説明

遮熱塗料

【課題】被塗物の美観を向上させつつ太陽光による被塗物の温度上昇を抑制する遮熱塗料を提供する。
【解決手段】遮熱塗料は、太陽光反射特性を有する白顔料を含有し被塗物に塗布される赤外線反射層Bと、赤外線を透過させる黒い有機顔料を含有し赤外線反射層Bの表面に塗布される赤外線透過層A2とを有し、赤外線透過層をA2透過して赤外線反射層Bに到達した赤外線を赤外線透過層A2を介して外部に反射させる。赤外線反射層に含まれる黒い有機顔料は、可視光の透過度よりも赤外線光の透過度が高いペリレンブラックであり、赤外線反射層Bの赤外線反射率は40%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光に起因して被塗物が温度上昇するのを抑制する遮熱塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体を構成する外板は防錆を図るとともに美観を付与するために塗装され、建築物の屋根や外壁は腐食による劣化を防止するとともに美観を付与するために塗装される。
【0003】
例えば、自動車車体を構成する外板は、表面に付着した油類を化成処理により除去するとともに化成被膜を形成した後に、防錆を目的として電着塗装により外板は下塗り塗装されて化成被膜の表面に下塗り塗膜が形成される。下塗り塗装された外板は静電塗装により中塗り塗装されて下塗り塗膜の表面に中塗り塗膜が形成され、中塗り塗膜の表面は静電塗装により上塗り塗装されて上塗り塗膜が形成される。中塗り塗膜により石はねなどの外的衝撃から下塗り塗膜を保護するとともに上塗り塗膜と下塗り塗膜との付着性が高められる。上塗り塗膜は、外板の表面に美観を付与するために塗装され、車体の表面を着色するためのカラーベース層と、その表面に塗布される透明なクリア層とを有している。
【0004】
カラーベース層の色彩を低明度化して黒色やダークブルー等の濃彩色に被塗物の表面を彩色するためにカラーベース層の塗料としては、黒色顔料としてカーボンブラックが通常用いられている。カーボンブラックは被塗物の表面に漆黒感を付与することができる反面、赤外線を吸収して発熱し易いという欠点がある。このため、カーボンブラックを黒色顔料としたカラーベース層の外板からなる濃彩色の車両は、上塗り塗膜が発熱するので、日射により車両の温度が上がり易く、エアコンの負荷が高くなる。
【0005】
そこで、車体を構成する鋼板の塗装においては、上塗り塗膜のカラーベース層の塗料としては赤外線を吸収することなく反射させるようにした顔料を使用することが試みられている。例えば、カーボンブラックを顔料とすることなく、赤外線反射特性を持つ金属酸化物を黒顔料とした遮熱塗料が特許文献1に記載されており、この遮熱塗料を車体鋼板の上塗り塗装に使用すると、上塗り塗膜により赤外線が反射される。また、カーボンブラックを顔料とすることなく、カラーベース層の色彩を低明度化するために、それぞれ赤外線を吸収しにくい赤系顔料、橙系顔料、黄色顔料、緑色顔料、青色顔料および紫色顔料を2種類以上組み合わせた加法混色の手法により得られた顔料を用いることによって、遮熱性を持たせた遮熱塗料が特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−82120号公報
【特許文献2】特開平5−293434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるように、上塗り塗膜のカラーベース層を赤外線反射特性を持つ酸化鉄や酸化クロム等の無機系の金属酸化物を黒顔料として使用すると、金属酸化物は赤茶色や白い濁りがあるので、漆黒感を出すことができず、色の再現性が劣るという問題点がある。しかも、金属酸化物は比重が重いため、塗料の製造に際して塗料材料を攪拌する際に顔料の分散性が悪く、分散性が悪いと塗装作業時に色調の安定性が劣ることになる。また、クロム系酸化物を有する顔料は重金属を含むので、顔料の製造時に環境への悪影響がないように廃棄処理設備が大がかりとなる。
【0008】
一方、特許文献2に記載される遮熱塗料は、種々の色彩の顔料を調色する加法混色により上塗り塗膜のカラーベース層の色彩を低明度化し、上塗り塗膜により赤外線の反射率を高めて太陽熱を遮蔽するようにしている。特許文献2においては、カラーベース層に加えて中塗り塗膜および下塗り塗膜を、酸化チタン顔料と、それぞれ無機系の赤系顔料、橙系顔料、黄色顔料、緑色顔料、青色顔料および紫色顔料のうち2種類以上とを組み合わせた加法混色の手法により得られる顔料を用いている。
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載される遮熱塗料は、種々の色彩を混合させてカラーベース層を低明度化するようにしており、顔料に赤系顔料や青色顔料が含まれているので、濁った色調となり、漆黒感を持つ塗装面が得られず、自動車の外板の上塗り塗装としては適用できないという問題点がある。
【0010】
従来のように、外板の表面に美観を付与するための上塗り塗膜のカラーベース層により赤外線を反射させるようにすると、カラーベース層では可視光の反射も避けることができずに、カラーベース層の低明度化には限度があり、特に、漆黒感のあるカラーベース層が得られないという問題点がある。
【0011】
本発明の目的は、被塗物の美観を向上させつつ太陽光による被塗物の温度上昇を抑制する遮熱塗料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の遮熱塗料は、太陽光反射特性を有する白顔料を含有し、被塗物に塗布される赤外線反射層と、赤外線を透過させる黒い有機顔料を含有し、前記赤外線反射層の表面に塗布される赤外線透過層とを有し、前記赤外線透過層を透過して前記赤外線反射層に到達した太陽光を前記赤外線透過層を介して外部に反射させることを特徴とする。本発明の遮熱塗料は、前記黒い有機顔料は、可視光の透過度よりも赤外線光の透過度が高いペリレン顔料であることを特徴とする。
【0013】
本発明の遮熱塗料は、前記赤外線反射層は、前記白顔料に加えて、赤外線を吸収しにくい有機着色顔料と、赤外線を透過する黒い有機顔料と、太陽熱反射率が60%以上の無機系黄顔料との少なくともいずれかを有することを特徴とする。また、本発明の遮熱塗料は、前記赤外線反射層は、前記白顔料と、赤外線を吸収しにくい有機着色顔料と、赤外線を透過する黒い有機顔料と、太陽熱反射率が60%以上の無機系黄顔料とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明の遮熱塗料は、前記赤外線反射層は赤外線の反射率が40%以上であり、明度L値が30〜50であることを特徴とする。本発明の遮熱塗料は、前記被塗物は自動車車体を構成する外板であり、前記赤外線反射層を中塗り塗膜とし、前記赤外線透過層を前記中塗り塗膜の表面に塗布されるカラーベース層とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、遮熱塗料は被塗物の表面面に塗布される赤外線反射層と、この赤外線反射層の表面に塗布される赤外線透過層とを有し、被塗物の外面側が赤外線透過層となっているので、被塗物に照射される太陽光は赤外線透過層で赤外線吸収することなく、赤外線透過層を透過した後に赤外線反射層により反射される。赤外線透過層では太陽光中の可視光を吸収し、反射し難いので、赤外線透過層は漆黒感の高い濃彩色となり、被塗物の美観を向上させることができる。赤外線反射層は透過層を介して入射した赤外線を反射させるので、被塗物の温度上昇を抑制することができる。
【0016】
遮熱塗料を自動車車体の鋼板に適用すると、太陽光中の赤外線による車室内の温度上昇を抑制することができる。自動車車体の外板に遮熱塗装を施す際には、中塗り塗膜が赤外線反射層により形成され、上塗り塗膜のカラーベース層が赤外線透過層により形成される。
【0017】
赤外線反射層の太陽光中の赤外線の反射率を40%以上とし、明度L値を30〜50とすると、赤外線反射層と赤外線透過層の明度差を小さくすることができる。これにより、赤外線透過層が欠落しても、外観品質を低下させることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】自動車車体を構成する外板を被塗物として外板に塗布される塗膜を示す模式図である。
【図2】ペリレン系有機顔料の赤外線透過率の測定結果をカーボンブラック(ブラックパール色)と比較して示す特性線図である。
【図3】赤外線反射層と赤外線透過層における太陽光の波長と反射率との関係を示す特性線図である。
【図4】赤外線反射層の反射率と温度との関係の試験結果を示す特性線図である。
【図5】赤外線反射層の赤外線反射率と明度L値との関係を示す赤外線反射特性線図である。
【図6】本発明の赤外線反射層が形成されたパネル材と、比較例のパネル材の到達温度を比較して示す特性線図である。
【図7】ソーク試験によるルーフ部の温度変化を示す特性線図である。
【図8】ソーク試験による室内平均温度とドライバー顔位置の温度変化を示す特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すように、自動車車体の外板10は防錆を目的として電着塗装により下塗り塗装されて外板の表面に下塗り塗膜層Cが形成され、その表面には中塗り塗膜Bが静電塗装により塗装される。外板10の表面に美観を付与するために中塗り塗膜Bの表面は静電塗装により上塗り塗装が施されて上塗り塗膜が形成される。上塗り塗膜は、カラーベース層A2とその表面のクリア層A1とを有しており、カラーベース層A2により車体表面の色彩が設定される。
【0020】
自動車車両の外板10に対して遮熱塗料を塗布する場合には、中塗り塗膜Bとして赤外線反射層が塗装され、上塗り塗膜のうちカラーベース層A2として赤外線透過層が塗装される。このように、赤外線透過層(A2)と赤外線反射層(B)とにより遮熱塗膜層が形成される。
【0021】
赤外線透過層(A2)の塗料顔料は、赤外線吸収特性を持たず、赤外線を透過させる黒い有機顔料を有している。黒の有機顔料としては、ペリレン系有機顔料が使用される。
【0022】
図2はペリレン系有機顔料を含有する塗膜の赤外線透過率の測定結果をカーボンブラックを含有する塗膜の赤外線透過率と比較して示す特性線図である。図2に示すように、ペリレン系有機顔料は、カーボンブラックを顔料としたと塗膜に比して赤外線領域の透過率が高い。この測定には、顔料としてカーボンブラックを含む塗料により形成されたカラーベース層とクリア塗装とを有する積層フィルムを比較例とし、ペリレン系有機顔料を含む塗料により形成されたカラーベース層を本発明の赤外線透過層としクリア塗装を積層して種々の波長の光を照射してそれぞれの透過率を測定した。その結果、図2に示されるように、黒の有機顔料を有する赤外線透過層を上塗り塗膜のカラーベース層A2として使用すると、赤外線透過特性がカーボンブラックよりも格段に高いことが確認された。この顔料は、金属酸化物の顔料に比べて比重が軽いため、塗料化する際の顔料分散性も良好であり、塗料安定性および塗装作業性も比較例と遜色ない結果であった。
【0023】
一方、自動車車体の鋼板に対する中塗り塗膜Bとして塗布される赤外線反射層(B)は、赤外線反射特性に優れる白顔料としての二酸化チタンを含む顔料が使用される。二酸化チタンの含有量を多くすると赤外線反射率が高い中塗り塗膜Bとなる。しかし、赤外線反射層(B)を白顔料が多い中塗り塗膜Bとすると、少ない塗装工程により塗装を行うことができなくなる。なぜならば、エンジンフード内の板材のように自動車車体の内板には中塗り塗装まで行って上塗り塗装を行わない場合があり、内板を黒色で中塗り塗装すると、外板の上塗り塗装時に白顔料が多い白いミストがエンジンフード内部の内板に回り込んで、内板の見栄えが悪くなる。このような見栄えの悪さの欠点をなくすには、内板の表面に補正塗り作業を行う必要があるが、補正塗りを行うと塗装工程が増加することになる。しかも、赤外線反射層(B)からなる中塗り塗膜Bと赤外線透過層(A2)からなるカラーベース層A2との明度差が大きいと、車両走行時の石はねなどの外的衝撃によりカラーベース層A2が破損したときに、明度差の大きな中塗り塗膜が外部に露出し、見栄えが悪くなる。
【0024】
そこで、赤外線反射層(B)の顔料としては、酸化チタンに加えて、赤外線を吸収しにくい有機着色顔料と、赤外線を透過する黒い有機顔料と、太陽熱反射率が60%以上の無機系黄顔料との少なくともいずれかの顔料を混合させたものを使用した。これにより、赤外線反射層(B)が低明度化され、塗装工程を増加させることなく、赤外線反射層の反射率特性を確保することができる。
【0025】
図3は赤外線反射層(B)と赤外線透過層(A2)における太陽光の波長と反射率との関係を示す特性線図である。ペリレン系有機顔料を有する赤外線透過層(A2)は可視光よりも赤外線の方が透過度が高い。図3に示すようにカーボンブラックを顔料とした場合には、カーボンブラックは赤外線により発熱する特性を有しているが、太陽光反射率は可視光および赤外線の領域において大きな変化はなく、可視光における反射率は赤外線透過層(A2)よりも小さい。
【0026】
一方、上述したように、カラーベース層を赤外線反射特性を持つ無機系の金属酸化物を黒顔料として使用すると、金属酸化物は赤茶色や白い濁りがある。これは、可視光の範囲でも反射率がカーボンブラックよりも高くなる部分があり、漆黒感を出すことができない。さらに、種々の色彩の顔料を調色する加法混色により上塗り塗膜のカラーベース層の色彩を低明度化した場合には、太陽光の反射率は金属酸化物を黒顔料とした場合に比して高くなるが、可視光の範囲でも反射率がカーボンブラックよりも高くなる部分があり、漆黒感を出すことができない。図3において波により示される領域が可視光の範囲において波長に応じて反射率が相違することを示している。
【0027】
ペリレン系有機顔料を使用した赤外線透過層(A2)は、赤外線反射特性を持つ無機系の金属酸化物を黒顔料として使用した塗膜層よりも可視光線の反射率が低い。しかも、赤系顔料、橙系顔料等の加法混色により低明度化した顔料を使用した塗膜層よりも可視光線の反射率が低い。このように、ペリレン系有機顔料を有する赤外線透過層(A2)は、可視光の範囲における反射率が低く、カーボンブラックに近い反射率となっている。したがって、カラーベース層A2をペリレン系有機顔料を有する赤外線透過層(A2)により形成すると、漆黒感が高く意匠性に優れた濃彩色の自動車用の外板を得ることができる。
【0028】
本発明においては、相互に機能が相違する赤外線反射層(B)とその表面を覆う赤外線透過層(A2)とにより遮熱塗料を形成し、赤外線反射層(B)は赤外線により発熱する特性を有していないので、太陽光が図1において矢印11で示すように被塗物である外板10に照射されると、太陽光中の赤外線は赤外線透過率の高い赤外線透過層(A2)を透過する。透過した赤外線は赤外線反射層(B)により殆ど反射することになる。これにより、本発明の遮熱塗料が塗布された外板を有する自動車車体においては、太陽光が車体に照射されても、車室内の温度上昇抑制効果が高められる。しかも、赤外線透過層(A2)は可視光をカーボンブラックと同程度の透過率で透過させることになるので、漆黒感が高く濃彩色のカラーベース層が得られる。
【実施例】
【0029】
表1は、赤外線透過層(A2)の塗料の一例である塗料組成と顔料組成を示す。表1に示された実施例(1)は、関西ペイント株式会社製の溶剤塗料マジクロン(登録商標)FB800を用いてブラックパール色に調色したものである。顔料としては、赤外線透過性を持つブラック系有機顔料Aを17.7重量%に加えて、光輝材としてマイカAおよびマイカBと、ブルー系有機顔料A、イエロー系無機顔料A、レッド系有機顔料Aを表1の実施例(1)に示す重量割合で混合したものを使用した。
【0030】
実施例(2)は、BASFコーティングスジャパン株式会社製の水性塗料アクア(登録商標)BC-3を用いて、実施例(1)と同様のブラックパール色に調色したものである。顔料としては、赤外線透過性を持つブラック系有機顔料Bを47.3重量%に加えて、光輝材としてマイカCおよびマイカDと、グリーン系有機顔料Aを表1の実施例(2)に示す重量割合で混合したものを使用した。
【0031】
表2は赤外線反射層(B)の塗料の一例である塗料組成と顔料組成を示す。この塗料は関西ペイント株式会社製の溶剤塗料ルーガーベック(登録商標)FJX60を用いて、明度L値が40〜45となるように調色したものである。顔料としては、白系酸化チタン顔料Aを42.0重量%に加えて、ブラック系有機顔料Bと、グリーン系有機顔料Bと、黄土色系無機顔料Aと、体質顔料Aおよび体質顔料Bとを表2で示す割合で混合したものを使用した。
【0032】
図4は赤外線反射層(B)単独膜での赤外線反射率と温度との関係の試験結果を示す特性線図である。反射率はJISA5759による。この試験においては、それぞれ反射率を相違させたコーティング層上に前記赤外線透過層(A2)を積層させた複数のパネル材に表面側から赤外線ランプを照射して、背面側の温度を測定した。その結果、試験片であるパネル材の反射率を40%とすると、反射率が10%の場合に比して約20℃の温度上昇抑制効果を達成できることが判明した。
【0033】
この試験方法により、金属酸化物を黒顔料としてカラーベース層を形成したパネル材と、種々の色彩の顔料を調色する加法混色によりカラーベース層の顔料を低明度化したパネル材との温度上昇抑制効果を測定したところ、それぞれの温度上昇抑制効果は約10℃であった。
【0034】
このように、赤外線反射層(B)と赤外線透過層(A2)とにより形成された遮熱塗料が塗布された被塗物に太陽光が照射されると、太陽光中の赤外線は赤外線透過層(A2)を透過する。透過した赤外線は赤外線反射層(B)により反射することになる。したがって、図1において矢印11で示すように被塗物である外板10に太陽光が照射されると、本発明の遮熱塗料が塗布された外板を有する自動車車体においては、赤外線透過層(A2)からなるカラーベース層A2を透過した赤外線は赤外線反射層(B)からなる中塗り塗膜Bにより反射することになる。これにより、太陽光が車体に照射されても、車室内の温度上昇抑制効果が高められる。
【0035】
図5は赤外線反射層の赤外線反射率と明度L値との関係を示す赤外線反射特性線図である。図5において、赤外線反射層の反射率と明度L値との間には一定の関係があり、赤外線反射層の明度を高めるとその反射率が高くなる。その傾向は、顔料にカーボンブラックを含む従来の塗料でより顕著になる。図5に示す符号e〜hは従来顔料の特性であり、それぞれ表3に比較例として示す従来例(e)〜(h)に対応する。
【0036】
カーボンブラックの含有量を従来例(e),(f),(g),(h)のように徐々に増加させると、明度を下げることができる。しかし、同時に反射率が急激に低下する。従来の塗料で明度L値を50以上に高めると、赤外線反射層(B)と濃彩色の赤外線透過層(A2)との明度差が大きくなり、車両走行時の石はねなどの外的衝撃によりカラーベース層A2が破損したときに、明度差の大きな中塗り塗膜Bが外部に露出することになり、見栄えが悪くなる。したがって、自動車車体の外板の遮熱塗装としては、明度L値を30〜50の範囲とすることが好ましい。
【0037】
さらには、明度L値を30〜45の範囲とすることが好ましい。そこで、本発明の赤外線反射層(B)に以下の顔料を用いることで、明度L値を50以下の範囲にすることと、その反射率を40%以上にすることを同時に実現した。符号a〜dは、本発明の赤外線反射層(B)の実施例である。図5における符号a〜dは、顔料として太陽光反射特性を有する白顔料と、赤外線を吸収しにくい有機顔料と、赤外線を透過する黒い有機顔料と、太陽光反射率が60%以上の無機系黄顔料とを含有する塗料を使用した。符号dは、前記顔料を表2の実施例に示す重量割合で混合したものを使用した。
【0038】
図6は本発明の赤外線反射層の上に赤外線透過層が形成されたパネル材(図1)と、比較例のパネル材の到達温度を比較して示す特性線図である。この試験は、図4に示したパネル材の赤外線反射率と温度との関係を測定した試験装置と同様の装置を用いて、赤外線反射層(B)の上に赤外線透過層(A2)が形成されたパネル材の到達温度と、比較例のパネル材の到達温度とを測定した。比較例としては、顔料にカーボンブラックを含む従来のブラックパール色の塗料を使用し、本発明の赤外線反射層(B)としては、表2に示す実施例を、赤外線透過層(A2)としては、表1に示す実施例(2)の塗料を使用した。その結果、比較例の到達温度が104℃であるのに対し、同一の条件で本発明の赤外線反射層(B)上に赤外線透過層(A2)を形成したパネルは到達温度が79℃であり、温度低減効果は25℃であった。
【0039】
次に、図6と同様に本発明の遮熱塗料と、比較例として顔料にカーボンブラックを含む従来のブラックパール色の塗料をそれぞれ実車に塗装して、比較試験を行った。
【0040】
この比較試験においては、環境試験室で以下の4つの試験を行った。試験1は真夏のソーク(炎天下放置)試験であり、この試験1では車両の前面より微風を送風し、車室内の温度上昇を計測した。試験2は最大冷房試験であり、一定時間ソークした後に冷房能力を最大として車室内の温度低下を計測した。試験3はオートエアコンのクールダウン試験であり、一定時間ソークした後にオートエアコンモードで車室内が一定温度に到達する時間を計測した。試験4は燃費試験であり、一定の走行モードで車両を走行させたときの燃費を計測した。
【0041】
図7はソーク試験によるルーフ部の温度変化を示す特性線図であり、図8はソーク試験による室内平均温度とドライバー顔位置の温度変化を示す特性線図である。図7および図8に示すように、ルーフ部で18.7℃の温度低減効果が得られ、ドライバーの頭部付近および車室内温度も低減した。試験片であるパネル材を用いた試験においては、25℃の温度低減効果があったのに対して、それよりも温度低減効果が少なかったのは、ソーク試験においては環境試験室内で車両の前面より微風を送風したためであると考えられる。
【0042】
試験2の最大冷房試験においては、本発明によれば比較例よりも室内の温度が0.7℃低下し、冷房の効きが向上した。また、試験3のクールダウン試験では室温が25℃に到達する時間を35%短縮することができ、冷房の効きが早くなったことが確認された。試験4の燃費試験では、郊外走行モードで燃費1.1%の向上が確認された。
【0043】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述した赤外線透過層と赤外線反射層を自動車車体の外板の塗装として適用した場合について説明したが、この遮熱塗料は、太陽光による被塗物の温度上昇を抑制するためであれば、建築物の屋根や外壁を塗装するために適用することもできる。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【符号の説明】
【0047】
10 外板
A1 クリア層
A2 カラーベース層(赤外線透過層)
B 中塗り塗膜(赤外線反射層)
C 下塗り塗膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光反射特性を有する白顔料を含有し、被塗物に塗布される赤外線反射層と、
赤外線を透過させる黒い有機顔料を含有し、前記赤外線反射層の表面に塗布される赤外線透過層とを有し、
前記赤外線透過層を透過して前記赤外線反射層に到達した赤外線を前記赤外線透過層を介して外部に反射させることを特徴とする遮熱塗料。
【請求項2】
請求項1記載の遮熱塗料であって、前記黒い有機顔料は、可視光の透過度よりも赤外線光の透過度が高いペリレン顔料であることを特徴とする遮熱塗料。
【請求項3】
請求項1または2記載の遮熱塗料であって、前記赤外線反射層は、前記白顔料に加えて、赤外線を吸収しにくい有機着色顔料と、赤外線を透過する黒い有機顔料と、太陽熱反射率が60%以上の無機系黄顔料との少なくともいずれかを有することを特徴とする遮熱塗料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の遮熱塗料であって、前記赤外線反射層は、前記白顔料と、赤外線を吸収しにくい有機着色顔料と、赤外線を透過する黒い有機顔料と、太陽熱反射率が60%以上の無機系黄顔料とを有することを特徴とする遮熱塗料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の遮熱塗料であって、前記赤外線反射層は太陽光中の赤外線の反射率が40%以上であり、明度L値が30〜50であることを特徴とする遮熱塗料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の遮熱塗料であり、前記被塗物は自動車車体を構成する外板であり、前記赤外線反射層を中塗り塗膜とし、前記赤外線透過層を前記中塗り塗膜の表面に塗布されるカラーベース層とすることを特徴とする遮熱塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−221100(P2010−221100A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69807(P2009−69807)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】