説明

酸化亜鉛単結晶の製造方法、及び、酸化亜鉛単結晶

【課題】水熱合成法により酸化亜鉛単結晶を育成する際の酸素量の制御を容易に行うことができる酸化亜鉛単結晶の製造方法と、この製造方法により製造され得る酸化亜鉛単結晶を提供する。
【解決手段】酸化亜鉛単結晶の製造方法において、過塩素酸及びその塩からなる群より選択される1種以上の酸素供給剤と、1種以上の鉱化剤とを含む水溶液を充填した密閉容器24内で、水熱合成法により酸化亜鉛単結晶を育成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水熱合成法による酸化亜鉛単結晶の製造方法、及び、この製造方法により製造され得る酸化亜鉛単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化亜鉛(ZnO)単結晶は、育成炉(オートクレーブ)を用いて、水熱合成法により育成される。酸化亜鉛単結晶の水熱合成法による育成において、育成炉には、対流制御板を挟んで下側に、育成用原料(酸化亜鉛の多結晶)を収容し、上側に種結晶(酸化亜鉛単結晶の小片)を収容する。さらに、育成炉内には、育成用溶液(アルカリ溶液)を充填する。そして、育成炉の内部を密閉し、加熱及び加圧する。この際、育成炉の上側よりも下側が高温となるように加熱し、育成用溶液を育成炉内で自然対流させる。このような自然対流により、育成炉内の下部で育成用原料が溶解した育成用溶液が、育成炉内の上部に達して冷却され、過飽和状態となり、育成用原料が種結晶上に析出成長する。この動作を所定期間連続して行うことにより、所定の大きさの酸化亜鉛単結晶が得られる。
【0003】
例えば、特許文献1には、水酸化カリウム(KOH)及び水酸化ナトリウム(NaOH)等の鉱化剤と、過酸化水素(H22)とを含む水溶液を育成用溶液として用い、水熱合成法により酸化亜鉛単結晶を育成する酸化亜鉛単結晶の製造方法が開示されている。
【0004】
この特許文献1に開示の酸化亜鉛単結晶の製造方法において、育成用溶液中に含まれる過酸化水素は分解により酸素を生成する。この過酸化水素から生じた酸素を取り込みながら、上記した育成用原料が種結晶上に析出成長することで、最終的に得られる酸化亜鉛単結晶の酸素欠損が抑制され、その品質が確保される。つまり、育成用溶液中に含まれる過酸化水素が、育成時の酸素供給源となることで、育成された酸化亜鉛単結晶の品質が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−70423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、過酸化水素は、室温(25℃)にて分解して酸素を生成する化合物である。よって、過酸化水素を含有した育成用溶液を用いた場合には、その育成用溶液を育成炉の内部に充填後、育成炉の内部を密閉するまでの間に、過酸化水素の分解が進行し、この分解により生じた酸素が育成炉の外へ放出される。
【0007】
このため、育成用溶液中の過酸化水素を育成時の酸素供給源とする場合には、種結晶上に育成用原料が析出成長する時(即ち、酸化亜鉛単結晶の育成時)に十分な量の酸素が供給されるように、具体的には、密閉された育成炉の内部に十分な量の酸素が確保されるように、密閉前に育成炉の外へ放出され得る酸素量を考慮して、育成用溶液中における過酸化水素の含有量を規定する必要がある。
【0008】
しかしながら、密閉前に育成炉の外へ放出され得る酸素量は、育成炉の内部に育成用溶液を充填してから育成炉の内部を密閉するまでに要した時間、育成用溶液の調製時の環境、及び密閉処理時の環境等の様々な状況に応じて異なるため予測することが難しく、規定量の過酸化水素を育成用溶液に含有させても、予測以上に過酸化水素の分解が進行して酸素が育成炉の外へ放出されてしまい、意図した品質の酸化亜鉛単結晶が得られないことがある。つまり、育成用溶液中に含有させた過酸化水素を育成時の酸素供給源として用いる場合には、育成炉の密閉前に放出される酸素量を正確に予測する必要があり、育成時における酸素量を制御することが困難であった。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、水熱合成法により酸化亜鉛単結晶を育成する際の酸素量の制御を容易に行うことができる酸化亜鉛単結晶の製造方法と、この製造方法により製造され得る酸化亜鉛単結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法は、過塩素酸及びその塩からなる群より選択される1種以上の酸素供給剤と、1種以上の鉱化剤とを含む水溶液を充填した密閉容器内で、水熱合成法により酸化亜鉛単結晶を育成することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法では、酸化亜鉛単結晶の育成時の酸素供給源として、過塩素酸及びその塩からなる群より選択される1種以上の酸素供給剤を使用している。過塩素酸及びその塩は、水熱合成法による酸化亜鉛単結晶の育成時に密閉容器の内部に与えられる温度及び圧力下で分解して酸素を生成する一方、室温(1気圧、25℃)下では、分解せず、酸素を生成しない。このため、育成時において十分な量の酸素が密閉容器内に確保されるように育成用溶液中における酸素供給剤の含有量を規定する際には、密閉容器の密閉後に酸素供給剤の分解により発生する酸素量のみを予測して育成用溶液中における酸素供給剤の含有量を規定すればよく、密閉容器を密閉する前に発生する酸素量を考慮する必要がない。よって、本発明に係る製造方法によれば、酸化亜鉛単結晶の育成時の酸素量の制御が容易となる。
【0012】
また、本発明に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法では、前記酸素供給剤として、過塩素酸、及び、大気圧下100〜500℃の温度で分解して酸素を生成する過塩素酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物を使用してもよい。例えば、前記酸素供給剤として、過塩素酸カリウムを使用してもよい。
【0013】
この方法では、水熱合成法により酸化亜鉛単結晶を育成するために密閉容器を加熱及び加圧した時に、酸素供給剤が十分に分解して、密閉容器内に十分な酸素が供給されるため、酸素欠損の少ない高品質の酸化亜鉛単結晶がより確実に得られる。
【0014】
また、本発明に係る酸化亜鉛単結晶は、上記した本発明に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法により製造され得る酸化亜鉛単結晶であって、+C面の(0002)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅が20arcsec以下であることを特徴とする。
【0015】
このような本発明に係る酸化亜鉛単結晶は、+C面の(0002)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅が20arcsec以下であり、育成時の酸素供給源として過酸化水素を使用した従来の酸化亜鉛単結晶の製造方法により製造された酸化亜鉛単結晶と比べて、高い品質を有する。また、本発明に係る酸化亜鉛単結晶において、当該酸化亜鉛単結晶中には、塩素が含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、酸化亜鉛単結晶の製造において、水熱合成法により酸化亜鉛単結晶を育成する際の酸素量の制御を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本実施の形態に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法で用いる単結晶育成炉の内部構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法では、図1に示す単結晶育成炉(以下、単に育成炉1と呼ぶ)の育成容器24(本発明でいう密閉容器)に、種結晶6としての酸化亜鉛単結晶と、育成用原料5と、育成用溶液とを収容し、内部空間を密閉した育成容器24内にて、水熱合成法により、酸化亜鉛単結晶の育成を行う。このような本実施の形態に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法について、以下に詳述する。
【0019】
−育成炉1の構成−
本実施の形態に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法において、酸化亜鉛単結晶の育成を行うための育成炉1は、図1に示すように、炉本体2の外周囲に、炉本体2を加熱及び加圧する電気炉3が配設された構成とされている。
【0020】
炉本体2は、上部が開放された有底円筒状であり、上端開口部21には、炉本体2の内部を密閉するための蓋体22が装着されている。この蓋体22には、炉本体2の内部圧力を計測するための圧力計22aが取り付けられている。更に、炉本体2の内部には、育成容器24が収められる。
【0021】
育成容器24は、上部が開放された有底円筒状の容器本体241と、蓋体242とから構成されている。これら容器本体241及び蓋体242は、白金からなる。
【0022】
また、容器本体241の内部空間4の上下方向中間位置には対流制御板23が配設されている。この対流制御板23によって、容器本体241の内部空間4は、下側の原料室41と上側の育成室42とに仕切られている。
【0023】
上記原料室41は、育成用原料5を収容する空間とされている。また、育成室42は、単結晶育成棚61に支持された複数枚の種結晶6を収容する空間とされている。
【0024】
このような容器本体241の内部空間4は、育成用溶液が充填され、原料室41に育成用原料5が収容され、育成室42に種結晶6が収容された状態で、容器本体241の上端開口に蓋体242が溶接により接着されることにより密閉される。なお、本実施の形態において、容器本体241の内部空間4は、前述の通り、容器本体241に蓋体242を溶接することにより密閉されるが、容器本体241の内部空間241は、容器本体241と蓋体242とを、パッキン又はガスケット等のシール材を介して接合することにより密閉されてもよい。
【0025】
また、炉本体2と育成容器241との間の空間25には、育成用溶液の膨張によって、育成容器24が破裂することを防ぐ目的で、純水が充填される。
【0026】
−育成用原料5−
また、本実施の形態に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法において、育成用原料5には、酸化亜鉛の焼結体(多結晶)を使用する。酸化亜鉛の焼結体としては、粒径1〜10μmの酸化亜鉛粉末を加圧プレス機によって成型し、1000〜1300℃の酸素雰囲気あるいは大気雰囲気で焼成した焼結体を使用する。
【0027】
−種結晶6−
また、本実施の形態に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法において、種結晶6には、板状の酸化亜鉛単結晶を使用する。
【0028】
−育成用溶液−
また、本実施の形態に係る酸化亜鉛単結晶の製造方法において、育成用溶液には、1種以上の酸素供給剤と、1種以上の鉱化剤とを含む水溶液を使用する。
【0029】
酸素供給剤には、過塩素酸及びその塩からなる群より選択される化合物を使用する。過塩素酸及びその塩の具体例としては、過塩素酸(HClO4)、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、過塩素酸カリウム(KClO4)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、及び過塩素酸アンモニウム(NH4ClO4)等を挙げることができる。これら過塩素酸及びその塩の中でも、室温下(25℃)で分解せず、また、酸化亜鉛単結晶を育成するために炉本体2の内部を加圧及び加熱する時に十分に分解して、育成容器24の内部に十分な酸素を供給することができる化合物が、酸素供給剤としての使用に適している。具体的には、大気圧下、100〜500℃、より好ましくは300〜450℃の温度で分解して酸素を生成する化合物が、酸素供給剤としての使用に適している。特に、過塩素酸カリウムは、育成時の温度及び圧力下で十分に分解して酸素を生成すること、及び、過塩素酸カリウムを構成する元素(具体的には、カリウム)が結晶中に含有されることによりもたらされる育成された酸化亜鉛単結晶の特性への影響が少ないことから、酸素供給剤としての使用に特に適している。なお、酸素供給剤は、過塩素酸及びその塩からなる群より選択される1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0030】
また、育成用溶液における酸素供給剤の総濃度は、育成時において、酸化亜鉛単結晶に十分な量の酸素を供給することができる量であれば、特に限定されないが、育成用溶液中の酸素供給剤の総濃度を、発生する酸素換算で0.01〜0.5mol/kg、より好ましくは0.05〜0.25mol/kgとすると、酸素欠損の少ない高品質の酸化亜鉛単結晶を製造することができる。例えば、酸素供給剤として、過塩素酸カリウムのみを使用した場合、育成用溶液中の過塩素酸カリウムの濃度を0.025〜0.25mol/kg(発生する酸素換算で0.05〜0.5mol/kg)とすると、酸素欠損の少ない高品質の酸化亜鉛単結晶を得ることができる。なお、本明細書において、上記した育成用溶液(水溶液)における溶質(即ち、鉱化剤及び酸素供給剤等の水に溶けている物質)の濃度単位「mol/kg」は、溶媒(即ち、水)1kg当たりの溶質の物質量(mol)を表す単位である。
【0031】
また、鉱化剤としては、酸化亜鉛単結晶の育成に使用される公知の鉱化剤を使用することができ、具体例としては、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、及び炭酸カリウム(K2CO3)等を使用することができる。これら鉱化剤は、1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
また、育成用溶液における鉱化剤の総濃度は、酸化亜鉛単結晶の成長を好適に促進することができる量であれば、特に限定されない。例えば、鉱化剤として、水酸化カリウムと水酸化リチウムとを併用した場合、水酸化カリウムの濃度を2〜4mol/kgとし、水酸化リチウムの濃度を0.5〜1.5mol/kgとすると、酸化亜鉛単結晶の成長を好適に促進することができ、高品質の酸化亜鉛単結晶を得ることができる。
【0033】
また、育成用溶液には、本発明の効果を損なわない範囲内で、上記した酸素供給剤及び鉱化剤以外の成分が含まれていてもよい。例えば、育成用溶液には、硫酸、又は塩酸等が含まれていてもよい。
【0034】
また、育成用溶液には、過酸化水素のような室温にて酸素を生成する成分が含まれないことが好ましく、このような室温にて酸素を生成する成分を含まない育成用溶液を用いると、炉本体2が加圧及び加熱される前における酸素の発生を抑制することができ、酸素の発生による育成容器24の内圧の上昇を抑えることができる。このため、炉本体2が加圧及び加熱される前の内圧上昇による育成容器24の劣化を抑えることができる。
【0035】
−単結晶の製造方法−
次に、本実施の形態に係る製造方法において、上記した育成用原料5、種結晶6、及び育成用溶液を用い、育成炉1(図1参照)により酸化亜鉛単結晶を育成する方法について、以下に説明する。
【0036】
容器本体241の原料室41に上記した育成用原料5を収容し、育成室42に、単結晶育成棚61に支持された複数枚の種結晶6を収容する。さらに、容器本体241に育成用溶液を充填する。具体例としては、容器本体241の内部空間4の体積の80%を育成用溶液が占めるように、容器本体241に育成用溶液を充填する。
【0037】
そして、TIG溶接(Tungsten Inert Gas welding)法により、容器本体241の上端開口に蓋体242を溶接し、育成容器24の内部空間4を密閉する。なお、本実施の形態では、容器本体241の上端開口に蓋体242を溶接する溶接法として、上記の通り、TIG溶接法を適用しているが、TIG溶接法以外の方法、例えば、酸素・水素溶接により、容器本体241の上端開口に蓋体242を溶接してもよい。
【0038】
育成容器24の内部空間4を密閉後、炉本体2の内部に、育成容器24を収め、さらに、純水を充填する。具体例としては、炉本体2と育成容器24の間の空間25の体積の約80%を純水が占めるように、炉本体2の内部に純水を充填する。その後、炉本体2の上端開口部21に蓋体22を装着し、炉本体2の内部を密閉する。
【0039】
そして、電気炉3によって、炉本体2を加熱及び加圧する。この際、原料室41の温度が育成室42よりも高温となるように、炉本体2を加熱及び加圧する。具体例としては、育成容器24の内部空間4の圧力が70〜98MPaで、原料室41の温度(溶解域温度)が350〜400℃で、育成室42の温度(成長域温度)が320〜370℃となるように、炉本体2を加熱及び加圧し、この原料室41と育成室42の温度差により、高温高圧下で、原料室41と育成室42との間に育成用溶液を自然対流させる。
【0040】
このような自然対流により、育成用原料5が溶解した育成用溶液が、原料室41から育成室42に移動し、そして、育成室42において冷却されて、過飽和状態となる。これにより、育成用原料5が種結晶6上に析出成長する。この際、育成用溶液に含まれる酸素供給剤の分解により発生した酸素が酸化亜鉛単結晶中に取り込まれる。この動作を所定期間連続して行うことにより、所定の大きさの酸化亜鉛単結晶が得られる。
【0041】
このような本実施の形態に係る製造方法では、過塩素酸及びその塩からなる群より選択される1種以上の酸素供給剤を育成時の酸素供給源として使用しているため、育成容器24の内部空間4が密閉され、育成容器24が加圧及び加熱された時に、育成用溶液中の酸素供給剤が分解して、内部空間4が密閉された育成容器24内に酸素が供給される一方、室温下では、育成用溶液中の酸素供給剤が分解して、酸素が発生することがない。このため、容器本体241に蓋体242を溶接して育成容器24の内部空間を密閉する前に、酸素供給剤が分解して、育成容器24の外へ酸素が放出されてしまうことがない。よって、育成時において十分な量の酸素が育成容器24内に確保されるように育成用溶液中における酸素供給剤の含有量を規定する際には、育成容器24の内部空間4の密閉後に酸素供給剤の分解により発生する酸素量のみを予測して育成用溶液中における酸素供給剤の含有量を規定すればよく、育成容器24の内部空間を密閉する前に酸素供給剤の分解により発生する酸素量を考慮する必要がない。このため、酸化亜鉛単結晶の育成時における酸素量の制御が容易である。
【0042】
ところで、本実施の形態に係る製造方法では、上記した通り、TIG溶接法により、容器本体241の上端開口に蓋体242を溶接し、育成容器24の内部空間4を密閉する。TIG溶接法による溶接では、電極の酸化を防ぐために、溶接部にアルゴン等の不活性ガスを吹き付けて、溶接部を不活性ガスでシールドするが、溶接部付近に過剰の酸素が存在すると、溶接部を不活性ガスで十分にシールドすることができない。このため、TIG溶接法を用いて、容器本体241の上端開口に蓋体242を溶接する場合には、その溶接部における酸素量の抑制が必要となる。上記した通り、過酸化水素は、室温下で分解して酸素を生成し、TIG溶接の環境下(例えば、1気圧、50〜60℃の環境下)でも、分解して、酸素を生成する。このため、過酸化水素を酸素供給源として用いて酸化亜鉛単結晶を育成する従来の製造方法において、TIG溶接により、容器本体241の上端開口に蓋体242を溶接し、育成容器24の内部空間4を密閉する場合には、育成用溶液中に、溶接時の酸素発生要因となる過酸化水素を多量に含有させることができず、育成用溶液中に含有させることができる過酸化水素の量が制限される。これに対して、本実施の形態に係る製造方法では、室温下のみならず、TIG溶接の環境下でも分解しない酸素供給剤、即ち、過塩素酸及びその塩からなる群より選択される酸素供給剤を酸素供給源として用いているため、TIG溶接法により、容器本体241の上端開口に蓋体242を溶接する際に、酸素供給剤が分解して、酸素が発生することがない。このため、本実施の形態に係る製造方法では、育成用溶液中に含有させることができる酸素供給剤の量が制限されることがない。
【0043】
次に、上記した製造方法により製造され得る酸化亜鉛単結晶の特性を、実施例及び比較例を挙げて以下に説明する。
【0044】
[実施例1]
上記した製造方法において、過塩素酸カリウムと、水酸化カリウムと、水酸化リチウムとを溶解した水溶液を育成用溶液として用い、実施例1に係る酸化亜鉛単結晶を製造した。この実施例1に係る酸化亜鉛単結晶の製造に用いた育成用溶液において、過塩素酸カリウムの濃度は0.12mol/kg(発生する酸素換算で0.24mol/kg)であり、水酸化カリウムの濃度は3mol/kgであり、水酸化リチウムの濃度は1mol/kgである。また、実施例1に係る酸化亜鉛単結晶の製造においては、成長域温度340℃、溶解域温度370℃、及び圧力85MPaの条件下で、酸化亜鉛単結晶の育成を行った。
【0045】
[比較例1]
過酸化水素と、水酸化カリウムと、水酸化リチウムとを溶解した水溶液を育成用溶液として用いた以外は、実施例1に係る酸化亜鉛単結晶の製造と同一の方法を適用し、比較例1に係る酸化亜鉛単結晶を製造した。この比較例1に係る酸化亜鉛単結晶の製造に用いた育成用溶液において、過酸化水素の濃度は0.16mol/kg(発生する酸素換算で0.08mol/kg)であり、水酸化カリウムの濃度は3mol/kgであり、水酸化リチウムの濃度は1mol/kgである。なお、過酸化水素を含む育成用溶液を使用する場合、過酸化水素の濃度が0.16mol/kg(発生する酸素換算で0.08mol/kg)を超えると、過酸化水素の分解により発生する酸素の影響により、TIG溶接法による容器本体241の上端開口と蓋体242との溶接を実施することができない。このため、本比較例1では、育成用溶液における過酸化水素の濃度を、0.16mol/kgとしている。
【0046】
上記した実施例1及び比較例1に係る酸化亜鉛単結晶を、それぞれ、25個ずつ製造した。そして、これら各酸化亜鉛単結晶の+C面の(0002)面におけるX線ロッキングカーブを測定し、その半値幅(FWHM)を求めた。その結果を以下表1に示す。なお、測定装置には、ブルカー・エイエックスエス株式会社製のX線回析装置D8Discoverを使用し、光学系として4結晶モノクロメータGe(440)を用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
なお、表1には、実施例1及び比較例1に係る各酸化亜鉛単結晶の半値幅(FWHM)を記載している。表1中の実施例1のNo.1〜25で示される酸化亜鉛単結晶は全て、同一の条件下で製造されたものである。同様に、表1中の比較例1のNo.1〜25で示される酸化亜鉛単結晶は全て、同一の条件下で製造されたものである。また、表1には、実施例1及び比較例1に係る各酸化亜鉛単結晶の半値幅(FWHM)の最大値、最小値、及び平均値を示す。
【0049】
上記表1に示す結果より、実施例1に係る酸化亜鉛単結晶の+C面の(0002)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅は20arcsec以下、具体的には、15.6arcsec〜20.0arcsecであり、比較例1に係る酸化亜鉛単結晶の(0002)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅よりも小さいことが認められた。また、実施例1に係る25個の酸化亜鉛単結晶のうち、17個の酸化亜鉛単結晶において、+C面の(0002)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅が18arcsec以下であることが認められ、これら17個の酸化亜鉛単結晶は、比較例1に係る酸化亜鉛単結晶と比べて、極めて高い結晶性を有することが認められた。このように、過塩素酸カリウムを含む育成用溶液を用いて育成された実施例1に係る酸化亜鉛単結晶は、過塩素酸カリウムの代わりに過酸化水素を含む育成用溶液を用いて育成された比較例1に係る酸化亜鉛単結晶よりも結晶性が良いことが認められた。
【0050】
また、実施例1及び比較例1に係る酸化亜鉛単結晶について、Thermo Fisher scientific社製のModel VG9000を使用して、GDMS(グロー放電質量分析)法による質量分析を実施したところ、実施例1に係る酸化亜鉛単結晶において、微量の塩素、具体的には、1.8ppm(wt)程度の塩素の含有が認められた。このように、実施例1に係る酸化亜鉛単結晶中には塩素が含まれているが、塩素はイオン半径が大きく、酸化亜鉛単結晶中に取り込まれない場合もあり、本実施の形態に係る製造方法を用いても、塩素を含まない酸化亜鉛単結晶が得られる場合もある。
【0051】
また、上記した実施例1及び比較例1に係る酸化亜鉛単結晶の製造後、製造に使用した育成容器24の損傷具合を確認したところ、実施例1の酸化亜鉛単結晶の製造に用いた育成容器24の方が、比較例1に係る酸化亜鉛単結晶の製造に用いた育成容器24よりも損傷が少ないことが認められた。これは、実施例1に係る酸化亜鉛単結晶の製造では、育成用溶液に過酸化水素といった室温にて酸素を生じる成分が含まれず、炉本体2を加圧及び加熱する前における育成容器24の内圧の上昇が抑制されたことに因るものと考えられる。さらに、実施例1及び比較例1の製造に用いた白金製の育成容器24(容器本体241及び蓋体242)において、育成用溶液に起因する育成容器24の溶解は確認されなかった。
【0052】
なお、上記した実施の形態に係る製造方法では、育成用原料5として、酸化亜鉛の焼結体(多結晶)を使用するが、育成用原料5には、焼結体に代えて、酸化亜鉛単結晶を使用してもよい。具体例としては、他の製造において酸化亜鉛単結晶を育成した時に、種結晶6上以外の箇所(例えば、育成容器24の壁面、又は、種結晶6を支持するための単結晶育成棚61等)に核を形成して成長した酸化亜鉛単結晶(即ち、雑晶)を育成用原料5として使用してもよい。或いは、他の製造において得られた酸化亜鉛単結晶を切断加工した際に生じた酸化亜鉛単結晶の小片を育成用原料5として使用してもよい。或いは、クラックの発生等により不良品として処理される酸化亜鉛単結晶を育成用原料5として使用してもよい。このように、育成用原料5として酸化亜鉛単結晶を使用すると、育成時における雑晶の発生を抑制することができ、これにより、酸化亜鉛単結晶の成長速度を速めることができる。また、他の製造において発生した雑晶、切断加工時に生じる酸化亜鉛単結晶の小片、及び、不良品として処理される酸化亜鉛単結晶等、従来、廃棄物として処理されていた酸化亜鉛単結晶を育成用原料5として有効利用することで、酸化亜鉛単結晶の製造におけるコストを削減することができる。
【0053】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0054】
1 育成炉
2 炉本体
21 上端開口
22 蓋体
22a 圧力計
23 対流制御板
24 育成容器
241 容器本体
242 蓋体
25 炉本体と育成容器との間の空間
3 電気炉
4 内部空間
41 原料室
42 育成室
5 育成用原料
6 種結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化亜鉛単結晶の製造方法であって、
過塩素酸及びその塩からなる群より選択される1種以上の酸素供給剤と、1種以上の鉱化剤とを含む水溶液を充填した密閉容器内で、水熱合成法により酸化亜鉛単結晶を育成する
ことを特徴とする酸化亜鉛単結晶の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化亜鉛単結晶の製造方法であって、
前記酸素供給剤として、過塩素酸、及び、大気圧下100〜500℃の温度で分解して酸素を生成する過塩素酸塩からなる群より選択される1種以上の化合物を使用する
ことを特徴とする酸化亜鉛単結晶の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化亜鉛単結晶の製造方法であって、
前記酸素供給剤として、過塩素酸カリウムを使用することを特徴とする酸化亜鉛単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の酸化亜鉛単結晶の製造方法により製造され得る酸化亜鉛単結晶であって、
+C面の(0002)面におけるX線ロッキングカーブの半値幅が20arcsec以下であることを特徴とする酸化亜鉛単結晶。
【請求項5】
請求項4に記載の酸化亜鉛単結晶であって、
当該酸化亜鉛単結晶中に塩素を含むことを特徴とする酸化亜鉛単結晶。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14485(P2013−14485A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149965(P2011−149965)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)
【Fターム(参考)】