説明

過酸化水素分解用触媒およびその製造方法

【課題】 高活性な炭素材料を用いることにより活性が高くしかも安価に得ることのできる過酸化水素分解用触媒、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 炭素触媒よりなる過酸化水素分解用触媒、および熱可塑性樹脂を炭素化することにより炭素触媒を得ることを特徴とする、過酸化水素分解用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素分解用触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、現在、工業的に大量に生産されており、その用途も広範囲に亘り、紙パルプや繊維の漂白剤、食品の殺菌剤や酸化剤、金属の表面処理剤、半導体の洗浄剤等として広く利用されている。しかしながら、過酸化水素を含む廃液をそのまま排出した場合、COD源となるばかりでなく、廃水処理時、たとえば生物活性汚泥処理装置に混入した場合、過酸化水素の分解に伴って発生する酸素ガスが沈澱槽で懸濁物を浮上させ、処理水の水質の悪化の原因となるなど種々のトラブルの原因となる。このため通常、廃水中の過酸化水素は予め分解処理して排出される。
【0003】
従来の過酸化水素を分解する方法としては、白金などの貴金属触媒が報告されているが、そのほかに二酸化マンガンを用いる方法や、カタラーゼ等の酵素触媒を用いる方法(特許文献1など)などがある。
【0004】
しかしながら、白金は能力が高いが、埋蔵量が少なく、したがって高価であることから産業利用では不向きである。また、二酸化マンガンを利用した場合は、低pH領域ではマンガンイオンの溶出により使えないためpH調整を有する点が問題となる。カタラーゼを利用する場合においては、分解速度が低く、有機物であるので排水時の汚染源となるなどの問題があり、これらの問題を生じない過酸化水素分解触媒の登場が待たれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−246092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高活性な炭素材料を用いることにより活性が高くしかも安価に得ることのできる過酸化水素分解用触媒、およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、高活性な炭素材料を用いることにより活性が高くしかも安価に得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 炭素触媒よりなる過酸化水素分解用触媒、
2. 熱可塑性樹脂を炭素化することにより炭素触媒を得ることを特徴とする、過酸化水素分解用触媒の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
広範囲なpHで使用可能で、且つ過酸化水素分解速度が高い過酸化水素分解用触媒を得ることができる。また、白金のような貴金属を使用しないので、今までより廉価であり、二酸化マンガンの如く、重金属ではないため、安全である。
さらに、漂白剤、殺菌剤、酸化剤、金属の表面処理剤、半導体の洗浄剤等として広く利用することができ、半導体や液晶パネルの製造における洗浄用超純水のリサイクルおよびコンタクトレンズ洗浄剤に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0011】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0012】
[実施例1]
1.5gのビニルピリジンを20mLのジメチルホルムアミドに溶解させた後、70℃で5日間かけて高分子化を行い、ポリビニルピリジンを得た。このポリビニルピリジンに0.65gの塩化鉄六水和物を加え、室温で24時間攪拌することによりポリビニルピリジン鉄錯体を得た。
【0013】
この錯体にケッチェンブラック(EC600JD、ライオン株式会社)を加え、乳鉢を用いて混合することにより、ポリビニルピリジン鉄錯体とケッチェンブラックとを含有し、当該ケッチェンブラックを50重量%含有する原料を得た。
【0014】
また、上述の塩化鉄六水和物に代えて、塩化コバルト六水和物を用いることにより、ポリビニルピリジンのコバルト錯体とケッチェンブラックとを含有し、当該ケッチェンブラックを50重量%含有する原料を得た。
【0015】
次に、これらの原料の炭素化処理を行った。すなわち、まず上述のようにして調製した原料のそれぞれを石英管に入れ、当該石英管を楕円面反射型赤外線ゴールドイメージ炉に入れ、20分間窒素パージした。
【0016】
そして、加熱を開始し、ゴールドイメージ炉の温度を、窒素雰囲気下で、1.5時間かけて室温から800℃まで昇温させた。その後、この石英管を800℃で1時間保持した。このような炭素化処理によって、炭素触媒を含有する組成物を得た。
【0017】
さらに、こうして得られた組成物を遊星ボールミル(P−7、フリッチュジャパン株式会社)内に1.5mm径の窒化ケイ素ボールをセットし、当該組成物を回転速度800rpmで60分間粉砕した。粉砕した組成物を取り出し、目開き105μmの篩を通過した炭素触媒の微粒子を回収した。
【0018】
さらに、上述のようにして得られた炭素触媒に、鉄又はコバルトを除去するための酸洗い処理を施した。すなわち炭素触媒に37%のHClを加えて2時間撹拌した後静置して上澄み液をデカンテーションした。この操作を3回行った。さらに、吸引ろ過を行った後、さらに蒸留水による洗浄を行い、次いで煮沸を行った。こうして、金属除去処理が施された2種類の炭素触媒(PVP/Fe/KB触媒、PVP/Co/KB触媒)を得た。
【0019】
[過酸化水素の定量]
[実施例2]
実施例1のPVP/Fe/KB触媒1.5mgを、34000mg/Lの過酸化水素水30mlに投入後、直ちにガスが発生した。スターラーで攪拌しながら、30分後直ちに0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、触媒と水溶液を分離した。ろ液を過マンガン酸摘定により定量したところ、過酸化水素濃度は13600mg/Lで、60%の除去率であった。同様に120分経過後の過酸化水素濃度は1150mg/Lで96.6%であった。
【0020】
[実施例3]
実施例2の触媒をPVP/Co/KB触媒に代えたこと以外は実施例2と同様に行った。30分経過後の過酸化水素濃度は15200mg/Lで、55.3%の除去率であった。同様に120分経過後の過酸化水素濃度は1950mg/Lで94.2%の除去率であった。
【0021】
[比較例1]
実施例2の触媒を二酸化マンガン(東ソー製:FMV)に代えたこと以外は実施例2と同様に行った。30分経過後の過酸化水素濃度は18500mg/Lで、45.6%の除去率であった。同様に120分経過後の過酸化水素濃度は5975mg/Lで82.4%の除去率であった。
【0022】
[実施例4]
実施例1のPVP/Fe/KB触媒50mgを、6000mg/Lの過酸化水素水200mlに投入後、直ちにガスが発生した。スターラーで攪拌しながら、2分後直ちに0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、触媒と水溶液を分離した。ろ液を過マンガン酸摘定により定量したところ、過酸化水素濃度は599mg/Lで、90%の除去率であった。同様に5分経過後の過酸化水素濃度は9mg/Lで99.9%であった。
【0023】
[比較例2]
実施例4の触媒を二酸化マンガン(東ソー製:FMV)に代えたこと以外は実施例4と同様に行った。2分経過後の過酸化水素濃度は3360mg/Lで、44.0%の除去率であった。同様に5分経過後の過酸化水素濃度は2200mg/Lで63.3%の除去率であった。
【0024】
[比較例3]
実施例4の触媒を水蒸気賦活活性炭(日本エンバイドケミカルズ:白鷺TC)に代えたこと以外は実施例4と同様に行った。目視による分解ガスの発生が認められず、5分経過後の過酸化水素濃度も5960mg/Lでほとんど反応しなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素触媒よりなる過酸化水素分解用触媒。
【請求項2】
熱可塑性樹脂を炭素化することにより炭素触媒を得ることを特徴とする、過酸化水素分解用触媒の製造方法。

【公開番号】特開2010−274169(P2010−274169A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127382(P2009−127382)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】