説明

透明電極基材およびその製造方法

【課題】有機薄膜太陽電池への使用に適した透明電極基材を提供するとともに、安価で大面積化が容易な透明電極基材の製造方法を提供する。
【解決手段】透明電極基材1は、板状の透明基材2と、前記透明基材2の片側に形成された透明樹脂層3と、前記透明樹脂層3の前記透明基材2とは反対側の面に埋め込まれたパターン電極4と、前記透明樹脂層3および前記パターン電極4の直上に形成された透明な集電電極5とを有し、前記集電電極5の表面15が平坦である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜太陽電池、色素増感太陽電池、有機EL素子等に使用可能な透明電極基材に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜太陽電池(OPV)、色素増感太陽電池(DSC)など光電変換素子の受光面側、有機EL素子(OLED)など発光素子の発光面側には透明電極が用いられる。
【0003】
OPVの構造の一例を図2に示す。OPV31は、ホール輸送層35、活性層36および電子輸送層37などの機能層が、透明基材2’上に形成された透明電極33と、アルミニウム電極38とで挟まれた構造を有し、透明基材2’の表面が受光面11’となっている。この透明電極33にはインジウム錫酸化物(ITO)が用いられることが多いが、十分に低い抵抗を得るにはITOを300〜400nmの厚さに成膜する必要があり、生産性が悪くコストがかかるという問題があった。また、透明基材2’に樹脂等からなるフレキシブルな(可撓性のある)素材を用いた場合でも、ITO層が硬いためにOPVの可撓性が損なわれるという問題があった。
【0004】
これに対して、機能層の全面と接するITO層とグリッド状の金属電極(以下、単に「グリッド電極」という。)とを組み合わせた電極が開発されている。これにより、電極全体の抵抗値を維持しながらITOの膜厚を薄くすることができるので、より生産性を高め、コストを下げることができる。また、これにより、可撓性を有する透明基材を用いた場合に、OPVの可撓性を損なわずに維持することができる。
【0005】
このとき、単に透明基材上にグリッド電極を形成して、その上にITO層を成膜すると、透明基材とグリッド電極の段差部分でITO膜が途切れ、連続した膜を形成できないことがある。グリッド電極の厚さが典型的には数〜数十μmであるのに対して、ITO膜の厚さが典型的には数十nmであるからである。そこで、グリッド電極の開口部を樹脂で埋めて、段差を小さくする方法が開発されている。
【0006】
特許文献1には、DSC用の透明電極基板として、透明基材上に開口部を有する金属膜が設けられ、この開口部に金属膜とほぼ同じ厚さになるように透明樹脂膜が設けられ、金属膜及び透明樹脂膜上に透明導電膜が設けられた構成が記載されている。
【0007】
特許文献2には、DSC用の電極基板として、透明基材の片面に透明電極と多孔質半導体電極が順次形成されたものが記載されている。その透明電極は、多数の開口部を有する金属製の第1導電層と、その開口部に埋設された平坦化透明層と、第1導電層と平坦化透明層との上に形成された金属酸化物製の第2導電層とを含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−332705号公報
【特許文献2】特開2005−158737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に記載された透明電極基材では、金属電極表面と開口部の透明樹脂層または平坦化透明層との間には、どうしても数μm程度の段差が残ってしまうことが分かった。これは、金属電極開口部に透明樹脂層を塗布した後に、表面が露出した状態で透明樹脂層を硬化させるためである。例えば、感光性樹脂を用いて、透明基材側から露光し、金属電極上の露光されなかった樹脂分を洗浄する方法では、金属電極開口部の樹脂層が厚くなることは避けられない。また、硬化前にスキージ等で余剰の樹脂を除去しても表面は完全には平坦にならないし、さらに硬化に伴う樹脂の収縮等の影響が残る。
【0010】
金属電極表面と開口部の樹脂層の表面との間に段差があると、両者の上に形成されたITOその他の透明電極の表面にもその段差がそのまま再現される。これはITO等の膜厚が当該段差よりも桁違いに小さいからである。特許文献1および2ではDSC用途を想定しており、ITOなどの透明導電膜が途切れなく成膜できればよいので、この程度の段差は問題とはならないかもしれない。しかしOPV用途では、機能層の厚さが100〜200nm程度と薄いため、この段差が問題となり得る。また、OPVとほとんど同じ素子構造を有するOLED用途でも、この段差が問題となり得る。
【0011】
一方、製造方法に関して、従来の技術ではフォトリソグラフィー、ハロゲン化銀の現像、レーザー露光等のプロセスを用いてグリッド電極を作製したり、作製したグリッドをめっき等の方法で太く成長させたりすることが行われている。しかし、これらは安価なプロセスとは言えず、また製品の大面積化にも適していない。
【0012】
本発明はこれらの点を考慮してなされたものであり、OPVやOLEDでの使用にも適した透明電極基材を提供することを目的とする。併せて、安価で、かつ製品の大面積化が容易な透明電極基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の透明電極基材は、板状の透明基材と、前記透明基材の片側に形成された透明樹脂層と、前記透明樹脂層の前記透明基材とは反対側の面に埋め込まれたパターン電極と、前記透明樹脂層および前記パターン電極の直上に形成された透明な集電電極とを有し、前記集電電極の表面が平坦であることを特徴とする。この構成により、OPVやOLEDへの使用にも適した透明電極基材とすることができる。
【0014】
好ましくは、前記パターン電極の断面形状が椀型であることを特徴とする。
また、好ましくは、前記パターン電極が導電性粒子を含むことを特徴とする。
また、好ましくは、前記パターン電極が銀を主成分とすることを特徴とする。
【0015】
また、好ましくは、前記集電電極の表面において、前記パターン電極上に形成された部分と前記透明樹脂層上に形成された部分との段差が、前記集電電極表面の前記パターン電極上の部分の表面粗さRz以下であるか、または前記集電電極表面の前記透明樹脂層上の部分の表面粗さRz以下であることを特徴とする。
また、好ましくは、前記集電電極表面の前記透明樹脂層上の部分の表面粗さRzが100nm以下であることを特徴とする。
また、前記集電電極の表面において、前記パターン電極上に形成された部分の表面粗さRzが前記透明樹脂層上に形成された部分の表面粗さRz以上であることを特徴とする。
ここで、表面粗さRzとは、JISB0601−2001(ISO4287−1997と同一内容)に定める輪郭曲線の最大高さRzのことをいい、本明細書中で単に「表面粗さ」という場合はこのRzを意味する。
【0016】
本発明の透明電極基材製造方法は上記いずれかの透明電極基材を製造する方法であって、離型フィルムの表面にパターン電極を印刷する工程と、前記離型フィルムおよび前記パターン電極の表面に透明樹脂層を形成する工程と、前記透明樹脂層の上に透明基材を積層する工程と、前記離型フィルムを剥離する工程と、前記透明樹脂層およびその表面に埋め込まれたパターン電極の表面に透明な集電電極を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の別の透明電極基材製造方法は、離型フィルムの表面にパターン電極を印刷する工程と、透明基材の上に透明樹脂層を形成する工程と、前記透明樹脂層の表面に、前記パターン電極側を内側にして前記離型フィルムを積層する工程と、前記透明樹脂層を硬化させる工程と、前記離型フィルムを剥離する工程と、前記透明樹脂層およびその表面に埋め込まれたパターン電極の表面に透明な集電電極を形成する工程とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明の別の透明電極基材製造方法は、離型フィルムの表面に透明な集電電極を形成する工程と、前記集電電極の表面にパターン電極を印刷する工程と、前記離型フィルムおよび前記パターン電極の表面に透明樹脂層を形成する工程と、前記透明樹脂層の上に透明基材を積層する工程と、前記離型フィルムを剥離する工程とを有することを特徴とする。
【0019】
好ましくは、上記いずれの製造方法においても、前記パターン電極を印刷する工程が、導電性粒子を含むペーストをスクリーン印刷する工程であることを特徴とする。
また、好ましくは、上記いずれの製造方法においても、前記離型フィルムの表面粗さRzが50nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の透明電極基材は十分な平坦度を有することにより、OPVやOLEDでの使用にも適する。また、本発明の透明電極基材の製造方法によれば、安価に、かつ大面積の製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態である透明電極基材の構成を示す図である。
【図2】有機薄膜太陽電池(OPV)の構成例を示す図である。
【図3】パターン電極の断面形状を示す図である。
【図4】パターン電極の開口部形状を示す図である。
【図5】透明樹脂層界面とパターン電極界面の粗さと段差を説明する概念図である。
【図6】一実施形態である透明電極基材製造方法の工程を示す図である。
【図7】他の実施形態である透明電極基材製造方法の工程を示す図である。
【図8】他の実施形態である透明電極基材製造方法の工程を示す図である。
【図9】他の実施形態である透明電極基材製造方法の工程を示す図である。
【図10】実施例1の透明電極基材の断面SEM写真である。
【図11】実施例1の透明電極基材の断面SEM写真である。。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の透明電極基材について、その一実施形態を図1に基づいて説明する。
【0023】
本実施形態にかかる透明電極基材1は、透明基材2の上に透明樹脂層3が形成され、透明樹脂層3の上面にはパターン電極4が埋め込まれており、透明樹脂層3およびパターン電極4の直上に透明な集電電極5を有している。集電電極5の表面15は平坦である。また、集電電極−透明樹脂層界面13および集電電極−パターン電極界面14もそれぞれ平坦であり、両界面13、14には段差がない。透明電極基材1をOPVに用いるときには、集電電極5の表面15上に機能層が形成され、受光面11側から光が入射する。
【0024】
透明電極基材においては、その透過率が重要な特性である。本実施形態の透明電極基材1では、受光面11に垂直に入射した光の全光線透過率が80%以上であることが好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。本明細書中において、全光線透過率とはJISK7105−1981の規格に従って測定された値をいう。
【0025】
透明電極基材においては、その抵抗値も重要な特性である。抵抗値が高すぎると製品である素子の内部抵抗が大きくなって、OVPでは発電効率が悪くなるからである。本実施形態の透明電極基材1では、その面抵抗値が50Ω/□以下であることが好ましく、5Ω/□以下であることがさらに好ましい。面抵抗値は、JISK7194−1994の規格に従って4探針法によって測定することができる。その測定に際しては、中央の2本の探針(電圧測定用の探針)の間にパターン電極の電極線が1本以上含まれるようにする。
【0026】
透明基材2には、各種ガラス基板や樹脂フィルムを用いることができる。中でも可撓性を有する樹脂フィルムは、フレキシブルな製品を製造することができる点で好ましい。樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート(PC)、PMMAなどアクリル樹脂、その他各種樹脂からなる単層または多層のフィルムを用いることができる。透明基材2の厚さは特に限定されないが、樹脂フィルムであれば厚さ50〜350μmのものを好適に用いることができる。
【0027】
また、透明基材2の表面には耐摩耗層(ハードコート)や反射防止層が形成されていてもよい。これによって、透明電極基材の耐摩耗性や全光線透過率が向上する。また、透明基材2や該耐摩耗層、反射防止層は紫外線(UV)吸収剤を含むものであってもよい。これによって、透明電極基材1を用いた製品の使用期間中に、UVに起因する透明電極基材1の劣化、黄変等を抑制することができる。なお、後述するようにUV硬化樹脂からなる透明樹脂層3を用いる場合であっても、照射するUVの強度を適切に選択すれば、UV吸収剤を含む透明基材2越しにUV照射して透明樹脂層3を硬化させることが可能である。
【0028】
透明樹脂層3は、透明基材2の片側に形成されている。透明樹脂層は透明基材の表面に直接形成されていてもよいし、透明基材上に適当な接着層を介して形成されていてもよい。透明樹脂層3には、アクリル系、エステル系、シリコーン系、エポキシ系、その他各種の透明な樹脂を用いることができる。中でも、後述する製造工程において硬化処理が容易になる点から、活性エネルギー線硬化樹脂を用いるのが好ましく、UV硬化樹脂を用いるのがさらに好ましい。透明樹脂層3は単一の層であってもよいし、複数の層から構成されていてもよい。
【0029】
パターン電極4は、透明樹脂層3の透明基材2とは反対側の面に埋め込まれている。すなわち、図1において、パターン電極4の上面(平面部)を除く側面および底面全体が透明樹脂層3と接している。この構造によって、OPVなど製品を曲げたときにも、変形による応力が透明樹脂層内で緩和され、パターン電極−透明樹脂層界面に応力が集中することがなく、パターン電極の損傷、剥離、脱落を防止することができる。また、パターン電極4の側面および底面全体が透明樹脂層3に覆われているので、パターン電極4は透明基材2とは接していない。パターン電極が導電性微粒子を含む場合に、パターン電極と透明基材が接していると製品の変形時に導電性微粒子が脱落しやすいが、この構造によって導電性微粒子の脱落を防止することができる。
【0030】
パターン電極4が透明樹脂層3に埋め込まれた構造を実現するために、透明樹脂層3の厚さは、パターン電極4の厚さよりも大きいことを要する。また、パターン電極4の底部と接する透明樹脂層が薄すぎると製品変形時の応力緩和効果が小さくなるので、透明樹脂層3の厚さはパターン電極4の厚さ以上であり、1.5倍以上であることが好ましい。
【0031】
パターン電極4の材料としては、銀、銅、金、ニッケル、アルミニウム、錫などの各種金属もしくはそれらの合金、またはこれらとカーボンとの混合物など、各種の導電性の物質を用いることができる。中でもパターン電極4が導電性微粒子を含むことが好ましく、銀微粒子を含むことがさらに好ましい。パターン電極が導電性微粒子を含む場合には、いわゆるアンカー効果によって、パターン電極と集電電極の密着性が向上し、集電電極−パターン電極界面14の電気抵抗が小さくなるという効果が得られる。前記金属微粒子が銀微粒子であり、集電電極がITOからなる場合には、両材料の「馴染み」が良くないため、このアンカー効果が特に有効である。さらに、パターン電極が金属微粒子を含む場合には、結合剤として機能する有機物を同時に含むことが好ましい。
【0032】
パターン電極4の断面形状は、図1に示すように椀型であることが好ましい。すなわち、断面形状において、集電電極−パターン電極界面14部分は直線であって、この界面14に平行な幅は界面14近くで最大で、界面14から遠くなるにしたがってなだらかに減少し、パターン電極4と透明樹脂層3の界面が尖った部分を有しないことが好ましい。図3に基づいてさらに説明すると、断面形状は典型的には図3Aの如くであるが、椀の底に相当する部分には略直線状の部分があってもよいし(図3B)、パターン電極の厚さが中央部で最大にならなくてもよい(図3C)。本明細書において椀型とは、図3Aのみならず図3Bや図3Cのような形状も含むものである。パターン電極がこのような断面形状を有することによって、OPVなど製品を曲げたときの応力集中を避け、界面の剥離、透明樹脂層3やパターン電極4の損傷を防止することができる。
【0033】
パターン電極4の断面寸法は、電極を構成する材料の導電率等に応じて設計することができるが、その最大幅は10〜100μmであることが好ましく、厚さは1〜50μmであることが好ましい。断面が小さすぎると断線するおそれが大きくなるし、断面が大きすぎると光線透過率が小さくなるからである。
【0034】
パターン電極4の形状(模様)は、特に限定されないが、矩形、菱形、亀甲などの形状を好適に用いることができる。パターン電極を格子形状とすると各開口部は矩形、菱形等の形状を有するが、このとき各開口部の角は尖っていないことが好ましい。図4を例に説明すると、パターン電極4の開口部16が正方形で、開口部16の角17(正方形の頂点)が尖っていない。開口部の角17の曲率半径は1μm以上であることが好ましい。開口部の角17が尖っていないことによって、OPVなど製品を曲げたときの応力集中を避け、透明樹脂層3とパターン電極4の界面の剥離を防止することができる。
【0035】
パターン電極4の開口率は、全光線透過率を大きくするために、95%以上であることが好ましく、97%以上であることがさらに好ましい。
【0036】
集電電極5は、透明樹脂層3およびパターン電極4を覆うように形成されている。これにより、集電電極はパターン電極4と電気的に接続される。集電電極5を構成する材料としては、インジウム錫酸化物(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、酸化亜鉛等の酸化物や、ポリスチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT/PSS)等の導電性ポリマーなど、各種の透明な導電性物質を用いることができる。集電電極5は単一の層であってもよいし、複数の層から構成されていてもよい。集電電極5の厚さは、薄すぎると抵抗が大きくなり、厚すぎると生産性が悪く、コストがかかり、製品の可撓性を損なうという問題がある。したがって、集電電極5の厚さは10〜150nmであることが好ましく、10〜30nmであることがさらに好ましい。
【0037】
集電電極5の表面15は平坦である。OPVの機能層(図2の35、36、37)の厚さは合計で100〜200nmであり、ホール輸送層(同35)の厚さは30〜100nmである。したがって、これらの機能層を集電電極5の表面15に積層したときにその機能が損なわれないためには、集電電極5の表面15は十分に平坦である必要がある。
【0038】
集電電極表面15の平坦度は透明電極基材1の製造方法に強く依存する。集電電極5を透明樹脂層3およびパターン電極4の表面上に形成する場合には、集電電極表面15の形状は、集電電極を形成する前の透明樹脂層3およびパターン電極4の表面形状とほとんど同じになる。これは、集電電極5の厚さが数十〜数百nmと小さいからである。集電電極5を蒸着、スパッタ等の方法で形成する場合には、膜厚の均一性が高いために、この傾向が特に顕著になる。図5はこの場合の集電電極の断面形状を模式的に示したものである。図5において、集電電極の表面粗さRzは、透明樹脂層上に形成された部分の表面粗さ23は下地となる透明樹脂層の表面粗さ23’と、パターン電極上に形成された部分の表面粗さ24は下地となるパターン電極の表面粗さ24’とほぼ等しくなる。また、下地となる透明樹脂層表面13とパターン電極表面14に段差25’があると、集電電極の表面においても、パターン電極上に形成された部分と透明樹脂層上に形成された部分に段差25が再現される。
【0039】
もし集電電極表面15において、前記段差25が透明樹脂層上に形成された部分の表面粗さ23またはパターン電極上に形成された部分の表面粗さ24よりも小さければ、段差25は集電電極表面の凹凸に埋もれてしまうので、段差25の影響は小さなものとなる。したがって、集電電極表面15の段差25が、集電電極表面のパターン電極上の部分の表面粗さRz24以下であるか、集電電極表面の透明樹脂層上の部分の表面粗さRz23以下であることが好ましい。
【0040】
また、集電電極表面の大部分を占める、透明樹脂層上の部分の表面粗さ23自体が大きければ、やはり集電電極表面の平坦性が損なわれる。したがって、集電電極表面の透明樹脂層上の部分の表面粗さ23は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。さらに、前記段差は20nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
本発明の透明電極基材の構成は、以上の実施形態に限定されるものではない。例えば、透明基材2と透明樹脂層3との間には接着層が設けられていてもよい。後述するように、透明樹脂層3を硬化させる前に透明基材2を積層すれば、別途接着層を設けなくても透明基材と透明樹脂層を貼り合わせることができる。しかし、製造方法によっては、透明樹脂層3を硬化させた後に、接着層を介して透明基材2を貼り合わせることも可能である。なお、この場合にも、パターン電極4の側面および底面全体が透明樹脂層3と接しており、パターン電極4は接着層とは接していないことを要する。
【0042】
次に、本発明の透明電極基材製造方法の実施の形態について、図6〜9に基づいて説明する。
【0043】
図6に透明電極基材製造方法の一実施形態の工程フローを示す。離型フィルム6の表面にパターン電極4を印刷し(図6A)、離型フィルム6およびパターン電極4の上に透明樹脂層3を形成し(図6B)、樹脂フィルム7の片側にハードコート層8、反射防止層9が順次形成された透明基材2を樹脂フィルム7側を内側にして積層し(図6C)、この状態で受光面11側からUVを照射して透明樹脂層3を硬化させ(図6D)、剥離フィルム6を除去し(図6E)、透明樹脂層3およびパターン電極4の表面に集電電極5を形成する(図6F)。
【0044】
図7に透明電極基材製造方法の別の実施形態の工程フローを示す。離型フィルム6の表面にパターン電極4を印刷する(図7A)。樹脂フィルム7の片側にハードコート層8、反射防止層9が順次形成された透明基材2の反射防止層とは反対側に透明樹脂層3を形成し(図7B)、離型フィルム6と透明基材2を、それぞれパターン電極4側と透明樹脂層3側を内側にして積層し(図7C)、この状態で受光面11側からUVを照射して透明樹脂層3を硬化させ(図7D)、剥離フィルム6を除去し(図7E)、透明樹脂層3およびパターン電極4の表面に集電電極5を形成する(図7F)。
【0045】
図8に透明電極基材製造方法の別の実施形態の工程フローを示す。離型フィルム6の表面にパターン電極4を印刷し(図8A)、離型フィルム6およびパターン電極4の上に透明樹脂層3を形成した後(図8B)、透明樹脂層3を硬化させる(図8C)。透明樹脂層3表面に、接着層10を介して、樹脂フィルム7の片側にハードコート層8、反射防止層9が順次形成された透明基材2を積層し(図8D)、剥離フィルム6を除去し(図8E)、透明樹脂層3およびパターン電極4の表面に集電電極5を形成する(図8F)。
【0046】
図9に透明電極基材製造方法の別の実施形態の工程フローを示す。離型フィルム6の表面に集電電極5を成膜し(図9A)、その表面にパターン電極4を印刷し(図9B)、集電電極5およびパターン電極4の上に透明樹脂層3を形成し(図9C)、樹脂フィルム7の片側にハードコート層8、反射防止層9が順次形成された透明基材2を樹脂フィルム7側を内側にして積層し(図9D)、この状態で受光面11側からUVを照射して透明樹脂層3を硬化させ(図9E)、剥離フィルム6を除去する(図9F)。
【0047】
図6〜図8に示した方法によれば、離型フィルム6の表面上にパターン電極4および透明樹脂層3が接した状態で透明樹脂層3を硬化させるので、離型フィルム−パターン電極界面と離型フィルム−透明樹脂層界面に段差を生じず、透明樹脂層硬化時の収縮等の影響も受けにくい。そのため、集電電極形成前の段階で(図6E、図7E、図8E)、透明樹脂層表面とパターン電極表面に段差が生じにくい。結果として、透明電極5の表面において、透明樹脂層上に形成された部分とパターン電極上に形成された部分とに段差が生じにくい。また、図9に示した方法では、離型フィルム9の表面に集電電極5を形成するので、集電電極の表面には段差を生じない。
【0048】
図6〜図8に示した方法において、集電電極5形成前(図6E、図7E、図8E)の透明樹脂層3およびパターン電極4の表面粗さは、離型フィルム6の表面粗さの影響を強く受ける。結果として、集電電極の表面粗さは離型フィルムの表面粗さの影響を強く受ける。また、図9に示した方法では、集電電極の表面粗さは離型フィルムの表面粗さの影響を直接受ける。したがって、離型フィルムの表面粗さRzは小さい方が好ましい。離型フィルムの表面粗さRzは50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
以上の方法において、パターン電極4を印刷する方法は特に限定されないが、スクリーン印刷によることが好ましい。スクリーン印刷法を用いることによって、パターン電極の断面形状を容易に椀型にすることができる。また、導電性微粒子を含むペーストをスクリーン印刷することによって、金属微粒子および結着剤となるバインダーを含むパターン電極を容易に形成することができる。さらに、スクリーン印刷法を用いることによって、製品の大面積化が容易となる。
【0050】
また、パターン電極4を形成する際には、パターン電極の開口部形状には尖った部分がないように形成することが好ましい。パターン電極の開口部の角が尖っていないことと、パターン電極の断面形状が椀型であることによって、離型フィルム6、パターン電極4および透明樹脂層3の界面に泡残りが生じにくいという効果が得られる。
【0051】
なお、離型フィルム6と透明基材2を積層するには、各種のプレス方法を用いることができる。その際、パターン電極4の離型フィルム側の平面部を除く側面および底面全体が透明樹脂層3に覆われているので、パターン電極が導電性微粒子を有する場合でも、透明基材との接触によって導電性微粒子が脱落することが起こりにくい。
【0052】
また、図8に示した方法によれば、透明樹脂層3の片面が大気に露出した状態で透明樹脂層を硬化させるため(図8C)、活性エネルギー線硬化樹脂以外の樹脂を用いた場合にも迅速に硬化させることができる。これにより、透明樹脂層に用いる材料の選択の幅が広がる。接着層10としては、例えば、アクリル系粘着剤等を使用した厚さが25μm程度の市販の高透明性粘着テープなどを用いることができる。
【実施例】
【0053】
次に、上記実施形態について、実施例に基づいてより詳細に説明する。
【0054】
(実施例1)
実施例1は図6に示した方法によるものである。
【0055】
厚さ50μmの環状ポリオレフィンからなる離型フィルム6の表面に、スクリーン印刷によって銀ペーストをグリッド形状に印刷し、120℃で30分間乾燥してパターン電極4を形成した(図6A)。離型フィルム6の表面粗さRzは18nmであった。印刷に用いた刷版はステンレス製の500メッシュのものを用いた。銀ペーストは、平均粒径1μmの銀微粒子を含むものであった。形成されたパターン電極は、断面形状が椀型、銀のグリッド線の幅が46μm、厚さが3μmで、パターン(グリッド)の形状はピッチ2.0mmの正方格子で、正方形の開口部の角の曲率半径は50〜60μmであった。
【0056】
次に離型フィルム6およびパターン電極4の上に、アクリル系の紫外線(UV)硬化樹脂を塗布して透明樹脂層3を形成し(図6B)、厚さ125μmのPETフィルム7の片側にハードコート層8、反射防止層9が順次形成された透明基材2を、PETフィルム7側を内側にして積層した(図6C)。この状態で受光面11側からUVを照射して透明樹脂層3を硬化させた(図6D)。UVの照射は、高圧水銀灯を用いて行い、UV光度計(日本電池株式会社、UV−350N)の測定値を元に計算した積算照射光量は500mJ/cmであった。UV硬化後の透明樹脂層3の膜厚は8μmであった。
【0057】
次に剥離フィルム6を除去した後(図6E)、透明樹脂層3およびパターン電極4の表面にITO薄膜を集電電極5として形成した(図6F)。ITO薄膜は、ITOターゲットを用い、Ar/O2雰囲気でスパッタ法によって成膜し、その厚さは30nmであった。以上の工程により、透明電極基材1を得た。
【0058】
(実施例2)
実施例2は、パターン電極のグリッド線の幅が95μmであり、グリッド形状がピッチ5.3mmであったこと以外は、実施例1と同じ方法および条件で透明電極基材を作製した。
【0059】
(実施例3)
実施例3は図7に示した方法によるものである。ただし、透明基材にはハードコート層および反射防止膜を有しないものを用いた。
【0060】
環状ポリオレフィンからなる離型フィルム6の表面に、スクリーン印刷によって銀ペーストをグリッド形状に印刷し、乾燥してパターン電極4を形成した(図7A)。使用した材料、印刷および焼成条件、パターン電極の形状はすべて実施例1と同じである。
【0061】
次に、厚さ125μmのPETフィルム7(ハードコート層8および反射防止層9は有しない)を透明基材2として、この表面に実施例1と同じUV硬化樹脂を塗布し(図7B)、この上にパターン電極側を内側にして透明基材2を積層した(図7C)。この状態で受光面11側からUVを照射して透明樹脂層3を硬化させた(図7D)。UV照射条件およびUV硬化後の透明樹脂層3の厚さは実施例1と同じであった。
【0062】
次に剥離フィルム6を除去した後(図7E)、透明樹脂層3およびパターン電極4の表面にITO薄膜を集電電極5として形成した(図7F)。ITOの成膜条件および膜厚は実施例1と同じであった。
【0063】
(実施例4)
実施例4は、図6に示した方法によるものである。透明樹脂層にアクリルウレタン系のUV硬化樹脂を用いたことと、UV硬化後の透明樹脂層の厚さが15μmであったこと以外は、実施例1と同じ方法および条件で透明電極基材を作製した。
【0064】
表1に実施例1〜4の作製条件および得られた透明電極基材の特性を示す。全光線透過率は、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社、NDH2000)を用いて、前述の方法によって測定した。表面抵抗は、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック、ロレスタGP/MCP−T610)を用いて、前述の方法によって測定した。表中の表面粗さRzは、集電電極表面において、透明樹脂層上に形成された部分とパターン電極上に形成された部分とに分けて示した。また、段差は、集電電極表面において、パターン電極上に形成された部分と透明樹脂層上に形成された部分との段差のことをいう。集電電極の表面粗さRzおよび該段差は、段差・表面あらさ・微細形状測定装置(KLA−Tencor Corporation、P−6)を用いて測定した。Rzの定義はJISB0601−2001に従い、段差は同規格にいううねり曲線から求めた。
【0065】
【表1】

【0066】
表1から分かるように、実施例1〜4のいずれにおいても、全光線透過率が大きく、面抵抗が小さく、集電電極表面が平坦な透明電極基材が得られた。
【0067】
図10および図11に、実施例1の透明電極基材の断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示す。図11は図10の一部を拡大観察したものである。集電電極層5は、膜厚が薄いために、SEM写真では確認できない。図10より、パターン電極4は断面が椀型に形成させていることが分かる。なお、図10において、透明基材2と透明樹脂層3の境界が波打っているように見えるが、これは試料作製時に透明基材2の端がめくれ上がったことによるものである。図11からは、パターン電極4が粒子状の銀を含むことが確認できる。また、図11で、銀微粒子の輪郭に沿ってやや白い部分が見られるが、これは有機物が残存した部分である。
【符号の説明】
【0068】
1 透明樹脂基板
2、2’透明基材
3 透明樹脂層
4 パターン電極
5 集電電極
6 離型フィルム
7 樹脂フィルム
8 ハードコート層
9 反射防止層
10 接着層
11、11’受光面
13 集電電極−透明樹脂層界面
14 集電電極−パターン電極界面
15 集電電極表面
16 パターン電極の開口部
17 パターン電極の開口部の角
23 透明樹脂層界面の平均粗さ(十点平均粗さRz)
24 パターン電極界面の平均粗さ(十点平均粗さRz)
25 電極間界面における透明樹脂層とパターン電極の段差
31 有機薄膜太陽電池(OPV)
33 透明電極
35 ホール輸送層
36 活性層
37 電子輸送層
38 アルミニウム電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の透明基材と、
前記透明基材の片側に形成された透明樹脂層と、
前記透明樹脂層の前記透明基材とは反対側の面に埋め込まれたパターン電極と、
前記透明樹脂層および前記パターン電極の直上に形成された透明な集電電極とを有し、
前記集電電極の表面が平坦である
ことを特徴とする透明電極基材。
【請求項2】
前記パターン電極の断面形状が椀型である
ことを特徴とする請求項1に記載の透明電極基材。
【請求項3】
前記パターン電極が金属粒子を含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の透明電極基材。
【請求項4】
前記パターン電極が銀を主成分とする
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の透明電極基材。
【請求項5】
前記集電電極の表面において、前記パターン電極上に形成された部分と前記透明樹脂層上に形成された部分との段差が、前記集電電極表面の前記パターン電極上の部分の表面粗さRz以下であるか、または前記集電電極表面の前記透明樹脂層上の部分の表面粗さRz以下である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の透明電極基材。
【請求項6】
前記集電電極表面の前記透明樹脂層上の部分の表面粗さRzが100nm以下である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の透明電極基材。
【請求項7】
前記集電電極の表面において、集電電極が前記パターン電極上に形成された部分の表面粗さRzが前記透明樹脂層上に形成された部分の表面粗さRz以上である
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の透明電極基材。
【請求項8】
離型フィルムの表面にパターン電極を印刷する工程と、
前記離型フィルムおよび前記パターン電極の表面に透明樹脂層を形成する工程と、
前記透明樹脂層の上に透明基材を積層する工程と、
前記離型フィルムを剥離する工程と、
前記透明樹脂層およびその表面に埋め込まれたパターン電極の表面に透明な集電電極を形成する工程とを有する
請求項1〜7のいずれか一項に記載の透明電極基材を製造する方法。
【請求項9】
離型フィルムの表面にパターン電極を印刷する工程と、
透明基材の上に透明樹脂層を形成する工程と、
前記透明樹脂層の表面に、前記パターン電極側を内側にして前記離型フィルムを積層する工程と、
前記透明樹脂層を硬化させる工程と、
前記離型フィルムを剥離する工程と、
前記透明樹脂層およびその表面に埋め込まれたパターン電極の表面に透明な集電電極を形成する工程とを有する
請求項1〜7のいずれか一項に記載の透明電極基材を製造する方法。
【請求項10】
離型フィルムの表面に透明な集電電極を形成する工程と、
前記集電電極の表面にパターン電極を印刷する工程と、
前記離型フィルムおよび前記パターン電極の表面に透明樹脂層を形成する工程と、
前記透明樹脂層の上に透明基材を積層する工程と、
前記離型フィルムを剥離する工程とを有する
請求項1〜7のいずれか一項に記載の透明電極基材を製造する方法。
【請求項11】
前記パターン電極を印刷する工程が、金属粒子を含むペーストをスクリーン印刷する工程である
ことを特徴とする請求項8〜10のいずれか一項に記載の透明電極基材製造方法。
【請求項12】
前記離型フィルムの表面粗さRzが50nm以下である
ことを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の透明電極基材製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−102055(P2013−102055A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244893(P2011−244893)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【出願人】(592066723)中沼アートスクリーン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】