説明

逆方向治療計画法

本発明は、少なくとも2門の照射場を使用して生体系内のターゲットを治療する強度変調粒子線治療のための放射線治療装置と逆方向治療計画法に関する。その少なくとも2門の照射場は、それぞれ複数のブラッグ・ピークを含み、定義された数のビーム・スポットjを異なる方向から一定の重みwを付けてターゲット内部に位置決めするように計画される。この逆方向治療計画法では、生物学的効果εに基づいて目的関数を最小化することによって、ターゲット内に規定された生物学的効果を発生させるために、少なくとも2門の照射場のビーム・スポットの重みwを同時に最適化する。この生物学的効果εは、2つのパラメータαおよびβによってターゲット内の生物学的効果を記述する線形2次モデル(ここでε=αD+βD、Dは照射線量を表す)で扱われ、ターゲット(αおよびβ)のボクセルiごとの2つのパラメータαおよびβは、ボクセルi内の全照射線量Dに寄与するビーム・スポットj全てに関連付けられた、αi,j成分および√βi,j成分の照射線量平均した平均値として計算される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン・ビームを使用した放射線療法のための逆方向治療計画に関する。この逆方向治療計画は、いわゆる強度変調粒子線治療(IMPT)に適用することができる。強度変調粒子線治療とは、複数の照射場を使用し、全体で放射線療法の患者の組織に所望の生物学的効果分布を発生させる治療技術を指す。
【背景技術】
【0002】
放射線療法は、手術と化学療法に加えて、3つの主な腫瘍患者治療の選択肢のうちの1つである。ここ数年で研究・技術が進歩し、全ての放射線療法分野が著しく改良された。照射の大半は高エネルギー光子によって行われるが、もう1つの期待できる手法が、イオン・ビームを使用した治療である。このイオン・ビームによる治療は、X線とは荷電粒子の深部線量特性が異なるため、患者体内でのより優れた照射線量分布、したがってより高度な腫瘍のコントロールと、より少ない副作用を期待することができる。
【0003】
陽子ビームおよび重イオン・ビームを用いた治療が注目されているが、陽子療法において最も高度な技術は強度変調陽子療法である。この強度変調陽子療法では、スキャニング・パターンで患者に送出される狭いビーム・スポットを使用する。可能な限り最善の治療計画を達成するために、ビーム・スポットの強度は個別に変調され、その相対重みが最適化アルゴリズムで決定される。このプロセスは、従来の手法とは逆に、所与の(規定された)照射線量分布に対して最善の治療パラメータ・セットを機械的に見つけるという課題を解決するため、逆方向治療計画と呼ばれる。
【0004】
現在の陽子線の逆方向計画は、高速で信頼性のある照射線量計算のアルゴリズムに基づいている(NiIl、Bortfeld、Oelfke、「Inverse Planning of Intensity Modulated Proton Therapy」、Zeitschrift fur medizinische Physik 14 (1) (2004) 35-40参照)。ただし、陽子およびイオンの治療計画で注目すべきパラメータが物理的線量のみではないことは、荷電粒子ビームによって引き起こされる生物学的効果が物理的線量だけでなくビームのエネルギー・スペクトルにも依存するという実験的証拠があるので明らかである。つまり、異なるエネルギーを有する原子番号≧2の陽子またはイオンによってデリバリーされる物理的線量は同じでも、生物学的効果は同じにならない(例えば、細胞生存の点からみて)。したがって、物理的線量のみを考慮しても不十分である。その代わりに、生物学的効果比(RBE)の3次元変化量を考慮する必要がある(Wilkens、Oelfke「A phenomenological model for the relative biological effectiveness in therapeutic proton beams」、Phys. Med. Biol. 49 (2004) 2811-2825参照)。RBEは、同じ生物学的効果(例えば、細胞生存)をもたらすのに必要な基準放射線の線量と各荷電粒子線量の比として定義される。つまり、スキャニング・ビーム送出技術を使用したイオン・ビームによる強度変調放射線療法のための逆方向計画では、物理的線量の分布を最適化するのではなく、生物学的効果(RBEx線量)を最適化する必要がある。
【0005】
現在の技術で知られている逆方向計画法の中には生物学的効果を考慮しているものもあるが、そういった方法では多門照射を同時に最適化することができない上、治療計画の逐次最適化計算に長時間を要する。さらに、こういった従来技術の方法では、互いに相容れない最適化目標といったよくあるケース(例えば、ターゲットに均一で高い効果を与え、かつリスク臓器や健康な組織を温存する、など)を明らかにすることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、従来技術の不利な点を回避し、特に、イオン・ビームを使用した強度変調放射線療法における生物学的効果の同時多門最適化を高速で行う方法を提供するという目的に基づく。具体的には、この方法により、放射線ターゲットおよびリスク臓器に対する生物学的効果線量の制約条件に基づいて最適化が行われる、完結した逆方向治療計画が可能となるはずである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらの目的は、少なくとも2門の照射を使用して生体系内のターゲットを治療する強度変調粒子線治療のための逆方向治療計画法によって達成され、その少なくとも2門の照射場は、それぞれ複数のブラッグ・ピークを含み、定義された数のビーム・スポット(j)を異なる方向から一定の重みwを付けてターゲット内部に位置決めするように計画される。この逆方向治療計画法は、生物学的効果εに基づいて目的関数を最小化することによって、ターゲット内に規定された生物学的効果を発生させるために、少なくとも2門の照射場のビーム・スポットの重みwを同時に最適化する。生物学的効果εは、2つのパラメータαおよびβでターゲット内の生物学的効果を記述する線形2次モデル(ここでε=αD+βD、Dは照射線量を表す)で扱われ、ターゲット(αおよびβ)のボクセルiごとの2つのパラメータαおよびβは、ボクセルi内の全照射線量Dに寄与する全てのビーム・スポットj全てに関連付けられた、αi,j成分および√βi,j成分の照射線量平均した平均値として計算される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この文脈では、強度変調粒子線治療(IMPT)は、イオン・ビーム強度変調放射線療法(IMRT)という用語と同様に使用され、各照射ごとに一様でない生物学的効果分布をターゲットに作り出す、多門照射(ビーム・ポート)を使用する照射技術であるとみなされる。各照射場はいずれも、重みが最適化された多数の個別ブラッグ・ピーク(ビーム・スポットまたはスキャン位置)で構成され、これらの照射場が全体として、ターゲットに所望の生物学的効果分布を発生させる。
【0009】
本発明による逆方向治療計画法は、最も軽いイオン種として陽子による、あるいは炭素イオンなどの2以上の原子番号をもつイオンのビームのターゲット治療計画に適用されることが好ましい。これは、生物学的効果比(RBE)の空間的変動が見られる放射線タイプ全ての治療計画に使用することができる。生体系内部で治療を受けるターゲットとは、例えば患者体内の腫瘍などがある。
【0010】
本発明による方法を用いると当然ながら、1門照射の荷電粒子ビーム(拡大ブラッグ・ピーク)ための生物学的効果の逆方向計画も可能になる。この手法の革新的な特徴は、最適化プロセスで、放射線ターゲットとリスク臓器を同時に考慮することができることである。さらに、この方法によって、様々なα値とβ値を特徴とする各種組織の様々な比率感度が明らかになる。
【0011】
本発明による方法では、異なる方向から一定の重みwを付けた定義された数のビーム・スポットjを使用するターゲットの治療が計画される。強度変調荷電粒子ビームの送出には、スポット・スキャニング装置またはラスタ・スキャニング装置が一般に使用される。したがって、ビーム・スポットごとに、重みを最適化する必要があるだけでなく、入射粒子のエネルギーと直接相関関係にある、ビーム・スポットごとのブラッグ・ピークの深さ方向の位置も定義する必要がある。腫瘍の大きさをスキャニング装置でサンプリングするには、数多くのビーム・スポットをターゲットの内部の様々な位置に配置しなければならない。周知のスキャニング技術間における主な差異は、使用するビーム・スポットの位置と数である。こういった方法のうちの2つに、例えば遠位辺縁追跡法(DistalEdge Tracking、DET)と3次元技法がある。遠位辺縁追跡技法で使用するビーム・スポット全てのブラッグ・ピーク位置は、ターゲットの遠位辺縁のみに配置される。腫瘍の遠位辺縁を追跡するには、スポット毎に、能動的なエネルギー変更を行っても、受動的なレンジ・シフタ(粒子のエネルギーを低減するためにビームに挿入する物質)を使用してもよい。ビーム・スポットの横方向の分布には、規則的なスキャニング・グリッドを使用する(磁気掃引)3次元技法では、ビーム・スポットのブラッグ・ピークは、腫瘍の遠位辺縁だけでなく、腫瘍の内部にも配置される。腫瘍の内部に使用されるスポットの位置(ブラッグ・ピーク)は、主としてスキャニング装置に依存する。本発明による逆方向治療計画法では、荷電粒子ニードル・ビームの本数および方向と、ニードル・ビームによって位置決めされる被照射ターゲット内部のビーム・スポットjの位置が、最適化手法で使用するデータの一部として入力される。スポットの位置の選択は、計画ツールで自動的に行うことができる。この各ビーム・スポットの重みwが、そのスポットへ送出される荷電粒子数を定義し、本発明による計画法で最適化される。
【0012】
本発明の1つの利点は、本発明を用いると多門最適化が可能になることである。生物学的効果が少なくとも2門の照射に対して同時に最適化される。この少なくとも2門の照射場のビーム・スポットjの、重みwが、ターゲットに規定された生物学的効果を発生させるように同時に最適化される。この重みは互いに依存している。例えば、この生物学的効果により、一定の照射線量Dにおける細胞生存率S(D)/Sが決まる。
【0013】
現在の技術による逆方向治療計画法では、最適化は通常、例えば2次の目的関数である以下の式:
【数7】

などの、照射線量に基づいて目的関数を最小化することによって行われる。ここで、照射線量Dと規定照射線量Dτの差の2乗が、ターゲットTにおける全てのボクセルiについて合計される。リスク臓器に対しても、同様の適切な制約条件の式が立てられる。最適化は、この照射線量に基づく目的関数を、反復法を使用して最小化することによって行われる。その目標とは、得られる照射線量が臨床上の所望の目標に合致するように、重みベクトルwの集合を見つけることである。
【0014】
本発明による計画法は、照射線量に基づく目的関数の代わりに、効果に基づく目的関数を使用することによって、生物学的効果を直接的に最適化する。したがって、照射線量Dが生物学的効果εと置き換えられる。ターゲットで生物学的効果を均一に得るために、照射線量は周知の線形2次モデルから求められる生物学的効果と置き換えられる。線形2次モデルは、2つの反応パラメータαおよびβと、照射線量Dとで、ε=αD+βDを用いて生物学的効果を記述する。
【0015】
規定生物学的効果ετは、例えばετ=αττ+βττによって与えられる。ここで、ατおよびβτはターゲットのX線反応パラメータ、Dτは規定光子線量である。イオン反応は、α(ベクトルw)およびβ(ベクトルw)を使用して計算される。本発明による逆方向治療計画法で最適化を行うための生物学的な入力として、ターゲット内のαおよびβの3次元分布、すなわちαi,jとβi,jの行列がビーム・スポットごとに個別に必要である。ここで、iはボクセル、jはビーム・スポットを表す。この行列は、最適化前に1回だけ算定すればよく、それによって処理手順全体が非常に高速になる。αi,jおよびβi,jの値は、放射線がそのボクセルに達するまでに透過する必要がある深さのボクセルiにおける組織のタイプと、そのボクセルの中心軸から横方向の距離と、スポットjの線量測定特性(例えば初期エネルギーなど)とに依存する。与えられるビーム・スポットでは、これらの値はすでに、核相互作用プロセスと核破砕プロセスで生成される1次粒子および全ての2次粒子による全作用を含んでいる。αi,jとβi,j全体の行列は比較的大きくなるが、近似することによって比較的少数の値まで小さくすることができる。最適化自体は、こういった行列がどのように計算されたかに全く依存せず、このため本発明による方法は、生物学的な入力データに関して非常に柔軟性に富んだものとなる。原則的に、任意の放射線生物学的モデル(例えば、LocalEffectModel(局所的効果モデル)−LEM)を使用、さらにはαおよびβについて単一のブラッグ・ピークにおける深さの関数として直接測定したデータを使用することができる。
【0016】
本発明による逆方向治療計画法では、ターゲットの各ボクセルiごとの2つのパラメータαおよび√βが、ボクセルi内の全照射線量Dに寄与するN個のビーム・スポットj全てに関連付けられた、αi,j成分および√βi,j成分の照射線量平均した平均値として計算される。ターゲットを照射するN個のビーム・スポットの集合と、ビーム・スポットjの単位作用当たりの、ボクセルiに対する照射線量寄与を表すDi,jを使用して、ボクセルiにおける全照射線量Dは、以下によって与えられる:
【数8】

ここで、wは、ビーム・スポットjの作用の相対重みを表す。α、βおよびDからなるこの計算に少なくとも2門の照射全てのN個のビーム・スポットjを全て含めることによって、この効果に基づく目的関数を最小化すれば、同時多門最適化が可能になる。
【0017】
この効果に基づく目的関数は、ターゲットに対する最小効果レベルと最大効果レベルや、リスク臓器に対する最大作用などの、制約条件を含むことができる。したがって、本発明による逆方向治療計画法は、様々な最適化の目標を含むことができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態によると、目的関数は以下の式に基づいて最小化される。
【数9】

ここで、εはターゲットのボクセルiにおける生物学的効果、ベクトルwはビーム・スポットの重み、ετは基準放射線の規定された生物学的効果を表す。目的関数は、以下の式:
【数10】

に基づいて最小化されるのが好ましい。ここで、Dはボクセルiにおける少なくとも2門の照射の全照射線量、αおよびβはボクセルiにおけるα値およびβ値を表す。ここで、
【数11】

であり、Di,jは単位作用に対する、ボクセルiにおけるビーム・スポットjの照射線量寄与を表し、Nはボクセルiにおける照射線量Dへ寄与するビーム・スポット数、wはビーム・スポットjの重み付け係数を表し、規定生物学的効果(ετ)は、以下の式によって与えられる。
【数12】

ここで、ατおよびβτはターゲットのX線反応パラメータ、Dτは規定光子線量を表す。この目的関数を最小化すると、規定生物学的効果、したがって、例えば放射線ターゲットにおける均一な各分布など、生物学的効果比と照射線量の積の必要な分布が導かれる。
【0019】
さらに、本発明による逆方向治療計画法では、ターゲットに対する最小/最大生物学的効果レベルおよび生体系内部のリスク臓器に対する最大作用レベルに関連付けられた制約条件も含んだ目的関数を、最小化することができる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によれば、ターゲット(αおよびβ)のボクセルiごとの2つのパラメータαおよびβは、以下の式の照射線量平均した平均値として計算される。
【数13】

>0の場合
【数14】

ここで、Nはボクセルiにおける全照射線量Dへ寄与するビーム・スポットの数、Di,jはビーム・スポットjからの単位作用に対する照射線量寄与、wは重み付け係数である。
【0021】
αi,j成分および√βi,j成分は、放射線生物学的モデルから、またはαおよびβについて単一のブラッグ・ピークにおける深さの関数として直接測定したデータから導き出されるのが好ましい。
【0022】
本発明による逆方向治療計画法を用いると、生物学的な入力を非常に柔軟に行うことができるようになる。必要であれば、αi,j行列とβi,j行列を満たすために非常に複雑なアルゴリズムを使用することもでき、そうしても最適化自体の速度に影響を及ぼさない。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、一定の値βi,j=βが設定される。この値は、ボクセルiにおける組織タイプのみに依存する。この近似により、βi,j行列が比較的少数の値まで小さくなり、したがって、逆方向治療計画の計算時間を短縮する効果がある。高い線エネルギー付与放射線を用いる治療状況では、αがβよりも重要である、すなわち、こういった放射線ではα/β比が比較的大きく、RBEはαパラメータの変動でほぼ決まることが予想される。βの変動は、特に1分割ごとの治療線量が5Gyをかなり下回る場合はそれほど重要ではなく、このためβの粗い近似の導入が妥当であることが示される。βi,j行列をできる限り簡易な状態に保つために、定数βを仮定し、例えばそれを基準放射線の値βに設定する(すなわちβi,j=β=β)。この値は、ボクセルiにおける組織タイプのみに依存する。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、αi,j成分が、横方向に一定であると仮定され、初期ビーム・エネルギーとは独立した飛程の関数として、単一の曲線から抽出される。所与のjに対するαi,jの計算は、中心軸の項αcax(Z)(深さZにおける深さ線量曲線に対応)と軸外の深さ依存の項αlat(r,z)とに分解することによって、照射線量計算アルゴリズムと同様に行うことができる。ここで、rはスポットjの中心軸からのボクセルiの距離である。単純化のために、軸外の挙動は、αlat(r,z)=lと設定することによって無視する、すなわち横方向に一定なαを仮定する。つまり、局所的粒子のスペクトルにおける横方向の変動は考慮しない(例えば、rが大きくなっても1次粒子の平均エネルギーの減少がわずかである場合や、中心軸から遠くに散乱するほど2次粒子が重要になっていく場合など)。ただし、これらの効果は比較的小さく、横方向のRBE分布に対して強い影響力を有するとは想定されない。この横方向のRBE分布は、照射線量が低下するためrに伴う増加よってほぼ与えられる。さらに、飛程の関数としてのαcaxは、初期ビームエネルギーの変化の影響を受けにくいということが判明した。
【0025】
本発明はさらに、イオン・ビーム、好ましくは原子番号≧2のイオンのビーム、最も好ましくは炭素イオン・ビームを使用した腫瘍の治療を計画するための本発明による逆方向治療計画法の使用に関する。
【0026】
本発明はさらに、少なくとも2門の照射を発生させる手段を備える、放射線治療を生体系内のターゲットにデリバリーするための放射線治療装置に関し、その少なくとも2門の照射場が、それぞれ複数のブラッグ・ピークを含み、定義された数のビーム・スポットjを異なる方向から一定の重みwを付けてターゲット内部に位置決めするように設けられる。この放射線治療装置はさらに、放射線治療の前に、生物学的効果εに基づいて目的関数を最小化することによって、ターゲット内に規定された生物学的効果を発生させるために、少なくとも2門の照射場のビーム・スポットの重みwを同時に最適化するように設けられた、逆方向治療計画のための手段を備え、生物学的効果εは、2つのパラメータαおよびβによってターゲット内の生物学的効果を記述する線形2次モデルで扱われ(ここでε=αD+βD、Dは照射線量を表す)、ターゲット(αおよびβ)のボクセルiごとの2つのパラメータαおよびβは、ボクセルiにおける全照射線量Dに寄与するビーム・スポットj全てに関連付けられた、αi,j成分および√βi,j成分の照射線量平均した平均値として計算される。本発明の放射線治療装置は、上述の本発明による逆方向治療計画法の全てのステップを実行する手段を備えることが好ましい。
【実施例】
【0027】
本発明による逆方向治療計画法の多門最適化の可能性を実証するために、同時に最適化される2つの対向する照射場の1次元の例を示す。この例を、両方の照射場が別々に最適化されてから最終計算ステップで合計される、1門照射の最適化と比較する。長さ38mmのターゲットが、厚み254mmの人体模型の中心に配置されていると仮定された。最適化の目標は、ターゲット内に3GyEをデリバリーし、かつターゲットの外側にある組織(リスク臓器と定義される)をできるたけ温存することであった。脊索腫のデータセットαi,jおよびβi,jが、その人体模型全体にわたって使用された。人の脳組織における限定的な晩期反応を説明する目的にも同じパラメータを使用することもできる。1門照射の最適化では、各照射場が、ターゲットに1.89GyEを与える(合計3Gyになる)ように最適化された。
【0028】
照射線量およびRBEx照射線量の分布全体の結果が、図1に示されている。上側の1対の線は、水中で炭素イオンによる2つの対称的な対向するビーム・ポートを使用する2門照射計画(生物学的ターゲット:脊索腫細胞)についての、深さdに対するRBEx照射線量を示し、下側の1対の線は、深さdに対する物理的線量Dを示す。各照射場が別々に最適化された1門最適化の結果(実線)と、本発明の方法による同時多門最適化の結果(破線)が示されている。これらの最適化方法はどちらも、生物学的効果はターゲット内において均一に同じレベルになるが、本発明による多門最適化では、温存される正常組織が増えていることがはっきり分かる。
【0029】
図2には、左側のみの横方向の照射場に対する寄与が示されている(右側の横方向の照射場は、左側のものと対称的である)。上側の線は、RBEx照射線量を示し、下側の線は、左側から入射する照射場が寄与する物理的線量Dである。これには、1門最適化(実線)と多門最適化(破線)との差がはっきりと示されている。多門最適化では、1本のビームに対する生物学的効果のみでは、ターゲットにおいて均一にならない。その代わりに、より高い照射線量がターゲットの遠位部位にデリバリーされる。こういった不均一な部分照射場は、「遠位辺縁追跡」などのような解決策に類似している。このタイプの不均一な部分照射場は本発明による多門最適化と組み合わせて使用すると、ターゲットの遠位部位にあるビーム・スポットが最適な「照射線量対ターゲット/照射線量対正常組織」比を有するので、正常組織をより温存することができる。
【0030】
したがって、本発明による方法から得られる治療計画は、例えば正常組織およびリスク臓器の温存を改善するなどにより、かなり強化できることが判明した。強度変調粒子線治療と本発明の方法の多門最適化を使用すると、イオン用の治療計画における高い自由度をよりうまく利用することができる。さらに、この方法により、時間的に効率の良い最適化を行う際に適度な数のビーム・スポットによる多門照射計画の利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は照射線量およびRBEx照射線量の分布全体の結果を示す。
【図2】図2は、左側のみの横方向の照射場に対する寄与を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2門の照射を使用して生体系内部のターゲットを治療する強度変調粒子線治療のための逆方向治療計画法において、前記少なくとも2門の照射場が、それぞれ複数のブラッグ・ピークを含み、定義された数のビーム・スポットjを異なる方向から一定の重みwを付けて前記ターゲット内部に位置決めするように計画される逆方向治療計画法であって、前記逆方向治療計画法が、生物学的効果εに基づいて目的関数を最小化することによって、前記ターゲット内に規定された生物学的効果を発生させるために、前記少なくとも2門の照射場の前記ビーム・スポットの前記重みwを同時に最適化し、前記生物学的効果εが、前記ターゲット内の前記生物学的効果を2つのパラメータαおよびβで記述する線形2次モデルで扱われ、ここでε=αD+βDであり、Dは照射線量を表し、αおよびβという前記ターゲットのボクセルiごとの前記2つのパラメータαおよびβが、前記ボクセルi内の全照射線量Dに寄与するビーム・スポットj全てに関連付けられた、αi,j成分および√βi,j成分の照射線量平均した平均値として計算されることを特徴とする、逆方向治療計画法。
【請求項2】
式、
【数1】

に基づく目的関数が最小化され、εが、前記ターゲットの前記ボクセルi内の前記生物学的効果を表し、ベクトルwが、前記ビーム・スポットの前記重みを表し、ετが、基準放射線の前記規定された生物学的効果を表す、請求項1に記載の逆方向治療計画法。
【請求項3】
式、
【数2】

に基づく目的関数が最小化され、Dが、ボクセルi内の前記少なくとも2門の照射の前記全照射線量を表し、αおよびβが、ボクセルiにおけるα値およびβ値を表し、ここで
【数3】

であり、Di,jが、ボクセルiにおけるビーム・スポットjの単位作用に対する照射線量寄与を表し、Nが、ボクセルiにおける前記照射線量Dに寄与するビーム・スポット数を表し、wが、ビーム・スポットjの重み付け係数を表し、前記規定された生物学的効果ετが、
【数4】

によって与えられ、ατおよびβτが、前記ターゲットのX線反応パラメータであり、Dτが、規定された光子線量を表す、請求項1または2に記載の逆方向治療計画法。
【請求項4】
前記ターゲットに対する最大および最小の生物学的効果レベルと、前記生体系内のリスク臓器または正常組織に対する最大作用レベルとに関連付けられた制約条件を含んだ目的関数が最小化される、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の逆方向治療計画法。
【請求項5】
前記ターゲット(αおよびβ)のボクセルiごとの前記2つのパラメータαおよびβが、式、
【数5】

>0の場合、
【数6】

の照射線量平均した平均値として計算され、Nが、ボクセルi内の前記全照射線量Dに寄与するビーム・スポット数である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の逆方向治療計画法。
【請求項6】
前記αi,j成分および√βi,j成分が、放射線生物学的モデルから、またはαおよびβについて単一のブラッグ・ピークにおける深さの関数として直接測定したデータから導き出される、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の逆方向治療計画法。
【請求項7】
一定の値βi,j=βが設定され、βがボクセルiにおける組織タイプのみに依存する、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の逆方向治療計画法。
【請求項8】
前記αi,j成分が横方向に一定であると仮定され、初期ビーム・エネルギーとは独立して、飛程の関数として単一の曲線から抽出される、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の逆方向治療計画法。
【請求項9】
原子番号≧2のイオンを含んだイオン・ビームによる腫瘍の前記治療を計画するための、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の逆方向治療計画法の使用法。
【請求項10】
少なくとも2門の照射場を発生させる手段を備える、生体系内のターゲットに放射線治療をデリバリーするための放射線治療装置において、前記少なくとも2門の照射場が、それぞれ複数のブラッグ・ピークを含み、定義された数のビーム・スポットjを異なる方向から一定の重みwを付けてターゲット内部に位置決めするように設けられた放射線治療装置であって、前記放射線治療前に、生物学的効果εに基づいて目的関数を最小化することによって、前記ターゲット内に規定された生物学的効果を発生させるために、前記少なくとも2門の照射場の前記ビーム・スポットの前記重みwを同時に最適化する逆方向治療計画手段が設けられ、前記生物学的効果εが、前記ターゲット内の前記生物学的効果を2つのパラメータαおよびβで記述する線形2次モデルで扱われ、ここでε=αD+βDであり、Dは照射線量を表し、前記ターゲットαおよびβというボクセルiごとの前記2つのパラメータαおよびβが、前記ターゲット(α,β)のボクセルiごとの前記2つのパラメータαおよびβが、前記ボクセルi内の全照射線量Dに寄与するビーム・スポットj全てに関連付けられた、αi,j成分および√βi,j成分の照射線量平均した平均値として計算されることを特徴とする放射線治療装置。



【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−525797(P2009−525797A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−553731(P2008−553731)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051036
【国際公開番号】WO2007/090798
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(504385513)
【Fターム(参考)】