説明

透明磁性凹版印刷インク

本発明は、40℃における粘度が3Pa.s〜15Pa.s、好ましくは5〜10Pa.sであり、ポリマー性の有機バインダー及び磁性顔料粒子を含む彫刻凹版鋼製金型印刷法のためのインクであって、前記磁性顔料粒子が少なくとも1つの別材料の層によって覆われている磁性コア材料を含むことを特徴とする、彫刻凹版鋼製金型印刷法のためのインクを開示する。被覆層は、単一で又は組み合わせで、高い正反射率又は拡散反射率、スペクトル選択性の吸収又は反射、及び角度依存性の吸収又は反射から選択される、可視及び/又は近赤外における特定の光学特性を顔料粒子に与え、広い色域及び他の光学的機能性を有するインクの調合を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、パスポート、又はカードなどのセキュリティ文書に関し、特に透明磁性顔料を含む新しい凹版印刷インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性インクは、印刷された通貨に追加の秘密のセキュリティ要素を与えるために、昔から紙幣印刷の分野で使用されている。電子的手段によって磁気を容易に感知することができれば、磁性インクで印刷された機能は機械認証にも適する。
【0003】
磁気貨幣機能の使用例は、US3,599,153及びUS3,618,765に開示されている。磁気貨幣機能は好ましくは「銅板凹版」印刷法によって塗布され、この方法によれば、磁性材料の検出及び感知を可能にするのに十分量の磁性材料を紙に被着させることができる。
【0004】
紙幣印刷は「銅板凹版」印刷法(彫刻鋼製金型ロータリ印刷法)を使用することを特徴としており、この方法は自ずとセキュリティの要素を構成し、印刷された文書に明確な感触を与える。
【0005】
彫刻凹版鋼製金型ロータリ印刷では、印刷しようとするパターン又は画像を有する回転彫刻凹版シリンダに、1つ又は複数の雛形インキングシリンダによってインクを供給し、それによって異なる色のインクのパターンが印刷シリンダへ転写される。インキングに続いて、印刷シリンダの平面上の過剰なインクを「プラスチゾル(plastisol)」で被覆された回転ワイピングシリンダによって拭き取る。
【0006】
印刷シリンダの彫り込み部に残ったインクは、印刷しようとする基材(シート状又はウェブ状の紙又はプラスチック材料であってもよい)上に加圧下で転写される。印刷プロセスの間、彫刻凹版シリンダと印刷しようとする基材との間に高い圧力がかけられ、基材の変形(エンボス)を生じさせる。この高圧の印刷プロセスにより紙幣の特徴的な感触が得られる。
【0007】
回転凹版印刷法及び対応する印刷機の独自の特徴のために、この印刷法で使用されるインクは特別に調合されなければならない。
【0008】
凹版インクは糊のような粘度を有することを特徴としており、一般に彫刻凹版鋼製金型印刷法における凹版インクの粘度は、40℃で1000sec-1の剪断速度の場合、1〜15Pa.sの範囲、より具体的には3〜8Pa.sの範囲である。凹版インクは、また、高固形分(典型的には50重量%を超える)であることを特徴とする。
【0009】
磁性凹版インクに関して直面する特有の問題は、それらが一般にかなり黒みがかった外観であり、そのため、既知の磁性顔料、すなわち赤褐色を有するFe23;黒色であるFe34;又は大部分が濃い灰色であるフェライト材料は、その黒みがかった色に起因して、それらの利用可能な色域が制限されることである。軟磁性金属鉄などのより明るい色合いの顔料も、インク中で灰色に見える。既知の磁性顔料の黒みがかった色のために、オレンジ、黄色、又は白色などの明るい色を有するインクを配合することができず、したがって磁性インクを使用して芸術性のあるデザインを実現する自由が制限される。そのため、所望の色合いで磁気印刷されたデザインが可能になるという理由から、透明磁性顔料、及びそのような顔料を含む凹版インクが非常に望ましい。入手可能な磁性凹版インクは現在、色、表面被覆、及び位置に関して、色付きの紙幣デザイン中に柔軟に組み込むことができない。
【0010】
EP1650042A1は、発色干渉層の配列を各面に有する磁性フレーク顔料を含む凹版印刷インクを開示している。EP1650042のインクは、鮮明な色のインクを、そのような鮮明な干渉色コーティングを有する磁性粒子を使用することによって実現できるという利点を有する。しかしEP1650042の顔料粒子は、フレークの縁においてフレークの金属層がインク媒体にさらされるために、耐腐食性ではない。
【0011】
彫刻凹版鋼製金型印刷の方法によって文書を印刷するための印刷インクは、顔料に加えて、オレオレジン成分を含有する他の印刷物形成インク固形物と;印刷中又は印刷後に蒸発させるための少なくとも1つの揮発性有機溶媒と;低分子量界面活性剤と併用して又は併用せずに、前記オレオレジン成分の完全な又は部分的な代替としての、膜形成性の高分子親水性表面活性組成物とを含む。前記揮発性有機溶媒の量は、印刷インクの総重量の約15重量%未満である。高分子親水性表面活性組成物は、好ましくは前記高分子中のカルボン酸、ホスホン酸、又はスルホン酸基と金属又はアミンとの塩であるアニオン性物質から選択される。
【0012】
銅板凹版インクは典型的には、i)インクがセルロース系印刷基材に接着するのを促進するため、及びii)塩基性の界面活性剤水溶液を用いてワイピングシリンダを容易に洗浄できるようにするために、部分的に中和されたカルボン酸樹脂として具体化される、相当量の高分子又は低分子量の界面活性剤を含む。これらの界面活性剤は通常、有機又は無機塩基で部分的に中和され酸価が残っている酸官能基を有する種である。高分子親水性表面活性組成物は好ましくは、前記高分子中の部分的に中和されたカルボン酸、ホスホン酸、又はスルホン酸基と金属又はアミンとの塩であるアニオン性物質から選択される。この印刷プロセスにおける凹版印刷インクは、EP0340163B1及びEP0432093B1に開示されている。あるいは凹版インクは、ワイピングシリンダの洗浄を可能にするために、塩基性の拭き取り溶液と接触させたときにのみ中和される、中和されていない酸性基を有する物質を含有してもよい。
【0013】
一方で、これらの酸性又は部分的に中和された凹版インク成分は、顔料、特にブロンズ粉末などの金属顔料の腐食の原因であることが多い。たとえば、軟磁性カルボニル鉄粉末は、カルボン酸樹脂を含有する凹版インク中で安定でないことが知られている。部分的に中和されたカルボン酸樹脂は、一方で、具体的には式:
2−COOH+Fe→2−COO-+Fe2++H2
による鉄金属の酸化におけるプロトンを供給し、他方でこれはインク媒体中の遊離Fe2+イオンの錯化剤/可溶化剤としても作用し、遊離Fe2+イオンが鉄金属上に酸化物保護層を形成するのを妨げる:
Fe2++n−COO-→[Fe(−COO)n(n-2)-
【0014】
酸化鉄のこの可溶化は、金属表面をさらなる攻撃に向けて連続的に遊離させる。溶解した金属は他方で、インクがもはや印刷不可能になる点に到達するまでインクの粘度を上昇させる。したがって、金属鉄顔料を含む凹版インクは、保存可能期間が減少する傾向にある。保存可能期間がより長い磁性鉄含有凹版インクは印刷業者に高く評価されることになろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、先行技術の欠点を示さない磁性凹版印刷インクが必要とされている。したがって、本発明の目的はこの必要性に応えることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
驚くことに、磁性顔料粒子の本来の黒みがかった色が粒子の特別なコーティングによって遮蔽されると、透明な色合いを有する磁性凹版インクを調合することが可能であり、したがって任意の所望の色合いを有するインクの作成が可能となることが見いだされた。この点に関してコーティングは、コーティングが無ければ濃い灰色又は褐色の光学的外観の顔料粒子を、好ましくは明るい金属色から白色の範囲へと改変するように選択しなければならない。カルボン酸樹脂を含有する凹版インク媒体中で安定ではない特定の種類の軟磁性鉄(「カルボニル鉄」)顔料が、顔料粒子の前記コーティングによってこのタイプのインク媒体と適合するようになり、そのため本明細書に開示される凹版インクの保存可能期間も大幅に向上することをさらに見いだした。また、磁性粒子の多重コーティングが、対応する磁性インクの広い色域及び他の光学的機能性を可能にするように、磁性粒子にほぼ任意の所望の「ボディカラー」を与えることを可能にすることも見いだした。
【0017】
すなわち本発明は、40℃における粘度が3Pa.s〜15Pa.s、好ましくは5〜10Pa.sであり、ポリマー性のカルボン酸基含有有機バインダー及び磁性顔料粒子を含む彫刻凹版鋼製金型印刷法のためのインクであって、前記磁性顔料粒子が少なくとも1つの別材料の層によって覆われている(被覆されている)磁性コア材料を含むことを特徴とする、彫刻凹版鋼製金型印刷法のためのインクを開示する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は本発明のインクを用いた印刷の例を示す。
【図2】図2は透明磁性凹版インクの赤外応答を示す。
【図3】図3は本発明のインクの紙幣への適用例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好ましい磁性コア材料は、カルボニル鉄粒子である。カルボニル鉄は、ペンタカルボニル鉄の熱分解によって調製される、軟磁性の灰色の鉄粉末である。これは、典型的には直径がおよそ1〜10μm程度である球状の微粒子から成る。カルボニル鉄はBASF及び他の供給元から入手することができ、電子機器(高周波コイル用の磁心)、粉末冶金、ステルスコーティング、磁性流体(magneto−rheological fluid)、並びに医薬用途において使用される。「軟磁性」とは、粒子の残留磁気がおよそゼロであることを意味する。
【0020】
しかし、他の磁性材料もまた本発明を実施するために使用してもよい。本発明による磁性コア材料は、好ましくはニッケル、コバルト、鉄、並びに鉄含有合金及び酸化物から成る群から選択される。より好ましい実施形態において、本発明による磁性コア粒子は、鉄及びその酸化物、特にFe23及びFe34から選択される。最も好ましいのはカルボニル鉄粒子である。
【0021】
磁性コア材料を覆うコーティング層は、好ましくは二酸化チタンに由来する。そのようなコーティングは、EP1630207A1などに開示されるようなウェットコーティング法によって施すことができる。二酸化チタンは、カルボン酸樹脂含有インク媒体中に完全に不溶である不活性な物質である。二酸化チタンは、US5,118,529に開示されるように、流動床化学気相成長(CVD)法によって施すこともできる。二酸化チタンは高屈折率材料(n=1.9)であり、4分1λの厚さ(500nmの波長において65nm)に施した場合、入射光の強い反射を示し、そのように被覆された粒子に透明な外観を与える。
【0022】
本発明で使用される磁性コア材料の形状としては、球体、及びほぼ球体の形状などの等方性体、並びに例えば結晶化によって得られる多面体及び針状体が挙げられる。例えば材料の粉砕によって得られる不規則形状を有する粉末も有用である。
【0023】
好ましい実施形態において、本発明による磁性コア材料は少なくとも2つの別材料の層によって覆われており、第2の層は粒子に特定の光学特性を与えるように選択される。
【0024】
好ましい第2の層の材料は銀であり、例えばプレコーティングした粒子上にEP1630207に従って湿式化学法を用いて被着させることができる。得られる粒子は非常に透明な(明るい)色合いを有し、透明磁性インクの調合を可能にする。
【0025】
第1及び第2の層は、それらの材料及び厚みに関して、求められる光学的効果をコア材料と共に協働的に作り出すように選択することができる。そのようにして、高い反射率、スペクトル選択性の吸収、又は角度依存性の色を示すように粒子を設計することができる。高い反射率を得るために、第2の層は好ましくはアルミニウム又は銀であり、ほぼ全反射を作り出すような厚みを有する。好ましい層の厚みは5〜40nmである。
【0026】
スペクトル選択性の吸収を得るために、第1の層はTiO2などの高屈折率材料の層であり、厚みは意図する波長の半波長の倍数であり、第2の層は半透明の層、例えばCr又はNiの層であり、厚みはおよそ5nmである。
【0027】
角度依存性の色を得るために、第1の層はSiO2などの低屈折率材料の層であり、厚みは意図する波長の半波長の倍数であり、第2の層は厚さがおよそ5nmの半透明の層、例えばCr又はNiの層である。
【0028】
さらに別の実施形態において、前記磁性コア材料は少なくとも3つの別材料の層によって覆われている。第3の層は、さらに第2の層を腐食から保護するため、及びそれによって光学的機能を維持するために、例えばポリマー、TiO2、又は別の適切な材料でできた保護層であってもよい。
【0029】
本発明によれば、磁性コア材料を覆う材料はこのように、有機材料の群及び無機材料の群からそれぞれ独立して選択してもよい。
【0030】
好ましい実施形態によれば、有機材料の群はポリアクリレート、特にポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリスチレン、パリレン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(TMP)から選択される。最も好ましい実施形態において、有機材料はPMMA及び/又はTMPである。
【0031】
好ましい実施形態によれば、無機材料の群は、金属アルミニウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、及びそれらの合金、マグネシウム及び亜鉛の誘電性モノオキシド、アルミニウム、イットリウム、及びランタノイドの誘電性セスキオキシド、ケイ素、チタン、ジルコニウム、及びセリウムの誘電性ジオキシド、並びに亜鉛及びカルシウムの誘電性モノスルフィドから成る。
【0032】
最も好ましい実施形態において、無機材料はそれぞれ独立にSiO2、TiO2、Y23、及び銀から選択される。より好ましい実施形態において、無機材料はそれぞれ独立にSiO2、TiO2、及び銀から選択される。別の好ましい実施形態において、無機材料はTiO2及び銀から選択される。さらにより好ましい実施形態において、無機材料はSiO2及び銀から選択される。
【0033】
特に好ましい実施形態において、磁性コア粒子は最初に銀の層によって、続いて上記のような有機材料及び/又は無機材料からそれぞれ独立に選択されるさらなる層によって覆われる。この実施形態において、磁性コア粒子は好ましくは鉄、Fe34及び/又はFe23から、さらにより好ましくはFe34及びFe23から選択され、金属コアを覆う第1の層は銀であり、さらなる層は上記のような無機材料から選択される。
【0034】
本発明の別の特に好ましい実施形態において、磁性コア粒子を覆う最も外側の層は銀の層であり、磁性コア粒子と銀層との間にある他の層は、それぞれ独立に上記のような有機材料及び/又は無機材料から選択される。最も好ましい実施形態において、磁性コア粒子は鉄、Fe34及び/又はFe23から、より好ましくはFe34及び/又はFe23から選択され、コアを覆う最も外側の層は銀であり、コアと銀層との間にある他の層は上記のような無機材料から選択される。そのような磁性顔料粒子の例は、第1の層であるTiO2、及び第2の層である銀で被覆された鉄粒子である。
【0035】
有機及び/又は無機層を磁性コア材料上へ被着させるために、あらゆる適切な被着法(物理的及び/又は化学的)を使用できる。コーティング法の非制限的な例として、化学気相成長(CVD)、及び湿式化学コーティングが挙げられる。有機材料の膜(樹脂膜)を形成する場合、磁性コア材料を液相中に分散させ樹脂膜を粒子上にエマルション重合(液相重合法)によって形成する方法、又は気相中で膜を形成する方法(CVD)(PVD)、又は当業者に知られているさらに他の方法を利用してもよい。
【0036】
したがって得られる磁性顔料粒子は被覆された単粒子(monoparticle)であってもよいが、凝集粒子であってもよい。より好ましい実施形態において、磁性顔料粒子は球形である。
【0037】
本発明による被覆した磁性顔料粒子のサイズは、一般に被着させるインク層の厚みがおよそ30μmである凹版印刷法に適するようにするため、0.1μm〜30μmである。本発明によれば、粒子のサイズは好ましくは1〜20μm、最も好ましくは5〜10μmである。
【0038】
本発明によるインクは、インク組成物の総重量を基準として3〜70重量%、好ましくは10〜50重量%、最も好ましくは20〜40重量%の前記磁性顔料粒子を含有する。このような濃度の磁性顔料粒子により、磁気信号の有効なレベルの検出が得られる。
【0039】
顔料粒子上に適切な最外層を被着させることによって、表面濡れ性及び分散特性など、興味深い補足的な顔料特性を得ることができ、これらはインクの製造中に有益であり、保存の間及び印刷プロセスの間、インクに安定な性質を与える。
【0040】
本発明のさらなる利点は、インク樹脂がカルボニル鉄などの未処理又は部分的に被覆した金属を攻撃する酸部分をその組成中に有するにもかかわらず、被覆した磁性コア材料顔料を含有する磁性凹版インクが経時的に安定していることである。多重コーティングされた磁性コアを有する、本発明による磁性顔料粒子は、酸及び金属錯体を形成するインク媒体において、優れた耐腐食性さえも示す。本発明による顔料粒子は、従来の凹版インクと比較して、その工業的製造において複雑さを生じさせたり、インク調合者に特別な要求を強いたりすることはない。
【0041】
磁性コア材料を覆う多重層は、単一で又は組み合わせで、高い正反射率又は拡散反射率、スペクトル選択性の吸収又は反射、及び角度依存性の吸収又は反射から選択される、可視及び/又は近赤外における特定の光学特性を顔料粒子に与えるのに使用できる。
【0042】
磁性コア材料の周りに多重層を重ね合わせることによって得られる特に興味深い特性は、スペクトル選択性の反射(色)である。したがって、異なる屈折率を有するコーティングを選択的に磁性コア材料の表面上に重ね合わせ、膜を構成する物質の屈折率と膜の厚みの積が光学的範囲(200nm〜2500nm)の意図する波長の1/4に相当するように厚みを選択することにより、光学的境界層における多重干渉(フレネル反射)によって意図する波長の光が反射される。
【0043】
磁性コア材料の上に銀又はアルミニウムなどの高反射率材料の層を第1コーティングとして形成し、さらにその上に、酸化物の屈折率と第2コーティングの厚みの積が可視光の第1の意図する波長の1/4であるような厚みで、二酸化ケイ素(n=1.45)などの低屈折率を有する酸化物の層を第2コーティングとして形成し、最後にその上に、材料の屈折率と第3コーティングの厚みの積が可視光の第2の意図する波長の1/4であるような厚みで、酸化ジルコニウム(n=1.97)などの高屈折率酸化物の層を第3コーティングとして形成することによって、例えば鉄、コバルト、ニッケル、磁性合金(例えばアルニコ、SmCo5 Nd2Fe14B)又は酸化鉄粉末などの磁性金属からなる磁性コア材料を被覆することにより、多重コーティングを利用して、光を反射し白色の外観を有する磁性顔料粒子を作ることもできる。第1及び第2の意図する波長は好ましくは同一である。
【0044】
凹版インクにおける干渉コーティングした磁性粒子の使用は、同じタイプのインクにおける非被覆磁性粒子の使用と比較して、いくつかの利点を示す。第1に、磁性材料はそのままではほとんどの場合黒みがかっているか又は強く着色しており、それによって、実現可能な印刷インクの見込まれる色、ひいては凹版印刷法によって印刷することができる色付きの磁気機能に負の影響を与える。本発明による多重層が粒子の磁性コア材料の周りに存在することによって、顔料本来の色を改変する可能性をもたらすだけでなく、さらに顔料に新規の特性、例えば自身の珍しい色(例えば青若しくはマゼンタ、さらには虹色など)、又は色シフト特性、並びに赤外スペクトル範囲における隠された光学的機能などをもたらす。
【0045】
特に好ましい実施形態において、凹版インクは本発明による磁性顔料を含み、前記磁性顔料はCIELAB(1976)スケールに従ったバルクの明るさL*が60を超える、好ましくは75を超える、最も好ましくは80を超えるように選択される。
【0046】
本発明のさらに好ましい実施形態において、インクは800〜1000nmの間で60%を超える拡散赤外反射を有する。
【0047】
本発明の別の目的物は、セキュリティ文書、特に紙幣であって、少なくとも一部に上記のインクを有するセキュリティ文書である。
【0048】
本発明の別の目的物は、セキュリティ文書、特に紙幣、身分証明書であって、少なくとも1つのカラー層を含む層状構造を有し、カラー層が少なくとも1つの別材料の層に覆われている磁性コア材料を含む磁性顔料粒子を含有する、セキュリティ文書である。
【0049】
本発明のさらなる実施形態は、異なるレベルの磁気信号の印刷領域をもたらすように、異なる彫刻深さの領域を有する凹版プレートで印刷された本発明によるインクを含むセキュリティ文書である。これは特に、文書に別のレベルのセキュリティ性を与えるのに有用である。
【0050】
本発明のさらなる実施形態は、同じ色であるが磁性を示さないインクと組み合わせて印刷された本発明によるインクを含むセキュリティ文書である。本発明のインクと組み合わせて使用されるこのインクはさらに、EP−B−1790701などで開示されるように、700nm〜2500nmの波長範囲のどこかで赤外透過性又は赤外吸収性であってもよい。
【0051】
本発明の別の目的は、本発明によるインクを紙幣、パスポート、小切手、証明書、IDカード又は決済カード、証紙、ラベルなどのセキュリティ文書の印刷のための彫刻凹版鋼製金型印刷法において使用することである。
【0052】
本発明によるセキュリティ文書は、本発明によるインクを彫刻凹版鋼製金型印刷法によって文書上に塗布するステップを含むプロセスによって得られる。
【0053】
本発明による印刷インクは、また、例えば紫外線又はEB(電子ビーム)照射によって硬化するなど、エネルギー硬化できるように調合してもよく、典型的には1つ又は複数のオリゴマー及び/又は反応性モノマーを含むバインダーを含む。対応する配合方法は当技術分野において既知であり、SITA Technology Limitedとの共同でJohn Wiley & Sonsにより1997〜1998年に7巻で発行されたシリーズ「Chemistry&Technology of UV&EB Formulation for Coatings,Inks&Paints」などの標準的なテキストを参照できる。
【0054】
適切なオリゴマー(プレポリマーとも呼ばれる)としては、エポキシアクリレート、アクリル化油、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、シリコーンアクリレート、アクリル化アミン、及びアクリル系飽和樹脂が挙げられる。さらなる詳細及び例は「Chemistry&Technology of UV&EB Formulation for Coatings,Inks&Paints」II巻:Prepolymers&Reactive Diluents、G Webster編に示されている。
【0055】
大部分のオリゴマーの高い粘性に起因して、インクの調合及び印刷を支援するように、エネルギー硬化性インク又はコーティング配合物の全体の粘度を低下させるために多くの場合希釈剤が必要とされる。希釈剤としては、一般的な有機溶媒、水、又は硬化の際に膜中に取り込まれる「反応性」モノマーを挙げることができる。反応性モノマーは典型的にはアクリレート又はメタクリレートから選択され、単官能性又は多官能性であってもよい。多官能性モノマーの例としては、ポリエステルアクリレート又はメタクリレート、ポリオールアクリレート又はメタクリレート、及びポリエーテルアクリレート又はメタクリレートが挙げられるであろう。
【0056】
紫外線照射によって硬化されることになるインクの場合、通常は、紫外線又は短波長可視光にさらしてオリゴマー及び反応性モノマーの硬化反応を開始させるための少なくとも1つの光開始剤を含むことも必要である。
【0057】
有用な光開始剤の例は、John Wiley & SonsによりSITA Technology Limitedとの共同で1998年に発行された「Chemistry&Technology of UV&EB Formulation for Coatings,Inks&Paints」、III巻、「Photoinitiators for Free Radical Cationic and Anionic Polymerisation」第2版、J. V. Crivello & K. Dietliker著、G. Bradley編などの標準的なテキストを参照できる。効率的な硬化を実現するために、光開始剤と併せて感光剤を含むことも有利である場合がある。
【0058】
本発明によるインクは、耐擦性を向上させるために、完成したインクの重量を基準として約1〜5%のワックスを含有してもよい。適切なワックスとしては、カルナウバワックス、モンタンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャー・トロプス(Fischer−Tropsch)ワックス、シリコーン液、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0059】
他の添加剤もインク中に含めてもよく、限定はされないが、接着剤、消泡剤、レベリング剤、流動剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤などが挙げられる。
【0060】
本発明のインクは、紫外線ランプを備えた標準的な凹版プレスにおいて使用することができ、好ましいプレート温度は40℃〜80℃の範囲である。紫外線インクの硬化条件は当業者に既知である。
【0061】
ここで本発明を下記の非制限的な実施例によってさらに例証する。パーセンテージは重量による。当業者は、下記の特許請求の範囲及びそれらの等価物によって定義されることを意図するこれらの実施例の精神及び範囲内で、多くの変形形態が可能であり、別途示されない限りすべての用語はその最も広く妥当な意味で表されることを認識するであろう。
【実施例】
【0062】
概要
各実施例において、インクは、乾燥剤以外の以下に記載される処方の成分を混合し、3本ロールミルSDY300(1本は8バール、2本は16バール)に3回通すことによって調製される。乾燥剤を最後に添加し15分間混合し、完成したインクを真空下で脱気した。
【0063】
粘度を回転式レオメータHaake RotoVisco 1において1000s-1、40℃にて測定し、必要があれば溶媒で調整した。
【0064】
実施例1のインクの着色において、以下の着色顔料を使用することができる:
【0065】
【表1】

【0066】
金属コア材料(酸化鉄)を被覆するプロセス:
1.銀コーティング:
70gの酸化鉄を280mlの蒸留水中に分散させ、硝酸銀溶液(140mlの水酸化アンモニウム(28%)、720mlの硝酸銀(8.7%)、及び140mlの水酸化アンモニウム(28%)の混合物)を70℃で強く撹拌しながら滴下して加えることによって、銀で被覆した酸化鉄粒子を得た。70℃でさらに1時間連続的に撹拌した後、280mlのD−グルコース溶液(28%)を一気に加えた。得られた黄色の沈殿物を撹拌下で冷却させ、ろ過し、蒸留水で洗浄し、最後に80℃で約16時間乾燥させた。
【0067】
2.SiO2コーティング:
こうして得られる銀で被覆した酸化鉄粒子を、対応する顔料及び165gのポリビニルピロリドン(PVP K10)を600mlの蒸留水、3Lの28%水酸化アンモニウム、及び4.78Lの1−プロパノールの混合物中に1時間かけて分散させることにより、SiO2でさらに被覆した。650mLのテトラエトキシシラン(TEOS)を加えた後、混合物を150rpmで一晩(約16時間)室温にて撹拌した。次いでスラリーをろ過し、ろ取物を絶えず撹拌しながら、得られる固体を2Lの蒸留水で洗浄した。得られる固体を空気中で5時間乾燥させた。得られる生成物をさらに、オーブン中で80℃にて約16時間乾燥させた。
【0068】
3.TiO2コーティング
TiO2で被覆した鉄を、0.4M Lutensol(BASF)などの60μlの非イオン性界面活性剤を含有する100mlの無水エタノールの溶液中に4gの鉄を分散せることによって調製した。15分間にわたる撹拌の後、120μlのチタンイソプロポキシド(TTIP)を一度に加えた。反応物を不活性雰囲気下で2時間、及び空気中で一晩撹拌した。
【0069】
[実施例1] 銀及びTiO2で被覆した鉄顔料
水拭き銅板凹版印刷法における薄色軟磁性酸化性乾燥シート挿入凹版インク
【0070】
【表2】

【0071】
こうして得られたインクを、可視の色及び秘密の磁気機能を含むパターンの形態で標準的な凹版プレスで紙幣上に印刷した。このようにして、貨幣の機械加工に有用な磁性パターンを、文書の可視の態様とは完全に独立して実現できるであろう。
【0072】
比較のために、従来の非被覆鉄顔料に基づいて、同様のインクを調製した。従来の鉄顔料で同じ色合いを得るためには、二酸化チタン濃度を可能な最大量である15%まで増加させながら、顔料濃度を元の値(可視インクの色によって決まる)の20〜50%まで低下させなければならなかった。
【0073】
一方、同じ磁気信号を有する被覆及び非被覆の鉄顔料に基づくオレンジ色インク間の、可視の色合いの違いを図1a及び1bに示す。対応する赤外画像(850nmフィルタ)を図1cに示す。
【0074】
[実施例2] 銀及びSiO2による被覆酸化鉄顔料
水拭き銅板凹版印刷法における薄色硬質磁性酸化性乾燥シート挿入凹版インク
【0075】
【表3】

【0076】
インクの粘度を「インク溶媒 6/9」(Shell Industrial Chemicals)により40℃で5〜10Pa.sの値まで調整した。
【0077】
こうして得られたインクを、可視の色及び秘密の磁気機能を含むパターンの形態で標準的な凹版プレスで紙幣上に印刷した。
【0078】
比較のため、従来の非被覆酸化鉄顔料に基づく同様のインクを調製した。従来の磁性顔料で同じ色合いを得るためには、二酸化チタン濃度を可能な最大量である15%まで増加させながら、磁性顔料濃度を元の値(可視インクの色によって決まる)の10〜40%まで低下させなければならなかった。
【0079】
[実施例3] 銀及びTiO2で被覆した鉄顔料
特定の赤外吸収ピークを用いる紙拭き銅板凹版印刷法における薄色軟磁性酸化性乾燥シート挿入凹版インク
【0080】
【表4】

【0081】
インクの粘度を「インク溶媒 6/9」(Shell Industrial Chemicals)により40℃で5〜10Pa.sの値まで調整した。
【0082】
比較のため、透明磁性インクで赤外吸収剤を含むものと含まないものを調製した。図2は対応するインクの赤外反射スペクトルを比較している。これは、被覆した鉄顔料がより広い可視インクの色域の使用を可能にするだけではないことを示している。顔料はそれ自体がインクの赤外吸収に著しく寄与しないので、特殊な赤外の機能を加えることもできる。
【0083】
[実施例4] 実施例1及び3と同じ組成でさらにSiO2で被覆したもの
水拭き銅板凹版印刷法における薄色軟磁性酸化性乾燥凹版インク配合物
【0084】
実施例1及び3において調製される顔料を、対応する顔料を15mlの無水エタノール中に高速機械撹拌下で分散させることにより、さらにSiO2で被覆した。第1のステップにおいて、15mlエタノール中の1ml TEOSの溶液を一度に加えた。次いで、5ml無水エタノール中の0.11ml蒸留水を加えた。操作は不活性雰囲気下で行った。スラリーをさらに6時間撹拌し、次いで沈殿物をろ過し、真空乾燥させた。
【0085】
水を含有し間紙を挟まない凹版インクを、以下の処方に従って製造する:
【0086】
【表5】

【0087】
乾燥剤及び水を最後に加え、15分間混合し、完成したインクを真空下で脱気した。インクの粘度を40℃で10Pa・sに調整した。
【0088】
対応する色のインクであるが磁気機能を有していないインクを得るため、磁性顔料を同じ重量の炭酸カルシウムで置き換えた。磁性及び非磁性インクを記載のように印刷した。2種のインクにおいて色合いの違いは観察されなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
40℃における粘度が3Pa.s〜15Pa.s、好ましくは5〜10Pa.sであり、カルボン酸基を含有していてもよいポリマー性有機バインダー及び磁性顔料粒子を含む彫刻凹版鋼製金型印刷法のためのインクであって、前記磁性顔料粒子が少なくとも1つの別材料の層によって覆われている磁性コア材料を含むことを特徴とする、彫刻凹版鋼製金型印刷法のためのインク。
【請求項2】
前記磁性コア材料が少なくとも2つの別材料の層によって覆われている、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記磁性コア材料が少なくとも3つの別材料の層によって覆われている、請求項1から2のいずれか一項に記載のインク。
【請求項4】
被覆層が、単一で又は組み合わせで、磁性顔料粒子に表面特性及び分散特性を与える、請求項1から3のいずれか一項に記載のインク。
【請求項5】
磁性コア材料の被覆層がそれぞれ独立に、化学気相成長(CVD)及びウェットコーティングから選択されるプロセスの結果である、請求項1から4のいずれか一項に記載のインク。
【請求項6】
被覆層が、単一で又は組み合わせで、高い正反射率又は拡散反射率、スペクトル選択性の吸収又は反射、及び角度依存性の吸収又は反射から選択される、可視及び/又は近赤外における特定の光学特性を顔料粒子に与える、請求項1から5のいずれか一項に記載のインク。
【請求項7】
磁性顔料粒子のサイズが、0.1μm〜30μm、好ましくは1〜20μm、より好ましくは5〜10μmである、請求項1から6のいずれか一項に記載のインク。
【請求項8】
磁性顔料粒子が球形である、請求項1から7のいずれか一項に記載のインク。
【請求項9】
磁性コア材料が、ニッケル、コバルト、鉄、並びに鉄含有合金及び酸化物から成る群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載のインク。
【請求項10】
磁性コア材料を覆う層が、有機材料の群及び無機材料の群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載のインク。
【請求項11】
前記有機材料が、ポリアクリレート、特にPMMA、ポリスチレン、パリレン、3−メタクリル−オキシプロピルトリメトキシシランから成る群から選択される、請求項10に記載のインク。
【請求項12】
前記無機材料が、金属アルミニウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、金、及びそれらの合金、マグネシウム及び亜鉛の誘電性モノオキシド、アルミニウム、イットリウム、及びランタノイドの誘電性セスキオキシド、ケイ素、チタン、ジルコニウム、及びセリウムの誘電性ジオキシド、並びに亜鉛及びカルシウムの誘電性モノスルフィドから成る群から選択される、請求項10に記載のインク。
【請求項13】
インク組成物の総重量を基準として、3〜70重量%、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは20〜40重量%の前記磁性顔料粒子を含有することを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載のインク。
【請求項14】
CIELAB(1976)スケールに従って、前記磁性顔料のバルクの明るさL*が60を超える、好ましくは75を超える、最も好ましくは80を超えることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載のインク。
【請求項15】
800〜1000nmの間で60%を超える拡散赤外反射率を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載のインク。
【請求項16】
紙幣、パスポート、小切手、証明書、IDカード又は決済カード、証紙、ラベルなどのセキュリティ文書の印刷における、請求項1から15のいずれか一項に記載の彫刻凹版鋼製金型印刷法用インクの使用。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか一項に記載のインクを少なくとも一部に有するセキュリティ文書、特に紙幣。
【請求項18】
異なるレベルの磁気信号の印刷領域をもたらすように、異なる彫刻深さの領域を有する凹版プレートで印刷された、請求項1から15のいずれか一項に記載のインクを有する、請求項17に記載のセキュリティ文書。
【請求項19】
同じ色を有するが磁性を示さない別の凹版インクと組み合わせて印刷された、請求項1から15のいずれか一項に記載のインクを有する、請求項17に記載のセキュリティ文書。
【請求項20】
請求項1から15のいずれか一項に記載のインクを彫刻凹版鋼製金型印刷法によって前記セキュリティ文書上に塗布するステップを含む、請求項16から19のいずれか一項に記載のセキュリティ文書の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−523470(P2012−523470A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−504032(P2012−504032)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054716
【国際公開番号】WO2010/115986
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(311003204)シクパ ホールディング エスアー (21)
【氏名又は名称原語表記】SICPA HOLDING SA
【住所又は居所原語表記】Avenue de Florissant 41,CH−1008 Prilly Switzerland
【出願人】(509332028)
【Fターム(参考)】