説明

過熱蒸気防護服

【課題】 高圧蒸気配管や容器等からの過熱蒸気吹き出し事故に対して人体を保護するための、耐熱性、断熱性と防水性に優れた過熱蒸気防護服を提供することを課題とする。
【解決手段】 表地層2と中間層3と裏地層4とから成る過熱蒸気防護服TBOYであって、表地層2はメタ系アラミド繊維織物の表面に耐熱性が150℃以上の耐熱防水被膜6をコーティングし、中間層3はソフトな耐熱性繊維フェルト10から成り、裏地層4は織物から成り、これら3層構造布帛の各層を適切な厚みに形成することにより、前記布帛の表面に180℃の過熱蒸気を10分間吹き付けたときに前記布帛の裏面の温度が45℃以下となる防護布帛1で構成した過熱蒸気防護服TBOYであり、過熱蒸気防護服TBOYはつなぎ服13と頭巾14から成り、頭巾14は頭部保護用ヘルメット31の下方に垂れ32を備え、垂れ32とつなぎ服13との間は、前記過熱蒸気の侵入を共に防止すべく隙間なく構成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧蒸気配管や容器等からの過熱蒸気噴出事故に対して人体を保護するための過熱蒸気防護服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高圧蒸気配管等の近くで業務を行う作業者や視察者が、前記高圧蒸気配管等からの突然の過熱蒸気噴出事故に遭遇し火傷する事故が発生している。
【0003】
従来から消防服等の耐熱防護服等は数多くあるにもかかわらず、このような過熱蒸気噴出事故に対する過熱蒸気防護服は存在しなかった。
【0004】
消防服等の耐熱防護服としては、古くから輻射熱を反射させるために基布にアルミニウム蒸着したものが知られているが、アルミニウム蒸着は剥離し易い欠点があった。この対策として、実公昭62−34765号公報や実用登録第3090780号公報には、アルミニウム蒸着面を保護するためにポリマーフイルム層を接着することが提案されている。しかしながら、アルミニウム蒸着面を保護するためにポリマーフイルム層を接着すると、風合いが悪くなって着心地が阻害される欠点があった。
また、実公昭45−2552号公報には生地の表面にアルミニウム粉末等を混入した耐火性の人造ゴム等を形成せしめた耐火性布帛の防護服が提案されている。しかしながら、この公報では人造ゴムとしてネオプレンを用いており、このネオプレンの耐熱性は約100℃であり消防服としては優れていても、耐熱性がないので180℃の過熱蒸気が10分間も続けて吹き付けられると熱劣化し部分破壊する可能性がある。過熱蒸気防護服としては、耐火性は必要なく、耐熱性と断熱性が必要であり、前記公報はその旨の記載がない。
【0005】
上記3件の公報は消防服であり、輻射熱を反射させる効果があるが、断熱性が小さいので180℃の過熱蒸気が吹き付けられると、熱が消防服の内部に熱貫流して火傷する欠点がある。
【0006】
断熱効果のあるものとして特開2002−115106号公報では、表地層がメタ系アラミド繊維とパラ系アラミド繊維とから構成され、且つアルミニウム等の無機化合物が担持され撥水加工された中間層が透湿防水性を有し、遮熱層として空気量Vが0.07cm以上の織編物から構成されている耐熱防護服が提案されている。この耐熱防護服は、耐薬品性や防水性に優れているが、透湿性があるので180℃の過熱蒸気が吹き付けられると、過熱蒸気が防護服の内部まで浸透して火傷する可能性がある。
【特許文献1】実公昭62−34765号公報
【特許文献2】実用登録第3090780号公報
【特許文献3】実公昭45−2552号公報
【特許文献4】特開2002−115106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上記問題点を解決し、高圧蒸気配管や容器等からの突然の過熱蒸気吹き出し事故に対して人体を保護するために、耐熱性や断熱性と防水性に優れた過熱蒸気防護服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果到達したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、高圧蒸気配管や容器等からの過熱蒸気噴出事故に対して作業者等の人体を保護するための過熱蒸気防護服であって、表地層と中間層と裏地層とから成り、前記表地層はメタ系アラミド繊維織物の表面に耐熱性が150℃以上のコーティング材で耐熱防水被膜をコーティングして成り、前記中間層はソフトな耐熱性繊維フェルトから成り、前記裏地層は織物から成り、これら3層構造布帛の各層を適切な厚みに形成することにより、前記布帛の表面に180℃の過熱蒸気を10分間吹き付けたときに前記防護布帛の裏面の温度が45℃以下となる防護布帛としたことを特徴とする。
【0010】
本発明の布帛はメタ系アラミド繊維の表面に耐熱性150℃以上のコーティング材を用いて耐熱防水被膜を形成するので、180℃の過熱蒸気を遮断し、内層に生の蒸気が侵入する恐れがない。ここでの耐熱性150℃は、通常のゴム試験条件でいう耐熱性のことであり、150℃×72時間で強度が半減しないものをいう。従って、150℃×72時間は160℃で36時間、170℃で18時間、180℃では9時間の耐久性が期待される。現に200℃10分程度なら、何の変化なく蒸気遮断可能である。
【0011】
布帛の厚みは、メタ系アラミド繊維を用いるので、0.3〜0.5mm程度に薄く軽く製造可能である。コーティング被膜は、防水性を阻害しない範囲で極力薄く形成する。具体的には、メタ系アラミド繊維の織物の織り目の間に充分にしみ込ませた状態で、最外表面位置より0.1mm程度外に出るか否かで良い。それ以上の厚みを取ると、素材重量が大となり、全体重量も大きくなって作業性を格別悪くしてしまう。重量的には従来技術で示した消防服が参考となる。本願発明の作業服は従来の消防服よりも断熱性が格段に優れているにも拘わらず、その重量は前記消防服と同程度にされねばならない。強度や耐熱性及び断熱性に優れたメタ系アラミド繊維やソフトな耐熱性繊維フェルトを用いることで、それが可能となる。表地層のアラミド繊維織物の裏面にパイルを突出させ、又は薄いガーゼ層を配置するのも効果的である。
【0012】
中間層については、充分な断熱性を得るためソフトな耐熱性繊維フェルトで構成する。厚みは無加重時で1.5〜4.0mmにするのが好ましく、念のための耐熱性とより優れた断熱性を得るためにメタ系アラミド繊維を使用するのが好ましい。一般に、180℃の高温蒸気を表地層に10分間吹き付けると、表地層の表面温度は100℃まで上昇する。特に至近距離からの噴射蒸気は過熱蒸気となって瞬間的に凡そ150℃まで上昇することがある。そのために、前記表地層は耐熱性が150℃以上の素材で構成するのが良い。このように表面温度は上昇するが、中間層に耐熱性繊維フェルトを用いているので、中間層に対する熱貫流量は格別悪く、裏地層の表面温度はマネキン温度(約25℃)に対し、45℃を超えることはない。それはマネキンの熱容量に基づいて熱吸収量を超えるほどの熱貫流が生じないことを示している。従って、本願発明の布帛は、180℃×10分の過熱蒸気に耐え得るものであることを規約できる。
【0013】
また、本発明の布帛を用いての仕立てに関する本発明は、過熱蒸気噴出事故に対して作業者等の人体を保護するための過熱蒸気防護服であって、ズボン、上着、頭巾から成り、前記ズボン及び上着は一体化されたつなぎ服とし、前記頭巾は頭部保護用ヘルメットの下方に垂れを備え、前記垂れと前記つなぎ服との間は、前記過熱蒸気の上側からの侵入及び下側からの侵入を共に防止すべく隙間なく構成したことを特徴とする。
【0014】
本発明は、つなぎ服と頭巾で構成され、両者の間に直接蒸気が吹き込むことができるような隙間を作らないことで、この度新規に提案された過熱蒸気防護服として安全に着用できる。因みに、布帛の隙間から高温の蒸気が体内に入り接触すると、瞬時にして火傷するので、防護服となし得ない。また、蒸気配管からの吹き出し蒸気が勢い余って床面で反射する性質を有するので、床面からの吹き上げも考慮されねばならない。隙間を無くする方法としては、必ずしも密封する必要はないが、両面を重ね合わせるのみではなく面ファスナー及びホックを用いて強固に固定するか、折り返しを付けることにより、直接侵入を防止する形でよい。これにより、本発明の過熱蒸気防護服は、過熱蒸気の吹き付け環境の中で、少なくとも10分間は滞在可能なだけの防護服となすことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は特許請求の範囲に記載された通りの過熱蒸気防護服なので、下記のような効果がある。
【0016】
本発明は、メタ系アラミド繊維織物の表面に耐熱性が150℃以上のコーティング材で耐熱防水被膜を薄くコーティングしてなる表地層を用いているので軽量であり、この表地層の表面に180℃の過熱蒸気を10分間吹き付けても熱劣化することがなく、防水性も優れており、過熱蒸気が前記表地層を透過することはない。
【0017】
また、本発明で用いる防護布帛は、ソフトな耐熱性繊維フェルトから成る断熱中間層の両面に、前記表地層と織物からなる裏地層とを積層した3層構造の防護布帛なので、前記3層構造布帛の各層の厚みを適切に、特に前記ソフトな耐熱性繊維フェルトの厚みを適正に形成することにより、熱貫流量を抑制し、前記防護布帛の表面に180℃の過熱蒸気を10分間吹き付けたときに前記防護布帛の裏面の温度が45℃以下となる防護布帛とすることができ、着心地も損なうことがない。
【0018】
前記断熱中間層はソフトな耐熱性繊維フェルトから成っており、摩擦に対して弱いので織物からなる裏地層を積層することにより、摩擦に強い3層構造の防護布帛とすることができる。
【0019】
本発明の過熱蒸気防護服は、ズボン、上着、頭巾から成り、前記ズボン及び上着は一体化されたつなぎ服とし、前記頭巾は頭部保護用ヘルメットの下方に垂れを備え、前記垂れと前記つなぎ服との間は、前記過熱蒸気の上側からの侵入及び下側からの侵入を共に防止すべく隙間なく構成しているので、高圧蒸気配管や容器等からの突然噴出した過熱蒸気が人体に吹き付けられても、該過熱蒸気が前記防護服の中に侵入することがなく、人体を安全に保護することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態について、図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の過熱蒸気防護服に用いる防護布帛の一実施形態を示す断面図であり、図2は、図1のA部の拡大断面図である。防護布帛1は表地層2と断熱中間層3と裏地層4とから成っている。
【0022】
前記表地層2はメタ系アラミド繊維織物5の表面にゴム試験法による耐熱性が150℃以上のコーティング材で耐熱防水被膜6を薄くコーティングしたものである。前記メタ系アラミド繊維織物5としては、例えばポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維織物で目付100〜200g/mのものが好ましい。前記目付が100g/mの未満となると強度やコーティング性の面から好ましくなく、逆に目付が200g/mを超えると重量が大となって好ましくない。また、前記コーティング材としては、耐熱性が150℃以上の合成ゴム又は軟化点が200℃以上の熱可塑性樹脂を用いるのが良く、特にクロロスルフォン化ポリエチレンが好適である。クロロスルフォン化ポリエチレンは耐熱性や弾性率が良く、またメタ系アラミド繊維織物との親和性も良いので、図2の浸透部7で示すように境界面8よりもメタ系アラミド繊維織物5側に浸透し接着力が向上する効果がある。前記コーティング材には、熱伝導率の良い金属粉末等の熱拡散材9、例えばアルミニウム粉末を8〜20重量%程度混入してからコーティングすると、過熱蒸気が吹き付けられても熱が熱拡散材9によって周辺に拡散するので、前記防護布帛1の内部への熱伝導が緩和される効果が期待できる。前記耐熱防水被膜6のコーティング量は、メタ系アラミド繊維織物と熱拡散材9込みで凡そ500g/m以下、好ましくは400g/m以下になるように調整するのが良い。
【0023】
コーティングについて付言すると、接着力を大とするためには織物にコーティング材を完全に浸透させるのが好ましい。しかし、それでは重量(目付)大となる。従って、織物の中心部分まで浸透させるのが好ましい。必要強度保持可能な範囲で、極力薄く織り、極力薄くコーティングするのが望ましい。
【0024】
前記断熱中間層3は、ソフトな耐熱性繊維フェルト10とその上下に極薄の不織布11、12を配置してサンドイッチ状になしている。この3枚の不織布は全てメタ系アラミド繊維、例えば前記のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維で構成すると、耐熱性や断熱性が向上するので好ましいと言える。このように、不織布枚数を増やすことにより熱の貫流量を制限させることができる。パラ系アラミド繊維でも耐熱性と強度が良好であるが、断熱性の面でメタ系アラミド繊維の方が優れている。前記ソフトな耐熱性繊維フェルト10の厚みは無加重時で1.3〜4.0mm、見掛け比重を0.15〜0.35の範囲から選択するのが良い。厚みが薄くなると断熱効果が低下するが軽量となり、厚くなると断熱効果が向上するが重くなる。また、見掛け比重を大きくすると重くなってコスト高となり、見掛け比重を小さくすると、多くの空気を含み少ない繊維量で断熱効果が出せるが、前記範囲よりも小さくなると空気が対流して断熱効果が小さくなる。試行錯誤により最適な厚みと見掛け比重を決めるのが良い。また、極薄の不織布11、12でサンドイッチ状にして断熱効果を向上させ、この3枚の合計目付を130〜200g/mにするのが良い。
【0025】
前記断熱中間層3が3枚の不織布から成っていて摩擦に弱くずれやすいので、織物から成る裏地層4を重ねて、各層間のずれ防止のためにキルティング加工しておくのが好ましい。裏地層4は、高強力糸の紡績糸で目付が130〜260g/mの範囲で薄目の織物とするのが良く、この実施形態では念のため耐熱性に優れたメタ系アラミド(例えば前記のポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維)の短繊維と難燃性レーヨン短繊維の混紡糸織物を用いている。
【0026】
裏地層4の織物を含めた3層構造布帛の各層を適切な厚みに、特に前記耐熱性繊維フェルト10の厚みを適正に形成することにより、前記布帛の表面に180℃の過熱蒸気を10分間吹き付けたときに前記防護布帛の裏面の温度が45℃以下となる防護布帛とすることができる
以上の構成の防護布帛1により、その表面に180℃の過熱蒸気を10分間続けて吹き付けても、裏面温度をほとんど上昇させないようにすることができる。但し、裏面に何ら熱を吸収しない断熱材を配置した場合はこの限りでない。熱貫流によって温度上昇するからである。しかし、実際人体(温度36.5℃)はそれより高い温度の熱を吸収するので、微量の熱吸収により防護布帛1の裏面温度上昇が抑制される。衣服内部に空気を供給するようにした場合は尚更問題ない。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態に係わる過熱蒸気防護服を身につけた状態で示す作業者の正面図である。図4は、図3の作業者の背面図である。図5は、本発明の一実施形態に係わる過熱蒸気防護服TBOYを身につけた状態での頭巾部とつなぎ服との接合部を示す側断面図である。また、図6は、図4のF6-F6矢視に相当する部分の拡大断面図である。
【0028】
まず、本発明の過熱蒸気防護服TBOYの仕立て方式から示すと、本発明の過熱蒸気防護服TBOYはつなぎ服13と頭巾14から成っている。つなぎ服13は、ズボンと上着から成り、前記ズボン及び上着は一体化されており、開口部としては両手の袖口15と両足の裾16と首部の5箇所と着脱用開閉部17がある。これらの開口部は、必ずしも完全密封する必要はないが、両面を重ね合わせるのみではなくホック又はファスナー、好ましくは面ファスナーを用いて強固に固定するか、折り返しを付けることにより、直接侵入を防止する形でよい。例えば、両手部の袖口15と両足部の裾16は、ホック若しくはファスナー、好ましくは面ファスナー、又は袖口や裾の内側に縫いつけたゴム紐付き絞り部できつ目に絞れるようになっておればよい。市販品の耐熱性と断熱性に優れた合成ゴム引き布(好ましくは上記防護布帛1並の布)手袋18を両手に着用し、市販品の耐熱性と断熱性に優れたブーツ19を両足に履き、それらの上から密着できる構造になっておれば良い。このような構成にすることにより、高圧蒸気配管20の蒸気噴出孔21から噴出した過熱蒸気22が床面23に当たって跳ね返るか、又は途中で反転して上昇気流となっても、つなぎ服13の袖口15や裾16から過熱蒸気防護服TBOYの内部への侵入を防止することができる。
【0029】
つなぎ服13には、図4に示すように着脱用開閉部17が後首部24から後腰部25まで直線状に形成されており、この着脱用開閉部17にはファスナー、好ましくは面ファスナーで固定する構造に仕立てられている。従って、ファスナー、好ましくは面ファスナーで固定された前記着脱用開閉部17に過熱蒸気22が吹き付けられても、蒸気が容易に過熱蒸気防護服TBOYの内部に侵入することがない。しかしながら、図6で示すように着脱用開閉部17の一端部26を両面ファスナー27とし、着脱用開閉部17の他端部28には前記一端部26の端面を挟み込む形のファスナー押さえ29を取り付けて両面閉じにすると、着脱用開閉部17は隙間なく固定され過熱蒸気が内部に侵入できない構造となり安全性が倍増して好ましいと言える。尚、つなぎ服13の着脱用開閉部17は、前首部から前腰部まで直線状に形成された方が防護服の脱着作業やファスナー操作が容易であるが、前述のように後首部24から後腰部25まで直線状に形成された方が蒸気噴射に対して被害が少なくなりより安全と言える。
【0030】
前記頭巾14は頭部保護用ヘルメット、好ましくは内部にクッション30を備えたフルフェース型のヘルメット31の下方に上記防護布帛製の垂れ32を備え、前記垂れ32と前記つなぎ服13との間は、前記過熱蒸気の侵入を防止すべく隙間なく構成されている。図5では、垂れ32はつなぎ服13の上端部の内側に挿入して面ファスナーで閉じる構造になっている。更に、垂れ32の首周りにファスナー押さえ33を取り付けて、つなぎ服13の上端部を両面ファスナーとし、垂れ32の首周りとファスナー押さえ33で両面閉じにするのが、上記つなぎ服13の着脱用開閉部17と同様な理由により好ましいと言える。
【0031】
尚、上記ファスナー押さえ29、33を用いる場合は折り返し構造になっているので、必ずしも面ファスナーを使用する必要性はなく、普通のファスナー又はホックを使用することで、過熱蒸気の侵入を防止することができる。
【0032】
本発明の過熱蒸気防護服TBOYは、以上のように仕立てられているが、縫製時のミシン針孔を耐熱性の防水剤で潰しておくと、吹き付けられた蒸気がミシン針孔に浸透して防護服裏面まで蒸気の一部が侵入するのを防止することができる。
【0033】
また、本発明の過熱蒸気防護服TBOYは、上記のように、断熱性に優れた防護布帛1から仕立てられており、且つ前記過熱蒸気の侵入を防止すべく隙間なく構成されているので、着用すると冬季でも暑くなり、力仕事をすると息苦しくなることもあるので、衣服内部に空気又は酸素を供給するようにするのが好ましい。
【0034】
次に本発明の過熱蒸気防護服TBOYの着用手順を示すと、まず、図5に示す前記頭巾14を頭部に着用し、図4に示すつなぎ服13の着脱用開閉部17を開いて両足をズボン部に挿入し上着部を引き上げて両手を袖部に挿入する。次いで、前記頭巾14の垂れ32をつなぎ服13の上部で被い、着脱用開閉部17の面ファスナーを下方から閉じて、垂れ32とつなぎ服13の上部を面ファスナーで固定し、垂れ32の首周りのファスナー押さえ33によりつなぎ服13の首周りを押さえて固定する。次いで、耐熱性に優れた合成ゴム引き布手袋18又は耐熱性と断熱性に優れたブーツ19を着用し、その上からつなぎ服13の両袖口15と両裾16を面ファスナーで絞りながら固定して着用が完了する。かくして、つなぎ服13と頭巾14から成る過熱蒸気防護服TBOYは、隙間なく構成されているので高圧蒸気配管や容器等から噴出した過熱蒸気の上側からの侵入及び下側からの侵入を共に防止することができ、人体を火傷から安全に保護することができる。
【0035】
次に高圧蒸気配管現場について説明する。一般的に工場で使用する蒸気は0.3MPa程度の低圧蒸気と1.0MPa程度の高圧蒸気の2種類を使用することが多い。低圧蒸気よりも高圧蒸気の方が危険なので、ここでは1.0MPaの高圧蒸気について説明する。1.0MPaの高圧飽和蒸気の温度は約180℃であり、その高圧蒸気配管は、通常床面から凡そ2.5〜3.0m上方に張り巡らされていて、タンク類の容器への高圧蒸気配管は上方から垂直に下りてきて接続されている。従って、過熱蒸気の噴き出し事故は、上方に張り巡らされた高圧蒸気配管が長年の使用により腐食劣化して孔があいて起こることが多い。図2はそのような事故を想定した場合の図でもあり、高圧蒸気配管20の一部が腐食劣化して直径9mmの蒸気噴出孔21が開いたと仮定し、その蒸気噴出孔21から突然噴出した蒸気22がたまたまその下にいた、過熱蒸気防護服TBOYを着用した作業員に吹き付けられる。蒸気噴出孔21から作業員の過熱蒸気防護服TBOYの肩の部分まで1mの距離があったとすると、180℃の高温蒸気22が前記防護服TBOYの肩の部分に10分間吹き付けられると、その表地層の表面温度は100℃まで上昇する。それでも、本発明の過熱蒸気防護服TBOYは断熱効果が優れているので、その裏地層4の表面温度は45℃を超えることはない。蒸気噴出孔21から噴出された過熱蒸気22は作業員をスッポリと覆い、その蒸気の一部は勢い余って床面で反射して上昇気流となる。このような状況の中で、前述のように過熱蒸気防護服TBOYは上側からの侵入及び下側からの侵入を共に防止すべく隙間なく構成されているので、噴出された蒸気が前記防護服TBOYの内部に侵入するのを遮断し、内層に生の蒸気を侵入させる恐れがなく、人体を火傷から完全に保護することができる。
【0036】
蒸気噴出試験についての実施例を示すと次の通りである。本実施例は、表1に示す条件で作成した図1に示す防護布帛1を用いて仕立てた過熱蒸気防護服TBOYを、予め人の体温並みに予熱したマネキンに着用させ、9mmφの孔を下向きに穿孔した高圧蒸気配管の1m下にマネキンの左肩が位置するように設置し、配管内圧力1.0MPa、温度180℃の高圧蒸気を流して前記孔から噴出させてマネキンの左肩に吹き付けた。マネキンの左肩皮膚表面温度の経時変化測定結果と火傷推定結果を図7に示す。
【表1】

【0037】
図7から明らかなように、高圧蒸気配管から180℃の過熱蒸気が噴出し、本発明の過熱蒸気防護服を着用したマネキンの左肩に吹き付けられても、マネキンの左肩皮膚表面温度は600秒後で45℃までしか上昇せず、皮膚が赤くなる火傷1度になるには700秒の猶予があり、その間に充分避難可能であることが分かる。
【0038】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の過熱蒸気防護服に用いる防護布帛の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1のA部拡大断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係わる過熱蒸気防護服を身につけた状態で示す作業者の正面図である。
【図4】図3の作業者の背面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係わる過熱蒸気防護服を身につけた状態での頭巾部とつなぎ服の接合部を示す側断面図である。
【図6】図4のF6-F6矢視に相当する部分の拡大断面図である。
【図7】噴出蒸気が当たった防護布帛面の内側のマネキン皮膚温度と火傷推定結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0040】
1 防護布帛
2 表地層
3 断熱中間層
4 裏地層
5 メタ系アラミド繊維織物
6 耐熱防水被膜
7 浸透部
8 境界面
9 熱拡散材
10 耐熱性繊維フェルト
11,12 不織布
13 つなぎ服
14 頭巾
15 袖口
16 裾
17 着脱用開閉部
18 手袋
19 ブーツ
20 高圧蒸気配管
21 蒸気噴出孔
22 過熱蒸気
23 床面
24 後首部
25 後腰部
26 着脱用開閉部の一端部
27 両面ファスナー
28 着脱用開閉部の他端部
29 ファスナー押さえ
30 クッション
31 ヘルメット
32 垂れ
33 ファスナー押さえ
TBOY 過熱蒸気防護服

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧蒸気配管や容器等からの過熱蒸気噴出事故に対して作業者等の人体を保護するための過熱蒸気防護服であって、表地層と中間層と裏地層から成り、前記表地層はメタ系アラミド繊維織物の表面に耐熱性が150℃以上のコーティング材で耐熱防水被膜をコーティングして成り、前記中間層はソフトな耐熱性繊維フェルトから成り、前記裏地層は織物から成り、これら3層構造布帛の各層を適切な厚みに形成することにより、前記布帛の表面に180℃の過熱蒸気を10分間吹き付けたときに前記防護布帛の裏面の温度が45℃以下となる防護布帛としたことを特徴とする過熱蒸気防護服。
【請求項2】
過熱蒸気噴出事故に対して作業者等の人体を保護するための過熱蒸気防護服であって、ズボン、上着、頭巾から成り、前記ズボン及び上着は一体化されたつなぎ服とし、前記頭巾は頭部保護用ヘルメットの下方に垂れを備え、前記垂れと前記つなぎ服との間は、前記過熱蒸気の上側からの侵入及び下側からの侵入を共に防止すべく隙間なく構成したことを特徴とする請求項1記載の過熱蒸気防護服。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−9380(P2007−9380A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195297(P2005−195297)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(501442253)株式会社ト−ヨ (4)
【出願人】(594023179)株式会社帝健 (9)
【Fターム(参考)】