説明

金属吸着材及び該金属吸着材の製造方法並びに金属の吸着方法

【課題】希少金属や有害金属などの金属を効率よく吸着して回収する金属吸着材及び該金属吸着材の製造方法並びに該金属吸着材を用いた金属の吸着方法を提供すること。
【解決手段】ポリアリルアミンをイソチオシアナートと反応させて得られるポリアリルアミン誘導体を用いて希少金属や有害金属などの金属を吸着して回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は希少金属や有害金属などの回収に用いられる金属吸着材及び該金属吸着材の製造方法並びに金属を含む試料溶液から金属を分離して回収する金属の吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希少金属(レアメタル)はいわゆるハイテク製品の製造に欠かせないが、これらの多くは埋蔵量が少なく、今後50年以内に多くの金属が枯渇する可能性がある。したがって、廃製品や海中に溶存する希少金属を効率よく回収するシステムの開発は急務の課題である。
また、環境問題の観点から、水銀、鉛などの有害金属を効率よく回収するシステムの開発も急務の課題である。
【0003】
希少金属や有害金属を回収する技術の一つとして、窒素原子、ないしはカルボン酸骨格を有するポリマーによる金属吸着が試みられている(例えば、特許文献1参照。)。例えば、チオウレア基をポリスチレン樹脂またはシリカ樹脂に担持させた金属吸着材が「QuadraPure(登録商標 リアクサリミテッド社)」という商品名で販売されている(非特許文献1参照。)。しかしながら、この技術では回収量が十分ではなく、回収量の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−502470号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】シグマ・アルドリッチ社ホームページ(ホーム>有機合成>注目のテクノロジー>メタルスカベンジャー)、[online]、[平成22年1月13日検索]、インターネット<URL: http://www.sigma-aldrich.co.jp/aldrich/organic/reaxa/metal_scavengers/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、簡便かつ高効率で希少金属や有害金属などの金属を回収するための金属吸着材を提供することである。
本発明の別の目的は、簡便かつ高効率で希少金属や有害金属などの金属を回収する金属吸着材の製造方法を提供することにある。
本発明の更に別の目的は、簡便かつ高効率で希少金属や有害金属などの金属を回収する金属の吸着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ポリアリルアミンをイソチオシアナートと反応させて得られるポリアリルアミン誘導体を用いることにより、希少金属や有害金属などの金属を高効率で吸着して回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明の第1の観点は、ポリアリルアミン誘導体からなる金属吸着材であって、ポリアリルアミン誘導体はポリアリルアミンのアミノ基と、ポリアリルアミンのアミノ基の1つの水素原子がイソチオシアナートによって置換されたチオウレア基の双方を有する、下記一般式(1)で示される繰り返し単位から構成され、ポリアリルアミン誘導体が有するチオウレア基とアミノ基のモル比(チオウレア基:アミノ基)が5〜20:95〜80である金属吸着材である。
【0009】
【化1】

(式(1)中、R1は、アミノ基又は下記一般式(2)で示されるチオウレア基を示す。)
【0010】
【化2】

(式(2)中、R2は、炭素数1〜5の直鎖又は分枝鎖アルキル基、炭素数6〜10のアリール基或いは炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にポリアリルアミン誘導体の重量平均分子量が5000〜300000であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、ポリアリルアミンを含有する溶液にイソチオシアナートを添加し、混合することにより、アミノ基と、アミノ基の1つの水素原子がイソチオシアナートによって置換されたチオウレア基とを有するポリアリルアミン誘導体を製造するポリアリルアミン誘導体からなる金属吸着材の製造方法である。
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、更にイソチオシアナートが下記一般式(3)で示されることを特徴とする。
【0012】
【化3】

(式(3)中、R2は、炭素数1〜5の直鎖又は分枝鎖アルキル基、炭素数6〜10のアリール基或いは炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
本発明の第5の観点は、第3又は第4の観点に基づく発明であって、更にポリアリルアミン誘導体が有するチオウレア基とアミノ基のモル比(チオウレア基:アミノ基)を5〜20:95〜80とすることを特徴とする。
本発明の第6の観点は、第3ないし第5の観点に基づく発明であって、更にポリアリルアミンの重量平均分子量が5000〜200000であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第7の観点は、第1又は第2の観点の金属吸着材を用いた金属の吸着方法であって、金属を溶解させた金属塩水溶液を調製する工程と、金属塩水溶液に金属吸着材を添加して、金属が吸着した金属吸着材の沈殿物を生成させる工程と、沈殿物が生成した金属塩水溶液を固液分離し、沈殿物を回収する工程とを含む金属の吸着方法である。
本発明の第8の観点は、第7の観点に基づく発明であって、更に金属塩水溶液のpHを5以下に調整することを特徴とする。
本発明の第9の観点は、第7又は第8の観点に基づく発明であって、更に金属がリチウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金、金、タリウム、ビスマス、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、鉛、鉄、銅、カドミウム、水銀、ヒ素、ウラン及びスズからなる群から選ばれた1種又は2種類以上の金属であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点の金属吸着材は、水に溶解する水溶性ユニットとしてのアミノ基と、金属を吸着する吸着ユニットとしてのチオウレア基の双方を、所定の割合で有するポリアミン誘導体からなる。これにより、ポリアリルアミン誘導体は金属塩水溶液に容易に溶解して金属を十分に吸着し、一方、金属の吸着量が増加すると金属塩水溶液から沈殿するため、ろ過操作により簡便に分離でき、効率良く金属を捕集することができる。また、本発明の金属吸着材は、パラジウム、白金、金などの産業上有用でありながら埋蔵量の少ない希少金属に対して高い吸着性を示す。このことから、触媒などに用いられるこれらの金属を効率良く回収できるほか、環境中に存在する水や排水からこれらの希少金属を回収することも可能であり、資源の効率的な利用と排水の浄化に役立つ。触媒の回収としては、医薬品や有機エレクトロニクス材料の合成に頻繁に用いられるパラジウム触媒の回収や使用済みの燃料電池用白金の回収にも有効であると期待できる。また、有害金属も効率よく吸着して回収することができる。
本発明の第7の観点の金属の吸着方法では、上記本発明の金属吸着材を用いる。原料となるポリアリルアミンは、通常安価に入手可能な原料であり、また、金属吸着材である上記ポリアリルアミン誘導体は、ポリアリルアミンから1ステップで簡便に合成できるため、低コストで、かつ容易に金属の回収を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の金属吸着方法の模式図。
【図2】ポリアリルアミン誘導体(吸着ユニット導入率9モル%)へのパラジウムイオンの吸着を示す図(写真)。
【図3】ポリアリルアミン誘導体(吸着ユニット導入率9モル%、99モル%)へのパラジウムイオンの吸着量の時間変化を示す図。
【図4】ポリアリルアミン誘導体(吸着ユニット導入率9モル%、99モル%)へのパラジウムイオンの吸着に対する濃度の効果を示す図。
【図5】ポリアリルアミン誘導体(吸着ユニット導入率9モル%)の金属結合前後のIRスペクトルを示す図。
【図6】ポリアリルアミン誘導体への各種金属イオンの吸着を示す図(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
本発明の金属吸着材である、ポリアリルアミンをイソチオシアナートと反応させて得られるポリアリルアミン誘導体はアミノ基、及びアミノ基の1つの水素原子がイソチオシアナートによって置換されたチオウレア基の双方を有する、下記一般式(1)で示される繰り返し単位から構成される。
【0017】
【化4】

上記式(1)中、R1は、アミノ基又は下記一般式(2)で示されるチオウレア基を示す。
【0018】
【化5】

上記式(2)中、R2は、炭素数1〜5の直鎖又は分枝鎖アルキル基、炭素数6〜10のアリール基或いは炭素数7〜10のアラルキル基を示し、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、特に好ましくはメチル基である。
【0019】
このポリアリルアミン誘導体は、ポリアリルアミンのアミノ基のうち、一部のアミノ基がイソチオシアナートと反応し、残りはアミノ基のまま存在する。上記式(1)の繰り返し単位によって構成されるポリマーにおいて、両端のR1については特に限定されない。例えば、3つの繰り返し単位から構成されるポリマーを例に示すと、アミノ基とチオウレア基のモル比を考慮しなければ、次の式(4)〜式(6)に示す3つのパターンすべての組み合わせが含まれる。
【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
【化8】

【0023】
即ち、両端のR1は、アミノ基同士であってもよいし、チオウレア基同士であってもよく、或いは一方がアミノ基で他方がチオウレア基であってもよい。これを1つの式で表すと、次の式(7)で示される。ここで、斜線は、ポリアリルアミンのアミノ基のうち、一部のアミノ基がイソチオシアナートと反応し、残りはアミノ基のまま存在することを意味する。
【0024】
【化9】

【0025】
このように、本発明の吸着材であるポリアリルアミン誘導体は、水に溶解する水溶性ユニットとしてのアミノ基と、金属を吸着する吸着ユニットとしてのイオウ原子を含む基、即ちチオウレア基を所定の割合で有する。これにより、ポリアリルアミン誘導体は、吸着を行う金属が溶解する金属塩水溶液に容易に溶解する。そして、金属塩水溶液に溶解したポリアリルアミン誘導体は、吸着ユニットによる金属の吸着量が増加すると、図1に示すように、金属原子を介した架橋構造を形成して水溶液から沈殿する。そのため、ろ過操作などによって簡便に分離でき、効率良く金属を捕集することができる。
【0026】
ポリアリルアミン誘導体が有するチオウレア基とアミノ基のモル比(チオウレア基:アミノ基)が5〜20:95〜80、好ましくは10〜20:90〜80である。チオウレア基の比率が20モル%を越える、即ちアミノ基の比率が80%未満になると、ポリアリルアミン誘導体を水溶性とすることができない。一方、チオウレア基の比率が5モル%未満になると、金属捕集率が低下する。また、ポリアリルアミン誘導体の重量平均分子量は5000〜300000であることが好ましい。なお、本明細書中、重量平均分子量(Mw)とは、各分子量に各分子量の重量を掛け合わせた上で足しあわせたものを、その全重量で除したものをいう。
【0027】
上記ポリアリルアミン誘導体の合成に用いるイソチオシアナートは、下記一般式(3)で示される。
【0028】
【化10】

上記式(3)中、R2は、炭素数1〜5の直鎖又は分枝鎖アルキル基、炭素数6〜10のアリール基或いは炭素数7〜10のアラルキル基を示し、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、特に好ましくはメチル基である。
【0029】
イソチオシアナートと反応させるポリアリルアミンの重量平均分子量(Mw)は、金属吸着に使用可能なポリアリルアミン誘導体が得られる範囲であれば特に制限されないが、好ましくは5000〜200000、より好ましくは5000〜60000である。
【0030】
反応は、例えば、先ず、ポリアリルアミンを適当な濃度(好ましくは5〜20質量%)になるように溶媒に溶解してポリアリルアミン溶液を調製し、これにイソチオシアナートを、製造後のポリアリルアミン誘導体におけるチオウレア基が所定の導入率になるように、例えば上記調製したポリアリルアミン溶液に好ましくは0.5〜2質量%加え、室温〜50℃で48時間攪拌することにより行うことができる。
【0031】
ポリアリルアミンに導入するイソチオシアナートによるチオウレア基の割合は、ポリアリルアミンの繰り返し単位(−CH2CH(CH2NH2)−)を1モルとしたときの該繰り返し単位の総量100モル%中5〜20モル%であり、より好ましくは10〜20モル%である。即ち、製造後のポリアリルアミン誘導体において、チオウレア基とアミノ基のモル比(チオウレア基:アミノ基)が5〜20:95〜80、好ましくは10〜20:90〜80となる割合である。チオウレア基を20モル%以下にすると、得られるポリアリルアミン誘導体を水溶性とすることができる。
【0032】
吸着対象となる金属の種類としては、リチウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金、金、タリウム、ビスマス、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、鉛、鉄、銅、カドミウム、水銀、ヒ素、ウラン、スズなどの希少金属又は有害金属が挙げられる。
【0033】
吸着反応は例えば、上記ポリアリルアミン誘導体を金属水溶液に適量(この量は金属濃度などにより適宜定めることができる)添加し、室温で攪拌することによって行うことができる。この際、効率よく吸着させるには、金属が水に溶解してイオン化しやすいpHに調整することが好ましい。例えば、金や白金やパラジウムはpH5以下が好ましい。その他の金属についても、好ましいpHは適宜設定することができる。
【0034】
水溶性のポリアリルアミン誘導体を金属吸着材として用いた場合、金属の吸着に伴い、誘導体は沈殿するので、この沈殿物、即ち金属を吸着したポリアリルアミン誘導体をろ過や遠心分離などの固液分離により回収することができる。
一方、イソチオシアナートの導入率の高い非水溶性のポリアリルアミン誘導体を用いる場合は、吸着反応はバッチ式やカラム式などによって行うことができる。
金属を吸着したポリアリルアミン誘導体からの金属の脱着は以下の方法により行うことができる。1)チオ尿素水溶液による金属の抽出、2)高温、例えば、500℃で加熱してポリアリルアミン誘導体を焼失させることによる金属の脱着、3)pHを変化させて金属を脱離させることもできる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0036】
<実施例1>
ポリアリルアミンとして、重量平均分子量(Mw)が60000のポリアリルアミン(10.4質量%水溶液 日東紡績株式会社製 商品名:PAA-H-10C)を、イソチオシアナートとして、メチルイソチオシアナート(東京化成工業株式会社製)を用意した。
先ず、上記ポリアリルアミンを、溶媒(1.7質量%ジメチルフォルムアミド溶液)に溶解し、ポリアリルアミン溶液35mLを調製した。このポリアリルアミン溶液のポリアリルアミンの濃度は1.6質量%であり、得られたポリアリルアミン溶液35mL中のポリアリルアミンの繰り返し単位は10mmolであった。
次に、上記メチルイソチオシアナートを、ポリアリルアミンの繰り返し単位(−CH2CH(CH2NH2)−)を1モルとしたときの該繰り返し単位の総量100モル%中、チオウレア基の導入率が9モル%となるように、上記調製したポリアリルアミン溶液に添加し、室温で48時間攪拌することにより、含硫黄ポリアリルアミン誘導体を得た。このチオウレア基とアミノ基のモル比(チオウレア基:アミノ基)が9:91であるポリアリルアミン誘導体を実施例1とした。
【0037】
ポリアリルアミンへのチオウレア基導入の反応スキームは以下の通り。
【0038】
【化11】

【0039】
<比較例1>
上記メチルイソチオシアナートを、ポリアリルアミンの繰り返し単位(−CH2CH(CH2NH2)−)を1モルとしたときの該繰り返し単位の総量100モル%中、チオウレア基の導入率が99モル%となるように、上記調製したポリアリルアミン溶液に添加したこと以外は、実施例1と同様に、含硫黄ポリアリルアミン誘導体を得た。このチオウレア基とアミノ基のモル比(チオウレア基:アミノ基)が99:1であるポリアリルアミン誘導体を比較例1とした。
【0040】
<比較試験及び評価1>
実施例1及び比較例1で得られたポリアリルアミン誘導体について、塩酸水溶液に対する溶解性、パラジウムの吸着速度及びパラジウム最大吸着量を、また、実施例1で得られたポリアリルアミン誘導体については、パラジウムの吸着挙動、ポリアリルアミン誘導体の吸着機構を評価した。
【0041】
(a) 塩酸水溶液に対する溶解性
実施例1及び比較例1で得られたポリアリルアミン誘導体を、それぞれ1.0Mの塩酸水溶液に溶解させ、塩酸水溶液に対する溶解性を調べたところ、実施例1のポリアリルアミン誘導体は溶解したが、比較例1のポリアリルアミン誘導体は不溶であることが確認された。
【0042】
(b) パラジウムの吸着挙動
希少金属の一つであり携帯電話の電子基板に用いられているパラジウムの吸着実験を行った。
具体的には、先ず、東京化成工業株式会社のテトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム(Na2PdCl4、>98.0%)を用意し、このパラジウム塩(Na2PdCl4)を、該パラジウム塩濃度が0.04mmol/Lとなるように溶解させた1Mの塩酸水溶液、即ち金属塩水溶液を調製した。この金属塩水溶液はpHを0.1に調整した。次に、上記調製した金属塩水溶液10mLに、実施例1のポリアリルアミン誘導体10mgを加え、パラジウムの吸着挙動について目視により評価を行った。その結果を図2に示す。
図2に示すように、ポリアリルアミン誘導体を添加した後、瞬時にパラジウムを吸着し、パラジウムを吸着したポリアリルアミン誘導体が沈殿した。この沈殿物をろ過することにより、簡便に分離できることが明らかとなった。
金属を吸着したポリアリルアミン誘導体の沈殿物をろ過により分離した後、金属回収量をUV測定により測定したところ、ポリアリルアミン誘導体1gあたりパラジウムが0.208g回収されていることが分かった。なお、UV測定は、UV-visスペクトロメータ(Hitachi社製 型名:U-3000)を用いたUV/可視吸収スペクトルにより行った。
【0043】
(c) パラジウムの吸着速度
実施例1及び比較例1で得られたポリアリルアミン誘導体を用いて、パラジウムの吸着速度を検討した。この結果を図3に示す。具体的には、先ず、実施例1のポリアリルアミン誘導体を用い速度実験を行ったところ、吸着速度は極めて速く、1分以内に吸着が完了することが分かった。一方、比較例1のポリアリルアミン誘導体では、吸着ユニットを99モル%有するにも関わらず、この誘導体は金属塩水溶液に溶解しないため、水溶液に溶解する誘導体に比べて吸着速度が低下することが分かった。
【0044】
(d) パラジウムの最大吸着量
(d-1) 実施例1及び比較例1の誘電体の比較
実施例1及び比較例1で得られたポリアリルアミン誘導体の最大吸着量について、吸着後の金属塩水溶液中に残存するパラジウムイオンの濃度により検討した。この結果を図4に示す。具体的には、先ず、実施例1のポリアリルアミン誘導体を用いて吸着を行い、金属塩水溶液中に残存するパラジウムイオンの濃度により検討した。その結果、パラジウムのイオン濃度が3000mg/L付近で吸着量が飽和に達し、最大吸着量が誘導体1gに対し0.500gのパラジウムが吸着されていることが分かった。一方、比較例1のポリアリルアミン誘導体では、吸着ユニットであるチオウレア基を多く含むのにも関わらず、パラジウムの最大吸着量が誘導体1gに対して0.04gであり、金属塩水溶液に溶解する実施例1のポリアリルアミン誘導体に比べ、吸着量が極めて低いことが分かった。
(d-2) 実施例1の誘電体と従来公知の吸着材との比較
更に、実施例1で得られたポリアリルアミン誘導体のパラジウムの最大吸着量と、他の従来公知の吸着材の最大吸着量を比較するため、比較例2として既にAldrich社から市販されているパラジウム吸着材(QuadrapureTM TU)を、比較例3〜9として従来公知の不均一系吸着ポリマーを、その最大吸着量とともに以下の表1に示す。
【0045】
【表1】

表1から明らかなように、実施例1で得られたポリアリルアミン誘導体のパラジウムの最大吸着量は、0.5g Pd/g polymerであり、これは比較例2に示す吸着材のパラジウムの最大吸着量に比べ、10倍高いことが分かる。また、比較例3〜9の従来公知の不均一系吸着ポリマーにおいては、金属塩水溶液に溶解しないことから最大吸着量は低く、実施例1で得られたポリアリルアミン誘導体の最大吸着量は、これらの吸着材に比べても高いことが確認できた。即ち、本発明に係る含硫黄ポリアリルアミン誘導体は最高レベルの吸着能力を有しているといえる。
【0046】
(e) ポリアリルアミン誘導体の吸着機構
スペクトロメータ(Jasco社製 型名:FT/IR-5000)を用いて、実施例1で得られたポリアリルアミン誘導体のパラジウム吸着前と吸着後のIRスペクトル(cm-1)を測定した。この結果を図5に示す。
図5から明らかなように、吸着前のスペクトルに比べ吸着後のスペクトルではチオウレア基が有するチオカルボニル基由来のピーク、アミノ基由来のピークがそれぞれ16cm-1、9cm-1ずつ低波数側にシフトしていることが判る。このことから、パラジウムの吸着においてはアミノ基とチオウレア基の両方が関与していることが示唆された。
【0047】
<比較試験及び評価2>
実施例1及び比較例1で得られたポリアリルアミン誘導体について、パラジウム以外の他の金属(金、白金)の吸着挙動を評価した。この結果を、図6に示す。
具体的には、先ず、和光純薬工業株式会社製のテトラクロロ金(III)酸ナトリウム・2水和物(Na(AuCl4)・2H2O、>95.0%)と、ヘキサクロロ白金(IV)酸・6水和物(H2PtCl6・6H2O、99.9%)を用意した。
これらの金属塩を、該金属塩濃度が0.04mmol/Lとなるように溶解させた1Mの塩酸水溶液、即ち金、白金の金属塩水溶液をそれぞれ調製した。これらの金属塩水溶液はpHをともに0.1に調整した。
次に、上記調製した金属塩水溶液10mLそれぞれに、実施例1のポリアリルアミン誘導体10mgを加え、金、白金の吸着挙動について目視により評価を行った。その結果を図6に示す。
ポリアリルアミン誘導体を室温で添加してから1時間後、図6に示すように、金、白金を吸着したポリアリルアミン誘導体がそれぞれ沈殿した。この沈殿物をろ過することにより、簡便に分離できることが明らかとなった。
金属を吸着したポリアリルアミン誘導体の沈殿物をろ過により分離した後、金属回収量をUV測定により測定したところ、ポリアリルアミン誘導体1gあたり金が0.60g、白金が0.59g回収されていることが分かった。このことから、本発明のポリアリルアミン誘導体からなる吸着材は、パラジウム以外の希少金属についても高効率で回収することができ、幅広い応用が可能であることが確認された。なお、UV測定は、上記UV-visスペクトロメータ(Hitachi社製 型名:U-3000)を用いたUV/可視吸収スペクトルにより行った。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、廃家電製品からの希少金属のリサイクル、海水中・工業排水からの希少金属の回収、医薬品や有機エレクトロニクス材料、携帯電話の電子基板などに用いられるパラジウム触媒の回収、使用済みの燃料電池用白金のリサイクルなどに有用である。また、環境中に放出された有害金属の回収にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリルアミン誘導体からなる金属吸着材であって、
前記ポリアリルアミン誘導体はポリアリルアミンのアミノ基と、ポリアリルアミンのアミノ基の1つの水素原子がイソチオシアナートによって置換されたチオウレア基の双方を有する、下記一般式(1)で示される繰り返し単位から構成され、
前記ポリアリルアミン誘導体が有する前記チオウレア基と前記アミノ基のモル比(チオウレア基:アミノ基)が5〜20:95〜80である金属吸着材。
【化1】

(式(1)中、R1は、アミノ基又は下記一般式(2)で示されるチオウレア基を示す。)
【化2】

(式(2)中、R2は、炭素数1〜5の直鎖又は分枝鎖アルキル基、炭素数6〜10のアリール基或いは炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
【請求項2】
前記ポリアリルアミン誘導体の重量平均分子量が5000〜300000である請求項1記載の金属吸着材。
【請求項3】
ポリアリルアミンを含有する溶液にイソチオシアナートを添加し、混合することにより、アミノ基と、アミノ基の1つの水素原子が前記イソチオシアナートによって置換されたチオウレア基とを有するポリアリルアミン誘導体を製造する前記ポリアリルアミン誘導体からなる金属吸着材の製造方法。
【請求項4】
前記イソチオシアナートが下記一般式(3)で示される請求項3記載の金属吸着材の製造方法。
【化3】

(式(3)中、R2は、炭素数1〜5の直鎖又は分枝鎖アルキル基、炭素数6〜10のアリール基或いは炭素数7〜10のアラルキル基を示す。)
【請求項5】
前記ポリアリルアミン誘導体が有する前記チオウレア基と前記アミノ基のモル比(チオウレア基:アミノ基)を5〜20:95〜80とする請求項3又は4記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアリルアミンの重量平均分子量が5000〜200000である請求項3ないし5いずれか1項に記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2記載の金属吸着材を用いた金属の吸着方法であって、
前記金属を溶解させた金属塩水溶液を調製する工程と、
前記金属塩水溶液に前記金属吸着材を添加して、前記金属が吸着した金属吸着材の沈殿物を生成させる工程と、
前記沈殿物が生成した金属塩水溶液を固液分離し、前記沈殿物を回収する工程と
を含む金属の吸着方法。
【請求項8】
前記金属塩水溶液のpHを5以下に調整する請求項7記載の金属の吸着方法。
【請求項9】
前記金属がリチウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金、金、タリウム、ビスマス、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、鉛、鉄、銅、カドミウム、水銀、ヒ素、ウラン及びスズからなる群から選ばれた1種又は2種類以上の金属である請求項7又は8記載の金属の吸着方法。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−235236(P2011−235236A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109097(P2010−109097)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 社団法人高分子学会 〔刊行物名〕 第18回 ポリマー材料フォーラム講演予稿集 〔発行年月日〕 平成21年11月11日 〔研究集会名〕 第24回 群馬・栃木地区講演会 〔主催者名〕 社団法人高分子学会 関東支部 〔開催日〕 平成22年3月9日 〔研究集会名〕 学術フロンティア推進事業『次世代機能材料「漆」の高度利用に関する学際的研究』2010−2漆アカデミー:漆の講演会 〔主催者名〕 明治大学 〔開催日〕 平成22年3月11日 〔発行者名〕 株式会社東京化学同人 〔刊行物名〕 現代化学 〔巻数〕 No.466 〔号数〕 2010年1月号 〔発行年月日〕 平成22年1月1日 〔発行者名〕 日本経済新聞社 〔刊行物名〕 日本経済新聞 〔巻数・号数〕 第44473号 〔発行年月日〕 平成21年11月16日 〔発行者名〕 化学工業日報社 〔刊行物名〕 化学工業日報 〔巻数・号数〕 第21749号 〔発行年月日〕 平成21年12月7日 〔発行者名〕 桐生タイムス社 〔刊行物名〕 桐生タイムス 〔巻数・号数〕 第17037号 〔発行年月日〕 平成21年11月14日 〔発行者名〕 上毛新聞社 〔刊行物名〕 上毛新聞 〔巻数・号数〕 第41130号 〔発行年月日〕 平成21年11月14日 〔掲載年月日〕 平成21年11月26日 〔掲載アドレス〕 http://www.insightnow.jp/article/4576 〔掲載年月日〕 平成21年11月14日 〔掲載アドレス〕 http://www.kiryutimes.co.jp/news/2009/1114/0911141.html
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【Fターム(参考)】