説明

配線部材およびプリント配線基板

【課題】同時スイッチングによる電源層とグランド層との間の共振を抑えることによって、電源電位を安定化でき、不要なノイズの放射を抑制できるプリント配線基板用の配線部材、および該配線部材を具備するプリント配線基板を提供する。
【解決手段】表面粗さRz が2μm以下である平滑面を有する銅箔11と、金属または導電性セラミックスを含む、厚さ5〜200nmのノイズ抑制層13と、銅箔11の平滑面側とノイズ抑制層13との間に設けられた絶縁性樹脂層12とを有する配線部材10を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線基板を構成するための配線部材およびプリント配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタス社会が訪れ、情報処理機器、通信機器等、特にパソコン、携帯電話、ゲーム機器等においては、MPUの高速化、多機能化、複合化、およびメモリ等の記録装置の高速化が進行している。
しかし、これらの機器から放射されるノイズ、または機器内の導体を伝導するノイズがもたらす、自身または他の電子機器、部品の誤作動、人体に対する影響が問題となっている。これらノイズとしては、MPU、電子部品等が実装されたプリント配線板内の導体のインピーダンス不整合によるノイズ、導体間のクロストークによるノイズ、MPU等の半導体素子の同時スイッチングによる電源層とグランド層との層間の共振よって誘起されるノイズ等がある。
【0003】
これらノイズが抑えられたプリント配線基板としては、下記プリント配線基板が知られている。
(1)銅箔からなる電源層およびグランド層の両面に、銅箔よりも抵抗率が大きい金属からなる金属膜を形成したプリント配線基板(特許文献1)。
(2)銅箔からなる電源層およびグランド層の両面に、導電性物質を含む、プリント配線基板面に対して垂直方向の異方導電性を有する膜を形成したプリント配線基板(特許文献1)。
【0004】
(1)のプリント配線基板においては、銅箔表面に流れる高周波うず電流を減衰させることができ、半導体素子が同時スイッチングを起こしても、電源電位等を安定化でき、不要なノイズの放射を抑制できるとされている。なお、導体表面(表皮)を流れる高周波電流(表皮電流)を、表皮の深さと同程度の数μmの金属膜で減衰させるためには、対象となる高周波電流の周波数にもよるが、かなりの高抵抗率を有する材料が必要となる。しかし、このような材料は入手できず、(1)のプリント配線基板では、充分なノイズ抑制効果が得られない。
【0005】
(2)のプリント配線基板においても、同様に高周波うず電流を減衰させることができるとされている。しかし、表皮の深さと同等以上の銅箔の表面粗さを有するように異方導電性の膜を形成することは、工程が複雑である。また、(2)のプリント配線基板では、充分なノイズ抑制効果が得られない。
【特許文献1】特開平11−97810号公報
【特許文献2】特開2006−66810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって本発明の目的は、同時スイッチングによる電源層とグランド層との間の共振を抑えることによって、電源電位を安定化でき、不要なノイズの放射を抑制できるプリント配線基板用の配線部材、および該配線部材を具備するプリント配線基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の配線部材は、表面粗さRz が2μm以下である平滑面を有する銅箔と、金属または導電性セラミックスを含む、厚さ5〜200nmのノイズ抑制層と、前記銅箔の平滑面側と前記ノイズ抑制層との間に設けられた絶縁性樹脂層とを有することを特徴とする。
前記ノイズ抑制層は、金属または導電性セラミックスが存在しない欠陥を有することが好ましい。
【0008】
本発明の配線部材は、前記銅箔の平滑面側と前記絶縁性樹脂層との間に接着促進層を有することが好ましい。
本発明の配線部材は、前記ノイズ抑制層の、前記銅箔側とは反対側の表面に、接着促進層を有することが好ましい。
前記絶縁性樹脂層の厚さは、0.1〜10μmであることが好ましい。
【0009】
本発明のプリント配線基板は、本発明の配線部材を具備することを特徴とする。
本発明のプリント配線基板においては、前記銅箔が、電源層であり、電源層とグランド層との間に、前記ノイズ抑制層が配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の配線部材によれば、プリント配線基板において同時スイッチングによる電源層とグランド層との間の共振を抑えることによって、電源電位を安定化でき、不要なノイズの放射を抑制できる。
本発明のプリント配線基板は、同時スイッチングによる電源層とグランド層との間の共振が抑えられ、電源電位が安定化され、不要なノイズの放射が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
<配線部材>
図1は、本発明の配線部材の一例を示す概略断面図である。配線部材10は、銅箔11と、銅箔11上に設けられた絶縁性樹脂層12と、絶縁性樹脂層12の表面に形成されたノイズ抑制層13とを有するものである。
【0012】
(銅箔)
銅箔11としては、電解銅箔、圧延銅箔等が挙げられる。
通常、銅箔の表面は、絶縁性樹脂層12との接着性をよくするために、表面に微細な銅粒を付着させる等により粗面化処理されている。一方、本発明においては、ノイズ抑制層13側の銅箔11の表面は、表面粗さRz が2μm以下である平滑面とされている。平滑面の表面粗さRz が2μm以下であれば、絶縁性樹脂層12を薄く形成しても、絶縁性樹脂層12に銅箔11の表面の凹凸によるピンホール等の欠陥が発生しにくくなり、銅箔11とノイズ抑制層13との短絡が抑えられ、充分なノイズ抑制効果が得られる。表面粗さRz は、JIS B 0601−1994に規定される十点平均粗さRz である。
【0013】
銅箔11としては、電解銅箔が特に好ましい。電解銅箔は、電解反応を利用して銅を陰極の回転ドラム表面に析出させ、回転ドラムから引き剥がして得られるものであり、ドラムと接触していた面は、ドラムの表面状態が転写された平滑面となる。一方、銅が電解析出した面の形状は、析出する銅の結晶成長速度が結晶面ごとに異なるため粗面となり、他の絶縁性樹脂層(図示略)との貼り合わせに都合のよい面となっている。
銅箔11の厚さは、3〜50μmが好ましい。
【0014】
(絶縁性樹脂層)
絶縁性樹脂層12は、樹脂組成物からなる層、または樹脂組成物をガラス繊維等の補強繊維に含浸させた繊維強化樹脂からなる層である。繊維強化樹脂の状態は、B−ステージ(半硬化状態)であってもよく、C−ステージ(硬化状態)であってもよい。
【0015】
樹脂組成物は、樹脂を主成分とする組成物である。該樹脂としては、プリント配線基板の製造の際の加熱に耐え、かつプリント配線基板に要求される耐熱性を有するものが好ましく、また、誘電率、誘電正接等、プリント配線基板の設計に必要とされる特性値が既知であるのものが好ましい。該樹脂としては、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリ四フッ化エチレン、ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。
【0016】
樹脂組成物としては、エポキシ樹脂、必要に応じて硬化剤、硬化促進剤、可とう性付与剤等を含有するものが好ましい。
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂の量は、樹脂組成物100質量%のうち、20〜80質量%が好ましい。
【0017】
硬化剤としては、ジシアンジアミド、イミダゾール類、芳香族アミン等のアミン類;ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールA等のフェノール類;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック類;無水フタル酸等の酸無水物等が挙げられる。
硬化促進剤としては、3級アミン、イミダゾール系硬化促進剤、尿素系硬化促進剤等が挙げられる。
【0018】
可とう性付与剤としては、ポリエーテルサルホン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、弾性樹脂等が挙げられる。
芳香族ポリアミド樹脂としては、芳香族ジアミンとジカルボン酸との縮重合により合成されるものが挙げられる。芳香族ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、m−キシレンジアミン、3,3’−オキシジアニリン等が挙げられる。ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸等のジカルボン酸が挙げられる。
弾性樹脂としては、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム等が挙げられる。絶縁性樹脂層12の耐熱性を確保するために、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴムを併用してもよい。ニトリルゴムとしては、CTBN(カルボキシ基末端ブタジエンニトリルゴム)が好ましい。
【0019】
絶縁性樹脂層12は、例えば、樹脂組成物を溶剤に溶解または分散させたワニスを銅箔11上(または後述の接着促進層15上)に塗布し、乾燥させることにより形成される。また、該ワニスの塗布および乾燥を2回以上に分けて行い、2層以上の絶縁性樹脂層を形成してもよい。ワニスは、各層が同じ種類のワニスであってもよく、各層ごとに違う種類であってもよい。
【0020】
絶縁性樹脂層12の厚さは、0.1〜10μmが好ましい。絶縁性樹脂層12の厚さが0.1μm以上であれば、銅箔11とノイズ抑制層13との絶縁が充分に維持され、銅箔11とノイズ抑制層13との短絡が抑えられ、充分なノイズ抑制効果が得られる。また、銅箔11をエッチングによってパターン加工する際に、エッチングによってノイズ抑制層13が侵されることがない。一方、絶縁性樹脂層12の厚さが10μm以下であれば、配線部材を具備するプリント配線基板を薄肉化できる。また、ノイズ抑制層13と銅箔11とが接近することにより、ノイズ抑制層13と銅箔11との電磁結合が強くなり、充分なノイズ抑制効果が得られる。また、ノイズ抑制層13にパターン加工を銅箔11側から施す際に、絶縁性樹脂層12を除去しやすく、加工時間が短くなる。
【0021】
(ノイズ抑制層)
ノイズ抑制層13は、金属材料または導電性セラミックスを含む、厚さ5〜200nmの薄膜である。
ノイズ抑制層13の厚さが5nm以上であれば、充分なノイズ抑制効果が得られる。一方、ノイズ抑制層13の厚さが200nmを超えると、後述のマイクロクラスターが成長し、金属材料等からなる均質な薄膜が形成され、表面抵抗が小さくなって、金属反射が強まり、ノイズ抑制効果も小さくなる。
ノイズ抑制層13の厚さは、ノイズ抑制層の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像(例えば、図4)をもとにして、5箇所のノイズ抑制層(色の濃い部分)の厚さを電子顕微鏡像上で測定し、平均することにより求める。
【0022】
ノイズ抑制層13の表面抵抗は、100 〜104 Ωが好ましい。ノイズ抑制層13が均質な薄膜の場合、体積抵抗率の高い限られた材料が必要となるが、材料の体積抵抗率がそれほど高くない場合は、ノイズ抑制層13に金属材料または導電性セラミックスが存在しない物理的な欠陥を設け、不均質な薄膜とすることによって、表面抵抗を上昇させることができる。ノイズ抑制層13の表面抵抗は、以下のように測定する。
2本の単位長さを有した金の蒸着電極のような薄膜金属電極を、単位長さ隔置された測定電極に、被測定物を50g/cm2 のような定荷重で押し付け、このときの1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定する。この値を持って表面抵抗とする。
【0023】
金属材料としては、強磁性金属、常磁性金属が挙げられる。強磁性金属としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル;これらの合金等が挙げられる。常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、それらの合金、アモルファス合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。これらのうち、酸化に対して抵抗力のある点から、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、貴金属が好ましい。なお、貴金属は高価であるため、実用的にはニッケル、ニッケルクロム合金、鉄クロム合金、タングステンが好ましく、ニッケルまたはニッケル合金が特に好ましい。
【0024】
導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素とからなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には、窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン、炭化ケイ素、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン等が挙げられる。
【0025】
導電性セラミックスは、金属よりも体積抵抗率が高いため、導電性セラミックスを含むノイズ抑制層は、特定の共鳴周波数を有さない、ノイズ抑制効果を発揮する周波数が広帯域化する、保存安定性が高い等の利点を有する。導電性セラミックスとしては、後述の物理的蒸着法における反応性ガスとして窒素ガスを用いることによって容易に得られることから、金属と窒素とからなるものが特に好ましい。
【0026】
ノイズ抑制層13の形成方法としては、通常の湿式メッキ法、物理的蒸着法、化学的蒸着法等が挙げられる。該方法においては、条件や用いる材料によっても異なるが、薄膜の成長を初期の段階で終了することにより、均質な薄膜とはならず、微細な物理的な欠陥を有する不均質な薄膜を形成できる。または、均質な薄膜を酸等によりエッチングして欠陥を形成する方法、レーザーアブレーションにより均質な薄膜に欠陥を形成する方法によっても、不均質な薄膜を形成できる。
【0027】
図2は、絶縁性樹脂層の表面に物理的蒸着法によって形成された金属材料からなるノイズ抑制層の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像であり、図3は、その模式図である。ノイズ抑制層13は、複数のマイクロクラスター14の集合体として観察される。マイクロクラスター14は、絶縁性樹脂層12上に金属材料が非常に薄く物理的に蒸着されて形成されたものであり、マイクロクラスター14の間には物理的な欠陥があって均質な薄膜になっていない。マイクロクラスター14が互いに接触して集団化しているものの、集団化したマイクロクラスター14の間には、金属材料の存在しない欠陥が多く存在している。
【0028】
図4は、ノイズ抑制層13の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。図2、図4から、非常に小さな結晶として数Å間隔の金属原子が配列された結晶格子(マイクロクラスター)、および非常に小さい範囲で金属材料が存在しない欠陥が認められる。すなわち、マイクロクラスター同士の間隔が空いた状態であり、金属材料からなる均質な薄膜には成長していない。このような物理的な欠陥を有する状態は、ノイズ抑制層13の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1 (Ω・cm)と金属材料(または導電性セラミックス)の体積抵抗率R0 (Ω・cm)(文献値)との関係から確認できる。すなわち、体積抵抗率R1 と体積抵抗率R0 とが、0.5≦logR1 −logR0 ≦3を満足する場合に、優れたノイズ抑制効果が発揮される。
【0029】
ノイズ抑制層13は、所望の形状にパターン加工されていてもよく、スルーホール等のアンチビアが形成されていてもよい。ノイズ抑制層13は、通常のエッチング法、レーザーアブレーション法等により所望の形状に加工できる。
【0030】
(接着促進層)
銅箔11と絶縁性樹脂層12との密着性を向上させるために、銅箔11の平滑面に接着促進層15が設けられていることが好ましい。
接着促進層15は、銅箔11の平滑面を接着促進剤で処理することにより形成される。接着促進剤としては、シラン系カップリング剤、またはチタネート系カップリング剤が挙げられる。
【0031】
シラン系カップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0032】
チタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル−アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジ−トリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート等が挙げられる。
【0033】
接着促進剤としては、通常、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが用いられ、銅箔11と絶縁性樹脂層12との剥離強度を1.0kgf/cm以上に高める場合には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが好ましい。
接着促進層15の形成方法としては、塗布法、浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等が挙げられる。
【0034】
また、ノイズ抑制層13と他の絶縁性樹脂層(図示略)との密着性を向上させるために、ノイズ抑制層13上に接着促進層(図示略)を設けてもよい。
接着促進層は、前記シラン系カップリング剤またはチタネート系カップリング剤を塗布する方法、該カップリング剤がインテグラルブレンドされたエポキシ樹脂等を塗布する方法によって形成できる。接着促進層は、ノイズ抑制層13のパターン加工後に形成してもよい。
【0035】
<プリント配線基板>
本発明のプリント配線基板は、本発明の配線部材を具備するものである。配線部材における銅箔は、プリント配線基板においては、信号配線層、電源層またはグランド層である。ノイズ抑制効果を充分に発揮させるためには、配線部材における銅箔は、電源層またはグランド層であることが好ましく、電源層であることがより好ましい。また、ノイズ抑制効果を充分に発揮させるためには、電源層とグランド層との間にノイズ抑制層が配置されていることが好ましい。
【0036】
図5は、本発明のプリント配線基板の一例を示す概略断面図である。プリント配線基板20は、上から順に、パターン加工された信号配線層21、プリント配線基板20のほぼ全面にわたるグランド層22、電源層23、パターン加工された信号配線層21が、絶縁層24を介して積層されたものである。
【0037】
電源層23は、配線部材10の銅箔11であり、電源層23のグランド層22側には、絶縁性樹脂層12を介して、グランド層22とほぼ同じ大きさのノイズ抑制層13が設けられている。また、電源層23は2分割されていて、分割された電源層23同士は絶縁されている。
【0038】
プリント配線基板20は、例えば以下のようにして製造される。
配線部材10と他の銅箔との間に、エポキシ樹脂等をガラス繊維等に含浸させてなるプリプレグを挟んで硬化させ、配線部材10の銅箔11を電源層23、他方の銅箔をグランド層22とする。
ついで、フォトリソグラフィー法等により、配線部材10の銅箔11に、所望の形状(2分割パターン)となるようにエッチングを施す。この際、絶縁性樹脂層12がエッチング液に対し耐性を有し、また絶縁性樹脂層12にはピンホール等がないことから、ノイズ抑制層13はエッチングにてダメージを受けずに存在する。電源層23とグランド層22をコアに、その両外面に銅箔をプリプレグで張り合わせ信号配線層21とする。
【0039】
以上説明した本発明の配線部材にあっては、表面粗さRz が2μm以下である平滑面を有する銅箔と、金属または導電性セラミックスを含む、厚さ5〜200nmのノイズ抑制層と、前記銅箔の平滑面側と前記ノイズ抑制層との間に設けられた絶縁性樹脂層とを有するため、銅箔とノイズ抑制層との間の絶縁を充分に確保できる。
【0040】
また、以上説明した本発明のプリント配線板にあっては、本発明の配線部材を具備するため、同時スイッチングによって電源層に流れ込む高周波電流をノイズ抑制層が減衰させ、電源層とグランド層との間の共振を抑えることができる。その結果、基板の周端部からのノイズの放射を抑えることができる。
【実施例】
【0041】
(ノイズ抑制層の厚さ)
(株)日立製作所製、透過型電子顕微鏡H9000NARを用いてノイズ抑制層の断面を観察し、5箇所のノイズ抑制層の厚さを測定し、平均した。
【0042】
(接着強度)
配線部材の銅箔と絶縁性樹脂層との間の剥離強度を、JIS C5012に準拠し、テンシロンにより、引張角度90°、引張速度50mm/分にて測定した。
【0043】
(ノイズ抑制効果)
グランド層と電源層とからなる2層基板を作製し、2分割された一方の電源層の両末端に、電源層とグランド層に繋がるSMAコネクタを搭載し、該コネクタに接続されたネットワークアナライザー(アンリツ社製、37247D)を用いてSパラメーター法によるS21(透過減衰量、単位:dB)を測定し、S21パラメータの共振状態を確認した。ノイズ抑制効果がある場合は、共振周波数における減衰量が大きくなり、減衰量と周波数を示すグラフは滑らかになる。
【0044】
(電源層間抵抗)
分割された2つの電源層のそれぞれにプローブをあて、東亜DKK製超絶縁計SM−8210を用い、50Vの測定電圧を印加した際の電源層間の抵抗を測定した。
【0045】
〔実施例1〕
一方の表面(平滑面)の表面粗さRz が2μmであり、他方の粗面化された表面の表面粗さRz が5.3μmである、厚さ35μmの電解銅箔の平滑面上に、1質量%の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン溶液を塗布、乾燥し、接着促進層を形成した。
【0046】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、828)30質量部、臭素化ビスフェノールA型樹脂(東都化成社製、YDB−500)30質量部およびクレゾールノボラック樹脂(東都化成社製、YDCN−704)35質量部を、メチルエチルケトンに溶解し、ついでイミダゾール系硬化促進剤(四国化成社製、キュアゾール2E4MZ)0.2質量部を加え、8質量%の樹脂組成物のワニスを調製した。
該樹脂組成物のワニスを、接着促進層の上に乾燥後の厚さが10μmとなるようにグラビアコーターを用いて塗布し、塗膜を形成した。該塗膜を15分間風乾した後、150℃で15分間加熱して硬化させ、絶縁性樹脂層を形成した。
【0047】
ついで、該絶縁性樹脂層の全面にニッケル金属をEB蒸着法により物理的に蒸着した。150℃で45分間加熱して絶縁性樹脂層をさらに硬化させ、図2に示す表面を有する、厚さ15nmの不均質なノイズ抑制層を形成し、総厚45μmの配線部材を得た。
【0048】
該配線部材から幅10mm、長さ100mmの短冊状の試験片を切り出し、該試験片を、幅35mm、長さ50mm、厚さ1mmのプリプレグの幅方向に3枚並べ、試験片とプリプレグをプレスにより接着した後、剥離強度の測定および剥離状態の観察を行った。結果を表1に示す。剥離強度は、3枚の試験片の値の平均値とした。
【0049】
前記配線部材と厚さ35μmの銅箔とを厚さ0.2mmのプリプレグを介して一体化し、2層基板を作製した。該2層基板から74mm×160mmの大きさの試験片を切り出し、該試験片の配線部材側の銅箔をエッチングにより、大きさ36.5mm×160mmの2つの電源層に分割し、1mm離して配置した。ノイズ抑制層とグランド層の大きさは74mm×160mmであった。該試験片について、電源層間抵抗を測定した。結果を表1に示す。また、該試験片について、Sパラメーター法によるS21を測定した。結果を図6に示す。
【0050】
〔実施例2〕
一方の表面(平滑面)の表面粗さRz が0.4μmであり、他方の粗面化された表面の表面粗さRz が5.3μmである、厚さ18μmの電解銅箔の平滑面上に、1質量%の3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン溶液を塗布、乾燥し、接着促進層を形成した。
【0051】
ポリエーテルサルホン樹脂(住友化学社製、PES5003P)95質量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、828EL、)5質量部、イミダゾール系硬化促進剤(四国化成社製、キュアゾール2MZ)0.1質量部を、N,N−ジメチルホルムアミド/シクロヘキサン混合溶剤(50/50質量比)に溶解させ、0.5質量%の樹脂組成物のワニスAを調製した。
該樹脂組成物のワニスAを、接着促進層の上に乾燥後の厚さが1μmとなるように塗布し、塗膜を形成した。該塗膜を10分間風乾した後、160℃で10分間加熱して硬化させ、絶縁性樹脂層Aを形成した。
【0052】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、834)26質量部、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、1256)20質量部、クレゾールノボラック樹脂(東都化成社製、YDCN−704)35質量部を、メチルエチルケトンに溶解し、ついでイミダゾール系硬化促進剤(四国化成社製、キュアゾール2E4MZ)0.2質量部加え、4質量%の樹脂組成物のワニスBを調製した。
該樹脂組成物のワニスBを、絶縁性樹脂層Aの上に乾燥後の厚さが2μmとなるようにグラビアコーターを用いて塗布し、塗膜を形成した。該塗膜を10分間風乾した後、150℃で15分間加熱して硬化させ、絶縁性樹脂層Bを形成した。
【0053】
ついで、該絶縁性樹脂層Bの全面にタンタル金属を、窒素を流入しながらマグネトロンスパッタリング法により物理的に蒸着した。150℃で45分間加熱して絶縁性樹脂層をさらに硬化させ、厚さ20nmの不均質なノイズ抑制層を形成し、総厚21μmの配線部材を得た。
該配線部材について、実施例1と同様にして剥離強度の測定および剥離状態の観察を行った。結果を表1に示す。
【0054】
前記配線部材と厚さ18μmの銅箔とを厚さ0.1mmのプリプレグを介して一体化し、2層基板を作製した。該2層基板について、実施例1と同様にして、電源層を2つに分割し、試験片を作製して、電源層間抵抗を測定した。結果を表1に示す。また、該試験片について、Sパラメーター法によるS21を測定した。結果を図7に示す。
【0055】
〔比較例1〕
両面の表面粗さRzが5.3μmである、厚さ35μmの粗面化した電解銅箔を用い、接着促進層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして総厚45μmの配線部材を得た。該配線部材について、実施例1と同様にして剥離強度の測定および剥離状態の観察を行った。結果を表1に示す。
前記配線部材を用いて、実施例1と同様にして2層基板を作製し、実施例1と同様にして試験片を作製して、電源層間抵抗を測定した。結果を表1に示す。Sパラメーター法によるS21の測定は行わなかった。
【0056】
〔実施例3〕
接着促進層を形成せず、絶縁性樹脂層の厚さを25μにした以外は、実施例1と同様にして配線部材を得た。該配線部材について、実施例1と同様にして剥離強度の測定および剥離状態の観察を行った。結果を表1に示す。
前記配線部材を用いて、実施例1と同様にして2層基板を作製し、実施例1と同様にして試験片を作製して、電源層間抵抗を測定した。結果を表1に示す。また、該試験片について、Sパラメーター法によるS21を測定した。結果を図8に示す。
【0057】
〔比較例2〕
絶縁性樹脂層を設けずに直接ノイズ抑制層を銅箔上に形成した以外は、実施例2と同様にして総厚18μmの配線部材を得た。該配線部材について、実施例1と同様にして剥離強度の測定および剥離状態の観察を行った。結果を表1に示す。
【0058】
前記配線部材を用いて、実施例1と同様に2層基板を作製した。該2層基板について、実施例1と同様にして、電源層を2つに分割し、試験片を作製したが、絶縁性樹脂層がないため、ノイズ抑制層も分割され、電源層と同じ2分割された大きさ(36.5mm×160mm)となった。グランド層の大きさは74mm×160mmであった。該試験片について、電源層間抵抗を測定した。結果を表1に示す。また、該試験片について、Sパラメーター法によるS21を測定した。結果を図9に示す。
【0059】
〔比較例3〕
ノイズ抑制層を形成しない以外は、実施例1と同様にして配線部材を得た。前記配線部材を用いて、実施例1と同様にして2層基板を作製し、実施例1と同様にして試験片を作製して、Sパラメーター法によるS21を測定した。結果を図6〜8に示す。
【0060】
〔比較例4〕
ノイズ抑制層を形成しない以外は、比較例2と同様にして配線部材を得た。前記配線部材を用いて、実施例1と同様にして2層基板を作製し、実施例1と同様にして試験片を作製して、Sパラメーター法によるS21を測定した。結果を図9に示す。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の配線部材は、IC、LSI等の半導体素子や電子部品に、電源供給や信号伝送を行うプリント配線基板を構成する部材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の配線部材の一例を示す概略断面図である。
【図2】ノイズ抑制層の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像である。
【図3】図2の模式図である。
【図4】図2のノイズ抑制層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図5】本発明のプリント配線基板の一例を示す概略断面図である。
【図6】実施例1および比較例3のプリント配線板のS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図7】実施例2および比較例3のプリント配線板のS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図8】実施例3および比較例3のプリント配線板のS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図9】比較例2および比較例4のプリント配線板のS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
10 配線部材
11 銅箔
12 絶縁性樹脂層
13 ノイズ抑制層
15 接着促進層
20 プリント配線基板
22 グランド層
23 電源層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さRz が2μm以下である平滑面を有する銅箔と、
金属材料または導電性セラミックスを含む、厚さ5〜200nmのノイズ抑制層と、
前記銅箔の平滑面側と前記ノイズ抑制層との間に設けられた絶縁性樹脂層と
を有する、配線部材。
【請求項2】
前記ノイズ抑制層が、金属材料または導電性セラミックスが存在しない欠陥を有する、請求項1に記載の配線部材。
【請求項3】
前記銅箔の平滑面側と前記絶縁性樹脂層との間に接着促進層を有する、請求項1または2に記載の配線部材。
【請求項4】
前記ノイズ抑制層の、前記銅箔側とは反対側の表面に、接着促進層を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の配線部材。
【請求項5】
前記絶縁性樹脂層の厚さが、0.1〜10μmである、請求項1〜4のいずれかに記載の配線部材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の配線部材を具備する、プリント配線基板。
【請求項7】
前記銅箔が、電源層であり、
電源層とグランド層との間に、前記ノイズ抑制層が配置されている、請求項6に記載のプリント配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−10718(P2008−10718A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181179(P2006−181179)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】