説明

遺伝子検査方法及び検査装置

【課題】標的核酸増幅の反応容器の温度制御機構に係る異常動作を容易に認識し、これによって標的核酸増幅の反応容器の温度ローカリティを低減し、高信頼性の装遺伝子検出方法及び検出装置を提供する。
【解決手段】増幅対象の標的核酸及び増幅に必要な成分を含む増幅液を収容する複数個の反応容器4のそれぞれに付設された恒温槽及び測温素子15と電熱(加熱・冷却)素子14によって、各反応容器を独立に温度制御し、ポジション毎に予め決められた分析・検査プロトコルに従って、架設ポジションとそのポジションに設定された所定の温度ごとに温度制御を行い、かつ制御温度の値をモニターに出力し、容器単位で制御温度の値の監視及び制御温度の補正値を演算・格納し、その演算値に基づいて容器の温度制御を実行し、容器内に収容する増幅液の発光を測定することを特徴とする遺伝子検査方法及びその装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿等の生体試料中に含まれる標的核酸を定性分析や定量分析する分析法及びその装置に係り、その対象は反応液増幅・検出過程に温度変化を必要とする技術及び反応液増幅・検出過程に温度変化を必要としない技術を含む物である。
【背景技術】
【0002】
従来、生体由来のサンプルに含まれる核酸の増幅と定量には、反応液増幅・検出過程に温度変化を必要とする技術であるポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCR)、反応液増幅・検出過程に温度変化を必要としない技術であるループ調整恒温増殖法(以下、LAMP法)などの核酸増幅技術が用いられている。PCRは、核酸増幅のために、サンプル温度を通常2から3種類程度の温度領域で周期的に変化させる必要がある。たとえば、典型的なPCR法では、2本鎖を1本鎖にするために94℃に加熱し、60℃においてアニーリングし、60−72℃に数分間保つ。このPCR処理をn回行って目的の標的核酸を増幅する。一方、LAMP法は60〜65℃の一定温度で反応が進行する。LAMP法においては、上記のように増幅は或る一定の温度範囲内で行われるが、複数の反応容器の温度を正確に所定の温度に制御することは重要であるので、本発明はLAMP方にも適用可能である。また、試料によっては増幅温度が異なることがある。
【0003】
PCRにおけるこの周期的な温度制御方法を実現するため、下記特許文献1では、異なる設定温度に保たれた領域と、円盤状のサンプル保持具とを備え、円盤の回転によりサンプルの温度を周期的に変化させる装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、PCRでは検出しようとする塩基配列に対し、相補的な配列を持つプライマーを結合させるアニーリング反応に必要な温度・時間は、配列によって異なる。また伸長反応時に必要な温度と時間は加える酵素によって異なる。このため、検出しようとする塩基配列、すなわちプロトコルが異なる複数の反応液を同時に処理するためには、プロトコルに規定される温度と時間が設定された核酸増幅装置を同時に処理しようとするプロトコルの数だけ備える必要がある。
【0005】
また、複数のサンプルを保持するプレートを備え、プレート全域を均一に温度制御する技術が知られているが、PCRでは、変性反応、アニーリング反応、伸長反応により1つの温度サイクルが構成され、一定数のサイクルを繰り返した後に分析を終了する。このプレート全域を一定に温度制御する技術においては、サンプルの分析開始後には、たとえ同一のプロトコルであっても、新たなサンプルの分析を開始することができず、分析の終了を待たなければならない。このため、新たなサンプルの分析結果を得るまでの分析時間が長くなるという問題がある。
【0006】
更に上述の通り、この技術では、複数のサンプルを保持するプレートを備えてプレート全域を均一に温度制御する装置で、バッチ単位で運用されるためにプレート内で温度のローカリティが生じる問題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−185389号公報
【特許文献2】特開平09−224644号公報
【特許文献3】特開2006−115742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、標的核酸増幅の反応容器の温度制御機構に係る異常動作を容易に認識し、これによって標的核酸増幅の反応容器の温度ローカリティを低減し、高信頼性の装遺伝子検出方法及び検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、増幅対象の標的核酸及びザ往復に必要な成分を収容する複数個の反応容器を収容して反応容器の架設ポジションごとに温度制御を行う加熱・冷却手段、反応容器の制御温度の値をモニターする温度監視手段、及び反応容器内に収容する反応液の発光を測定する発光検出手段をそれぞれ備えた遺伝子検査装置において、反応容器単位で制御温度の値の監視し、且つ反応容器単位で制御温度の値の補正を実行する機能を備えたことを特徴とする遺伝子検査方法及び検査装置が提供できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、標的核酸増幅の複数の反応容器の温度制御機構の温度ローカリティを低減し、更に装置の異常動作を容易に認識できる高信頼性の装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例における遺伝子検査装置の全体構成を示す概略図。
【図2】本発明の実施例における遺伝子検査装置の内部構成を示す概略図。
【図3】本発明の実施例における温度制御系の構成を示す概略図。
【図4】本発明の実施例における温度補正値の推移及び監視の具体例を示すグラフ。
【図5A】本発明の実施例における温度プロファイル、温度制御データおよび蛍光測定データの推移、及び監視の具体例。
【図5B】本発明の実施例における温度プロファイル、温度制御データおよび蛍光測定データの監視の具体例。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、PCR反応による核酸増幅を行うための、変温可能な温度制御機構を複数の反応容器と、その反応容器の個々の架設部に、反応容器を加熱冷却する手段、反応容器の温度を検知する手段、温度補正値、温度モニター及び測定データを格納する記憶手段、格納したデータと反応容器の実測値を比較して温度補正値を演算する手段、その補正値に基づいて反応容器温度の補正を実行する手段、及び反応容器内の増殖後の反応液に励起光を照射し、蛍光検出などの発光検知を行う検出器を備えた遺伝子検査装置に関する。
【0013】
反応容器毎の温度制御機構の温度補正を行うことで高精度な温度制御が可能となり、格納された温度補正値の推移を監視することで異常状態の監視、或いは予防保全用途としても有用となる。更に核酸検出プロトコルを実行中の温度制御モニター値、或いは蛍光検出の測定データを装置操作画面上に表示することで、装置オペレータは測定データ中の温度制御の異常有無を容易に認識することができる高信頼性の高い装置を提供することが可能となる。
【0014】
本発明は、従来のバッチ単位で運用されプレート全域を均一に温度制御する装置において、装置性能上の問題となっている、温度のローカリティを大幅に低減し、更に装置の異常動作を容易に認識できるようにして、高信頼性の装置を供するため、複数の容器架設部の温度制御補正値、温度制御データ、及び蛍光測定データ、それぞれを格納する手段を備え、装置全体を制御する演算装置でそれぞれの格納値の監視、及び表示を行うものである。
【0015】
本発明はまた、温度サイクルの異なる複数のプロトコルを同時に分析することが可能であり、装置が既に分析実行中であっても新たなサンプルの分析を実行することができる。これは、本発明をPCRのみならずLAMP法に適用した場合に言える実用的な特徴である。本発明は、分析プロトコル実行中の温度制御データと分析結果のプロファイルを画面上に表示することにより、測定結果のトレーサビリティを容易に実行可能な遺伝子検査方法及び検査装置となる。
【0016】
また、本発明を実施することにより、温度制御機構の温度ローカリティを大幅に低減し、更に装置の異常動作を容易に認識し或いは予測できる高信頼性の装置を供することが可能となる。
【0017】
本発明において、PCR法を用いて遺伝子の検出を行う場合、増幅対象の標的核酸、プライマー、標的核酸ポリメラーゼ、標的核酸剛性の素材(基質)であるデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)及び酵素が働く至適温度環境を作るためのバッファー溶液などを反応容器に収容する。LAMP法においてもそれに必要な成分を反応容器に収容する。LAMP法自体はよく知られている方法なので、その詳細な説明は省略する。
【0018】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
(1)増幅対象の標的核酸及び増幅に必要な成分を収容する複数個の反応容器のそれぞれに付設された恒温槽及び測温素子と加熱・冷却素子によって、前記反応容器のそれぞれを独立に温度制御し、前記反応容器のポジション毎に予め決められた分析・検査プロトコルに従って、前記反応容器の架設ポジションとそのポジションに設定された所定の温度ごとに温度制御を行い、かつ前記反応容器の制御温度の値をモニターに出力し、前記反応容器単位で制御温度の値の監視及び反応容器単位で制御温度値の補正値を演算し、前記反応容器の温度制御を実行し、前記反応容器内に収容する増幅の発光を測定する遺伝子検査方法。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、前記反応容器のポジション毎に予め決められた分析・検査プロトコルに従って、前記反応容器の架設ポジションとそのポジションに設定された所定の温度ごとに独立して温度制御を行うことが必要で、これにより複数の反応容器の温度ローカリティを低減することができる。
【0020】
本発明において、制御温度値とは、遺伝子検査プロトコルによって決められた反応容器の制御温度範囲であり、許容誤差を含めた所定の温度範囲である。また、温度補正値とは、装置の仕様,構成部材、検査を行う環境などによって変化する補正値で、随時実測値と演算によって、補正値を求める。これらのデータはそれぞれ温度モニター値格納手段42及び温度補正値格納手段41に格納される。
【0021】
また、温度制御手段は前記プロトコルに従って通常の温度制御を行う手段であり、その温度制御手段の制御が正しく行われていないと判定されたときは、前記記憶装置に格納された必要なデータに基づいて温度制御値の補正を行う。
(2)上記遺伝子検査方法において、増幅反応はPCR法により行う遺伝子検査方法。
(3)上記遺伝子検査方法において、増幅反応はLAMP法により行う遺伝子検査方法。
(4)上記遺伝子検査方法において、検査・検出工程の過程で特定の反応容器の制御温度値が、格納された温度補正値の正常範囲を超えた場合に、当該反応容器の温度制御を停止して、正常範囲内に収束する残りの反応容器を用いて分析又は検査を継続する遺伝子検査方法。ここで分析とは、遺伝子検査のために事前の準備又は前処理であって、分析工程には反応装置の温度チエックも含まれる。
(5)上記遺伝子検査方法において、温度補正値格納手段に格納した温度補正値の今回実施値と前回実施値の差分値が所定の正常範囲を超えた場合にアラームを出力する遺伝子検査方法。
(6)遺伝子検査方法であって、温度補正値格納手段に格納した制御温度のモニター値、及び測定データ格納手段で格納した発光検出手段の測定データの値を、装置の画面上に同時に表示し、時系列で比較することを特徴とする遺伝子検査方法。
(7)増幅対象の標的核酸及びそれに必要な成分を収容する複数個の反応容器と、
前記複数個のそれぞれに付設された恒温槽と、
前記複数の反応容器のそれぞれに付設された測温素子及び加熱・冷却素子と、
前記反応容器の架設ポジションとそのポジションに設定された所定の温度ごとに温度制御を行う温度制御手段と、
前記反応容器の制御温度の値をモニターする温度監視手段と、
前記反応容器内に収容する反応液の発光を測定する発光検出手段、及び
前記反応容器単位で制御温度値の監視手段と、
反応容器単位で制御温度値の補正値を演算する演算手段と、
前記反応容器の温度制御を実行する補正手段を備えた遺伝子検査装置。
(8)上記遺伝子検査装置であって、前記補正手段は補正動作を任意の実行タイミングで実施可能である遺伝子検査装置。
(9)上記遺伝子検査装置であって、前記反応容器の温度値の監視動作を任意の実行タイミングで実施可能である遺伝子検査装置。
(10)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、前記分析・検出工程の過程で特定の反応容器の制御温度値が正常範囲を超えた場合に、当該反応容器の温度制御手段の機能を停止して、正常範囲内に収束する残りの反応容器を用いて分析を継続する機能を備えた遺伝子検査装置。
(11)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、分析開始前の準備動作中に特定の反応容器の制御温度値が正常範囲を超えた場合に、当該反応容器の温度制御手段の機能を停止して、その他の正常範囲内に収束する残りの反応容器を用いて分析を継続する機能を備えた遺伝子検査装置。
(12)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、分析開始前の準備動作中に特定の反応容器の制御温度値が正常範囲を超えた場合に、当該反応容器と当該反応容器周辺の温度制御手段の機能を停止して、その他の正常範囲内に収束する残りの反応容器を用いて分析を継続する機能を備えた遺伝子検査装置。
(13)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、複数個の反応容器単位で実行した温度補正の値を装置内に電子データとして格納する温度補正値格納手段を備えた遺伝子検査装置。
(14)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、温度補正値格納手段に格納した温度補正値を装置の画面上に表示する機能を備えた遺伝子検査装置。
(15)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、温度補正値格納手段に格納した温度補正値の今回実施値と前回実施値の差が正常範囲を超えた場合にアラームを出力する手段を備えた遺伝子検査装置。
(16)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、温度監視手段で監視する反応容器の制御温度のモニター値を装置内に電子データとして格納する温度モニター値格納手段を備えた遺伝子検査装置。
(17)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、温度モニター値格納手段で格納した制御温度のモニター値を装置の画面上に表示する機能を備えた遺伝子検査装置。
(18)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、温度監視手段で監視する反応容器の制御温度のモニター値が正常範囲を超えた場合にアラームを出力する手段を備えた遺伝子検査装置。
(19)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、反応容器内に収容する反応液の発光を測定する発光検出手段の測定データの値を装置内に電子データとして格納する測定データ格納手段を備えた遺伝子検査装置。
(20)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、測定データ格納手段で格納した発光検出手段の測定データの値を、装置の画面上に表示する機能を備えた遺伝子検査装置。
(21)上記遺伝子検査装置のいずれかにおいて、温度モニター値格納手段で格納した制御温度のモニター値、及び測定データ格納手段で格納した発光検出手段の測定データの値を、装置の画面上に同時に表示し、時系列で比較できる機能を備えた遺伝子検査装置。このように構成することにより、オペレータが遺伝子検査装置における温度状態の正常、異常を容易に、迅速に判断することができる。
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1に本発明を実施した核酸分析装置の全体構成の概略図を示す。核酸分析装置1は通信ケーブル60を介してモニター30、記憶装置40、及び演算機50と接続され、上述モニターは核酸分析装置1の制御用操作部として作用する。記憶装置40は温度補正値格納手段41、温度モニター格納手段42及び測定データ格納手段43を備える。
【0024】
図2は核酸分析装置1の内部構成図を示す。図2の主な機構構成要素について説明する。分注ユニット2は液体の吸引・吐出を行う。グリッパユニット3は反応容器4を1本ずつ保持する。分注ユニット2とグリッパユニット3はロボットアームX軸5、ロボットアームY軸6に接続され、平面移動し、把持した反応容器を所定の手順に従って移動することができる。
【0025】
分注チップ9はノズルチップラック10にストックされる。分注チップ9はコンタミネーション防止のため、使い切り(ディスポーザブル)とする。反応容器4は試料・試薬を吐出する容器であり、反応容器ラック11にストックされる。
【0026】
本発明の実施例による核酸増幅ユニット12は複数の恒温槽16と恒温槽上部に配置されたロボットアーム17、更に恒温槽16の周辺に複数個配置された検出器、たとえば図4に示す測温素子15により構成される。又、反応容器4は複数の恒温槽16に対し複数個配置可能であり、反応容器と恒温槽は1対1の関係に配置される。これにより温度制御は反応容器4の個々に対し制御・監視可能な構成とする。
【0027】
核酸分析装置1の自動分析装置の代表的な運用工程は反応容器4をグリッパユニット3にて反応液調整ポジション18に搬送することにより行われる。
【0028】
分注チップ9を分注ユニット2に装着し、試料の入った試料・試薬容器19から試料、及び試薬をそれぞれ吸引し、反応液調整ポジション18で反応容器4に吐出する。試薬についても同様の手順で反応容器4に吐出する。使用済みの分注チップ9は、コンタミネーション防止のため、廃棄ボックス20に廃棄する。
【0029】
試料・試薬を吐出した反応容器4は、閉栓ユニット21にて蓋を閉めて密閉し、攪拌ユニット22で攪拌させた後、核酸増幅ユニット12に搬入し検出器13で検出を行う。検出工程が終了した反応容器4はグリッパユニット3により廃棄ボックス20に廃棄される。核酸増幅ユニット12への反応容器4の搬入と搬出はゲート23を開閉して行う。本実施例によれば、個々の恒温槽の温度を電熱素子により加温又は冷却し、この温度を極子測温素子により常時モニターして、所定の温度プロファイルを実行するように制御するので、PCRのように複数の温度管理が必要な場合でも不要な温度分布のローカリティを防止し、核酸増幅による核酸の定量工程を容易に自動化することが可能となる。
【0030】
図3は本発明の実施例における温度制御系の構成の概略図を示す。反応容器4は恒温槽16に複数個配置可能であるが、図3は1つの反応容器4とそれに付属した制御系の構成図を切り出した概念図である。反応容器4に収容される液体の制御温度値は計算機50より指示され、本目的温度となるよう制御系で電熱素子14により昇温/降温制御される。そして、実際の温度は測温素子15でモニターし、温度目的温度に制御される。
【0031】
又、これら温度制御系は温度制御構成の個体差、或いは電熱素子14や測温素子15などの半導体素子の個体差が生じることは自明である。したがって、本発明ではこれら温度制御系の固体差異要因を反応容器4、つまり恒温槽16に配置された複数個分すべて温度補正を独立して行うことが可能な構成とする。又、これら温度補正値、温度モニター値、更に検出器13で検出される測定データは記憶装置40に電子データで格納し、計算機の指示によりモニターへの表示など読み出しも可能とする。更にこれらのデータは統計的な推移の監視などより温度制御状態を監視し、異常状態と認識した場合にはアラームを発生することが可能な構成とする。
【0032】
図4は温度補正値の推移を監視したときの一例である。温度制御構成の温度補正の実施、格納された温度補正値の読み出しは装置のオペレータ又はサービスマンが任意のタイミングで実行できるものとする。本温度補正値は実施毎のばらつきは生じるが、特定のばらつき範囲内に収束していれば温度制御系は正常状態と判断できる。しかしながら、図4のD付近に示した推移のように、所定のばらつき範囲を超えて、明らかに既知の格納値と異なる推移が確認できた場合には装置は異常状態を認識しアラームを発生する。しかしながら、特定の温度制御系のみの異常が確認されて、その他の温度制御系は正常と判断された場合は、異常が確認された温度制御系のみを不可動とし、検査動作は正常な温度制御系で継続可能な監視構成とするのが好ましい。
【0033】
図5Aは分析プロトコル内での昇温/降温の目標温度の時間的推移の具体例を示し、本温度プロファイルが時間的な制御因子も含めた目標の温度プロファイルである。図5Bは演算機に格納された温度モニター値及び蛍光の測定データの時間的推移の具体例を示す。(図5Bにおける測定データが直線状である理由を説明してください。)本温度プロファイルに制御すべく温度制御系は反応容器の温度をモニターし、同時に蛍光量も測定データとして検出し、それぞれ格納する。図5Bに示したものは上述の温度モニター値と測定データである。PCR法では反応容器の温度精度が測定データのバラツキを引き起こす可能性のある大きな要因として知られている。更に従来のバッチ単位で運用されてプレート全域を均一に温度制御し、昇温/降温する装置においては反応容器が架設される部位間での温度のローカリティが大きく、且つ架設部位の温度はモニターできない為に、測定データに異常が生じた場合には別の部位に架設して再度測定を行うなどの回避策が行われており、オペレータに大きな負荷を与えるような運用が現実に行われている。
【0034】
本発明ではこれらのワークフローを改善すべ装置画面上に温度モニター値と測定データを同時に表示できるような構成とした。図5Bに示したように温度モニター値と測定データが同時に確認できることにより、温度制御異常時と示したように特定の制御サイクルのみ温度制御が異常になり測定データの精度を与えるような場合も、本発明では容易に認識でき、更に特定の監視幅を指定することにより、監視幅を超えた場合にはアラームを発生する機能も容易に実現可能となる。
【0035】
これらの説明から容易に分かるように本発明を実施することにより、温度制御、監視、アラームの発生が反応容器単位で実施でき装置画面上でも認識可能となり、操作性が非常に高く、且つ高信頼性の遺伝子検査装置を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、PCR法又はLAMP法を用いた遺伝子の増幅・検出の温度制御技術として有効である。
【符号の説明】
【0037】
1…核酸分析装置、4…反応容器、9…分注チップ、13…検出器、14…電熱素子、15…測温素子、16…恒温槽、17…グリッパアーム、20…廃棄ボックス、23…ゲート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅対象の標的核酸及び増幅に必要な成分を含む増幅液を収容する複数個の反応容器のそれぞれに付設された恒温槽及び測温素子と加熱・冷却素子によって、前記反応容器のそれぞれを独立に温度制御し、前記反応容器のポジション毎に予め決められた分析・検査プロトコルに従って、前記反応容器の架設ポジションとそのポジションに設定された所定の温度ごとに温度制御を行い、前記反応容器単位で制御温度値の監視を行うとともに、反応容器単位で制御温度の補正値を演算・格納し、その演算値に基づいて前記反応容器の温度制御を実行し、前記反応容器内に収容する増幅液の発光を測定することを特徴とする遺伝子検査方法。
【請求項2】
請求項1の遺伝子検査方法において、増幅反応はPCR法により行われることを特徴とする遺伝子検査方法。
【請求項3】
請求項1の遺伝子検査方法において、増幅反応はLAMP法により行われることを特徴とする遺伝子検査方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の遺伝子検査方法であって、検査・検出工程の過程で特定の反応容器の制御温度値が、格納された温度補正値の正常範囲を超えた場合に、当該反応容器の温度制御手段の機能を停止して、正常範囲内に収束する残りの反応容器を用いて分析又は検査を継続することを特徴とする遺伝子検査方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の遺伝子検査方法であって、温度補正値格納手段に格納した温度補正値の今回実施値と前回実施値の差分値が所定の正常範囲を超えた場合にアラームを出力することを特徴とする遺伝子検査方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の遺伝子検査方法であって、温度モニター値格納手段で格納した制御温度のモニター値、及び測定データ格納手段で格納した発光検出手段の測定データの値を、装置の画面上に同時に表示し、時系列で比較することを特徴とする遺伝子検査方法。
【請求項7】
増幅対象の標的核酸及びそれに必要な成分を収容する複数個の反応容器と、
前記複数個のそれぞれに付設された恒温槽と、
前記複数の反応容器のそれぞれに付設された測温素子及び加熱・冷却素子と、
前記反応容器の架設ポジションとそのポジションに設定された所定の温度ごとに独立して温度制御を行う温度制御手段と、
前記反応容器の制御温度の値をモニターする温度監視手段と、
前記反応容器単位で制御温度値の監視を行う手段と、
反応容器単位で制御温度値の補正値を演算する演算手段と、
演算結果を格納する温度補正値格納手段と、
格納された温度補正値に基づいて前記反応容器の温度制御値を補正する補正手段及び
前記反応容器内に収容する増幅液の発光を測定する発光検出手段
を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項8】
請求項7記載の遺伝子検査装置であって、前記補正手段は補正動作を任意の実行タイミングで実施可能であることを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載の遺伝子検査装置であって、前記反応容器の温度の監視動作を任意の実行タイミングで実施可能であることを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、分析又は検出工程の過程で特定の反応容器の制御温度値が、格納された温度補正値の正常範囲を超えた場合に、当該反応容器の温度制御手段の機能を停止して、正常範囲内に収束する残りの反応容器を用いて検査を継続する機能を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、検査分析開始前の準備動作中に特定の反応容器の温度補正値が正常範囲を超えた場合に、当該反応容器の温度制御手段の機能を停止して、その他の正常範囲内に収束する残りの反応容器を用いて分析又は検査を継続する機能を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、検査分析開始前の準備動作中に特定の反応容器の制御温度値が正常範囲を超えた場合に、当該反応容器と当該反応容器周辺の温度制御手段の機能を停止して、その他の正常範囲内に収束する残りの反応容器を用いて分析又は検査を継続する機能を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、温度補正値格納手段に格納した温度補正値を装置の画面上に表示する機能を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項14】
請求項7〜13のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、温度補正値格納手段に格納した温度補正値の今回実施値と前回実施値の差が所定の正常範囲を超えた場合にアラームを出力する手段を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項15】
請求項7〜14のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、温度監視手段で監視する反応容器の制御温度のモニター値を装置内に電子データとして格納する温度モニター値格納手段を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項16】
請求項7〜15のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、温度モニター値格納手段で格納した制御温度のモニター値を装置の画面上に表示する機能を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項17】
請求項7〜16のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、温度監視手段で監視する反応容器の制御温度のモニター値が正常範囲を超えた場合にアラームを出力する手段を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項18】
請求項7〜17のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、反応容器内に収容する反応液の発光を測定する発光測検出手段の測定データの値を装置内に電子データとして格納する測定データ格納手段を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項19】
請求項7〜18のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、測定データ格納手段で格納した発光検出手段の測定データの値を、装置の画面上に表示する機能を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。
【請求項20】
請求項7〜19のいずれかに記載の遺伝子検査装置であって、温度モニター値格納手段で格納した制御温度のモニター値、及び測定データ格納手段で格納した発光検出手段の測定データの値を、装置の画面上に同時に表示し、時系列で比較できる機能を備えたことを特徴とする遺伝子検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2012−100582(P2012−100582A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251576(P2010−251576)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】