)は側面図である。図2に示すように、軸力伝達機構14は、間隔をおいて平行に向き合う第1部材15及び第2部材16と、第1部材15と第2部材16の間に配置された3つの球体17と、第1部材15と第2部材16とを互いに平行を保持したまま所定可動範囲内で相対移動可能に連結する連結手段18とを有する。この構成により、軸力発生装置11からの軸力を、軸力伝達用転がり軸受12を半径方向に拘束することなく、回転軸に伝達することができる。
【0029】
図2に示した構成例において、第1部材15と第2部材16はともに円板型であるが、球体17を挟む互いに平行に対向する平面を有する限り、形状は限定されない。
【0030】
図2に示した構成例において、球体17は3つ配置されている。各球体17の直径はすべて同じである。球体17の数が1個または2個の場合でも、軸力発生装置11と軸力伝達部品13により第1部材15と第2部材16の姿勢を拘束することで、第1部材15と第2部材16を互いに平行に保持することが可能であるが、軸力伝達機構14自体で第1部材15と第2部材16を安定して平行に保持するため、球体17の数は3以上であるのがよい。
【0031】
第1部材15、第2部材16および球体17の材質は、軸方向荷重Faを伝達するのに支障がない限り、金属、合成樹脂、セラミックスなど適度な硬さを有するものを採用してよい。
【0032】
図2に示した構成例において、連結手段18は、環状部品19と、第1ボルト20と、第2ボルト21とを有する。
環状部品19は、すべての球体17を囲むように第1部材15と第2部材16の間に配置された部品である。図2の構成例において、環状部品19は、第1部材15と第2部材16の形状に合わせて円環状に形成されているが、多角形の環状に形成されてもよい。
【0033】
第1ボルト20は、第1部材15と環状部品19とを、軸方向に対して垂直方向に所定可動範囲内で互いに相対移動可能な状態で連結する。第1ボルト20は、第1部材15を貫通し、環状部品19と螺合している。第1部材15における、第1ボルト20を通す穴は、第1ボルト20の挿入部分の外径よりも大きい。そのため、第1ボルト20は第1部材15に遊びを持った状態で貫通している。
【0034】
第2ボルト21は、第2部材16と環状部品19とを、軸方向に対して垂直方向に所定可動範囲内で互いに相対移動可能な状態で連結する。第2ボルト21は、第2部材16を貫通し、環状部品19と螺合している。第2部材16における、第2ボルト21を通す穴は、第2ボルト21の挿入部分の外径よりも大きい。そのため、第2ボルト21は第2部材16に遊びを持った状態で貫通している。
【0035】
上記のように連結手段18が構成されているので、第1部材15と第2部材16は、互いに平行を維持したまま相対変位が可能となっている。
なお、図2の構成例では、第1ボルト20と第2ボルト21は、第1部材15側と第2部材16側にそれぞれ3つずつ設けられているが、この数に限定されるものではない。
【0036】
図3は、図2(B)におけるIII−III線断面図である。図3に示すように、軸力伝達機構14は、さらに、第1部材15と第2部材16の相対移動に伴う各球体17の転動を許容しかつ各球体17を第1部材15と第2部材16の間に保持するための柔軟材料からなる保持部材22を有している。
【0037】
図3の構成例では、保持部材22は、3つの球体17を保持するため、3つの穴を有している。各穴の直径は、球体17の直径と同じか、わずかに大きく設定するのがよい。柔軟材料としては、スポンジ材がよい。
【0038】
軸受試験において想定される第1部材15と第2部材16の相対変位は、ごくわずか(数mm程度)であるであるので、球体17の転動による移動量も微小である。したがって、保持部材22における球体17を保持する穴が、球体17の直径と同じ大きさ又はわずかに大きい程度の大きさでも、球体17に押されたとき容易に変形するので、第1部材15と第2部材16の相対変位に伴う球体17の移動を実質的に拘束することなく、球体17を保持することが可能である。
【0039】
上述した本発明の実施形態によれば、軸力伝達機構14により、軸力発生装置11からの軸力を、軸力伝達用転がり軸受12を半径方向に拘束することなく、回転軸2に伝達するので、回転軸2に作用する径方向荷重の一部を軸荷重付与装置10で支持することはない。したがって、軸荷重付与装置10は回転軸2に対して軸方向荷重Faのみを与えることができるので、試料軸受7の剛性を正確に評価することが可能となる。
【0040】
第1部材15と第2部材16の間に挟まれた球体17の転動によって、第1部材15と第2部材16が互いに平行を保持したまま相対移動できるので、回転軸2に対して径方向のあらゆる方向を非拘束とすることができる。また、少なくとも3つの球体17が配置されることにより、第1部材15と第2部材16を安定して平行に保持できる。
【0041】
また上述した実施形態によれば、保持部材22により、複数の球体17を第1部材15と第2部材16との間で適切な位置に保持でき、かつ、第1部材15と第2部材16の相対変位に必要な球体17の動きを拘束することがない。
また、連結手段18が環状部品19、第1ボルト20及び第2ボルト21からなるので、第1部材15と第2部材16を互いに平行を保持したまま所定可動範囲内で相対移動可能に連結する機能を有する手段を、簡単な構成で実現できる。
【0042】
なお、上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0043】
1 軸受試験装置
2 回転軸
3 モータ
4 トルク検出器
5 径方向荷重付与装置
6 支持軸受
7 試料軸受
8、9 カップリング
10 軸荷重付与装置
11 軸力発生装置
12 軸力伝達用転がり軸受
13 軸力伝達部品
14 軸力伝達機構
15 第1部材
16 第2部材
17 球体
18 連結手段
19 環状部品
20 第1ボルト
21 第2ボルト
22 保持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受によって回転可能に支持された回転軸に対して軸方向荷重を付与する軸荷重付与装置であって、
回転軸に与えるための軸方向荷重を発生する軸力発生装置と、
内輪が回転軸に固定された軸力伝達用転がり軸受と、
前記軸力発生装置からの軸力を前記回転軸に伝達する軸力伝達機構と、を備え、
前記軸力伝達機構は、
間隔をおいて平行に向き合う第1部材及び第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材の間に配置された少なくとも3つの球体と、
前記第1部材と前記第2部材とを、互いに平行を保持したまま所定可動範囲内で相対移動可能に連結する連結手段と、を有することを特徴とする軸荷重付与装置。
【請求項2】
前記軸力伝達機構は、前記第1部材と前記第2部材の相対移動に伴う各球体の転動を許容しかつ各球体を前記第1部材と前記第2部材の間に保持するための柔軟材料からなる保持部材を有する、請求項1記載の軸荷重付与装置。
【請求項3】
前記連結手段は、
前記複数の球体を囲むように前記第1部材と前記第2部材の間に配置された環状部品と、
前記第1部材と前記環状部品とを、軸方向に対して垂直方向に所定可動範囲内で互いに相対移動可能な状態で連結する第1ボルトと、
前記第2部材と前記環状部品とを、軸方向に対して垂直方向に所定可動範囲内で互いに相対移動可能な状態で連結する第2ボルトと、を有する請求項1又は2記載の軸荷重付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−185680(P2010−185680A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28312(P2009−28312)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】