説明

送信機及びそのレベル制御方法並びにプログラム

【課題】 同一構成の2系統の送信系を有するダイバーシチ方式の送信機において、簡単な構成により無線信号レベルの経年劣化を抑制する。
【解決手段】 各系の無線信号の検波レベルを、カプラ08,18により導出し、制御部200において、これら検波レベルを比較して、小なる方の送信系の信号レベルを、大なる方の送信系の信号レベルに一致するように、可変減衰器06または16の減衰量を制御する。この制御を、例えば、1年毎に繰返すことにより、経年劣化の大なる方の無線信号レベルが、小なる方のレベルに等しくなるので、無線信号の経年劣化が抑止可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送信機及びそのレベル制御方法並びにプログラムに関し、特に送信ダイバーシチ方式の送信機における無線信号レベルの制御方式に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置の送信機においては、全く同一の構成の2つの送信機(TX0系及びTX1系)を設けて送信ダイバーシチ送信を行うものがある(特許文献1参照)。このような送信ダイバーシチ方式の送信機の構成を図4に示す。図4を参照すると、TX0系の入力信号(0系IN)は、信号カプラ09を介して第1のミキサ01へ入力されて周波数変換され、BPF02及びアンプ03を介して第2のミキサ04へ入力されてRF信号に周波数変換される。そして、BPF05、可変減衰器06、アンプ07及び信号カプラ08を介して0系の送信出力となる。
【0003】
一方、TX1系の入力信号(1系IN)は、信号カプラ19を介して第1のミキサ11へ入力されて周波数変換され、BPF12及びアンプ13を介して第2のミキサ14へ入力されRF信号に周波数変換される。そして、BPF15、可変減衰器16、アンプ17及び信号カプラ18を介して1系の送信出力となる。
【0004】
このような送信ダイバーシチ方式の送信機では、各系の送信機の送信出力レベルの経年劣化を抑制するために、制御部010及び110を設け、制御部010では、入出力信号カプラ08,09による入出力検波レベルを用いて、可変減衰器06の減衰量を制御するようになっている。また、制御部110では、入出力信号カプラ18,19による入出力検波レベルを用いて、可変減衰器16の減衰量を制御するようになっている。
【0005】
図5は図4に示した制御部010,110の例を示す図である。図5において、制御部010と110とは同一構成であるので、制御部010についてのみ説明する。入力及び出力検波信号はA/D変換器51及び52へそれぞれ入力されてデジタル信号とされ、CPU53へ入力される。CPU53においては、入力及び出力検波信号のデジタル信号を比較して、両者が一定になるような可変減衰器06の制御用デジタル信号を生成する。このデジタル信号はD/A変換器54によりアナログ信号とされて、可変減衰器06の制御信号となるのである。
【0006】
こうすることにより、ミキサやフィルタの挿入損失の経年劣化や、またアンプの増幅率の経年劣化などに起因する送信機の経年的なRF信号レベルの低下を補償することが可能となっている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−358623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した図4に示したダイバーシチ送信機の構成では、TX0系及びTX1系において、それぞれに、入出力信号カプラ及び制御部を設けているために、信号カプラが4個、制御部が2個必要となり、構成が複雑となって、装置の小型化及び低価格化を阻止する要因となるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、構成を簡単化して、小型化及び低価格化を可能とした送信ダイバーシチ方式の送信機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による送信機は、同一構成の第一及び第二の送信系を有するダイバーシチ方式の送信機であって、前記第一及び第二の送信系の無線信号の各検波レベルを検出して小なる方の送信系の信号レベルを、大なる方の送信系の信号レベルに一致制御する制御手段を含むことを特徴とする。
【0011】
本発明による送信機のレベル制御方法は、同一構成の第一及び第二の送信系を有するダイバーシチ方式の送信機のレベル制御方法であって、前記第一及び第二の送信系の無線信号の各検波レベルを検出するステップと、これら検波レベルを比較して小なる方の送信系の信号レベルを、大なる方の送信系の信号レベルに一致制御する制御ステップを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明によるプログラムは、同一構成の第一及び第二の送信系を有するダイバーシチ方式の送信機のレベル制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記第一及び第二の送信系の無線信号の各検波レベルを比較して小なる方の送信系の信号レベルを、大なる方の送信系の信号レベルに一致制御する処理を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明の作用を述べる。各系の無線信号の検波レベルを、夫々カプラにより導出し、制御部200において、これら検波レベルを比較して、小なる方の送信系の信号レベルを、大なる方の送信系の信号レベルに一致するように、可変減衰器の減衰量を制御する。この制御を、例えば、1年毎に繰返すことにより、経年劣化の大なる方の無線信号レベルが小なる方のレベルに等しくなるので、無線信号の経年劣化が抑止可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、極めて簡単な構成で送信ダイバーシチ方式のTX0系とTX1系との両系の無線信号レベルの低下を抑えることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本発明の実施の形態のブロック図であり、図4と同等部分は同一符号により示している。本実施の形態を適用した送信ダイバーシチ方式の送信機は、同一の構成からなる2つの送信系により構成されており、各々の送信系をTX0系及びTX1系と呼ぶ。
【0016】
これらTX0系及びTX1系は、ベースバンド信号において互いに直交したデータマッピングとされるが、最終的には、例えば、2GHz帯域の無線信号(RF信号)とするまでの周波数変換や送信スプリアスの減衰のためのフィルタや、無線信号のレベルを制御するための可変減衰器や、信号増幅のためのアンプなど、全てが同一特性、同一構成となっている。つまり、ベースバンド信号において、TX0系とTX1系とでは、データが直交関係にあるが、無線信号のレベルは同一となっている。
【0017】
図1において、TX0系の入力信号は、第1のミキサ01において周波数変換され、BPF02及びアンプ03を介して第2のミキサ04へ入力されてRF信号に周波数変換される。そして、BPF05、可変減衰器06、アンプ07及び信号カプラ08を介して0系の送信出力となる。
【0018】
一方、TX1系の入力信号は第1のミキサ11へ入力されて周波数変換され、BPF12及びアンプ13を介して第2のミキサ14へ入力されRF信号に周波数変換される。そして、BPF15、可変減衰器16、アンプ17及び信号カプラ18を介して1系の送信出力となる。
【0019】
そして、両系に共通の制御部200が設けられており、信号カプラ08による0系出力信号の検波レベルと、信号カプラ18による1系出力信号の検波レベルとが、この制御部200へ入力されている。これ等0系及び1系の検波レベルに基づいて、可変減衰器06及び16の減衰制御信号が生成されるようになっている。
【0020】
図2は制御部200の例を示す図であり、0系及び1系の検波信号は、それぞれA/D変換器201及び211へ入力されてデジタル信号となってCPU210へ供給される。CPU210においては、これ等2つのデジタル信号を比較して、大なる方の信号に、小さい方の信号が一致するように、減衰制御信号(デジタル信号)が生成される。これ等デジタル減衰制御信号はD/A変換器202及び212へそれぞれ入力されてアナログ減衰制御信号とされて、可変減衰器06及び16の減衰量制御が行われるのである。
【0021】
図3は本発明の実施の形態を適用した送信ダイバーシチ方式の送信機における無線信号レベルの経年劣化の例を示したものであり、(A)はレベル補正を行わない場合のTX0系とTX1系の経年劣化の状態を示し、(B)はレベル補正を行った場合のものである。図3においては、横軸が経年時間を示し単位は年であり、縦軸が運用開始時の無線信号レベルを0dBとしたときにどの程度レベル低下したかを示すものである。
【0022】
図3(A)に示す如く、レベル補正を行わない場合には、10年後に、約2.5dBのレベル低下が生じている。このようなダイバーシチ方式の送信機において、図1に示すようなレベル補正を行った場合について説明する。なお、本例では、一年周期でレベル補正を行った場合について、順に説明することにする。
【0023】
一年後に、TX0系は約0.25dBのレベル低下を生じており、一方、TX1系は0.5dBのレベル低下を生じている。そこで、0系の検波信号と1系の検波信号とが、D/A変換器によりデジタル値に変換されてCPU210へ入力される。CPU210において、これ等2つの信号レベルが比較され、レベルが小さいTX1系の無線信号のレベルが、大きいTX0系の無線信号のレベルに等しくなるように、TX1系の可変減衰器16の減衰量の制御が行われる。従って、TX1系の無線信号レベルはTX0系のそれと同じ値となる(0.25dB低下まで改善)。
【0024】
二年後には、TX0系のレベルは0.75dB低下しているが、TX1系は一年目に補正されているために、0.4dBの低下に留まっている。そのために、今度は、よりレベルが小さいTX0系の無線信号のレベルが大きいTX1系の無線信号のレベルに等しくなるように、TX0系の可変減衰器の減衰量の制御が行われる。従って、TX0系の無線信号レベルはTX1系のそれと同じ値となる(0.4dB低下まで改善)。
【0025】
同様にして、三年目以降も制御が行われ、最終的に、十年後には、TX0系及びTX1系共に、1.2dBのレベル低下に留まっていることが判る。この値は、レベル補正がない場合の2.5dBの低下に比べて、1dBもの改善があることが判る。このように、本発明においては、信号カプラを2個、制御部を1個用いるのみの極めて簡単な構成で無線信号レベルの経年劣化を制御できることになり、その効果は顕著である。
【0026】
上記の実施の形態におけるCPU210の動作は、予めその手順をプログラムとしてROMなどの記録媒体に記録しておき、これをコンピュータ(CPU)により読み取らせて実行させるように構成することができることは明らかである。また、上記構成のダイバーシチ方式の送信機の例としては、W−CDMA方式の移動通信システムにおける無線基地局とすることができるが、これに限らず、広く一般の送信機に適用できるものである。
【0027】
また、レベル補正の間隔は一年周期に限定されることなく、種々の周期で行うことができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態のブロック図である。
【図2】図1の制御部の例を示す図である。
【図3】(A)は図1のブロックにおいて、レベル補正を行わない場合の無線信号レベルの経年劣化を示す図、(B)はレベル補正を行った場合の無線信号レベルの経年劣化を示す図である。
【図4】従来の送信ダイバーシチ方式の送信機のブロック図である。
【図5】図4の制御部010,110の例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
01,04,11,14 ミキサ
02,05,12,15 BPF
03,07,13,17 アンプ
06,16 可変減衰器
08,18 信号カプラ
200 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一構成の第一及び第二の送信系を有するダイバーシチ方式の送信機であって、前記第一及び第二の送信系の無線信号の各検波レベルを検出して小なる方の送信系の信号レベルを、大なる方の送信系の信号レベルに一致制御する制御手段を含むことを特徴とする送信機。
【請求項2】
前記制御手段は、前記第一及び第二の送信系の無線信号の各検波レベルを出力する手段と、これら検波レベル同士を比較する手段と、この比較結果に基づいて前記第一及び第二の送信系における可変減衰器の減衰量の制御をなす手段とを有することを特徴とする請求項1記載の送信機。
【請求項3】
前記制御手段は、所定周期で前記一致制御の動作をなすよう構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の送信機。
【請求項4】
移動通信システムにおける無線基地局であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の送信機。
【請求項5】
同一構成の第一及び第二の送信系を有するダイバーシチ方式の送信機のレベル制御方法であって、前記第一及び第二の送信系の無線信号の各検波レベルを検出するステップと、これら検波レベルを比較して小なる方の送信系の信号レベルを、大なる方の送信系の信号レベルに一致制御する制御ステップを含むことを特徴とするレベル制御方法。
【請求項6】
前記制御ステップは、前記検波レベル同士を比較するステップと、この比較結果に基づいて前記第一及び第二の送信系における可変減衰器の減衰量の制御をなすステップとを有することを特徴とする請求項5記載のレベル制御方法。
【請求項7】
所定周期で、前記一致制御の動作をなすことを特徴とする請求項5または6記載のレベル制御方法。
【請求項8】
同一構成の第一及び第二の送信系を有するダイバーシチ方式の送信機のレベル制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、前記第一及び第二の送信系の無線信号の各検波レベルを比較して小なる方の送信系の信号レベルを、大なる方の送信系の信号レベルに一致制御する処理を含むことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−295262(P2006−295262A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109305(P2005−109305)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】