説明

酸化物焼結体、それから成るターゲットおよび透明導電膜

【課題】安定放電可能な酸化物焼結体ターゲット、および低抵抗かつ可視光域から近赤外域の広範囲で高い透過率を有する透明導電膜を提供する。
【解決手段】亜鉛、元素L(Lはアルミニウムおよび/またはガリウム)、スカンジウム並びに酸素から成る複合酸化物焼結体であって、原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
である酸化物焼結体から成るスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法により成膜し、原子比が
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
である透明導電膜を得て、それを受光素子に使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛を主とした複合酸化物焼結体、それからなるスパッタリングターゲットおよび酸化物透明導電膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
可視光に対して高い透過性と電気伝導性を有する薄膜は透明導電膜と言われ、フラットパネルディスプレイ、タッチパネル等の表示素子、太陽電池等の受光素子の電極として広く使われている。透明導電膜の材料としては、金属酸化物薄膜が代表的であり、高透過率でかつ低抵抗なことから酸化スズを添加した酸化インジウム(ITO)が主流となっている。しかし、ITOは、主原料であるインジウムが希少金属で高価であるということから安定供給とコストの観点から懸念がある。このようなことから、主原料が安価でかつITOに匹敵する透明性と抵抗を有しているアルミニウムやガリウムを添加した酸化亜鉛系の透明導電膜が注目されている。
【0003】
これら透明導電膜の作製方法としては、スパッタリング法、PLD(Pulse Laser Deposition)法、イオンプレーティング法、蒸着法などが知られているが、大面積化が容易でかつ高性能の膜が得られるスパッタリング法が広く使われている。スパッタリング法は、真空チャンバー内に不活性ガスなどを導入し、放電によりターゲット付近にプラズマを発生させ、このプラズマ中のイオンをターゲットに衝突させることにより、ターゲット材の粒子を基板等に付着させて成膜する。酸化物ターゲットを用いた場合のスパッタリング法の問題点としては、放電安定性があり、放電中の異常放電による製品歩留まりの低下やパーティクルの発生があげられる。
【0004】
アルミニウム、ガリウム、ホウ素などを添加した酸化亜鉛ターゲットの放電安定性の改善法として、例えば特許文献1では、酸化物焼結体を作製する際に、初めに添加元素の酸化物粉末を第1の酸化亜鉛粉末に混合させ、900〜1300℃にて仮焼し仮焼粉末を作製する。この仮焼粉末を更に第2の酸化亜鉛粉末と混合させ焼成することにより、大きな析出物や空孔の少ない焼結体を得ることで異常放電の少ないターゲットを作製する技術を開示した。しかし、この方法では製造工程が複雑なため、コスト面、生産性に問題があった。
【0005】
また、特許文献2では、酸化亜鉛にイオン半径を規定した元素Aと元素Mを特定の組成比率で存在させることで、スピネル型構造等の高抵抗な第2相の生成を抑制させ、異常放電の少ないターゲットを作製する技術を開示した。その実施例には、アルミニウムおよび/またはガリウムとスカンジウムとの組み合わせはなく、元素AとしてIn、Ti、ZrおよびSn、元素MとしてAl、NbおよびGaの組み合わせが例示されている。この組成の組み合わせでは、可視光域(400〜800nm)から近赤外域(波長:800〜1200nm)までの広範囲な波長において十分に高い透過率が得られない課題があった。
【0006】
デバイス面では、酸化亜鉛系透明導電膜の優れた透過性を利用した受光素子への適用が広まっている。その中で太陽電池用透明電極においては、近赤外域(波長:800〜1200nm)に感度を持つ太陽電池に対応すべく、近赤外域の透過率を向上させた透明導電膜の開発がされている。例えば特許文献3では、酸化亜鉛にアルミニウムと硼素を同時に添加することで、アルミニウム添加酸化亜鉛と比較して赤外域の透過率が向上した透明導電膜を作製する技術を開示した。その実施例には、アルミニウムおよび/またはガリウムとスカンジウムとの組み合わせはなく、アルミニウムとホウ素の組み合わせが例示されている。この透明導電膜は、アルミニウム添加酸化亜鉛と比較して可視光域(400〜800nm)の透過率が低下する問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−63214号公報
【特許文献2】特開2010−120803号公報
【特許文献3】特開平6−293956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上説明した様に、酸化亜鉛系透明導電膜は受光素子に広く利用されており、特に太陽電池用電極として好適である。近年のデバイスの大型化や生産性向上のため、より安定放電可能な酸化物焼結体ターゲットが必要とされている。また、太陽電池の特性としてより高い変換効率を得るために、近赤外域の波長を利用できる構造のものが開発されており、この太陽電池に対応すべく低抵抗かつ可視光域から近赤外域の広範囲で高い透過率を有する透明導電膜が必要とされている。本発明は、上記課題を克服することを目的とした酸化亜鉛系焼結体および透明導電膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、酸化亜鉛系透明導電膜について検討を重ねた結果、特定の組成にすることで安定放電する焼結体およびターゲットを作製し、これらを用いて低抵抗で可視光域から近赤外領域の広範囲の波長で透過率の高い透明導電膜を作製可能なことを見出した。
【0010】
即ち本発明は、以下のとおりである。
(1)亜鉛、元素L(Lはアルミニウムおよび/またはガリウム)、スカンジウム並びに酸素から成る複合酸化物焼結体であって、原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
であることを特徴とする酸化物焼結体。
(2)原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
である、(1)に記載の酸化物焼結体。
(3)原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
である、(1)または(2)に記載の酸化物焼結体。
(4)Cuを線源とするX線回折パターン(XRD)の2Θ=30〜40°の範囲内に検出される回折ピークが六方晶系ウルツ型構造に帰属される(100)面、(002)面、(101)面のみが検出される、(1)〜(3)いずれかに記載の酸化物焼結体。
(5)酸化亜鉛を主とした母相の平均粒径が20μm以下である、(1)〜(4)いずれかに記載の酸化物焼結体。
(6)上述の(1)〜(5)いずれかに記載の酸化物焼結体から成ることを特徴とする、スパッタリングターゲット。
(7)亜鉛、元素L(Lはアルミニウムおよび/またはガリウム)、スカンジウム並びに酸素から成る酸化物薄膜であって、原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
であることを特徴とする透明導電膜。
(8)原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.035
である、(7)に記載の透明導電膜。
(9)原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
である、(7)または(8)に記載の透明導電膜。
(10)Cuを線源とするX線回折パターン(XRD)の2Θ=30〜40°の範囲内に検出される酸化亜鉛六方晶ウルツ鉱型構造の(100)面、(002)面、(101)面の回折ピーク積分強度をそれぞれI(100)、I(002)、I(101)としたときに、
(002)/(I(002)+I(100)+I(101))>0.95
である、(7)〜(9)いずれかに記載の透明導電膜。
(11)上述の(6)に記載のスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法により成膜することを特徴とする、透明導電膜の製造方法。
(12)上述の(11)に記載の方法によって得られることを特徴とする透明導電膜。
(13)上述の(7),(8),(9),(10)または(12)に記載の透明導電膜を使用した受光素子。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(焼結体)
本発明の酸化亜鉛系焼結体は、亜鉛、元素L(Lはアルミニウムおよび/またはガリウム)、スカンジウム並びに酸素から成る複合酸化物焼結体であって、原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
である。より好ましくは、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
である。更に好ましくは、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
である。
【0013】
本発明においては、不可避的な微量の不純物の混入は問わない。この組成にすることで透明導電膜薄膜を作製した際に抵抗が低く、かつ透過率が高い膜が得られる。
【0014】
本発明において、Lはアルミニウムおよび/またはガリウムであるが、アルミニウムが好ましい。
【0015】
本発明の酸化亜鉛系焼結体は、Cuを線源とするX線回折パターン(XRD)の2Θ=30〜40°の範囲内に検出される回折ピークが六方晶系ウルツ型構造に帰属される(100)面、(002)面、(101)面のみが検出される焼結体であることが好ましい。一般的に、酸化亜鉛に添加元素を加えると、添加元素の一部が固溶した酸化亜鉛を主とした六方晶系の母相と、添加元素と酸化亜鉛が反応した生成物であるスピネル型構造等の高抵抗な相とが生成される。本発明は、この高抵抗な相の生成を抑制することで、スパッタリング中の放電安定性が高く、異常放電の少ない酸化亜鉛系焼結体となる。X線回折パターン指数付けは、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のPDF(Powder Diffraction File)#98−000−0111(RDB)の酸化亜鉛のピークパターンで指数付けしたものである。
【0016】
本発明の酸化亜鉛系焼結体は、母相が酸化亜鉛を主としており、その平均粒径が20μm以下であることが好ましい。20μm以下とすることで、加工時のクラックを抑制し、またスパッタリング中のターゲットの破損を抑制することが出来る。下限は0.001μmである。0.001μm未満の酸化亜鉛焼結体を得る為には、0.001μm未満の原料粉末を用いることとなり、その場合、成形が困難であり生産性が著しく低下するからである。
【0017】
なお本発明において結晶構造や粒径の測定は、本発明の酸化亜鉛系焼結体を適当な大きさに切断し、表面研磨を施した後、希酢酸溶液でケミカルエッチングを実施する。ケミカルエッチングをすることで粒界が観察しやすくなる。この試料をX線マイクロアナライザー(EPMA)、走査電子顕微鏡(SEM)、または透過型電子顕微鏡(TEM)等にて表面観察写真を撮るとともに、XRD、エネルギー分散型X線分析(EDS)などにて組成や構造を分析する。酸化亜鉛を主とした母相平均粒径は、この写真の粒子の長径を20個以上測定し、その平均値によるものである。
【0018】
(焼結体の製造方法)
次に本発明の酸化亜鉛系焼結体の製造方法について説明する。
【0019】
(粉末混合)
原料粉末は特に限定されるものではなく、例えば取り扱いがしやすい金属酸化物粉末を使うことが出来る。原料粉末の金属酸化物粉末の粒径は、微細である方が混合状態の均質性、焼結性に優れるため、通常は1次粒子径として10μm以下の粉末が好ましく用いられ、特に1μm以下の粉末が好ましく用いられる。酸化亜鉛粉末以外の粉末は酸化亜鉛粉末の1次粒子径よりも小さい1次粒子径の金属酸化物粉末を用いることがより好ましい。酸化亜鉛以外の金属酸化物粉末の1次粒子径の方が大きい若しくは同一であると、混合状態の均質性が劣るためである。
【0020】
また、酸化亜鉛粉末と亜鉛以外の金属酸化物粉末の平均粒径は、酸化亜鉛の平均粒径が酸化亜鉛以外の金属酸化物粉末の平均粒径よりも大きいことが好ましい。亜鉛以外の金属酸化物粉末の平均粒径を酸化亜鉛粉末の平均粒径よりも小さくすることにより、混合の均質性が高まり、本発明の複合酸化物焼結体の微細構造を好適に得ることができる。これらの各粉末の混合は、特に限定されるものではないが、ジルコニア、アルミナ、ナイロン樹脂等のボールやビーズを用いた乾式、湿式のメディア撹拌型ミルやメディアレスの容器回転式混合、機械撹拌式混合等の混合方法が例示される。具体的には、ボールミル、ビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル、V型混合機、パドル式混合機、二軸遊星撹拌式混合機等が挙げられる。
【0021】
また、粉末の混合と同時に粉砕が行われるが、粉砕後の粉末粒径は微細であるほど好ましく、特に湿式法で行うことで混合の均質性、高分散化、微細化が簡便に、かつ好適に行えるのでより一層好ましい。このとき、ボールミルやビーズミル、アトライタ、振動ミル、遊星ミル、ジェットミル等を湿式法で行う場合には、粉砕後のスラリーを乾燥する必要がある。この乾燥方法は特に限定されるものではないが、例えば、濾過乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥等が例示できる。なお、酸化物以外の粉末を混合する場合は、混合後に500〜1200℃で仮焼し、得られた仮焼粉末を粉砕することが好ましい。これは、次工程の成形工程で成形し、焼成した場合での割れ、欠け等の破損を一層抑制するためである。各原料粉末の純度は、通常99%以上、好ましくは99.9%以上、より好ましくは99.99%以上である。純度が低いと、不純物物質により、本発明の複合酸化物焼結体を用いたスパッタリングターゲットで形成された透明導電膜の特性に影響が及ぼされることがあるからである。
【0022】
本発明においては、原料の配合割合が焼結体の組成に反映される。そのため、これらの原料の配合は、亜鉛と元素L(Lはアルミニウムおよび/またはガリウム)とスカンジウムの原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
となるように行う。より好ましくは、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
である。更に好ましくは、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
である。このようにして得られた混合粉末(仮焼した場合には仮焼した混合粉末)は成形前に造粒することが一層好ましい。これにより、成形時の流動性を高めることが可能となり、生産性に優れる。造粒方法は、特に限定されるものではないが、噴霧乾燥造粒、転動造粒等を例示することができ、通常、平均粒径が数μm〜1000μmの造粒粉末として使用される。
【0023】
(成形)
成形方法は、金属酸化物の混合粉末(仮焼した場合には仮焼した混合粉末)を目的とした形状に成形できる成形方法を適宜選択することが肝要であり、特に限定されるものではない。プレス成形法、鋳込成形法、射出成形法等が例示できる。成形圧力はクラック等の発生がなく、取り扱いが可能な成形体であれば特に限定されるものではないが、成形密度は可能な限り高めた方が好ましい。そのために冷間静水圧(CIP)成形等の方法を用いることも可能である。なお、成形処理に際しては、ポリビニルアルコール、アクリル系ポリマー、メチルセルロース、ワックス類、オレイン酸等の成形助剤を用いても良い。
【0024】
(焼成)
次に得られた成形体を800〜1500℃で焼成する。この焼成温度範囲を採用することで前記の複合酸化物焼結体を得ることが可能であるが、酸化亜鉛系複合酸化物特有の揮発消失が抑制され、かつ焼結密度を高められる点から、1000〜1400℃の範囲がより好ましい。また、前記した成形助剤を用いた場合には、加熱時の割れ等の破損を防止する観点から脱脂工程を付加することが好ましい。
【0025】
本発明によれば、複合酸化物焼結体を前記したように製造することにより、高焼結密度が得られ、スパッタリング中の異常放電現象を著しく抑制することが可能である。ただし、焼結密度が低すぎると、取り扱いやスパッタリング時に破損等を起こすことがあるため、相対密度80%以上が総合的には好ましい。
【0026】
焼成時間は特に限定されるものではないが、通常1〜48時間が通常用いられ、特に好ましいのは3〜24時間である。これは、本発明の複合酸化物焼結体中の均質性を確保するためであり、24時間より長時間の保持でも均質性を確保することは可能であるが、生産性への影響を考慮すると24時間以下で十分である。さらに本発明の複合酸化物焼結体を好適に製造するためには3〜10時間であることが特に好ましい。
【0027】
昇温速度は特に限定されるものではないが、800℃以上の温度域では50℃/h以下であることが好ましい。これは、本発明の複合酸化物焼結体中の均質性を確保するためである。
【0028】
焼成雰囲気は特に限定されるものではないが、例えば、大気中、酸素中、不活性ガス雰囲気中等が適宜選択されるが、大気よりも低酸素濃度の雰囲気とすることが好ましい。これは、本発明の複合酸化物焼結体中に酸素欠陥を導入しやすくなり、そのため、複合酸化物焼結体の抵抗率が低下して異常放電が発生する要因をより一層低減することが可能となるためである。また、焼成時の圧力も特に限定されるものではなく、常圧以外に加圧、減圧状態での焼成も可能である。熱間静水圧(HIP)法での焼成も可能である。また、原料粉末、もしくは前記の粉末調整工程で調整した粉末を直接成形用の型に充填して焼成するホットプレス法や、原料粉末や前記の粉末調整工程で調整した粉末を直接高温で溶融、噴射して所定の形状とする方法等により作製することも可能である。
【0029】
(スパッタリングターゲット)
本発明のスパッタリングターゲットは、前記の複合酸化物焼結体からなることを特徴とする。このようなスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングによって成膜された酸化物透明導電膜は、抵抗が低く、可視光領域だけでなく、赤外領域においても光透過性に優れる。また、このようなスパッタリングターゲットは、成膜時の異常放電を抑制し、安定した成膜を可能とする。本発明においては、複合酸化物焼結体をそのままスパッタリングターゲットとして用いても良く、複合酸化物焼結体を所定の形状に加工してスパッタリングターゲットとして用いても良い。
【0030】
(透明導電膜)
本発明の透明導電膜は、亜鉛、元素L(Lはアルミニウムおよび/またはガリウム)、スカンジウムおよび酸素から成る酸化物薄膜であって、原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
の酸化亜鉛系薄膜である。より好ましくは、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.035
の酸化亜鉛系薄膜である。更に好ましくは、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
である。この組成にすることで、抵抗が低く、かつ透過率が高い透明導電膜となる。上記の組成を超えると赤外域の透過率が低下し、少なすぎると抵抗が上昇してしまう。本発明においては、不可避的な微量の不純物の混入は問わない。
【0031】
また本発明の透明導電膜は、Cuを線源として用いたX線回折パターン(XRD)の2Θ=30〜40°の範囲内に検出される酸化亜鉛六方晶ウルツ鉱型構造の(100)面、(002)面、(101)面の回折ピーク積分強度をそれぞれI(100)、I(002)、I(101)としたときに、
(002)/(I(002)+I(100)+I(101))>0.95
を満たすことが好ましい。この値が0.95以下になると抵抗が上昇し好ましくない。
【0032】
(透明導電膜の製造方法)
次に本発明の透明導電膜の製造方法について説明する。製造方法としては特に限定はなく、PLD法、イオンプレーティング法なども用いることが可能であるが、大面積に均一に、かつ高速成膜可能な点でスパッタリング法が好ましい。スパッタリングには、前述の本発明のターゲットを用いることができる。
【0033】
例えば本発明のターゲットをスパッタリング装置に設置し、真空排気を行う。成膜時の基板温度は、基材の耐熱性に影響される。例えば、無アルカリガラスを基材とした場合は通常300℃以下、樹脂製のフィルムを基材とした場合は、通常150℃以下が好適に用いられる。石英、セラミックス、金属等の耐熱性に優れた基材を用いる場合には、それ以上の温度で成膜することも可能である。
【0034】
スパッタリング時に導入するガスは、不活性ガス、例えばアルゴンガスを用いる。必要に応じて、酸素ガス、窒素ガス、水素ガス等を用いる場合がある。
【0035】
スパッタリング法の方式は、特に限定されるものではないが、DCスパッタリング法、RFスパッタリング法、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、ACスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法等を適宜選択することができるが、大面積に均一に、かつ高速成膜可能な点でDCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法、ACスパッタリング法または、DCにRFを重畳させた方式が好ましい。
【0036】
なお、スパッタリング法により得られる透明導電膜の組成は、用いたターゲットの組成と比較して、スパッタリング条件にも左右されるが、若干変動することが多い。そのため、前述のように、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
の組成(原子比)を有する酸化亜鉛系薄膜を得るためには、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
の組成(原子比)を有するターゲットを用いてスパッタリングを行うことが好ましい。
【0037】
また、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.035
の組成(原子比)を有する酸化亜鉛系薄膜を得るためには、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
の組成(原子比)を有するターゲットを用いてスパッタリングを行うことが好ましい。
【0038】
さらに、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
の組成(原子比)を有する酸化亜鉛系薄膜を得るためには、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
の組成(原子比)を有するターゲットを用いてスパッタリングを行うことが好ましい。
【0039】
(受光素子)
本発明の透明導電膜は、受光素子に使用することができる。これにより広範囲の波長の光を利用することができる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の複合酸化物焼結体は、スパッタリングターゲットとして用いることが可能であり、このターゲットでスパッタリングをすると異常放電が少なく安定した放電が可能である。得られる薄膜は低抵抗かつ可視域から近赤外域において高い透過率を有する透明導電膜である。そのため、この透明導電膜を受光素子として、例えば太陽電池の電極として用いることにより、可視域から近赤外域までの広い範囲の波長で、高い変換効率の太陽電池が提供できる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1〜6)
亜鉛、アルミニウム、スカンジウムの原子数の比が表1に記載の値となるように、純度99.8%、平均粒径2.4μmの酸化亜鉛粉末と、純度99.99%、平均粒径1.6μmの酸化アルミニウム粉末及び純度99.9%、平均粒径2.2μmの酸化スカンジウム粉末を湿式ビーズミルで混合、粉砕し、乾燥した後、直径150mmの金型に充填し、300kg/cmで一軸成形し、次いで3.0ton/cmでCIP成形した。得られた成形体を昇温速度50℃/h、降温速度100℃/h、焼成温度1200℃、保持時間3時間、窒素中の条件で焼成して、複合酸化物焼結体を得た。得られた焼結体は、以下のように評価した。評価結果は、表1〜4に示す。
【0043】
表1,2のX線回折パターンにおいて、酸化亜鉛構造については、2Θ=30〜40°の範囲内に検出される回折ピークが六方晶系ウルツ型構造に帰属される(100)面、(002)面、(101)面が検出された場合を○とした。一方、酸化スカンジウム構造については、ScのPDF#00−005−0629(RDB)のピークパターンで指数付けし、検出された場合を○、検出されなかった場合を×とした。
【0044】
(焼結体の平均粒径の測定)
複合酸化物焼結体を構成する六方晶系ウルツ型構造の酸化亜鉛を主とする母相の平均粒径は、ケミカルエッチングは希酢酸溶液で行い、走査電子顕微鏡を用いて得た観察写真の粒子の長径を20個以上測定し、その平均値とした。
【0045】
(ターゲットの作製)
得られた複合酸化物焼結体を4インチφサイズに加工し、ターゲットのスパッタリング面となる面は、平面研削盤とダイヤモンド砥石を用い、砥石の番手を変えることにより、中心線平均粗さを調整し、ターゲットを作製した。
【0046】
(ターゲットの放電特性の評価)
下記スパッタリング条件下で1時間当たりに生じた異常放電回数を観測し、アークレートとした。
スパッタリング条件
・装置 :DCマグネトロンスパッタリング装置(アルバック社製)
・磁界強度 :1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)
・基板温度 :室温(約25℃)
・到達真空度 :5×10−5Pa
・スパッタリングガス :アルゴン
・スパッタリングガス圧:0.4Pa
・DCパワー :300W
・スパッタリング時間 :30時間。
【0047】
(酸化物透明導電膜の作製)
作製したスパッタリングターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法により、下記の条件で成膜して酸化物透明導電膜を得た。
スパッタリング条件
・装置 :DCマグネトロンスパッタリング装置(アルバック社製)
・磁界強度 :1000Gauss(ターゲット直上、水平成分)
・基板温度 :200℃
・到達真空度 :5×10−5Pa
・スパッタリングガス :アルゴン
・膜厚 :1000nm
(薄膜の組成)
ICP発光分光分析装置(セイコーインスツルメンツ社製)を用いて、ICP発光分光分析法により定量を行った。
【0048】
(焼結体および薄膜のX線回折試験)
測定条件は以下の通りである。
・X線源 :CuKα
・パワー :40kV、40mA
・走査速度 :1°/分
(薄膜の抵抗率)
薄膜の抵抗率の測定は、HL5500(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製)を用いて測定した。
【0049】
(薄膜の透過率)
基板を含めた光透過率を分光光度計U−4100(日立製作所製)で測定し、波長400nmから800nmおよび800nmから1200nmの平均透過率を可視域と赤外領域の透過率とした。
【0050】
(実施例7)
亜鉛、ガリウム、スカンジウムの原子数の比が表1に記載の値となるように、純度99.8%、平均粒径2.4μmの酸化亜鉛粉末と、純度99.99%、平均粒径1.7μmの酸化ガリウム粉末及び純度99.9%、平均粒径2.2μmの酸化スカンジウム粉末を湿式ビーズミルで混合、粉砕し、乾燥した後、直径150mmの金型に充填し、300kg/cmで一軸成形し、次いで3.0ton/cmでCIP成形した。得られた成形体を昇温速度50℃/h、降温速度100℃/h、焼成温度1200℃、保持時間3時間、窒素中の条件で焼成して、複合酸化物焼結体を得た。得られた焼結体は実施例1〜6と同様に評価した。
【0051】
(比較例1)
亜鉛、アルミニウムの原子数の比が表1に記載の値となるように、純度99.8%、平均粒径2.4μmの酸化亜鉛粉末と、純度99.99%、平均粒径1.6μmの酸化アルミニウム粉末を湿式ビーズミルで混合、粉砕し、乾燥した後、直径150mmの金型に充填し、300kg/cmで一軸成形し、次いで3.0ton/cmでCIP成形した。得られた成形体を昇温速度50℃/h、降温速度100℃/h、焼成温度1200℃、保持時間3時間、窒素中の条件で焼成して、複合酸化物焼結体を得た。得られた焼結体は実施例1〜7と同様に評価した。
【0052】
(比較例2)
亜鉛、スカンジウムの原子数の比が表1に記載の値となるように、純度99.8%、平均粒径2.4μmの酸化亜鉛粉末と、純度99.9%、平均粒径2.2μmの酸化スカンジウム粉末を湿式ビーズミルで混合、粉砕し、乾燥した後、直径150mmの金型に充填し、300kg/cmで一軸成形し、次いで3.0ton/cmでCIP成形した。得られた成形体を昇温速度50℃/h、降温速度100℃/h、焼成温度1200℃、保持時間3時間、窒素中の条件で焼成して、複合酸化物焼結体を得た。得られた焼結体は実施例1〜7と同様に評価した。
【0053】
(比較例3)
亜鉛、アルミニウム、スカンジウムの原子数の比が表1に記載の値となるように、純度99.8%、平均粒径2.4μmの酸化亜鉛粉末と、純度99.99%、平均粒径1.6μmの酸化アルミニウム粉末及び純度99.9%、平均粒径2.2μmの酸化スカンジウム粉末を湿式ビーズミルで混合、粉砕し、乾燥した後、直径150mmの金型に充填し、300kg/cmで一軸成形し、次いで3.0ton/cmでCIP成形した。得られた成形体を昇温速度50℃/h、降温速度100℃/h、焼成温度1200℃、保持時間8時間、窒素中の条件で焼成して、複合酸化物焼結体を得た。得られた焼結体は実施例1〜7と同様に評価した。
【0054】
(比較例4)
亜鉛、インジウム、アルミニウムの原子数の比が表2に記載の値となるように、純度99.8%、平均粒径2.4μmの酸化亜鉛粉末と、純度99.99%、平均粒径1.6μmの酸化アルミニウム粉末及び純度99.9%、平均粒径1.5μmの酸化インジウム粉末を湿式ビーズミルで混合、粉砕し、乾燥した後、直径150mmの金型に充填し、300kg/cmで一軸成形し、次いで3.0ton/cmでCIP成形した。得られた成形体を昇温速度50℃/h、降温速度100℃/h、焼成温度1100℃、保持時間3時間、窒素中の条件で焼成して、複合酸化物焼結体を得た。得られた焼結体は実施例1〜7と同様に評価した。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、元素L(Lはアルミニウムおよび/またはガリウム)、スカンジウム並びに酸素から成る複合酸化物焼結体であって、原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.100
であることを特徴とする酸化物焼結体。
【請求項2】
原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.001〜0.035
である、請求項1に記載の酸化物焼結体。
【請求項3】
原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
である、請求項1または2に記載の酸化物焼結体。
【請求項4】
Cuを線源とするX線回折パターン(XRD)の2Θ=30〜40°の範囲内に検出される回折ピークが六方晶系ウルツ型構造に帰属される(100)面、(002)面、(101)面のみが検出される、請求項1〜3いずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項5】
酸化亜鉛を主とした母相の平均粒径が20μm以下である、請求項1〜4いずれかに記載の酸化物焼結体。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の酸化物焼結体から成ることを特徴とする、スパッタリングターゲット。
【請求項7】
亜鉛、元素L(Lはアルミニウムおよび/またはガリウム)、スカンジウム並びに酸素から成る酸化物薄膜であって、原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.100
であることを特徴とする透明導電膜。
【請求項8】
原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.035
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.035
である、請求項7に記載の透明導電膜。
【請求項9】
原子比が、
L/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
スカンジウム/(亜鉛+L+スカンジウム)=0.002〜0.020
である、請求項7または8に記載の透明導電膜。
【請求項10】
Cuを線源とするX線回折パターン(XRD)の2Θ=30〜40°の範囲内に検出される酸化亜鉛六方晶ウルツ鉱型構造の(100)面、(002)面、(101)面の回折ピーク積分強度をそれぞれI(100)、I(002)、I(101)としたときに、
(002)/(I(002)+I(100)+I(101))>0.95
である、請求項7〜9いずれかに記載の透明導電膜。
【請求項11】
請求項6に記載のスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング法により成膜することを特徴とする、透明導電膜の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法によって得られることを特徴とする透明導電膜。
【請求項13】
請求項7,8,9,10または12に記載の透明導電膜を使用した受光素子。

【公開番号】特開2012−144409(P2012−144409A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5929(P2011−5929)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】