説明

透明配線シートの製造方法

【課題】透明な絶縁基材の両面に導電パターンを形成した、タッチパネルの入力装置用として適した透明配線シートを簡便に製造できる透明配線シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、長焦点距離の光学系によりレーザ光を集光して導電性基板に照射することによって、第1透明導電層に第1絶縁部を形成すると共に第2透明導電層に第3絶縁部を形成する第1照射工程と、高開口数の集光手段によりレーザ光Lを集光して第1透明導電層20に照射することによって、前記第1絶縁部とは異なる第2絶縁部を第1透明導電層20に形成する第2照射工程と、高開口数の集光手段によりレーザ光を集光して第2透明導電層に照射することによって、前記第3絶縁部とは異なる第4絶縁部を第2透明導電層に形成する第3照射工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル用入力装置に具備される透明配線シートを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ゲーム機、オフィス事務機器等にタッチパネルが広く使用されている。タッチパネルは、通常、液晶ディスプレイ等の画像表示装置の前面に座標検出用の入力装置を備えている。
従来、タッチパネル用入力装置においては、透明な絶縁基材の片面に導電パターンが形成された導電パターン形成シートを一対備えた透明配線シートが使用されていた。また、透明配線シートは、一対の導電パターン形成シートが両面粘着シートによって貼合されて作製されていた(特許文献1)。
しかしながら、両面粘着シートにより導電パターン形成シートを貼合する際には、気泡が混入しやすく、また、入力装置の光線透過率が低くなることがあった。そのため、画像の視認性が低くなることがあった。また、光学用の両面粘着シートは高価であるため、高コストになる傾向にあった。
そこで、透明な絶縁基材の両面に導電パターンを形成して両面粘着シートの使用を省略することが考えられる。特許文献2,3には、レーザ光を利用して、透明な絶縁基材の両面に導電パターンを形成する方法が開示されている。しかし、特許文献2,3に記載の方法をそのまま適用すると、表と裏との導電パターンが同じになり、タッチパネルの入力装置用の配線シートとして使用可能な配線シートを製造することは困難であった。また、表と裏の導電パターンを異なるものにするためには、煩雑な工程になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−018194号公報
【特許文献2】特開平11−170072号公報
【特許文献3】特開2010−087204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、透明な絶縁基材の両面に導電パターンを形成した、タッチパネルの入力装置用として適した透明配線シートを簡便に製造できる透明配線シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]透明絶縁基材の一方の面に設けた第1透明導電層と透明絶縁基材の他方の面に設けた第2透明導電層とを備える導電性基板に、第2透明導電層を介してレーザ光をパターン状に照射することにより、第1透明導電層および第2透明導電層の各々に絶縁部を形成して導電パターンを設ける透明配線シートの製造方法であって、焦点距離が100mm以上の光学系によりレーザ光を集光して導電性基板に照射することによって、第1透明導電層に第1絶縁部を形成すると共に第2透明導電層に第3絶縁部を形成する第1照射工程と、開口数0.30〜0.85の集光手段によりレーザ光を集光して第1透明導電層に照射することによって、前記第1絶縁部とは異なる第2絶縁部を第1透明導電層に形成する第2照射工程と、開口数0.30〜0.85の集光手段によりレーザ光を集光して第2透明導電層に照射することによって、前記第3絶縁部とは異なる第4絶縁部を第2透明導電層に形成する第3照射工程とを有することを特徴とする透明配線シートの製造方法。
[2]前記導電性基板を不透明なステージ上に、第1透明導電膜が接するように載置することを特徴とする[1]に記載の透明配線シートの製造方法。
[3]レーザ光の集光点を前記ステージ表面に合わせてから第2照射工程をおこなった後に、レーザ光の集光点を前記導電性基板の厚みの20〜80%上昇させてから第3照射工程をおこなうことを特徴とする[2]に記載の透明配線シートの製造方法。
[4]前記第1透明導電層および前記第2透明導電層の少なくとも一方は、層状の透明基体と、該透明基体の内部に2次元ネットワーク状に配置された導電性極細繊維とを含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の透明配線シートの製造方法。
[5]レーザ光の照射によって、透明基体を溶融することなく導電性極細繊維を蒸発、除去して各絶縁部を形成することを特徴とする[4]に記載の透明配線シートの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の透明配線シートの製造方法によれば、透明な絶縁基材の両面に導電パターンを形成した、タッチパネルの入力装置用として適した透明配線シートを簡便に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の透明配線シートの製造方法の一実施形態において、透明配線シートを構成する第1透明導電層を示す平面図である。
【図2】本発明の透明配線シートの製造方法の一実施形態において、透明配線シートを構成する第2透明導電層を示す平面図である。
【図3】図2のI−I’断面図である。
【図4】透明導電層の絶縁部以外の部分の電子顕微鏡写真である。
【図5】図1の第1透明導電層における第1絶縁部および図2の第2透明導電層における第3絶縁部を抽出して示す平面図である。
【図6】図1の第1透明導電層における第2絶縁部を抽出して示す平面図である。
【図7】透明導電層の絶縁部の電子顕微鏡写真である。
【図8】図2の第2透明導電層における第4絶縁部を抽出して示す平面図である。
【図9】第1照射工程の一例を示す断面図である。
【図10】第2照射工程の一例を示す断面図である。
【図11】第3照射工程の一例を示す断面図である。
【図12】本発明の透明配線シートの他の実施形態において、第3絶縁部と第4絶縁部とが交差する部分を示す平面図である。
【図13】本発明の透明配線シートの他の実施形態において、第3絶縁部と第4絶縁部とが交差する部分を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<透明配線シート>
本発明の透明配線シートの製造方法の一実施形態で製造される透明配線シートについて説明する。
図1〜3に、本実施形態における透明配線シートを示す。本実施形態における透明配線シート1は、透明絶縁基材10と、透明絶縁基材10の一方の面に設けられた第1透明導電層20と、透明絶縁基材10の他方の面に設けられた第2透明導電層30とを備える。
なお、本発明において、「透明」とは、JIS K7105に従って測定した光線透過率が50%以上のことを意味する。また、「絶縁」とは、電気抵抗値が1MΩ以上、好ましくは10MΩ以上のことであり、「導電」とは、電気抵抗値が1MΩ未満であることを意味する。
【0009】
(透明絶縁基材)
透明絶縁基材10の材質としては、例えば、ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、アクリル樹脂などが挙げられる。
透明絶縁基材10の厚さは10〜250μmであることが好ましく、25〜188μmであることがより好ましい。透明絶縁基材10の厚さが前記下限値以上であれば、充分な強度・剛性を確保でき、前記上限値以下であれば、タッチパネルを容易に薄型化できる。
【0010】
(第1透明導電層)
第1透明導電層20は、層状の透明基体Bと、該透明基体Bの内部に2次元ネットワーク状に配置された導電性極細繊維Wとを含有し(図4参照)、第1絶縁部21と第2絶縁部22とが形成されて、第1導電パターンPが設けられている。
【0011】
第1絶縁部21は、略矩形状の枠線部21aと、X方向(図5の左右方向)に形成される複数の第1直線部21bと、Y方向(図5の上下方向)に形成された複数の第2直線部21cと、第2直線部21cに交差する第1接続補助部21dと、引き回し回路形成部21eとからなっている(図5参照)。
第1直線部21bは、枠線部21aの内側に複数本形成されて、X方向に沿った導電領域が複数形成されるように枠線部21aの内側を分割している。ただし、第1直線部21bは第2直線部21c,21c同士の間に途切れており、断続的な直線になっている。
第2直線部21cは、枠線部21aの内側に複数本形成され、Y方向に沿った導電領域が複数形成されるように枠線部21aの内側を分割している。ただし、第2直線部21cは第1直線部21b,21b同士の間で途切れており、断続的な直線になっている。
第1接続補助部21dは、第2直線部21cの途切れた部分の近傍に形成されている。
第2絶縁部22は、直線状で、第1直線部21b,21b同士を掛け渡して第1直線部21bに沿ってX方向を連続的に絶縁するように形成されている(図1,6参照)。なお、本実施形態では、第1直線部21bと第2直線部21cとは交差している。そのため、第2絶縁部22は、第2直線部21c,21c同士を掛け渡すように配置されても、目的の絶縁を得ることができる。
本実施形態では、枠線部21aと第1直線部21b、枠線部21aと第2直線部21c、第2直線部21cと第1接続補助部21dが互いに交差するように形成されている。交差させると、透明配線シート製造時に高精度に位置合わせしなくても、接続することができる。
【0012】
本実施形態における第1透明導電層20においては、第1絶縁部21と第2絶縁部22とが接続されることによってX方向が連続的に絶縁されて、X座標検出用の導電領域αが形成されている。
【0013】
第1絶縁部21および第2絶縁部22は、透明基体Bが溶融されることなく導電性極細繊維が蒸発、除去されて空隙Vが形成されたものであり(図7参照)、透明基体は残っている。そのため、導電性極細繊維を含んでいる導電領域と光学的な特性がほぼ同等であるため、見分けることは困難である。
【0014】
1回のレーザ光照射で得られる、第1絶縁部21および第2絶縁部22の幅は、集光手段および照射するレーザ光の波長にもよるが、通常、10〜100μmである。幅100μmの絶縁部をレーザ照射により形成する場合には、複数回に分けて照射を行えばよい。
【0015】
導電性極細繊維は、透明絶縁基材10の表面の面方向に沿い、ランダムな方向を向くように不規則に存在しているとともに、その少なくとも一部が互いに接触し合う程度に密集して2次元網目状に配置されている。このような配置によって導電性極細繊維同士が互いに電気的に接続されることで、導電ネットワーク構造を形成している。
また、導電性極細繊維は、その殆どが透明基体の内部に埋設されているが、一部は透明基体の表面から突出している。
【0016】
導電性極細繊維としては、銅、白金、金、銀、ニッケル等からなる金属ナノワイヤや金属ナノチューブ、シリコンナノワイヤやシリコンナノチューブ、金属酸化物ナノチューブ、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイトフィブリル等の繊維状部材及びその金属被覆部材が挙げられる。これらのなかでも、透明性および導電性の点から、銀を主成分とする金属ナノワイヤ(銀ナノワイヤ)が好ましい。導電性極細繊維は、その直径が0.3〜100nm、長さが1μm〜100μmであることが好ましい。
【0017】
透明基体を形成する樹脂としては、透明な熱可塑性樹脂(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリメチルメタクリレート、ニトロセルロース、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、フッ化ビニリデン)、熱や活性エネルギ線(紫外線、電子線、放射線)で硬化する透明な硬化性樹脂(メラミンアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル変性シリケートなどのシリコーン樹脂)が挙げられる。
透明基体は、接着性および透明性の点から、透明絶縁基材10と同種の材料とすることが好ましい。例えば、透明絶縁基材がポリエチレンテレフタレートフィルムである場合には、透明基体としてポリエステル樹脂を選択することが好ましい。
【0018】
(第2透明導電層)
第2透明導電層30には、層状の透明基体Bと、該透明基体Bの内部に2次元ネットワーク状に配置された導電性極細繊維Wとを含有し(図4参照)、第3絶縁部31と第4絶縁部32とが形成されて、第2導電パターンPが設けられている。
第2透明導電層30における透明基体および導電性極細繊維としては、第1透明導電層に含まれるものと同様のものを使用できる。第3絶縁部31および第4絶縁部32は、第1絶縁部21および第2絶縁部22と同様に、透明基体が溶融されることなく導電性極細繊維が蒸発、除去されて空隙が形成されたものである(図7参照)。
【0019】
第3絶縁部31は、略矩形状の枠線部31aと、X方向(図5の左右方向)に形成される複数の第3直線部31bと、Y方向(図5の上下方向)に形成された複数の第4直線部31cと、第4直線部31cに交差する第2接続補助部31dと、引き回し回路形成部31eとからなっている(図5参照)。
第3直線部31bは、枠線部31aの内側に複数本形成されて、X方向に沿った導電領域が複数形成されるように枠線部31aの内側を分割している。ただし、第3直線部31bは第4直線部31c,31c同士の間で途切れており、断続的な直線になっている。
第4直線部31cは、枠線部31aの内側に複数本形成され、Y方向に沿った導電領域が複数形成されるように枠線部の内側を分割している。ただし、第4直線部31cは第3直線部31b,31b同士の間に途切れており、断続的な直線になっている。
第2接続補助部31dは、第4直線部31cの途切れた部分の近傍に形成されている。
第4絶縁部32は、直線状で、第2接続補助部31d,31d同士を掛け渡して第4直線部31cに沿ってY方向を連続的に絶縁するように形成されている(図2,8参照)。
本実施形態では、第3絶縁部31の第2接続補助部31dと第4絶縁部32とが互いに交差するように形成されている。第2接続補助部31dと第4絶縁部32とが交差する場合には、透明配線シート製造時に、第2接続補助部31dと第4絶縁部32とを高精度に位置合わせしなくても、これらを接続することができる。
また、本実施形態では、枠線部31aと第3直線部31b、枠線部31aと第4直線部31cとが互いに交差するように形成されている。
【0020】
本実施形態における第2透明導電層30においては、第3絶縁部31と第4絶縁部32とが接続されることによってY方向が連続的に絶縁されて、Y座標検出用の導電領域βが形成されている。
【0021】
1回のレーザ光照射で得られる、第3絶縁部31および第4絶縁部32の幅は、第1絶縁部21および第2絶縁部22と同様に、通常、10〜100μmである。幅100μmの絶縁部をレーザ照射により形成する場合には、複数回に分けて照射を行えばよい。
【0022】
(外形マーク、位置決めマーク)
第1透明導電層20および第2透明導電層30には、導電パターンを囲う視認可能な外形マークが設けられている。具体的に、第1透明導電層20の外形マーク23は導電パターンPを囲っており、第2透明導電層30の外形マーク33は導電パターンPを囲っており、これら外形マーク23,33は互いに重なり合うように同じ形状とされている。
第1透明導電層20および第2透明導電層30には、外形マーク23,33よりも外側に、視認可能な位置決めマーク24,34が設けられている。第1透明導電層20の位置決めマーク24と第2透明導電層30の位置決めマーク34は、互いに重なり合うように同じ形状とされている。
なお、第1透明導電層20に設けられる第1絶縁部21と、第2透明導電層30に設けられる第3絶縁部31は互いに重なり合うように形成される。より具体的には、第1透明導電層20に設けられる第1絶縁部21は、第2透明導電層30に設けられる第3絶縁部31を、第1透明導電層20に投影した形状となる。
【0023】
<透明配線シートの製造方法>
次に、本実施形態の透明配線シート1の製造方法について、図9〜11を用いて説明する。
本実施形態の透明配線シート1の製造方法は、透明導電層形成工程と導電パターン形成工程とを有する。
【0024】
(透明導電層形成工程)
透明導電層形成工程は、透明絶縁基材10の一方の面に第1透明導電層20を設け、透明絶縁基材10の他方の面に第2透明導電層30を設けて、導電性基板を得る工程である。
第1透明導電層20を設ける方法としては、透明絶縁基材10の一方の面に、導電性極細繊維を含む分散液を塗工し、その上に、透明基体を形成する樹脂を含む塗料を塗工し、導電性極細繊維同士の間に透明基体を形成する樹脂を充填した後、その樹脂を硬化させることにより形成する方法が挙げられる。
第2透明導電層30を設ける方法としては、透明絶縁基材10の他方の面に、導電性極細繊維を含む分散液を塗工し、その上に、透明基体を形成する樹脂を含む塗料を塗工し、導電性極細繊維同士の間に透明基体を形成する樹脂を充填した後、その樹脂を硬化させることにより形成する方法が挙げられる。
分散液の塗工方法、樹脂の硬化方法は公知の方法を適用すればよい。
【0025】
(導電パターン形成工程)
導電パターン形成工程は、導電性基板にレーザ光を照射して絶縁部を形成することにより、導電パターンを形成する工程である。
具体的に、導電パターン形成工程は、第1絶縁部21および第3絶縁部31を形成するためにレーザ光を所定パターンで照射する第1照射工程と、第2絶縁部22を形成するためにレーザ光を所定パターンで照射する第2照射工程と、第4絶縁部32を形成するためにレーザ光を所定パターンで照射する第3照射工程と、外形マークおよび位置決めマークを形成するためにレーザ光を所定パターンで照射する第4照射工程とを有する。
導電パターン形成工程で使用されるレーザ光は、YAGやYVO等のパルス状レーザ光、炭酸ガスレーザ等の連続発振レーザ光が挙げられる。中でも、簡便であることから、YAGやYVO等の波長1064nmもしくはその2次高調波を使用した532nm、パルス幅1〜200n秒のパルス状レーザ光が好ましい。また、レーザ照射痕を目立たせたくない用途に対しては、波長が1600〜600nmでパルス幅が10f〜100p秒の極短パルスレーザーが好ましい。
パルス状レーザにおいては、レーザ光のスポットの位置を、スポット同士が重なるように少しずつ移動させながら、導電性基板に照射することが好ましい。
【0026】
第1透明導電層20および第2透明導電層30においてレーザ光が照射された部分は、透明基体が溶融することなく導電性極細繊維が蒸発、除去されて空隙が形成される。この空隙では、導電性極細繊維同士の接触がなく、導電ネットワークが断絶しているため、絶縁部となる。
【0027】
絶縁部の形成は、パルス状レーザで形成され、そのパルス幅は走査速度に比べて充分に短いため、集光スポットは略円形となり、絶縁部の幅は集光スポット径に等しくなる。
レーザ光の1パルスあたりの照射エネルギ密度は、レーザ光1パルスあたりの照射エネルギを集光スポット面積で除したものとして定義される。その値は、パルス幅が10f秒〜200n秒の範囲で、レーザ光の波長によらず、1×10〜1×10J/mとなる。
また、連続する絶縁部を形成するためには、走査により移動して形成される個々の集光スポットが、互いにオーバーラップする必要があり、特に銀ナノワイヤを含む透明導電層では、絶縁部の視認されにくさと絶縁の安定性の点から、オーバーラップ回数を1.5〜10回程度にすることが好ましい。また、外形マーク23,33や位置決めマーク24,34など、視認されることを目的とする場合には、オーバーラップ回数を25回以上に設定するか、複数回の走査でオーバーラップ回数を25回以上にすることが好ましい。
【0028】
レーザ光を照射する際には、通常、あらかじめ導電性基板を、X方向およびY方向にスライド可能でステージ上に載置する。ステージとしては、光散乱性で不透明な板が好ましい。ここで、不透明とは、JIS K7105に従って測定した光線透過率が10%以下のことである。光散乱性で不透明な板としては、表面に凹凸が形成された板、内部にフィラーまたは空気を含有させた板、表面に着色インクが塗布された板などが挙げられる。
第1透明導電層20および第2透明導電層30は透明であり、ピント(レーザ光の集光点)を合わせにくい。しかし、ステージとして光散乱性で不透明な板を用いる場合には、第2照射工程にて、不透明なステージにピントを合わせることで、第1透明導電層20にピントを合わせてレーザ光を照射することができる。また、第3照射工程では、第2照射工程後に、導電性基板Aの厚さの20〜80%だけピントを上昇させることで、第2透明導電層30にピントを合わせてレーザ光を照射することができる。したがって、第1透明導電層20および第2透明導電層30が透明であっても、第1透明導電層20および第2透明導電層30の各々に容易にピントを合わせることができ、第2絶縁部22および第4絶縁部32を容易に形成できる。
また、ステージは、導電性基板を固定するために、吸引可能になっていることが好ましい。
【0029】
[第1照射工程]
第1照射工程では、長焦点距離の光学系により集光したレーザ光Lを、ステージ50上に載置した導電性基板Aに、第1絶縁部21および第3絶縁部31のパターンを形成するように第2透明導電層30側から照射する(図9参照)。照射されたレーザ光は、一部が第2透明導電層30中の導電性極細繊維Wを加熱し、蒸発させることで、導電ネットワークを破壊して第3絶縁部31を形成する。残りの大半のレーザ光は第2透明導電層30を透過し、第1透明導電層20に達して導電ネットワークを破壊して、第1絶縁部を形成する。ここで、長焦点距離とは、焦点距離が100mm以上のことである。なお、実用性の点からは、焦点距離は500mm以下であることが好ましい。また、長焦点距離の光学系は、開口数が0.1以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.02以下であることがさらに好ましい。光学系の開口数が前記上限値以下であれば、レーザ光Lの幅(直径)が一定になりやすいため、第1絶縁部21と第3絶縁部31のパターンの同一性を向上させることができる。一方、光学系の開口数が前記上限値を超えると、レーザ光Lの幅(直径)が導電性基板Aに近づくにつれて漸次小さくなるため、第2透明導電層30に照射されるレーザ光Lの直径は第1透明導電層20に照射されるレーザ光Lの直径よりも大きくなる。したがって、第3絶縁部31の幅は第1絶縁部21の幅よりも太くなる。
上記開口数を有する超焦点距離の光学系としては、ガルバノミラーが挙げられる。長焦点距離の光学系としてガルバノミラーを用いる場合には、ステージをX方向またはY方向にスライドさせることなく、ガルバノミラーの位置(向き)を制御することによって、導電性基板Aにレーザ光Lを走査することができる。ガルバノミラーの位置制御は正確に且つ高速にできるため、ガルバノミラーを用いたレーザ光Lの走査によれば、目的のパターンの第1絶縁部21および第3絶縁部31を正確且つ高速に形成できる。
【0030】
[第2照射工程]
第2照射工程では、高開口数の集光手段により集光したレーザ光Lを第1透明導電層20に集光点が位置するように照射する(図10参照)。レーザ光Lの照射パターンは、第2絶縁部22が形成されるパターンとする。
ここで、高開口数とは、0.30〜0.85のことであり、好ましくは0.50〜0.80のことである。高開口数の集光手段としては、対物レンズ、単レンズを使用することができる。高開口数の集光手段により集光したレーザ光Lは、幅(直径)が導電性基板Aに近づくにつれて漸次小さくなる。したがって、集光点ではエネルギが高いため、導電性極細繊維を蒸発させて除去できるが、集光点から離れると、エネルギが低くなるため、導電性極細繊維を除去できない。そのため、集光点の位置を第1透明導電層20に合わせることによって、第1透明導電層20のみ導電性極細繊維を除去できる。なお、集光点を第2透明導電層30に合わせた場合には、第2透明導電層30のみ導電性極細繊維を除去できる。
第2照射工程において、目的のパターンでレーザ光Lを導電性基板に照射するためには、ステージ50をX方向およびY方向の少なくとも一方にスライドさせればよい。
【0031】
[第3照射工程]
第3照射工程では、高開口数の集光手段により集光したレーザ光Lの集光点を第2透明導電層30に変更した後、レーザ光Lを第2透明導電層30に照射する(図11参照)。レーザ光Lの照射パターンは、第4絶縁部32が形成されるパターンとする。第2透明導電層30に第4絶縁部32を形成することによって、透明配線シート1を得ることができる。
第3照射工程においても、目的のパターンでレーザ光Lを導電性基板Aに照射するためには、ステージ50をX方向およびY方向の少なくとも一方にスライドさせればよい。
本実施形態における第3照射工程では、第3絶縁部31の端部に第4絶縁部32の端部を正確に合わせて接続することが困難であるから、第3絶縁部31の第2接続補助部31dに交差するように第4絶縁部32を形成する。第2接続補助部31dに第4絶縁部32が交差した際には、第4絶縁部32の形成方向の端部が第2接続補助部31dから突き出るようになる。
【0032】
[第4照射工程]
第4照射工程では、長焦点距離の光学系により集光したレーザ光Lを導電性基板Aに、外形マーク23,33および位置決めマーク24,34が形成されるパターンで照射する。該工程では、外形マーク23,33および位置決めマーク24,34を視認可能にするために、第1照射工程よりも高いエネルギでレーザ光Lを照射して透明基体を着色させる。第1照射工程よりも高いエネルギでレーザ光Lを照射する方法としては、レーザ光Lの走査速度を遅くする方法、レーザ光Lを同じ位置に複数回照射する方法、レーザ光Lの出力を上げる方法などが挙げられる。
なお、第4照射工程は、どのタイミングでおこなってもよく、例えば、第1照射工程の前でもよいし、第3照射工程の後でもよいし、第1照射工程と第2照射工程の間でもよいし、第2照射工程と第3照射工程の間でもよい。
【0033】
(作用効果)
上記透明配線シート1の製造方法における第1照射工程では、長焦点距離の光学系により集光したレーザ光Lを導電性基板Aに照射することで、第1透明導電層20の第1絶縁部21と第2透明導電層30の第3絶縁部31とを同時に形成する。また、第2照射工程では、高開口数の集光手段により集光したレーザ光Lを第1透明導電層20に照射することで、第1透明導電層20の第2絶縁部22を形成する。また、第3照射工程では、高開口数の集光手段により集光したレーザ光Lを第2透明導電層30に照射することで、第2透明導電層30の第4絶縁部32を形成する。したがって、レーザ光の照射L,Lのみで絶縁部を形成できるため、透明絶縁基材10の両面に導電パターンP,Pを形成した透明配線シート1を簡便に製造できる。
また、上記透明配線シートの製造方法では、透明絶縁基材10の一方の面に設けた第1透明導電層20に第1絶縁部21および第2絶縁部22を形成することにより導電パターンPを設けてX座標検出用の導電領域αを形成している。また、透明絶縁基材10の他方の面に設けた第2透明導電層30に第3絶縁部31および第4絶縁部32を形成することにより導電パターンPを設けてY座標検出用の導電領域βを形成している。X座標検出用の導電領域αの形成方向と、Y座標検出用の導電領域βの形成方向とは直交しており、タッチパネル用の入力装置として使用した際には、X座標検出用の導電領域αによりX座標を検出でき、Y座標検出用の導電領域βによりY座標を検出できる。すなわち、透明配線シート1は、タッチパネルの入力装置用として適したものである。
したがって、得られた透明配線シート1においては、タッチパネル用入力装置製造の際に一対の導電パターン形成シートを貼合する必要がなく、両面粘着シートを使用する必要もない。そのため、画像の視認性に優れ、しかも低コストで入力装置を製造できる。
【0034】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。
第2絶縁部および第4絶縁部は直線状でなく、曲線状であってもよい。図12に示すように、第4絶縁部32が曲線状である場合には、第3絶縁部31において第2接続補助部を省略しても、第3絶縁部31に第4絶縁部32を交差させることができる。
特に、隣接電極間のクロストーク抑制が重視される場合には、図13に示すように、幅0.1〜1mm程度の導電部30a、30bを挟む2本以上(図示例は2本)の平行な第3絶縁部31,31および第4絶縁部32,32を形成することが好ましい。このように絶縁部を形成すれば、短いレーザ光照射時間でも効率的に隣接電極との結合容量を減らすことができる。
第1透明導電層の露出面および第2透明導電層の露出面には、これらを保護するための保護膜が設けられてもよい。保護膜を形成する材料としては、例えば、第1透明導電層および第2透明導電層の透明基体を形成する樹脂と同じものを使用することができる。
また、第1導電パターンの導電領域の形成方向と第2導電パターンの導電領域の形成方向とは直交していなくてもよく、ねじれの位置にあればよい。ただし、第1導電パターンの導電領域の形成方向と第2導電パターンの導電領域の形成方向との角度は60°〜90°であることが好ましい。
【0035】
第1透明導電層は、導電性極細繊維以外の導電性物質を含んでも構わない。しかし、第1照射工程において長焦点距離の光学系を用いて第2透明導電層と、第2透明導電層を介した照射により第1透明導電層を一括して形成するためには、第2透明導電層は、導電性極細繊維、特に銀ナノワイヤを含むことが好ましい。導電性極細繊維を含み、照射光の波長レベルのサイズで導電部が絶縁体中に不均一に存在する場合には、加工痕が視認されにくくなり、外観を重視する用途(例えば、静電容量式タッチパネル等)に好適である。
一方、第2透明導電層が、ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸複合体に高導電化剤や安定剤を配合した導電性高分子系導電剤を含むインクのコーティング層などの均一な導電層である場合には、第2透明導電層を介して第1透明導電層を形成すると、第2透明導電層に加工痕が生じることがある。また、第1透明導電層が充分に絶縁化されないことがある。
【実施例】
【0036】
厚さ125μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の片面に、金属極細繊維を含むインク(Cambrios社の商品名Ohm、金属極細繊維の線径50nm程度、長さ15μm程度)を塗布乾燥後、紫外線硬化性のポリエステル樹脂インクを上塗りし、乾燥・紫外線処理を施した。これにより、PETフィルム上にポリエステル樹脂の内部に2次元ネットワーク状に金属極細繊維が含まれる第1の透明導電層を設けた。また、上記PETフィルムの他方の面に、第1透明導電層の形成方法と同様に、第2透明導電層を設けた後、A4サイズに裁断して、導電性基板を得た。なお、導電性基板の各透明導電層の表面抵抗は200〜250Ω/□、光線透過率は93%であった。
次いで、得られた導電性基板を、ポリアセタール(ポリプラスチック社製ジュラコン)からなる厚さ5mmのステージ上に、第1透明導電層が接するように載置した。
次いで、波長532nm、出力6W、パルス幅20n秒、繰り返し周波数100kHz、ビーム径6.7mmの2倍波YVOレーザを用い、焦点距離FL=300mmの集光レンズとガルバノミラーを使用して、導電性基板にレーザ光を走査速度2000mm/秒で照射した。このレーザ光の照射では、図5に示すような第1絶縁部21を第1透明導電層に形成すると共に第3絶縁部31を第2透明導電層に形成した。
なお、同一条件で、厚み125μmのアルミニウム蒸着フィルムにレーザ光を照射することによって描画を行ったところ、アルミニウム蒸着層の剥離の幅は50μmであり、集光スポットの直径が50μmであることを確認した。
次いで、走査速度100m/秒とした以外は上記と同じ条件でレーザ光を照射して、第1透明導電層および第2透明導電層に図1,2に示すような外形マーク23,33と位置決めマーク24,34を形成した。外形マーク23,33と位置決めマーク24,34は視認可能であった。
【0037】
次いで、第1絶縁部および第3絶縁部を形成した導電性基板を、X方向およびY方向にスライド可能で吸着可能なセラミックス製多孔質板からなるステージ上に移し換え、吸引固定した。
次いで、集光手段として、開口数が0.8、瞳径2.1mm、焦点距離2mmの対物レンズを使用し、波長532nm、パルス幅20n秒、繰り返し周波数1kHzのレーザ光レンズの瞳径まで絞り、対物レンズ通過後の測定で出力が18mWになるようにビーム強度を調整した。
次いで、可視光を利用してステージ上にレーザ光の焦点(集光点)が合うように対物レンズの位置を調整した。
この状態で、位置決めマーク24を基準に位置決めを行い、走査速度が10mm/秒になるようにステージを動かして、図6に示すような第2絶縁部22を第1透明導電層20に形成した。
次いで、対物レンズを100μm上昇させ、対物レンズ通過後の測定で出力が12mWとなるように調整した以外は第2絶縁部22の形成と同じ条件で、図8に示すような第4絶縁部32を第2透明導電層30に形成した。
なお、第2絶縁部22および第4絶縁部32のパターン幅は15μmとし、集光点(スポット径)は15μmとした。
上記のように第1透明導電膜に第1絶縁部と第2絶縁部を形成して導電パターンを設け、第2透明導電層に第3絶縁部と第4絶縁部を形成して導電パターンを設けて、透明配線シートを得た。
【0038】
得られた透明配線シートの第1透明導電層および第2透明導電層について、互いに隣接する導電領域同士の電気抵抗を市販のデジタルテスタにより測定したところ、10MΩ以上であり、充分な絶縁性が確保されていた。
また、各導電領域内の電気抵抗を測定したところ、10kΩ以下であり、充分な導電性が確保されていた。
上記実施例の製造方法では、PETフィルムの両面に導電パターンを形成した透明配線シートを簡便に製造できた。
【符号の説明】
【0039】
1 透明配線シート
10 透明絶縁基材
20 第1透明導電層
21 第1絶縁部
21a 枠線部
21b 第1直線部
21c 第2直線部
21d 第1接続補助部
21e 引き回し回路形成部
22 第2絶縁部
23 外形マーク
24 位置決めマーク
30 第2透明導電層
31 第3絶縁部
31a 枠線部
31b 第3直線部
31c 第4直線部
31d 第2接続補助部
31e 引き回し回路形成部
32 第4絶縁部
33 外形マーク
34 位置決めマーク
50 ステージ
A 導電性基板
B 透明基体
V 空隙
W 導電性極細繊維
,L レーザ光
第1導電パターン
第2導電パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明絶縁基材の一方の面に設けた第1透明導電層と透明絶縁基材の他方の面に設けた第2透明導電層とを備える導電性基板に、第2透明導電層を介してレーザ光をパターン状に照射することにより、第1透明導電層および第2透明導電層の各々に絶縁部を形成して導電パターンを設ける透明配線シートの製造方法であって、
焦点距離が100mm以上の光学系によりレーザ光を集光して導電性基板に照射することによって、第1透明導電層に第1絶縁部を形成すると共に第2透明導電層に第3絶縁部を形成する第1照射工程と、
開口数0.30〜0.85の集光手段によりレーザ光を集光して第1透明導電層に照射することによって、前記第1絶縁部とは異なる第2絶縁部を第1透明導電層に形成する第2照射工程と、
開口数0.30〜0.85の集光手段によりレーザ光を集光して第2透明導電層に照射することによって、前記第3絶縁部とは異なる第4絶縁部を第2透明導電層に形成する第3照射工程とを有することを特徴とする透明配線シートの製造方法。
【請求項2】
前記導電性基板を不透明なステージ上に、第1透明導電膜が接するように載置することを特徴とする請求項1に記載の透明配線シートの製造方法。
【請求項3】
レーザ光の集光点を前記ステージ表面に合わせてから第2照射工程をおこなった後に、レーザ光の集光点を前記導電性基板の厚みの20〜80%上昇させてから第3照射工程をおこなうことを特徴とする請求項2に記載の透明配線シートの製造方法。
【請求項4】
前記第1透明導電層および前記第2透明導電層の少なくとも一方は、層状の透明基体と、該透明基体の内部に2次元ネットワーク状に配置された導電性極細繊維とを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明配線シートの製造方法。
【請求項5】
レーザ光の照射によって、透明基体を溶融することなく導電性極細繊維を蒸発、除去して各絶縁部を形成することを特徴とする請求項4に記載の透明配線シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−109882(P2013−109882A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252466(P2011−252466)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】