説明

迅速な電気化学的分析のための方法および装置

【課題】生理学的サンプル中の被検体の濃度を電気化学的に求める。
【解決手段】(a)前記生理学的サンプルを電気化学的セル内に導入し、(b)第1の極性を有する第1の電圧を前記電気化学的セルに加え、第1の時間−電荷過渡現象を得るために、時間の関数としてセル電荷を測定し、(c)前記第1の極性とは逆の第2の極性を有する第2の電圧を前記電気化学的セルに加え、第2の時間−電荷過渡現象を得るために、時間の関数としてセル電荷を測定し、(d)前記第2の時間−電荷過渡現象から第1の電荷値を計算し、(e)前記第2の時間−電荷過渡現象から第2の電荷値を、前記第1の時間−電荷過渡現象から第3の電荷値を、計算し、(f)前記第2の電荷値および前記第3の電荷値に基づいて、比率を計算し、(g)バックグラウンド値を含まない前記第1の電荷値を前記比率で乗算し、被検体の濃度を導く。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔発明の背景〕
例えば、血液または血液由来の生成物などの生理学的流体中の被検体の検出は、今日の社会でその重要性がますます増加している。被検体を検出する検定には、臨床検査室での検査、家庭での検査、などを含めたさまざまな用途が見出されていて、それらの用途では、その検査結果がさまざまな疾病状態の診断および管理で顕著な役割を果たしている。関心の持たれる被検体には、糖尿病管理のためのグルコース、ケトン、コレステロール(HDL、LDL、および/または、トリグリセリド、が含まれる)、ヘモグロビンA1C、および、それらの類似物などがある。被検体の検出のこのような増加する重要性に対応して、臨床および家庭での使用の両方のためのさまざまな被検体検出手順および装置が開発されてきた。
【0002】
被検体を検出するために用いられるあるタイプの方法は、電気化学的方法である。そのような方法では、水性の液体サンプルが、試験細片内のサンプル反応チャンバ内に配置され、この場合には、試験細片は、2つの電極、すなわち、第1および第2の電極を含む電気化学的セルであり、2つの電極はインピーダンスを有し、インピーダンスを有することが、電極を電流測定のために適切なものにしている。分析されるべき成分は、電極と直接反応するようにされるか、媒介物質と直接または間接的に反応するようにされ、検出されるべき成分、すなわち被検体の濃度に対応する量の酸化可能な(または、還元可能な)物質を形成する。存在する酸化可能な(または、還元可能な)物質の量が、次に、電気化学的に見積もられて、最初のサンプル中に存在する被検体の量に関連付けられる。
【0003】
被検体を定量化するのに用いられるある方法は、酸化可能(還元可能な)な物質を電気化学的に測定する前に、被検体を電気化学的セル内で実質的に枯渇させるものである。しかし、ある種の状態では、このプロセスは枯渇に達するまでに長期間を要することがある。被検体を定量化するための別の方法は、より短い待機時間に依存している。例えば、酸化電流(または、還元電流)が、完全な枯渇のために必要な時間よりも短い時間にわたって測定され、収集されたデータを外挿することによって濃度が計算される。より短い計算手順は功利的な分析(とりわけ、グルコース(血糖値)(glucose)の監視の場合)の要望に合致するが、そのような方法は、望まれる正確さに欠けることがある。したがって、電気化学的セル内の被検体の濃度を迅速かつ正確に測定する方法を開発することが望まれているはずである。
【0004】
〔発明の概要〕
本発明は、大まかに言って、生理学的サンプル中の被検体の濃度を電気化学的に測定する方法および装置を提供する。ある態様では、本明細書に記載さているように、試験細片を用いる方法であり、その方法では、2つの時間−電流過渡現象(例えば、時間の関数としての電流)が、電気化学的試験細片に電気的に接続されたメーターによって測定される。
【0005】
試験細片は、ある実施の形態では、電気化学的セルを含み、その電気化学的セルは、離間して配置された作用電極および対/基準電極と、レドックス(酸化還元)試薬と、を含んでいる。使用時には、生理学的サンプルが反応セル内に導入され、反応セル内では、サンプルがレドックス試薬との反応を開始する。第1の極性を有する第1の電圧が、作用電極と対/基準電極との間に加えられ、時間の関数としての電流が測定されて、第1の時間−電流過渡現象が測定される。次に、第2の時間−電流過渡現象が、セルに加えられた第2の極性を有する第2の電圧に基づいて測定される。
【0006】
第1の実施の形態では、予備的な被検体の濃度が、曲線適合プロセスを用いて第1および第2の時間−電流過渡現象から導かれ、定常状態電流値およびパルス前電流値(pre-pulse current value)(それぞれは、iSSおよびiPPとする)から導かれた補正係数(correction factor)によって補正される。これらの値の比率は、経験的に導かれた方程式中で用いられて、補正係数が計算される。
【0007】
別の実施の形態では、第1および第2の時間−電流過渡現象から収集されたデータの少なくとも一部の積分または合計が、第1および第2の集積的電流値を提供する。これらの集積的電流値は、補正係数を見出すために用いられる。集積的電流値は、より安定的であり、複雑な計算なしに見出すことができる。
【0008】
さらに別の実施の形態では、集積的電流値は、最初の被検体の濃度および補正係数を見出すために用いられる。その方法は、最初の被検体の濃度として集積的電流値を、補正係数の代わりに集積的電流値の比率を、用いる過程を含む。したがって、最初の被検体の濃度および補正係数は、時間集約的な計算を必要とせずに、時間−電流過渡現象のデータから直接、迅速に計算される。さらに、その結果の被検体の濃度は非常に正確である。
【0009】
例えば、その方法は、生理学的サンプルを電気化学的セル内に導入する過程を含み、その電気化学的セルは、離間して配置された関係の第1および第2の電極と、酵素および媒介物質を含んだ試薬層と、を含んでいる。サンプルが所定の位置に配置された状態で、第1の極性を有する第1の電圧が反応セルに加えられる。セル電流が時間の関数として測定され、第1の時間−電流過渡現象が得られる。次に、第2の極性を有する第2の電圧がセルに加えられ、セル電流が時間の関数として測定されて、第2の時間−電流過渡現象が得られる。第1の集積的電流値が第2の時間−電流過渡現象から計算され、その第1の集積的電流値は被検体の濃度に比例する(この第1の集積的電流値は最初の被検体の濃度を提供する)。第2の集積的電流値が第2の時間−電流過渡現象から導かれ、第3の集積的電流値が第1の時間−電流過渡現象から導かれる。これらの集積的電流値は、補正係数を計算するために用いられる。次に、被検体の濃度が、第1の集積的電流値を補正係数で乗算することによって、導かれる。
【0010】
ある態様では、集積的電流値は、時間の関数としての電流の積分である。それに代わって、集積的電流値は、時間の関数としてのセル電流の合計である。さらに別の態様では、集積的電流値は、時間−電流過渡現象の平均のまたは単一の電流値をその時間−電流過渡現象の時間間隔で乗算した積である。第1、第2、および、第3の集積的電流値は、それらの電流値の対応する時間−電流過渡現象のどの部分の間に計算されてもよい。それに代わって、集積的電流値は、ある時間にわたるセルの電荷から見出されてもよい。例えば、集積的電荷値が、集積的電流値と同様に求められ用いられてよい。
【0011】
さらに別の実施の形態では、被検体の濃度は、以下の式、
[C]=(I2 /I3P ×(a×I1 −Z)
に基づいて計算されてよく、ここで、
[C]は、被検体の濃度であり、
1 は、第1の集積的電流値であり、
2 は、第2の集積的電流値であり、
3 は、第3の集積的電流値であり、
Zは、バックグラウンド電流の効果を除去することができるバックグラウンド値である。
その中で方法が実行される電気化学的セルのばらつきを勘定に入れるため、上記の式は、経験的な変数を含んでいる。例えば、比率(I2 /I3 )は、冪指数P個累乗され、I1 は定数aが乗算されている。これらの変数の値は、それぞれの電気化学的セルに対して、または、電気化学的セルの集合に対して、決定されてよい。
【0012】
ある実施の形態では、第1の電圧は、第2の電圧とは逆の極性を有している。例えば、第1の極性は、負であり、第2の極性は、正である。第1の電圧は、約0.0Vから−0.6Vまでの範囲内にあり、第2の電圧は、約0.0Vから0.6Vまでの範囲内にある。ある態様では、第1および第2の電圧は、それぞれ、約1秒から5秒までの範囲内の時間にわたって加えられる。
【0013】
本明細書に開示された方法で測定される被検体は、ある実施の形態では、グルコースである。例えば、全血、血漿、血清、間質液、または、尿、の生理学的サンプル中のグルコースの濃度が、測定される。グルコースの分析で用いられる媒介物質は、例えば、フェリシアニド、フェロセン、フェロセン誘導体、オスミウム・ビピリジル複合体(osmium bipyridyl complexes)、および/または、キノン誘導体、などである。
【0014】
〔発明を実施するための最良の形態〕
本発明の斬新な特徴が、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴および利点は、本発明の原理が用いられた例示的な実施の形態を記載した以下の詳細な説明および添付の図面を参照することによって、より良好に理解されるはずである。
【0015】
本発明の方法および装置は、広範囲のさまざまなサンプル中の広範囲のさまざまな被検体を測定するために使用するのに適していて、とりわけ、特に関心の持たれている被検体がグルコースである、全血中の、または全血由来の生成物中の被検体を測定するために用いるのに適している。本発明は、生理学的サンプル中の被検体の濃度の値を迅速にかつ正確な結果で測定するための方法を提供する。本明細書には、被検体の濃度の値を測定するために用いられる例示的な試験細片の実施形態の構造が記載されている。さらに、本明細書には、時間−電流過渡現象が試験細片に電気的に接続されているメーターによって測定され収集される試験細片の使用方法が記載されている。さらに、本明細書には、時間−電流過渡現象を迅速に処理するために用いられ正確な被検体の濃度の値を出力するアルゴリズムが記載されている。
【0016】
本発明の方法は、原則として、例えば、電気化学的試験細片のような、離間して配置された第1および第2の電極と、試薬層と、を有する、任意の種類の電気化学的セル、と共に用いられてよい。ある態様では、電気化学的試験細片は、薄いスペーサー層によって隔てられた2つの向かい合う電極を含み、それらのコンポーネントは、その中に試薬層が配置されたサンプル反応チャンバまたはゾーンを画定している。
【0017】
図1から図4は、それぞれ、本明細書に記載された方法と共に用いるのに適した例示的な試験細片62の、分解斜視図、底面図、上面図、および、部分断面側面図、である。試験細片62は、第1の電極層66と、スペーサー60と、第2の電極層64と、遠位の部分80と、近位の部分82と、を含んでいる。完全に組み立てられると、試験細片62は、サンプルを受容するためのサンプル反応チャンバ61を有する。ある態様では、サンプル反応チャンバ61は、スペーサー60の切り欠き部分68と、第2の電極層64と、第1の電極層66と、によって形成されている。生理学的流体はポート70を通して導入されてよく、ある実施の形態では、2つのポート70がある。ある態様では、一方のポート70がサンプルの注入口を提供し、もう一方のポート70が換気口として役立つ。
【0018】
例示された実施の形態では、第1の電極層66および第2の電極層64は、互いに面する、すなわち対向する配置で離間している。しかし、当業者には、電極が、同一平面上の構成、または、非同一平面の構成、などを含むさまざまな方式で配置されていてよいことが、理解されるはずである。
【0019】
第1の電極層66および第2の電極層64の一部は、それぞれ、第1の電極166および第2の電極164を提供する。例えば、第1の電極層66および第2の電極層64の反応チャンバ61に露出された部分が、第1の電極166および第2の電極164を提供してよい。さらに、第1の電極層66は、図1に示されているように、第1の電気的接触部67と、U形のノッチ65と、を含んでいてよい。第1の電気的接触部67は、第1の接続トラック76を介して第1の電極166に電気的に接続されていて、メーターとの電気的な接続を確立するために用いられる。第2の電極層64は、第2の電気的接触部63を含み、第2の電気的接触部63は、図1から図3に示されているように、第2の接触トラック78を介して第2の電極164と電気的に接続されている。第2の電気的接触部63は、図1に示されているように、U形のノッチ65を通してメーターによってアクセスされる。当業者は、試験細片62が、メーターと電気的に接続するためのさまざまな代わりの電気的接触構造を含んでいてよいことを、理解するはずである。例えば、米国特許第6,379,513号は、電気化学的セルの接続手段を開示していて、この米国特許は参照することによって本明細書にその全体が組み込まれる。
【0020】
ある実施の形態では、第1および/または第2の電極層は、金、パラジウム、炭素、銀、プラチナ、酸化スズ、イリジウム、インジウム、および、それらの組み合わせ(例えば、インジウムがドープされた酸化スズ)、などの材料で形成された導電性材料であってよい。さらに、電極は、絶縁シート(図示されていない)の表面に導電性材料を、スパッタリング、無電解めっき(electroless plating)、または、スクリーン印刷プロセス、によって、配置することによって、形成されてよい。ある例示的な実施の形態では、第2の電極64は、スパッタリングされた金電極であり、第1の電極66はスパッタリングされたパラジウム電極であってよい。絶縁シートとして用いることができる適切な材料には、例えば、プラスチック(例えば、PET、PETG、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン)、シリコン、セラミック、ガラス、および、それらの組み合わせ、などを含む。
【0021】
試薬層72は、スロットコーティング、チューブの端部から液体を供給することによるコーティング、インクジェット法、スクリーン印刷、のようなプロセスを用いて、反応チャンバ61内に配置されてよい。そのようなプロセスは、例えば、米国特許第6,749,887号、同第6,689,411号、同第6,676,995号、および、同第6,830,934号に記載されていて、これらの米国特許は参照することによって本明細書にその全体が組み込まれる。ある実施の形態では、試薬層72は、第1の電極166上に配置されていて、少なくとも媒介物質および酵素を含んでいる。媒介物質は、2つのレドックス状態のいずれかにあり、それらの状態にある媒介物質は、酸化可能物質および還元可能物質とも呼ばれる。適切な媒介物質の例には、フェリシアニド、フェロセン、フェロセン誘導体、オスミウム・ビピリジル複合体、キノン誘導体、などがある。適切な酵素の例には、グルコースオキシダーゼ、ピロロキノリンキノンコファクター(pyrroloquinoline quinone co-factor)に基づくグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドコファクター(nicotinamide adenine dinucleotide co-factor)に基づくGDH、などがある。試薬層72を形成するのに適している、ある例示的な試薬の配合が、米国特許出願公開第2004/0120848号として公開された、係属中の米国特許出願第10/242,951号、名称「滅菌され較正されたバイオセンサーに基づく医療装置の製造方法(Method for Manufacturing a Sterilized and Calibrated Biosensor-Based Medical Device)」に記載されていて、この米国特許出願は、参照することによって本明細書にその全体が組み込まれる。
【0022】
ある実施の形態では、サンプル反応チャンバ61は、図1から図4に示されているように、第1の電極166、第2の電極164、および、スペーサー60、によって画定されている。より詳しく言うと、第1の電極166および第2の電極164は、サンプル反応チャンバ61の上部および底部を画定し、スペーサー層は、サンプル反応チャンバ61の側壁を画定する。例えば、スペーサー60は、試験細片62のためのサンプル反応チャンバ61を画定する切り欠き領域68を含んでいてよい。
【0023】
スペーサー60の高さは、第1の電極166と第2の電極164との間隔を画定してよい。ある態様では、スペーサー60の高さは、約1μmから500μmまでの範囲内にあり、好ましくは、約10μmから400μmまでの範囲内にあり、より好ましくは、約40μmから200μmまでの範囲内にある。
【0024】
ある実施の形態では、試験細片62は、短い間隔によってのみ離間されるように配置された第1の電極166および第2の電極164を含んでいる。そのようなシナリオでは、レドックスサイクル(redox cycling)が起きる可能性があり、そのレドックスサイクルでは、第1の電極166で生成された酸化された媒介物質が、第2の電極164に向かって拡散し、第2の電極164で還元され、続いて、第1の電極166に向かって拡散して戻り、再び酸化される。
【0025】
第1の電極166または第2の電極164のいずれかが、適用されたメーターの極性に応じて、制限量の媒介物質を酸化または還元する作用電極の機能を実行してよい。例えば、電流制限種が還元された媒介物質の場合、その媒介物質は、第2の電極164に関して十分に正の電圧が加えられている限り、第1の電極166で酸化される。そのように状態では、第1の電極166は、作用電極の機能を果たし、第2の電極164は、対電極/基準電極の機能を果たす。
【0026】
同様に、十分に負の電圧が第2の電極164に関して加えられていると、還元された媒介物質は第2の電極164で酸化される。そのような状態では、第2の電極164は、作用電極の機能を果たし、第1の電極166は、対電極/基準電極の機能を果たす。
【0027】
本発明の方法の第1の過程は、ある量の関心の持たれている生理学的サンプルを、離間して配置された第1および第2の電極と試薬層とを含む電気化学的セル内に、導入する段階を含んでいてよい。その生理学的サンプルは、さまざまなものであってよいが、多くの実施の形態では、概して、全血、または、全血由来の生成物または全血の分画、であり、全血がとりわけ関心を持たれている。生理学的サンプルが、例えば、血液が、ポート70を通してサンプル反応チャンバ61内に添加される。ある態様では、ポート70および/または反応チャンバ61は、毛管作用によって生理学的サンプルがサンプル反応チャンバを満たすような寸法を有している。
【0028】
図5は、第1の電気的接触部67および第2の電気的接触部63と接するメーター100を示した簡単化された模式図であり、第1の電気的接触部67および第2の電気的接触部63は、それぞれ、試験細片62の第1の電極166および第2の電極164と電気的に連通している。メーター100は、第1の電気的接触部63および第2の電気的接触部67(図2および図5に示されているように)を介して、第1の電極164および第2の電極166と電気的に接続されるように構成されている。ある態様では、メーター100は、U形のノッチ65を通して電気的接触部63と接続されている。
【0029】
図5に示されているように、電気的接触部67は、2つの先端部67a,67bを含んでいてよい。ある例示的な実施の形態では、メーター100は、メーター100が試験細片62と接触しているときに回路が完成するように、先端部分67a,67bと個別に接続される。メーター100は、試験細片が所定の位置に配置されていることの合図として、電極層66を通る閉回路を用いてよい。当業者は、メーター100が、試験細片62がメーター100に関して適正に配置されたことを判定するためのさまざまなセンサーおよび回路を用いてよいことを、理解するはずである。
【0030】
ある実施の形態では、第1の電気的接触部67および第2の電気的接触部63は、電圧源Eに接続される。検査を実施するとき、電圧源Eが、最初の時間間隔の間に、第1の電極166および第2の電極164の間に第1の電圧を加える。第1の電圧は、生理学的サンプルがサンプル反応チャンバ内に存在することが検出された直後から加えられてよい。ある態様では、生理学的サンプルは、自動化された方法によって検出されてよく、その方法では、メーターが、サンプルがサンプル反応チャンバ内に添加されたことを示す電圧(米国特許第6,193,873号に記載されている。)、電流、または、キャパシタンス、の変化を監視する。それに代わって、生理学的流体が、手動式の方法で検出されてもよく、その方法では、使用者はサンプル反応チャンバが満たされたことを視覚的に観察し、ボタンを押して検査を開始する。
【0031】
サンプルがセル内に導入された後、第1の極性を有する第1の電圧が、サンプル反応チャンバ61に加えられてよく、その結果の電流が時間の関数として測定される。データ(時間の関数としての電流)の少なくとも一部が第1の時間−電流過渡現象を提供する。第1の電圧は、第2の電極164が作用電極として働き、その作用電極では制限酸化電流が測定されるように、第2の電極164に関して十分に負であってよい。第1の時間間隔が経過した後、電圧源Eは、第2の時間間隔にわたって、第1の電極166および第2の電極164の間に、第2の電圧を加える。第2の電圧は、第2の時間−電流過渡現象を生み出すために時間の関数として測定される電流を生じさせる。ある実施の形態では、第2の電圧は、第1の極性とは逆の第2の極性を有する。例えば、第2の電圧は、第1の電極166が作用電極として働き、その作用電極では制限酸化電流が測定されるように、第2の電極164に関して十分に正であってよい。ある態様では、第1の電圧および第2の電圧は、約−0.6Vから+0.6Vまでの範囲内であってよい。時間−電流過渡現象の時間間隔は、ある実施の形態では、約0.5秒から10秒までの範囲内であってよく、好ましくは、約1秒から5秒までの範囲内であってよい。別の実施の形態では、第1の時間間隔と第2の時間間隔の合計は、約5秒未満である。また、第1の時間間隔は第2の時間間隔と等しい必要はないことも、留意されなければならない。
【0032】
ある実施の形態では、第2の電圧は、第1の電圧が加えられた後に直ちに加えられる。別の実施の形態では、第1の電圧と第2の電圧との間に遅れ(delay)、すなわち、開回路電圧が導入される。さらに別の実施の形態では、生理学的サンプルがサンプル反応チャンバ内で検出された後で、第1の電圧が加えられる前に、遅れが導入される。その遅れは、約0.01秒から3秒までの範囲内にあり、好ましくは、0.05秒から1秒までの範囲内にあり、より好ましくは、0.1秒から0.5秒までの範囲内にある。
【0033】
図6は、3秒間の−0.3Vの第1の電圧とその直後の2秒間の+0.3Vの第2の電圧を有する時間−電圧波形の一例を示している。図7は、第1の時間−電流過渡現象73とその直後の第2の時間−電流過渡現象74として測定された、その結果の測定された電流を示している。
【0034】
第1の実施の形態では、被検体の濃度は、測定された時間−電流過渡現象のデータ(図7)から求められる。方法は、上述したようにして得られた、第1および第2の時間−電流過渡現象を用いて、サンプル中の関心が持たれている被検体に対する、(a)変数γ、および、(b)予備的な被検体の濃度C0 を求めることを含む。γは、


によって定義されることが留意されなければならない。
【0035】
項ippは、第1の時間−電流過渡現象の終わり付近の短い時間間隔にわたる平均電流である。例えば、第1の時間間隔が3秒間の長さである場合、平均電流は、3秒間の長さの時間間隔のうちの1.9秒から2.9秒までの時間間隔の平均電流である。
【0036】
項issは、第2の時間−電流過渡現象に対する定常状態電流の値である。スペーサー60の高さは、ほぼ拡散層の高さ以下であるので、電流は定常状態に向かう傾向がある。項issは、最小時間より長い時間での電流に対して、式2を用いて見積もられてよく、ここで、適切な最小時間は式1から見積もられる。
【0037】
【数1】

【0038】
【数2】

【0039】
ここで、issは、第2の電圧が加えられた後の定常状態電流であり、
iは、時間の関数である測定された電流であり、
Dは、レドックス活性の分子の拡散係数であり、拡散係数は、フィックの第1法則、すなわち、J(x,t)=−DdC(x,t)/dx、によって求められてよく、
Lは、スペーサーの厚みであり、
tは、第2の電圧が加えられてからの時間であり、t=0で第2の電圧のパルスが開始される。
【0040】
サンプル中の関心が持たれている被検体に対する予備的な被検体の濃度C0 は、次の式3を用いて計算される。
【0041】
【数3】

【0042】
ここで、Fは、ファラデー定数、すなわち、9.6485×104 C/モル、であり、
Aは、第1の電極の面積である。
【0043】
式4は、測定された電流を被検体の濃度[C]に変換するために用いられる式を示していて、CFは、補正係数であり、Zは、バックグラウンド電流を勘定に入れた定数である。
【0044】
【数4】

【0045】
項CFは、経験的な式であってよく、γおよびC0 に基づいていて、被検体の濃度[C]をより正確にするものである。CFの数学的な表現の一例が、式5に示されていて、ここで、b、c、およびdは定数である。
【0046】
【数5】

【0047】
したがって、式1から式5は、被検体の濃度を計算するために用いられてよい。しかし、C0 およびissの計算は、数学的に集約的であり、比較的高速のマイクロプロセッサを必要とする。
【0048】
第2の実施の形態は、数学的により単純で、正確な被検体の濃度を提供することができる、被検体の濃度を測定するためのアルゴリズムを提供する。
【0049】
ある態様では、集積的電流値が、補正係数を決定するのに用いられる。これらの集積的電流値は、被検体の濃度をより迅速にそしてより正確に決定できるようにする。さらに、その積分された集積的電流値は、ある一点の時間で測定された電流の値に比べて一般的により頑健(more robust)である。
【0050】
ある例示的な実施の形態では、集積的電流値を用いる方法は、第1の極性を有する第1の電圧を加え、第1の時間−電流過渡現象を得るために時間の関数としてのセル電流を測定する過程と、第2の極性を有する第2の電圧を加え、第2の時間−電流過渡現象を得るために時間の関数としてのセル電流を測定する過程と、を含む。ある態様では、第2の極性は、第1の極性と逆である。第1の時間−電流過渡現象に基づいて、第1の集積的電流値が計算され、第2の時間−電流過渡現象に基づいて、第2の集積的電流値が計算される。第2の集積的電流値を第1の集積的電流値で除算することによって、補正係数の計算に用いられる比率が提供される。補正係数および最初の被検体の濃度の値は、被検体の濃度を計算するために必要な情報を提供する。
【0051】
別の実施の形態では、CFおよびC0 の両方の計算が回避される。出願人は、最初の検体の濃度が、第2のパルスの測定値を短い時間間隔内で積分することによって計算されることを見出した。C0 を計算する代わりに、集積的電流値が代用されてよい。
【0052】
例えば、CFおよびC0 を計算するために、最初に、第1の集積的電流値I1 および第2の集積的電流値I2 が第2の時間−電流過渡現象から計算され、第3の集積的電流値I3 が第1の時間−電流過渡現象から計算される。次に、第3の集積的電流値I3 で除算された第2の集積的電流値I2 を含む比率が計算される。この比率は、補正係数を提供し、一方、第1の集積的電流値I1 が、最初の被検体の濃度の代わりに用いられる値を提供する。当業者は、名称「第1(first)」、「第2(second)」、および、「第3(third)」、は、便宜上選択されたものであり、必ずしも集積的電流値が計算される順序を反映したものではないことを、理解するはずである。
【0053】
結果の正確さを改善し、試験細片のばらつきの影響を減らすために、複数の経験的な変数が用いられてよい。ある態様では、I1 が定数aによって乗算され、変数Zが、aおよびI1 の乗算の積から減算されて、バックグラウンド電流が計上される。別の態様では、比率I2 /I3 が、冪指数P個累乗される。
【0054】
式6は、計算過程を示している。
【0055】
【数6】

【0056】
第1、第2、および、第3の電流値を式6に代入することによって、正確な被検体の濃度が短い時間間隔の間に求められる。定常状態の電流および最初の被検体の濃度の、時間を費やすコンピュータ集約的な計算が回避され、より簡便な分析および低減された検定試験時間が結果としてもたらされる。特に、I1 が電流値の合計または積分に基づいて求められるので、I1 の計算が、反復アルゴリズムを必要とするC0 の計算と比較して、有意に少ない計算能力を必要とする。
【0057】
ある実施の形態では、積分された電流値を用いることが、被検体の濃度の迅速な計算を提供する。例えば、第1および第2の電圧を加え被検体の濃度を計算する方法は、約10秒未満内で実行できる。別の実施の形態では、被検体の濃度は、約6秒未満内で計算でき、さらに別の実施の形態では、被検体の濃度は、約5秒未満内で計算される。
【0058】
第1の集積的電流値I1 および第2の集積的電流値I2 は、ある態様では、第2の時間−電流過渡現象の時間間隔にわたる電流値の積分、第2の時間−電流過渡現象の時間間隔にわたる電流値の合計、または、第2の時間−電流過渡現象の時間間隔の平均のまたは単一の電流値を第2の時間−電流過渡現象の時間間隔で乗算したもの、である。同様に、第3の電流値I3 は、第1の時間−電流過渡現象の時間間隔にわたる電流値の積分、第1の時間−電流過渡現象の時間間隔にわたる電流値の合計、または、第1の時間−電流過渡現象の時間間隔の平均のまたは単一の電流値を第1の時間−電流過渡現象の時間間隔で乗算したもの、である。電流値の合計では、ある範囲の連続的な電流の測定値が、2つのみの電流値から全ての電流値までの範囲内で、一体に合計されてよい。
【0059】
別の実施の形態では、第1の電流値、第2の電流値、および、第3の電流値が、電荷の値で置き換えられる。電流を測定する代わりに、通過した電荷が測定される。通過した全電荷が、積分された時間−電流データと同じ情報を提供する。例えば、通過した電荷は、予め決められた時間間隔にわたって測定され、第1、第2、および/または、第3の電流値の代わりに用いられる。
【0060】
ある態様では、試薬層72が、第1の電極166の表面上に配置され、したがって、試薬層72が生理学的サンプルで溶解された後に第1の電極166の近くにほぼ留まる。その結果、少なくとも最初は、酸化可能物質の主要な部分が第1の電極166の近くに配置されている。ある期間の時間が経過した後に、グルコースの反応によって試薬層72内で生み出された還元された媒介物質は、第1の電極166から離れて第2の電極164へ向けて受動的に拡散する。第1の電圧が加えられている間、第2の電極164は、還元された媒介物質が第1の電極166から拡散して離れるのにしたがって、還元された媒介物質を酸化する。このプロセスの間、第1の電極166と第2の電極164との間の媒介物質の濃度の大きさは、勾配を形成し、その勾配では、還元された媒介物質の濃度は、第1の電極166でより高く、第2の(作用)電極164でより低い。第1の電極166での還元された媒介物質の高い濃度は、勾配の大きさをより急峻にすることになる。この酸化電流の大きさは、この勾配の大きさに比例する。したがって、試薬層72によって生み出されたある量の還元された媒介物質が、還元された媒介物質を第2の電極164へ拡散させる。したがって、電極で測定される電流の変化率が、試薬層72での還元された媒介物質の濃度の変化率、および、グルコースの反応動力学(glucose reaction kinetics)の変化率(すなわち、還元された媒介物質を生み出すグルコースの反応速度)を示している。
【0061】
グルコースの反応動力学は、いくつかの要因に左右され、それらの要因には、スペーサー60の高さ(スペーサー60の高さは、グルコースが試薬層72に到達するために拡散しなければならない最大の距離に関連するため)、生理学的サンプルの粘度、ヘマトクリット濃度、および、温度、などを含む。
【0062】
生理学的サンプルでの粘度の増加は、ヘマトクリット、たんぱく質、脂質の含有率、または、それらの組み合わせ、の増加で起こりうる。ヘマトクリットは、血液サンプル中の赤血球の割合を意味する。典型的には、赤血球の割合が高いほど、血液の粘度が高くなり、結果として、全グルコースのうち赤血球中に存在するグルコースの割合が高くなる。赤血球中のグルコースが試薬層72と反応するためには、グルコースは赤血球の膜を通って移動しなければならない。ある種の条件下では、この移動は、グルコースの反応動力学を制限するほどに比較的遅い。したがって、ヘマトクリットが高いほど、グルコースの反応動力学が遅くなる。粘度は、一般的に、サンプル反応チャンバ61内での全体的な拡散プロセスを減速する。温度が高いほど、より高い温度が関係する移動プロセスを加速するので、サンプル反応チャンバ61内でのグルコースの試薬層72との反応が一般的に加速される。
【0063】
本明細書に開示されている方法では、グルコースの反応動力学は、時間−電流過渡現象を用いることによって説明される。結果は、ヘマトクリットおよび温度により左右されなくなり、グルコースの濃度の決定の正確さおよび精度が改善される。
【0064】
第2の時間−電流過渡現象の大きさは、一般的に、第1の時間−電流過渡現象の大きさの絶対値よりも大きくなる。したがって、比率I2 /I3 は、グルコースの反応がサンプル反応チャンバ61内で進行中の間は、一般的に1よりも大きく、グルコースの反応が完了すると、1になる。したがって、比率I2 /I3 の1からの逸脱が、反応の完了までの程度を示す因子になる。比較的大きい値の比率I2 /I3 はグルコースの反応が完了に到るまでにまだ遠いことを示し、一方、1に近い値の比率I2 /I3 は、グルコースの反応が完了に近いことを示している。したがって、比率I2 /I3 は、グルコースの反応の進行に関する情報を大まかに提供し、ヘマトクリット、粘度、および、温度、のグルコース濃度の測定値への影響を除去するために用いることができる。
【0065】
計算をさらに精密にするために、ひとつまたは複数の較正係数が用いられてよい。例えば、式6に示されているように、比率I2 /I3 は、冪指数P個累乗され、ここでPは特定のロットの試験細片に対して用いられる較正係数である。冪指数Pは、正確さを高め試験時間を短縮できるようにするために、経験的な手段によって、見出された。本発明のある実施の形態では、Pは、約0.2から約4までの範囲内にあり、好ましくは、約0.4から約1までの範囲内にある。
【0066】
式6に示されているように、較正係数aは、切り欠き領域68、および、スペーサー60の高さ、の起こりうるばらつきを勘定に入れるために、用いられてよい。切り欠き領域68のばらつきは、測定された電流の大きさの規則正しいシフトを引き起こすことがある。ある種の環境の下で、製造プロセスは、電極の面積を試験細片のロット毎に変えてしまうことがある。同様に、スペーサー60の高さはロット毎に変わることがある。スペーサー60の高さのばらつきは、測定された電流値に比例した影響を与える。試験細片の各ロットに対して較正係数aを計算することは、電極面積およびスペーサー60の高さのばらつきを補償することを援助する。項aは、試験細片のロットの較正プロセスの間に決算されてよい。
【0067】
ある実施の形態では、式6に示されているように、較正係数Zが、バックグラウンドの変動を勘定に入れるために用いられる。グルコース以外の源から生み出された電流が、バックグラウンド信号に寄与する。例えば、試薬層72が、生理学的サンプルが試験細片に添加される前に、不純物として少量の酸化可能な物質を含んでいると、グルコースの濃度に起因しない測定された電流(バックグラウンド電流)の増加が起こるであろう。この電流の増加は、特定のロットの試験細片に対して、測定された電流の全体で一定のバイアスを引き起こすので、このバイアスが、較正係数Zを用いて補正される。項pおよび項aと同様に、Zも較正プロセスの間に計算されてよい。
【0068】
本明細書に開示された方法が、較正係数p、a、および、Z、を用いて記載されているが、当業者は、それらの因子を用いることが必ずしも必要でないことを理解するはずである。例えば、ある実施の形態では、グルコースの濃度は、p、a、および/または、Z、を用いずに計算されてよい(pおよび/またはaは、1と等しく設定され、Zは、0と等しく設定される)。
【0069】
1 、I2 、I3 、が計算される時間間隔の選択は、特定の種類の試験細片に対して、トレーニングアルゴリズムによって決定される。トレーニングアルゴリズムの間、いくつかの試験細片が、使用者が試験中に遭遇するかもしれないある範囲の条件の下で試験される。それらの条件には、20mg/dlから600mg/dlまでの範囲内のグルコース濃度、0%から70%までの範囲内のヘマトクリット、5℃から45℃までの範囲内の温度、5%相対湿度(%RH)から95%RHまでの範囲内の湿度、内因性または外因性の干渉、などがある。内因性および外因性の干渉の例、および、それらの生理学的濃度範囲が、米国臨床検査標準化委員会(National Committee for Clinical Laboratory Standards)「臨床化学での干渉検査、提案されたガイドラインEP7−P(Interference testing in clinical chemistry; proposed guideline EP7-P)」、ウェイン、パ(Wayne, Pa):NCCLS,1986、という刊行物に見出され、この刊行物は参照によって本明細書に組み込まれる。誤差の標準最小化技術(standard minimization of error techniques)を用いることによって、式6を用いて計算されたグルコース濃度が、正確(例えば、基準測定値の10%以内)に、かつ、精密に(例えば、試験細片間のばらつきが1σで約2%)なるように、I1 、I2 、および、I3 の時間間隔が最適に選択される。当業者には、第1および第2の集積的電流値に対する選択された時間間隔が、等しくても異なっていてもよく、ある実施の形態では、2つの集積的電流値のみが計算されることが、理解されるであろう。その場合、第1の集積的電流値がI1 およびI2 として用いられる。
【0070】
1 、I2 、I3 のための時間間隔が選択された後に、試験細片のロットが較正される。試験細片のロットの例示的な較正方法が、米国特許第6,780,645号に記載されていて、この米国特許は参照することによって本明細書にその全体が組み込まれる。より詳しく言うと、較正係数a、p、および/または、Z、が、試験細片の特定のロットのために計算される。典型的には、複数のドナーからの血液中のある範囲内のグルコース濃度が、そのグルコース試験細片、および、正確で精度の高いことが知られている基準器具、を用いて試験される。本発明の試験細片からの結果と、基準方法からの結果との間の誤差が、最適な組み合わせのa、p、および/または、Z、を見出すことで、最小にされる。ある実施の形態では、較正情報が、試験細片のロットからの試験細片を使用する前に、グルコースメーターへ伝達される。
【0071】
別の実施の形態では、値a、p、および、Z、を調節する因子が、製造中に試験細片のロット間で同じになるように十分厳密に制御される。この実施の形態を成功裡に用いることができる基準は、試験細片の複数のロットが、同じ値のa、p、および、Z、に対して、特定の限界内の応答の正確さを与えることである。この実施の形態は、予め決められた値のa、p、および、Z、を製造中にメーター内に記憶しておけるので、システムが較正情報をメーターに伝達する必要をなくすことができる。この実施の形態が利用性を有するために厳密に制御されなければならない主な変数は、センサーセル形状(電極の面積および間隔)と、グルコースの反応速度が化学反応の速度で制御されるのではなく実質的に質量の輸送によって制御されるよう試薬内に十分に過剰なグルコースの反応活性が存在すること、である。
【0072】
以下の例は、本発明の原理および実施の例である。本発明の範囲および精神内のさまざまな別の実施の形態が、当業者には明らかとなるであろう。
【0073】
[実施例1]
pH6.5の100mMシトラコネート(citraconate)、0.1%の消泡剤(RNA平衡剤)、および、4mM CaCl2 を含む緩衝液が調製された。次に、PQQコファクターを用いるGDHが、緩衝液に加えられて、緩衝液が46mg/mLにされた。次に、PQQが、緩衝液に加えられて、緩衝液がGDHを活性化するようにされた。PQQが緩衝液に加えられて、1モルのGDHに対して少なくとも2モルのPQQが存在するようにされた。PQQを加えた後に、配合物が約1時間にわたってインキュベートされた。次に、フェリシアン化カリウムが混合物に加えられて、混合物が800mMにされた。配合物が、スロットコーティングプロセスによって図1に示されているように第1の電極166の表面上に縞状で配置され、スロットコーティングプロセスは、米国特許第6,749,887号、同第6,689,411号、および、同第6,676,995号に記載されていて、これらの米国特許は参照することによって本明細書に組み込まれる。配合物をコーティングして配合物が試薬層72を形成するように配合物を乾燥させると、スペーサー60および第2の電極164が、試薬層72の上に形成されて、試験細片62が形成される。
【0074】
[実施例2]
いくつかの試験細片62が、約20mg/dLから約600mg/dLまでの広範囲の血液中のグルコース濃度に対して、血液を用いて試験された。23人の異なる血液のドナーがこの試験で用いられた。試験細片62は、5秒間の試験時間を用いて試験された。測定された電流は、式5を用いてグルコース濃度に変換された。バイアスが、基準方法に対して、各試験細片で計算された。低いグルコース濃度(100mg/dL未満)では、絶対バイアスが計算され、高いグルコース濃度(100mg/dL以上)では、百分率バイアスが計算された。図8は、93%のデータ点が10%すなわち10mg/dL以下のバイアスを有することを示している。
【0075】
第1の電圧が、4.0秒間にわたって、試薬がコーティングされた電極がもう一方の電極に関して−300mVとなるように、電極間に加えられ、次に、電圧が反転されて、1秒間にわたって、試薬がコーティングされた電極がもう一方の電極に関して+300mVとなるようにされた。50ミリ秒間隔で電流値が測定され記憶された。この分析を行うために、第1の集積的電流値I1 が、電圧が反転された後の4.8秒と5.0秒との間の記憶された電流値を合計することによって得られた。I2 は、同様に、電圧が反転された後の4.7秒と5.0秒との間の電流値を合計して得られ、I3 は、最初の電圧が加えられた後の1.6秒と4.0秒との間の電流値を合計して得られた。a、p、および、Z、の値は、経験的に決定され、それぞれ、1.29、0.645、および、3.64、であった。
【0076】
図8に示されているように、正確な被検体の濃度を計算するために第1、第2、および、第3の集積的電流値を用いることが、正確な濃度情報を迅速に提供した。
【0077】
等価な構造が、本明細書に図示され説明された構造の代わりに用いられること、本発明の記載された実施の形態が特許請求の範囲に記載された本発明を実施するのに用いられる唯一の構造ではないこと、が認識されるであろう。本発明を実施するのに用いられる可能性のある等価な構造の一例が、米国特許第6,413,410号に記載されていて、この米国特許は参照することによって本明細書にその全体が組み込まれる。本発明を実施するのに用いられる可能性がある等価な構造の別の例が、米国特許第6,612,111号および同第6,284,125号に記載されていて、これらの米国特許は参照することによって本明細書にその全体が組み込まれる。
【0078】
本発明の好ましい実施の形態が本明細書で図示され記載されたが、当業者には、それらの実施の形態が例示のみの目的で提供されたことが明らかであろう。さまざまな変形、変更、および、置き換え、が、本発明から逸脱することなく、当業者はいまや想到するであろう。本明細書に記載された本発明の実施の形態のさまざまな代替物が本発明を実施するために用いられることもあることが理解されなければならない。添付の特許請求の範囲が本発明の範囲を定義すること、および、特許請求の範囲内にある方法および構造、およびそれらの等価物が特許請求の範囲によって保護されること、が意図されている。
【0079】
〔実施の態様〕
この発明の具体的な実施態様は以下の通りである。
(1)生理学的サンプル中の被検体の濃度を求める方法において、
(a)生理学的サンプルを電気化学的セル内に導入する過程であって、
前記電気化学的セルが、
(i)離間して配置された関係の第1および第2の電極、および、
(ii)酵素および媒介物質を含む試薬層、
を具備する、
過程と、
(b)第1の極性を有する第1の電圧を前記電気化学的セルに加え、第1の時間−電流過渡現象を得るために時間の関数としてのセル電流を測定する過程と、
(c)前記第1の極性とは逆の第2の極性を有する第2の電圧を前記電気化学的セルに加え、第2の時間−電流過渡現象を得るために時間の関数としてのセル電流を測定する過程と、
(d)前記第2の時間−電流過渡現象から第1の電流値を計算する過程と、
(e)前記第2の時間−電流過渡現象から第2の電流値を、前記第1の時間−電流過渡現象から第3の電流値を、計算する過程と、
(f)前記第3の電流値で除算された前記第2の電流値を含む比率を計算する過程と、
(g)バックグラウンド値を含まない前記第1の電流値を前記比率で乗算し、被検体の濃度を導く過程と、
を具備する、方法。
(2)実施態様(1)に記載の方法において、
前記過程(b)から前記過程(g)までが、10秒未満で行われる、方法。
(3)実施態様(1)に記載の方法において、
前記過程(b)から前記過程(g)までが、6秒未満で行われる、方法。
(4)実施態様(1)に記載の方法において、
前記比率が、冪指数p個累乗される、方法。
(5)実施態様(1)に記載の方法において、
前記被検体の濃度が、以下の式に基づいて計算され、
[C]=(I2 /I3p ×(a×I1 −Z)
ここで、
[C]は、前記被検体の濃度であり、
1 は、前記第1の電流値であり、
2 は、前記第2の電流値であり、
3 は、前記第3の電流値であり、
Z、p、および、aは、較正係数である、
方法。
(6)実施態様(5)に記載の方法において、
pが、0.2から4までの範囲内にあり、
aが、0.2から4までの範囲内にある、
方法。
(7)実施態様(6)に記載の方法において、
pが1に等しく、
aが1に等しい、
方法。
(8)実施態様(5)に記載の方法において、
pおよびaを経験的に求める過程、
をさらに具備する、方法。
(9)実施態様(1)に記載の方法において、
前記第1の電流値が被検体の濃度に比例する、方法。
(10)実施態様(1)に記載の方法において、
前記第1、第2、および、第3の電流値が、時間の関数としてのセル電流の積分を含む、方法。
【0080】
(11)実施態様(1)に記載の方法において、
前記第1、第2、および、第3の電流値が、セル電流の合計を含む、方法。
(12)実施態様(1)に記載の方法において、
前記被検体がグルコースを含む、方法。
(13)実施態様(1)に記載の方法において、
前記生理学的サンプルが、全血、血漿、血清、間質液、および、尿、からなる群から選択された物質である、方法。
(14)実施態様(1)に記載の方法において、
前記第1および第2の電極が、金、パラジウム、プラチナ、銀、イリジウム、ドープされた酸化スズ、および、炭素、からなる群から選択された導電性材料を含む、方法。
(15)実施態様(14)に記載の方法において、
前記第1の電極が、パラジウムであり、
前記第2の電極が、金である、
方法。
(16)実施態様(14)に記載の方法において、
前記導電性材料が、絶縁シートの表面にスパッタリングされている、方法。
(17)実施態様(1)に記載の方法において、
前記導電性材料が、絶縁シートの表面にスクリーン印刷されている、方法。
(18)実施態様(1)に記載の方法において、
前記試薬層が、第1の電極上に配置されている、方法。
(19)実施態様(18)に記載の方法において、
前記第1の極性が前記第2の電極に関して負であり、
前記第2の極性が前記第2の電極に関して正である、
方法。
(20)実施態様(18)に記載の方法において、
前記第1の電圧が、前記第2の電極に対して、0.0Vからマイナス0.6Vまでの範囲内にあり、
前記第2の電圧が、前記第2の電極に対して、0.0Vから0.6Vまでの範囲内にある、
方法。
【0081】
(21)実施態様(1)に記載の方法において、
前記第2の電圧が、前記第1の電圧が加えられた直後に加えられる、方法。
(22)実施態様(1)に記載の方法において、
前記電気化学的セルが、1μL未満の体積を有する、方法。
(23)実施態様(1)に記載の方法において、
前記酵素が、グルコースオキシダーゼ、メトキサチン(methoxatin)コファクターに基づくグルコースデヒドロゲナーゼ、および、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドコファクターに基づくグルコースデヒドロゲナーゼ、からなる群から選択された物質である、方法。
(24)実施態様(1)に記載の方法において、
前記媒介物質が、フェリシアニド、フェロセン、フェロセン誘導体、オスミウム・ビピリジル複合体、および、キノン誘導体、からなる群から選択された物質である、方法。
(25)実施態様(1)に記載の方法において、
前記第1の電圧が、1秒から5秒までの範囲内の期間にわたって加えられる、方法。
(26)実施態様(1)に記載の方法において、
前記第2の電圧が、1秒から5秒までの範囲内の期間にわたって加えられる、方法。
(27)実施態様(1)に記載の方法において、
前記第2および第3の電流値が、異なる時間間隔の間に計算される、方法。
(28)生理学的サンプル中の被検体の濃度を求める方法において、
(a)生理学的サンプルを電気化学的セル内に導入する過程であって、
前記電気化学的セルが、
(i)離間して配置された関係の第1および第2の電極、および、
(ii)酵素および媒介物質を含む試薬層、
を具備する、
過程と、
(b)第1の極性を有する第1の電圧を前記電気化学的セルに加え、第1の時間−電流過渡現象を得るために時間の関数としてのセル電流を測定する過程と、
(c)前記第1の極性とは逆の第2の極性を有する第2の電圧を前記電気化学的セルに加え、第2の時間−電流過渡現象を得るために時間の関数としてのセル電流を測定する過程と、
(d)前記第1の時間−電流過渡現象から第1の集積的電流値を、前記第2の時間−電流過渡現象から第2の集積的電流値を、計算する過程と、
(e)前記第1の集積的電流値で除算された前記第2の集積的電流値を含む比率を計算する過程と、
(f)前記比率を含む補正係数を計算する過程と、
(g)前記第1および/または第2の時間−電流過渡現象から最初の濃度の値を計算する過程と、
(h)バックグラウンド値を含まない前記最初の濃度の値に前記補正係数を乗算し、前記被検体の濃度を導く過程と、
を具備する、方法。
(29)実施態様(28)に記載の方法において、
前記第1および第2の集積的電流値が、時間の関数としてのセル電流の積分を含む、方法。
(30)実施態様(28)に記載の方法において、
前記第1および第2の集積的電流値が、時間の関数としてのセル電流の合計を含む、方法。
【0082】
(31)実施態様(28)に記載の方法において、
前記被検体が、グルコースである、方法。
(32)実施態様(28)に記載の方法において、
前記生理学的サンプルが、全血、血漿、血清、間質液、および、尿、からなる群から選択された物質である、方法。
(33)生理学的サンプル中の被検体の濃度を求める方法において、
(a)前記生理学的サンプルを電気化学的セル内に導入する過程であって、
前記電気化学的セルが、
(i)離間して配置された関係の第1および第2の電極、および、
(ii)酵素および媒介物質を含む試薬層、
を具備する、
過程と、
(b)第1の極性を有する第1の電圧を前記電気化学的セルに加え、第1の時間−電荷過渡現象を得るために、時間の関数としてセル電荷を測定する過程と、
(c)前記第1の極性とは逆の第2の極性を有する第2の電圧を前記電気化学的セルに加え、第2の時間−電荷過渡現象を得るために、時間の関数としてセル電荷を測定する過程と、
(d)前記第2の時間−電荷過渡現象から第1の電荷値を計算する過程と、
(e)前記第2の時間−電荷過渡現象から第2の電荷値を、前記第1の過渡現象から第3の電荷値を、計算する過程と、
(f)前記第2の電荷値および前記第3の電荷値に基づいて、比率を計算する過程と、
(g)バックグラウンド値を含まない前記第1の電荷値を前記比率で乗算し、被検体の濃度を導く過程と、
を具備する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明で用いるのに適した試験細片の分解斜視図である。
【図2】試験細片の底面図である。
【図3】試験細片の上面図である。
【図4】試験細片の遠位の部分の部分断面側面図である。
【図5】試験細片と電気的に接触するメーターの単純化された概略図である。
【図6】第1の電圧およびその直後の第2の電圧を含む時間−電圧波形の一例を示す図である。
【図7】生理学的サンプルが添加された試験細片を検査するメーターによって発生した時間−電流過渡現象を示す図である。
【図8】グルコース濃度と基準の方法に対するバイアスとの間の関係を示すバイアスグラフである。
【符号の説明】
【0084】
60 スペーサー
61 サンプル反応チャンバ
62 試験細片
63 第2の電気的接触部
64 第2の電極層
65 U形のノッチ
66 第1の電極層
67 第1の電気的接触部
67a,67b 先端部
68 切り欠き領域
70 ポート
72 試薬層
73 第1の時間−電流過渡現象
74 第2の時間−電流過渡現象
76 第1の接続トラック
78 第2の接触トラック
80 遠位の部分
82 近位の部分
100 メーター
164 第2の電極
166 第1の電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理学的サンプル中の被検体の濃度を求める方法において、
(a)前記生理学的サンプルを電気化学的セル内に導入する過程であって、
前記電気化学的セルが、
(i)離間して配置された関係の第1および第2の電極、および、
(ii)酵素および媒介物質を含む試薬層、
を具備する、
過程と、
(b)第1の極性を有する第1の電圧を前記電気化学的セルに加え、第1の時間−電荷過渡現象を得るために、時間の関数としてセル電荷を測定する過程と、
(c)前記第1の極性とは逆の第2の極性を有する第2の電圧を前記電気化学的セルに加え、第2の時間−電荷過渡現象を得るために、時間の関数としてセル電荷を測定する過程と、
(d)前記第2の時間−電荷過渡現象から第1の電荷値を計算する過程と、
(e)前記第2の時間−電荷過渡現象から第2の電荷値を、前記第1の時間−電荷過渡現象から第3の電荷値を、計算する過程と、
(f)前記第2の電荷値および前記第3の電荷値に基づいて、比率を計算する過程と、
(g)バックグラウンド値を含まない前記第1の電荷値を前記比率で乗算し、被検体の濃度を導く過程と、
を具備する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記被検体が、グルコースを含む、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記生理学的サンプルが、全血、血漿、血清、間質液、尿、およびこれらの組み合わせからなる群から選択された物質を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−8151(P2012−8151A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226547(P2011−226547)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【分割の表示】特願2006−267355(P2006−267355)の分割
【原出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(596159500)ライフスキャン・インコーポレイテッド (100)
【氏名又は名称原語表記】Lifescan,Inc.
【住所又は居所原語表記】1000 Gibraltar Drive,Milpitas,California 95035,United States of America