説明

近視矯正のための眼科用レンズ要素

【課題】近視者の眼の網膜の中心窩領域と周辺領域での集束を同時に改善する眼科用レンズ要素及び該眼科用レンズ要素を調製し又は設計する方法を提供すること。
【解決手段】着用者の眼の近視を矯正する眼科用レンズ要素100が開示される。レンズ要素100は、中心ゾーン102及び周辺ゾーン104を含む。中心ゾーン102は、着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を実質的に矯正するための第1の光学的矯正を提供する。周辺ゾーン104は、中心ゾーン102を取り囲み、着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を実質的に矯正するための第2の光学的矯正を提供する。着用者の眼の近視を矯正する眼科用レンズ要素を調製し又は設計するシステム及び方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2005年10月12日出願の豪州特許仮出願2005905621及び2005年11月7日出願の豪州特許仮出願2005906150の優先権を主張する。同出願のそれぞれの内容を、参照により本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、近視を矯正する眼科用レンズ要素及びそのようなレンズ要素を設計する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
焦点の合った視覚を実現するためには、眼は、網膜上に光を集束できなければならない。しかし、網膜上に光を集束させる眼の能力は、主に眼球の形状に依存する。眼球がその「軸上」焦点距離(すなわち眼の光軸に沿った焦点距離)に比べて「長過ぎる」場合、又は眼の外側表面(すなわち角膜)が湾曲し過ぎている場合、その眼は、遠方の物体を網膜上に適切に集束させることができない。同様に、その軸上焦点距離に比べて「短過ぎる」、又は外側表面が平坦過ぎる眼球は、近傍の物体を網膜上に適切に集束させることができない。
【0004】
遠方の物体を網膜の手前で集束させる眼は、近視眼と呼ばれる。結果として生じる症状は、近視と呼ばれ、通常、適切な単焦点レンズを用いて矯正可能である。従来の単焦点レンズは、着用者に装着されると、中心視に関連する近視を矯正する。すなわち、従来の単焦点レンズは、中心窩及び傍中心窩を使用する視覚に関連する近視を矯正する。中心視は、中心窩視と呼ばれることが多い。
【0005】
従来の単焦点レンズは中心視に関連する近視を矯正するが、最近の研究(R.A.Stone及びD.L.Flitcroft著「Ocular Shape and Myopia」(2004)33(1)Annals Academy of Medicine7に概説)では、眼の軸外焦点距離特性は軸上及び近軸焦点距離と異なることが多いことが分かっている。特に、近視眼は、その中心窩領域に比べて、網膜の周辺領域ではより軽い近視を示す傾向がある。この違いは、近視眼の硝子体腔の形状が扁長であることによる可能性がある。
【0006】
実際に、最近の米国の研究(Mutti,D.O.,Sholtz,R.I.,Friedman,N.E.,及びZadnik,K.著「Peripheral refraction and ocular shape in children」,(2000)41 Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.1022)では、子供の近視眼における平均的な(±標準偏差)周辺部の相対屈折は、+0.80±1.29Dの等価球面値をもたらすことが観察された。
【0007】
興味深いことに、ひな鳥及び猿を用いた研究では、中心窩が明瞭なままで、周辺網膜のみで焦点ずれが起こると、中心窩領域の伸長(Josh Wallman及びEarl Smith著「Independent reports to 10th International Myopia Conference」(2004)Cambridge,UK)、並びにそれに起因する近視を引き起こす可能性があることが示されている。
【0008】
しかし残念ながら、従来の近視矯正レンズは、網膜の周辺領域では、明瞭な像又は焦点のずれた像を無作為に生成する。したがって、近視を矯正するための既存の眼科用レンズは、近視の進行に対する刺激を除去できない可能性がある。
【0009】
本明細書での本発明の背景についての議論は、本発明の文脈を説明するために含まれる。この議論は、参照する材料のいずれかが、請求項のいずれかの優先日の時点で、公表され、周知であり、又は共通の一般知識の一部であったということを認めるものとして解釈されるべきでない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、近視者の眼の網膜の中心窩領域と周辺領域での集束を同時に改善する眼科用レンズ要素を提供する。したがって、本発明は、少なくとも主な視覚位置に対して、網膜からぼけを、そのすべてでない場合は大半を除去するために、眼の様々な焦点面を補償する眼科用レンズ要素を対象とする。そのような補償により、近視の進行に対する刺激を除去し、したがって、近視の進行を矯正し、又は少なくとも軽減する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
より具体的には、本発明は、着用者の眼の近視を矯正する眼科用レンズ要素であって、
(a)着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を実質的に矯正するための第1の光学的矯正を提供する中心ゾーンと、
(b)中心ゾーンを取り囲み、着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を実質的に矯正するための第2の光学的矯正を提供する周辺ゾーンとを含む、レンズ要素を提供する。
【0012】
本発明による眼科用レンズ要素は、前面(すなわちレンズ要素の物体側の面)と、裏面(すなわち眼に最も近い面)とを含む。前面及び裏面は、それぞれの光学的矯正を提供するように成形され且つ構成される。言い換えれば、前面及び裏面は、それぞれ中心ゾーン及び周辺ゾーンに屈折力を提供するように成形され且つ構成される。
【0013】
本明細書では、中心ゾーンによって提供される屈折力を「中心ゾーン度数」と呼び、一方周辺ゾーンによって提供される屈折力を「周辺ゾーン度数」と呼ぶこととする。中心ゾーンの屈折力は、中心窩領域に関連する近視を実質的に矯正し、一方周辺ゾーンの屈折力は、周辺領域に関連する近視(又は遠視)を実質的に矯正する。
【0014】
一実施例では、中心ゾーンの屈折力は、度が入っていなくてもよい。そのような実施例は、まだ近視を発症していないが、それでもなお網膜の周辺領域で光学的矯正(たとえば遠視矯正)を必要とする着用者にも適用されることが予期される。
【0015】
前面及び裏面は、任意の適切な形状を有することができる。一実施例では、前面は非球面であり、背面は球形又はトーリックである。
【0016】
別の実施例では、前面は球面であり、背面は非球形又は非トーリックである。
【0017】
さらに別の実施例では、前面と背面はどちらも、非球形又は非トーリックである。そのような実施例では、前面又は裏面は、表面形状の任意の適切な組合せを組み合わせることによって形成することができる。たとえば、非球形又は非トーリックの前面(又は裏面)は、曲率の異なる2つの楕円面を組み合わせることによって形成することができる。
【0018】
さらに別の実施例では、前面はセグメント化された2焦点面であり、背面は球面又はトーリック面である。そのような実施例では、前面は、中心ゾーンに、周辺ゾーンの前面の度数より面度数の低い、円形の、中心に一致させた球形セグメントを含むことができる。
【0019】
中心ゾーン度数及び周辺ゾーン度数は、着用者の異なる光学的矯正要件に一致する。中心ゾーン度数は通常、着用者が必要とする軸上又は近軸光学的矯正に一致し、一方周辺ゾーン度数は通常、着用者が必要とする軸外光学的矯正に一致する。この点に関して、着用者が必要とする「軸外光学的矯正」というとき、眼の光軸が眼科用レンズの光軸に実質的に整合する視覚位置を得るために、網膜の周辺領域での集束を矯正する光学的矯正を意味する。
【0020】
必要な光学的矯正は、第1の屈折力及び第2の屈折力の点から指定することができる。本明細書では、「第1の屈折力」という用語は、中心ゾーンに指定される光学的矯正(通常、軸上又は近軸光学的矯正)を指し、一方「第2の屈折力」という用語は、周辺ゾーンに指定される光学的矯正(通常、軸外光学的矯正)を指す。
【0021】
一実施例では、第2の屈折力は、レンズ要素の前面で測定される、眼科用レンズ要素の光学中心から半径20mmのところでの屈折力であり、且つ、少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである。
【0022】
周辺ゾーンに必要な光学的矯正は、単一の屈折力値又は1組の屈折力値として指定することができる。
【0023】
必要な場合には、周辺ゾーンの光学的矯正が単一の値として指定され、その値は、周辺視の特定の角度に必要な光学的矯正を表すことができる。たとえば、周辺ゾーンに対する光学的矯正の単一の値は、レンズ要素の前面で測定される、中心ゾーンの光学中心から半径20mmのところでの周辺視に対する屈折力の値として指定することができる。別法として、この単一の値は、周辺視のある角度範囲に必要な平均光学的矯正を表すことができる。たとえば、周辺ゾーンに対する光学的矯正の単一の値は、レンズ要素の前面で測定される、中心ゾーンの光学中心から半径10mmから30mmにわたって広がる周辺視に対する屈折力の値として指定することができる。
【0024】
1組の値として指定される場合、その組の中の各値は、周辺視のそれぞれの角度に必要な光学的矯正を表すことができる。そのように指定されるとき、値の各組は、周辺視のある角度範囲に関連する。
【0025】
一実施例では、着用者の軸外光学的矯正要件は、着用者の軸外矯正要件を特徴づける臨床測定の点から表される。任意の適切な技術を使用して、Rxデータ又は超音波A−Scanデータを含むがこれに限定されない、それらの要件を取得することができる。
【0026】
一実施例では、第2の屈折力は、中心ゾーンの屈折力に比べて正の屈折力(すなわち「プラス度数矯正」)を提供する。そのような実施例では、第2の屈折力は、中心ゾーンの屈折力に比べて+0.50D〜+2.00Dの範囲内とすることができる。
【0027】
理解されるように、正の屈折力は、調節ができず、したがって、眼が本来の視野の周辺にある物体を見るために回転するとき、網膜の中心窩でぼけを引き起こす可能性がある。言い換えれば、着用者がレンズの光軸から離れた物体(言い換えれば、軸外の物体)を見るとき、正の屈折力は、中心窩でぼけを引き起こす可能性がある。したがって、一実施例では、中心ゾーンは、着用者が、眼の回転の範囲にわたって眼を回転させることによって、中心窩上でぼけを引き起こすことなく、角度範囲内の物体を見ることができるように、眼の回転の範囲全体で必要な光学的矯正を提供するように成形され且つ寸法設定される。言い換えれば、中心ゾーンは、眼の回転の角度範囲全体にわたって明瞭な中心窩視(以下「中心視」)を維持するために、屈折力が実質的に均一な区域を提供するように成形され且つ寸法設定されることが好ましい。
【0028】
一実施例では、中心ゾーンは、混合ゾーンを介して周辺ゾーンに「混合」し、その結果、平均屈折力が、中心ゾーンの境界線から周辺ゾーン内へ、径方向に外方へ段階的に変化する。別法として、別の実施例では、中心ゾーンと周辺ゾーンの間の遷移は、たとえばセグメント化された2焦点レンズの場合のように、屈折力の段階的な変化をもたらす。
【0029】
中心ゾーンは、任意の適切な形状及び寸法を有することができる。一実施例では、中心ゾーンは、頭を回転させる前の着用者の典型的な眼の回転の範囲に適合させた形状及び寸法を有する開口である。
【0030】
この開口は、異なる方向への眼の回転の頻度に応じて、回転対称又は非対称とすることができる。特に、非対称形状の開口は、異なる視覚方向に対して異なる眼の回転パターンを有する着用者に適している可能性がある。たとえば、ある着用者は、視野の上部又は下部領域に位置する物体を見るために注視方向を調整するときは(頭を動かすのではなく)眼を回転させるが、視野の横方向の異なる領域に位置する物体を見るために注視方向を調整するときは(眼を回転させるのではなく)頭を動かす傾向があるかもしれない。そのような実施例では、中心ゾーンの範囲は、明瞭な近見視力を提供するために、鼻方向の下方でより広くすることができる。理解されるように、異なる着用者が異なる視覚方向に対して異なる眼の回転パターンを有する可能性があるので、異なるレンズ要素は、寸法及び形状の異なる中心ゾーンを提供することができる。
【0031】
本発明はまた、同じベースカーブに対して周辺部の非球面化の異なるレンズ要素を含む眼科用レンズ要素群を提供する。一実施例では、中心ゾーンに比べて+0.50〜+2.00Dの範囲でプラス度数矯正を提供する周辺度数を提供する、特定のベースカーブに関連するレンズ要素群が提供される。数組の群を提供して、1組がベースカーブの一範囲を対象とする複数の群を提供するようにすることもできる。
【0032】
本発明はまた、着用者の眼の近視を矯正する眼科用レンズ要素を調製し又は設計する方法であって、
(a)着用者に対して取得するステップであって、
(i)着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を矯正するために必要な軸上光学的矯正の値、及び
(ii)着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を矯正するために必要な軸外光学的矯正の値を取得するステップと、
(b)軸上及び軸外矯正の値に応じて眼科用レンズ要素を選択し又は設計するステップであって、この眼科用レンズ要素が、
(i)軸上矯正に一致する光学的矯正を提供する中心ゾーン、及び
(ii)中心ゾーンを取り囲み、軸外矯正に一致する光学的矯正を提供する周辺ゾーンを含む、ステップとを含む、方法を提供する。
【0033】
一実施例では、本発明による方法は、
(a)着用者の頭の運動特性及び眼の運動特性を判別するステップと、
(b)中心ゾーンが、眼の回転の角度範囲全体にわたって中心視を維持するために屈折力が実質的に均一な区域を提供するように、着用者の頭の運動特性及び眼の運動特性に応じて中心ゾーンを寸法設定し且つ成形するステップとをさらに含むことができる。
【0034】
本発明の方法実施例は、適切なコンピュータ・ハードウェア及びソフトウェアを含む処理システムによって実行することができる。したがって、本発明はまた、着用者の眼の近視を矯正する眼科用レンズ要素を調製し又は設計するシステムであって、
(a)着用者に対する光学的矯正値を受け入れ又は取得する入力装置であって、この光学的矯正値が、
(i)着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を矯正するために必要な軸上光学的矯正の値、及び
(ii)着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を矯正するために必要な軸外光学的矯正の値を含む、入力装置と、
(b)軸上及び軸外矯正の値に応じて眼科用レンズ要素を選択し又は設計するために、着用者の光学的矯正値を処理する処理装置であって、この眼科用レンズ要素が、
(i)軸上矯正に一致する光学的矯正を提供する中心ゾーン、及び
(ii)中心ゾーンを取り囲み、軸外矯正に一致する光学的矯正を提供する周辺ゾーンを含む、処理装置とを含む、システムを提供する。
【0035】
一実施例では、本発明によるシステムは、
(a)着用者に対する頭の運動特性及び眼の運動特性を受け入れ又は取得する入力装置と、
(b)中心ゾーンが、眼の回転の角度範囲全体にわたって中心視を維持するために屈折力が実質的に均一な区域を提供するように、着用者の頭の運動特性及び眼の運動特性に応じて中心ゾーンの寸法及び形状を修正する処理装置とをさらに含む。
【0036】
本発明の眼科用レンズは、近視の進行の起こりうる誘因を取り除き、又は少なくとも軽減すると想定される。したがって、本発明はまた、近視者の近視の進行を軽減する方法であって、近視者に対して、一対の眼科用レンズ要素を有する眼鏡を提供するステップを含み、それぞれの眼に対する各レンズ要素が、
(a)それぞれの眼の中心窩領域に関連する近視を矯正するための軸上矯正に一致する光学的矯正を提供する中心ゾーンと、
(b)中心ゾーンを取り囲み、それぞれの眼の周辺領域に関連する近視又は遠視を矯正するための光学的矯正を提供する周辺ゾーンとを含む、方法を提供する。
【0037】
本発明はまた、着用者の眼の近視を矯正し又は近視の進行を遅らせる眼科用レンズ要素であって、眼の回転の角度範囲全体にわたって明瞭な中心窩視覚を提供する中心ゾーンと、中心ゾーンを取り囲み、着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を実質的に矯正するための、中心ゾーンに比べてプラス度数光学的矯正を提供する周辺ゾーンとを含む、レンズ要素を提供する。そのような実施例では、中心ゾーンは、度が入っていない、又は実質的に度が入っていない屈折力を提供することができる。屈折力に度が入っていない中心ゾーンを含む一実施例は、中心窩視に対する光学的矯正を必要としない若年者の近視の進行を遅らせるのに適用されることが予期される。
【0038】
本発明の一実施例による眼科用レンズ要素は、任意の適切な材料から形成することができる。高分子材料を使用することができる。高分子材料は、任意の適切なタイプとすることができ、たとえば、熱可塑性又は熱硬化性材料を含むことができる。ジアリル・グリコール・カーボネート・タイプの材料、たとえばCR−39(PPG Industries)を使用することができる。
【0039】
高分子品は、たとえば、米国特許第4912155号、米国特許出願07/781392、豪州特許出願50581/93、50582/93、81216/87、74160/91、及び欧州特許第453159A2号明細書に記載の、架橋可能な高分子成型組成物から形成することができる。同特許の開示全体を、参照により本明細書に組み込む。
【0040】
高分子材料は、色素、好ましくはフォトクロミック色素を含むことができ、この色素を、たとえば、高分子材料を生成するために使用される単量体染料に添加することができる。
【0041】
本発明の一実施例による眼科用レンズ要素はさらに、エレクトロクロミック・コーティングを含む、標準的な追加のコーティングを前面又は裏面に含むことができる。
【0042】
レンズ前面は、たとえば米国特許第5704692号に記載のタイプの反射防止(AR)コーティングを含むことができる。同特許の開示全体を、参照により本明細書に組み込む。
【0043】
レンズ前面は、たとえば米国特許第4954591号に記載のタイプの耐磨耗性コーティングを含むことができる。同特許の開示全体を、参照により本明細書に組み込む。
【0044】
前面及び裏面はさらに、抑制剤、たとえば前述のサーモクロミック及びフォトクロミック色素を含む色素、分極剤、UV安定剤、並びに屈折率を変化させることができる材料などの、成型組成物に従来使用される1つ又は複数の添加物を含むことができる。
【0045】
本発明の一実施例の説明に移る前に、上記で使用した言語及び本明細書全体にわたって使用する言語のいくつかについて、ある程度説明するべきである。
【0046】
たとえば、本明細書での「眼科用レンズ要素」という用語への参照は、眼科技術で利用される個々の屈折光学体のすべての形式を指し、眼鏡レンズ、眼鏡レンズ用レンズウエハ、及び眼鏡レンズを形成するためには特定の着用者の処方に合わせてさらなる仕上げを必要とする半仕上げのレンズ半完成品を含むがこれらに限定されるものではない。
【0047】
さらに、「面非点収差」という用語への参照に関しては、そのような参照は、眼科用レンズ要素の曲率が、表面上の一点でレンズの表面に対して垂直な交差する面の間で異なる度合いの測定単位を指すものとして理解されたい。
【0048】
本明細書全体にわたって、「中心窩領域」という用語への参照は、中心窩を含み且つ傍中心窩によって囲まれた網膜の一領域を指すものとして理解されたい。
【0049】
本明細書全体にわたって、「周辺領域」という用語への参照は、中心窩領域の外部にあり且つ中心窩領域を取り囲む網膜の一領域を指すものとして理解されたい。
【0050】
本発明による眼科用レンズ要素は、中心視と周辺視の両方を、同時に且つ実質的に矯正する。このタイプの矯正は、近視者、特に若年の近視者の近視の進行の推定される誘因を取り除き、又は少なくとも遅らせることが予期される。
【0051】
多くの近視眼の形状は、ほぼ扁長であるように見える。これは、中心窩領域内では網膜上に像を集束させる通常の単焦点レンズが、周辺領域内では網膜の後ろに像を集束させるということを示唆する。したがって、周辺網膜上で像を集束させるために、本発明は、レンズ周辺部に相対プラス度数を追加する。
【0052】
本発明によるレンズ要素の好ましい一実施例は、周辺ゾーンが、中心ゾーンの屈折力に比べて正の屈折力(すなわち「プラス度数矯正」)を提供する、眼科用レンズ要素を提供する。
【0053】
しかし、正の屈折力は調節できないので、眼が本来の視野の周辺にある物体を見るために回転するとき、網膜の中心窩上にぼけを引き起こす。これを改善するために、本発明の一実施例は、着用者の典型的な眼の回転に一致する開口全体で明瞭な中心視を着用者に提供する光学的矯正を提供するように寸法設定され且つ成形された中心ゾーンを提供する。言い換えれば、中心ゾーンは、着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を矯正するための第1の光学的矯正を提供し、且つ着用者の典型的な頭の運動及び着用者に特徴的な眼の運動に基づいて適合され又は選択された形状及び寸法を有する。
【0054】
したがって、好ましい実施例は、レンズ要素の中心だけでなく、頭を回転させる前の典型的な眼の回転の範囲に相当する区域内でも、正しい中心窩矯正を提供する。
【0055】
Muttら(2000)によって見出されたように、近視の周辺部の屈折で散乱が大きいということから、着用者が必要とするプラス度数矯正のレベルは異なる。したがって、本発明の一連の実施例では、複数の周辺非球面化が、+0.50〜+2.00Dのプラス度数矯正の範囲で提供される。たとえば、ある一連の実施例では、矯正の閾値までの周辺部の屈折を示す人々に調製されるべき0.5、1.0、1.50、及び2.0Dという4つの異なる周辺非球面化が、各ベースカーブに対して提供される。
次に本発明について、添付の図面に示す様々な実施例に関して説明する。しかし、以下の説明は上記の説明の一般性を限定するためのものではないことが理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1−A】本発明の第1の実施例による眼科用レンズ要素の正面図である。
【図1−B】図1−Aに示す眼科用レンズ要素の断面図である。
【図2−A】図1−Aに示すレンズ要素の前面平均度数を示すグラフである。
【図2−B】図1−Aに示すレンズ要素の前面非点収差を示すグラフである。
【図2−C】図1−Aに示すレンズ要素の接線及びサジタル面度数を示すグラフである。
【図3−A】本発明の第2の実施例による眼科用レンズ要素の正面図である。
【図3−B】図3−Aに示す眼科用レンズ要素の断面図である。
【図4−A】図3−Aに示すレンズ要素の前面平均度数を示すグラフである。
【図4−B】図3−Aに示すレンズ要素の前面非点収差を示すグラフである。
【図4−C】図3−Aに示すレンズ要素の接線及びサジタル面度数を示すグラフである。
【図5−A】本発明の第3の実施例による眼科用レンズ要素の正面図である。
【図5−B】図5−Aに示す眼科用レンズ要素の断面図である。
【図6−A】図5−Aに示すレンズ要素の前面平均度数を示すグラフである。
【図6−B】図5−Aに示すレンズ要素の前面非点収差を示すグラフである。
【図6−C】図5−Aに示すレンズ要素の接線及びサジタル面度数を示すグラフである。
【図7−A】本発明の第4の実施例による眼科用レンズ要素の正面図である。
【図7−B】図5−Aに示す眼科用レンズ要素の断面図である。
【図8−A】図7−Aに示すレンズ要素の前面平均度数を示すグラフである。
【図8−B】図7−Aに示すレンズ要素の前面非点収差を示すグラフである。
【図8−C】図7−Aに示すレンズ要素の接線及びサジタル面度数を示すグラフである。
【図8−D】図7Aに示す眼科用レンズ要素に対する一連の等高線図である。
【図9−A】本発明の第5の実施例による眼科用レンズ要素の正面図である。
【図9−B】図9−Aに示す眼科用レンズ要素の断面図である。
【図10−A】図9−Aに示すレンズ要素の前面平均度数を示すグラフである。
【図10−B】図9−Aに示すレンズ要素の前面非点収差を示すグラフである。
【図10−C】図9−Aに示すレンズ要素の接線及びサジタル面度数を示すグラフである。
【図11】中心ゾーンが非対称形の眼科用レンズ要素の一実施例に対する一連の等高線図である。
【図12】本発明の一方法実施例の簡略化した流れ図である。
【図13】本発明の一システム実施例の簡略化したブロック図である。
【実施例】
【0057】
「実施例1」
図1−Aは、中心度数−3.00D及び直径60mmの、本発明の一実施例による眼科用レンズ要素100を示す。図1−Bは、断面A−A’に沿ったレンズ要素100の側面図を示すが、眼鏡フレームにはめ込むために直径50mmに切り取ったものを示す。
【0058】
図示の眼科用レンズ要素100は、中心ゾーン102及び周辺ゾーン104を含む非球面単焦点レンズ100である。図1−Bに示すように、レンズ100はまた、前面108及び裏面110を含む。図示の実施例では、中心ゾーン102は、0.5Dの等高線又は面非点収差によって囲まれたゾーンである。この場合には、中心ゾーン102は、径方向に外方へ、半径(RP1)約11mmのところに位置する外側境界線まで広がる。
【0059】
中心ゾーン102では、前面108は、(屈折率が1.53のレンズ材料で)3.00Dの中心頂部曲率を提供する。この中心頂部は、外側へ半径(R)約5mmのところまで広がる。その半径は、約10°の眼の回転に対応する。前面108はまた、周辺ゾーン104内で、半径(RP2)約30mmのところで約3.5Dの周辺部平均曲率を提供する。
【0060】
この点に関して、本明細書全体にわたって使用する場合、「周辺部平均曲率」という用語への参照は、周辺ゾーンのうちの混合ゾーンの外側に位置する部分の曲率を指すものとして理解されたい。
【0061】
図示のように、眼科用レンズ要素100はまた、「混合ゾーン」106(影付き領域として示す)を含む。混合ゾーン106は、周辺ゾーン104内に位置して示され、中心ゾーン102の外側境界線での屈折力から、周辺ゾーン104内の中間半径(R)までの、屈折力の段階的な遷移を提供する。図示の実施例では、混合ゾーンは、レンズ要素100の光学中心から半径(RP1)約11mmのところの面非点収差0.5Dの内側等高線と、レンズ要素100の光学中心から半径(R)約17mmのところの面非点収差0.5Dの外側等高線とによって囲まれる。
【0062】
したがって、図示の実施例では、混合ゾーンの半径方向の長さは、R−RP1である。図1−Aに示すように、混合ゾーンの半径方向の長さは、中心ゾーン102の半径(RP1)より短い。
【0063】
図1−A及び図1−Bに示す実施例では、眼科用レンズ要素100の前面108の形状は、曲率の異なる2つの楕円面を重み付け関数M(r)で結合することによって構成され、且つ以下の面高さ関数によって画定される。
(x,y)=M(r)g(λ)+(1−M(r))g(λ)
上式で、
【0064】
【数1】

【0065】
及び
【0066】
【数2】

【0067】
であり、パラメータR,R>0、及びa,b,m,n,p,t≧0である。r=0の場合、M(r)=1及びz=g(λ)であり、これは、中心が(0、0、R)で、x、y、及びz方向の半軸がそれぞれ
【数3】


、及びRの楕円面である。類似の論証を、rの大きな値に適用することができる。ここでは、M(r)≒0、したがってz≒g(λ)であり、これを第2の楕円面とする。その中間のr値の場合、M(r)関数は、2つの楕円面を混合する。M(r)は、任意の適切な重み付け関数とすることができる。
【0068】
本実施例では、レンズ面の形状は、以下のパラメータによって制御される。
【0069】
・R:レンズの中心の曲率半径(以下「頂部半径」)。
【0070】
・R:レンズの側頭の縁部の方への曲率半径(以下「周辺部半径」)。
【0071】
・a,b:g及びg内のx軸及びy軸に対する倍率。この実施例では、a=b=1であり、したがって回転対称面は、曲率半径がそれぞれR及びRである2つの球面g及びgを混合することから画定される。別法として、b<1に対する値を選択すると、その結果、y方向により平坦な非回転対称面(楕円形状の面)が得られる。
【0072】
・m,n,p:関数M(r)、並びに中心ゾーンと周辺ゾーンの間の遷移がどこで且つどれだけ急速に発生するかを画定するパラメータ。またこれらのパラメータの値を変化させて、周辺ゾーン内に臍輪若しくは臍帯を配置し、又は表面形状の中心の臍帯球面領域の寸法を制御することもできる。
【0073】
・t:rが増大するにつれて、周辺ゾーンの曲率を段階的に増大させるパラメータ。
【0074】
上記の実施例に使用されるパラメータの値を表1に記載する。
【0075】
【表1】

【0076】
図2−A〜図2−Cは、表1に記載のパラメータを有するレンズ100の前面108(図1参照)の様々な特性を示す。レンズの裏面は、屈折率1.53で面度数が−8.3Dの球面である。
【0077】
この実施例では、眼科用レンズ要素100は、屈折力が−5.0Dの中心ゾーン102(図1参照)と、屈折力が約−4.5Dの周辺ゾーン104(図1参照)とを提供する。言い換えれば、周辺ゾーンは、中心ゾーンに比べてプラス度数を提供する。
【0078】
「実施例2」
図3−Aは、本発明の一実施例による眼科用レンズ要素200の別の実施例を示す。この実施例では、レンズ要素200は、頂部曲率は実施例1のレンズ100と同じであるが、平均周辺部曲率がより高い、前面108を含む。これは、中心ゾーン度数に比べて、周辺ゾーン内で+1.00Dの光学的矯正に相当する。このレンズ要素200の裏面及び中心ゾーン102の屈折力は、実施例1の通り同じである。
【0079】
前面108は、実施例1と同じ数学的記述を使用するが、いくつかのパラメータが、表2に記載の通り変更されている。
【0080】
【表2】

【0081】
図4−A〜図4−Cは、レンズ200の前面108の様々な特性を示す。
【0082】
「実施例3」
図5−Aは、周辺部の曲率半径が136.5mmであり且つ頂部曲率が実施例1及び2の場合と同じである前面108を含む、屈折率が1.6の材料の眼科用レンズ要素300の一実施例を示す。これは、中心ゾーン102の度数に比べて、周辺ゾーン104内で約+1.00Dの光学的矯正に相当する。すなわち、この実施例では、レンズ要素300の平均頂部曲率は3.40Dであり、レンズ中心から半径20mmのところでの平均周辺部曲率は4.39Dである。
【0083】
前面108は、実施例1及び実施例2と同じ数学的記述を使用するが、いくつかのパラメータが変更されている。修正されたパラメータ値は、表3に記載の通りである。
【0084】
【表3】

【0085】
図6−A〜図6−Cは、眼科用レンズ要素300の前面108の様々な特性を示す。
【0086】
図6−Cの接線及びサジタル度数プロファイルから分かるように(図5−Aにも概略を示す)、眼科用レンズ要素300の混合領域106は、眼科用レンズ要素100(図1A参照)及び眼科用レンズ要素200(図3A参照)に比べてより大きい。
【0087】
図6Bに示すように、混合領域106をより大きくすると、前面108の非点収差のピーク値を、実施例2では2.00Dを超えるのに比べて、約0.75Dに維持するのに役立つ。非点収差のピーク値をより低くすることで、眼科用レンズ要素300を、着用者がより適応しやすいものにすると想定される。
【0088】
「実施例4」
図7−Aは、本発明の一実施例による眼科用レンズ要素400の別の実施例を示す。この実施例では、眼科用レンズ要素400は、屈折率が1.6の材料から製造され、また頂部半径が実施例3のレンズ要素300と同じであり且つ周辺ゾーン内の周辺部曲率が類似している前面108を含む。これは、中心ゾーン102の度数に比べて、周辺ゾーン104の度数で約+1.00Dの光学的矯正に相当する。
【0089】
レンズ要素400の平均頂部曲率は3.40Dであり、半径20mmのところでの平均周辺部曲率は4.28Dである。
【0090】
この実施例では、先の実施例と異なり、前面108は、有限要素メッシュの表面数学的記述を使用し、面度数が3.40Dの中心球面を、レンズ中心から半径20mmのところで面度数が4.28Dの周辺球面と混合することによって設計されている。
【0091】
混合は、半径11mmと50mmの間で行う。
【0092】
この場合には、周辺部曲率の誤差からの面曲率誤差を最小限にするC2連続補外アルゴリズムを使用して、混合面プロファイルを計算した。他の適切な補外アルゴリズムも適している可能性があるので、必ずしもC2補外アルゴリズムを使用する必要はないことが理解されよう。
【0093】
図8−A〜図8−Cは、レンズ要素300の前面108の様々な特性を示す。図8−Cに示す接線及びサジタル度数プロファイルから分かるように、眼科用レンズ要素400の中心領域は、先の実施例に比べてより大きく且つほぼ完全に球形である。この実施例では、中心領域をより大きく且つほぼ完全に球形にすると、眼の回転の適度な値まで、より明瞭な中心窩視を着用者に提供するのに役立つ。
【0094】
図8−Dは、眼科用レンズ要素400の前面の面接線度数402及び面サジタル度数404、並びに面非点収差406(円柱)に対する等高線図402、404、406を示す。
【0095】
「実施例5」
図9−Aは、頂部曲率が3.96Dであり且つレンズ中心から半径20mmのところの周辺部曲率が5.46Dである前面108を含む、屈折率が1.6の材料のセグメント化された2焦点眼科用レンズ500の要素の一実施例を示す。これは、中心ゾーン102に比べて、周辺ゾーン104内で+1.50Dの光学的矯正に相当する。
【0096】
この実施例では、前面108は、2つの回転対称形の球面セグメント、すなわち中心ゾーン102を画定する第1の中心に一致させた円セグメント及び周辺ゾーン104を画定する第2の中心に一致させたセグメントから構成される。
【0097】
この場合には、第1の中心に一致させた円セグメントの半径(RP1)は14mmであり、約30°の眼の回転まで明瞭な中心窩視を提供する。本発明の範囲から逸脱することなく、異なる半径を使用できることを理解されたい。
【0098】
図10−A〜図10−Cは、眼科用レンズ要素500の前面108の様々な特性を示す。
【0099】
図10−Bに示すように、第2の中心に一致させたセグメントは、面非点収差がゼロであり、周辺視に対して適切な矯正を提供することに加えて、読書などの密接な作業に中心窩的に使用することができる。
【0100】
「実施例6」
図11は、非対称形状の中心ゾーン102を含む眼科用レンズ要素の一実施例の等高線図602(接線)、604(サジタル)、606(円柱)を示す。
【0101】
等高線図602、604、606は、屈折率が1.6の材料の眼科用レンズ要素の前面の面接線及びサジタル度数、並びに面非点収差(円柱)を示す。
【0102】
この場合には、等高線図602、604、606を特徴とする面は、中心ゾーン102が対称形である実施例4の眼科用レンズ要素400の前面の等高線図402、404、406(図8−D参照)を特徴とする本来の面の、新規な最適化として得られた。
【0103】
しかし、この実施例では、等高線図606に示すように、中心ゾーン102は、非対称形であり、眼科用レンズ要素の鼻側面のより低い方に細長い区域608内で低レベルの非点収差を提供して、精密な作業中に頭を下へ向ける必要性を軽減する。結果として、周辺ゾーン内の平均面度数は、(レンズの前面で測定される)レンズ要素の光学中心から半径の異なるところにあり、ある特定の半径全体にわたって一定でない可能性がある。しかし、レンズ要素の光学中心から20mmのところの周辺度数は、中心ゾーンの光学中心の面度数に比べて少なくとも+0.50Dであり、各半径上で、少なくとも270度の方位角範囲にわたって周辺ゾーンを内接させる。
【0104】
図12は、本発明の一方法実施例に対する簡略化した流れ図である。図示のように、本方法の一実施例は、着用者の軸上光学的矯正値を取得するステップ1202を含む。前述のように、軸上光学的矯正値は、明瞭な中心視に必要な値である。軸上光学的矯正は、などの当技術分野で周知の従来の測定技術及び装置を使用して取得することができる。
【0105】
ステップ1204で、着用者の軸外光学的矯正の単一の値又は複数の値が取得される。前述のように、軸外光学的矯正値は、着用者の眼の周辺屈折異常を矯正するために、したがって着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を矯正するために必要な光学的矯正である。
【0106】
軸外光学的矯正は、着用者の主な注視方向の軸と異なる方向に整合された測定軸に対する着用者の眼の周辺屈折を測定するように構成された、Shin−Nipponの自動屈折計などの当技術分野で周知の従来の測定技術及び装置を使用して取得することができる。1つの適切な技術は、David A.Atchisonら著「Peripheral Refraction along the Horizontal and Vertical Visual Fields in Myopia」(2006)46 Vision Research 1450に記載されている。同文献の開示全体を、適切な装置の一実施例を当業者に提供する目的でのみ、参照により本明細書に組み込む。
【0107】
ステップ1206で、眼科用レンズ要素は、軸上矯正に一致する光学的矯正を提供する中心ゾーンと、中心ゾーンを取り囲み、軸外矯正に一致する光学的矯正を提供する周辺ゾーンとを含むように、測定された値に応じて選択又は設計される。前述のように、中心及び周辺ゾーンで所望の光学的矯正を提供することに加えて、これらのゾーンは、着用者の眼の回転の典型的なパターンに応じた形状及び寸法を有することもできる。
【0108】
眼科用レンズ要素の選択又は設計は、適切なコンピュータ・ソフトウェアを備えたプログラムされたコンピュータを含むシステムによって実行することができる。そのようなシステム1300の一実施例を図13に示す。
【0109】
図13に示すように、システム1300は、着用者に対する光学的矯正値を受け入れ又は取得するための1つ又は複数の入力装置1302−A、1302Aを含む。これらの光学的矯正値は、着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を矯正するために必要な軸上光学的矯正の値と、着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を矯正するために必要な軸外光学的矯正の値とを含む。
【0110】
入力装置1302−A、1302−Bは通常、着用者の必要な軸上光学的矯正及び着用者の必要な軸外光学的矯正を測定する従来の装置を含む。着用者の必要な軸外光学的矯正を測定する1つの適切な入力装置は、着用者の好ましい網膜位置の方向に整合された測定軸に対する着用者の眼の周辺波面収差を測定するように構成された、Hartmann−Shackの計器である。別の適切な装置は、たとえば、ブランド名Shin−Nippon SRW−5000又はShin Nippon NVision K5001で販売されている自動屈折計などの両眼開放型自動屈折計である。
【0111】
システム1300はまた、軸上及び軸外矯正の必要値に応じて眼科用レンズ要素を選択し又は設計するために、着用者の光学的矯正値を受け入れ且つ処理する処理装置1304も含む。図示の実施例では、処理装置1304は、適切なコンピュータ・ソフトウェアを備えたプログラムされたコンピュータである。適切なコンピュータの例には、デスクトップ・コンピュータ、手持ち式コンピュータ、ラップトップ・コンピュータ、又は携帯情報端末が含まれる。
【0112】
眼科用レンズ要素が、着用者の眼の回転の典型的なパターンに適合させた形状及び寸法を有する中心ゾーンを含むものである場合、入力装置1302−A、1302−Bはさらに、たとえば、米国特許第6827443号に記載のタイプの視線追跡システムなど、着用者に対する頭の運動特性及び眼の運動特性を受け入れ又は取得する装置を含むことができる。同特許の開示全体を、参照により本明細書中に組み込む。そのような場合には、処理装置1304はまた、中心ゾーンが、眼の回転の角度範囲全体にわたって中心視を維持するために屈折力が実質的に均一な区域を提供するように、着用者の頭の運動特性及び眼の運動特性に応じて中心ゾーンの寸法及び形状を修正する追加機能も含む。
【0113】
上記の実施例は、特定のパラメータ及び特定の表面幾何形状の使用について説明している。しかし、本発明がそのように限定されるものでないことを理解されたい。本出願人は、他の表面幾何形状及び他のパラメータを使用しても、本発明によるレンズ要素を設計し又は調製できると想定する。限定的でない実施例として、そのような他のパラメータには、以下のものを含むことができる。
【0114】
・色収差:たとえば、中心窩の周辺では比較的、円錐体がより少なく、桿状体がより多いので、特定の波長に焦点を合わせることがより重要である可能性があり、したがって、レンズ要素の設計では、その波長に選択的に焦点を合わせるパラメータを考慮に入れることができる。また、色収差が低い材料を有する必要がある可能性もある。
【0115】
・サジタル(S)と接線(T)の度数の関係の異常:たとえば、まったく根本的に異なるS対Tの最適化量を維持する必要性が明らかになる可能性がある。
【0116】
・臨床測定とレンズの関係:たとえば、波面収差計測器を使用して、中心窩から周辺位置までの光学異常を標本化し、眼の軸外異常をより完全に特徴づけできることが予期される。波面収差が特徴づけられると、所望のぼけスポット最小化を適用して、眼の視野全体に適切な矯正を与える。これらの標本を、適切な関係を使って変換し、その結果、眼の形状及び/又は軸外矯正を特徴づけることができる。
【0117】
最後に、本発明の範囲内である、本明細書に記載の構成に対する他の変形形態及び修正形態も可能であることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面と、光軸と、光学中心とを有し、着用者の眼の近視を矯正する眼科用レンズ要素であって、
(a)前記光軸の周りに眼が回転する角度の範囲全体にわたって中心視を維持するための区域を有し、前記着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を実質的に矯正するための第1の光学的矯正を提供する中心ゾーンと、
(b)前記中心ゾーンを取り囲み、前記着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を実質的に矯正するための第2の光学的矯正を提供する周辺ゾーンとを含む、眼科用レンズ要素において、
前記第1の光学的矯正が第1の屈折力として指定され、前記第2の光学的矯正が第2の屈折力として指定されており、前記第2の屈折力が、前記第1の屈折力に比べてプラス度数矯正を提供し、
前記第2の屈折力の平均値が、前記レンズ要素の前面で測定される、前記眼科用レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均屈折力であり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、眼科用レンズ要素。
【請求項2】
前記第1の屈折力が、前記眼科用レンズ要素の光学中心に位置する、請求項1に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項3】
前記第2の屈折力が、前記第1の屈折力に対して、+0.50Dから+2.0Dの範囲内にある、請求項1に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項4】
前記中心ゾーン内の前記屈折力が、度が入っていないものから−6.00Dの範囲内にある、請求項1に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項5】
前記中心ゾーン内の前記屈折力が、度が入っていないものから−4.00Dの範囲内にある、請求項4に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項6】
前記中心ゾーンが、前面非点収差0.5Dの等高線によって囲まれたゾーンである、請求項1から5までのいずれか一項に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項7】
前記中心ゾーンが、前面平均曲率の少なくとも+0.5Dの段階的増大によって囲まれたゾーンである、請求項1から5までのいずれか一項に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項8】
前記中心ゾーンが、前面平均曲率の少なくとも+1.0Dの段階的増大によって囲まれたゾーンである、請求項1から5までのいずれか一項に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項9】
前記中心ゾーンが、前面平均曲率の少なくとも+1.5Dの段階的増大によって囲まれたゾーンである、請求項1から5までのいずれか一項に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項10】
前記中心ゾーンが、前面平均曲率の少なくとも+2.0Dの段階的増大によって囲まれたゾーンである、請求項1から5までのいずれか一項に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項11】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なる、請求項1から10までのいずれか一項に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項12】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記周辺ゾーンの平均屈折力が、前記中心ゾーンの光学中心の屈折力に比べて+0.50Dから+2.0Dの範囲内にある、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項13】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記レンズの前面で測定される、前記レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均屈折力が、前記中心ゾーンの光学中心の屈折力に比べて少なくとも+0.50Dであり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項14】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記レンズの前面で測定される、前記レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均屈折力が、前記中心ゾーンの光学中心の屈折力に比べて少なくとも+1.00Dであり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項15】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記レンズの前面で測定される、前記レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均屈折力が、前記中心ゾーンの光学中心の屈折力に比べて少なくとも+1.50Dであり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項16】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記レンズの前面で測定される、前記レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均屈折力が、前記中心ゾーンの光学中心の屈折力に比べて少なくとも+2.00Dであり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項17】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記レンズの前面で測定される、前記レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均面度数が、前記中心ゾーンの光学中心の面度数に比べて少なくとも+0.50Dであり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項18】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記レンズの前面で測定される、前記レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均面度数が、前記中心ゾーンの光学中心の面度数に比べて少なくとも+1.00Dであり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項19】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記レンズの前面で測定される、前記レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均面度数が、前記中心ゾーンの光学中心の面度数に比べて少なくとも+1.50Dであり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項20】
前記中心ゾーン内で、前記前面の面度数が0.5D未満だけ異なり、前記レンズの前面で測定される、前記レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均面度数が、前記中心ゾーンの光学中心の面度数に比べて少なくとも+2.00Dであり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、請求項1又は11に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項21】
前記周辺ゾーンが、前記中心ゾーンの境界線から前記周辺ゾーン内へ径方向に外方へ広がる混合ゾーンを含み、前記混合ゾーンの半径方向の長さが、直径40mmのレンズ要素内で、明瞭な中心窩視のための前記中心ゾーンの半径より短い、請求項1に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項22】
前記中心ゾーンが回転対称の形状を有する、請求項1に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項23】
前記中心ゾーンが、眼の回転の頻度の非対称な分布に対処するために非対称の形状を有する、請求項1に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項24】
前記中心ゾーン内の前記屈折力が、度が入っていないものから−6.00Dの範囲内にある、請求項1に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項25】
前記レンズ要素は、半仕上げの眼鏡レンズ半完成品または眼鏡レンズウエハからなる、請求項1から24までのいずれか一項に記載に記載の眼科用レンズ要素。
【請求項26】
前面と、光軸と、光学中心とを有し、着用者の眼の近視を矯正する眼科用レンズ要素を調製し又は設計する方法であって、
(a)前記着用者に対して取得するステップであって、
(i)前記着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を矯正するために必要な軸上光学的矯正の値、及び
(ii)前記着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を矯正するために必要な軸外光学的矯正の値を取得するステップと、
(b)軸上及び軸外矯正の前記値に応じて眼科用レンズ要素を選択し又は設計するステップであって、前記眼科用レンズ要素が、
(i)前記光軸の周りに眼が回転する角度の範囲全体にわたって中心視を維持するための区域を有し、前記軸上光学的矯正に一致する第1の光学的矯正を提供する中心ゾーン、及び
(ii)前記中心ゾーンを取り囲み、前記軸外光学的矯正に一致する第2の光学的矯正を提供する周辺ゾーンを含む、ステップとを含み、
前記第1の光学的矯正が第1の屈折力として指定され、前記第2の光学的矯正が第2の屈折力として指定されており、前記第2の屈折力が、前記第1の屈折力に比べてプラス度数矯正を提供し、
前記第2の屈折力の平均値が、前記レンズ要素の前面で測定される、前記眼科用レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均屈折力であり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、方法。
【請求項27】
(c)前記着用者の頭の運動特性及び眼の運動特性を判別するステップと、
(d)前記中心ゾーンが、眼の回転の角度範囲全体にわたって中心視を維持するために屈折力が実質的に均一な区域を提供するように、前記着用者の頭の運動特性及び眼の運動特性に応じて前記中心ゾーンを寸法設定し且つ成形するステップとをさらに含む、
請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前面と、光軸と、光学中心とを有し、着用者の眼の近視を矯正する眼科用レンズ要素を調製し又は設計するシステムであって、
(a)着用者に対する光学的矯正値を受け入れ又は取得する入力装置であって、前記光学的矯正値が、
(i)前記着用者の眼の中心窩領域に関連する近視を矯正するために必要な軸上光学的矯正の値、及び
(ii)前記着用者の眼の網膜の周辺領域に関連する近視又は遠視を矯正するために必要な軸外光学的矯正の値を含む、入力装置と、
(b)軸上及び軸外矯正の前記値に応じて眼科用レンズ要素を選択し又は設計するために前記着用者の光学的矯正値を処理する処理装置であって、前記眼科用レンズ要素が、
(i)前記光軸の周りに眼が回転する角度の範囲全体にわたって中心視を維持するための区域を有し、前記軸上矯正に一致する第1の光学的矯正を提供する中心ゾーン、及び
(ii)前記中心ゾーンを取り囲み、前記軸外矯正に一致する第2の光学的矯正を提供する周辺ゾーンを含む、処理装置とを含み、
前記第1の光学的矯正が第1の屈折力として指定され、前記第2の光学的矯正が第2の屈折力として指定されており、前記第2の屈折力が、前記第1の屈折力に比べてプラス度数矯正を提供し、
前記第2の屈折力の平均値が、前記レンズ要素の前面で測定される、前記眼科用レンズ要素の光学中心から半径20mmのところの平均屈折力であり、且つ少なくとも270度の方位角範囲にわたって測定されたものである、システム。
【請求項29】
(a)前記着用者に対する頭の運動特性及び眼の運動特性を受け入れ又は取得する入力装置と、
(b)前記中心ゾーンが、眼の回転の角度範囲全体にわたって中心視を維持するために屈折力が実質的に均一な区域を提供するように、前記着用者の頭の運動特性及び眼の運動特性に応じて前記中心ゾーンの寸法及び形状を修正する処理装置とをさらに含む、請求項28に記載のシステム。

【図1−B】
image rotate

【図2−A】
image rotate

【図2−B】
image rotate

【図2−C】
image rotate

【図3−B】
image rotate

【図4−A】
image rotate

【図4−B】
image rotate

【図4−C】
image rotate

【図5−B】
image rotate

【図6−A】
image rotate

【図6−B】
image rotate

【図6−C】
image rotate

【図7−B】
image rotate

【図8−A】
image rotate

【図8−B】
image rotate

【図8−C】
image rotate

【図9−B】
image rotate

【図10−A】
image rotate

【図10−B】
image rotate

【図10−C】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図1−A】
image rotate

【図3−A】
image rotate

【図5−A】
image rotate

【図7−A】
image rotate

【図8−D】
image rotate

【図9−A】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−15873(P2013−15873A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−232752(P2012−232752)
【出願日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【分割の表示】特願2008−534821(P2008−534821)の分割
【原出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(508111246)カール ツァイス ビジョン オーストラリア ホールディングス リミテッド (3)
【Fターム(参考)】