説明

酸化物超伝導薄膜

【課題】有毒な重金属を含まず、高いTcを有するBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】BaCan−1Cu2n(O1−x)2(ただし、nは2≦n≦5の整数、xは0<x<1の数)からなる酸化物超伝導薄膜10であって、SrTiO又はMgOの単結晶基板17の(100)面31、(010)面又は(001)面のうちのいずれかの面上に形成された酸化物超電導薄膜。SrTiO又はMgOの単結晶基板の(100)面、(010)面又は(001)面のうちのいずれかの面上にBaCan−1Cu2n(O1−x)2(ただし、nは2≦n≦5の整数、xは0<x<1の数)からなる酸化物超伝導薄膜を、パルスレーザーデポジション法により成膜する酸化物超伝導薄膜の製造方法であって、前記単結晶基板の基板温度が700℃〜770℃で成膜する成膜工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超伝導薄膜に関し、特にBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導薄膜及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1986年に約30K程度の高い超伝導転移温度(以下「Tc」という。)を持つ高温超伝導体の報告がされて以降、さらに高いTcを有する高温超伝導体の報告が数多くなされてきた。この高温超伝導体の構造は、Tcが高くなるにつれて複雑になる傾向にある。
【0003】
このような、複雑な構造の高温超伝導体の例として、例えばTl−Ba−Ca−Cu−O系酸化物超伝導体(以下「Tl系超伝導体」という。)、Hg−Ba−Ca−Cu−O系酸化物超伝導体(以下「Hg系超伝導体」という。)、Bi−Sr−Ca−Cu−O系酸化物超伝導体(以下「Bi−Sr系超伝導体」という。)等がこれまでも研究されており、これらの超伝導体の薄膜化も既になされている。
【0004】
しかしながら、Tl系超伝導体及びHg系超伝導体は有毒な重金属であるTlやHgを含んでいるという問題があった。また、Bi−Sr系超伝導体は、それぞれ2種類のレアメタル(Bi及びSr)を含むため、その入手の困難性が高いという問題があった。
【0005】
これに対し、近年、上述したTl系超伝導体、Hg系超伝導体或いはBi−Sr系超伝導体と同等の高いTcを有する酸化物超電導体としてBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の報告がなされた。このBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体は、有毒な重金属を含まず、しかもレアメタルを一つ(Ba)しか含まない特徴を有する。そのため、元素戦略上の観点から、Tl系超伝導体、Hg系超伝導体或いはBi−Sr系超伝導体に替わる酸化物超伝導体として注目を集めている。
【0006】
このBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体に関して、これまでもさまざま提案や報告がなされている。(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】彰 伊豫 他,“シンプレスト ノントシック ダブルーレイヤード Ba2CaCu2O4(O,F)2 スーパーコンダクター ウイズ ア トランジション テンプリチャー オブ 108K”,アプライド フィジクス レターズ,(米国), アメリカン インスティテュート オブ フィジクス,2008年,第92巻,222501−1〜222501−3頁(A.Iyo et al., “Simplestnontoxic double-layered cuprate Ba2CaCu2O4(O,F)2superconductor with a transition temperature of 108K”, Applied Physics Letters,(US), American Institute of Physics, 2008, vol.92, p222501-1〜p222501-3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1によれば、高圧法により合成されたBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体のバルクについて開示されている。しかし、このBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体を良好に薄膜化させたという研究結果は未だ報告されていない。この、Ba−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体からなる薄膜を例えば薄い帯状の金属の上に成膜した形態の線材、或いは前記薄膜による超電導素子等の応用範囲の拡大のために、Ba−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜は欠かせない。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、Ba−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、BaCan−1Cu2n(O1−x(ただし、nは2≦n≦5の整数、xは0<x<1の数)からなる酸化物超伝導薄膜であって、SrTiO又はMgOからなる単結晶基板の(100)面、(010)面又は(001)面のうちのいずれかの面上に形成された、酸化物超電導薄膜である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1記載の酸化物超電導薄膜において、パルスレーザーデポジション法により形成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2記載の酸化物超伝導薄膜において、前記パルスレーザーデポジション法による形成は、前記単結晶の基板温度が700℃〜770℃で行われることを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、SrTiO又はMgOの単結晶基板の(100)面、(010)面又は(001)面のうちのいずれかの面上にBaCan−1Cu2n(O1−x(ただし、nは2≦n≦5の整数、xは0<x<1の数)からなる酸化物超伝導薄膜を、パルスレーザーデポジション法により成膜する酸化物超伝導薄膜の製造方法であって、前記単結晶基板の基板温度が700℃〜770℃で成膜する成膜工程を含む、酸化物超伝導薄膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、BaCan−1Cu2n(O1−x(ただし、nは2≦n≦5の整数、xは0<x<1の数)からなる酸化物超伝導薄膜であって、SrTiO又はMgOの単結晶基板の(100)面、(010)面又は(001)面のうちのいずれかの面上に形成された構成であるから、I4/mmmで表される体心正方格子の結晶構造を有し、優れた超伝導特性を有するBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜を提供できる。
【0015】
また、パルスレーザーデポジション法により形成された構成であるから、優れた超伝導特性を有するBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜を容易に得ることができる。
【0016】
また、前記パルスレーザーデポジション法による形成は、前記単結晶基板の基板温度が700℃〜770℃で行われた構成であるから、I4/mmmで表される体心正方格子の結晶構造を有するBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜を再現性高く得ることができる。
【0017】
また、SrTiO又はMgOの単結晶基板の(100)面、(010)面又は(001)面のうちのいずれかの面上にBaCan−1Cu2n(O1−x(ただし、nは2≦n≦5の整数、xは0<x<1の数)からなる酸化物超伝導薄膜を、パルスレーザーデポジション法により成膜する酸化物超伝導薄膜の製造方法であって、前記単結晶基板の基板温度が700℃〜770℃で成膜する成膜工程を含む構成であるから、I4/mmmで表される体心正方格子の結晶構造を有し、優れた超伝導特性を有するBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態の酸化物超伝導体の結晶構造例を説明する概略図である。
【図2】本実施形態の薄膜製造装置の概略構成図である。
【図3】本実施形態の酸化物超伝導薄膜例を説明する断面模式図である。
【図4】本実施形態における酸化物超伝導薄膜のXRD回折パターン例を示す図である。
【図5】本実施形態における酸化物超伝導薄膜のXRD回折パターン例を示す図である。
【図6】本実施形態における酸化物超伝導薄膜の磁気特性の温度依存性を示す図である。
【図7】本実施形態における酸化物超伝導薄膜の磁気特性の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態の例について、図を用いて説明する。
まず、本実施形態の酸化物超伝導薄膜は、化学式がBaCan−1Cu2n(O1−xで表され、nが2≦n≦5の範囲の整数で、xが0<x<1の範囲の数からなる組成を有する酸化物超伝導体の薄膜で形成される。
この酸化物超伝導体1は、図1に示すように、I4/mmmで表される体心正方格子を組む結晶構造を有する。図1において、●はBa原子、ハッチングが施された○はCu原子、◎はCa原子、○はO(酸素)原子又はF原子をそれぞれ示す。また、鎖線が施された○は、後述するピラミッドの頂点位置の原子を示す。なお、図1において、符号a,符号b,符号cは、本実施形態の酸化物超伝導体1における結晶軸をそれぞれ示し、互いに直交する。
本実施形態の酸化物超伝導体の構造上の主な特徴は、図1において符号2で示すようにCu原子の周囲のO原子がピラミッド状に配位しており、このピラミッドの頂点位置のO原子3がF原子に置換されたものを含む点である。
【0020】
以下、説明の便宜のために上記化学式を簡略化し、n=2の場合を「Ba−0212」、n=3の場合を「Ba−0223」、n=4の場合を「Ba−0234」、n=5の場合を「Ba−0245」とそれぞれ表すことがある。
【0021】
本実施形態の酸化物超伝導薄膜10は、図3に示すように、例えばSrTiOの単結晶基板17の(100)面31上に成膜される。このように単結晶基板17をSrTiOの単結晶とし、しかもその(100)面31上に成膜するのは、SrTiOの単結晶の(100)面の格子定数が、本実施形態の酸化物超伝導体1の格子定数に近いからである。より詳しくは、本実施形態の酸化物超伝導薄膜10のa軸とb軸の格子定数がSrTiOの単結晶基板17のb軸及びc軸の格子定数に近いためである。
なお、本実施形態の単結晶基板17の形状は、例えば1辺の長さが10mmの略正方形の薄板状に形成される。
なお、単結晶基板は、本実施形態のSrTiOに限るものではなく、本実施形態の酸化物超伝導体1の格子定数に近い格子定数を有する結晶面を備えるMgOからなる単結晶基板であってもよい。また、酸化物超伝導薄膜は、本実施形態における(100)面上に形成された薄膜に限るものではなく、(010)面上或いは(001)面上であってもよい。SrTiO及びMgOの結晶構造が立方晶を有するからである。
【0022】
本実施形態の酸化物超伝導薄膜10は、公知のパルスレーザーデポジション(Pulsed Laser Deposition)法(以下「PLD法」という。)により成膜される。
ここで、PLD法について図2を用いて簡単に説明する。図2は、後述する薄膜製造装置20の概略構成図である。
PLD法は、図2に示すように、集光されたパルスレーザーLを後述するターゲット16に照射することによりターゲット16表面を超高温化(例えば〜数千度)し、固体原料(ターゲット16)を気化させて基板上(本実施形態の場合は単結晶基板17)に薄膜として堆積させる方法である。なお図2において、符号Pは、高温化されたターゲット16の表面から気化して放出される粒子が、プルームPと呼ばれるプラズマ状の発光体となっている様子を示している。
【0023】
次に、本実施形態で用いられる薄膜製造装置20について図2を用いて説明する。
薄膜製造装置20は、図2に示すように、真空チャンバー12、パルスレーザー照射部14、単結晶基板17を支持する基板支持部18、基板を加熱する基板加熱部21、酸素圧調整手段15、結晶解析手段(図示しない)等を備える。
真空チャンバー12は、図2に示すように、密閉状の容器からなり、その中に後述する単結晶基板17及びターゲット16等を収納する。そして、真空チャンバー12は、例えば公知のターボポンプ、ロータリーポンプや圧力調節弁等からなるチャンバー内圧力調整手段(それぞれ図示しない)に連結され、真空チャンバー12内の圧力が調整可能に構成される。
【0024】
次に、酸素圧調整手段15は、例えば酸素導入管やマスフローコントローラ等で構成され、真空チャンバー12の酸素圧を調整可能な構成となっている。なお、本実施形態において真空チャンバー12内に導入される酸素ガスは99.999%以上の純度を有する酸素ガスを用いた。
【0025】
次に、基板支持部18は、単結晶基板17を保持する基板ホルダ25、熱吸収板23を備える。
この熱吸収板23は、例えば一辺が9mmの略正方形でインコネル製の薄板材からなり、図2に示すように、単結晶基板17の裏面に密着状に接触させて配置される。
次に、基板ホルダ25は、例えばインコネル製の枠部材を含み、図2に示すように、その枠内に単結晶基板17を例えば水平状態で保持する。
なお、本実施形態の薄膜製造装置20は、例えばステッピングモーター等の基板ホルダ25を回転させる回転機構を備え、単結晶基板17の中央部を垂直方向に貫通する軸を中心にして例えば矢印M(図2参照)の方向に単結晶基板17を回転させる。
【0026】
次に、基板加熱部21は、図2に示すように、公知のハロゲンランプヒータ22、ハロゲンランプヒータ22からの熱を反射させる反射板24やこのハロゲンランプヒータの温度を制御する温度制御手段(図示しない)を備える。
そして、図2に示すように、ハロゲンランプヒータ22及び反射板24は、熱吸収板23の裏面からやや離隔させた位置に配置され、熱吸収板23及び単結晶基板17を加熱する。このように、基板加熱部21は、熱吸収板23を介して単結晶基板17の温度、すなわち基板温度を制御可能な構成となっている。なお、本実施形態において前記基板温度は、熱吸収板23の裏面から垂直方向に略7〜8mm離隔した位置における温度を示し、以後、基板温度Tsと表わす。
【0027】
さらに、例えば円板状のターゲット16が、図2に示すように、単結晶基板17に対向する真空チャンバー12内の所定位置に配置されてターゲットホルダー26で保持される。
なお、薄膜製造装置20は、ターゲットホルダー26を回転させる例えばステッピングモーター等の回転手段を備え、この回転手段によりターゲット16の中央部を垂直方向に貫通する軸を中心にして例えば矢印Mと逆の方向N(図2参照)に単結晶基板17を回転させる。
【0028】
次に、パルスレーザー照射部14は、例えばNd・YAGレーザー光をパルス状に発するパルスレーザー光源を備える。そして、パルスレーザー照射部14は、図2に示すように、例えば真空チャンバー12の窓から、Nd・YAGレーザー光からなるパルスレーザーLをターゲット16に照射する。このパルスレーザーをターゲット16に照射することで上述したプルームPが放出される。なお、レーザー光は、本実施形態のNd・YAGレーザー光に限るものではなく、例えばフッ化クリプトンを用いたエキシマレーザであってもよい。
【0029】
また、薄膜製造装置20は、プルームP中の粒子が単結晶基板17に到達することを遮蔽するシャター(図示しない)を備え、当該シャターを開くことによりエピタキシャル成長を開始できる構成となっている。
【0030】
さらに、本実施形態の結晶解析手段はRHEED(Reflection High Energy Erectron Diffractio)よりなり、電子線を試料表面に浅い角度で入射させ、表面原子によって回折された電子線に基づいて結晶の状態を解析できる構成となっている。
【0031】
本実施形態の薄膜製造装置20による成膜は、例えば真空チャンバー12内の真空度を調整し、次に基板加熱部21により基板温度Tsを調節し、次に酸素圧調整手段15により真空チャンバー12内の酸素圧を10〜20Pa(パスカル)に調整し、そしてパルスレーザーLをターゲット16に照射してプルームPを放出させ、単結晶基板17及びターゲット16を反対方向に回転させつつ単結晶基板17上にターゲット16成分を堆積させることにより行われる。
【0032】
次に本実施形態のターゲット16は、直接法により作製され、例えば円盤状に成形される。
直接法によれば、例えばCaCOとCuOとを、Ca:Cu=2:1のモル比となるように混合し、酸素気流中で加熱(1000℃で12時間加熱し、もう一度粉砕してさらに1000℃で12時間加熱)しCaCuOを作製する。このCaCuO、CaF、BaF、CuO、BaOの粉末を、Ba:Ca:Cu:F=2:n−1:n:2x(整数nが2≦n≦5,xが0< x <1)のモル比となるように例えばグローブボックス内(BaとF、Oの化合物以外の化合物による不純物の生成を抑制可能な、例えば窒素ガス雰囲気内)で混合し、さらにこの混合粉を酸素雰囲気で仮焼きし(850〜880℃、12時間程度)、その仮焼きしたものを粉砕してプレス成型する。そして、そのプレス成型したものを焼結(880〜920℃で12時間程度保持し、その後徐冷)することにより形成できる。
【0033】
なお、ターゲットは直接法によるものに限らず、例えば前駆体法によって作製されてもよい。この前駆体法によれば、直接法と同様のCaCuOの粉末とBaO、CaCO、CuOをBa:Ca:Cu=2:2:3に混合して、酸素気流中で加熱しBaCaCuとした前駆体を、Ba:Ca:Cu:F=2:n−1:n:2x(整数nが2≦n≦5,xが0< x <1)のモル比となるように例えば上述したグローブボックス内で混合し、この混合粉をプレス成型し、酸素雰囲気で焼結(800〜925℃、24時間程度)することにより形成できる.
【0034】
以下に、本実施形態の酸化物超伝導薄膜10の実施例及び比較例について説明する。
以下の実施例及び比較例において、まず、ターゲット16は、上述したように直接法により作製した。
その際、上述したCaCuO、CaF、BaF、CuO、BaOの粉末を、Ba:Ca:Cu:F=2:2:3:1.6のモル比となるように、すなわちBaCan−1Cu2n(O1−xの整数n=3、x=0.8となるように混合した。
【0035】
次に、以下の実施例及び比較例の成膜は、パスカル社製のスタンダードPLD装置を用いて行った。その際、ターゲット16に照射する照射レーザーは、上述したNd・YAGレーザー光で波長が266nm(Nd・YAG4倍波)のレーザー光を用いた。そして、パルスレーザーLの照射条件は、ビーム径を8mmφ、パルス幅2ns以下、ショット周波数10Hz及び下記フルエンスとした。
上記フルエンスは、真空チャンバー12のレーザー用ビューポートに入射する前に設置されたフォーカスレンズの直前の計測値で、59.68×10−3〜97.48×10−3J/cmの範囲のフルエンスとした。典型的には、59.68−3J/cmとした。前記フルエンスの範囲は、レーザー用ビューポートにおけるレーザー光の透過率を90%として、ターゲット16表面で換算した場合、略3.0〜6.0J/cmとなる。また、前記59.68−3J/cmは、同様にしてターゲット16表面で換算した場合、3.44J/cmとなる。
また、以下の実施例及び比較例において、パルスレーザーLをターゲット16に照射する時間を略30分とし、単結晶基板17上に略60nmの各成膜サンプルが得られた。
【0036】
以下に実施例1〜5について説明する。
[実施例1]
基板温度Tsを略770℃に調整し、真空チャンバー12内の酸素圧を10Paに調整して成膜サンプルを得た。
[実施例2]
基板温度Tsを略750℃に調整し、真空チャンバー12内の酸素圧を10Paに調整して成膜サンプルを得た。
[実施例3]
基板温度Tsを略700℃に調整し、真空チャンバー12内の酸素圧を10Paに調整して成膜サンプルを得た。
[実施例4]
基板温度Tsを略750℃に調整し、真空チャンバー12内の酸素圧を略17Paに調整して成膜サンプルを得た。以下、本成膜サンプルをP254という。
[実施例5]
基板温度Tsを略750℃に調整し、真空チャンバー12内の酸素圧を略15Paに調整して成膜サンプルを得た。以下、本成膜サンプルをP253という。
【0037】
以下に比較例について説明する。
[比較例1]
基板温度Tsを略800℃に調整し、真空チャンバー12内の酸素圧を略10Paに調整して成膜サンプルを得た。
[比較例2]
基板温度Tsを略650℃に調整し、真空チャンバー12内の酸素圧を略10Paに調整して成膜サンプルを得た。
【0038】
〔評価結果〕
以上のように形成された実施例1〜5並びに比較例1及び2の結晶性評価結果について図4及び図5を用いて説明する。
図4は、実施例1〜3、並びに比較例1及び2のXRD測定の結果を示すグラフである。図中、グラフAは比較例1の成膜サンプル、グラフBは実施例1の成膜サンプル、グラフCは実施例2の成膜サンプル、グラフDは実施例3の成膜サンプル、グラフEは比較例2の成膜サンプルの測定結果にそれぞれ対応する。また、図5(a)は、サンプルP253のXRD測定の結果を示すグラフであり、図5(b)は、サンプルP254のXRD測定の結果を示すグラフである。なお、図4及び図5において、●はBa−0223の結晶構造、すなわちI4/mmmで表される体心正方格子において現われるピーク位置を示している。
【0039】
図4によれば、実施例1〜3の成膜サンプルから得られる回折ピークは、Ba−0223の結晶構造において現われるピーク位置と極めてよく一致している。このように、Tsが700℃〜770℃の範囲で得られた成膜サンプルの結晶構造は、Ba−0223の結晶として良好な結晶構造を示していることが解かる。
ところが、比較例1及び2から得られる成膜サンプルの回折ピークは、Ba−0223の結晶構造において現われるピークと一致するピークがほとんどみられない。このように、Tsが770℃を越える温度例えば800℃や、700℃を下回る温度例えば650℃の場合は、Ba−0223の結晶として良好な結晶構造が得られていないことが解かる。
このように、本実施形態の酸化物超伝導薄膜の製造方法は、単結晶基板17の基板温度Tsが700℃〜770℃で成膜する成膜工程を含む構成となっているのである。
【0040】
次に、図5(a)及び図5(b)によれば、P253及びP254の双方ともBa−0223の回折ピーク位置に対応する位置にそれぞれの回折ピークを観測できており、双方ともBa−0223の結晶構造が良好に形成されていることがわかる。
【0041】
次に、図6及び図7を用いて、P253及びP254の磁気特性評価結果について説明する。この磁気特性の測定は、カンタムデザイン社製のPPMS(Phisical Property Measurement System)を用いて行った。
図6(a)は、上述したP253の磁化率(Magnetization)の特性であり、図6(b)は、P253の抵抗率(Resistivity)の特性である。また、図7(a)は、P254磁化率の特性であり、図7(b)は、P254の抵抗率の特性である。
図6(a)及び図7(a)において横軸は温度(K)を示し、縦軸は磁化率(emu)を示す。また、図6(b)及び図6(b)において横軸は温度(K)を示し、縦軸は抵抗率(mΩ―cm)を示す。
【0042】
また、図6(a)及び図7(a)においてFC(Field cooled)と付された測定値は、約4mm角の成膜サンプルに垂直(すなわち前記(100)面に垂直)に5Oeの外部磁場を掛けて冷却した場合の測定結果である。また、前記図中においてZFC(Zero−Field cooled)と付された測定値は、約4mm角の成膜サンプルをゼロ磁場下で冷却後、当該成膜サンプルに垂直(すなわち前記(100)面に垂直)に5Oeの外部磁場を掛けた場合の測定結果である。
また、図6(b)及び図7(b)は、四探針法により略4mm角の成膜サンプルに0.0001mAの電流を流して得られた抵抗率の測定値である。
【0043】
図7(b)によれば、P254の抵抗値が、90Kを境にして大きく低下していることがわかる。また、図7(a)によれば、P254の特にZFCにおける磁化率が、90Kを境に変化したことがわかる。このことから、P254は、常伝導から超伝導への臨界温度Tcが90Kである超伝導体であることがわかった。このように、P254によれば、バルクと同程度の高い臨界温度Tcを有するBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜を得ることができた。
【0044】
次に、図6(a)によれば、P253のZFCにおける磁化率が、55Kを境に変化しているのがわかるが、図7(b)で明らかなように、抵抗率は温度の低下に伴って上昇している。このことから、P253は、超伝導特性を示さないことがわかった。
この理由は、酸素圧の差により、P253の方がP254に比べて上述した結晶構造における頂点位置のO原子のF原子への置換が不十分な事或いは、P253の方がP254よりも超伝導特性が劣化しやすい事等が考えられる。
【0045】
これまで説明してきたように、本実施形態の酸化物超伝導薄膜10によればバルクと同程度の高い臨界温度Tcを有するBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜を提供できる。また、本実施形態の酸化物超伝導薄膜の製造方法によれば、バルクと同程度の高い臨界温度Tcを有するBa−Ca−Cu−O−F系酸化物超伝導体の薄膜の製造方法を提供できる。
【0046】
以上、本発明の実施形態のうちいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらはあくまでも例示であり、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 酸化物超伝導薄膜
17 単結晶基板
20 薄膜製造装置
31 (100)面
Ts 基板温度





【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaCan−1Cu2n(O1−x(ただし、nは2≦n≦5の整数、xは0<x<1の数)からなる酸化物超伝導薄膜であって、
SrTiO又はMgOの単結晶基板の(100)面、(010)面又は(001)面のうちのいずれかの面上に形成されたことを特徴とする酸化物超電導薄膜。
【請求項2】
パルスレーザーデポジション法により形成されたことを特徴とする請求項1記載の酸化物超伝導薄膜。
【請求項3】
前記パルスレーザーデポジション法による形成は、前記単結晶基板の基板温度が700℃〜770℃で行われたことを特徴とする請求項2記載の酸化物超電導薄膜。
【請求項4】
SrTiO又はMgOの単結晶基板の(100)面、(010)面又は(001)面のうちのいずれかの面上にBaCan−1Cu2n(O1−x(ただし、nは2≦n≦5の整数、xは0<x<1の数)からなる酸化物超伝導薄膜を、パルスレーザーデポジション法により成膜する酸化物超伝導薄膜の製造方法であって、
前記単結晶基板の基板温度が700℃〜770℃で成膜する成膜工程を含むことを特徴とする酸化物超伝導薄膜の製造方法。
































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−95648(P2013−95648A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241738(P2011−241738)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】