説明

透明導電性酸化物膜付基板の製造方法

【課題】透明導電性酸化物膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)が小さな透明導電性酸化物膜付基板を好適に製造し得る方法を提供する。
【解決手段】基板の上に透明導電性酸化物膜を形成する。研磨剤を含まない酸性溶液またはアルカリ性溶液を透明導電性酸化物膜の表面に供給しながら擦る処理工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電性酸化物膜付基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL素子等の様々な素子に、透光性を有する透明電極が用いられている。透明電極は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)などの透明導電性酸化物により構成できることが知られている。
【0003】
例えば有機EL素子において、陽極を構成しているITO膜の表面に突起が存在すると、突起が存在している部分における陽極と陰極との間の距離が短くなり、リーク電流が発生しやすくなるという問題がある。
【0004】
このような問題に鑑み、特許文献1では、有機EL素子の陽極の有機膜と接合する面の表面粗さの最大高さ(Rmax)を50Å以下とすることが提案されている。特許文献1には、有機EL素子の陽極の表面の表面粗さの最大高さ(Rmax)を50Å以下とする方法として、スパッタリング法や電子ビーム法等により形成したITO膜の表面を、ポリッシング、ラッピング、テープラッピングなどの手法により研磨する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−245965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、研磨剤を用いてITO膜の表面を研磨すると、ITO膜の表面が傷つくという問題がある。また、研磨剤を用いてITO膜の表面を研磨して表面粗さの最大高さ(Rmax)を小さくするためには長時間を要するという問題もある。
【0007】
本発明は、透明導電性酸化物膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)が小さな透明導電性酸化物膜付基板を好適に製造し得る方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る透明導電性酸化物膜付基板の製造方法では、基板の上に透明導電性酸化物膜を形成する。研磨剤を含まない酸性溶液またはアルカリ性溶液を透明導電性酸化物膜の表面に供給しながら擦る処理工程を行う。
【0009】
処理工程において、酸性溶液またはアルカリ性溶液を含浸させた樹脂製多孔質体で透明導電性酸化物膜の表面を擦ることが好ましい。
【0010】
樹脂製多孔質体は、ポリオレフィンからなることが好ましく、なかでもポリエチレンからなることがより好ましい。
【0011】
樹脂製多孔質体の気孔率は、30体積%〜95体積%であることが好ましい。
【0012】
処理工程において、酸性溶液またはアルカリ性溶液中に透明導電性酸化物膜を浸漬した状態で、樹脂製多孔質体で透明導電性酸化物膜の表面を擦ることが好ましい。
【0013】
酸性溶液として、塩酸水溶液を用いることが好ましく、アルカリ性溶液として水酸化カリウム水溶液を用いることが好ましい。
【0014】
透明導電性酸化物膜が、スズ及び亜鉛の少なくとも一方を含む酸化物からなることが好ましい。
【0015】
透明導電性酸化物膜を、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法により形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透明導電性酸化物膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)が小さな透明導電性酸化物膜付基板を好適に製造し得る方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0018】
本実施形態では、有機EL素子等に使用される透明導電性酸化物膜付基板の製造方法について説明する。
【0019】
まず、基板の上に透明導電性酸化物膜を形成する。基板の種類は特に限定されない。基板としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等を用いることができる。なお、ガラス基板には、結晶化ガラス基板が含まれるものとする。
【0020】
透明導電性酸化物膜は、例えば、スズ及び亜鉛の少なくとも一方を含む酸化物により構成することができる。スズ及び亜鉛の少なくとも一方を含む酸化物の具体例としては、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)等が挙げられる。
【0021】
透明導電性酸化物膜の形成方法としては、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法等が挙げられる。
【0022】
透明導電性酸化物膜の厚みは、特に限定されず、例えば、50nm〜200nm程度とすることができる。
【0023】
透明導電性酸化物膜を、スパッタリング法等により形成した場合、透明導電性酸化物膜の表面に突起が形成される。このため、次に、処理工程を行い、透明導電性酸化物膜の突起を除去する。
【0024】
具体的には、処理工程において、研磨剤を含まない酸性溶液またはアルカリ性溶液を透明導電性酸化物膜の表面に供給しながら擦る。このようにすることにより、透明導電性酸化物膜の表面を傷つけることなく、突起を効率的に除去することができる。従って、本実施形態の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法によれば、透明導電性酸化物膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)が小さな透明導電性酸化物膜付基板を好適に製造し得る。
【0025】
なお、本発明において、表面最大粗さ(Rpv)とは、JISB0601:2001により規定された粗さ曲線における最大山高さ(Rp)と最大谷深さ(Rv)の差である。
【0026】
例えば、擦らずに、酸性溶液またはアルカリ性溶液を透明導電性酸化物膜の表面に供給することのみにより突起を除去することも考えられる。この場合は、透明導電性酸化物膜の表面を傷つけない。しかしながら、突起の除去に長時間を要する。それに対して、本実施形態のように研磨剤を含まない酸性溶液またはアルカリ性溶液を透明導電性酸化物膜の表面に供給しながら擦ることにより、透明導電性酸化物膜の表面を傷つけずに短時間の間に突起を除去することができる。
【0027】
透明導電性酸化物膜を擦る部材は、特に限定されないが、例えば、樹脂製多孔質体が好ましく用いられる。なかでも、ポリオレフィンからなる樹脂製多孔質体、さらには、ポリエチレンからなる樹脂製多孔質体がより好ましく用いられる。樹脂製多孔質体の気孔率は、30体積%〜95体積%であることが好ましく、60体積%〜80体積%であることがより好ましい。これらの樹脂製多孔質体に酸性溶液またはアルカリ性溶液を含浸させて透明導電性酸化物膜の表面を擦ることにより、透明導電性酸化物膜の表面を傷つけることなく、突起をより効率的に除去することができる。
【0028】
また、処理工程において、酸性溶液またはアルカリ性溶液中に透明導電性酸化物膜を浸漬した状態で樹脂製多孔質体で透明導電性酸化物膜の表面を擦ることがより好ましい。そうすることにより、擦っている最中に透明導電性酸化物膜の表面に新たな酸性溶液またはアルカリ性溶液を効率的に供給することができる。従って、突起の除去効率をさらに高めることができる。
【0029】
酸性溶液の種類は特に限定されない。酸性溶液としては、塩酸水溶液、硝酸水溶液、硫酸水溶液等が好ましく用いられる。なかでも、塩酸水溶液、特に希塩酸水溶液がより好ましく用いられる。
【0030】
酸性溶液の濃度は、0.5規定〜12規定であることが好ましく、0.5規定〜1規定であることがより好ましい。
【0031】
アルカリ性溶液の種類は特に限定されない。アルカリ性溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が好ましく用いられる。なかでも水酸化カリウム水溶液がより好ましく用いられる。
【0032】
アルカリ性溶液の濃度は、0.1規定〜1規定であることが好ましく、0.1規定〜0.5規定であることがより好ましい。
【0033】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0034】
(実施例1)
日本電気硝子社製無アルカリガラスOA−10からなるガラス基板の上に、スパッタリング法により、厚み150nmのITO膜を形成した。形成されたITO膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)を、AFMを用いて測定したところ、10μm角の測定範囲で31nmであった。
【0035】
次に、外形が40mmの塩化ビニル製のパイプに固定した、気孔率が60体積%であるポリエチレン製の多孔質体を用いて、1規定の希塩酸水溶液中に浸漬したITO膜を、一の方向に沿って70回擦った後に、一の方向に対して垂直な他の方向に沿って70回擦った。この処理に要した時間は、大凡240秒であった。その後、ITO膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)を、AFMを用いて再度測定したところ、11nmであった。
【0036】
(比較例1)
実施例1と同様にして作製したITO膜を1規定の希塩酸水溶液中に360秒間浸漬し、擦らなかった。その後、ITO膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)を、AFMを用いて再度測定したところ、35nmであった。
【0037】
(実施例2)
1規定の希塩酸水溶液に変えて、0.5規定のKOH水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてITO膜の表面を擦った。その後、ITO膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)を、AFMを用いて再度測定したところ、22nmであった。
【0038】
以上の結果から、ITO膜の表面に酸性溶液またはアルカリ性溶液を供給しながら擦ることにより、効率的に突起を除去できることが分かる。
【0039】
(実施例3)
ポリエチレン製の多孔質体に替えて、気孔率が90体積%であるポリビニルアルコール製の多孔質体を用いたこと以外は実施例1と同様にしてITO膜の表面を擦った。その後、ITO膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)を、AFMを用いて再度測定したところ、17nmであった。
【0040】
(実施例4)
ポリエチレン製の多孔質体に替えて、気孔率が83体積%であるポリウレタン製の多孔質体を用いたこと以外は実施例1と同様にしてITO膜の表面を擦った。その後、ITO膜の表面の表面最大粗さ(Rpv)を、AFMを用いて再度測定したところ、15nmであった。
【0041】
実施例1〜4の結果から、ポリエチレン製の多孔質体を用いることにより、突起をより効率的に除去できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に透明導電性酸化物膜を形成する工程と、
研磨剤を含まない酸性溶液またはアルカリ性溶液を前記透明導電性酸化物膜の表面に供給しながら擦る処理工程と、
を備える、透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項2】
前記処理工程において、前記酸性溶液または前記アルカリ性溶液を含浸させた樹脂製多孔質体で前記透明導電性酸化物膜の表面を擦る、請求項1に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂製多孔質体がポリオレフィンからなる、請求項2に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂製多孔質体がポリエチレンからなる、請求項3に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂製多孔質体の気孔率が、30体積%〜95体積%である、請求項2〜4のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項6】
前記処理工程において、前記酸性溶液または前記アルカリ性溶液中に前記透明導電性酸化物膜を浸漬した状態で、前記樹脂製多孔質体で前記透明導電性酸化物膜の表面を擦る、請求項2〜5のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項7】
前記酸性溶液として、塩酸水溶液を用いる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ性溶液として、水酸化カリウム水溶液を用いる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項9】
前記透明導電性酸化物膜は、スズ及び亜鉛の少なくとも一方を含む酸化物からなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。
【請求項10】
前記透明導電性酸化物膜を、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法により形成する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の透明導電性酸化物膜付基板の製造方法。

【公開番号】特開2013−101790(P2013−101790A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244062(P2011−244062)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】