説明

送液方法、送液ユニット、及び自動培養システム

【課題】培養作業の自動化に寄与することができる送液方法を提供する。
【解決手段】チップ23を有するピペッター20によって液体を搬送する送液方法であって、液体を搬送する際、チップ23に搬送する液体を吸引させてからさらに空気を吸引させることでチップ23の先端に空気層を形成させ、その後、チップ23を液体の搬送先へと移動させて、チップ23が吸引した液体を吐出させる、送液方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞懸濁液や薬液などの液体を搬送する送液方法及び送液ユニットに関する。また、送液ユニットを含む自動培養システムに関する。
【背景技術】
【0002】
製薬メーカーにおける新薬開発では、細胞に化合物を加え、その化合物の効能や安全性を評価するスクリーニングが行われている。スクリーニングには、表面に多数のウェル(窪み)が形成されたマイクロプレートと呼ばれる容器が多用されている。マイクロプレートの各ウェル内に定着させた細胞を用いれば、一度に多くの効能等についての確認が行えるため、効率よくスクリーニングを行うことができる。この各ウェル内に細胞を定着させたマイクロプレートは、例えば次のようにして用意することができる。
【0003】
まず、必要な量の細胞を確保するためにシャーレ等で細胞を増殖させ(増殖工程)、遠心分離するなどして増殖した細胞を回収する(回収工程)。続いて、回収した細胞は細胞懸濁液の状態にしてマイクロプレートの各ウェルに分注し(分注工程)、インキュベータ等で細胞を各ウェルの底面に定着させる(定着工程)。以上の各工程を経ることにより、各ウェル内に細胞を定着させたマイクロプレートを用意することができる。上記の各工程のうち増殖工程及び回収工程については、既に自動化が実現されているが(例えば、特許文献1及び2参照)、これに加え分注工程及び定着工程を含む一連の作業の自動化は、いまだ実現されていない。なお、以下で「培養作業」と呼ぶときは、上述した増殖工程から定着工程までの一連の作業を含む広い意味での培養作業を意味するものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−291103号公報
【特許文献2】特開2009−291104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した培養作業を自動化する際に問題となるのが、細胞の汚染(コンタミネーション)である。つまり、工程が増えればそれだけ細胞懸濁液や薬液などの液体を搬送する回数が多くなり、それらの液体が搬送中に液だれ等する可能性が高くなる。その結果、培養対象の細胞に他の細胞や化合物が混入して汚染されるリスクが高くなるのである。そのため、培養作業を自動化する場合には、厳格に搬送する液体の液だれを防止する必要がある。
【0006】
そこで本発明では、培養作業の自動化に寄与することができる送液方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る送液方法は、チップを有するピペッターによって液体を搬送する送液方法であって、液体を搬送する際、前記チップに搬送する液体を吸引させてからさらに空気を吸引させることで前記チップの先端に空気層を形成させ、その後、前記チップを液体の搬送先へと移動させて、前記チップが吸引した液体を吐出させる。かかる方法によれば、チップの先端に空気層が形成されているため、チップを移動させる間に、チップの先端から吸引した液体が液だれするのを防ぐことができる。
【0008】
また、上記の送液方法において、搬送する液体が細胞懸濁液であり、搬送元が前記細胞懸濁液を収容した収容容器であり、搬送先が分注を行う分注容器であってもよい。
【0009】
また、上記の送液方法において、前記チップを液体の搬送先へ移動させる際、前記液体の搬送先に至る前に前記チップが吸入した空気を吐出してもよい。かかる方法によれば、液体を吐出させようとする際に、はじめに空気が吐出されることはないため、当初から適切な量の液体を吐出させることができる。
【0010】
また、上記の送液方法において、前記チップに搬送する液体を吸引させる前に、前記収容容器内に前記チップを挿入してピペッティングを行うようにしてもよい。液体が細胞懸濁液の場合には細胞が沈殿するおそれがあるが、ピペッティングを行うことで細胞懸濁液内の細胞が拡散するため、適度な量の細胞を含んだ細胞懸濁液をチップにより吸引することができる。
【0011】
また、上記の送液方法において、前記チップが吸引した液体を吐出し始めてから少なくとも所定時間の間は前記チップの移動を停止し、前記所定時間は吐出する液体の量に応じて長くしてもよい。かかる方法によれば、液体の量に応じて全てが吐出されるまで待つことができ、本来吐出すべきでない位置に液体が吐出されるのを防止することができる。
【0012】
また、上記の送液方法において、前記チップが吸引した液体を前記分注容器で吐出させる際、前記分注容器を傾斜させてもよい。かかる方法によれば、細胞懸濁液を分注容器の壁面に沿って吐出させることができ、これにより分注容器内(ウェル内)における細胞の偏りを低減することができる。
【0013】
また、上記の送液方法において、前記チップが吸引した液体を前記分注容器で吐出させた後、前記分注容器を揺動させてもよい。かかる構成によれば、分注容器内(ウェル内)の細胞が適度に拡散し、分注容器内における細胞の偏りを低減することができる。
【0014】
本発明に係る送液ユニットは、液体を搬送する送液ユニットであって、液体を吸引するチップを有し、該チップが移動可能に構成されたピペッターと、前記ピペッターを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、液体を搬送する際、前記チップに搬送する液体を吸引させてからさらに空気を吸引させることで前記チップの先端に空気層を形成させ、その後、前記チップを液体の搬送先へと移動させて、前記チップが吸引した液体を吐出させ、これにより液体を搬送する際に液だれを防ぐことができるよう構成されている。
【0015】
また、上記の送液ユニットにおいて、搬送する液体が細胞懸濁液であり、搬送元が前記細胞懸濁液を収容した収容容器であり、搬送先が分注を行う分注容器であってもよい。
【0016】
また、上記の送液ユニットにおいて、前記液体を廃棄する廃液部をさらに備え、前記制御部は、前記チップを液体の搬送先へ移動させる際、前記廃液部を経由して前記チップが吸入した空気を前記廃液部で吐出させるように構成してもよい。
【0017】
また、上記の送液ユニットにおいて、前記制御部は、前記チップに搬送する液体を吸引させる前に、前記収容容器内に前記チップを挿入してピペッティングを行わせるように構成してもよい。
【0018】
また、上記の送液ユニットにおいて、前記制御部は、前記チップが吸引した液体を吐出し始めてから少なくとも所定時間の間は前記チップの移動を停止し、前記所定時間は吐出する液体の量に応じて長くなるよう設定されていてもよい。
【0019】
また、上記の送液ユニットにおいて、前記制御部の制御により前記分注容器を傾斜させることができる傾斜装置をさらに備え、前記制御部は、前記チップが吸引した液体を前記分注容器で吐出させる際、前記傾斜装置により前記分注容器を傾斜させるように構成してもよい。
【0020】
また、上記の送液ユニットにおいて、前記制御部の制御により前記分注容器を揺動させることができる揺動装置をさらに備え、前記制御部は、前記チップが吸引した液体を前記分注容器で吐出させた後、前記揺動装置により前記分注容器を揺動させるように構成してもよい。
【0021】
さらに、本発明に係る自動培養システムは、上記の送液ユニットを含むように構成されている。
【0022】
さらに、本発明に係る送液方法は、チップを有するピペッターによって液体を搬送する送液方法であって、液体を搬送する際、前記チップに搬送する液体を吸引させてからさらに空気を吸引させることで前記チップの先端に空気層を形成させ、その後、前記チップを液体の搬送先へと移動させて、前記チップが吸引した液体を吐出させる。
【発明の効果】
【0023】
上述したように、本発明に係る送液方法によれば、少なくともチップを移動させる間に、チップの先端から吸引した液体が液だれするのを防ぐことができるため、培養作業の自動化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る培養システムの概略図である。
【図2】図2は、図1に示す操作部の平面図である。
【図3】図3は、図1に示す操作部の側面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態のテーブル、プレート、分注容器の斜視図である。
【図5】図5は、本発明の実施形態の傾斜装置を示した図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態の揺動装置を示した図である。
【図7】図7は、本発明の実施形態に係る送液ユニットの動作のフロー図である。
【図8】図8は、図3に示すチップの先端付近の拡大図であって、先端に空気層を形成した状態を示した図である。
【図9】図9は、吐出する液体の量と待機時間との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0026】
<自動培養システム>
まず、図1を参照して本実施形態に係る自動培養システム100について説明する。図1は本実施形態に係る自動培養システム100の概略図である。図1に示すように、自動培養システム100は、インキュベータ101、冷蔵保管庫102、常温保管庫103、クリーンロボット104、遠心分離機105、細胞観察装置106、廃棄ボックス107、及び操作部108を備えている。これらの構成要素の多くは、既に先行技術文献で開示されているとおりであり、以下で簡単に説明する。
【0027】
インキュベータ101は、内部が一定の温度に保たれており、シャーレやマイクロプレートに播種された細胞を培養させるための装置である。冷蔵保管庫102は、培地やトリプシン等の冷蔵保管が必要なものを保管する保管庫である。常温保管庫103は、細胞の洗浄などに使用するPBS(Phosphate Buffered Saline)や消耗品(シャーレ、マイクロプレート、後述のチップ他)などの常温保管が可能なものを保管する保管庫である。クリーンロボット104は、2本の指を有する多関節のロボットであり、容器等を把持して所定位置に搬送することができる。遠心分離機105は、細胞を遠心分離して回収するための装置である。細胞観察装置106は、いわゆる顕微鏡であって、取得した映像をディスプレイ等に出力することができる。廃棄ボックス107は、使用済みの培養器具を破棄するための箱である。操作部108は、分注作業など様々な作業を行う部分であって、以下で詳述する送液ユニット10は、この操作部108に配置されている。
【0028】
<送液ユニットの構成>
次に、図2及び図3を参照して本実施形態に係る送液ユニット10について説明する。図2は送液ユニット10が配置された操作部108の平面図であり、図3は同じく操作部108の側面図である。上述したように、本実施形態に係る送液ユニット10は操作部108に配置されている。図2及び図3で示すように、本実施形態に係る送液ユニット10は、ピペッター20と、テーブル30と、傾斜装置40と、揺動装置50と、廃液部60と、蓋開閉装置70と、収容容器保持部80と、制御部90と、を備えている。以下、これらの各構成について順に説明する。
【0029】
ピペッター20は、液体を吸引し、吸引した液体を所定の位置にまで搬送する装置である。ピペッター20は、ピペッター本体21と、アーム22と、チップ23と、吸引ポンプ24とを有している。ピペッター本体21は、操作部108内でスライド(図2では紙面左右方向にスライド)できるように構成されている。アーム22は、基端側がピペッター本体21に取り付けられており、この取付位置を回動軸として水平方向に回動することができる。また、アーム22は、ピペッター本体21に対して上下方向に移動できるようにも構成されている。チップ23は、アーム22の先端側に取付けられており、内部に液体を吸引することができる。チップ23は、アーム22の回動とピペッター本体21のスライドによって、操作部108内の任意の位置に移動することができる。
【0030】
さらに、ピペッター20の吸引ポンプ24は、シリンジ(筒)26とプランジャ(押子)27からなる注射器型のポンプである。吸引ポンプ24は、連結チューブ25を介してチップ23に連結されている。プランジャ27は図示しないステッピングモータに連結されており、このステッピングモータを駆動させることで、プランジャ27がシリンジ26内でスライドする。シリンジ26内に空気を引き込む方向にプランジャ27がスライドするとチップ23は吸引を行い、シリンジ26内の空気を押し出す方向にプランジャ27がスライドするとチップ23は吐出を行う。
【0031】
なお、図2及び図3(各紙面右側)に示すチップ切離装置28及び交換用チップ収容部29は、ピペッター20のチップ23を交換するための器具である。チップ23の交換は次のようにして行われる。まず、チップ23をチップ切離装置28まで移動させてその内部に挿入する。チップ切離装置28は、チップ23が挿入されると、挿入されたチップ23を把持する。その状態でアーム22を上方に移動させる。これによりチップ23はアーム22から切り離される。続いて、アーム22の先端部分を交換用のチップ23が収容された交換用チップ収容部29に移動させる。そして、アーム22の先端部分を交換用のチップ23に向かって下降させ、チップの取付位置に交換用のチップ23を嵌め込む。以上で、チップ23の交換が完了する。
【0032】
テーブル30は、分注容器32を乗せるための部材である。図4は、テーブル30、トレー31、及び分注容器32の斜視図である。図4に示すように、テーブル30は、円盤状の形状を有しており回転駆動装置33により回転するように構成されている。なお、テーブル30に乗せられる分注容器32はシャーレ等の容器であってもよいが、本実施形態の分注容器32はいわゆるマイクロプレートである。分注容器32は平面視において矩形状に形成されており、その上面に開口する断面U字状のウェル34(窪み)が複数形成されている。この分注容器32は、トレー31に乗せられた状態で搬送され、トレー31を介してテーブル30に乗せられる。トレー31は矩形枠形状を有しており、枠部分35の断面がL字状に形成されている。そして、分注容器32は、この枠部分35の内側に保持される。また、枠部分35には、クリーンロボット104が把持するための把持部36が形成されている。テーブル30には、トレー31を収容するための凹状の収容部37が3箇所に周方向において等間隔(120度ごと)に形成されている。そして、テーブル30のうち、各収容部37の中央には上下方向に貫通する作業孔38が形成されている。
【0033】
傾斜装置40は、分注容器32を傾斜させるための装置である。傾斜装置40は、テーブル30の下方に位置し、図2ではテーブル30の中心から12時方向の位置(以下、単に「12時位置」と称す。)に配置されている。図5は、傾斜装置40の側面図である。図5に示すように、傾斜装置40は、2本の接触棒41と、両方の接触棒41を上下方向に移動させることができるアクチュエータ42とを有している。テーブル30の作業孔38が傾斜装置40の上方に位置するとき(作業孔38が12時位置にあるとき)、各接触棒41を上方に移動させると、それらの先端がテーブル30の作業孔38を貫通して分注容器32の底面に接触する。この接触位置は分注容器32の中央からずれており、各接触棒41が分注容器32の底面に接することで分注容器32は傾斜する。また、分注容器32の傾斜角度は、接触棒41の上下方向位置により調整することができる。なお、本実施形態では、傾斜装置40が有する接触棒41は2本であるが、接触棒42は1本であってもよい。
【0034】
揺動装置50は、分注容器32を揺動させるための装置である。揺動装置50は、テーブル30の下方側に位置し、図2ではテーブル30の中心から8時方向の位置(以下、単に「8時位置」と称す。)に配置されている。図6は、揺動装置50の側面図である。図6に示すように、揺動装置50は、水平方向に対して僅かに傾斜した傾斜板51と、傾斜板51を支持する支持軸52と、支持軸52を回転させるモータ53と、モータ53を上下方向に移動させることができるアクチュエータ54を有している。テーブル30の作業孔38が揺動装置50の上方に位置するとき(作業孔38が8時位置にあるとき)、アクチュエータ54によりモータ53、支持軸52、及び傾斜板51の全体を上方に移動させると、傾斜板51がテーブル30の作業孔38を貫通して分注容器32の底面に接触する。その結果、分注容器32は傾斜した状態で揺動装置50により支持される。この状態からさらにモータ53により支持軸52を介して傾斜板51を回転させると、傾斜板51上で傾斜した分注容器32が回転し、分注容器32は揺動する。
【0035】
廃液部60は、液体を廃棄する部分である。図3に示すように、廃液部60は、廃棄する液体が投入される廃液口61と、一端側が廃液口61に連結された廃液管62と、廃液管62の他端側に連結された廃液容器(図示せず)とを有している。廃液部60(厳密には廃液口61)は、テーブル30の近傍、特に傾斜装置40の近傍(12時位置近傍)に配置されている。後述するように、チップ23はこの廃液部60を経由して12時位置に移動するため、廃液部60と12時位置とが近ければ、液だれのリスクは低減する。
【0036】
蓋開閉装置70は、分注容器32の蓋を開閉する装置である。通常、分注容器32には蓋がかぶせられており、必要なときにのみ蓋を開ける。図2に示すように、蓋開閉装置70は、12時位置の近傍に位置している。蓋開閉装置70は、分注容器32の蓋を吸着できる吸着パッド71と、吸着パッド71を支持する回動アーム72(図3参照)と、水平方向を軸にして回動アーム72を回動させるアクチュエータ73を有している。蓋開閉装置70は、以上のような構成を有していることから、12時位置に配置されている分注容器32の蓋を吸着パッド71により吸着し、そのままアクチュエータ73によって回動アーム72を上方に回動させれば、蓋を開けることができる。また、これとは逆に、蓋が開けられて、吸着パッド71が蓋を吸着している状態にあるとき、アクチュエータ73により回動アーム72を下方に回動させれば、分注容器32に蓋を閉めることができる。
【0037】
収容容器保持部80は、液体を収容した収容容器81を保持する部分である。図2に示すように、本実施形態では、収容容器保持部80は2箇所に配置されているが、1箇所のみに配置されていてもよい。本実施形態では、収容容器81に収容されている液体は所定の細胞を含む細胞懸濁液82である。この細胞懸濁液82に含まれる細胞は、本実施形態に係る自動培養システム100によって増殖したうえで(増殖工程)、回収したものである(回収工程)。なお、後述するように、収容容器81に収容された細胞懸濁液82は、上記の分注容器(マイクロプレート)32に分注される。
【0038】
制御部90は、CPU等によって構成されており、送液ユニット10の各構成要素を制御する部分である。具体的には、制御部90は、ピペッター20、テーブル30を回転駆動する回転駆動装置33、傾斜装置40、揺動装置50、及び蓋開閉装置70を制御することができる。制御部90による具体的な制御内容については、以下で説明する。
【0039】
<送液ユニットの動作>
次に、図7から図9を参照して、送液ユニット10の動作について説明する。以下で説明する送液ユニット10の動作は、制御部90により遂行される。なお、ここでは特に収容容器81に収容された細胞懸濁液82を分注容器32に分注する場合について説明する。つまり、送液ユニット10によって搬送する液体は細胞懸濁液82であり、搬送元が収容容器81であり、搬送先が分注容器32である。また、以下の説明において、分注容器32は、クリーンロボット104(図1参照)により既にテーブル30に乗せられているものとする。
【0040】
図7は、送液ユニット10の動作のフロー図である。まず、制御部90は、回転駆動装置33によりテーブル30を回転させ、分注を行う分注容器32を12時位置に配置し(ステップS1)、蓋開閉装置70によりって12時位置に配置された分注容器32の蓋を開ける(ステップS2)。
【0041】
続いて、制御部90は、傾斜装置40によって12時位置に配置された分注容器32を傾斜させる(ステップS3)。このように分注容器32を傾斜させると、各ウェル34に細胞懸濁液82を分注する際にウェル34の側壁に沿って細胞懸濁液を注入することができる。これにより、細胞懸濁液82内の細胞が適度に拡散して細胞をウェル34内で均一に定着させることができる。
【0042】
続いて、制御部90は、収容容器81内にチップ23を挿入してピペッティングを行う(ステップS4)。ここで「ピペッティング」とは、チップ23による液体の吸引と吐出を数回繰り返す作業をいう。このピペッティングを行うことで、収容容器81内の細胞懸濁液82内の細胞が拡散し、細胞の濃度が均一化される。なお、ピペッティングの回数は、使用者によって任意に設定できるように構成してもよい。
【0043】
続いて、制御部90は、チップ23に細胞懸濁液82を吸引させる(ステップS5)。そして、チップ23を上方に移動させて空気を吸引させることで、チップ23の先端に空気層を形成する(ステップS6)。ここで、図8は、チップ23の先端付近の拡大図であって、先端に空気層83を形成した状態を示した図である。図8に示すように、チップ23の先端に空気層83を形成することで、細胞懸濁液82の下面がチップ23の吸引口よりも上方に位置することになる。そのため、チップ23に多少の振動を加えたとしても、吸引口から細胞懸濁液82が漏れることはない。つまり、細胞懸濁液82の液だれを防止することができる。
【0044】
続いて、制御部90は、チップ23を廃液部60に移動させ(ステップS7)、チップ23が吸入した空気(空気層83)を全て吐出させる(ステップS8)。なお、チップ23が吸引した空気のみを吐出させるのが難しい場合には、空気とともに吸引した細胞懸濁液82の一部を吐出してもよい。細胞懸濁液82の一部が吐出されたとしても、それらは廃液部60に収容されるため、操作部108内で細胞懸濁液82が飛び散るようなことはない。このように、チップ23が吸引した空気を全て吐出させるのは、細胞懸濁液82の分注量(吐出量)を均一にするためである。例えば、チップ23の先端に空気層83が残っていれば、細胞懸濁液82を吐出させる際、はじめに空気が吐出されて規定量の細胞懸濁液82が吐出されなくなってしまう。
【0045】
続いて、制御部90は、分注容器32のうち最初に分注を行うウェル34にチップ23を移動させ(ステップS9)、そのウェル34内に細胞懸濁液82を吐出させる(ステップS10)。そして、細胞懸濁液82を吐出し始めてから所定時間待機する(ステップS11)。この待機時間は、細胞懸濁液82が吐出し終えるまでの時間を考慮したものであって、吐出量によってその長さが異なる。ここで、図9は吐出量と待機時間の関係を示した図である。例えば、各ウェル34に吐出する細胞懸濁液82の量が0.5mlである場合には、細胞懸濁液82を吐出し始めてから少なくとも1.5秒間待ってから次に分注を行うウェル34へと移動させる。また、図9から理解できるように、吐出する細胞懸濁液82の量が多くなるにつれて待機時間が長くなるように設定されている。
【0046】
このように待機時間が設定されているのは、吐出する細胞懸濁液82の量が多いと吸引ポンプ24とチップ23の間にある空気の圧力が高くなるからである。つまり、吸引ポンプ24とチップ23の間にある空気の圧力が上昇して元の圧力に戻るまで細胞懸濁液82は吐出され続けることになるが、その圧力が高い場合には元に戻るまでの時間が長くなるのである。その結果、細胞懸濁液82の吐出時間が長くなる。仮に細胞懸濁液82が吐出している間にチップ23を移動させると、本来吐出すべきでない位置に細胞懸濁液82が吐出されてしまう。換言すると、このように待機時間を設定することで、細胞の汚染を防止することができるとともに、細胞懸濁液82の吐出量が少ない場合には分注作業を効率よく進めることができる。なお、手作業で分注を行う場合には、細胞懸濁液82を吐出している途中でチップ23を移動させるようなことはしないため、上記のような問題は生じない。
【0047】
続いて、制御部90は、ステップS9からステップS11までを所定回数繰り返したか否かを判定する(ステップS12)。ステップS9からステップS11を所定回数繰り返していない場合には(ステップS12でNO)、ステップS9へ戻る。一方、所定回数繰り返している場合には(ステップS12でYES)、ステップS13に進む。このステップS12における繰返し回数(1回の吸引で分注する回数)は、使用者によって任意に設定できるようにしてもよい。この繰返し回数を多く設定すると、分注作業を早く終えることができるが、その反面、チップ23内の細胞懸濁液82の細胞が沈殿してしまい、吐出する細胞懸濁液82の細胞の量にばらつきが生じるおそれがある。そのため、細胞懸濁液82に含まれる細胞の比重や各ウェル34への吐出量などを考慮して、適切な繰返し回数を設定するのが望ましい。なお、本実施形態では、上記の繰返し回数は、ウェル34の総数の約数に設定されているものとする。
【0048】
続いて、制御部90は、全てのウェル34に細胞懸濁液82を吐出したか否かを判断する(ステップS13)。全てのウェル34に細胞懸濁液82を吐出していないと判断した場合には(ステップS13でNO)、ステップS4に戻る。一方、全てのウェル34に細胞懸濁液82を吐出したと判断した場合には(ステップS13でYES)、ステップS14へ進む。
【0049】
続いて、ステップS14に進んだ場合には、制御部90は、傾斜させていた分注容器32を元の水平状態に戻し(ステップS14)、蓋開閉装置70によって12時位置に配置されている分注容器32の蓋を閉める(ステップS15)。そして、制御部90は、回転駆動装置33によりテーブル30を回転させ、12時位置に配置されていた分注容器32を8時位置に配置する(ステップS16)。さらに、制御部90は、揺動装置50によって8時位置に配置された分注容器32を揺動させる(ステップS17)。この揺動作業を行うことで、細胞懸濁液82内の細胞が分散して分注容器32のウェル34内で均一に定着しやすくなる。以上が、送液ユニット10の動作の説明である。
【0050】
以上で説明したとおり、本実施形態に係る送液ユニット10は、搬送する液体の液だれや分注する細胞の不均一化など、培養作業を自動化する際に生じる問題を解決できるよう構成されている。そのため、本実施形態に係る送液ユニット10によれば、培養作業の自動化に寄与することができる。
【0051】
以上、本発明の実施形態に係る自動培養システム100及び送液ユニット10について説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、以上では、搬送する液体が細胞懸濁液である場合について説明したが、搬送する液体が培地など他の液体であったとしても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係る送液方法は、培養作業の自動化に寄与することができるため、細胞培養の技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0053】
10 送液ユニット
20 ピペッター
23 チップ
32 分注容器(マイクロプレート)
40 傾斜装置
50 揺動装置
60 廃液部
81 収容容器
82 細胞懸濁液(液体)
83 空気層
90 制御部
100 自動培養システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップを有するピペッターによって液体を搬送する送液方法であって、
液体を搬送する際、前記チップに搬送する液体を吸引させてからさらに空気を吸引させることで前記チップの先端に空気層を形成させ、その後、前記チップを液体の搬送先へと移動させて、前記チップが吸引した液体を吐出させる、送液方法。
【請求項2】
搬送する液体が細胞懸濁液であり、搬送元が前記細胞懸濁液を収容した収容容器であり、搬送先が分注を行う分注容器である、請求項1に記載の送液方法。
【請求項3】
前記チップを液体の搬送先へ移動させる際、前記液体の搬送先に至る前に前記チップが吸入した空気を吐出する、請求項2に記載の送液方法。
【請求項4】
前記チップに搬送する液体を吸引させる前に、前記収容容器内に前記チップを挿入してピペッティングを行う、請求項2又は3に記載の送液方法。
【請求項5】
前記チップが吸引した液体を吐出し始めてから少なくとも所定時間の間は前記チップの移動を停止し、前記所定時間は吐出する液体の量に応じて長くする、請求項2乃至4のうちいずれか一の項に記載の送液方法。
【請求項6】
前記チップが吸引した液体を前記分注容器で吐出させる際、前記分注容器を傾斜させる、請求項2乃至5のうちいずれか一の項に記載の送液方法。
【請求項7】
前記チップが吸引した液体を前記分注容器で吐出させた後、前記分注容器を揺動させる、請求項2乃至6のうちいずれか一の項に記載の送液方法。
【請求項8】
液体を搬送する送液ユニットであって、
液体を吸引するチップを有し、該チップが移動可能に構成されたピペッターと、
前記ピペッターを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、液体を搬送する際、前記チップに搬送する液体を吸引させてからさらに空気を吸引させることで前記チップの先端に空気層を形成させ、その後、前記チップを液体の搬送先へと移動させて、前記チップが吸引した液体を吐出させ、これにより液体を搬送する際に液だれを防ぐことができるよう構成されている、送液ユニット。
【請求項9】
搬送する液体が細胞懸濁液であり、搬送元が前記細胞懸濁液を収容した収容容器であり、搬送先が分注を行う分注容器である、請求項8に記載の送液ユニット。
【請求項10】
前記液体を廃棄する廃液部をさらに備え、
前記制御部は、前記チップを液体の搬送先へ移動させる際、前記廃液部を経由して前記チップが吸入した空気を前記廃液部に吐出させる、請求項9に記載の送液ユニット。
【請求項11】
前記制御部は、前記チップに搬送する液体を吸引させる前に、前記収容容器内に前記チップを挿入してピペッティングを行わせる、請求項9又は10に記載の送液ユニット。
【請求項12】
前記制御部は、前記チップが吸引した液体を吐出し始めてから少なくとも所定時間の間は前記チップの移動を停止し、前記所定時間は吐出する液体の量に応じて長くなるよう設定されている、請求項9乃至11のうちいずれか一の項に記載の送液ユニット。
【請求項13】
前記制御部の制御により前記分注容器を傾斜させることができる傾斜装置をさらに備え、
前記制御部は、前記チップが吸引した液体を前記分注容器で吐出させる際、前記傾斜装置により前記分注容器を傾斜させる、請求項9乃至12のうちいずれか一の項に記載の送液ユニット。
【請求項14】
前記制御部の制御により前記分注容器を揺動させることができる揺動装置をさらに備え、
前記制御部は、前記チップが吸引した液体を前記分注容器で吐出させた後、前記揺動装置により前記分注容器を揺動させる、請求項9乃至13のうちいずれか一の項に記載の送液ユニット。
【請求項15】
請求項8乃至14のうちいずれか一の項に記載の送液ユニットを含む自動培養システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−102723(P2013−102723A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247975(P2011−247975)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】