説明

酸性電気銅めっき液及び電気銅めっき方法

【課題】良好な埋め込み性(ビアフィリング性)と優れた均一電着性を同時に併せ持ち、スルホールとブラインドビアホールの両方を含む被めっき物に対しても、電気的に信頼性の高い銅めっき皮膜を形成することが可能な新規な銅めっき液を提供する。
【解決手段】銅イオン、並びに有機酸及び無機酸から選ばれた少なくとも一種の酸成分を必須成分として含有する水溶液を基本めっき浴とする酸性電気銅めっき液であって、
(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミン、(2)二塩基性カルボン酸系化合物、並びに(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物、からなる三成分を反応させて得られる水溶性樹脂を含有することを特徴とする酸性電気銅めっき液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性電気銅めっき液及び電気銅めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化、小型化等に対応するために、プリント配線板の高密度化が強く望まれている。通常、多層プリント配線板では、プリント配線板の表裏の回路および内層回路を接続するために、スルホールと呼ばれる貫通穴を形成し、その内面に銅めっきが施されている。この場合、電気的接続の信頼性を確保するためには、基板表面の回路部分の銅めっき皮膜とスルホール内部の銅めっき皮膜の膜厚ができるだけ均一であることが望ましく、そのために均一電着性に優れた銅めっき液が必要とされている。
【0003】
また、高密度配線を実現するための手法の一つとして、一層ごとに配線パターンを形成し、逐次積層を行うビルドアップ工法による多層プリント配線板の製造方法が広く採用されている。このようなビルドアッププリント配線板では、隣接する層間の電気的接続を行うために、ブラインドビアホールと称される直径20〜200μm程度、深さ10〜100μm程度の穴を開け、その内壁面に銅めっきを行うことが一般的である。しかしながら、この方法では、銅めっき後にもビアホール部分に窪みが残るために、ビアホールの位置が限定され、ビルドアップ配線板の小型化の妨げとなっている。この様な問題に対応するために、ビアホール上にビアホールを一直線上に形成する、いわゆるスタックドビア構造とすることが必要であり、ビア内壁面にのみ導電性を持たせるのではなく、ビア内部全体を電気めっきによって充填するビアフィリングと呼ばれる方法が開発され、ビルドアップ配線板の小型化に大きく貢献している。
【0004】
また、LSI等の半導体ウェハーでは、その高密度化に伴って、従来の乾式めっきによるアルミニウム合金系配線に代えて、電導性に優れた銅配線を硫酸銅めっきにより形成するダマシンプロセスが注目されている。この方法は、半導体ウェハー上のサブミクロンの溝(トレンチ)を硫酸銅めっきによって埋め込んで銅配線を形成する方法である。
【0005】
この様なビルドアップ配線板の製造工程におけるビアフィリングや半導体ウェハーの製造工程におけるダマシンプロセスなどでは、ビア、微細な溝等の凹部を電気めっき法によって精度良く埋め込みことが必要であり、そのために、凹部に対する埋め込み性、即ちビアフィリング性に優れた銅めっき液が要求されている。
【0006】
以上の様に、多層プリント配線板、LSI微細銅配線等の高密度配線化、接続信頼性の向上等のためには均一電着性に優れた銅めっき液が必要とされており、また、ブラインドビアホールや半導体ウェハーの微細な溝等の凹部を精度良く埋め込むためには、ビアフィリング性に優れた銅めっき液が必要とされている。
【0007】
一般に、硫酸銅めっき液は、金属塩である硫酸銅と電解質である硫酸を基本組成とし、更に、皮膜物性、めっき外観等に優れた銅めっき皮膜を得ることを目的として、ポリマー、ブライトナー、レベラーと称される添加剤や塩素イオンが加えられている。
【0008】
これらの成分の内で、レベラーは、平坦部に多く吸着して、平坦部のめっき析出を抑制する働きをするものであり、レベラーの吸着量が少ない凹部に優先的にめっきが析出することによって、レベリング作用が発揮されるものと考えられている。レベラー成分としては、通常、4級アミン化合物が用いられており、これはカチオン性を有することから、電流密度が高くなる部分に多く吸着してその部分の電析を抑制し、これにより均一電着性が向上すると考えられている。また、ブライトナーは、めっきの析出を促進する作用があり、めっき初期の段階では、被めっき物における吸着量は均一であるが、めっきの成長に伴って凹部の表面積が小さくなると、凹部におけるブライトナーの吸着量が密となって、凹部におけるめっきの析出が促進され、その結果レベリング作用が発揮されるものと考えられている。また、ブライトナーは、めっき皮膜の結晶構造を微細化し、光沢性を与え高延展性の皮膜物性を与えるとされる。
【0009】
上記したプリント配線板のスルホールめっきやビルドアップ配線板のビアフィリングめっきでは、これらの添加剤作用を利用して、ブライトナーおよびレベラーとして最適な成分の組合せを選択することによって、目的とする特性を有する銅めっき皮膜を形成している(下記非特許文献1等参照)。
【0010】
被めっき物中にスルホールとブラインドビアホールが混在する場合には、スルホールに対する均一電着性とブラインドビアホールに対するビアフィリング性を同時に満足することが必要となるが、両方の性能を同時に満足することは非常に困難である。特に、ビアフィリング性を目的とする銅めっき液では、染料系のレベラーを用いることが多いが(下記特許文献1参照)、染料系レベラーは拡散支配性が非常に強く、拡散層が薄い表面に多く吸着して表面の電析を強く抑制し、拡散層の厚い凹部、すなわちビア内の電析を促進してビアフィリングを可能にするものであり、スルホールを有する基板で使用すると拡散層の厚さや撹拌の大小の影響を受けやすくなる。近年、高密度配線に伴いスルホールの穴径はますます小径化しているためにその影響は顕著であり、スルホールのコーナー部やスルホール内壁片側のめっき厚が極端に薄くなってしまい、電気的信頼性が低下するという問題がある。
【非特許文献1】松浪卓史,伊藤智子,岩本由香,大和茂;エレクトロニクス実装学術誌,4(7),p629(2001)
【特許文献1】国際公開公報WO2002/090623
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は良好な埋め込み性(ビアフィリング性)と優れた均一電着性を同時に併せ持ち、スルホールとブラインドビアホールの両方を含む被めっき物に対しても、電気的に信頼性の高い銅めっき皮膜を形成することが可能な新規な銅めっき液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、銅イオンと、有機酸及び無機酸から選ばれた少なくとも一種の酸を必須成分として含有する水溶液を基本めっき浴とする酸性電気銅めっき液中に、ポリアミン類、二塩基性カルボン酸系化合物、及び特定の架橋性化合物を反応させて得られる水溶性樹脂を添加することによって、良好な埋め込み性と同時に、優れた均一電着性を有する電気銅めっき液が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、下記の酸性電気銅めっき液及びめっき方法を提供するものである。
1. 銅イオン、並びに有機酸及び無機酸から選ばれた少なくとも一種の酸成分を必須成分として含有する水溶液を基本めっき浴とする酸性電気銅めっき液であって、
(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミン、(2)二塩基性カルボン酸系化合物、並びに(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物、からなる三成分を反応させて得られる水溶性樹脂を含有することを特徴とする酸性電気銅めっき液。
2. 水溶性樹脂が、(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミンと、(2)二塩基性カルボン酸系化合物とを反応させた後、(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物を反応させて得られるものである、上記項1に記載の酸性電気銅めっき液。
3. 水溶性樹脂が、更に、アルキル化剤、尿素類、酸化剤、及び活性水素を少なくとも1個有する脂環式化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を反応させて得られるものである上記項1又は2に記載の酸性電気銅めっき液。
4. 基本めっき浴が、(i)銅イオン、(ii)有機酸及び無機酸から選ばれた少なくとも一種の酸成分、(iii)塩化物イオン、(iv)非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤、並びに(v)含硫黄有機化合物、を含有する水溶液である、上記項1〜3のいずれかに記載の酸性電気銅めっき液。
5. 上記項1〜4のいずれかの記載の銅めっき液中において、貫通穴及び凹部のいずれか一方又は両方を有する被めっき物に対して通電することを特徴とする電気銅めっき方法。
6. 被めっき物が、スルホール及びブラインドビアホールのいずれか一方若しくは両方を有するプリント配線板、又は配線用の溝部を有する半導体ウェハーである上記項5に記載の電気銅めっき方法。
【0014】
本発明の酸性電気銅めっき液は、銅イオン、並びに有機酸及び無機酸から選ばれた少なくとも一種の酸成分を必須成分として含有する水溶液を基本めっき浴とする酸性銅めっき液であって、添加剤成分として、(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミン、(2)二塩基性カルボン酸系化合物、並びに(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物の三成分を反応させて得られる水溶性樹脂を含有することを特徴とするものである。
【0015】
以下、まず、本発明の酸性電気銅めっき液に含まれる水溶性樹脂について説明する。
【0016】
水溶液樹脂
本発明で用いる水溶性樹脂は、(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミン、(2)二塩基性カルボン酸系化合物、並びに(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物からなる三成分を反応させて得られるものである。該水溶性樹脂を構成する各成分は、以下の通りである。
【0017】
(i)ポリアミン
ポリアミンとしては、アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を用いることができる。この様なポリアミンとしては、1級アミノ基を2個有し、これらの1級アミノ基を、2級アミノ基が結合していてもよいアルキレンを介して結合した化合物を用いることができる。この様なポリアミンの内で、アルキレンジアミン類の具体例としては、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を挙げることができ、ポリアルキレンポリアミン類としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、イミノビスプロピルアミン、3−アザヘキサン−1,6−ジアミン、4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン等を挙げることができる。これらのポリアミンは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0018】
これらの中では、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等が工業的に有利である。また所望により、このポリアミンとともに、モノアミン又はアンモニアを少量併用することもできる。
【0019】
(ii)二塩基性カルボン酸系化合物
二塩基性カルボン酸系化合物としては、分子内に2個のカルボキシル基を有する二塩基性カルボン酸、該二塩基性カルボン酸から誘導される化合物、例えば、エステル類、酸無水物などを用いることができる。二塩基性カルボン酸系化合物は、脂肪族、芳香族、脂環式のいずれであってもよい。
【0020】
遊離の二塩基性カルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、シクロヘキサン−1,3−又は−1,4−ジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、3−又は4−メチルテトラハイドロフタル酸、3−又は4−メチルヘキサハイドロフタル酸等の脂環式ジカルボン酸等を例示できる。なお、脂環式基が不飽和結合を有し、その不飽和結合の位置が明示されていない場合、その不飽和結合の位置は特に限定されない。以下においても同様である。
【0021】
二塩基性カルボン酸のエステル類としては、上記遊離酸と低級アルコールとのモノ−又はジ−エステル類、上記遊離酸とグリコール類とのポリエステル類などを用いることができる。酸無水物の具体例としては、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラハイドロ無水フタル酸、ヘキサハイドロ無水フタル酸、3−又は4−メチルテトラハイドロ無水フタル酸、3−又は4−メチルヘキサハイドロ無水フタル酸などを挙げることができる。
【0022】
二塩基性カルボン酸とグリコール類との反応生成物であるポリエステルも有利に使用され、特に、遊離カルボキシル基を有するものが好ましい。ここで用いるグリコール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールのようなアルキレングリコール類、シクロペンタンジオール、シクロヘキサンジオールのようなシクロアルキレングリコール類、ブテンジオール、オクテンジオールのようなアルケニレングリコール類、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールのようなポリアルキレングリコール類、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物などを例示することができる。二塩基性カルボン酸とグリコール類との反応にあたって、カルボン酸過剰モル比で反応させれば、分子末端に遊離カルボキシル基を有するポリエステルが得られる。
【0023】
二塩基性カルボン酸系化合物は、一種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
(iii)架橋性化合物
架橋性化合物としては、アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を用いることができる。
【0025】
これらの架橋性化合物の内で、アルデヒド類は、分子中に−CHO 基を少なくとも1個有する化合物であればよく、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルキルアルデヒド類;グリオキザール、プロパンジアール、ブタンジアール等のアルキルジアルデヒド類などが挙げられる。工業的には、ホルムアルデヒド、グリオキザール等が有利である。
【0026】
架橋性化合物の内で、エピハロヒドリン類は、次の一般式で示される化合物である。
【0027】
【化1】

【0028】
式中、Xは、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を表し、wは1、2又は3である。エピハロヒドリン類の好ましい例としては、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられる。
【0029】
架橋性化合物の内で、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類は、次の一般式で示される化合物である。
【0030】
【化2】

【0031】
式中、Y及びZは同一又は異なって、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子を表す。α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類の具体例としては、1,3−ジクロロ−2−プロパノールなどが挙げられる。
【0032】
架橋性化合物の内でグリシジル化合物は、分子内にグリシジル基を少なくとも2個有する化合物である。その具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールジグリシジルエーテル類;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等のポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル類;レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等の芳香族ジグリシジルエーテル類;トリメチロールプロパンジ−又はトリ−グリシジルエーテル、ソルビトールジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−又はヘキサ−グリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジ−、トリ−又はテトラ−グリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0033】
架橋性化合物の内でイソシアネート類は、分子内にイソシアナト基を少なくとも2個有する化合物である。その具体例としては、イソホロンジイソシアネート、3−(2−イソシアナトシクロヘキシル)プロピルイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等の脂環式イソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトヘキサン酸メチル(リジンジイソシアネートとも呼ばれる)等の脂肪族イソシアネート類;トリレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアナトフェニル)チオフォスフェート、フェニレンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類が挙げられる。
【0034】
上記したアルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる架橋性化合物は、一種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類のうちで、異なる種類に属するものを2種以上併用することもできる。
【0035】
(iv)水溶性樹脂の製造方法:
本発明で用いる水溶性樹脂は、ポリアミン、二塩基性カルボン酸系化合物及び架橋性化合物の三成分を反応させることによって得ることができる。各成分の反応順序は任意であり、特に制限されないが、例えば、ポリアミンと二塩基性カルボン酸化合物とを反応させてポリアミドポリアミンとした後、これに架橋性化合物を反応させるという態様を採ることができる。以下、この方法について具体的に説明する。
【0036】
ポリアミンと二塩基性カルボン酸系化合物との反応は、脱水又は脱アルコールによる重縮合反応であり、これによりポリアミドポリアミンが形成される。
【0037】
二塩基性カルボン酸系化合物の使用量は、通常、ポリアミン1モルに対して、0.1〜2モル倍の範囲とすることができ、0.2〜1.2モル倍の範囲とすることが好ましい。
【0038】
この反応では、鉱酸、スルホン酸類等を触媒として用いることもできる。鉱酸の例としては塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられ、スルホン酸類の例としては、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等があげられる。中でも硫酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等が好ましい。触媒を用いる場合、その使用量は、ポリアミンの1級及び2級アミノ基の合計量に対して、通常0.005〜0.1モル倍程度、好ましくは0.01〜0.05モル倍程度とすればよい。
【0039】
ポリアミンと二塩基性カルボン酸系化合物とを反応させる方法としては、常圧下または減圧下において、約50〜250℃程度で、水などを除去しながら反応させる方法を例示できる。反応初期における急激な発熱を制御するため、例えば水を加え反応させても良い。水は急激な発熱を抑制するに必要な量であれば良く、通常、ポリアミン及び2塩基性カルボン酸系化合物の合計量100重量部に対して0.1〜30重量部程度とすればよい。
【0040】
この反応は、通常、得られる重縮合体であるポリアミドポリアミンを含む反応溶液を25℃、水含有量50重量%にて測定した粘度が、50mPas以上程度、好ましくは約100〜1000mPas程度となるまで行えばよい。
【0041】
次いで、上記した反応による生成物であるポリアミドポリアミンを、架橋性化合物と反応させる。この反応により、ポリアミドポリアミン構造の2級アミノ基部分と2塩基性カルボン酸系化合物との反応で未反応の1級アミノ基が残存する場合、この部分が架橋性化合物と反応することによって架橋構造が形成される。また反応によって形成した3級アミノ基は、さらに架橋性化合物と反応することにより4級アミノ基となり、カチオン化度が増加する。
【0042】
架橋性化合物の使用量は、通常、ポリアミンと二塩基性カルボン酸系化合物との反応生成物であるポリアミドポリアミンの1級及び2級アミノ基の合計量に対して0.1〜2モル倍程度の範囲とすることができ、0.2〜1.1モル倍程度の範囲とすることが好ましい。
【0043】
この反応は、通常、水溶液中で実施される。その水分含量としては、通常、30〜80重量%程度、好ましくは40〜70重量%程度とすればよい。80%よりも多い水分含量で反応を行うと、反応速度が低下する傾向にあり好ましくなく、30%よりも少ない水分含量で反応を行うと反応速度が早くなる傾向にあり、反応液がゲル化する傾向にあることから好ましくない。
【0044】
ポリアミドポリアミンと架橋性化合物との反応温度は、通常、10〜80℃程度、好ましくは15〜70℃程度、より好ましくは20〜60℃程度である。ポリアミドポリアミンと架橋性化合物との反応は、例えば、未反応の架橋性化合物量が、架橋性化合物の使用量に対して、10%程度以下となるまで行えばよい。
【0045】
(v)その他の成分
本発明で用いる水溶性樹脂は、上記の三成分に加えて、さらに他の成分を反応させたものであってもよい。例えば、アルキル化剤、尿素類、酸化剤、及び活性水素を少なくとも1個有する脂環式化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物(以下、「水溶性樹脂改質成分」ということがある)を反応させることができる。これらの水溶性樹脂改質成分を反応させることによって、水溶性のカチオン化度が増加し、電析抑制作用の程度を調整することができる。
【0046】
上記した水溶性樹脂改質成分の内で、アルキル化剤としては、例えば、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチル、アリルクロライド、ベンジルクロライド、2−クロロエチルジメチルアミンなどのハロゲン化炭化水素類;クロル酢酸メチル、ブロモ酢酸メチル、クロル酢酸エチル、ブロモ酢酸エチルなどのハロゲン化酢酸エステル類;エチレンクロルヒドリン、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライドなどのクロルヒドリン類;プロピレンオキシド、グリシドール、スチレンオキシド、1,2−エポキシブタンなどのエポキシ化合物;硫酸ジメチル、硫酸ジエチルなどのアルキル硫酸エステル類などが挙げられる。これらのアルキル化剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。中でも、ハロゲン化炭化水素類、ハロゲン化酢酸エステル類、ハロゲンを含有しないエポキシ化合物、アルキル硫酸エステル類等が好ましく、特に、アルキル硫酸エステル類が好ましい。
【0047】
また、尿素類としては、通常、式 −NHC(=Q)NHRで示される原子団を有する尿素、その誘導体等を用いることができる。式中、Qは酸素又は硫黄を表し、Rは水素又は炭素数1〜4程度のアルキルを表す。具体例としては、尿素、チオ尿素、グアニル尿素、メチル尿素、ジメチル尿素などを挙げることができる。尿素類は、1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。工業的見地からは、尿素が好ましい。
【0048】
酸化剤としては、過酸化水素、オゾン、アルカリ金属次亜塩素酸塩又は無機あるいは有機の過酸化物類等のものがあげられるが、このうち最も好ましい酸化剤は過酸化水素である。
【0049】
活性水素を少なくとも1個有する脂環式化合物としては、脂環式アミン、脂環式エポキシ化合物などを用いることができる。これらの内で、脂環式アミンは、通常、環炭素数が5〜12程度の脂環式環、好ましくはシクロヘキサン環を有するとともに、1級又は2級のアミノ基を少なくとも1個有する化合物である。ここでアミノ基は、脂環式環に直接結合していてもよいし、またアルキレンのような連結基を介して間接的に脂環式環と結合していてもよい。活性水素を少なくとも1個有する脂環式アミンの具体例としては、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、N−メチルシクロヘキシルアミン、1,3−又は1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルビシクロヘキシル、イソホロンジアミン、1,3−、1,2−又は1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、N−アミノプロピルシクロヘキシルアミン、1,5−又は2,6−ビス(アミノメチル)オクタハイドロ−4,7−メタノインデン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、 ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、4,4′−オキシビス(シクロヘキシルアミン)、4,4′−スルホンビス(シクロヘキシルアミン)、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、2,4′−又は4,4′−ジアミノ−3,3′,5,5′−テトラメチルジシクロヘキシルメタン、メンタンジアミン、N−メチル−1,3−ジアミノシクロヘキサン、N,N−ジメチル−1,3−ジアミノシクロヘキサン、3−N−メチルアミノ−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンなどが挙げられる。
【0050】
上記した水溶性樹脂改質成分、即ち、アルキル化剤、尿素類、酸化剤、及び活性水素を少なくとも1個有する脂環式化合物は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。各成分の反応順序は任意であり、特に制限されない。
【0051】
水溶性樹脂改質成分は、上記した水溶性樹脂の製造工程の任意の段階で反応させることができる。例えば、(A)ポリアミンと二塩基性カルボン酸化合物とを反応させてポリアミドポリアミンとした後、これに架橋性化合物を反応させ、得られた水溶性樹脂に水溶性樹脂改質成分を反応させる態様、(B)ポリアミンと二塩基性カルボン酸化合物とを反応させてポリアミドポリアミンとした後、これに水溶性樹脂改質成分を反応させ、さらに架橋性化合物を反応させる態様等を採ることができる。水溶性樹脂改質成分は、水溶性樹脂の1級、2級及び3級アミノ基、又はポリアミンポリアミドの1級及び2級アミノ基と反応し、これによりアミノ基の価数が増加する。特に、3級アミノ基との反応により4級アミノ基が形成されて、カチオン化度が増加する。
【0052】
水溶性樹脂改質成分との反応は、通常、上記した態様(A)及び態様(B)のいずれも場合にも、水溶液中で実施され、その水分含量は、ポリアミドポリアミンと架橋性化合物との反応における水分含量と同じであるか、あるいは、それよりも高い水分含量であることが好ましい。水溶性樹脂改質成分との反応温度は、通常、10〜80℃程度であり、好ましくは15〜75℃程度であり、特に好ましくは20〜70℃程度である。
【0053】
水溶性樹脂改質成分の使用量は、態様(A)の場合には、水溶性樹脂の1級、2級及び3級アミノ基の合計量に対して、通常、0.3〜2モル倍程度、好ましくは0.5〜1モル倍程度とすればよく、態様(B)の場合には、ポリアミドポリアミンの1級及び2級アミノ基の合計量に対して、通常、0.3〜2モル倍程度、好ましくは0.5〜1モル倍程度とすればよい。
【0054】
(iv)水溶性樹脂
上記した方法で得られる(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミン、(2)二塩基性カルボン酸系化合物、並びに(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物の三成分を反応させて得られる水溶性樹脂、又は、上記三成分に加えて、更に、水溶性樹脂改質成分を反応させて得られる水溶性樹脂は、水分含量85重量%にて25℃で測定した粘度が、1〜300mPas程度,好ましくは2〜200mPas程度であることが好ましい。この粘度を与える水溶性樹脂の重量平均分子量は、概ね 1,000〜1,000,000程度である。水溶性樹脂に含まれる1級、2級、3級、4級アミノ基の合計量対する4級アミノ基の割合を意味するカチオン化度は10%から90%であることが好ましい。
【0055】
酸性電気銅めっき浴組成
本発明の酸性電気銅めっき液は、銅イオン、並びに有機酸及び無機酸から選ばれた少なくとも一種の酸成分を必須成分として含有する銅めっき液を基本浴とし、更に、(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミン、(2)二塩基性カルボン酸系化合物、並びに(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物、の三成分を反応させて得られる水溶性樹脂を含有するものである。
【0056】
本発明の酸性電気銅めっき液における水溶性樹脂の含有量は、特に限定的ではないが、スルホールに対する良好な均一電着性と微細な凹部に対する良好な埋込性を同時に発揮するためには、該水溶性樹脂の濃度が、0.1〜1000mg/L程度であることが好ましく、0.5〜100mg/L程度であることがより好ましい。
【0057】
基本浴とする酸性電気銅めっき液の具体的な組成については、特に限定的ではないが、例えば、以下のめっき液を用いることができる。
【0058】
まず、銅イオン源としては、めっき液中に可溶性の銅化合物であれば、特に限定なく使用できる。この様な銅化合物の具体例としては、硫酸銅、酸化銅、塩化銅、炭酸銅、ピロリン酸銅、アルカンスルホン酸銅、アルカノールスルホン酸銅、有機酸銅等を挙げることができる。銅化合物は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0059】
銅イオン濃度については、特に限定はないが、例えば、10〜65g/L程度の範囲とすることができる。
【0060】
酸成分としては、有機酸及び無機酸からなる群から選ばれた少なくとも一種を用いることができる。有機酸の具体例としては、メタンスルホン酸等のアルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸等を挙げることができ、無機酸の具体例としては硫酸等を挙げることができる。これらの酸成分は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。酸成分の濃度については、特に限定はないが、例えば、20〜400g/L程度とすることができる。
【0061】
本発明の酸性電気銅めっき液には塩化物イオンが含まれる。その濃度は、通常、2〜100mg/L程度であればよい。この様な濃度範囲とするためには、必要に応じて、塩酸、塩化ナトリウム等を用いてめっき液中の塩化物イオン濃度を調整すればよい。
【0062】
さらに、本発明の酸性電気銅めっき液には、通常、添加剤として、非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤、含硫黄有機化合物等が含まれる。これらの添加剤は、酸性電気銅めっき液における公知の添加剤成分から適宜選択して用いれば良い。例えば、スルホールめっき用の硫酸銅めっき液に配合されている添加剤などを用いることができる。
【0063】
この様な添加剤の内で、非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤は、通常、ポリマー成分と称されているものであり、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリオキシアルキレングリコール等のポリエーテル化合物等を用いることができる。含硫黄有機化合物は、通常、ブライトナーと称されているものであり、公知の添加剤成分から適宜選択して用いればよい。例えば、3-メルカプトプロパンスルホン酸、そのナトリウム塩、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド、その2ナトリウム塩、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸(3-スルホプロピル)エステル、そのナトリウム塩等の硫黄化合物を用いることができる。
【0064】
添加剤の濃度についても特に限定はないが、例えば、非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤は0.01〜10g/L程度、含硫黄有機化合物は0.1〜200mg/L程度とすることができる。
【0065】
特に、酸性電気銅めっき液が、硫酸銅5水和物を50〜300g/L程度、好ましくは65〜250g/L含有し、硫酸を10〜250g/L程度、好ましくは20〜220g/L程度含有する硫酸銅めっき液である場合には、凹部に対する埋込性と、均一電着性について、特に良好な特性を発揮できる。
【0066】
本発明の酸性電気銅めっき液では、被めっき物の種類は特に限定はないが、良好な埋込性と優れた均一電着性を同時に発揮できるので、貫通穴及び凹部のいずれか一方又は両方を有する被めっき物に対して信頼性の高いメッキ皮膜を形成できる。特に、小径スルホール、ブラインドビアホールの片方、もしくは双方を形成したプリント配線板、ダマシンプロセスに用いられるサブミクロンの溝(トレンチ)が形成された半導体ウェハー等を被めっき物とすることが特に有効である。
【0067】
本発明酸性電気銅めっき液を用いてめっき処理を行う場合には、前処理方法については、特に限定はなく、常法に従えばよい。例えば、スルホールやブラインドビアホールを形成したプリント配線板を被めっき物とする場合には、一般的にプリント基板製造に用いられる無電解銅めっきを施した被めっき物について、常法より脱脂を行い、前工程で付着した汚れ等を除去した後、酸洗を行って酸化皮膜を除去、活性化したのち、本発明めっき液に浸漬して、電解を行えばよい。
【0068】
電解条件(めっき条件)についても特に限定的ではないが、例えば、陰極電流密度を0.2〜4A/dm2程度の範囲とすることによって良好な均一電着性、埋め込み性等を発揮することができる。めっき液の液温については、通常、20〜30℃程度とすればよい。
【発明の効果】
【0069】
本発明の酸性電気銅めっき液は、従来の酸性電気銅めっき液では困難であった優れた均一電着性と、微細な凹部に対する良好な埋め込み性を同時に発揮し得るものである。
【0070】
従って、本発明めっき液を用いることによって、ブラインドビア等の微細な凹部とスルホールを併せ持つ被めっき物に対しても、電気的信頼性の高い電気銅めっき皮膜を形成することができ、微細銅配線等の高密度配線化、接続信頼性の向上等が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0072】
合成例1
温度計、リービッヒ冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に、ジエチレントリアミン413重量部、アジピン酸555重量部、水20重量部及び98%硫酸8重量部を仕込み、150〜160℃で15時間、脱水反応させた。次いで、得られた反応混合物に水を加えて樹脂分濃度を50重量%に調整し、粘度680Pas、1級及び2級アミノ基の合計量2.578mmol/gのポリアミドアミン樹脂の水溶液を得た。
【0073】
一方、温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に、上記方法で得たポリアミドポリアミン135.1重量部と水51.2重量部を仕込み、30℃に保温しながら、エピクロルヒドリン33.3重量部を2時間かけ滴下した後、4時間反応させた。これに水道水62.7重量部を滴下した後、温度を50℃まで昇温した。50℃に到達後、直に水211.6重量部を滴下し、硫酸により反応混合物のpHを3.4に調整し、更に水を加えて樹脂濃度を15%に希釈して、粘度が6.4mPas、カチオン化度19.2%、一級、二級及び三級アミノ基の合計量0.387mmol/gの水溶性樹脂の水溶液を得た。
【0074】
実施例1
(1)評価用試料の作製
銅箔を表面に有する1.2mm厚のプリント配線板の表面に、厚さ65μmの樹脂付き銅箔を積層した。これに常法により0.3mmの貫通穴を設けたあと、表層銅箔をすべて塩化銅エッチング液で剥離後、炭酸ガスレーザーを用いて穴をあけ、径100μm、深さ65μmのブラインドビアホールを形成した。このプリント配線板に、無電解銅めっき皮膜を約1μm形成したものを評価用の試料とした。
【0075】
(2)めっき方法
上記した試料を脱脂液(商品名: DP-320クリーン 奥野製薬工業(株)製、100ml/L水溶液)に45℃で5分間浸漬した後、水洗を1分間行い、100g/Lの希硫酸に1分間浸漬することによって、前処理を行った。その後、下記組成の4種類の酸性電気銅めっき浴(本発明めっき液1、2並びに比較めっき液1及び2)を用いて、浴温25℃、陰極電流密度1A/dm2 でエアレーション攪拌下にて90分間電気銅めっきを行った。
【0076】
なお、下記の各めっき液で用いた添加剤の内で、合成例1で調製した水溶性樹脂以外の成分は、酸性銅めっき液用の市販の添加剤である。
(a)本発明めっき液1
硫酸銅5水和物 200g/L
硫酸 50g/L
塩素イオン 50mg/L
トップルチナBVFベース*1 5ml/L
トップルチナBVF-2*2 1.5ml/L
合成例1で得た水溶性樹脂 50mg/L
(b)本発明めっき液2
硫酸銅5水和物 200g/L
硫酸 50g/L
塩素イオン 50mg/L
トップルチナSFベース*1 5ml/L
トップルチナSF-B*2 1ml/L
合成例1で得た水溶性樹脂 40mg/L
(c)比較めっき液1
硫酸銅5水和物 200g/L
硫酸 50g/L
塩素イオン 50mg/L
トップルチナBVFベース*1 5ml/L
トップルチナBVF-2*2 1.5ml/L
トップルチナBVFレベラー*3 0.5ml/L
(d)比較めっき液2
硫酸銅5水和物 200g/L
硫酸 50g/L
塩素イオン 50mg/L
トップルチナSFベース*1 5ml/L
トップルチナSF-B*2 1ml/L
トップルチナSFレベラー*3 5ml/L

*1: 非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤含有添加剤(ポリマー成分)、奥野製薬工業(株)製。
*2: 含硫黄有機化合物含有添加剤(ブライトナー)、奥野製薬工業(株)製。
*3: 含窒素有機化合物含有添加剤(レベラー)、奥野製薬工業(株)製。
【0077】
上記した方法で電気銅めっき皮膜を形成した試料に対して、下記の方法で埋め込み性および均一電着性を評価した。結果を下記表1に示す。
*(埋め込み性の評価方法)
評価用試料のブラインドビアホール部分について断面観察を行い、図1に示す箇所の厚さを測定し、次式からフィリング率を算出し、埋め込み性を評価した。
【0078】
【数1】

【0079】
*(均一電着性の評価方法)
評価用試料のスルホール部分について、図2に示す箇所のめっき厚を測定し、次式から均一電着性を算出し、均一電着性を評価した。図2は、スルホール部分の断面図であり図中の(1)、(2)、(3)及び(4)は表面めっき厚であり、(5)及び(6)は、スルホール内面のめっき厚である。
【0080】
【数2】

【0081】
【表1】

【0082】
表1の結果より、合成例1で得たジエチレントリアミンとアジピン酸の重縮合物にエピクロロヒドリンを反応させて得た水溶性樹脂を添加した本発明めっき液1及び2を用いた場合には、測定用試料に形成された銅めっき皮膜は、良好な埋め込み性と均一電着性を有するものであった。
【0083】
これに対して、市販のレベラー成分を添加した比較めっき液1は、埋め込み性は良好であるが、均一電着性に劣るものとなり、比較めっき液2は、均一電着性は良好であるが、埋め込み性に劣るものとなり、良好な埋め込み性と均一電着性を同時に満足することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1におけるフィリング率の測定部分の断面図。
【図2】実施例1における均一電着性の測定部分の断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅イオン、並びに有機酸及び無機酸から選ばれた少なくとも一種の酸成分を必須成分として含有する水溶液を基本めっき浴とする酸性電気銅めっき液であって、(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミン、(2)二塩基性カルボン酸系化合物、並びに(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物、からなる三成分を反応させて得られる水溶性樹脂を含有することを特徴とする酸性電気銅めっき液。
【請求項2】
水溶性樹脂が、(1)アルキレンジアミン類及びポリアルキレンポリアミン類からなる群から選ばれる少なくとも一種のポリアミンと、(2)二塩基性カルボン酸系化合物とを反応させた後、(3)アルデヒド類、エピハロヒドリン類、α,γ−ジハロ−β−ヒドリン類、グリシジル化合物及びイソシアネート類からなる群から選ばれる少なくとも一種の架橋性化合物を反応させて得られるものである、請求項1に記載の酸性電気銅めっき液。
【請求項3】
水溶性樹脂が、更に、アルキル化剤、尿素類、酸化剤、及び活性水素を少なくとも1個有する脂環式化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物を反応させて得られるものである請求項1又は2に記載の酸性電気銅めっき液。
【請求項4】
基本めっき浴が、(i)銅イオン、(ii)有機酸及び無機酸から選ばれた少なくとも一種の酸成分、(iii)塩化物イオン、(iv)非イオン性ポリエーテル系高分子界面活性剤、並びに(v)含硫黄有機化合物、を含有する水溶液である、請求項1〜3のいずれかに記載の酸性電気銅めっき液。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの記載の銅めっき液中において、貫通穴及び凹部のいずれか一方又は両方を有する被めっき物に対して通電することを特徴とする電気銅めっき方法。
【請求項6】
被めっき物が、スルホール及びブラインドビアホールのいずれか一方若しくは両方を有するプリント配線板、又は配線用の溝部を有する半導体ウェハーである請求項5に記載の電気銅めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−107074(P2007−107074A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−301392(P2005−301392)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【出願人】(391010895)小西化学工業株式会社 (19)
【Fターム(参考)】