説明

重合可能な化合物の精製方法

沸騰油が精留塔の塔底に存在することを特徴とする、高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質の沸騰油としての使用下での、重合可能な化合物の蒸留精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合可能な化合物の蒸留精製方法、および重合可能な化合物の蒸留精製のための、沸騰油(Siedeoel)の使用を記載する。
【0002】
DE−A−2136396には、高沸点の、不活性で極めて疎水性の溶剤を用いた吸収塔内での反応ガスの向流洗浄によって、無水アクリル酸を得るための方法が記載されている。適切な溶剤は、中油留分の炭化水素、(常圧で)170℃以上の沸点を有する熱媒油、またはジフェニルエーテル、ジフェニルおよび/またはそれらの混合物である。溶剤は塔頂を介して供給する。吸収のために、常圧で30〜80℃の可能な限り低い温度に調整する。
【0003】
発生する反応ガスを、とりわけ不活性で高沸点の疎水性有機溶剤を用いた吸収塔内での向流洗浄によって洗浄する、無水メタクリル酸を得るための方法は、EP−A−188775より公知である。ジフェニル、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン、および/またはそれらの混合物のような溶剤を、塔頂を介して添加する。吸収温度は、常圧で40〜120℃である。
【0004】
前述の方法の欠点は、目的生成物を使用された溶剤から再度分離するために、無水アクリル酸もしくは無水メタクリル酸を得るにはさらなる脱着工程および蒸留工程が続かなければならないことである。
【0005】
本発明の課題は、助剤として使用された物質をさらなる精製無しで装置に返送することができ、かつ目的生成物に対して最大10%の助剤が搬出される、重合可能な化合物の蒸留精製方法を提供することである。その上、本方法はとりわけ、目的生成物の重合を避けることを保証するのが望ましい。この課題は、重合可能な化合物の蒸留精製を、高沸点で不活性の、熱に長時間安定性の物質の存在下、この沸騰油と呼ばれる物質を精留塔の塔底に存在させて実施することによって解決される。これによって重合しやすい目的生成物の、塔底での長い滞留時間を排除することができる。と言うのも、塔底方向への、ひいては上昇する温度方向への沸騰油蒸気を用いた熱交換により、重合しやすい化合物の濃度を著しく低下させ、このことによって重合の危険性が充分に取り除かれているからである。
【0006】
従って本発明の対象は、沸騰油が精留塔の塔底に存在することを特徴とする、高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質の沸騰油としての使用下での重合可能な化合物の蒸留精製方法である。
【0007】
目的生成物の蒸留分離を保証するために、本発明による方法には、純粋な目的生成物の沸点より高い沸点を有する、高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質を沸騰油として使用する。しかしながら、純粋な重合可能な化合物の熱的負荷を減少させるためには、沸騰油の沸点が高すぎるのは望ましくない。
【0008】
一般的に沸騰油の沸騰温度は常圧(1013mbar)で150〜400℃、とりわけ200〜300℃である。
【0009】
適切な沸騰油はとりわけ、12〜20の炭素原子を有する比較的高級な鎖状の、非分枝状のパラフィン、芳香族化合物、例えばジフィル(75%のビフェニルオキシドと、25%のビフェニルとから成る共融混合物)、アルキル置換されたフェノール、またはナフタリン化合物、スルホラン(テトラヒドロチオフェン−1,1−ジオキシド)、またはこれらから成る混合物である。
【0010】
適切な例は以下に記載された沸騰油である:
【化1】

【0011】
特に好ましくは2,6−ジ−t−ブチル−パラ−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−フェノール、スルホラン、ジフィル、またはこれらから成る混合物を使用し、極めて特に好ましくはスルホランを使用する。
【0012】
本発明による方法には、好適には5〜50の分離段を有するあらゆる精留塔を使用することができる。本発明においては、棚段塔における棚段の数と棚段効率との積、または規則充填塔の場合の、または不規則充填塔の場合の理論分離段の数を、分離段の数と呼ぶ。
【0013】
精留塔の例は、棚段、例えば、バブルキャップトレー、シーブトレー、トンネルキャップトレー、バルブトレー、スロットトレー、シーブ−スロットトレー、シーブ−バブルキャップトレー、ジェットトレー(Duesenboeden)、遠心式トレー(Zentrifugalboeden)を有する精留塔、不規則充填物、例えばラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、ベルルサドル、インタロックスサドルを有する精留塔、および規則充填物、例えばMellapak(Sulzer)、Rombopak(Kuehni)、Montz−Pak(Montz)を、および触媒ポケット(Katalysatortasche)を有する規則充填物、例えばKatapak(Sulzer)を有する精留塔である。
【0014】
棚段の区域から成る、不規則充填物の区域から成る、および/または規則充填物の区域から成る組み合わせを有する精留塔を、同様に使用することができる。
【0015】
好ましくは不規則充填物、および/または規則充填物を有する精留塔を使用する。精留塔は、これに適したあらゆる材料から製造することができる。この材料には特殊鋼、ならびに不活性の材料が属する。
【0016】
好適には精留塔を1〜500mbarの絶対圧力の真空中で、好適には1〜100mbarの絶対圧力の真空中で稼働させる。精留塔の塔底における温度は、使用される沸騰油と存在する系圧によって生じる。
【0017】
重合可能な化合物とは一般的に、少なくとも1の反応可能な二重結合、または他の反応性の官能基を有するモノマーと理解される。これらの化合物に挙げられるのはとりわけ、炭素−炭素の多重結合を有する化合物(オレフィン、アルキン、ビニル化合物、(メタ)アクリル化合物)、環状エーテル、環状エステル、または環状アミド(オキシラン、ラクトン、ラクタム)、不飽和環状炭化水素、ならびにイソシアナート基、またはH酸のアミノ基、ヒドロキシ基、またはカルボキシ基を有する炭化水素である。
【0018】
適切な重合可能な化合物は、例えばJ.Brandrup,E.H.Immergut und E.A.Grulke、Polymer Handbook、第4版、Hoboken、John Wiley and Sons、1999年、III−1〜III−41ページのような文献から当業者には公知であり、これに関して詳細に引き合いに出されている。
【0019】
精製する重合可能な化合物の供給は、好適には塔の中間区域の上部で行う。低沸点の不純物は塔頂で留去し、高沸点の不純物は塔底から放出する。純粋な目的生成物を、好適には塔の中間区域の下部の側方排出部で搬出する。
【0020】
塔はさらに他の装置、例えば物質分離のためのさらなる装置、および/または反応器と接続されていることができる。反応区域は、塔の内部に配置されていることもできる。塔はまた、様々な課題を果たす、複数の分離セグメントに区分けされていることもできる。
【0021】
精製する重合可能な化合物の所望ではない重合を避けるために、場合によっては重合禁止剤を添加する。好ましくは使用可能な重合禁止剤はとりわけ、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオナート、フェノチアジン、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル(TEMPOL)、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、パラ置換されたフェニレンジアミン、例えばN,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、1,4−ベンゾキノン、2,6−ジ−t−ブチル−α−(ジメチルアミノ)−p−クレゾール、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、またはこれらの安定剤の2または複数から成る混合物である。
【0022】
禁止剤の計量供給を、好適には塔頂で行う。
【0023】
塔底から高沸点成分、例えば添加された禁止剤を通常の方法により放出することができ、該方法は例えば薄膜式蒸発器、または蒸発させる物質を精留塔に返送し、かつ蒸発しない高沸点成分を排出する、類似の課題を遂行する装置である。
【0024】
本発明の対象はさらに、重合可能な化合物を蒸留精製するための、精留塔の塔底における沸騰油としての、上記の高沸点成分の、不活性で熱に長時間安定性の物質の使用である。
【0025】
本発明による方法は、重合可能な化合物を、所望ではない重合による損失無しで、容易な分離により高純度で得ることを可能にし、この際使用された沸騰油は、さらなる精製無しで装置に返送することができる。
【0026】
本発明による方法の実施形態は、図1に図式的に示されている。
【0027】
精製するモノマー=未精製モノマー(1)が精留塔(2)の下部に到達する。この際、分離区域(2a)において、精製するモノマーより容易に沸騰する成分(3)の分離が起こる。塔の分離区域(2b)において、塔底に存在する沸騰油(4)から、ならびに精製するモノマーより高温で沸騰する成分からモノマーを分離する。塔底に存在する高沸点成分は、通常の方法によって放出することができ(5)、該方法は例えば薄膜式蒸発器、または蒸発させる物質を精留塔に返送し、かつ蒸発しない高沸点成分を放出する、類似の課題を遂行する装置である。高純度のモノマー(6)を、分離区域(2a)と(2b)との間で、好ましくは気体状で排出する。
【0028】
以下の実施例は本発明による方法を説明するが、これによりその方法を限定することはない。
【0029】
実施例1:メタクリル酸無水物の精製
メタクリル酸無水物の精製を、図1に記載の精留塔の下部で実施する。
【0030】
精留塔は、分離区域(2a)で12の分離段、および分離区域(2b)で8の分離段を有していた。この塔は100mmの内径を有し、かつSulzer社のCY型(分離区域2a)、およびMontz社のBSH400型(分離区域2b)の規則充填物で充填されていた。塔底における圧力は、35mbarであった。定常条件において温度プロフィールを164℃(塔底)〜66℃(分離区域2aの上端)に調整した。側方排出部(分離区域2aと2bとの間)でのメタクリル酸無水物の搬出、ならびに塔底蒸発器の熱蒸発出力を、その都度の区域において温度制御しながら行った。
【0031】
精留塔の塔底において、6kgのスルホランを沸騰油(4)として使用した。蒸発器としては、流下薄膜型蒸発器を用いた。
【0032】
側方流排出部で99.7%の純度(GC分析)を有するメタクリル酸無水物を取り出した。
【0033】
実施例2:アクリル酸無水物の精製
アクリル酸無水物の精製を、実施例1で説明したように図1に記載の精留塔の同下部において実施した。塔底における圧力は35mbarであった。定常条件において温度プロフィールを164℃(塔底)〜54℃(分離区域2aの上端)に調整した。側方排出部(分離区域2aと2bとの間)でのアクリル酸無水物の搬出、ならびに塔底蒸発器の熱蒸発出力を、その都度の区域において温度制御しながら行った。
【0034】
精留塔の塔底において、6kgのスルホランを沸騰油(4)として使用した。蒸発器としては、流下薄膜型蒸発器を用いた。
【0035】
側方流排出部で99.7%の純度(GC分析)を有するアクリル酸無水物を取り出した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 未精製モノマー、 2 精留塔、 2a 分離区域、 2b 分離区域、 3 低沸点成分、 4 沸騰油、 5 高沸点成分、 6 高純度のモノマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質の沸騰油としての使用下での重合可能な化合物の蒸留精製方法において、前記沸騰油が精留塔の塔底に存在することを特徴とする、高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質の沸騰油としての使用下での重合可能な化合物の蒸留精製方法。
【請求項2】
前記沸騰油の沸点が、1013mbarで150〜400℃であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記沸騰油の沸点が、1013mbarで200〜300℃であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質として、12〜20の炭素原子を有する比較的高級な鎖状の非分枝状パラフィン、芳香族化合物、例えばジフィル、アルキル置換されたフェノール、またはナフタリン化合物、スルホラン、またはこれらから成る混合物を使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質として、2,6−ジ−t−ブチル−パラ−クレゾール、2,6−ジ−t−ブチル−フェノール、スルホラン、またはジフィル、またはこれらから成る混合物を使用することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質として、スルホランを使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
重合可能な化合物の蒸留精製のための、精留塔の塔底における沸騰油としての、高沸点の、不活性で熱に長時間安定性の物質の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−541243(P2009−541243A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515788(P2009−515788)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052397
【国際公開番号】WO2007/147651
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】