説明

農業用組成物

【課題】農業作物育成に、より効果の高い農業用組成物の提供。
【解決手段】針葉樹チップ加圧蒸煮液を微生物による発酵液を有効成分とする農業用組成物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農業用組成物に関し、更に詳細には、杉等の針葉樹チップから得ることができ、 圃場の硝酸態窒素の低減や、作物の生育促進、家畜糞尿の分解促進等に有効な農業用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本の森林の手入れが行き届かず、荒廃といわれる状態になっている部分も少なくないことは広く知られている。この理由としては、外国産の木材が安価に手にはいることや、林業従事者の老齢化が進んでいることが挙げられる。
【0003】
また別の理由の1つとしては、プラスチック材料等が広く使用され、森林の手入れに伴って生じる間伐材の利用用途が減少していることも挙げられる。
【0004】
上記のように間伐材の利用用途が限られることは、間伐材の価値がほとんどないこととなり、木材自体の価格の低下とあいまって、森林の間引きを行う動機付けがなくなり、より手入れが行き届かないこととなる。
【0005】
上記のような、林業の問題に鑑みれば、間伐材に新しい価値を見出し、森林の間引きが採算の合う行為にすればよいこととなるが、実質的に間伐材の価値を上げるような技術は、ほとんど報告されていない状況であった。
【0006】
本発明者は、先に針葉樹チップの加圧蒸煮によって、木材の繊維質部分から家畜の粗飼料や、敷料として使用できる材料が得られることを見出し、特許出願した(特許文献1)。しかしながら、これによって副生物として生じる蒸煮液については、有効な利用用途が見出されておらず、またその廃棄処理も問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−121118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の課題は、針葉樹チップの加圧蒸煮によって副生する加圧蒸煮液を有効に利用する新しい技術を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記加圧蒸煮液について、その有効利用に関し、鋭意研究を行っていたところ、当該蒸煮液を特定の微生物を利用して発酵させて得た液を圃場に散布することで硝酸態窒素を減らすことや、作物の生育を促進し、増収を図ることが可能であることを見出した。
【0010】
また、この加圧蒸煮液の発酵液に、他のミネラル成分や木酢液を加えることで、より効果の高い農業用組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、針葉樹チップの加圧蒸煮液の微生物による発酵液を有効成分とする農業用組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の農業用組成物を圃場に散布することで、作物の硝酸態窒素の含有率を著しく低下させることができる。従って、例えば貯蔵用生姜の腐敗を防止し、作物の収量を上げることができる。
【0013】
また、これを圃場に散布することで、作物の生育を促進することができ、作物の増収を図ることができる。
【0014】
更に、家畜の糞尿に散布すれば、その分解を促進することができ、環境の浄化にも貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明で原料として用いられる加圧蒸煮液を製造するための製造プラントを模式的に示す図面である。
【図2】製造プラントで用いる蒸煮缶の正面図である。
【図3】蒸煮缶の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の農業用組成物の出発原料である針葉樹チップの加圧蒸煮液は、杉等の針葉樹のチップ(以下、「チップ」と略称する)を、加圧下蒸煮して得られるものである。
【0017】
原料となるチップは、チッパー等の装置を用い、木材を、6から16cm程度の大きさ、2から3mm度の厚みとしたものである。このチップを得るための木材としては、特に制約はないが、古材でなく、生の木材を利用することが好ましく、特に、杉間伐材を利用することが好ましい。
【0018】
このチップ原料の蒸煮は、3から6気圧、好ましくは、4から6気圧程度の圧力下、120から160℃、好ましくは、150から160℃程度の温度で、60から90分間程度行われる。
【0019】
この蒸煮にあたっては、チップ1,000kgに対し、1時間当たり1,500ないし1,800kg程度の、前記した圧力の水蒸気を供給する。
【0020】
この加圧蒸煮液を製造するための装置としては、上記した条件でチップを加圧蒸煮できるものであれば何れでも良いが、好ましい製造プラントの一例を、図面と共に以下に説明する。
【0021】
図1は、加圧蒸煮液を製造するために用いる製造プラントを模式的に示した図面であり、図2は、この製造プラントで用いる蒸煮缶の正面図、図3は、その右側面図である。図中、1は蒸煮缶である。
【0022】
このプラントで用いる蒸煮缶1の中に収納網籠5が3個収納される。この蒸煮缶は、正面から見ると図2に示すように開閉扉が取り付けられた状態になっている。この蒸煮缶1の側面には、第3図に示すように圧力計4、温度計5を供え、圧力・温度を一定に保つ機能を供えている。また、ボイラーからの蒸気を導入するための蒸気入口3も設けられている。
【0023】
上記のようなプラントによる針葉樹チップの加圧蒸煮で、木材の繊維質部分から家畜の粗飼料や、敷料として使用できる繊維質材料が得られる。そして、蒸煮により得られた残りの液体部分が加圧蒸煮液となる。
【0024】
この加圧蒸煮液は、多量の有機物、少量の無機物および水分を含むものであり、黒褐色ないし茶色の懸濁液として得られる。この加圧蒸煮液には、特にフルクトースの含量が多く、304ないし460mg/L程度含まれている。他に珪素が15.8ないし26.0mg/L程度含まれている。
【0025】
このようにして得られた加圧蒸煮液は、次に微生物を添加し、微生物によって発酵液(発酵蒸煮液)とすることが必要である。この発酵に用いられる微生物としては、枯草菌、糸状菌、トリコデルマ菌、酵母菌、植物性乳酸菌、光合成菌等を挙げることができ、これらは単独または2種以上を組みあわせて使用される。特に好ましい微生物としては、乳酸菌、トリコデルマ菌、酵母菌が挙げられる。
【0026】
この加圧蒸煮液の発酵にあたっては、所定量の微生物を接種した後、20ないし50℃の温度で、12ないし16日間発酵させれば良い。なお、この発酵に当たっては、通気の状態で放置しておけば良いが、期間中数回撹拌することがすることが好ましい。
【0027】
上記した発酵蒸煮液から農業用組成物を製造するには、例えば、そのものを直接水等で 希釈してもよいが、その目的に応じて、他の成分、例えば木酢液、海藻ミネラル成分、塩化マグネシウム(にがり)、アミノ酸等を加えても良い。これら成分は、発酵に先立って加圧蒸煮液に加えておくこともできる。
【0028】
以上のようにして得られる農業用組成物の例としては、硝酸態窒素低減剤、作物成長促進剤、糞尿発酵促進剤等が挙げられる。このうち、硝酸態窒素低減剤の好ましい例を示せば次の通りである。
【0029】
木酢液 30ないし50L
昆布パウダー(乾燥海藻の粉末) 1ないし3kg
乳酸菌 0.8ないし1.2kg
トリコデルマ菌 0.8ないし1.2kg
酵母(ドライイースト) 0.4ないし0.6kg
硫酸マグネシウム 1.5ないし2.5kg
糖蜜 8ないし12kg
水道水 28ないし32L
上記成分を、加圧蒸煮液原液50Lに加え、均一に撹拌した後、20から50℃で、12日から16日間発酵させる。
【実施例】
【0030】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0031】
実 施 例 1
杉蒸煮液の製造:
杉間伐材を、チッパーを用い、厚さ薬3mm程度のチップとした。この原料チップ3,000kgを、図1で示す構造の蒸煮缶(直径2.1m、長さ7.7m)の中の収納網籠に入れ、6気圧、150℃で90分間、1時間当たり1,690kgの水蒸気を用いて蒸煮した。
【0032】
得られた杉蒸煮液は、フルクトースを304〜460mg/Lを含む、さらりとした焦げ茶色の液体であった。
【0033】
実 施 例 2
杉蒸煮液の発酵(1):
実施例1で得られた杉蒸煮液50Lに、乳酸菌(ヨフルトα(ヨフルトフィード社製))2kg、酵母(ドライイースト(九州ソルト社製))500g、微生物(VS43シリーズ;VSとりこ(トリコデルマ菌))1kg、硫酸マグネシウム(JA宮崎中央)2kg、海藻パウダー(昆布を乾燥させたパウダー状のもの;くらこん社製)2kg、グルタミン酸ソーダ(九州ソルト社製)500g、にがり(九州ソルト社製)7L、木酢液(宮崎みどり製薬)40L、糖蜜(第一糖業)10kgおよび水道水35Lを均一に混合した。このものを、30℃で2週間発酵させ、発酵杉蒸煮液を得た。
【0034】
実 施 例 3
硝酸態窒素低減作用:
実施例2で得た発酵杉蒸煮液を、水で700倍に希釈し、農業用組成物液(硝酸態窒素低減液)とした。ショウガを植えつけた、圃場AないしCにおいて、上記組成物液を1週間間隔で、4回、面積当たり、0.2L/mとなる条件で葉面散布した(試験区)。一方、同じ圃場の別の部分では、農業用組成物液を散布しない以外は、試験区と同様にしてショウガを栽培した。葉面散布の翌日に一部のショウガを試料として採取し、根茎中の硝酸濃度を、twinNOз BO341(HORIBA社製)を用いて測定した。この結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
この結果、本発明の農業用組成物液を加えることで、作物(生姜)中の硝酸態窒素の含有率を大幅に下げることができることが明らかとなった。
【0037】
実 施 例 4
作物生育促進作用:
実施例2で得た発酵杉蒸煮液を、水で500倍に希釈し、農業用組成物液(作物生育促進剤)とした。この組成物液の作物生育促進作用を、ミニトマト(アイコミニトマト)を栽培する圃場で試験した。4月にミニトマト苗を植えつけた後、上記組成物液を、5日おきに10a当たり500Lで、土壌灌水を行った。一方、比較区では、本発明の農業用組成物液に代えて、500倍に希釈したEM菌資材((株)EM研究所製)を5日おきに、10a当たり500Lで、土壌灌水を行った。
【0038】
このミニトマトについて、7月から9月の収穫期間で最終的に得られた量を、収穫量とした。この結果を表2に示す。なお、表2中の対照は、前年の同じ時期に収穫されたミニトマト量を示す。
【0039】
【表2】

【0040】
この結果から明らかなように、本発明の農業用組成物液を使用することで、ミニトマトの収穫量が飛躍的に増大し、この効果は、近年行われているいわゆるEM農法に比べても大きなものであった。
【0041】
実 施 例 5
杉蒸煮液の発酵(2):
本発明蒸煮液50Lに、乳酸菌(ヨフルトα(ヨフルトフィード社製))2kg、酵母(ドライイースト)500g、トリコデルマ菌(VS43シリーズ;VSとりこ)1kg、硫酸マグネシウム2kg、海藻パウダー(昆布を乾燥させたパウダー状のもの;くらこん社製)2kg、木酢液10L、糖蜜5kgおよび水道水30Lを均一に混合した。このものを、30℃で2週間発酵させ、発酵杉蒸煮液を得た。
【0042】
実 施 例 6
糞尿分解作用:
試験容器として、1辺90cm×90cm×70cmの鉄製の容器を用い、これに、木質系敷料(ウットンファイバー)80kgを入れて敷き詰め、更に、実施例5で得た発酵杉蒸煮液を水で100倍に希釈したもの(糞尿分解剤)を、6L散布した。
【0043】
次いでこの上に、1週間に1度ずつ養鶏場より鶏糞尿を運び、10kgずつ加えた。この敷料は、週2回撹拌した。比較区では、実験開始時に同量の水を散布した。
【0044】
経時的に、敷料表面のアンモニア濃度をガステック検知管で測定した。この結果を表3に示す。
【0045】


【表3】

【0046】
この結果から、試験区では対照区よりアンモニア濃度が低く、鶏糞尿の分解が進んでいることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の農業用組成物は、硝酸態窒素低下作用、作物生育促進作用、糞尿分解促進作用等を有するので、農業用組成物として農業、畜産の分野において、広く利用可能なものである。
【符号の説明】
【0048】
1………蒸煮缶
2………台車レール
3………ホイストコンベア
4………ホイストクレーン
5………収納網篭
6………レシプロサイロ
7………スクリューコンベア
8………搬送コンベア
9………リファイナー入口
10………リファイナー
11………スロートスクリュー
12………回転刃物・固定刃物部
13………リファイナー出口
14………風送ファン
15………風送管
16………サイクロン
17………集積室
18………蒸気入口
19………圧力計
20………温度計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
針葉樹チップ加圧蒸煮液の微生物による発酵液を有効成分とする農業用組成物。
【請求項2】
加圧蒸煮液の発酵に使用する微生物が、枯草菌、糸状菌、トリコデルマ菌、酵母菌、植物性乳酸菌および光合成菌よりなる群から選ばれた微生物の1種または2種以上である請求項1記載の農業用組成物。
【請求項3】
加圧蒸煮液の発酵を、20ないし50℃の温度で、12ないし16日間行う、請求項1または2記載の農業用組成物。
【請求項4】
硝酸態窒素低減剤である請求項1ないし3の何れかの項記載の農業用組成物。
【請求項5】
作物成長促進剤である請求項1ないし3の何れかの項記載の農業用組成物。
【請求項6】
糞尿発酵促進剤である請求項1ないし3の何れかの項記載の農業用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−102707(P2013−102707A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247007(P2011−247007)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(391039520)宮崎みどり製薬株式会社 (2)
【Fターム(参考)】