説明

遠心力載荷試験用地盤劣化装置

【課題】遠心力載荷試験時の短縮された時間内にそれに見合った物理的・化学的風化を模型地盤に強制的に作用させる模型地盤劣化装置を提供する。
【解決手段】 模型地盤容器の内部に模型地盤を載置し、また前記容器の上方部に噴霧ノズル装置を設け、前記模型地盤に給水タンク内の劣化溶液を前記噴霧ノズルから噴霧できるようにするとともに、前記模型地盤容器を密閉できる構造とし、真空ポンプを使って模型地盤容器の内部の真空度を高めるようにしたことを特徴とする遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心力載荷試験時の短縮された時間内にそれに見合った物理的・化学的風化を模型地盤に強制的に作用させる模型地盤劣化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤の挙動は長時間にわたる緩慢な変化に基づくが、これを短時間で行なう実験方法として遠心力載荷試験がある。すなわち、遠心力載荷試験とは、縮小模型に実地盤と等しい自重を遠心力により作用させ、縮小模型に再現させる試験である。試験結果は、地盤の圧密、液状化などの地盤挙動の予測・検証に用いられている。遠心力載荷試験は、実物大の模型をわざわざ作製する必要がないほか、重力の数十から数百倍の遠心力が模型にかかるため、地中水が遠心加速度の2乗の速さで流れるなど、実際の挙動時間に比べて現象が速く進行する(100G載荷時:10年が1日に短縮)。このように遠心力載荷試験は、大幅な時間短縮が可能で圧密のような長時間にわたる地盤挙動の予測には有効である。
【0003】
しかし、数年から数十年にわたる長期現象の予測・検証のあたり、北海道・東北地方などの積雪寒冷地では3月から4月にかけての融雪期に、凍結融解による地盤表層部の破砕(物理的風化)や、近年問題になっている酸性雨による地盤の変質(化学的風化)など、風化による地盤の劣化が生じている。これら風化による地盤劣化は、その耐久性に大きく影響を及ぼすため、斜面崩壊などの地盤災害の主な要因になっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の遠心力載荷試験は土壌の特性は不変であると仮定して行なわれてきたが、土壌風化による特性の変化(寒冷地の凍結・融解による物理的風化や酸性雨など大気環境の化学物質による化学的変化)が取り入れられていないという問題があった。すなわち、現在の遠心力載荷試験では、これら物理的・化学的風化による地盤劣化を全く考慮していないため、長期現象の再現性という点で問題である。
【0005】
そこで、本発明は、遠心力載荷試験の中に風化による土壌特性変化を組み込むために冷凍・解凍を行い、同時に、劣化溶液による土壌の化学変化を与えることの出来る地盤劣化装置を提供し、長期にわたる土壌の特性変化も組み込んだ地盤挙動を実験的に調べることを可能とすることを目的としたものである。すなわち、遠心力載荷試験時の短縮された時間内にそれに見合った物理的・化学的風化を模型地盤に強制的作用させる「模型地盤劣化装置」を提供し上記問題点を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が採用した技術解決手段は、
模型地盤容器の内部に模型地盤を載置し、また前記容器の上方部に噴霧ノズル装置を設け、前記模型地盤に給水タンク内の劣化溶液を前記噴霧ノズルから噴霧できるようにするとともに、前記模型地盤容器を密閉できる構造とし、真空ポンプを使って模型地盤容器の内部の真空度を高めるようにしたことを特徴とする遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置である。
また、給水タンク内の劣化溶液は、バルブ、給水シリンダ−を介して噴霧ノズル装置のノズルに入るようにした遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置である。
また、給水タンクに、バブリングのできる酸素供給ポンプと溶存酸素濃度計を取り付けたことを特徴とする遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置である。
また、模型地盤容器内への劣化溶液の供給量は、噴霧ノズル装置のノズルの開口数と給水シリンダ−の圧力を制御するコントロ−ルボックスによって制御されるようにした遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、模型地盤を冷却・加温管、冷却・加温板により、冷却・加温するので、従来の模型地盤容器外の別のプ−ルで温度調節されたアルコ−ルを循環させることにより気温を再現していたのに比べて時間が短縮される。特に、実施例における装置によれば、冷却パイプは冷凍機に直結されているために、短時間に−35°Cにまで模型地盤容器内の温度を下げることができる。更に、高周波出力器を有するので氷を瞬時に水に変化させることができる。そのため、模型地盤内にマイクロ波を照射している間だけ模型地盤表面の氷は融解し、それ以外は模型地盤容器内が−35°Cのために凍結する。この高周波出力器と冷却パイプの組み合わせにより、遠心力載荷試験時の短縮した時間内に複数回の凍結融解を発生させることができる。また、更なる時間短縮が必要な時には、−170°Cの液体窒素を上部より注入する。これにより、模型地盤の表面は瞬時に凍結する。また、先行例の「給水装置」において、給水盤からフイルタ−を通して模型地盤に劣化溶液注入・浸透させることにより、偏りのない均一な化学反応を起こさせること出来るものである。実施例の「劣化溶液噴霧装置」においては、噴霧ノズル装置のノズルを模型地盤容器の上方部に配置したから、劣化溶液の供給方向は遠心力の方向と同じになり、無理な圧力をかけることなく均等に劣化溶液を浸透させることができる。更に、給水タンクに、バブリングのできる酸素供給ポンプと溶存酸素濃度計を取り付けたことにより、pH調整溶液だけでは鉱物変化を生じない鉱物にも対応でき、pHと溶存酸素濃度の調整も可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、模型地盤容器の内部に模型地盤を載置し、また前記容器の上方部に噴霧ノズル装置を設け、前記模型地盤に給水タンク内の劣化溶液を前記噴霧ノズルから噴霧できる装置であり、また、前記模型地盤容器を密閉できる構造とし、真空ポンプを使って模型地盤容器の内部の真空度を高めるようにした装置である。
【実施例】
【0009】
以下、本発明について詳述すると、図1は、模型地盤劣化装置の先行例で(a)は、模型地盤に凍結融解による物理的風化を作用させるための「凍結融解装置」、(b)は、劣化溶液を媒介として化学的風化を生じさせるための「給水装置」である(非特許文献1)、図2は、模型地盤に凍結融解(物理的風化)を瞬時に作用させる「短周期凍結融解装」、図3は、模型地盤に化学的風化を強制的に作用させる「劣化溶液噴霧装置」である。

【非特許文献1】田中俊成他、遠心載荷試験のための模型地盤劣化装置の試作、平成11年度 土木学会東北支部技術研究発表会講演概要 314−315、2000
【0010】
図1(a)において、水槽1は、媒体液(メタノ−ル)を収容している。模型地盤7を収容する模型地盤容器5の上面には、冷却・加温管4が、側面には、冷却・加温側板6が配置されている。水槽1と模型地盤容器5内の冷却・加温管4、冷却・加温管板6は、循環ホ−ス3を介して連結されており、水槽1内の媒体液が循環するようになっている。そして、水槽1のコントロ−ルパネル2で温度設定された媒体液は、循環ホ−ス3、冷却・加温管4、冷却・加温管板6を循環し、模型地盤容器5内の模型地盤7を適宜凍結融解作用させる。図1(b)において、給水タンク11は、劣化溶液(希硫酸等)12を収容している。模型地盤19を収容する模型地盤容器18の側面には、フィルタ−付き給水盤17が配置され、模型地盤19内に等しく劣化溶液12が浸透するようになっている。給水タンク11と模型地盤容器18の側面のフィルタ−付き給水盤17とは、バルブ13、給水シリンダ−15を介して連結されている。給水シリンダ−15は、圧力計14を有し、コントロ−ルパネル16によって適宜の圧力にコントロ−ルされる。そして、劣化溶液12をフィルタ−付き給水盤17に注入・浸透させることにより、模型地盤19に化学反応をおこさせるのである。
【0011】
図2において、模型地盤26を収容する模型地盤容器27は、上面、両側面に直接冷却パイプ23を配置し、該パイプ23は冷凍機21に直結されている。また、模型地盤容器27の上部には、高周波出力器22が配置され、更に液体窒素の注入バルブ24を取付け、該注入バルブ24は液体窒素タンク25に連結されている。そして、冷凍機21は、冷却パイプ23を介して短時間の間に模型地盤容器27内の温度(例えば−35°C)を下げることができる。高周波出力器22は、瞬時に氷を水に変化させるためのもので、模型地盤容器27内にマイクロ波を照射している間だけ、模型地盤26の表面の水は融解し、それ以外は模型地盤容器27内をマイナス(例えば−35°C)に凍結する。この高周波出力器22と冷却パイプ23の組み合わせにより、遠心力載荷試験時の短縮した時間内に複数回の凍結融解を発生させることができる。また、さらなる時間短縮が必要なときには液体窒素を上部より注入し、これにより模型地盤7の表面は瞬時に凍結する。
図3において、給水タンク32は、劣化溶液(希硫酸等)31を収容しバブリングのできる酸素供給パイプ34、溶存酸素濃度計33を有する。模型地盤41を収容する模型地盤容器42の上面には、噴霧ノズル装置39が配置され、該噴霧ノズル装置39はノズル40を有する。また、模型地盤41への劣化溶液の吸収を高める目的で、模型地盤容器42を密閉できる構造とし真空ポンプを使って模型地盤容器42内部の真空度を高めることができる。給水タンク32と噴霧ノズル装置39は、バルブ35、給水シリンダ−37等を介して連結されている。給水シリンダ−37は、圧力計36を有し、コントロ−ルボックス38によって適宜の圧力にコントロ−ルされ、劣化溶液31の供給量は、ノズル40の開口数と劣化溶液を送り込給水シリンダ−37によって制御される。そして、上記構成によって、給水タンク32内の劣化溶液31は、噴霧ノズル装置39のノズル40によって模型地盤に噴射され、模型地盤は化学反応を生ずるのである。
【0012】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はその精神また主要な特徴から逸脱することなく、他の色々な形で実施することができる。そのため前述の実施例は単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。更に特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0013】
風化による地盤劣化は、その耐久性に大きく影響を及ぼすため、斜面崩壊などの地盤災害の主な要因になっている。本発明は、長期にわたる土壌の特性変化も組み込んだ地盤挙動を実験的に調べることができる遠心力載荷試験用模型地盤劣化装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】模型地盤劣化装置の先行例で(a)は、模型地盤に凍結融解による物理的風化を作用させるための「凍結融解装置」、(b)は、劣化溶液を媒介として化学的風化を生じさせるための「給水装置」である。
【図2】本発明の遠心力載荷試験用模型地盤劣化装置に係る実施例であり、模型地盤に凍結融解(物理的風化)を瞬時に作用させる「短周期凍結融解装置」である。
【図3】本発明の遠心力載荷試験用模型地盤劣化装置に係る実施例であり、模型地盤に岩石−溶液反応(化学的風化)を強制的に作用させる「劣化溶液噴霧装置」である。
【符号の説明】
【0015】
21 冷凍機
22 高周波出力器
23 冷却パイプ
24 注入バルブ
25 液体窒素タンク
26 模型地盤
27 模型地盤容器
31 劣化溶液
32 給水タンク
33 溶存酸素濃度計
34 酸素供給パイプ
35 バルブ
36 圧力計
37 給水シリンダー
38 コントロールボックス
39 噴霧ノズル装置
40 ノズル
41 模型地盤
42 模型地盤容器
43 排水バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
模型地盤容器の内部に模型地盤を載置し、また前記容器の上方部に噴霧ノズル装置を設け、前記模型地盤に給水タンク内の劣化溶液を前記噴霧ノズルから噴霧できるようにするとともに、前記模型地盤容器を密閉できる構造とし、真空ポンプを使って模型地盤容器の内部の真空度を高めるようにしたことを特徴とする遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置。
【請求項2】
給水タンク内の劣化溶液は、バルブ、給水シリンダ−を介して噴霧ノズル装置のノズルに入るようにした請求項1に記載の遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置。
【請求項3】
給水タンクに、バブリングのできる酸素供給ポンプと溶存酸素濃度計を取り付けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置。
【請求項4】
模型地盤容器内への劣化溶液の供給量は、噴霧ノズル装置のノズルの開口数と給水シリンダ−の圧力を制御するコントロ−ルボックスによって制御されるようにした請求項1〜3のいずれかに記載の遠心力載荷試験用地盤劣化溶液噴霧装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−10708(P2006−10708A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238329(P2005−238329)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【分割の表示】特願2001−160619(P2001−160619)の分割
【原出願日】平成13年5月29日(2001.5.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成13年3月13日 社団法人土木学会東北支部開催の「平成12年度東北支部技術研究発表会」において文書をもって発表
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】