説明

酸化タングステン微粒子及びその製造方法

【課題】粒子径の制御が可能であり、凝集が無く分散性に優れ、粒子形態が均一な単斜晶の酸化タングステン微粒子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】平均粒子径が1〜500nm、粒子径分布の相対標準偏差が50.0%以下、結晶構造が単斜晶であり、結晶子サイズを平均粒子径で除した値が0.40以上であることを特徴とする板状の粒子形状をもつ酸化タングステン微粒子。該酸化タングステン微粒子は、タングステン化合物を含むpH7未満の溶液又はスラリーを、200℃以上の条件下で水熱反応させることによって製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径の制御が可能であり、凝集が無く分散性に優れ、粒子形態が均一な単斜晶の酸化タングステン微粒子及びその製造方法に関する。本発明の酸化タングステン微粒子は、光触媒、エレクトロクロミック材料、アルカリ金属カチオンインターカレーション材料、正極又は負極活物質コート材料及び各種セラミック材料に好適に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
光触媒やエレクトロクロミック材料として用いられる酸化タングステンは、バインダー等で塗布して担持させるか樹脂等に分散されて使用されることが多い故に、分散性に優れた粉体であることが望まれる。また、酸化タングステンの触媒活性を十分に発揮させ、エレクトロクロミック材料として好適に使用するためには、サブミクロン以下の粒径が望まれており、小粒径且つ分散性に優れた粒子が求められている。
【0003】
酸化タングステンは、2.5eVという狭いバンドギャップを持つために太陽光の約50%を占める可視光領域で光励起する可視光応答型光触媒材料として有望であるが、バンドギャップが狭い分、紫外線応答型の光触媒であるバンドギャップが3.0〜3.2eVのTiO と比較して酸化還元力は弱くなりがちである。
【0004】
したがって、酸化タングステンを光触媒として使用する場合、光触媒活性を引き上げるために、光吸収特性、酸化還元反応速度、電子−正孔の再結合速度をコントロールする必要がある。
【0005】
具体的には、酸化還元反応速度は、光励起によって発生した電子−正孔対と反応基との接触面積を大きくすることで反応速度を大きくすることが出来る。つまり、酸化タングステンを出来るだけ比表面積の大きな微粒子として製造すればよい。また、光励起によって発生した電子−正孔対が反応基と接触する前に再結合した場合、光の照射量に対する酸化還元反応効率が落ちることは明白である。一般に、電子−正孔対の再結合は、光触媒中の格子欠陥で起こるといわれており、結晶性の高い粒子を製造することで格子欠陥を低減し、効率の良い光触媒材料とすることが出来る。すなわち、酸化タングステンを出来るだけ小粒径で且つ結晶性の高い微粒子として製造することで、高い触媒活性を実現させることが出来る。
【0006】
前述のような酸化タングステン粒子を得る既存の方法として、タングステン酸等を焼成する方法、金属タングステンもしくは酸化タングステンを高温プラズマにより処理する方法(特許文献1参照)等が知られている。酸化タングステンを光触媒用に使用する場合、その結晶構造は単斜晶系であることが望ましいが、これらの既存の方法から酸化タングステンの単体を得る場合、タングステン酸塩、もしくは高温プラズマ処理によって発生した酸化タングステン−金属タングステン混成物を300℃以上で加熱処理することが必要となる。しかし、このように固相で加熱処理した場合、加熱処理後の粒子径が大きくなるために機能性を十分に発揮させるには粉砕工程が必要となるが、粉砕にかかる応力によって結晶構造が三斜晶等に変化してしまう。
【0007】
また、酸化タングステン微粒子を液相で合成し、分散液として調製する手法も知られており、特許文献2によると、タングステン酸もしくはタングステン酸アンモニウムを過酸化水素中に溶解させて90℃以上で加熱した後、アスコルビン酸を加えてさらに加熱することで平均粒子径300nm以下の粒子となることが記載されている。この手法を用いることで安定な三酸化タングステン微粒子ゾルを調製出来る利点があるが、生成する微粒子は無定形であり、結晶性の高い微粒子を得ることは出来ない。
【0008】
特許文献3には、六塩化タングステンをアルコール中に溶解させ、溶媒を蒸発させるか加熱還流した後に溶媒を蒸発させ、その後100〜500℃で焼成することによって200nm以下の酸化タングステン粒子を得ることが記載されている。この手法を用いる事で分散性の良い粒子を低コストで製造出来る利点がある。しかし、六塩化タングステンをアルコールに溶解させ溶媒を蒸発もしくは加熱還流後に溶媒を蒸発させた段階で生成するのは酸化タングステン水和物であり、脱水のために加熱処理を必要とする。このため、加熱処理を行って酸化タングステンを結晶性良く得ようとすると、粒子径が大きくなってしまう。
【0009】
特許文献4には、層状タングステン酸を調製し、これと塩基性化合物を溶媒中で混合することで層間に含まれる水素の脱離、塩基性化合物の層間への挿入を同時に行った後、層を剥離させることで薄片状の酸化タングステン微粒子が得られることが記載されている。この方法では、塩基性化合物として4級アンモニウム塩をタングステン(W)に対して0.9〜1.5当量用いており、薄片状の酸化タングステン微粒子を製造する際には大量のアンモニアを処理する必要がある。また、この方法によって得られる粒子は薄片状であるものの、H 及びH WO 等のタングステン酸からの脱水素によって酸化タングステンを生成しているために、塩基性化合物の投入量が少ない範囲ではタングステン酸が不純物相として混入し、塩基性化合物の投入量が適正であっても、結晶構造が単斜晶で結晶性の高い粒子を得るためには200℃〜800℃での焼成工程を必要とする。しかし、加熱処理によって結晶性を高める操作を行った場合、粒子径が大きく成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許2662986号公報
【特許文献2】特開2004−131346号公報
【特許文献3】特開2008−134658号公報
【特許文献4】特開2009−051687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような事情を鑑みなされたもので、粒子径の制御が可能であり、凝集が無く分散性に優れ、粒子形態が均一な単斜晶の酸化タングステン微粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意研究した結果、タングステン源を高温で水熱反応させることによって得られる均一な板状構造を持つ酸化タングステン微粒子が、上記目的を達成するものであることを知見した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、平均粒子径が1〜500nm、粒子径分布の相対標準偏差が50.0%以下、結晶構造が単斜晶であり、結晶子サイズを平均粒子径で除した値が0.40以上であることを特徴とする板状の粒子形状をもつ酸化タングステン微粒子を提供するものである。
【0014】
また本発明は、上記板状の粒子形状をもつ酸化タングステン微粒子を得る好ましい製造方法として、タングステン化合物を含むpH7未満の溶液又はスラリーを、200℃以上の条件下で水熱反応させることを特徴とする酸化タングステン微粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の酸化タングステン微粒子は、従来の酸化タングステン微粒子の課題であった高均一化、高分散化、高結晶化、微粒子化を同時に実現しているため、例えば、光触媒、エレクトロクロミック材料、アルカリ金属カチオンインターカレーション材料、正極又は負極活物質コート材料及び各種セラミック材料として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は実施例1で得られた板状の酸化タングステン微粒子の粒子形態を示すTEM画像(倍率:60,000倍)である。
【図2】図2は比較例5で得られた酸化タングステン微粒子の粒子形態を示すTEM画像(倍率:60,000倍)である。
【図3】図3は比較例8で得られた酸化タングステン微粒子ゾル中の粒子形態を示すTEM画像(倍率:60,000倍)である。
【図4】図4は実施例1、比較例5及び比較例8で得られた酸化タングステン微粒子の分散状態を示すレーザー回折/散乱法によって得られた粒度分布である。
【図5】図5は実施例1及び比較例5で得られた酸化タングステン微粒子の結晶性の比較を行ったX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の酸化タングステン微粒子及びその製造方法について好ましい実施形態に基づき記述するが、本発明はこれらの記載に制限されるものではない。
【0018】
本発明者らは、タングステン源を200℃以上の温度で水熱反応させることによって粒子径の制御が可能であり、凝集が無く分散性に優れ、粒子形態が均一な単斜晶の板状の酸化タングステン微粒子が得られることを見出した。その理由は明らかではないが、次のように考えられる。酸化タングステン微粒子の水熱反応では、一次粒子の形成後、一次粒子表面への溶質の析出、及び一次粒子の再凝集機構によって粒子成長が生じる。このため水熱反応の温度を高温にすることで溶質の析出が促進され、結晶性に優れた粒子となる。また、このような成長機構は水熱反応の場合には反応系全体でほぼ均一に進行するため、反応後の粒子形状が均一で粒子径分布がシャープになる。その結果、得られる酸化タングステン微粒子同士の再凝集が緩和され、分散性が向上する。
【0019】
本発明の酸化タングステン微粒子は、その平均粒子径が1〜500nmであり、30〜300nmであることが好ましく、50〜200nmであることがより好ましい。該酸化タングステン微粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察に基づいて倍率が6万倍のTEM画像から、200個以上の任意の粒子の粒子径を計測し、その平均径より求める。平均粒子径が1nmよりも小さい場合、粒子の凝集力が強くなり、分散性に優れた粒子とならない。また、光触媒として使用する場合、量子サイズ効果によってバンドギャップが狭まり触媒の酸化還元力が弱くなる。また、平均粒子径が500nmを超える場合、分散性に優れるものの、粒子の充填性、コーティング時の被覆効率が悪くなり、比表面積も低下するため光触媒効率が悪い。
【0020】
また、本発明の酸化タングステン微粒子は、TEMより求められた粒子径分布の相対標準偏差が50.0%以下であり、45.0%以下であることが好ましい。このような狭い範囲の粒子径分布をとることにより、樹脂中に分散させたときの充填性、コーティング時の被覆効率、光触媒効率を向上させることができる。相対標準偏差が50.0%を超えると粒子の充填性、被覆効率、光触媒効率の低下を招くため好ましくない。
【0021】
また、本発明の酸化タングステン微粒子の結晶構造は単斜晶であり、異相の存在は望ましくない。加えて、本発明の酸化タングステン微粒子は、結晶子サイズを平均粒子径で除した値が0.40以上であり、0.50〜1.00であることが好ましい。これは、異相が存在する場合及び結晶子サイズを平均粒子径で除した値が0.40未満である場合、微粒子中に界面や格子欠陥が多く存在することになり、光励起によって発生した電子−正極対がこの界面及び格子欠陥中で再結合し、光触媒効率が悪くなるためである。
【0022】
また、本発明の酸化タングステン微粒子は、粒度分布測定によって得られるメジアン径を平均粒子径で除した値が1.5以下、好ましくは0.9〜1.4、粒度分布測定による変動係数が35.0%以下、好ましくは10.0〜30.0%となることが望ましい。メジアン径を平均粒子径で除した値が1.5を超える場合及び粒度分布測定による変動係数が35.0%を超える場合、樹脂中へ分散させた場合に微粒子の凝集が発生して微粒子のサイズから期待できる触媒効率、充填性、光学特性等の特性を満足に発現させることができないおそれがある。
【0023】
本発明の酸化タングステン微粒子は、タングステン化合物を含む溶液又はスラリーを、200℃以上、好ましくは250〜300℃で水熱反応させることで、単斜晶の微粒子として結晶性良く、しかも粒子径分布の相対標準偏差が50.0%以内に収まるように製造できる。水熱反応を200℃未満で行った場合、反応性が低下するため反応後の微粒子に原料粒子等の異相が混在しやすい。
【0024】
上記水熱反応は、0.1MPa以上、より好ましくは0.3MPa〜30MPaの圧力下で行うことが望ましい。このような圧力範囲下で水熱反応を行うことによって結晶構造が単斜晶の酸化タングステン微粒子を純度良く、しかも均一に製造することができる。圧力が0.1MPa未満で水熱反応を行った場合、反応性が低下するために反応後の微粒子に原料粒子等の異相が混在するばかりか、得られる粒子の形状及び粒子径の均一性が低下しやすい。
【0025】
上記のタングステン化合物を含む溶液又はスラリーは、タングステン化合物を水等の溶媒に溶解又は分散させて調製される。溶媒中のタングステン化合物の濃度は特に限定されるものではないが、タングステン元素換算で0.1〜0.5mol/L程度が好ましい。タングステン化合物の濃度がタングステン元素換算で0.1mol/L未満である場合、生産性の観点から好ましくなく、0.5mol/Lを超える場合、反応が不均一に進行しやすい。タングステン化合物は特に限定されないが、タングステン酸、及びその塩、酸化物、ハロゲン化物、オキシハロゲン化物、ケイ化物、リン化物が挙げられる。
上記溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の1価アルコール、グリコール等のポリオール等が挙げられる。
【0026】
水熱反応時の上記溶液又はスラリーのpHは7未満、好ましくはpH3.0〜6.5とする。pH7を超える場合、水熱反応後の酸化タングステン微粒子に三斜晶等の単斜晶以外の結晶相が混在することがある。
【0027】
水熱反応時において、触媒効率の向上を目的として、上記溶液又はスラリーに、Ti、V、Fe、Co、Ni、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ta、Pb等の塩を各元素換算でタングステン当たり0.01〜5mol%添加してもよい。添加する塩は特に限定されないが、例えば塩化物、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等が挙げられる。
【0028】
上記のようにして得られた本発明の酸化タングステン微粒子は、1〜500nmの平均粒子径を持ち、粒子径分布の相対標準偏差が50.0%以下であり、結晶子サイズを平均粒子径で除した値が0.40以上の単結晶微粒子となる。また、その結晶構造は単斜晶となり、微粒子の形状は板状となる。
【0029】
本発明の酸化タングステン微粒子は、板状且つほぼ単結晶粒子であるため、例えば本発明の酸化タングステン微粒子を光触媒として塗布する場合、塗布面に対して充填性良く配列することができる。また、結晶構造が単斜晶の単相であり、微粒子の構成がほぼ単結晶であることから、粒子内及び微粒子粉末構成中に単斜晶以外の結晶構造が存在する場合と比較して、電子と正孔の移動が滑らかになるため、電子、正孔の表面への到達確率が向上し、効率の良い触媒特性を発現する。
【0030】
また、本発明の酸化タングステン微粒子は、高温高圧条件の溶媒中における、核生成と粒子表面での溶質の析出による粒子成長によって生成するため、比較的シャープな粒度分布を持つ。そのため板状の粒子形状と相まって、粒度分布測定によって得られるメジアン径を平均粒子径で除した値が1.5以下、粒度分布測定による変動係数が35.0%以下の分散性に優れた粒子となる。
【0031】
このため、本発明の酸化タングステン微粒子を塗布あるいは樹脂中へ分散させた場合に、微粒子の再凝集が抑えられて均一な材料を得ることができ、光触媒やエレクトロクロミック材料に必要とされる透過率等の光学特性を満足することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に制限されるものではない。
【0033】
(実施例1〜7及び比較例1〜4)
[酸化タングステン微粒子の製造]
タングステン源としてタングステン酸(H WO )を用いて、表1記載のタングステン酸濃度(タングステン元素換算)のタングステン酸スラリー(溶媒:水)を700ml調製した。比較例によってはpHの調製を目的としてタングステン酸スラリーに表1記載のように水酸化ナトリウム(NaOH)あるいは炭酸水素アンモニウム(NH HCO )を添加した。スラリーのpHを表1に記載する。調製したタングステン酸スラリーをオートクレーブで撹拌しながら、表1記載の条件にて水熱反応を行った。反応終了後、室温まで冷却を行い、生成物を濾過、水洗、乾燥して目的物である酸化タングステン微粒子を得た。
【0034】
(比較例5〜7)
[酸化タングステン微粒子の固相法による製造]
タングステン源としてタングステン酸を使用し、表2記載の条件で焼成を行った。焼成は電気炉を使用し、大気中で行った。焼成終了後、電気炉を室温まで自然冷却して目的物を取り出し、メノウ乳鉢によって目的物を解砕した。
【0035】
(比較例8)
[酸化タングステン微粒子ゾルの液相法による製造]
タングステン酸100gを35%過酸化水素水466.8gに投入して2時間撹拌した後、90℃に加熱してそのまま1時間撹拌した。その後、アスコルビン酸21.1gを添加してさらに90℃で1時間撹拌して黄色のゾルを得た。
【0036】
実施例1〜7及び比較例1〜7で得られた酸化タングステン微粒子について、X線回折(定性分析、結晶子サイズ分析)、比表面積、平均粒子径、粒子形状、粒度分布(メジアン径及び変動係数)を以下の(1) 〜(4) により評価した。
【0037】
(1) X線回折(定性分析、結晶子サイズ分析)
ブルカーAXS社製X線回折装置(D8 ADVANCE/V)にて測定し、定性分析及びPawley法により単斜晶の結晶子サイズを求めた。尚、表1及び表2において、単斜晶の酸化タングステンをm−WO 、三斜晶の酸化タングステンを tri−WO 、六方晶の酸化タングステン及び酸化タングステン水和物をh−WO と表記した。
【0038】
(2) 比表面積
マウンテック社製全自動BET比表面積測定装置(Macsorb HM Model-1210) にて測定した。
【0039】
(3) 平均粒子径の測定及び粒子形状の観察
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、倍率が6万倍のTEM画像から、200個以上の任意の粒子の粒子径を計測し、その平均値より平均粒子径を求めた。粒子形状についてもTEM画像により観察した。
【0040】
(4) 粒度分布(メジアン径及び変動係数)
酸化タングステン微粒子20mgを0.2重量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液30mlに添加し、ホモジナイザにより分散させた(360〜600Wにて30〜90秒間)。その分散液を堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(LA-950)及び堀場製作所製動的光散乱式粒径分布測定装置(LB-550)にて測定し、体積基準のメジアン径及び粒子径の変動係数を求めた。
【0041】
上記評価の結果、並びに該結果から求めた相対標準偏差、結晶子サイズ/平均粒子径、及びメジアン径/平均粒子径を、表1、表2及び表3に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
実施例1〜7の結果から、原料溶液濃度によらず、200℃以上の高温での水熱反応を行うことで単斜晶単相の酸化タングステン微粒子を得ることができることが立証された。実施例1〜7で得られた酸化タングステン微粒子は板状であった。形状を示す代表的な例として実施例1で得られた酸化タングステン微粒子のTEM画像を図1に示す。
【0046】
実施例1〜7で得られた酸化タングステン微粒子は、TEM画像より求めた平均粒子径とX線回折より求めた結晶子サイズから、結晶子サイズを平均粒子径で除した値が0.40以上となっており、単結晶に近い微粒子が得られていることが確認された。これはすなわち、一粒子当たりの界面が少ないことを示しており、光励起によって生じた電子−正孔対が反応基に対して効率良く作用する状態であるといえる。
【0047】
一方、比較例1〜4の結果から、200℃未満の温度による水熱反応の場合(比較例1)では、酸化タングステンと酸化タングステン水和物が混在しており、反応が十分に進行しないことが確認できる。また、NaOHあるいはNH HCO の添加によるpH調整の結果、pH7以上の原料溶液を水熱反応させた場合(比較例2〜4)には、三斜晶等の結晶相が混在するばかりか、酸化物粒子が得られなくなる場合があることが確認できる。
【0048】
また、比較例5〜7の結果から、タングステン酸を使用した固相法による焼成反応では単斜晶の酸化タングステン単相が得られているが、X線回折より求めた結晶子サイズがTEMより求めた平均粒子径と比較して小さく、図2に示す比較例5で得られた酸化タングステン微粒子のTEM画像からわかるように、粒子形状の均一性が乏しいものであることが確認できる。
【0049】
また、比較例8で得られた酸化タングステン微粒子ゾルは黄色を呈しており、比較的安定であったが、図3に示すTEM画像からわかるように、ゾル中の粒子形状は無定形であり、300〜500nm程度の粒子径であった。
【0050】
表3に示すように、実施例1〜7で得られた酸化タングステン微粒子の動的光散乱法で求められたメジアン径は、それぞれの平均粒子径の1.5倍以下であり、非常に分散性に優れた粉体であることが確認できる。
【0051】
比較例5〜7で得られた固相法による酸化タングステン微粒子は総じて凝集傾向にあり、表3に示すようにメジアン径はすべて3μm以上となっている。また、比較例8で得られた酸化タングステン微粒子ゾル中の粒子のメジアン径をレーザー回折/散乱法によって測定した結果、図4に示すように非常に広い分布を持ち、表3に示すようにメジアン径も12.5μmと強く凝集している。
【0052】
また、図5に示すX線回折パターンから、実施例1で得られた酸化タングステン微粒子は、比較例5で得られた固相法による酸化タングステン微粒子と比較して、結晶性に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が1〜500nm、粒子径分布の相対標準偏差が50.0%以下、結晶構造が単斜晶であり、結晶子サイズを平均粒子径で除した値が0.40以上であることを特徴とする板状の粒子形状をもつ酸化タングステン微粒子。
【請求項2】
平均粒子径が50〜200nmである請求項1記載の酸化タングステン微粒子。
【請求項3】
粒度分布測定によって得られるメジアン径を平均粒子径で除した値が1.5以下、粒度分布測定による変動係数が35.0%以下となる請求項1又は2記載の酸化タングステン微粒子。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の酸化タングステン微粒子を製造する方法であって、タングステン化合物を含むpH7未満の溶液又はスラリーを、200℃以上の条件下で水熱反応させることを特徴とする酸化タングステン微粒子の製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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