説明

酸化触媒用複合酸化物およびフィルター

【課題】Pt等の貴金属元素を含まずにディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させることができる酸化触媒に適した複合酸化物、さらにはPM燃焼時の発熱による熱劣化の少ない(すなわち高い耐熱性を備えた)複合酸化物を提供する。
【解決手段】Ceおよび典型金属元素であるBiと、酸素で構成され、CeおよびBiのモル比が下記[a]好ましくは下記[b]を満たす酸化触媒用複合酸化物。
[a]CeおよびBiのモル比を、Ce:Bi=(1−x):xとするとき、0<x≦0.9が成立する。
[b]CeおよびBiのモル比を、Ce:Bi=(1−x):xとするとき、0.1≦x≦0.7が成立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等のディーゼルエンジンから排出される粒子状物質(以下「PM」という)を燃焼させる酸化触媒に適した複合酸化物、並びにそれを用いた酸化触媒およびディーゼル排ガス浄化用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスが有する問題としては、特に窒素酸化物(NOx)とPMが挙げられる。なかでも、PMはカーボンを主体とする微粒子であり、現時点において広く用いられている除去方法として、排気ガス流路に多孔質体セラミックスからなるディーゼル・パーティキュレート・フィルター(DPF)を設置してPMを捕集する方法が挙げられる。捕集されたPMは外部ヒーター等を用いて間欠的または連続的に燃焼処理され、当該DPFはPM捕集前の状態に再生される。
【0003】
このDPF再生処理には、上述のように電気ヒーターやバーナー等、外部からの強制加熱によりPMを燃焼させる方法、DPFよりもエンジン側に酸化触媒を設置し、排ガス中に含まれるNOを酸化触媒によりNO2にし、NO2の酸化力によりPMを燃焼させる方法などが一般的に用いられている。しかし、電気ヒーターやバーナーなどで作用させるには外部に動力源を設置する必要があり、それらを確保、動作するための機構等が別途必要になるためシステムそのものが複雑化する。また、酸化触媒については触媒活性が十分発揮されるほど排ガス温度が高くないことや、ある一定の運転状況下でなければPM燃焼に必要なNOが排ガス中に含まれてこないことなど、解決すべき種々の問題がある。そのような中、DPFそのものに触媒を担持させ、その触媒作用によりPMの燃焼開始温度を低下させた上で、究極的な目標としては排ガス温度にて連続的に燃焼させる方法が望ましいとされている。
【0004】
特許文献1には触媒金属としてPtを担持したものが開示されている。しかし、排ガス温度レベルではPtはPMを燃焼させる触媒作用が低いため、燃料排ガス温度にてPMを連続的に燃焼させるのは困難と考えられる。また、貴金属を使用しているためコストの増大が避けられない。
【0005】
【特許文献1】特開平11−253757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
DPFにトラップされたPMを燃焼除去させるための酸化触媒(PM燃焼触媒)としては、一般的に高比表面積のアルミナ等に触媒金属のPtを担持させたものが現在では広く使用されている。しかし上述のように、Ptは排ガス温度レベルでのPM燃焼に対する触媒作用が低く、また高価であるためコスト増を招くという問題がある。
【0007】
一方、PM燃焼時の発熱により触媒温度が急激に上昇した場合を考慮すると、その温度上昇に伴う触媒機能の低下(熱劣化)ができるだけ少ない触媒物質の開発が待たれている。
【0008】
本発明はこのような現状に鑑み、Pt等の貴金属元素を含まずにディーゼルエンジン排ガスのPMを低温で燃焼させることができる酸化触媒用の複合酸化物、さらにはPM燃焼時の発熱による熱劣化の少ない(すなわち高い耐熱性を備えた)複合酸化物を開発し提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは詳細な検討の結果、PtよりもPM燃焼温度を大幅に低減させることのできる酸化触媒用の複合酸化物として、Ceおよび典型金属元素との組み合わせ、なかでもBiと、酸素とで構成される複合酸化物を得るに至った。具体的には、Ceおよび典型金属元素と、酸素から構成される複合酸化物が好ましく使用されることに想到した。なかでも、本発明者らの知見によると、典型金属元素の中でもBiが好ましく利用される。とりわけ良好な触媒活性を示すBiとCeの構成割合について検討したところ、CeおよびBiのモル比が下記[a]、好ましくは下記[b]を満たす複合酸化物が提供される。
[a]CeおよびBiのモル比を、Ce:Bi=(1−x):xとするとき、0<x≦0.9が成立する。
[b]CeおよびBiのモル比を、Ce:Bi=(1−x):xとするとき、0.1≦x≦0.7が成立する。
【0010】
前記複合酸化物として、大気中800℃×2h加熱する実験に供した後に、酸化セリウム構造の(111)面における結晶子径が19nm未満となるものが好ましく、17nm以下あるいはさらに15nm以下となる性質を有するものは特に優れた耐熱性を有する。このような優れた耐熱性を有するものにおいては、酸化セリウムとBi酸化物が複合化された酸化物として機能していると推測される。
【0011】
これらの複合酸化物を触媒物質として用いた酸化触媒は、ディーゼルエンジン排ガス中のPM燃焼触媒として使用でき、それをアルミナやコーディエライト、あるいはシリコンカーバイドなどの多孔質体に担持等を行うことによりディーゼル排ガス浄化用フィルターが構築される。
【発明の効果】
【0012】
Ceと典型金属元素、なかでもBiを主成分とする本発明の複合酸化物は、従来のPtを用いた酸化触媒と比べ、PMの自己発火開始温度を大幅に低減させることができる。このことによってPMの燃焼温度が低下することによりフィルターに加える熱を抑制することができ、これは各種排ガス系部材に対する負荷の軽減につながり、熱エネルギーの付加装置についても、少しの加熱で所望の効果を得ることができるため、装置としても大がかりな装置でなくコンパクトなもので足るようになる。
また、高価な白金族元素を使用する必要がないので、触媒物質の材料コストが低減される。
さらに、本発明の複合酸化物はPM燃焼時の発火によって高温の熱履歴を受けた場合でも熱劣化が少ないので、これを触媒物質として使用すると、酸化触媒の触媒活性を長期間にわたり高く維持することができることが期待される。
したがって本発明は、DPFを用いた排ガス浄化機構の長寿命化およびトータルコストの削減に寄与するものである
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明で提供される複合酸化物はCeと典型金属元素、なかでもBiを主成分とするものである。発明者らの知見により、上記にそった特性を発現するBiに関して述べれば、酸化セリウム構造体のCeの一部をBiで置換した構造の酸化物相を有するものである。酸化セリウム構造体のCeを置換していないBiが複合酸化物の中に存在していても構わない。これらの複合酸化物は、CeおよびBiのモル比が下記[a]好ましくは下記[b]を満たすものである。
[a]CeおよびBiのモル比を、Ce:Bi=(1−x):xとするとき、0<x≦0.9が成立する。
[b]CeおよびBiのモル比を、Ce:Bi=(1−x):xとするとき、0.1≦x≦0.7が成立する。
あるいはCe、Bi、および酸素のモル比で表現すれば、例えば下記(1)式で表すこともできる。
(1−x)CeO2−xBiyz ……(1)
ただし、0<x≦0.9好ましくは0.1≦x≦0.7、0<y≦4、0<z≦7である。
【0014】
発明者らの研究によると、この複合構造の酸化物は、Biを含有しない単純構造の酸化セリウムと比べ、より低温域から酸化触媒として、触媒活性が発揮されることが確認された。そのメカニズムについては不明な点も多いが、他のCeを含む複合酸化物において触媒効果発現機構として考えられているものと同様に、セリウム原子を主とする複合酸化物の陽イオンの見かけ上の価数変化が起こり、また、イオン半径が異なる元素同士の置換による格子の歪のため、格子中の酸素が格子外に放出されやすい状態となり、これによって比較的低温の温度域から酸化に必要な活性酸素が供給されるようになるのではないかと推察される。
【0015】
低温度域での触媒活性の向上作用、すなわちPMの燃焼開始温度の低減効果を示す典型金属元素としてBiを使用した場合、Biの添加量は少量であってもより高い触媒活性効果を示す。しかし、あまりBi添加量が高すぎてもその効果は向上せず、むしろ高温に曝されたときに触媒物質が溶融してしまう恐れがあることがわかってきた。これは、複合酸化物中へのBiの添加により、Ce割合が低下したことによって融点の低下が発生するためではないかと考えられる。Biの添加量が適正か否かについては、高温にさらした後の試料におけるX線回折により知ることができる。こうした評価により検討したところ、複合酸化物中へのBiの添加割合は、前記[a]のように0<x≦0.9の範囲とすることが好ましい。xが0.9を超えると焼成時にBiに起因する異相が生成しやすくなり、単一での酸化セリウム相の生成がみられなくなるため好ましくない。このことは、例えばX線回折により、酸化セリウム構造の他にBi酸化物主体の相と考えられる異相の回折ピークが目立つようになることから確認できる。このような異相が検出される場合は酸化セリウム構造に固溶していないBiが多く存在することを意味し、その場合、PMの燃焼温度を低下させる触媒作用が弱まるので好ましくない。Bi含有量は0.05≦x≦0.85の範囲とすることがより望ましい。
【0016】
PM燃焼触媒の用途を考慮すると、急激に高温に曝されるような熱履歴を受けたときに熱劣化の少ない特性を具備すること、すなわち耐熱性に優れることが望ましい。このような耐熱性を評価するには、例えば600℃前後の焼成温度で合成された複合酸化物を大気中800℃で2h加熱する処理(以下これを「耐熱処理」という)に供し、焼成後のままと、耐熱処理を受けた後とで、触媒活性がどの程度変化するかを見る方法が有効である。PMに対する触媒活性は例えば後述するPM燃焼開始温度にて評価でき、800℃の熱履歴を受けた後のPM燃焼開始温度と、焼成したままの複合酸化物を使用した場合とのPM燃焼開始温度の差を調べることにより当該触媒物質の耐熱性の程度を知ることができる。焼成温度が600℃の場合、上記耐熱処理(800℃)を受ける前の複合酸化物は600℃の熱履歴を受けているのみである。そこで、600℃焼成品に対して上記800℃の耐熱処理を施した場合の、耐熱処理前後のPM燃焼開始温度の差を、本明細書では「ΔT(800−600)」と表示する。酸化触媒において、ΔT(800−600)ができるだけ小さい値を示すことが当該触媒が耐熱性に優れていることを示すので好ましい。実用的な特性の見地から言うと、15℃以下であればよい。
【0017】
発明者らは600℃で焼成された種々のCeとBiを主成分とする複合酸化物について、ΔT(800−600)と、耐熱処理後の酸化物構造の関係について詳細に調査した。その結果、600℃で焼成された状態でBiに起因する異相が検出されなくても、800℃×2hの上記耐熱処理を施した後に新たに異相が確認される場合がある。そのような場合は、良好な耐熱性を示さない場合が多いことがわかってきた。詳細な検討の結果、CeとBiを主成分とする複合酸化物の耐熱性を評価する指標として、上記耐熱処理後の試料についての、酸化セリウム構造(111)面における結晶子径を検討することにより、ある程度の傾向が与えられることがわかってきた。発明者らの知見によると、CeとBiを主成分とする複合酸化物において、良好な耐熱性を呈するためには、大気中800℃×2hの熱履歴を受けた後に、酸化セリウム構造の(111)面における結晶子径が19nm未満であることが望ましい。そして、上記耐熱処理後に前記結晶子径が17nm未満を維持する性質を有するものがより好ましい対象となり、15nm以下となるものが一層好ましい。
【0018】
特に優れた耐熱性を具備するCeとBiを主成分とする系複合酸化物は、前記[b]のように、Bi含有量が0.1≦x≦0.7を満たす組成範囲で実現できる。この組成範囲外では耐熱性の顕著な向上を安定して実現することが難しくなる。Bi含有量は耐熱性と初期活性両立の見地から0.2≦x≦0.6にコントロールすることが一層好ましい。
【0019】
本発明の複合酸化物を湿式法で製造する場合は、例えば、Ceの水溶性塩と典型金属元素の水溶性塩(例えばBiの水溶性塩)を沈殿剤により沈殿させ、その沈殿物を乾燥させた「前駆体」を熱処理する方法によって製造することができる。
具体的にBiについて述べると、Ceの水溶性塩とBiの水溶性塩を溶解した水溶液と、炭酸アルカリとを反応させることによって得られる沈殿生成物を濾過、洗浄・乾燥することによって前駆体を得る。沈殿を生成させる液中のCeおよびBiのイオン濃度は、溶解度によって上限が決まる。しかし、あまり濃度が濃すぎると、攪拌時に均一に反応が生じず不均一になる可能性があり、また攪拌時に装置の負荷が過大になる場合があるので、現実的ではない。
【0020】
沈殿物を得るためには炭酸アルカリを用いることが推奨される。具体的に例示すると、炭酸水、炭酸ガス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなど炭酸を主成分とするものと、アンモニア水もしくはアンモニウムの各水溶性塩を混合して使用すること、あるいはその双方を併せ持つ炭酸アンモニウム化合物、具体的には炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどを使用することが好ましく、そのときの液のpHは6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6未満の領域では、BiとCeが共沈しない場合があるので好ましくない。
【0021】
得られた沈殿物は必要に応じて濾過、水洗され、真空乾燥や通風乾燥などにより乾燥させ、前駆体とする。この際、乾燥による脱水効果を高めるため、濾過の形態のまま乾燥処理するか、所定の形状に造粒した後に乾燥処理させることができる。その後、得られた前駆体を、粉末形状あるいは造粒した状態のまま、例えば400〜1000℃、好ましくは500〜800℃で熱処理することにより、目的とする複合酸化物を得ることができる。この際、熱処理時の雰囲気は複合酸化物が生成できるような条件であれば特に制限されず、例えば、空気中、窒素中、アルゴン中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気を使用することができ、好ましくは空気中、窒素中およびそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気が使用できる。
【実施例】
【0022】
《触媒物質の作製》
各実施例、比較例の触媒物質を以下のようにして作製した。
〔実施例1〜7〕
硝酸セリウム六水和物(Ce(NO33・6H2O)、硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO33・5H2O)を、CeとBiのモル比が表1に示す各実施例の値になるように秤量し、混合した。この混合物を、CeとBiの液中モル濃度の合計が0.2mol/Lとなるように水に添加して原料溶液を得た。この溶液を攪拌しながら沈殿剤として炭酸アンモニウムの水溶液を添加した。その後、30min攪拌を継続することにより、沈殿反応を十分に進行させた。得られた沈殿をろ過、水洗し、125℃で約15h乾燥した。得られた粉末を前駆体という。次に、この前駆体を大気雰囲気下600℃で2h焼成してCeとBiを主成分とする複合酸化物粉体を得た。これを「600℃熱処理品」という。また600℃熱処理品の一部を大気雰囲気下800℃でさらに2h加熱する耐熱処理に供し、「800℃熱処理品」を得た。
【0023】
〔比較例1〕
アルミナ粉とジニトロジアミン白金溶液をAl23に対してPtが質量%で3%になるように水に投入し、この状態で2h維持して、PtをAl23に含浸させた。次に、エバポレーターを使用して110℃で2h蒸発乾固することによってPtをアルミナに担持させ、110℃で乾燥した。アルミナ中のPt含有量は3.42質量%である。得られた乾燥品を大気中600℃で2h焼成し、その一部を大気中800℃でさらに2h加熱処理した。このようにして「600℃熱処理品」と「800℃熱処理品」を得た。
【0024】
〔比較例2〕
酸化セリウムIVの試薬(関東化学株式会社製、純度99.99%)を、大気雰囲気下600℃で2h、または大気雰囲気下800℃で2h熱処理して、「600℃熱処理品」と「800℃熱処理品」を得た。
【0025】
以上のようにして得られた触媒物質を用いて以下の実験を行った。
《X線回折パターンの測定》
各例で得られた「800℃熱処理品」(比較例1を除く)について、X線回折測定を行った。測定条件は以下のとおりである。
・X線回折装置: 株式会社リガク製、RINT−2100
・測定範囲: 2θ=10〜90°
・スキャンスピード: 8.0°/min
・サンプリング幅: 0.02°
・管球: Co管球(Co−Kα線使用)
・管電圧: 40kV
・管電流: 30mA
【0026】
測定の結果、実施例2(Bi:0.75)を除き、800℃の熱履歴を受けた後においても酸化セリウム(CeO2)構造の複合酸化物が維持されていることが確認された。実施例2はBiのモル比(x)が0.75と高いものであり、800℃の熱履歴を受けるとBi酸化物主体の異相のピークが、酸化セリウム構造のピークよりも大幅に目立つようになった。
図2に、実施例2、実施例4 比較例2のX線回折パターンを例示してある。
【0027】
《結晶子径の算出》
各例で得られた「800℃熱処理品」(実施例7、比較例1を除く)について、酸化セリウム構造の(111)面のブラッグ条件を満たす2θの近傍でX線回折測定を行い、結晶子径を算出した。測定条件は、上記《X線回折パターンの測定》で示した内容で行っている。測定の積算回数は5回とした。
また、結晶子径の算出は、MDI社製のX線回折解析ソフトウエアJADE6を使用して実施している。ピークの平滑化時における平滑化点数は45点で実施した。
なお、CeO2の(111)面における回折ピークは2θ=33°付近に確認されるので、測定範囲は2θ=31.5〜35.5°の間の測定で行ってもかまわない。
結晶子径の算出には下記のシェラーの式を用いた。
t=0.9λ/B・cosθ
ただし、t:結晶子径(結晶粒の直径)(nm)
λ:CoのKα1の波長(nm)
B:ピークの半価幅(回折線の広がり幅)(°)
θ:CeO2の(111)面のブラグ条件を満たす角度(°)
【0028】
結果を表1に示す。
また、図8にBi添加比率(モル比)xと結晶子径の関係を示す。図9には2θ=31.5〜35.5°の範囲で測定されたX線回折パターンを例示する。
【0029】
《PM燃焼開始温度評価》
各実施例、比較例で得られた「600℃熱処理品」および「800℃熱処理品」(ただし実施例7は「600℃熱処理品」のみ)について、カーボンブラックとの混合粉を作り、その中の一部を規定量分取した上、TG/DTA装置を用いてカーボンブラック燃焼開始温度を求めることによって評価した。具体的には以下のようにした。
【0030】
模擬PMとして市販のカーボンブラック(三菱化学製、平均粒径2.09μm)を用い、触媒物質の粉体とカーボンブラックの質量比が6:1になるように秤量し、自動乳鉢機(石川工場製AGA型)で20分混合し、カーボンブラックと各試料粉体の混合粉体を得た。この混合粉体について熱重量測定(TG)を行い、カーボンブラックの燃焼に伴う重量減少からカーボンブラックの燃焼温度を求めた。評価方法はTG/DTA装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6300型)を用い、混合粉体20mgを昇温速度10℃/minにて常温から700℃まで大気中で昇温し、重量減少量の測定を行った(カーボンブラックは燃焼により二酸化炭素として系外に排出されるので、初期重量からは減少傾向になる)。図1に、重量変化曲線(TG曲線)を模式的に示し、燃焼開始温度の算出方法について示した。例示するとおり、カーボンブラック燃焼開始温度は、TG曲線において、重量減少が始まる前の接線と、重量減少率(傾き)が最大となる点での接線とが交わる点の温度としている(図1参照)。
【0031】
結果を表1に示す。
また、図3および図4に、それぞれ「600℃熱処理品」および「800℃熱処理品」についてのBi添加比率xとカーボンブラック燃焼開始温度の関係を示す。図5にはBi添加比率xとΔT(800−600)の関係を示す。
【0032】
《BET比表面積の測定》
各実施例、比較例で得られた「600℃熱処理品」および「800℃熱処理品」(ただし実施例7は「600℃熱処理品」のみ)について、メノウ乳鉢で解粒し、粉末とした後、BET法により比表面積を求めた。測定はユアサイオニクス製の4ソーブUSを用いて行った。
【0033】
【表1】

【0034】
表1、図3、図4からわかるように、各実施例のCeとBiを主成分とする複合酸化物を触媒物質に使用すると、Ptを触媒物質に用いた比較例1や、Biを添加していない試薬の酸化セリウムを触媒物質に用いた比較例2と比べ、「600℃熱処理品」および「800℃熱処理品」のカーボンブラック燃焼開始温度が大幅に低減した。したがって、CeとBiを主成分とする複合酸化物はPM燃焼温度の低減に大きく寄与しうると評価される。
【0035】
また、表1からわかるように、ΔT(800−600)が42℃と比較的高かった実施例2でも「800℃熱処理品」のカーボンブラック燃焼開始温度は比較例のものより大幅に低い値を維持しており、各実施例ものは良好な耐熱性を有すると言える。特に結晶子径が小さく、異相の生成が見られなかった実施例1、3〜6は極めて良好な耐熱性を有していた。これらのものでは、800℃の熱履歴を与えた後もBiがほとんど酸化セリウム構造の相に固溶、もしくは活性に悪影響のでない程度に共存して存在するものと考えられ、これが優れた耐熱性の維持をもたらしているものと推察される。
【0036】
図6および図7には、それぞれ実施例1の「600℃熱処理品」および「800℃熱処理品」についてのTEM(透過形電子顕微鏡)写真を示す(掲載した写真の撮影倍率は174000倍、透過形電子顕微鏡は日本電子(株)製のJEM−100CXMark−II形を使用)。図6と図7を比較すると、「800℃熱処理品」でも粒子の粗大化はほとんど目立たないことがわかる。写真を見る限りにおいては、粒子は凝集体を形成しているとみられるが、一次粒子については600℃の焼成処理、又その後の800℃の耐熱処理のいずれを行った後でも、粒子の形態は保持されており、焼結による粒子の粗大化は抑制されている。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】TG曲線と燃焼開始温度の算出方法を模式的に示した図。
【図2】800℃熱処理品のX線回折パターンを例示した図。
【図3】600℃熱処理品についてBi添加比率xとカーボンブラック燃焼開始温度の関係を示したグラフ。
【図4】800℃熱処理品についてBi添加比率xとカーボンブラック燃焼開始温度の関係を示したグラフ。
【図5】Bi添加率比とΔT(800−600)の関係を示したグラフ。
【図6】実施例1の600℃熱処理品についてのTEM写真。
【図7】実施例1の800℃熱処理品についてのTEM写真。
【図8】800℃熱処理品についてBi添加比率と酸化セリウム構造{111}面における結晶子径の関係を示したグラフ。
【図9】800℃熱処理品について2θ=31.5〜35.5°の範囲で測定されたX線回折パターンを例示した図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ceおよび典型金属元素と、酸素とで構成される酸化触媒用複合酸化物。
【請求項2】
CeおよびBiと、酸素とで構成される酸化触媒用複合酸化物。
【請求項3】
CeおよびBiと、酸素で構成され、CeおよびBiのモル比が下記[a]を満たす酸化触媒用複合酸化物。
[a]CeおよびBiのモル比を、Ce:Bi=(1−x):xとするとき、0<x≦0.9が成立する。
【請求項4】
CeおよびBiと、酸素で構成され、CeおよびBiのモル比が下記[b]を満たす酸化触媒用複合酸化物。
[b]CeおよびBiのモル比を、Ce:Bi=(1−x):xとするとき、0.1≦x≦0.7が成立する。
【請求項5】
大気中800℃×2hの加熱処理に供した後に、酸化セリウム構造における結晶子径が19nm未満となる性質を有する請求項1〜4のいずれかに記載の酸化触媒用複合酸化物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の複合酸化物を触媒物質として用いた酸化触媒。
【請求項7】
前記酸化触媒はディーゼルエンジン排ガス中のPMを燃焼させる触媒である請求項6に載の酸化触媒。
【請求項8】
請求項6に記載の酸化触媒を用いたディーゼル排ガス浄化用フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−216150(P2007−216150A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−39999(P2006−39999)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】