説明

酸化物薄膜太陽電池

【課題】原料として有害成分を用いることなく、比較的低コストで製造可能であって、良好な変換効率を有する新規な太陽電池を提供する。
【解決手段】透明電極上に、ZnO膜及びAgO膜が順次積層された構造を有する酸化物薄膜太陽電池、及び、更に、AgO膜上にCuO膜が積層された構造を有する酸化物薄膜太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物薄膜太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池としては、単結晶シリコン(Si)を用いたバルク型太陽電池、アモルファスSiと単結晶Siとをハイブリッドした太陽電池、テルル化カドミウム(CdTe)、CuInSe2などのカルコゲナイド系化合物を用いた薄膜太陽電池、クマリン、ルテニウム錯体などの色素を酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)などの光触媒上に担持させた色素増感型太陽電池等について、積極的な工業的展開と研究開発が行われている。
【0003】
単結晶Si又は多結晶Siを用いたバルク型太陽電池の生産量は、現在、全太陽電池の生産量の約80%程度を占めており、その生産量は、毎年数十%程度づつ伸びている。また、単結晶Siモジュールの変換効率は、17.4%に達しており、性能は年々向上しており、家庭用・企業用として普及が進んでいる。しかしながら、太陽電池用Siは、半導体デバイス用Si基板から流用されているのが現状であり、現在の普及速度によると将来的には十分なSi供給が困難な状況が予想される。
【0004】
CdTe、CuInSe2などのカルコゲナイド系化合物は、約1.4eV程度の禁制帯幅を持ち、単結晶Siよりも1から2桁大きな吸収係数を持つことから、硫化カドミウム(CdS)、ZnOなどのn型半導体とヘテロ接合することによって、30%程度の高い変換効率を得ることが可能である(下記非特許文献1参照)。しかしながら、CdTe、CuInSe2等の化合物は、Cd、Te、Seなどの有害物質を含有することから、研究開発がほぼ停止しているのが現状である。また、CuInSe2層は、加熱による相変態によって構造が変化し、性能が発揮できないという欠点があり、低温製造プロセスの開発も課題となっており、厳しい開発環境にある。
【0005】
色素増感型太陽電池は、酸化チタンなどの光触媒、ルテニウム錯体などの色素及び電解液を主要構成層とする太陽電池であり、理論変換効率は32%に達するとされている(下記非特許文献2参照)。現在、変換効率11%が報告されており、光触媒層の開発、色素に用いる金属錯体の開発、電解層の固体化によるセル全体の全固体化、などの課題について活発な研究開発が行われている(下記非特許文献3参照)。しかしながら、現時点では、全固体化は達成されておらず、変換効率も十分ではない。また、電池寿命が短く、工業的な利用は困難である。
【非特許文献1】浜川圭弘、桑野幸徳編集、「太陽エネルギー工学」、培風館発行、第34頁
【非特許文献2】Y.Tachibana, J.E. Moser, M. Gratzel, D.R. Klug, J.R. Durrant; J. Phys. Chem., 100. 20056 (1996)
【非特許文献3】M. Gratzel, J. Photochem. Photobiol. A, 164, 3-14 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、原料として有害成分を用いることなく、比較的低コストで製造可能であって、良好な変換効率を有する新規な太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、p型酸化物半導体であるAgOは、吸収係数が比較的大きく、しかも光学的禁制帯幅がSiと同程度であり、これを光電変換層として用い、n型酸化物半導体であるZnOと積層した構造とすることによって、高い変換効率を有する太陽電池が得られることを見出した。更に、AgO層の上に、禁制帯幅が比較的大きいp型酸化物半導体であるCuO層を積層することによって、pn接合部分での電子とホールの再結合が抑制されて、より変換効率の高い太陽電池が得られることを見出した。更に、これらの各層の形成方法として、水溶液から電気化学的又は化学的手法で製膜する方法を採用する場合には、各層をヘテロエピタキシャルに成長させることが可能となり、より高品質な太陽電池が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記の太陽電池を提供するものである。
1. 透明電極上に、ZnO膜及びAgO膜が順次積層された構造を有する酸化物薄膜太陽電池。
2. (0001)面に優先配向したZnO膜上に、(111)面に優先配向したAgO膜が形成されてなる上記項1に記載の太陽電池。
3. ZnO膜が、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含有する水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物中に被処理物を浸漬する方法、又は亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液中で電解処理を行う方法によって形成されたものであり、
AgO膜が、水溶性銀塩を含有する水溶液中で電解反応によってAgO膜を形成し、次いで、加熱処理を行うことによって形成されたものである、
上記項1又は2に記載の太陽電池。
4. 透明電極上に、ZnO膜、AgO膜及びCuO膜が順次積層された構造を有する酸化物薄膜太陽電池。
5. (0001)面に優先配向したZnO膜上に、(111)面に優先配向したAgO膜と、(111)面に優先配向したCuO膜が形成されてなる上記項4に記載の太陽電池。
6. ZnO膜が、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含有する水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物中に被処理物を浸漬する方法、又は亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液中で電解処理を行う方法によって形成されたものであり、
AgO膜が、水溶性銀塩を含有する水溶液中で電解反応によってAgO膜を形成し、次いで、加熱処理を行うことによって形成されたものであり、
CuO膜が、水溶性銅塩を含むアルカリ性水溶液中で電解処理することによって形成されたものである、
上記項4又は5に記載の太陽電池。
【0009】
本発明の太陽電池は、透明電極上に、ZnO膜とAgO膜をこの順序で積層した構造を有するものである。
【0010】
透明電極としては、特に限定はなく、例えば、従来から太陽電池において用いられている透明電極、例えば、ZnO電極、ITO電極、SnO電極、NESA電極等を用いることができる。透明電極の厚さについては特に限定はないが、例えば、0.1〜1μm程度とすればよい。
【0011】
透明電極は、必要に応じて、透明基板上に形成される。透明基板の種類についても特に限定はなく、例えば、ガラス基板、ポリマー基板等の通常の太陽電池において用いられている各種透明基板を用いることができる。透明基板の厚さについては特に限定はないが、例えば、0.1〜10mm程度とすればよい。
【0012】
本発明の太陽電池では、上記した透明電極の上に、ZnO層とAgO層を順次積層することが必要である。
【0013】
ZnOは、3.3eVという大きい禁制帯幅を有するn型酸化物半導体であり、ガスセンサー、温度センサー、表面弾性波素子、透明導電膜などに用いられている物質である。
【0014】
AgOは、禁制帯幅が結晶性Siと同程度の1.1〜1.5eVであるp型酸化物半導体であり、吸収係数が10cm−1という大きい値を有するものである。
【0015】
この様な特性を有するAgO膜をZnO膜上に積層することによって、優れた変換効率を有する太陽電池が得られる。ZnO膜とAgO膜の厚さについては、特に限定的ではないが、通常、それぞれ0.01〜20μm程度とすればよい。
【0016】
ZnO膜とAgO膜の形成方法については特に限定はなく、CVD法、蒸着法、スパッタリング法、レーザーアブレーション法、MBE法などの乾式法、スプレーパイロリシス法、ゾルーゲル法、液相成長法などの湿式法等の各種方法によって形成可能である。特に、水溶液から電気化学的方法又は化学的方法によって膜を形成する場合には、原料が比較的安価であり、製造コストも低いことから、低コストで優れた変換性能を有する太陽電池を得ることができる。
【0017】
また、水溶液からの形成方法によれば、(0001)配向したZnO膜を形成することが可能である。形成されるZnO膜は、格子定数aが約0.325nm、cが約0.521nmの六方晶構造を有するものであり、この上に、水溶液からAgO膜を形成することによって、ZnOの(0001)面上に、格子定数aが約0.586nm、bが0.324nm、cが0.550nm、βが107.5度の単斜晶構造を有するAgOの(-111)面を優先的に成長させることができる。このようにして(-111)面が優先的に配向したAgO膜を形成した後、加熱処理することによって、ZnO膜の(0001)面上に、AgO膜の(111)面が優先的に成長したヘテロエピタキシャル構造を形成することが可能である。この様にして形成されたヘテロエピタキシャル接合を有する太陽電池は、原子レベルにおいて良好な接合界面が形成されており、高い変換効率を有するものとなる。
【0018】
ZnO膜を水溶液から形成する方法としては、例えば、特開平8−217443号公報、特開平8−260175号公報、特開平9−278437号公報、特開2005−47752号公報などに記載されている公知の方法を採用できる。以下、これらの方法について具体的に説明する。
【0019】
水溶液からのZnO膜の形成方法
(1)化学的形成方法
ZnO膜の化学的形成方法としては、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含有する水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物中に被処理物を浸漬する方法を採用できる。
【0020】
亜鉛イオンイオン源となる化合物としては、水溶性亜鉛塩を用いればよく、その具体例として、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、リン酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができる。硝酸イオン源としては、硝酸、水溶性硝酸塩等を用いることができ、硝酸塩の具体例として、硝酸亜鉛、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸尿素等を挙げることができる。亜鉛イオン源となる化合物及び硝酸イオン源となる化合物は、それぞれ、一種単独又は二種以上混合して用いることができ、また、亜鉛イオン及び硝酸イオンの両方のイオン源として、硝酸亜鉛を単独で用いても良い。特に、硝酸亜鉛を単独で用いる場合には、浴中に不要な成分が多く存在することがなく、水酸化亜鉛の形成なども抑制されて、純度の高い酸化亜鉛膜を広い濃度範囲で形成することが可能となる。
【0021】
亜鉛イオン及び硝酸イオンの濃度は広い範囲で調整できるが、いずれか一方でもイオン濃度が低すぎると酸化亜鉛膜を形成することができず、又、いずれか一方でもイオン濃度が高すぎると水酸化亜鉛膜が形成され易くなって酸化亜鉛膜の純度が低下しやすい。このため亜鉛イオン及び硝酸イオンのそれぞれの濃度は、0.001mol/l〜0.5mol/l(亜鉛分換算で0.065〜32.7g/l)程度の範囲内にあることが好ましく、0.01mol/l〜0.2mol/l(亜鉛分換算で0.65〜13g/l)程度の範囲内にあることがより好ましい。
【0022】
アミンボラン化合物としては、水溶性の化合物であればいずれも用いることができ、具体例として、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン等を挙げることができる。特に、トリメチルアミンボランを用いる場合には、浴の安定性が良好となり、良好な酸化亜鉛膜を長期間継続して形成できる。
【0023】
アミンボラン化合物の配合量は、特に限定的ではないが、配合量が少なすぎる場合には、水溶液の安定性は向上するものの酸化亜鉛の析出速度が遅くなり、一方、配合量が多すぎる場合には、溶解が困難になることに加えて、加温した場合に浴の安定性が低下して沈殿が生成し易くなる等の問題点がある。このため、アミンボラン化合物の配合量は、0.001mol/l〜0.5mol/l程度とすることが好ましく、0.005mol/l〜0.1mol/l程度とすることがより好ましい。
【0024】
処理時の液温は、40〜100℃程度とすることが好ましく、60〜100℃程度とすることがより好ましい。又、酸化亜鉛膜形成用組成物のpHは、特に限定されるものではないが、pHが低い場合には浴の安定性は向上するものの成膜速度が低下し、一方、pHが高い場合には、成膜速度は向上するが浴の安定性が低下して沈殿が生成し易くなり、酸化亜鉛膜を得ることが困難となる。これらの点から、該組成物のpHは4〜7程度とすることが好ましい。
【0025】
被処理物が、触媒活性を有しない場合には、上記組成物に浸漬する前に、無電解めっき皮膜を形成する際に用いられるパラジウム、鉄、コバルト、ニッケル、白金等の触媒金属を付与する処理を行なう。触媒付与処理の具体的な方法としては、無電解めっき皮膜を形成する場合の触媒付与方法と同様の公知の方法をいずれも適用でき、一般にパラジウムを付与する方法が広く行われており、例えば、センシタイジング−アクチベーション法、キャタリスト−アクセレレーター法、アルカリキャタリスト法等により触媒を付与すればよい。
【0026】
上記した製膜条件において、特に、製膜時の液温を75〜100℃程度の高温とすることによって、(0001)面の配向性の良いZnO膜を形成することができる。
【0027】
また、特開2005−281583号公報に記載されている方法を採用する場合には、簡単な方法で(0001)面に優先配向したZnO膜を形成することができ、配向性や析出状況を制御することができる。
【0028】
即ち、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.06〜0.075mol/lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させることによって、(0001)面に優先配向した緻密な構造のZnO膜を形成することができる。アミンボラン化合物の添加量については、広い範囲で調整することが可能であり、例えば、0.001〜0.5mol/l程度とすることができるが、0.01〜0.1mol/l程度とすることが好ましい。該組成物のpHは4〜7程度とすることが好ましく、該組成物の液温は、40〜90℃程度とすることが好ましく、55〜90℃程度とすることがより好ましい。
【0029】
また、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.075〜0.1mol/lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を、70〜90℃の液温で被処理物に接触させることによっても、(0001)面に優先配向した緻密な構造のZnO膜を形成することができる。アミンボラン化合物の添加量については、広い範囲で調整することが可能であり、例えば、0.001〜0.5mol/l程度とすることができ、0.01〜0.1mol/l程度とすることが好ましい。該組成物のpHは4〜7程度とすることが好ましい。この方法では、液温を上昇させることによって配向性の程度を強くすることができ、処理液の液温を適宜設定することによって、優先配向の程度を調整することが可能である。
【0030】
更に、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.01〜0.05mol/lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させた後、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含み、亜鉛イオン濃度が0.08〜0.1mol/lであって、硝酸イオンのモル濃度が亜鉛イオンのモル濃度の1〜3倍の範囲内にある水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物を被処理物に接触させることによって、(0001)面に優先配向した緻密な構造のZnO膜を形成することができる。この方法によれば、第一工程において、(0001)面に優先配向したポーラス構造の酸化亜鉛膜が形成され、次いで、第二工程において、第一工程で形成されたポーラス構造の酸化亜鉛膜のポアー部分に酸化亜鉛粒子が成長して粒子間のポアーが消滅し、(0001)面に優先的に配向し、しかも緻密な構造の酸化亜鉛膜が形成される。特に、上記二段階の析出方法によれば、(0001)面の配向性が非常に高い酸化亜鉛膜を形成することができる。
【0031】
この方法で用いる酸化亜鉛膜形成用組成物についても、アミンボラン化合物の添加量は広い範囲で調整することが可能であり、第一工程で用いる酸化亜鉛膜形成用組成物と第二工程で用いる酸化亜鉛膜形成用組成物のいずれについても、0.001〜0.5mol/l程度とすることができ、0.01〜0.1mol/l程度とすることが好ましい。酸化亜鉛膜形成用組成物のpHについては、特に限定されるものではないが、pH4〜7程度とすることが好ましい。
【0032】
処理時間については、目的とする膜厚のポーラス構造の酸化亜鉛膜が形成されるまで第一工程の処理を行い、次いで、粒子間のポアーが消滅するまで第二工程の処理を行えばよい。例えば、第一工程において、5〜30分間程度処理を行った場合には、第二工程において、10〜60分間程度の処理を行えばよい。この方法では、処理温度は、第一工程及び第二工程共に、40〜90℃程度、好ましくは55〜90℃程度とすることができる。特に、この方法は、55〜70℃程度、更には、55〜65℃程度という比較的低い処理液温度において、(0001)面に優先配向した緻密な酸化亜鉛膜を形成することができるので、処理液の安定性が低下することが少ない点で有利である。
【0033】
上記した各種方法で形成されたZnO膜は、更に、N,Ar等の不活性ガス雰囲気や真空中などの被酸化性雰囲気中で400〜600℃程度で10〜300分程度加熱することによって、電気伝導性を向上させることができる。
【0034】
(2)電気化学的形成方法
電気化学的方法によってZnO膜を形成する方法としては、亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液中で電解処理を行えばよい。この電解反応によって陰極上にZnO膜を形成することができる。
【0035】
酸化亜鉛膜作製用電解液は、亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液であればよく、例えば、亜鉛イオン及び硝酸イオンの両方のイオン源となる硝酸亜鉛を含有する水溶液、亜鉛イオン源として水溶性の亜鉛塩を含有し、硝酸イオン源として硝酸又は水溶性の硝酸塩を含有する水溶液等を用いることができる。
【0036】
水溶性の亜鉛塩としては、特に限定はなく、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、酢酸亜鉛、リン酸亜鉛、ピロリン酸亜鉛、炭酸亜鉛等を挙げることができる。また、水溶性の硝酸塩としても特に限定はなく、硝酸亜鉛、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸リチウム、硝酸尿素等を挙げることができる。
【0037】
亜鉛イオン源として使用する化合物及び硝酸イオン源として使用する化合物は、それぞれ一種類のものを用いてもよく、或いは複数のものを混合して用いてもよい。
【0038】
亜鉛イオン及び硝酸イオンの濃度は、広い範囲で調整できるが、濃度が低くなりすぎると電解条件を調整しても連続膜を形成することが困難になり、濃度が高くなりすぎると水酸化亜鉛膜が得られる傾向にある。このため、通常、亜鉛イオン及び硝酸イオンのそれぞれの濃度が、0.001mol/l〜0.5mol/l(亜鉛分換算で0.065〜32.7g/l)程度の範囲にあることが適当であり、特に、それぞれの濃度が0.1mol/l(亜鉛分換算で6.5g/l)程度であることが好ましい。
【0039】
電解方法としては、通常の電解法をいずれも採用できる。たとえば、陰極電位は、電解液の濃度などに応じて適宜設定すればよいが、通常、Ag/AgCl電極基準で−0.2V〜−2.0V程度が適当であり、−0.5V〜−1.6V程度が好ましく、−0.7V〜−1.6V程度が特に好ましい。この電位範囲での陰極電流密度は0.00001mA/cm2 〜200mA/cm2 程度となるが、陰極電流密度は用いる基材の種類によっても変化する。酸化亜鉛膜の析出速度は、陰極電位が卑になるほど、言い換えれば陰極電流密度が大きいほど、大きくなる。
【0040】
電解液の液温は、広い範囲で設定できるが、通常は、20℃〜100℃程度とすればよい。また、電解液のpHが高くなりすぎると電解液中に沈殿が生成して、酸化亜鉛膜を得ることが不可能となるので、pH1〜7程度とすることが適当であり、pH5.2程度とすることが好ましい。
【0041】
電解に用いる陽極としては、通常の亜鉛めっきに用いられる陽極をいずれも使用できる。具体例としては、可溶性陽極である亜鉛の他に、カーボン、白金、白金めっきチタン等の不溶性陽極材料等を用いることができる。
【0042】
上記した電解方法において、特に、液温を60〜100℃程度、好ましくは80〜100℃程度として、Ag/AgCl電極基準で−0.5V〜−0.8V程度で定電位電解を行うことによっても、(0001)面の配向性の良いZnO膜を得ることができる。
【0043】
水溶液からのAgO膜の形成方法
次に、AgO膜を水溶液から形成する方法について説明する。
水溶液からAgO膜を形成する方法としては、例えば、「J. Electrochem. Soc., Vol. 143, No.9, September 1996.」に記載されている方法を採用できる。具体的には、水溶性銀塩を含有する水溶液中で電解反応によってAgO膜を形成し、次いで、加熱処理を行うことによって、AgO膜を形成することができる。
【0044】
水溶性銀塩としては特に限定はなく、例えば、酢酸銀、硝酸銀、乳酸銀、メタンスルホン酸銀などを使用することができる。水溶性銀塩の濃度は0.01mol/l〜1mol/l程度、好ましくは、0.01mol/l〜0.1mol/l程度とすればよい。
【0045】
更に、水溶性銀塩を含有する水溶液の電気伝導性を向上させるために、酢酸ナトリウム,酢酸カリウム,酢酸リチウム,酢酸アンモニウム,硝酸アンモニウム,硝酸カリウム,硝酸ナトリウム,乳酸ナトリウム,乳酸アンモニウムなどを添加してもよい。これらの成分の濃度は、0.01mol/l〜1mol/l程度とすることが好ましく、0.01mol/l〜0.1mol/l程度とすることがより好ましい。
【0046】
水溶性銀塩を含有する水溶液のpHは、特に限定されないが,4〜9程度であることが好ましく、5〜9程度であることがより好ましい。浴温は、10〜60℃程度であることが好ましく、20〜40℃程度であることがより好ましい。
【0047】
電解方法としては、ZnO膜を形成した被処理物をアノードとして、定電位電解,定電流電解等の方法によって電解を行えばよい。カソードとしては、例えば、Ag板などを使用できる。定電流電解の場合には、電流密度を0.1〜100mA/cm程度、好ましくは0.1〜10mA/cm程度とすればよい。この様な方法で電解することによって、AgO膜を形成することができる。
【0048】
次いで、形成されたAgO膜を大気中などの酸化性雰囲気中で加熱処理することによって、AgO膜を得ることができる。加熱温度は、100〜250℃程度とすればよく、好ましくは130〜200℃程度とすればよい。熱処理温度が低すぎる場合には、完全にAgOにならず、AgO+AgOの2相構造となり易いので好ましくない。一方、熱処理温度が高すぎる場合には、金属状態のAgが析出するため、Ag+AgOの2相構造となりやすいのでやはり好ましくない。
【0049】
(0001)配向したZnO膜上にAgO膜をヘテロエピタキシャルに成長させる場合には、上記した条件に従って、0.1〜100mA/cm程度の電流密度で電解を行ってAgO膜を形成した後、加熱処理を行えばよい。この様な方法によって、(0001)配向したZnO膜上に、(111)配向したAgO膜が形成されて、ヘテロエピタキシャル構造を有する太陽電池を得ることができる。
【0050】
上記したZnO膜上にAgO膜を積層した構造を有する太陽電池は、優れた変換性能を有するものであるが、更に、AgO膜上にCuO膜を積層することにより、より一層優れた変換効率を有する太陽電池を得ることができる。
【0051】
CuOは、禁制帯幅が2.1eVのp型酸化物半導体であり、AgOと比較すると、非常に大きい禁制帯幅を有する物質である。禁制帯幅が1.1〜1.5eVのAgO膜を光吸収層として用い、禁制帯幅が比較的大きいn型半導体であるZnOとp型半導体であるCuOをそれぞれ電子伝導層とホール移動層として用いることによって、ZnO/AgO接合界面において光照射時に生成した電子と正孔(ホール)の再結合が抑制されて、高い変換効率が達成される。CuO膜の厚さについては、特に限定的ではないが、通常、0.01〜20μm程度とすればよい。
【0052】
CuO膜の形成方法としても、CVD法、蒸着法、スパッタリング法、MBE法などの乾式法、スプレーパイロリシス法、ゾルーゲル法、液相成長法などの湿式法等の各種方法を適用可能であるが、特に、水溶液から形成する方法によれば、低コストでCuO膜を形成することができ、更に、(111)配向したAgO膜上に、(111)配向したCuO膜をヘテロエピタキシャルに成長させて、高い変換効率を有する太陽電池を得ることができる。
【0053】
水溶液からのCuO膜の形成方法
水溶液からCuO膜を形成する方法としては、例えば、水溶性銅塩を含むアルカリ性水溶液から電解析出させる方法を挙げることができる。
【0054】
水溶性銅塩としては特に限定はなく、例えば、硫酸銅,塩化銅,硝酸銅,酢酸銅などを使用することができる。また、水溶性銅塩を含有する水溶液は、アルカリ性領域で使用されるため、通常、水酸化物の沈殿を抑制するための錯化剤を配合する。
【0055】
使用可能な錯化剤としては、乳酸、酒石酸,クエン酸、グリコール酸、りんご酸等のヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。
【0056】
該水溶液中の銅塩濃度は0.1〜0.5mol/l程度、錯化剤濃度は0.5〜5mol/l程度の範囲とすることが好ましい。
【0057】
水溶性銅塩を含有する水溶液のpHは、特に限定されないが、通常、8〜14程度であることが好ましく、9〜13程度であることがより好ましい。浴温は、25〜80℃程度とすることが好ましい。
【0058】
電解方法としては、AgO膜を形成した被処理物をカソードとして、定電位電解、定電流電解等の方法によって電解を行えばよい。特に、定電流電解が好ましい。アノードとしては、例えば、Cu板、Ti−Pt板などを使用できる。定電流電解の場合には、電流密度を30〜1000μA/cm程度の範囲とすればよい。
【0059】
AgO(111)面上にCuO(111)面を成長させるためには、液温を40〜60℃程度、好ましくは45〜55℃の範囲として、電流密度範囲を30〜100μA/cm程度とすることが好ましく、30〜80μA/cm程度とすることがより好ましい。
【0060】
上記した方法によれば、水溶液からの電解反応によって、AgO膜上に、CuO膜を積層することができる。
【0061】
以上の方法によって得られたZnO膜/AgO膜の積層構造、又はZnO膜/AgO膜/CuO膜の積層構造の上に、電極を形成することによって太陽電池とすることができる。電極としては、特に限定はなく、例えば、上記した透明電極や、銅、金、モリブデン、インジウム等の金属電極を形成すればよい。
【発明の効果】
【0062】
本発明によれば、原料として有害成分を用いることなく、比較的低コストで良好な変換効率を有する太陽電池を得ることができる。
【0063】
特に、p型酸化物半導体であるAgO膜上に、禁制帯幅が広いCuO膜を形成した構造とする場合には、ZnO/AgO接合界面において光照射時に生成した電子と正孔(ホール)の再結合が抑制されて、非常に高い変換効率を有する太陽電池とすることができる。
【0064】
また、水溶液から電気化学的又は化学的方法で各酸化物膜を形成する場合には、各層をヘテロエピタキシャルに成長させることが可能となり、良好な接合界面が形成されて、非常に高品質な太陽電池を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0065】
以下、実施例を示して、本発明を更に詳細に説明する。
【0066】
実施例1
基板としてNESAガラス(10Ω/□)を用い、0.1mol/Lの硝酸亜鉛水溶液中で液温60℃で、−0.7V (Ag/AgCl電極基準)で定電位電解を行い,通電電気量0.2C/cmで膜厚約200nmの(0001)配向を有するZnO膜を作製した。
【0067】
次いで、酢酸銀50mMと酢酸ナトリウム25mMを含有する水溶液中に、上記方法でZnO膜を形成した試料を入れ、液温25℃で0.25A/cmの定電流電解によって厚さ200nmのAgO膜を形成した。その後、大気中で200℃で30分間加熱処理を行い、禁制帯幅1.4eVを有するp型酸化物半導体であるAgO膜を(111)優先配向の膜として形成した
上記方法によって、ZnO/AgOのpnヘテロ接合構造を形成した後、AgO膜上に上部電極として、厚さ0.2μmの金電極を形成して、太陽電池構造を作製した。
【0068】
上記した方法で得られた太陽電池は、単結晶シリコンを用いた太陽電池とほぼ同程度の理論変換効率を有し、優れた性能を有する太陽電池である。
【0069】
実施例2
実施例1と同様にしてNESAガラス基板上に、ZnO/AgOのpnヘテロ接合構造を形成した後、乳酸3Mと硫酸銅0.25Mを含有し、NaOHにてpHを12に調整した水溶液を用いて、ZnO/AgO膜を形成したNESAガラス基板をカソードとして、電流密度50μA/cmで定電流電解を行うことにより、AgO膜上に、膜厚約200nmの(111)優先配向のCuO膜(禁制帯幅2.1eV)を形成した。
【0070】
この様にして、ZnO/AgO/CuOのヘテロ接合構造を形成した後、CuO膜上に上部電極として、厚さ0.2μmの銅電極を形成して、太陽電池構造を作製した。
【0071】
実施例3
基板としてソーダライムガラスを用い、市販の触媒付与処理液(テクノクリアSN,AG,PD 奥野製薬工業製)を使用して触媒付与を行った後、化学的にZnO膜を形成するために、製膜溶液として、硝酸亜鉛0.10mol/Lとジメチルアミンボラン0.02mol/Lを含有する水溶液を使用して、製膜温度80℃,製膜時間1時間の条件で膜厚約400nmの(0001)優先配向のZnO膜を形成した。
【0072】
次いで、真空中(10−2Paオーダー)で450℃で1時間加熱処理を行うことによって、ZnO膜の結晶性と電気伝導性を向上させた。
【0073】
その後、0.1mol/Lの硝酸亜鉛水溶液中で液温80℃で、−0.8V (Ag/AgCl電極基準)で定電位電解を行い、膜厚約200nmの(0001)配向を有するZnO膜を作製した。
【0074】
次いで、酢酸銀50mMと酢酸ナトリウム25mMを含有する水溶液中に、ZnO膜を形成した試料を入れ、液温25℃で0.25A/cmの定電流電解によって厚さ200nmのAgO膜を形成した。その後、大気中で200℃で30分間加熱処理を行い、禁制帯幅1.1eVを有するp型酸化物半導体である(111)優先配向のAgO膜を形成した。
【0075】
次いで、乳酸3Mと硫酸銅0.25Mを含有し、NaOHにてpHを12に調整した水溶液を用いて、AgO膜を形成した材料をカソードとして、電流密度50μA/cmで定電流電解を行うことにより、AgO膜上に、膜厚約200nmの(111)優先配向のCuO膜(禁制帯幅2.1eV)を形成した。
【0076】
この様にして、ZnO(透明電極)/ZnO(n型半導体膜)/AgO(p型半導体膜)/CuO(p型半導体膜)のヘテロ接合構造を形成した後、CuO膜上に上部電極として、厚さ0.2μmの銅電極を形成して、太陽電池構造を作製した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極上に、ZnO膜及びAgO膜が順次積層された構造を有する酸化物薄膜太陽電池。
【請求項2】
(0001)面に優先配向したZnO膜上に、(111)面に優先配向したAgO膜が形成されてなる請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
ZnO膜が、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含有する水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物中に被処理物を浸漬する方法、又は亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液中で電解処理を行う方法によって形成されたものであり、
AgO膜が、水溶性銀塩を含有する水溶液中で電解反応によってAgO膜を形成し、次いで、加熱処理を行うことによって形成されたものである、
請求項1又は2に記載の太陽電池。
【請求項4】
透明電極上に、ZnO膜、AgO膜及びCuO膜が順次積層された構造を有する酸化物薄膜太陽電池。
【請求項5】
(0001)面に優先配向したZnO膜上に、(111)面に優先配向したAgO膜と、(111)面に優先配向したCuO膜が形成されてなる請求項4に記載の太陽電池。
【請求項6】
ZnO膜が、亜鉛イオン、硝酸イオン及びアミンボラン化合物を含有する水溶液からなる酸化亜鉛膜形成用組成物中に被処理物を浸漬する方法、又は亜鉛イオン及び硝酸イオンを含有する水溶液中で電解処理を行う方法によって形成されたものであり、
AgO膜が、水溶性銀塩を含有する水溶液中で電解反応によってAgO膜を形成し、次いで、加熱処理を行うことによって形成されたものであり、
CuO膜が、水溶性銅塩を含むアルカリ性水溶液中で電解処理することによって形成されたものである、
請求項4又は5に記載の太陽電池。


【公開番号】特開2007−19460(P2007−19460A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56883(P2006−56883)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「太陽光発電技術研究開発 革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発 酸化物系薄膜太陽電池の研究開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592169518)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】