説明

金属缶用印刷フィルム、その製造方法及び製造装置

【課題】インキジェット印刷により形成された印刷像を有しており、熱収縮によらず、接着剤を用いて金属缶の胴部に貼着され、しかも面倒な手段を用いることなく、オーバーラップ部での剥がれを有効に防止することができる金属缶用印刷フィルムを提供する。
【解決手段】透明樹脂フィルム10の一方の表面に、下地層11を介してインキジェット印刷層13が形成され、インキジェット印刷層13を覆うように半硬化状態のトップコート層15が形成され、透明樹脂フィルム10の他方の表面には、金属缶用接着剤層17が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属缶の胴部に施される金属缶用印刷フィルムに関するものであり、さらには、その製造方法及び製造装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ、スチール等の金属から成形された金属缶は、耐衝撃性が高く、しかも、酸素等のガスを透過せず、プラスチック容器に比して内容物の保存性が格段に優れており、さらに、ガラスビンに比して軽量であるなどの利点を有しており、炭酸飲料、アルコール性飲料、その他の飲料や各種食品用の容器として広く使用されている。
【0003】
このような金属缶においては、古くは、缶胴部に直接印刷が施され、商標、製造者、その他の各種商品情報、或いは意匠等が表示されていたが、最近では、印刷像が形成された樹脂フィルムを別個に作製し、この樹脂フィルムを金属缶の胴部に接着する手法が採用されるようになってきている(特許文献1参照)。
【0004】
樹脂フィルムに印刷を施す手段としては、グラビア印刷やフレキソ印刷などの方法が広く採用されているが、これらの方法は、大量生産に適しているものの、印刷のための版が必要であり、その作製に長時間を要するばかりか、製版コストも高く、従って、消費者の多様なニーズに応じて少ロット、多品種の製品が販売される現状には適していない。
【0005】
そこで、現在では、インキジェットによる印刷方式が注目されている。即ち、この印刷方式は、インキジェットプリンタを使用し、入力された印刷情報に基づいて印刷が行われるため、版を作製する必要が無く、しかも印刷の変更も容易であり、小ロット、多品種の製品の印刷に適している。
【0006】
例えば、特許文献1にも、インキジェット印刷により印刷像を形成できることが示唆されておる。
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂フィルムの一方の面にクリアコート層(仕上げニス層)が設けられ、他方の面には、下地層を介してインキジェット印刷像が形成され、インキジェット印刷像の上に接着剤層が設けられている印刷フィルムが提案されている。この印刷フィルムは、接着剤層を金属缶に対面させて熱接着するものであり、印刷像は、金属缶側の内面に形成されている。
また、特許文献3には、熱収縮性フィルムの表面にインク受容層(下地層)が設けられ、このインク受容層上にインキジェット印刷像が形成され、さらにその上に保護層(仕上げニス層)が設けられている印刷フィルムが提案されている。この印刷フィルムは、所謂シュリンクフィルムであり、円筒形状を有し、これを金属缶に被せて収縮させることにより金属缶の胴部に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−54567号公報
【特許文献2】特開2006−248573号公報
【特許文献3】特開2008−213199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献で提案されている公知の印刷フィルムは、印刷像がインキジェット方式で施されるため、製版の必要が無く、デザイン変更も簡単に行うことができ、小ロット、多品種製品の印刷に適しているが、未だ解決すべき課題がある。
【0009】
例えば、特許文献1及び2で提案されている印刷フィルムでは、接着剤を用いて金属缶の胴部に貼着されるため、金属缶胴部の全体を覆うために、この印刷フィルムには、小幅の重ね合わせ部が線状に形成される。このような重ね合わせ部では、フィルム内面の接着剤層とフィルム上面の保護層(仕上げニス層)とが密着して接着されることになるため、この接着を効果的に行い、重ね合わせ部での剥がれを防止することが必要である。即ち、このために、缶胴部に貼着する前には保護層を形成せず、重ね合わせ部(オーバーラップ部)で接着剤層と樹脂フィルムとが直接接触するようにして金属缶胴部に貼着せしめるか、或いは重ね合わせ部に相当する部分(接着剤層とは反対側の面)に、接着剤と接着性の良好な層を形成しておき、この重ね合わせ部を除く部分に保護層を形成した状態で金属缶胴部に貼着するなどの面倒な手段を採用しなければならず、生産性が低いという問題がある。
【0010】
また、特許文献1及び2の印刷フィルムは、インキジェット印刷をした場合に、缶胴部の色調の影響で印刷画像の明瞭さや光輝性に欠けるという問題がある。
【0011】
さらに、特許文献3の印刷フィルムは、円筒形状を有しており、金属缶に被せての収縮により設けられるため、オーバーラップ部が形成されず、オーバーラップ部での接着性を確保するための面倒な手段は必要がないという利点を有している。しかしながら、この印刷フィルムでは、金属缶に被せた状態でフィルム自体を収縮させるため、この収縮によって印刷像が歪んでしまうという問題があり、精密なデザインの印刷などには適用が困難である。
【0012】
従って、本発明の目的は、インキジェット印刷により形成された印刷像を有しており、熱収縮によらず、接着剤を用いて金属缶の胴部に貼着され、しかも面倒な手段を用いることなく、オーバーラップ部での剥がれを有効に防止することができる金属缶用印刷フィルム及びその製造方法、並びに、その製造装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、金属缶に貼着した場合であっても、印刷画像の明瞭さや光輝性に優れた金属缶用インキジェット印刷フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、透明樹脂フィルムの一方の表面に、下地層を介してインキジェット印刷像が形成され、該インキジェット印刷像を覆うように半硬化状態のトップコート層が形成されていると共に、該透明樹脂フィルムの他方の表面には、金属缶用接着剤層が形成されていることを特徴とする金属缶用印刷フィルムが提供される。
【0014】
本発明の金属缶用フィルムにおいては、
(1)前記樹脂フィルムの他方の表面と前記金属缶用接着剤層との間に、白インキベタ層が形成されていること、
(2)前記樹脂フィルムの他方の表面と白インキベタ層との間に、金属粉顔料或いはパール顔料を含む光沢層が形成されていること、
が好ましく、さらに、
(3)前記樹脂フィルムの他方の表面と前記金属缶用接着剤層との間に金属蒸着層が形成されていること、
という態様を採用することもでき、かかる態様においては、
(4)前記金属缶用接着剤として、ガス非放出性の接着剤が使用されていること、
が好適である。
【0015】
本発明によれば、また、
一方の表面に下地層が形成され、且つ他方の表面に金属缶用接着層が形成された透明樹脂フィルムを用意する工程;
前記下地層に、インキジェットプリンタを用いてインキジェット印刷像を形成する工程;
前記インキジェット印刷像を硬化する工程;
硬化したインキジェット印刷層を覆うように、全面にトップコート剤を塗布する工程;
前記トップコート剤のコーティング層を半硬化状態に硬化せしめることにより、半硬化状態のトップコート層を形成する工程;
を含むことを特徴とする金属缶用印刷フィルムの製造方法が提供される。
【0016】
本発明によれば、さらに、
一方の表面に下地層が形成され、且つ他方の表面に金属缶用接着層が形成された透明樹脂フィルムが巻回された原反ローラと、該原反ローラから該透明樹脂フィルムを巻き取る巻き取りローラとを備え、
前記原反ローラと巻き取りローラとの間のフィルム移送領域に、インキジェット印刷機構、インキ硬化機構、トップコート剤塗布機構、トップコート剤組成物を半硬化させるための加熱機構が配置されており、
原反ローラから巻き出された前記透明樹脂フィルムの下地層に、前記各機構により、インキジェット印刷像の形成、該印刷像の硬化、トップコート剤の塗布及びトップコート剤の半硬化による半硬化トップコート層の形成が順次行われ、該透明樹脂フィルムが巻き取りローラにより巻き取られるように構成されていることを特徴とする金属缶用印刷フィルムの製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の金属缶用印刷フィルムにおいては、印刷像がインキジェットプリンタを用いてのインキジェット方式により形成されるため、製版が必要でなく、印刷像(デザイン)の変更も容易であり、また、印刷像の自由度も大きく、生産コストが安価であり、小ロット、多品種の生産に極めて適している。
【0018】
また、この印刷フィルムは、印刷像を覆うように形成され、印刷像の保護層として機能しているトップコート層(所謂仕上げニス層に相当)は、半硬化状態に保持されているため、トップコート層とは反対側の面に形成されている金属缶用接着剤層が金属缶胴部に対面するようにして金属缶胴部に巻き付け、端部が重ね合わされた状態で加熱することにより、該接着剤層が金属胴部面と密着した状態で硬化すると同時に、重ね合わせ部においては、該接着剤層と半硬化状態のトップコート層とが密着した状態で硬化することとなり、この結果、重ね合わせ部において、両層ががっちりと接合する。従って、重ね合わせ部での印刷フィルムの剥がれを有効に防止することができる。
【0019】
さらに、本発明では、金属缶胴部への印刷フィルムの貼着を、該フィルムを収縮させて行うわけではなく、単にフィルムを巻き付けての熱接着により行うため、フィルムの貼着に際して収縮は生ぜず、従って収縮により、印刷像が歪むという不都合を生じることもない。
【0020】
さらに付け加えると、本発明では、重ね合わせ部(オーバーラップ部)での剥がれを防止するために、トップコート層を半硬化状態に保持しておくという手段を採用しており、このためには、トップコート層を設けた後の加熱(トップコートの乾燥)をマイルドな条件(具体的には、加熱温度を比較的低温とし、且つ加熱時間を短時間とする)を採用すればよい。即ち、オーバーラップ部に格別の層を設けたり、トップコート層をオーバーラップ部以外の部分にのみ形成したり、或いはオーバーラップ部でのトップコート層の組成を変えるなどの手段を採用する必要は無く、従って、トップコート層の保護性能を低下させることなく、高い生産効率で印刷フィルムを製造し、且つ金属缶胴部に貼着することができる。
【0021】
また、本発明においては、樹脂フィルムの他方の表面と前記金属缶用接着剤層との間に、白インキベタ層を形成することにより、バックグラウンドが白地となって明るくなり、インキジェット印刷像が明るくなり、加飾効果が高められるという利点がある。
また、白インキベタ層は、酸化チタン等の白色顔料を含有しているため、この表面に凹凸が形成され、この結果アンカー効果により、この上に形成する接着剤層との密着性が向上するという利点がある。
【0022】
さらに、上記のように白インキベタ層を設けた場合には、透明樹脂フィルムの他方の表面(印刷像が形成されていない側の面)と白インキベタ層との間に、金属粉顔料或いはパール顔料を含む光沢層を形成することにより、金属光沢性を著しく高め、加飾性をさらに向上させることができる。
【0023】
また、上記の白インキベタ層に代えて、前記樹脂フィルムの他方の表面と前記金属缶用接着剤層との間に金属蒸着層を形成することによって鏡面光沢性を付与し、加飾性を高めることができる。特に、この態様では、印刷像と金属蒸着層との間に透明樹脂フィルムが存在しているため、光の干渉によって印刷像に立体感を付与することができる。
【0024】
但し、このような金属蒸着層を設けた場合においては、この印刷フィルムを金属缶胴部に巻き付けて接着剤層を加熱硬化させたとき、接着剤層から発生するガス(低分子化合物)の放出が金属蒸着層によって遮断されてしまい、この結果、印刷フィルムが部分的に金属缶胴部表面から浮き上がってしまう(ブリスター)という不都合を生じ、外観不良が発生してしまうことがある。このような不都合は、接着樹脂として、加熱硬化に際してガスを発生しないガス非放出性のものを使用することにより、有効に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の印刷フィルムの基本層構造を示す図である。
【図2】図1の印刷フィルムを金属缶胴部に巻き付けて貼着するときのオーバーラップ部の構造を示す図である。
【図3】本発明の印刷フィルムの層構造の他の例を示す図である。
【図4】本発明の印刷フィルムの層構造のさらに他の例を示す図である。
【図5】本発明の印刷フィルムの製造に使用される製造装置の概略構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<印刷フィルムの基本層構造>
本発明の印刷フィルムの基本層構造を示す図1を参照して、全体として1で示す印刷フィルムは、透明樹脂フィルム10を基材フィルムとして有するものであり、この透明樹脂フィルム10の一方の面に、下地層11が形成されており、下地層11の表面には、インキジェット方式により印刷された印刷像13を有しており、さらに、この印刷像13を被覆するように、トップコート層15が設けられている。また、この透明樹脂フィルム10の他方の面には、金属缶用の接着剤層17が形成されている。即ち、この印刷フィルム1は、印刷像13側が外表面側となり、接着剤層17が内面となるようにして、金属缶50の胴部に巻き付けて加熱することにより、貼着される。
尚、印刷フィルム1が貼着される金属缶50の表面には、金属缶50の種類に応じて、適宜、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなる樹脂フィルムがラミネートされていてもよい。
【0027】
透明樹脂フィルム10は、それ自体公知の透明な熱可塑性樹脂、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンあるいはエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体や、環状オレフィン共重合体などのオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体等のエチレン・ビニル系共重合体樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、ABS、α−メチルスチレン・スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル・塩化ビニリデン共重合体、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート;ポリフエニレンオキサイド;ポリ乳酸などの生分解性樹脂;などから形成されていてよい。一般的には、透明性に優れていると同時に、この印刷フィルム1を製造する際に行われる加熱硬化のための熱処理に対しての耐熱性が良好であり、さらには、トップコート層15の半硬化状態(この点については後述する)を判定するために使用される有機溶剤に対して不溶であるという点で、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルが好適に使用される。
【0028】
かかる透明樹脂フィルム10の厚みは特に制限されないが、過度に厚いと、印刷フィルム1自体が必要以上に厚くなってしまい、これを貼着してときに、金属缶50の外観が損なわれてしまうので、適宜の厚みとする。具体的な厚みは、金属缶50の大きさ等によっても異なるので一概に規定できないが、金属缶50を一般的な飲料用缶として用いる場合には、この透明樹脂フィルム10の一般的な厚みは、8乃至30μm程度である。また、このような透明樹脂フィルム10は、適宜、一軸或いは二軸延伸されたものであってもよい。
【0029】
透明樹脂フィルム10の一方の面側に形成されている下地層11は、アンカーコート層とも呼ばれ、インキジェット方式により施される印刷像13を強固に保持固定し、密着性を高めるためのものである。このような下地層11は、インキジェット用の透明なアンカーコート剤としてそれ自体公知のものを使用することができ、例えば、熱硬化性、紫外線硬化型あるいは電子線硬化型のポリエステル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等が所定の溶剤に分散乃至溶解された塗布液を塗布・乾燥し、次いで加熱、紫外線照射あるいは電子線照射等により硬化することにより形成される。
このような下地層11の厚みは、通常、0.1乃至2.0μm程度である。
【0030】
印刷像13は、インキジェット方式により形成されるものであり、紫外線硬化型インキあるいは電子線硬化型インキが使用される。具体的には、インキジェットプリンタを使用し、各色の顔料乃至染料が紫外線硬化型樹脂バインダーあるいは電子線硬化型樹脂バインダー、及び各添加剤と共に溶剤に分散乃至溶解されている油溶性のインキジェット用インキを、所定のデザインに応じて施して色重ねすることにより形成される。紫外線硬化型インキの場合はそれらに加えて光重合開始剤が添加されて形成される。
【0031】
トップコート層15は、所謂仕上げニス層とも呼ばれるものであり、印刷像13の保護や艶出しのために形成される。このようなトップコート層15を形成するためのトップコート剤としては、透明な熱硬化性樹脂が使用され、例えば、熱硬化性のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などを熱硬化性樹脂成分として含み、さらに、硬化剤成分としてフェノール樹脂やメラミン樹脂などのアミノ樹脂或いはイソシアネート樹脂等を、熱硬化性樹脂成分100重量部当り0.1乃至10重量部程度の量で含有しているものであり、これらの樹脂成分を、適宜、有機溶剤に溶解させたものである。
【0032】
尚、トップコート剤には、パラフィン、シリコンオイル等の滑剤成分を配合することもできるが、本発明においては、金属缶50への貼着に際して、トップコート層15と接着剤層17とを接着させるため、このような滑剤成分は配合されていないことが望ましく、配合されたとしても、固形分当りの含有量が15重量%以下とするのがよい。
【0033】
本発明の印刷フィルム1では、このようなトップコート層15は、半硬化状態に保持されていることが重要である。即ち、この印刷フィルム1は、接着剤層17が内面側となるようにして金属缶50の胴部に巻き付け、図2に示されているように、端部を重ね合わせた状態で接着剤層17を加熱硬化することにより、金属缶50の胴部に貼着される。即ち、図2において、オーバーラップ部Xでは、トップコート層15と接着剤層17とが面接した状態で接着剤層17の熱硬化が行われるが、トップコート層15が完全に硬化された状態では、トップコート層15と接着剤層17と接合することができず、従って、接着剤層17と金属缶50とは強固に接合するものの、このオーバーラップ部Xでは、剥がれを生じてしまい、金属缶50の商品価値を著しく損ねてしまう。しかるに、本発明では、このトップコート層15が半硬化状態に保持されているため、接着剤層17の加熱硬化と同時に、トップコート層15が完全に硬化するため、両者が面接しているオーバーラップ部Xでは、両者の間に架橋結合が生じてがっちりと接合し、オーバーラップ部Xでの剥がれを有効に防止することができるのである。
【0034】
本発明において、トップコート層15の半硬化状態は、後述する実施例に示されているように、溶媒としてイソプロピルアルコール(IPA)を用いてのIPAラビング法により評価することができる。この評価値は、半硬化物をIPAで湿潤させた状態で行ったラビング回数により表示され、この値が大きいほど、硬化が進行しており、この値が小さいほど、未硬化の状態にあることを示す。本発明においては、この値が5乃至50回の範囲にあることが好適である。即ち、この値が大きすぎると、硬化が進行しすぎてしまい、金属缶50への貼着時において、トップコート層15と接着剤層17との接着が困難となってしまい、オーバーラップ部Xでの剥がれを防止することが困難となってしまう。一方、評価値が上記範囲よりも小さいと、硬化が不十分となり、トップコート層15がベタついたものとなり、例えばロールの巻き付け時などにおいて、フィルム1同士が粘着してしまうなどの不都合を生じ、フィルム1の生産が困難となってしまうおそれがある。
【0035】
このような半硬化状態のトップコート層15の厚みは、通常、印刷像13(通常0.1乃至10μm程度の厚みである)の上に存在する被覆部分の厚みが0.1乃至10μm程度、特に0.5乃至5μm程度とするのがよい。この厚みが薄すぎると、トップコート層15の保護性能が低くなり、また必要以上に厚くすることは、コストの増大等を招くに過ぎないからである。
【0036】
尚、半硬化状態のトップコート層15の形成は、印刷像13を被覆するように塗布されたトップコート剤の塗布層を、完全に硬化せず且つ以下に述べる接着剤層17が硬化しないように、低温、短時間での熱処理(一般に、100乃至140℃、5乃至20秒程度)に付することにより行うことができる。
【0037】
接着剤層17は、この印刷フィルム1を金属缶50の胴部に貼着するために設けられている層であり、加熱加圧により金属缶50或いは金属缶50にラミネートされている樹脂フィルム51に容易に接着し得る公知の熱硬化型接着剤、例えば、ポリウレタン系、熱硬化性のポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂などを熱硬化性樹脂成分として含み、イソシアネート或いはメラミン樹脂などを硬化剤成分として、熱硬化性樹脂成分100重量部当り0.1乃至10重量部程度の量で含有しているものを使用することができる。さらに、一般的には、硬化前の安定性を確保するために、適宜の量でオキシム、ラクタム、エステル、ケトン、アミド等の低分子化合物が配合され、このような低分子化合物によってイソシアネート基等の官能基がブロックされている。このような熱硬化型接着剤を各種溶剤に分散乃至溶解させた接着剤溶液をローラ塗布等により塗布し、乾燥することにより形成される。かかる接着剤層17の厚みは、通常、1乃至10μm程度である。
【0038】
尚、上記の接着剤層17には、酸化チタン等の顔料が配合されていることが好適である。即ち、接着剤層17に顔料が配合されているときには、この印刷フィルム1を金属缶50の胴部に巻き付けての加熱により貼着を行うに際して、接着剤層17の熱収縮を有効に防止することができ、熱収縮による印刷像13の歪み等を有効に防止することができる。このような顔料の配合量は、接着剤層17中の10乃至90重量%が好ましい。
【0039】
尚、後述するように、金属蒸着膜上に接着剤層17を形成する態様においては、この熱硬化型接着剤として、ガス非放出性の接着剤(この点については、後述する)を使用するのがよい。
【0040】
上記のような層構造を有する印刷フィルム1が貼着される金属缶50としては、特に制限されず、各種金属板、例えばアルミニウム板、アルミニウム合金板、ティンフリースチールなどの表面処理鋼板、ブリキ板、クロムメッキ鋼板、アルミメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、スズニッケルメッキ鋼板、その各種の合金メッキ鋼板などを、絞り加工、絞りしごき加工、再絞り加工などによって成形したシームレス缶、及び溶接缶など、各種のタイプの金属缶が使用される。また、このような金属缶50の表面には、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロプレンフィルムなどの樹脂フィルム51がラミネートされたものであってもよい。特に、シームレス缶のように過酷な成形加工により得られるものでは、このような樹脂フィルム51を金属板にラミネートしてから成形加工されるものが多く、本発明の印刷フィルム1は、このようなラミネート缶にも適用できる。
【0041】
前述した基本層構造を有している本発明の印刷フィルム1は、適宜、加熱された金属缶50(或いは金属缶50の樹脂フィルム51)の胴部表面に巻き付け、図2に示されているように、端部がオーバーラップされた状態で加熱して、接着剤層17の硬化及び半硬化状態のトップコート層15の完全硬化を行うことにより、金属缶50の胴部表面に貼着される。
【0042】
印刷フィルム1が貼着された金属缶50は、ネックイン加工、フランジ加工等の加工に付され、内容物が充填された後、缶蓋が巻締め固定され、販売に供される。
【0043】
<他の層構造>
本発明の印刷フィルム1は、上述した基本構造を有している限り、種々の設計変更が可能であり、印刷フィルム1の加飾性を高めることができる。このような他の層構造の例を図3及び図4に示した。
【0044】
図3に示された本発明の印刷フィルム1では、透明樹脂フィルム10の外面側は、前述した図1の基本構造と全く同様であり、下地層11を介してインキジェットによる印刷像13が形成され、印刷像13を被覆するように半硬化状態のトップコート層15が設けられている。一方、この透明樹脂フィルム10の他方の面側には、接着剤層17と透明樹脂フィルム10との間に白インキベタ層20が全面に設けられており、この白インキベタ層20と透明樹脂フィルム10の間には、必要に応じて、光沢層21が全体にわたってベタ状に形成されている。
【0045】
即ち、この態様の印刷フィルム1は、接着剤層17が白インキベタ層20の上に形成されており、このような白インキベタ層20の形成により、この印刷フィルム1の加飾性を高めることができる。例えば、スチール製の金属缶50の表面にポリエチレンテレフタレート等のポリエステルなどからなる樹脂フィルム51がラミネートされているシームレス缶などでは、アルミニウムなどと比較すると、展延性に優れた金属面が直接工具に接触して成形加工されていないため、凹凸の大きな粗面となっており、金属光沢が乏しいという欠点がある。このような場合においては、上記のように白インキベタ層20が設けられている印刷フィルム1では、金属缶50の表面を完全に遮蔽し、且つ印刷像13のバックグラウンドが白地となるため、印刷像13が鮮明となり、印刷像13の加飾効果を向上させることができる。
【0046】
このような白インキベタ層20は、酸化チタンや酸化亜鉛等の白色顔料が熱硬化性、紫外線硬化性あるいは電子線硬化性の樹脂バインダーと共に溶剤中に分散されている白色インキを用い、この白色インキを塗布、乾燥し、加熱、紫外線照射あるいは電子線照射により硬化させることにより形成される。白色インキの塗布は、特に制限されず、フレキソ印刷、グラビアローラを用いたグラビア印刷やインキジェットプリンタを用いてのインキジェット方式による印刷などの手段により行うことができるが、塗布速度等の観点からはグラビア方式によるのが好適である。かかる白インキベタ層20の厚みは、一般に、0.5乃至5.0μm程度である。
【0047】
また、白インキベタ層20が設けられている場合には、この層20中に白色顔料が配合されているため、この表面に凹凸が形成され、従ってアンカー効果により、この上に形成する接着剤層17との密着性が向上する。
【0048】
また、上記の白インキベタ層20と透明樹脂フィルム10との間に適宜設けられる光沢層21は、金属光沢乃至光輝性を付与するために設けられるものであり、特に、加工により金属表面が粗面となっているラミネート金属缶50に好適に適用され、金属光沢乃至光輝性を付与することにより、金属缶50のデザイン性を高めるために使用される。このような光沢層21は、アルミニウム粉やブロンズ粉などの金属粉顔料、或いは薄板板状の雲母粒子の表面を二酸化チタンや酸化鉄などによりコートして得られるパール顔料などが、熱硬化性、紫外線硬化性あるいは電子線硬化性の樹脂バインダーと共に溶剤中に分散されている銀またはパールインキを用い、このインキを塗布、乾燥し、加熱、紫外線照射あるいは電子線照射により硬化させることにより形成される。かかるインキの塗布には、フレキソ印刷やグラビアローラを用いたグラビア印刷などの手段により行うことができるが、特に生産速度の観点から、グラビア印刷が好適である。この場合、インキ中の顔料の粒径が大きく、ノズルからの吐出が困難となるため、インキジェット方式は採用されない。このような光沢層21の厚みは、一般に、0.5乃至5.0μm程度である。特に、このような光沢層21は、白インキベタ層20をバックグランドとして認識されるため、その加飾効果は極めて高い。
【0049】
さらに、図4に示された本発明の印刷フィルム1では、透明樹脂フィルム10の外面側は、やはり図1の基本構造と全く同様であるが、その他方側の面には、接着剤層17と透明樹脂フィルム10との間に金属蒸着層25が全面に設けられている。このような金属蒸着層25は、鏡面光沢性を付与するために設けられるものである。特に、金属蒸着層25が設けられている時には、印刷像13と金属蒸着層25の間に透明樹脂フィルム10が存在しているため、光の干渉によって印刷像13に立体感が付与され、加飾効果がさらに高められる。
【0050】
上記のような金属蒸着層25は、種々の金属、例えばアルミニウム、銅、クロム、銀などの金属の蒸着によって形成されるが、特にシルバー調の金属色を有し且つ鏡面光沢性に優れ、安価であるという観点から、アルミニウムの蒸着により形成されていることが好適である。
【0051】
ところで、金属蒸着層25が透明樹脂フィルム10と接着剤層17との間に形成されている態様においては、接着剤層17を加熱硬化させて金属缶50の胴部に貼着する際に発生するガスによって、印刷フィルム1が部分的に金属缶50の胴部表面から浮き上がってしまう蒸着層ブリスター現象が生じることがある。即ち、接着剤層17は、熱硬化型樹脂を用いて形成され、この熱硬化型樹脂には、ポリイソシアネート等の硬化剤成分が配合され、先にも述べたように、一般的に、硬化前での安定性を確保するために、オキシム、ラクタム、エステル、ケトン、アミド等の低分子化合物(ブロック剤)によってイソシアネート基等の官能基が封鎖されている。従って、加熱によって、低分子化合物が遊離し、イソシアネート基等の官能基が解放されて熱硬化性樹脂成分と反応して硬化するわけである。このことから理解されるように、前述した熱硬化型樹脂では、加熱硬化時にブロック剤として使用された低分子化合物によるガスが発生し、発生したガスが金属蒸着層25によって封鎖されてしまい、この結果、上記のような蒸着層ブリスター現象が発生することとなる。
【0052】
従って、金属蒸着層25を設けた態様においては、接着剤層17の形成に用いる熱硬化型樹脂として、ガス非放出性のものが好適に使用される。ガス非放出性の熱硬化型樹脂とは、前述したものと同様、熱硬化性樹脂成分及び硬化剤成分が配合されているが、硬化剤成分として、内部ブロック型のポリイソシアネートが使用されているものである。内部ブロック型イソシアネートとは、イソシアネート基同士の反応によりウレトジオン基やウレトイミン基が形成されたものであり、これによりイソシアネートが封鎖され、硬化前での安定性が確保できるというものである。即ち、内部ブロック型イソシアネートが硬化剤成分として使用されている場合には、低分子化合物によりイソシアネート基が封鎖されておらず、ポリイソシアネート同士の相互反応によってイソシアネート基が封鎖(内部ブロック)されているため、加熱硬化によってイソシアネート基の相互反応によって形成されたウレトジオン基やウレトイミン基がイソシアネート基に解離し、ガス発生の要因である低分子化合物を発生させない。このため、上記のようなガスの発生による蒸着層ブリスター現象を効果的に防止することができるのである。
【0053】
尚、上記のような内部ブロック型ポリイソシアネートは、それ自体公知であり、例えば特開2005−154443号や特開2006−169243号等には、その製法等が開示されており、また、このような内部ブロック型ポリイソシアネートが配合された熱硬化型樹脂は、東洋紡社により、バイロン670の商品名でも市販されている。
【0054】
<印刷フィルムの製造及び製造装置>
前述した各種の層構造を有する本発明の印刷フィルム1を製造するには、透明樹脂フィルム10の一方の面に、前述した下地層11が形成され且つ他方の面に接着剤層17が形成された原反フィルムを作製し、この原点フィルムに、前述したインキジェット印刷像13及び半硬化状態のトップコート層15を形成することにより製造される。
【0055】
即ち、原反フィルムの一方の面についての下地層11の形成は、アンカーコート剤の塗布液をグラビアコート等によって原反フィルムに塗布し、乾燥し、次いで加熱、紫外線照射あるいは電子線照射等により硬化することにより形成される。
【0056】
また、接着剤層17は、前述した図1、図3及び図4の層構造に応じて、透明樹脂フィルム10の他方の面に、直接(図1)、或いは適宜形成される光沢層21を介して形成される白インキベタ層20の上に(図3)、或いは金属蒸着層25の上に(図4)形成されることとなる。他方の面に形成されるこれらの層は、前述した方法により形成される。
【0057】
尚、各層の形成順序は、当該層の形成が他の層の形成に悪影響を与えないような順序で形成され、例えば金属蒸着層25が形成されている態様では、始めに金属蒸着層25を透明樹脂フィルム10に形成した後に、他の層の形成が行われることとなる。
【0058】
上記のようにして作製された原反フィルムについてのインキジェット印刷像13や半硬化状態のトップコート層15の形成は、図5に示す装置を用いて行われる。
【0059】
図5の装置では、上述した原反フィルム(図5においてZで示す)が巻回された原反ローラ100と、原反ローラ100から原反フィルムZを巻き取る巻き取りローラ101とを備えており、原反ローラ100と巻き取りローラ101との間のフィルム移送領域に、インキジェット印刷による印刷像の形成機構やトップコート層の形成機構が設けられており、これらの機構により、原反フィルムZの接着剤層17が設けられていない側の面(下地層11が形成されている側の面)に印刷像13やトップコート層15の形成が行われるようになっている。
【0060】
即ち、原反ローラ100と巻き取りローラ101との間のフィルム移送路には、適当な間隔で送りローラ103が設けられており、原反ローラ100に巻回された原反フィルムZが、これらの送りローラ103を介して移送され、巻き取りローラ101によって巻き取られるようになっている。原反ローラ100から巻き取りローラ101との間のフィルム移送路には、原反ローラ100側から順次に、インキジェットプリンタ107、電子線或いは紫外線の照射による硬化装置109、トップコート剤塗布装置110、加熱装置113及び冷却装置115が配置されている。
【0061】
原反ローラ100から巻き出された原反フィルムZは、先ず、インキジェットプリンタ107によるインキジェット印刷が行われ、下地層11の表面に印刷像13が形成される。
【0062】
インキジェットプリンタ107では、フィルムZの移送路の上流側から下流側に向かって順に、白インキ用ノズルW、イエローインキ用ノズルY、マゼンタインキ用ノズルM、シアンインキ用ノズルC、黒インキ用ノズルBがこの順で配置されており、白、イエロー、マゼンタ、シアン及び黒インキによる印刷が、所定の画像情報に基づいて行われ、各色或いはこれらインキの色重ねによりフルカラーの印刷像13が形成されるようになっている。
【0063】
これらインキのノズルの配置順序は、特に制限されないが、少なくとも白インキ用ノズルWを最上流側に配置し、さらに、白インキ用ノズルWと次の色のインキ用ノズル(図5ではノズルY)の間に、紫外線照射ランプUVあるいは電子線照射装置EBを配置しておくことが好ましい。このような配置により、白インキ用ノズルWにより白ベタの印刷像を形成し、紫外線照射あるいは電子線照射により白ベタ印刷像を硬化させた後、黒インキ用ノズルBによる印刷によってバーコート表示の像を白ベタ印刷像の上に形成し、バーコート表示も可能となるからである。
【0064】
上記のようにしてインキジェット印刷像13を形成した後は、電子線照射装置や紫外線照射ランプなどの紫外線照射装置からなる硬化装置109によって電子線或いは紫外線が照射され、インキの硬化が行われ、印刷像13が下地層11の表面に固定されることとなる。
【0065】
このようにして印刷像13が下地層11表面上に固定された後に、塗布装置110によってトップコート剤の塗布液が印刷像13を完全に覆うように塗布される。この塗布装置110は、これに制限されるものではないが、例えば、グラビアローラと圧ローラとを備え、グラビアローラに供給された塗布液を塗布するような構造のものが使用される。
【0066】
トップコート剤の塗布液が塗布された後には、加熱装置113によりトップコート剤の塗布層が半硬化状態に加熱され、次いで冷却装置115により冷却され、半硬化状態に維持されたトップコート層15が形成され、この状態で巻き取りローラ101にフィルムZ(本発明の印刷フィルム1に相当)が巻き取られることとなる。
【0067】
加熱装置113は、例えば加熱オーブン等による熱風吹き付けにより加熱を行うものであり、この加熱装置113内で、トップコート剤の塗布層が前述した温度及び時間(例えば100乃至140℃、5乃至20秒)で加熱され、これにより、先に形成されている接着剤層17を硬化させることなく、トップコート層15が形成されることとなる。
【0068】
また、冷却装置115は、冷風を吹き付けるような構造を有するものであり、図5に示されているように、加熱装置113に連接されていることが好適である。これにより、加熱されて半硬化状態に維持されたトップコート層15を直ちに冷却し、過剰の加熱による硬化を確実に防止することが可能となるからである。
【0069】
尚、上述した本発明においては、例えば適宜の領域にコロナ装置を配置し、コロナ処理を行った上で、その上に各種の層を形成することができる。例えば、透明樹脂フィルム10の表面をコロナ処理しておくことにより、この表面上に形成される下地層11、接着剤層17、白インキベタ層20或いは光沢層21などとの密着性を高めることができるし、下地層11の表面をコロナ処理しておくことにより、下地層11とインキジェット印刷像13との密着性を向上することもできる。勿論、適宜、他の層の表面をコロナ処理することもできる。
【0070】
このようにして製造され、巻き取りローラ101により巻き取られた本発明の印刷フィルム1は、金属缶50への貼着時に巻き取りローラ101から巻き出され、適宜の大きさに裁断され、金属缶50(必要に加熱されている)に巻き付けられ、所定温度に加熱され、接着剤層17及び半硬化状態のトップコート層15が加熱硬化されることにより、金属缶50の加飾性を高めることができる。
【0071】
このような本発明の印刷フィルム1は、接着剤を用いて金属缶50の胴部に貼着するものであるため、透明樹脂フィルム10の熱収縮による印刷像13の歪みを有効に防止することができるばかりか、トップコート層15が半硬化状態に保持されている状態で金属缶50への貼着が行われるため、前述した図2のオーバーラップ部Xにおいて、接着剤層17とトップコート層15との硬化によって両層をしっかりと接着固定することができ、オーバーラップ部Xでの剥がれも有効に防止することができる。
【0072】
本発明の印刷フィルム1は、印刷像13がインキジェット方式により形成されるため、印刷のための格別の版は不必要であり、印刷像の設計段階から製造まで短時間で且つローコストで行うことができ、しかもデザインの変更も容易であり、小ロットでの生産に極めて適している。
【実施例】
【0073】
本発明を次の実験例で説明する。
尚、以下の実験例で、トップコート層の半硬化状態の測定及びオーバーラップ部の評価は、以下の方法により行った。
【0074】
<半硬化状態の評価>
得られた印刷フィルムについて、トップコート面の半硬化状態の評価を次のように行った。重さ1kgの柄付きハンマーの先端にガーゼを被せ、イソプロピルアルコール(IPA)をガーゼに浸透させ、ハンマーを片手に持ち、トップコート面に湿ったガーゼ部分を当て、一定の速度で10cmの距離を往復させた。速度は、1秒に1往復で行った。トップコート層が剥がれるまでの往復回数を数えて、ラビング回数とした。トップコート層剥がれの評価は視覚で行った。1往復を1回とした。ラビング回数により、次のように評価される。
1〜4回:硬化不十分(評価×)
5〜10回:やや良好な半硬化状態(評価△、許容範囲)
11〜40回:良好な半硬化状態(評価○、許容範囲であり、最適範囲)
41〜50回:やや良好な半硬化状態(評価△、許容範囲)
51回以上:硬化過多(評価×)
【0075】
<オーバーラップ部の評価>
得られた金属缶外面の印刷フィルムのオーバーラップ部を視覚で観察して評価した。評価はオーバーラップ部全体におけるオーバーラップ部ブリスターの発生程度でおこなった。金属缶3缶について行い、もっともオーバーラップ部ブリスターの大きい缶でのオーバーラップ部ブリスターの発生程度により次の基準で評点をつけた。◎、○、△が、許容範囲である。
◎:オーバーラップ部ブリスターがない
○:小さいオーバーラップ部ブリスターが1個あるが許容範囲内である
△:小さいオーバーラップ部ブリスターが数個あるが許容範囲内である
×:大きいオーバーラップ部ブリスターがある、あるいは小さいオーバーラップ部
ブリスターが多数あり、許容範囲外である
【0076】
[実施例1−1]
<印刷フィルムの作製>
厚みが12μmの長尺透明二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の片面にグラビアコーターで厚さ2μmの銀インキ(アルミニウム粉顔料入りインキ)をベタ印刷し乾燥し、さらにその上にグラビアコーターで厚さ1μmの白インキ(酸化チタン顔料入りインキ)をベタ印刷し乾燥し、続いて、ポリエステル系樹脂にイソシアネート系硬化剤および酸化チタン(乾燥樹脂中の50重量%)を配合した接着剤をグラビアコーターにて厚さ5μmに塗装し乾燥した。
このフィルムの他面に、グラビアコーターにてエポキシ樹脂系塗料を1μmの厚さに塗装し乾燥して下地層を形成し、原反フィルムを作製した。
【0077】
得られた原反フィルムを、図5に示す設備を用いて原反ローラから巻きだし、下地層上にインキジェット方式によりバーコード下地部範囲のみを白インキで印刷し紫外線照射してインキをキュアし、次いでイエロー色、マゼンタ色、シアン色、黒色の印刷をこの順で行い紫外線照射してインキをキュアした。イエロー色、マゼンタ色、シアン色、黒色はいずれも紫外線硬化型インキを用いて網点として印刷されており、それぞれの網点は重ならずに配置され、全体としてカラー写真的な画像を形成した。かつ黒色印刷と同時に前記バーコード下地白インキ部に黒インキでバーコードを印刷した。
【0078】
次いでこのフィルムのインキジェット印刷層上にグラビアコーターにてエポキシ樹脂系のトップコートを厚み1μmに塗装し、加熱装置としての熱風吹きつけ型の加熱オーブンで120℃×10秒の焼付処理を行い、トップコート層を形成し、焼付処理直後に冷風吹きつけによりフィルムを冷却して印刷フィルムを作製し、巻き取りローラで巻き取った。
【0079】
<金属カップの作製>
元板厚0.24mm、調質度T3−CAのティンフリースチール板(表面処理被覆量として金属クロム量120mg/m、クロム酸化物量15mg/m)の缶内面になる側に厚さ20μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体フィルムを、一方、缶外面になる側に酸化チタンを20重量%含有する厚さ15μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート共重合体フィルムをフィルムの融点で両面同時に熱接着し、直ちに水冷することにより樹脂被覆金属板を得た。
この樹脂被覆金属板にグラマーワックスを均一に塗布し、直径143mmの円板に打ち抜き、絞り加工後ストレッチドロー加工し、ドーミング成形を行い、加熱処理してフィルムの加工歪みを取り除くと共に潤滑剤を揮発させ、開口端部の縁切りを行い、直径52mmで高さ106mmの金属カップを得た。
【0080】
<金属缶の作製>
上記で作成した印刷フィルムをブランクに切断し、160℃に加温した上記金属カップの外面に加圧しながら巻き回し、印刷フィルム両端を重ねてオーバーラップ部を接着させ、200℃×1分の焼付けをオーブンでおこなうことによってトップコートと接着剤の焼付硬化をおこない、開口部側をネッキング加工したのちフランジ加工して、金属缶を作製した。オーバーラップ部の幅は5mmに設定した。金属缶の内容積は200mlであった。
【0081】
上記のようにして得られた印刷フィルムの層構成、乾燥条件、半硬化状態評価、金属缶のオーバーラップ部評価、缶胴外面の加飾の特徴を表1に示した。
【0082】
[実施例1−2]
トップコートの焼付条件を120℃×5秒にした以外は実施例1−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。得られた印刷フィルムの層構成、焼付条件、半硬化状態評価、金属缶のオーバーラップ部評価、缶胴外面の加飾の特徴を表1に示した。
【0083】
[実施例1−3]
トップコートの焼付条件を140℃×10秒にした以外は実施例1−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。得られた印刷フィルムの層構成、焼付条件、半硬化状態評価、金属缶のオーバーラップ部評価、缶胴外面の加飾の特徴を表1に示した。
【0084】
[実施例1−4]
銀インキ層を設けなかった以外は実施例1−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。得られた印刷フィルムの層構成、焼付条件、半硬化状態評価、金属缶のオーバーラップ部評価、缶胴外面の加飾の特徴を表1に示した。
【0085】
[実施例1−5]
原反フィルムを次のようにして作製した以外は実施例1−1と同様にして金属缶を作製した。得られた印刷フィルムの層構成、焼付条件、半硬化状態評価、金属缶のオーバーラップ部評価、缶胴外面の加飾の特徴を表1に示した。
すなわち原反フィルム作製にあたり、厚みが12μmの透明二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の片面に真空蒸着法で金属アルミニウムを500Åの厚みに金属蒸着層を形成し、その上に後述の[0095]に記載のポリエステル系樹脂に内部ブロックイソシアネート系硬化剤(ポリエステル系樹脂100重量部に対して5重量部)と酸化チタン(乾燥樹脂中の50重量%)を配合した接着剤をグラビアコーターにて厚さ5μmに塗装し乾燥して接着剤層を形成した。このフィルムの接着剤層の反対側の面に、下地層としてエポキシ樹脂系塗料をグラビアコーターにて1μmの厚さに塗装し乾燥して原反フィルムを作製した。
【0086】
[比較例1−1]
トップコートの乾燥条件を100℃×3秒にした以外は実施例1−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。得られた印刷フィルムの層構成、焼付条件、半硬化状態評価、金属缶のオーバーラップ部評価、缶胴外面の加飾の特徴を表1に示した。
【0087】
[比較例1−2]
トップコートの乾燥条件を150℃×23秒にした以外は実施例1−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。得られた印刷フィルムの層構成、焼付条件、半硬化状態評価、金属缶のオーバーラップ部評価、缶胴外面の加飾の特徴を表1に示した。
【0088】
【表1】

【0089】
以下の実験例は、金属蒸着層を設けた印刷フィルム及びそれを用いた金属缶に関するものであり、その評価は、得られた金属缶のレトルト処理前後での鏡面光沢性、レトルト処理後での印刷フィルムとの密着性及び総合評価の各評価であり、それぞれ以下の方法で行った。
【0090】
<鏡面光沢性評価(レトルト前)>
得られた金属缶について、缶外面からの目視により鏡面光沢性(蒸着層ブリスターの程度)の視覚評価を行い、4段階で評価した。評価基準は、非常に良好(◎)、良好(○)、ほぼ良好(△)、不良(×)である。◎、○、△が、許容範囲である。
【0091】
<鏡面光沢性評価(レトルト後)>
得られた金属缶を130℃×30分の蒸気レトルト処理を行った後、缶外面からの目視により鏡面光沢性(蒸着層ブリスターの程度)の視覚評価を行い、4段階で評価した。評価基準は、非常に良好(◎)、良好(○)、ほぼ良好(△)、不良(×)である。◎、○、△が、許容範囲である。
【0092】
<印刷フィルム密着性評価(レトルト後)>
得られた金属缶における印刷フィルムの缶胴との密着性を評価するため、金属缶を130℃×30分の蒸気レトルト処理を行い乾燥させた後、1mm間隔に缶高さ方向と缶円周方向にそれぞれ6本ずつのスクラッチをカッターで付与して25ピースの碁盤目を作り、セロテープ(ニチバン社商品名)を粘着し1回剥離をしたのち、下記の基準で印刷フィルム密着性の評価を行った。
評価基準は、剥離無し(◎)、剥離10%未満(○)、剥離10%以上〜50%未満(△)、剥離50%以上(×)である。◎、○、△が、許容範囲である。
【0093】
<総合評価>
鏡面光沢性評価(レトルト前)、鏡面光沢性評価(レトルト後)、印刷フィルム密着性評価(レトルト後)のうち最も悪い評価を、各実施例と比較例における個々の総合評価とした。
【0094】
[実施例2−1]
原反フィルムを次のようにした以外は実施例1−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。下記のように評価をした。
原反フィルムの作製として、厚みが12μmの長尺透明二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の片面に、真空蒸着法で金属アルミニウムを500Åの厚みに蒸着して金属蒸着層を形成し、その上に次に記載する接着剤をグラビアコーターにて厚さ5μmに塗布し乾燥し、このフィルムの他面に、グラビアコーターにてエポキシ樹脂系塗料を1μmの厚さに塗布し乾燥して下地層を形成し、原反フィルムとした。
【0095】
尚、用いた接着剤は、主剤であるポリエステル樹脂(バイロン670、Mn=20,000、Tg=7℃、東洋紡製)100重量部に対してウレトジオン基を有する内部ブロックイソシアネート硬化剤を5重量部添加し、さらにシランカップリング剤(KBM−403、信越化学工業製)を0.5重量部添加し、さらに酸化チタン(R−580、石原産業社製)を乾燥樹脂の50重量%となるように添加し、溶剤を加えて攪拌して得た接着剤であり、ガス非放出性の接着剤である。内部ブロックイソシアネート硬化剤は140℃で反応開始するものであった。
この接着剤仕様を表2に示し、さらに、レトルト処理前後での鏡面光沢性、レトルト処理後での印刷フィルムの密着性及び総合評価を、併せて表2に示した。
【0096】
[実施例2−2]
内部ブロックイソシアネート硬化剤を20重量部添加した以外は、実施例2−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。接着剤仕様、各種評価結果を表2に示した。
【0097】
[実施例2−3]
内部ブロックイソシアネート硬化剤を0.1重量部とした以外は、実施例2−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。接着剤仕様、各種評価結果を表2に示した。
【0098】
[実施例2−4]
接着剤中の酸化チタンを90重量%とした以外は、実施例2−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。接着剤仕様、各種評価結果を表2に示した。
【0099】
[実施例2−5]
接着剤中の酸化チタンを10重量%とした以外は、実施例2−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。接着剤仕様、各種評価結果を表2に示した。
【0100】
[実施例2−6]
接着剤中に酸化チタンを加えなかったこと以外は、実施例2−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。接着剤仕様、各種評価結果を表2に示した。
【0101】
[比較例2−1]
接着剤としてブロックイソシアネート硬化剤であるブロックHDI(B−882N 三井化学ポリウレタン製)を5重量部添加した以外は、実施例2−1と同様にして印刷フィルムと金属缶を作製した。この接着剤はガス放出性の接着剤である。
オーブンでの焼付け後、接着剤が硬化反応する際のガス発生によると考えられる蒸着層ブリスターが多数発生し鏡面光沢性が悪化した。接着剤仕様、各種評価結果を表2に示した。
【0102】
【表2】

【符号の説明】
【0103】
1:印刷フィルム
10:透明樹脂フィルム
11:下地層
13:印刷像
15:トップコート層
17:接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂フィルムの一方の表面に、下地層を介してインキジェット印刷像が形成され、該インキジェット印刷像を覆うように半硬化状態のトップコート層が形成されていると共に、該透明樹脂フィルムの他方の表面には、金属缶用接着剤層が形成されていることを特徴とする金属缶用印刷フィルム。
【請求項2】
前記樹脂フィルムの他方の表面と前記金属缶用接着剤層との間に、白インキベタ層が形成されている請求項1に記載の金属缶用印刷フィルム。
【請求項3】
前記樹脂フィルムの他方の表面と白インキベタ層との間に、金属粉顔料或いはパール顔料を含む光沢層が形成されている請求項2に記載の金属缶用印刷フィルム。
【請求項4】
前記樹脂フィルムの他方の表面と前記金属缶用接着剤層との間に金属蒸着層が形成されている請求項1に記載の金属缶用印刷フィルム。
【請求項5】
前記金属缶用接着剤として、ガス非放出性の接着剤が使用されている請求項4に記載の金属缶用印刷フィルム。
【請求項6】
一方の表面に下地層が形成され、且つ他方の表面に金属缶用接着剤層が形成された透明樹脂フィルムを用意する工程;
前記下地層に、インキジェットプリンタを用いてインキジェット印刷像を形成する工程;
前記インキジェット印刷像を硬化する工程;
硬化したインキジェット印刷像を覆うように、全面にトップコート剤を塗布する工程;
前記トップコート剤のコーティング層を半硬化状態に硬化せしめることにより、半硬化状態のトップコート層を形成する工程;
を含むことを特徴とする金属缶用印刷フィルムの製造方法。
【請求項7】
一方の表面に下地層が形成され、且つ他方の表面に金属缶用接着剤層が形成された透明樹脂フィルムが巻回された原反ローラと、該原反ローラから該透明樹脂フィルムを巻き取る巻き取りローラとを備え、
前記原反ローラと巻き取りローラとの間のフィルム移送領域に、インキジェット印刷機構、インキ硬化機構、トップコート剤塗布機構、トップコート剤組成物を半硬化させるための加熱機構が配置されており、
原反ローラから巻き出された前記透明樹脂フィルムの下地層に、前記各機構により、インキジェット印刷像の形成、該印刷像の硬化、トップコート剤の塗布及びトップコート剤の半硬化による半硬化トップコート層の形成が順次行われ、該透明樹脂フィルムが巻き取りローラにより巻き取られるように構成されていることを特徴とする金属缶用印刷フィルムの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−93146(P2011−93146A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247823(P2009−247823)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】