説明

遮熱断熱性骨材入りスプレー缶および塗布液の塗布方法

【課題】塗布作業性に優れる遮熱断熱性骨材入りスプレー缶を提供する。
【解決手段】耐圧性の缶本体110と、缶本体110の上部に設けた弁120と、弁120を開閉操作する操作部材130と、操作部材130に設けた噴出ノズル140と、缶本体110内に収容した塗布液10を、弁120を介して前記噴射ノズル140のノズル口141に導く導出管150と、缶本体110内の上部に充填した噴射剤160を具備し、塗布液10を、水溶性樹脂12により被覆された比重1未満のセラミック系またはガラス系の多数のバルーン粒子11と、水溶性樹脂12をバインダーとして比重1未満のセラミック系またはガラス系のバルーン粒子11および比重1超の遮熱顔料13が結合された多数のバルーン粒子・遮熱顔料結合体16を含む遮熱断熱性骨材水溶液から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布作業性に優れた遮熱断熱性骨材入りのスプレー缶および塗布液の塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の外面や工場の屋根外面に被覆して太陽光の照射による建物内や工場内の温度上昇を防ぎ、冷房費の低減を図ったり、あるいはタンカーや陸上タンク等の外面に被覆して内部の揮発性成分の蒸発減量を抑えたりするための遮熱塗料あるいは断熱塗料が知られている(特許文献1ないし特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−323197号公報
【特許文献2】特開2001−64554号公報
【特許文献1】特開2004−10903号公報
【特許文献2】特開2010−7022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの遮熱塗料あるいは断熱塗料は、現場に業務用の塗装機械や大きな塗料缶を持ち込んで塗布作業を行わなければならず、また屋根外面への塗布作業では、大きな塗料缶を持ち上げるのが大変なので小さい缶に小分けして屋根の上に持ち上げ、塗布作業を行わなければならず、いずれにしろ機械および塗料缶の現場への持ち運びに大変不便で、塗布作業性がよいとは言えなかった。
【0005】
また、上記の遮熱塗料や断熱塗料、あるいは抗菌塗料は、その原材料の粒子径の大きさと比重差によって、通常一般の塗料のようにスプレー方式には適用させることができなかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、塗布作業性に優れる遮熱断性熱骨材入りスプレー缶を提供することを目的とする。また、遮熱性および断熱性に優れた遮熱断熱塗膜が容易に得られる塗布液の塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶は、耐圧性の缶本体と、缶本体の上部に設けた弁と、弁を開閉操作する操作部材と、操作部材に設けた噴出ノズルと、缶本体内に収容した塗布液を、弁を介して前記噴射ノズルに導く導出管と、缶本体内の上部に充填した噴射剤を具備してなり、前記塗布液は、水溶性樹脂により被覆された比重1未満のセラミック系またはガラス系の多数のバルーン粒子と、水溶性樹脂をバインダーとして比重1未満のセラミック系またはガラス系のバルーン粒子および比重1超の遮熱顔料が結合された多数のバルーン粒子・遮熱顔料結合体を含む遮熱断熱性骨材水溶液からなることを主要な特徴とする。
【0008】
ここで、バルーン粒子は、比重1未満のセラミック系、アルミナ系またはガラス系等のバルーン粒子からなり、断熱性および保温性に優れる。また、比重が1を超える遮熱顔料は、例えば酸化チタンや鉄クロム等からなり、これらは赤外線反射効果があって、遮熱性に優れ、耐久性にも優れる。また、セラミック系またはガラス系等のバルーン粒子は吸水率が0.1%以下であり、防水機能があるため、塗布乾燥後の遮熱断熱塗膜層に防水機能を付与する。
【0009】
本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶によると、塗布対象面に対し所定の距離でスプレー缶を保持し、缶本体上部の操作部材の押圧操作により弁を開くと、操作部材の前面の噴射ノズルと缶本体内の導出管が互いに連通し、缶本体内の噴射剤の加圧によって塗布液(遮熱断熱骨材水溶液)が導出管を通り、噴射ノズルから塗布対象面に吹き付けられる。これにより塗布対象面に対し所定の距離を保持したままスプレー缶を上下方向へあるいは左右方向へ移動させることにより、塗布対象面全面に遮熱断熱性骨材水溶液を塗布し、乾燥後、強固な遮熱断熱塗膜を形成させることができる。
【0010】
本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶を用いることにより、だれでも気軽に建物の外面や内面に塗布作業を効率よく行い、強固な遮熱断熱塗膜を形成することができる。
【0011】
本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶は、缶器本体内に攪拌体を収容したことを第2の特徴とする。塗布にあたり、缶本体をよく振って缶本体内の攪拌体で缶本体内の遮熱断熱性骨材水溶液を攪拌し、同水溶液を十分に混練し、水溶液中にバルーン粒子やバルーン粒子・遮熱顔料結合体の骨材を均一化に分散させた状態で、同遮熱断熱性骨材水溶液を塗布作業することができる。遮熱断熱塗膜の施工品質を向上させる。
【0012】
本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶は、噴射ノズルのノズル口を密閉状態に閉塞する栓体を備えることを第3の特徴とする。不使用時には、噴射ノズルのノズル口を栓体で閉塞することにより、水溶液に含まれるバルーン粒子や遮熱顔料の骨材によりノズルが詰まることを防止できる。
【0013】
本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶は、噴射ノズルのノズル口径を0.3〜3.0mmとしたことを第4の特徴とする。ノズル口の口径が0.3mm未満であると、水溶液に含まれるバルーン粒子や遮熱顔料の骨材によりノズルが詰まりやすくなる。また、3.0mmを超えると、缶本体内の遮熱断熱性水溶液が一気に吐出され、直ぐに使い切るので、好ましくない。
【0014】
本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶は、遮熱断熱性骨材水溶液を得るにあたり、バルーン粒子100重量%に対し、水10〜55重量%、水溶性樹脂10〜80を混錬して一次混練水溶液を得、一次混練水溶液100重量%に対し、遮熱顔料1〜80重量%を混錬して最終の遮熱断熱性骨材水溶液を得ることを第5の特徴とする。
【0015】
本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶は、比重が1を超える遮熱顔料として、酸化チタン(TiO)および/または鉄クロム(Fe-Cr)を用いることを第6の特徴とする。
【0016】
遮熱顔料として、酸化チタンおよび/または鉄クロムを用いることにより、抗菌性および減菌性を発揮する。すなわち、遮熱断熱性骨材水溶液を外装材に塗布することにより、遮熱断熱塗膜層に含まれる酸化チタン等の光触媒効果により有機物質や菌を分解する。また、遮熱断熱性骨材水溶液を内装材に塗布することにより、室内環境の改善、ホルムアルデヒド等の臭いや汚れの付着を抑止する。
【0017】
本発明に係る塗布液の塗布方法は、スプレー缶を用いて、塗布対象面に、水溶性樹脂により被覆された比重1未満のセラミック系またはガラス系の多数のバルーン粒子と、水溶性樹脂をバインダーとして比重1未満のセラミック系またはガラス系のバルーン粒子および比重1超の遮熱顔料が結合された多数のバルーン粒子・遮熱顔料結合体を含む遮熱断熱性骨材水溶液を塗布しおよび乾燥させて、前記塗布対象面に、表層部に水溶性樹脂を遮熱バインダーとしてバルーン粒子と遮熱顔料が結合されたバルーン粒子・遮熱顔料結合体が多数配列され、内層部に水溶性樹脂をバインダーとしてバルーン粒子が多数配列された遮熱断熱塗膜層を形成させることを主要な特徴とする。
【0018】
本発明に係る塗布液の塗布方法によれば、スプレー缶を用いて、塗布対象面に遮熱断熱性骨材水溶液を吹き付けて乾燥させるだけで、外層部に水溶性樹脂を遮熱バインダーとしてバルーン粒子と遮熱顔料が強固に定着し、遮熱・断熱性能の高い遮熱断熱塗膜層が容易に形成される。また、表層部に水溶性樹脂を遮熱バインダーとする酸化チタン等の遮熱顔料が強固に定着されるから、抗菌性および耐久性に優れる遮熱断熱塗膜層が得られる。さらに、保温性や防水性をも付与できる。
【0019】
本発明に係る塗布液の塗布方法は、遮熱断熱塗膜層の乾燥厚さを100〜3000μとしたことを第2の特徴とする。
【0020】
乾燥厚さが100μ未満であると断熱性が低下し、3000μを超えると膜厚み強度が不足し、ひび割れ、亀裂などの原因となる。このため100〜3000μの範囲が、断熱性と強度上の理由から好ましい。
【0021】
塗布対象面、例えば、屋根材、床面に遮熱断熱性骨材水溶液を所定厚さに吹き付けると、バルーン粒子の浮力によって、塗膜層の表層部に、バルーン粒子に結合された比重が1を超える遮熱顔料が浮上する。比重1超の遮熱顔料は、その重さによって沈降し、単体では塗膜層の表層部に浮上しないのに対し、バルーン粒子の浮力を利用して塗膜層の表層部に浮上させ、遮熱顔料を表面に並べて露出および強固に定着させることができる。これにより、乾燥後の遮熱断熱性塗布液の表層部に遮熱顔料が並ぶことにより、遮熱性および断熱性が向上する。また、防水性が向上する。これにより、遮熱性、断熱性、防水性、保温性に優れた屋根材、床面等を施工できる。
【0022】
塗膜層の乾燥後は、遮熱バインダーがバルーン粒子と遮熱顔料の結合状態を強固に保持し、塗膜層の耐久性を発揮する。さらには、水溶性樹脂を用い有機溶剤を使用しないから、作業環境や安全衛生にも最適である。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶を用いることにより、スプレー缶に収容された遮熱断熱性骨材水溶液を、屋根材や建物の外面、床面、内装材その他に吹き付けて、だれでも手軽に塗布作業することができる。これにより、塗布作業性に優れるとともに、強固な遮熱断熱塗膜層を得ることができる。また、遮熱断熱性骨材水溶液は噴射剤とともに耐性の缶本体内に収容するから、手軽に作業現場に持ち運びすることができ、従来のように大きな塗料缶を作業現場に持ち込むという不便さを解消できるという優れた効果を奏する。
【0024】
また、本発明に係る塗布液の塗布方法によると、本発明に係るスプレー缶を用いて塗布対象面に遮熱断熱性骨材水溶液を吹き付けるだけで、遮熱性や断熱性、耐久性、保温性、抗菌性に優れた強固な遮熱断熱塗膜層を形成できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】遮熱断熱性骨材入りスプレー缶の断面図、
【図2】図1のスプレー缶の要部断面図、
【図3】図1のスプレー缶の作用を示す要部断面図、
【図4】図1のスプレー缶に用いる遮熱断熱性骨材水溶液の製造手順を示すフロー図、
【図5】(A)は一次混練物を示す図、(B)は最終の二次混練物(遮熱断熱性骨材水溶液)を示す図、
【図6】(A)ないし(E)は噴射ノズルのノズル断面を示す図、
【図7】図1のスプレー缶の栓体を示す要部説明図、
【図8】図1のスプレー缶を用いて壁面に塗布作業を行っている様子を示す説明図、
【図9】塗布乾燥後の遮熱断熱塗膜を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1ないし図9は本発明の一実施形態を示すもので、図1において、符号100は遮熱断熱性骨材入りスプレー缶を示している。
【0027】
遮熱断熱性骨材入りスプレー缶100(以下、「スプレー缶100」という)は、図1に示すように、耐圧性の缶本体110と、缶本体110の上部に設けられた弁120と、弁120を開閉操作する操作部材130と、操作部材130の前面に設けられた噴射ノズル140と、缶本体内110に収容された塗布液10を、弁120を介して前記噴射ノズル140へ導く導出管150と、缶本体110内の上部空間に充填された噴射剤160と、缶本体110内に収容された攪拌体170から構成されている。
【0028】
耐圧性の缶本体110は、鉄またはアルミニウム等の金属製からなり、耐圧性のある密閉容器で、その内部の下部に塗布液10が収容され、上部空間には噴射剤160が充填されている。噴射剤160としてはLPガスや代替フロン、二酸化炭素などが用いられる。缶本体110の天板部111には上下に連通する支持筒部112が立設され、この支持筒部112内には弁120の主要部材である弁ハウジング121が取り付け支持されている。図2に示すように、弁ハウジング121内にはスプリング122により上方に付勢されてスプリング122の付勢力に抗して下方に移動可能な移動子123が配置されている。
【0029】
移動子123の上部には操作部材130が一体に取り付けられており、一方、弁ハウジング121の下部には導出管150の上端が接合されている。導出管150内の液通路150aと弁ハウジング121内の液通路121aとは互いに連通し、移動子123内に設けられた液通路123aと操作部材130内に設けられた液通路130aとは互いに連通している。操作部材130内に設けられた液通路130aは噴出ノズル140のノズル口141に連通している。移動子123と弁ハウジング121との間には、通常時(未使用時)には移動子123の液通路123aと弁ハウジング内の液通路121aとの間を遮断し、図3に示すように、操作部材130の押下げ操作により弾性変形してその間を連通させる弾性パッキン部材124が設けられている。これら弁ハウジング121、スプリング122、移動子123、弾性パッキン部材124は、弁120を構成する。
【0030】
噴射ノズル140のノズル口141は、図示例の場合、図1に示すように正面視して扁平形状をしており、液通路130aからノズル口141に向けて液通路130aの断面が次第に扁平形状となるように変化している。噴射ノズル140を図1の矢印の向きに回転させることにより、ノズル口141を横長から縦長に切り替えることができる。これにより、ノズル口141を横長にしたときは上下方向に塗布し、ノズル口141を縦長にしたときは横方向に塗布して、使い分けすることができる。
【0031】
塗布液10は、水溶性樹脂により被覆された比重1未満のセラミック系またはガラス系の多数のバルーン粒子と、水溶性樹脂をバインダーとして比重1未満のセラミック系またはガラス系のバルーン粒子および比重1超の遮熱顔料が結合された多数のバルーン粒子・遮熱顔料結合体を含む遮熱断熱性骨材水溶液からなる。比重が1を超える遮熱顔料としては、酸化チタン(TiO)および/または鉄クロム(Fe-Cr)を用いる。遮熱断熱性骨材水溶液は、骨材としてバルーン粒子100重量%に対し、水10〜55重量%、水溶性樹脂10〜80を混錬して一次混練水溶液を得、一次混練水溶液100重量%に対し、骨材として遮熱顔料1〜80重量%を混錬して最終の遮熱断熱性骨材水溶液を得る。
【0032】
攪拌体170は、例えば所定の大きさ(直径0.5〜3.0cm)のガラス製やプラスチック製の球体からなり、塗布作業開始にあたり、缶本体110をよく振って缶本体110内の遮熱断熱性骨材水溶液10を攪拌体170により攪拌し、同水溶液を十分に混練して、水溶液中に含まれるバルーン粒子、遮熱顔料、バルーン粒子・遮熱顔料結合体を均一に拡散させる役割をする。
【0033】
塗布液10、すなわち遮熱断熱性骨材水溶液10は具体的には次のようにして得られる。図4のフローチャートに示すように、混練容器内に骨材としてバルーン粒子11、水溶性樹脂12、水14の各材料を投入し、攪拌および混練して、一次混錬物15を得る。各材料の配合割合はバルーン粒子100重量部に対し、水50重量部、水溶性樹脂50重量部とする。なお、バルーン粒子100重量部に対し、水は10〜55重量部のうちから、水溶性樹脂は10〜80重量部のうちから、それぞれ適宜選択できる。混練容器内で攪拌板を回転させることにより、個々のバルーン粒子11の周囲に水溶性樹脂12がコーティングされる。バルーン粒子11はセラミック系を用い、粒径20ミクロン〜100ミクロン、平均空孔率10%以上、比重0.8以下の酸化アルミニウム(Al)の球状体を用いる。酸化アルミニウムは、約1400℃の高温で焼成されることによって球体形状で平均空孔率10%以上のバルーン粒子が安定して得られる。水溶性樹脂12にはアクリル樹脂等を用いる。
【0034】
混練容器内で一次混練物15を攪拌することにより、図5(A)に示すように、バルーン粒子11が水溶液中に攪拌分散し、個々のバルーン粒子11の周囲に水溶性樹脂12がコーティングされる。
【0035】
次に、混練容器中の一次混練物15に骨材として遮熱顔料(例えば酸化チタン)13を投入し、攪拌および混練して、最終の遮熱断熱性骨材水溶液(二次混練物)10を得る。このときの配合割合は、一次混練物100重量部に対し、遮熱顔料30重量部とする。なお、一次混錬物100重量部に対し、遮熱顔料は1〜80重量部のうちから適宜選択することができる。遮熱顔料13を後から投入することで、図5(B)に示すように、個々のバルーン粒子11の周囲に水溶性樹脂12が遮熱バインダーとなって遮熱顔料13が結合し、バルーン粒子・遮熱顔料結合体16を形成する。また、バルーン粒子・遮熱顔料結合体16が互いに結合し、複合ユニットUを構成する場合もある。
【0036】
上記の遮熱断熱性骨材水溶液10を良好に噴出させるために、噴射ノズル140のノズル口141の最小口径Dは、0.3〜3.0mmに設定される。これにより、遮熱断熱性骨材水溶液10に含まれるバルーン粒子や遮熱顔料が操作部材130の液通路130aやノズル口141に詰まることを防止できる。ノズル口141の形状は、図6(A)ないし(E)に示すように、菱形状、楕円形状、丸形状とすることができる。噴射ノズル140が回転可能とされているから、図6(A)から同図(B)、図6(C)から同図(D)に示すように、菱形状および楕円形状のノズル口141を、縦長から横長の姿勢に切り替えできる。遮熱断熱性骨材水溶液10を塗布対象面に均等にムラなく噴射させるためには楕円形状または扁平形状が好ましい。この場合のノズルの最小口径Dは短手方向となる。
【0037】
噴射ノズル140は、液通路130aの一部を上下に分岐させて、中央のノズル口の上下に扁平な分岐ノズル口を開口し、中央ノズル口から水溶液が噴出されると同時に上の分岐ノズル口から斜め下向きにかつ下の分岐ノズル口から斜め上向きに水溶液が噴出されることで全体として断面扁平形状となって壁面1に吹き付けるようにしてもよい。
【0038】
図7は、噴射ノズル140のノズル口141を密閉状態に閉塞する栓体180を示している。栓体180は、頭部181と挿入部182とからなり、噴射ノズル140のノズル口141から挿入部182を液通路130a内に気密状態に圧入することによって、スプレー缶100の不使用時には、噴射ノズル140のノズル口を密閉状態に閉塞し、これにより液通路130a内に残留する遮熱断熱性骨材水溶液10が乾燥するのを防止し、同水溶液10中に含まれるバルーン粒子や遮熱顔料によりノズルが詰まることを防止するようになっている。
【0039】
次に、上記構成のスプレー缶100を用いて塗布作業する方法について以下に説明する。
【0040】
まず、塗布作業開始にあたり、缶本体110をよく振って缶本体110内の攪拌体170により中の遮熱断熱性骨材水溶液10を攪拌し、同水溶液を十分に混練して水溶液中に含まれるバルーン粒子11、バルーン粒子・遮熱顔料結合体16を均一に拡散させる。
【0041】
次に、図8(A)に示すように、壁面1に対し、所定の距離でスプレー缶100を保持し、缶本体110上部の操作部材130を指Fで押圧操作すると、噴射ノズル140から遮熱断熱性骨材水溶液10が噴射され、壁面1に吹き付けられる。壁面1に対し所定の距離を保持したまま、一定のゆっくりした速度で上から下方向へあるいは横方向へスプレー缶100を移動させることにより、同図(B)に示すように、壁面1に遮熱断熱性骨材水溶液を均一にむらなく塗布できる。缶本体110上部の操作部材130を指Fで押圧操作すると、図3に示すように、下降する移動子123により弾性パッキン部材124が下方に屈曲されて、移動子123の液通路123aと弁ハウジング内の液通路121aとの間が互いに連通される。これにより、缶本体110内で噴射剤160により加圧された遮熱断熱性骨材水溶液10が、導出管150内の液通路150a、弁ハウジング内の液通路121a、移動子123の液通路123a、操作部材130内の液通路130aを通り、先端の噴射ノズル140から壁面1へ向けて霧状に噴射される。
【0042】
スプレー缶100を用いることにより、壁面1を含む塗布対象面にだれでも手軽に遮熱断熱性骨材水溶液を塗布できる。塗布された遮熱断熱性骨材水溶液10は、乾燥により、強固な遮熱断熱塗膜を形成する。
【0043】
図9は本発明のスプレー缶100を用いて屋根材2の上面に遮熱断熱性骨材水溶液10を吹き付けて塗布した例である。屋根材2の上面に遮熱断熱性骨材水溶液10を吹き付けると、水溶液中の遮熱顔料13がバルーン粒子11と結合しているので、個々のバルーン粒子11の浮力の合計が遮熱顔料13の沈降力を上回ることにより、個々のバルーン粒子・遮熱顔料結合体16が遮熱断熱性骨材水溶物10の表層部に浮上する。そして、塗布された遮熱断熱性骨材水溶物10が乾燥することにより、屋根材2の表面に、表層部3Aに水溶性樹脂12を遮熱バインダーとしてバルーン粒子11と遮熱顔料13が結合されたバルーン粒子・遮熱顔料結合体が多数配列され、内層部3Bに水溶性樹脂12をバインダーとしてバルーン粒子11が多数配列された遮熱断熱塗膜層3が形成される。遮熱断熱塗膜層3の乾燥厚さは、遮熱断熱性骨材水溶液10の1回または数回の重ね塗りによって、100〜3000μとすることが望ましい。
【0044】
遮熱断熱塗膜層3の表層部3Aは内層部3Bよりも遮熱顔料13の占める割合が高く、内層部3Bは表層部3Aよりもバルーン粒子11の占める割合が高い。バルーン粒子11には比重が1未満のセラミック系またはガラス系が用いられ、遮熱顔料13には比重が1を超える酸化チタンまたは鉄クロムが用いられる。かかる遮熱断熱塗膜層3内の配置により、遮熱断熱塗膜層3の表面に照射された太陽光は、表層部3Aの遮熱顔料13と水溶性樹脂遮熱バインダー12により反射されて遮熱効果が発揮される。また、表層部3Aおよび内層部3Bのバルーン粒子11により断熱されて断熱効果が発揮される。バルーン粒子11は、保温性に優れるとともに、吸水率が0.1%以下で防水機能があり、遮熱断熱塗膜層3に防水機能を付与する。これにより、遮熱断熱塗膜層3に優れた保温性と防水性を持たせることができる。
【0045】
遮熱断熱塗膜層3の乾燥後は、水溶性樹脂12が遮熱バインダーとしてバルーン粒子11と遮熱顔料13の結合状態を強固に保持し、塗膜層3の耐久性を発揮する。さらには、水溶性樹脂12を用い、有機溶剤を使用しないから、有機溶剤を使用する場合に有機溶剤が表層に表出して、遮熱顔料のもつ本来の機能を阻害するような事態を防止できる。
【0046】
遮熱顔料13として、酸化チタンを用いることにより、抗菌性および減菌性を発揮する。すなわち、外装材に用いることにより、遮熱断熱塗膜層3に含まれる酸化チタンの光触媒効果により有機物質や菌を分解する。また、内装材に用いることにより、室内環境の改善、ホルムアルデヒド、VOC等の分解作用で臭いや汚れの付着を抑止する。
【0047】
本発明のスプレー缶100により塗布可能な対象物は、建物や工場の他、車、カーテン、壁紙、テント、冷蔵庫などが可能である。建物や工場にあっては、外壁、内壁、天井、床などさまざまな場所に手軽に塗布可能である。また、車やカーテン、テントに塗布することにより遮熱性および断熱性を手軽に付与でき、冷蔵庫に塗布することにより断熱性や抗菌性を手軽に付与できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る遮熱断熱性骨材入りスプレー缶は、だれでも手軽に遮熱断熱塗膜層を施工できるスプレー缶として、幅広い用途に利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 壁面
2 屋根材
3 遮熱断熱塗膜層
10 遮熱断熱性骨材水溶液
11 バルーン粒子
12 水溶性樹脂(水溶性樹脂バインダー)
13 遮熱顔料
14 水
15 一次混錬物
16 バルーン粒子・遮熱顔料結合体
100 スプレー缶
110 缶本体
111 天板部
112 支持筒部
120 弁
121 弁ハウジング
121a,123a,130a 液通路
122 スプリング
123 移動子
124 弾性パッキン部材
130 操作部材
140 噴射ノズル
141 ノズル口
150 導出管
160 噴射剤
170 攪拌体
180 栓体
181 頭部
182 挿入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧性の缶本体と、缶本体の上部に設けられた弁と、弁を開閉操作する操作部材と、操作部材に設けられた噴出ノズルと、缶本体内に収容された塗布液を、弁を介して前記噴射ノズルに導く導出管と、缶本体内の上部に充填された噴射剤を具備してなり、前記塗布液は、水溶性樹脂により被覆された比重1未満のセラミック系またはガラス系の多数のバルーン粒子と、水溶性樹脂をバインダーとして比重1未満のセラミック系またはガラス系のバルーン粒子および比重1超の遮熱顔料が結合された多数のバルーン粒子・遮熱顔料結合体を含む遮熱断熱性骨材水溶液からなることを特徴とする遮熱断熱性骨材入りスプレー缶。
【請求項2】
缶本体内に攪拌体が収容されていることを特徴とする請求項1記載の遮熱断熱性骨材入りスプレー缶。
【請求項3】
噴射ノズルのノズル口を密閉状態に閉塞する栓体を備えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の遮熱断熱性骨材入りスプレー缶。
【請求項4】
噴射ノズルのノズル口径が0.3〜3.0mmであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の遮熱断熱性骨材入りスプレー缶。
【請求項5】
遮熱断熱性骨材水溶液を得るにあたり、バルーン粒子100重量%に対し、水10〜55重量%、水溶性樹脂10〜80を混錬して一次混練水溶液を得、一次混練水溶液100重量%に対し、遮熱顔料1〜80重量%を混錬して最終の遮熱断熱性骨材水溶液を得ることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の遮熱断熱性骨材入りスプレー缶。
【請求項6】
比重が1を超える遮熱顔料として、酸化チタン(TiO)および/または鉄クロム(Fe-Cr)を用いることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の遮熱断熱性骨材入りスプレー缶。
【請求項7】
請求項1記載のスプレー缶を用いて、塗布対象面に、水溶性樹脂により被覆された比重1未満のセラミック系またはガラス系の多数のバルーン粒子と、水溶性樹脂をバインダーとして比重1未満のセラミック系またはガラス系のバルーン粒子および比重1超の遮熱顔料が結合された多数のバルーン粒子・遮熱顔料結合体を含む混練水溶液を塗布しおよび乾燥させて、前記塗布対象面に、表層部に水溶性樹脂を遮熱バインダーとしてバルーン粒子と遮熱顔料が結合されたバルーン粒子・遮熱顔料結合体が多数配列され、内層部に水溶性樹脂をバインダーとしてバルーン粒子が多数配列された遮熱断熱塗膜層を形成させることを特徴とする塗布液の塗布方法。
【請求項8】
遮熱断熱塗膜層の乾燥厚さを100〜3000μとしたことを特徴とする請求項7記載の塗布液の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−67714(P2013−67714A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206847(P2011−206847)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(508130661)スターハード株式会社 (7)
【出願人】(511230451)株式会社ジャンプアップ・コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】