説明

逐次二軸延伸ポリエステルフィルムおよびその製造方法

【課題】へき開を抑制し、端部のラミネート強力の低下が小さいポリエステルフィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】テンターにより横延伸されたフィルムのクリップ掴み跡から幅方向に10cmの位置のラミネート強力T10が下記式を満たす逐次二軸延伸ポリエステルフィルム。
T10>0.6N/cm。延伸温度125〜135℃で4〜5倍に縦延伸することを特徴とする前記逐次二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルムに関する。特に端部でのラミネート強力の低下が少ないポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品などの包装用途には、耐熱性、機械的強度、寸法安定性、印刷適性などに優れることから、二軸延伸ポリエステルフィルムがシーラントフィルムなどとラミネートされた上で使用されている。
【0003】
しかし、二軸延伸を施し高配向・高結晶化させたポリエステルフィルムは、しばしば表層でへき開するため、ラミネートしてもデラミネーションを起こしやすく、包装用途では致命的な欠陥となっていた。横延伸のクリップ掴み跡近傍は、特にへき開しやすいという問題があった。これは、切断防止のためにクリップを冷却しているため、クリップ掴み跡近傍は熱セットが低温となって、配向緩和しにくくなるためと推察される。
【0004】
へき開を防止するために、特許文献1には、包装用二軸配向ポリエステルフィルムとして、バランスされた適度な面配向係数を有するポリエステルフィルムが開示されている。
【0005】
しかし、配向させすぎないように延伸倍率を適度に落とし、さらにバランスされた配向を得るために縦延伸倍率と横延伸倍率を同程度にしているため、縦延伸倍率は高々3.8倍であった。
【0006】
原料価格の高騰を吸収するため、コストダウンの要望が高くなっている昨今、縦延伸倍率を低くすれば生産速度が遅くなってしまいコスト上不利であった。また、端部がへき開しやすいという問題に応えるものではなかった。
【特許文献1】特開2007−118476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解決しようとするものであり、へき開を抑制し、端部のラミネート強力の低下が小さいポリエステルフィルム及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、特定の条件で縦延伸を施すことにより上記課題を解決できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)テンターにより横延伸されたフィルムのクリップ掴み跡から幅方向に10cmの位置のラミネート強力T10が下記式を満たす逐次二軸延伸ポリエステルフィルム。
T10>0.6N/cm
(2)さらに、クリップ掴み跡から幅方向に100cmの位置のラミネート強力T100が下記式を満たす請求項1記載の逐次二軸延伸ポリエステルフィルム。
T100>1.0N/cm
(3)延伸温度125〜135℃で4〜5倍に縦延伸することを特徴とする請求項1または2に記載の逐次二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
(4)縦延伸の後、延伸温度80〜140℃で3.5〜6.0倍に横延伸することを特徴とする請求項3記載の逐次二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、125〜135℃の温度で縦延伸を行うため延伸倍率が高くなっても配向度があまり上がらず、へき開の少ないフィルムとなり、その結果、通常へき開の起こりやすい端部でもへき開しなくなり、より幅広く製品として使用でき、さらに高い縦延伸倍率を採用できるため高いコストダウンの効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、ポリエステルフィルムは以下のポリエステル樹脂を主成分とするフィルムであることが好ましい。ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートやポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレン−2,6−ナフタレートなどのポリアルキレン−2,6−ナフタレート、ポリ乳酸などが挙げられる。これらはホモポリマーに限らず、ポリエステルの構成成分であるジカルボン酸および/またはジオール成分を、他のジカルボン酸および/またはジオールで置換した共重合体であってもよい。さらに本発明に用いられるポリエステル樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で他のポリエステル樹脂を混合したものであってもよい。
【0011】
機械的特性や熱的特性に優れる点から、ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするのが好適である。
【0012】
さらに必要に応じて、通常配合される各種の添加剤および改質剤、例えば、滑材、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、粘着性付与剤、シール性改良剤、防曇剤、結晶核剤、離型剤、可塑剤、架橋剤、難燃剤および着色剤(顔料、染料など)などを配合してもよい。
【0013】
本発明の逐次二軸延伸ポリエステルフィルムは、未延伸フィルムを縦延伸した後、横延伸することによって製造される。
【0014】
本発明において製膜方法は特に限定されないが、冷却速度が速く高速製膜ができる静電印加法が好ましい。
【0015】
本発明では125〜135℃の延伸温度で4〜5倍の縦延伸を行うのが好ましい。延伸温度は特に好ましくは127〜130℃である。延伸倍率は特に好ましくは2〜3倍と1.5〜2.5倍の2段階に分けて、全体で4〜5倍とする。延伸温度が125℃未満の場合、縦方向への配向度が大きくなった結果、へき開が起こりやすくなる。延伸温度が135℃を超える場合、縦延伸ロールからの剥離不良が生じ延伸斑となりやすい。延伸倍率が4倍未満の場合、生産速度が上がらずコスト上不利となる。延伸倍率が5倍を超える場合、縦配向が大きくなった結果、へき開が起こりやすくなる。2段階で延伸すると縦配向を抑えやすくなるので特に好ましい。
【0016】
次に横延伸を行うが、縦延伸フィルムの両端をクリップに掴ませ、80〜140℃の温度で3.5〜6.0倍の倍率で延伸するのが好ましい。延伸温度が80℃未満の場合、延伸破断が起きる場合がある。延伸温度が140℃を超える場合、引張破断強度が低くなる場合がある。延伸倍率が3.5倍未満の場合、引張破断強度が低くなる場合がある。延伸倍率が6.0倍を超える場合、横配向が大きくなった結果へき開が起こりやすくなったり、延伸破断が起きる場合がある。
【0017】
フィルムを掴む直前のクリップの温度は50〜100℃とするのが好ましい。クリップの温度をこの範囲に保つために冷風で冷却することができる。クリップの温度が50℃未満であったり、100℃を超えると、延伸切断が発生しやすくなる。50℃未満では、延伸切断が発生しなかった場合でも、クリップ近傍のフィルム温度が上がらず、以下に述べる端部のラミネート強力が小さくなる。クリップ温度は、赤外放射式温度計等を用いて測定することができる。
【0018】
二軸延伸されたフィルムは、続いて熱処理を行うが、熱処理の最高温度は240〜260℃が好ましい。熱処理温度が240℃より低いとフィルム表面の配向緩和が足りず、へき開を起こしやすく、また、フィルムの収縮率が大きくなる。260℃より高いとフィルムが溶断する場合があり、引張破断強度が低くなる。
【0019】
続いて幅方向に2〜6%の弛緩処理を行うのが好ましい。弛緩処理の温度は200〜240℃が好ましい。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムに対して、ラミネート強力を高めるため易接着コートを施したり、コロナ処理などの表面処理を行うことができる。
【0021】
本発明のポリエステルフィルムにおいては、テンターで横延伸する際にクリップで掴まれた部分(以下掴み跡という)から幅方向に10cmの位置で測定されたラミネート強力(T10)が、下記式:
T10>0.6N/cm
の関係を満たす必要がある。掴み跡から10cmより外側は通常、延伸耳としてトリミングされリサイクルされるため、掴み跡から10cmの位置は製品となりうる最端部と位置づけられる。へき開が起こればラミネート強力が0.6N/cm以下となるため、T10は0.6N/cmより大きい必要があり、1.0N/cmより大きいことが好ましい。
【0022】
また、本発明のポリエステルフィルムにおいては、掴み跡から幅方向に100cmの位置で測定されたラミネート強力(T100)が下記式:
T100>1.0N/cm
を満足することが好ましい。掴み跡から100cmより中央は掴み跡の影響がなくなると考えられる位置である。反対側の掴み跡からの距離の影響を考慮すると、フィルム幅は200cm以上が好ましく、生産性の点で300cm以上がさらに好ましい。T100は、1.5N/cmより大きいことがさらに好ましい。
【0023】
なお、ラミネート強力が1.0N/cmを超えていれば通常の包装用途には問題なく使用できる。
【0024】
また、包装用途として、ポリエステルフィルムの引張破断強度はMD、TDの少なくとも一方が200MPa以上であることが好ましい。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは特に限定されないが、9〜50μmの範囲であれば好ましい。
【実施例】
【0026】
ラミネート強力、引張破断強力の測定は以下の方法で行った。
【0027】
(ラミネート強力)
ラミネート強力の測定法は、ラミネートフィルムからMD100mm×TD15mmの試験片を採取し、23℃、50%RH雰囲気中で引張試験機(島津製作所社製 AGS−100B型)を用い、Tピール法にて、引張速度300mm/minの条件で試験片の端部からフィルム界面を剥離し、強力を測定した。
【0028】
(引張破断強度)
JIS K―7127に記載の方法に準じて測定した。掴み跡から10cm及びフィルムの幅方向の中央位置で測定し、平均値を採用した。
【0029】
実施例1
極限粘度0.69dl/gのポリエチレンテレフタレートを押出機にて溶融したのち、Tダイより押し出し、表面温度を20℃に温調した冷却ドラム上に静電印加法で密着させて急冷して厚さ280μmの未延伸フィルムを得た。続いて90℃に温調した予熱ロール群で予熱した後、130℃に温調した延伸ロール間で周速を変化させて2.3倍に縦延伸し、さらに130℃に温調した延伸ロール間で周速を変化させて2.0倍に縦延伸し厚さ50μmの縦延伸フィルムを得た。続いて縦延伸フィルムをテンター式延伸機に導き、予熱温度90℃、延伸温度120℃で5倍に横延伸し、続いて255℃で熱処理を行い、200℃で横方向に3%の弛緩処理も行った。掴み跡から10cmの位置でトリミングし、コロナ処理した後巻取り、幅480cm、厚さ12μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0030】
巻取ったフィルムを端から900mmの幅でスリットしラミネート用原反を得た。コロナ処理面にドライラミネート接着剤(大日本インキ化学工業社製 ディックドライ LX401/SP60)を塗布量3.5g/mとなるようにし、その接着剤塗布面とシーラントフィルムのコロナ処理面(未延伸低密度ポリエチレンフィルム;東セロ(株)社製、TUX−FCS、50μm)をニップロールにて貼り合わせ(ニップ条件;80℃)、接着剤推奨のエージングを施し、ラミネートフィルムを得た。得られた900mm幅のラミネートフィルムの両端部は、一方の端部が掴み跡から10cmの部分であり、他方の端部が掴み跡から100cmの部分となる。この両端の位置でラミネート強力を測定して、T10、T100を求めた。
【0031】
実施例2〜6、比較例1〜3
表1のように条件を変更した以外は実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを製造した。なお、実施例6は縦延伸を1段階で行い、このときの延伸倍率を4.6倍とした。
【0032】
【表1】

【0033】
表1からわかるように、各実施例では、T10が0.6N/cm以上のフィルムが得られた。
【0034】
実施例4、5は横延伸温度が高かったり、横延伸倍率が低かったので、TD方向の引張破断強度が低くなったが、フィルム物性は実用上問題のない範囲であった。
【0035】
実施例1と実施例6を対比すればわかるように、縦延伸を2段階としたほうがラミネート強力は向上した。
【0036】
比較例1、3は高配向になったためへき開が起こりラミネート強力が低かった。
【0037】
比較例2は縦延伸ロールからの剥離不良のため延伸斑となったため、ラミネート強力、引張破断強力の評価は行わなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テンターにより横延伸されたフィルムのクリップ掴み跡から幅方向に10cmの位置のラミネート強力T10が下記式を満たす逐次二軸延伸ポリエステルフィルム。
T10>0.6N/cm
【請求項2】
さらに、クリップ掴み跡から幅方向に100cmの位置のラミネート強力T100が下記式を満たす請求項1記載の逐次二軸延伸ポリエステルフィルム。
T100>1.0N/cm
【請求項3】
延伸温度125〜135℃で4〜5倍に縦延伸することを特徴とする請求項1または2に記載の逐次二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
縦延伸の後、延伸温度80〜140℃で3.5〜6.0倍に横延伸することを特徴とする請求項3記載の逐次二軸延伸ポリエステルフィルムの製造方法。


【公開番号】特開2010−82953(P2010−82953A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253799(P2008−253799)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】