説明

金属複合超微粒子の製造方法

【課題】金属複合超微粒子の製造において、高収率で、かつ粒度分布幅の狭い均一な粒径の金属複合超微粒子を製造することのできる金属複合超微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】上段撹拌翼部2と籠部4と下段撹拌翼部3とがこの順でシャフト5に固定されてなる2段撹拌翼1を、無機金属塩と高級アルコールとの混合液7が入った反応器6内に設置し、混合液7を加熱しつつ2段撹拌翼1で撹拌混合することにより、混合液7を反応させ、金属複合超微粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属複合超微粒子の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、高収率にて粒度分布幅の狭い金属複合超微粒子を得るための製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置等の電子部品の小形化に伴い、例えば、平均粒径が100nm以下の金属複合超微粒子の電子部品への応用可能性が注目を集めている。上記金属複合超微粒子は、例えば、配線回路の形成材料や、導電性ペースト材料として、半導体装置等の電子部品に応用展開が検討されている。
【0003】
一般的に金属複合超微粒子は、その粒径が小さくなるにしたがって、その塊となる金属材料とは異なる性質を呈することが知られており、これは、金属複合超微粒子の場合、1個の超微粒子に含まれる原子のうち表面に露出しているものの割合が、塊となる金属材料の場合に比べて遙かに大きくなるためであると考えられる。この金属複合超微粒子の代表的な性質の一つとして、焼結が生起する温度が、通常、工業的に用いられる粉体よりも著しく低い温度で焼結を開始できるといった低温焼結性があげられる。
【0004】
このような金属複合超微粒子の製造方法としては、種々検討されており、例えば、無機金属塩と高級アルコール等の有機化合物とを、用いる有機化合物により異なるが100〜230℃の温度で加熱することによって、金属化合物が被覆した金属複合超微粒子を生成する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、例えば、平均粒径7〜10nm程度の金属(銀)成分からなる金属核の周囲を、厚み1.5nm程度の有機物で被覆した金属複合超微粒子が製造されている。また、無機金属塩と高級アルコールとを70〜140℃の低温域で一定時間保持することにより、上記無機金属塩が分解して金属成分からなる中心部を生成し、無機金属塩の金属成分と有機物が反応して有機金属化合物を生成することなく、上記中心部の周囲を有機物が被覆された金属複合超微粒子の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第01/70435号
【特許文献2】特開2007−46167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献の方法では、無機金属塩と有機物との反応において、反応効率が低く、未反応の無機金属塩が残存するという問題を有していた。そのため、効率良く粒度分布幅の狭い金属複合超微粒子を得ることが困難であった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、金属複合超微粒子の製造において、高収率で、かつ粒度分布幅の狭い均一な粒径の金属複合超微粒子を製造することのできる金属複合超微粒子の製造方法の提供をその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者は、無機金属塩と高級アルコールとを反応させる際の、反応性を高める手法について種々検討した。その過程で、無機金属塩と高級アルコールとを加熱反応させる際に、特定構造の撹拌翼を有する反応器を用いて行うことを想起した。このようにしたところ、その撹拌によって生じた対流により無機金属塩が何度も特定構造の撹拌翼の外周を覆うように設けられた網目状の籠を通過して微細に粉砕されることから、高級アルコールとの接触反応面積が多くなり、両者の反応が高活性で進行することを突き止めた。その結果、未反応の無機金属塩が残存しなくなり、高収率で、かつ粒度分布幅の狭い均一な粒径の金属複合超微粒子を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、無機金属塩と高級アルコールとを加熱して反応させることにより、金属複合超微粒子を製造する方法において、前記反応を、下記構造を備えた撹拌翼(A)を有する反応器を用いて行うことを特徴とする金属複合超微粒子の製造方法を要旨とするものである。
(A)中心軸に沿って複数の撹拌翼を備え、かつ複数の撹拌翼の少なくとも一つの撹拌翼の外周を覆うように網目状の籠が設けられた撹拌翼。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明は、上記無機金属塩と高級アルコールとの加熱反応の際に、特定の撹拌翼を有する反応器を用いて反応を行い、目的とする金属複合超微粒子の製造を行うというものである。このため、上記無機金属塩と高級アルコールとの反応効率が向上することとなり、その結果、高収率にて粒度分布幅の狭い金属複合超微粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の代表的な一例の金属複合超微粒子の製造工程を示す製造フローチャート図である。
【図2】本発明の金属複合超微粒子の製造方法における撹拌翼を用いた撹拌混合の態様の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に限定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
また、本発明の金属複合超微粒子の製造工程の概要を、図1の製造フローチャート図に代表例として示す。
【0013】
《金属複合超微粒子》
本発明は、無機金属塩と高級アルコールとを加熱反応させることにより、金属複合超微粒子を製造するものであるが、この金属複合超微粒子は、無機金属塩が反応分解して生じた金属を中心とし周囲に上記高級アルコール由来の有機残基により被覆された金属複合超微粒子である。
【0014】
《無機金属塩》
本発明の原料となる無機金属塩としては、通常、銀、銅等の遷移金属や錫等の炭酸塩、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等があげられる。具体的には、炭酸銀、塩化銀、硝酸銀、硫酸銀、炭酸銅、塩化銅、硝酸銅、硫酸銅、炭酸錫、塩化錫、硝酸錫、硫酸錫等があげられる。本発明においては、上記無機金属塩の中でも、非水系溶媒となじみやすいという点から、金属炭酸塩が好ましく、なかでも、特に炭酸銀または炭酸銅が好ましい。
【0015】
なお、上記無機金属塩は、通常、常温で固体粉状のものである。
【0016】
《高級アルコール》
本発明において無機金属塩とともに用いられる高級アルコールとしては、好ましくは炭素数6〜22、特に好ましくは8〜18、更に好ましくは10〜16の脂肪族アルコールがあげられる。具体的には、ドデシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、セトステアリルアルコール等があげられる。炭素数が少なすぎると安定な被覆層が得られがたくなる傾向があり、多すぎると金属含有率が低くなる傾向がある。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これら高級アルコールの中でも、安定かつ高金属含有率になるという点から、好ましくはミリスチルアルコールが用いられる。これら高級アルコールは、通常、常温で固体状のものである。また、これら高級アルコールは、固体状のまま混合してもよいが、上記のように固体状であると混合し難いことから、上記高級アルコールは、無機金属塩との混合前に、予め溶融処理されることが好ましい。
【0017】
上記高級アルコールの使用割合は、上記無機金属塩100重量部に対して、通常40〜500重量部、好ましくは50〜400重量部、特に好ましくは60〜300重量部である。上記高級アルコールの使用割合が少な過ぎると、無機金属塩との反応において無機金属塩が残存する傾向がみられ、金属複合超微粒子を高収率にて製造することが困難となる傾向がみられる。また、上記高級アルコールの使用割合が多すぎると、未反応アルコールの除去が困難となる傾向がみられる。
【0018】
《反応溶媒》
本発明の反応においては、通常、過剰量の高級アルコールを用い、これを、溶媒を兼ねて反応を進行させることが好ましいが、必要に応じて、不活性な溶媒の存在下で反応を行ってもよい。例えば、その際に用いる溶媒としては、反応条件に近い沸点を持ち、非極性の溶媒であればよく、例えば、1,3,5−トリメチルベンゼン(メシチレン)、1,2,4−トリメチルベンゼン(プソイドクメン)、イソプロピルベンゼン(クメン)、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート等があげられる。
【0019】
《他の添加剤》
本発明の反応においては、原料となる上記無機金属塩および高級アルコール以外に、反応収率の向上を目的に発泡抑制剤を用いてもよい。例えば、無機金属塩が炭酸塩系のような場合、炭酸ガスが発生し、それにより発生する泡が反応阻害要因となることがある。そのような場合、発泡抑制剤の添加が有効である。上記炭酸塩系以外にも反応の過程で発生ガスに起因する泡が生じるような場合に効果がある。
【0020】
上記発泡抑制剤としては、各種の発泡抑制作用を有するものが用いられ、例えば、イオン液体があげられる。上記イオン液体は、融点が150℃以下でカチオン部とアニオン部からなるイオン性物質であって、反応系におけるガス発生を抑制する効果を奏する。そして、本発明においては金属を含有していないものであれば特に限定するものではなく各種イオン液体が用いられる。
【0021】
上記イオン液体の配合量は、無機金属塩100重量部に対して通常2.5〜100重量部であることが好ましく、より好ましくは5〜50重量部、特に好ましくは10〜30重量部である。
【0022】
《混合および加熱反応》
本発明の金属複合超微粒子の製造方法は、上述の無機金属塩と高級アルコールとを加熱反応させることにより行われる。そして、本発明では、この加熱反応の際に、特定構造の撹拌翼、すなわち、下記構造を備えた撹拌翼(A)を有する反応器を用いて高級アルコールと無機金属塩を撹拌混合し反応させることが特徴であり、これにより、高級アルコールと粉状の無機金属塩とを接触させて反応が行われる。
(A)中心軸に沿って複数の撹拌翼を備え、かつ複数の撹拌翼の少なくとも一つの撹拌翼の外周を覆うように網目状の籠が設けられた撹拌翼。
【0023】
上記のような構成の撹拌翼を用いて撹拌混合を行うと、その撹拌によって生じた対流により無機金属塩が何度も上記撹拌翼の外周を覆うように設けられた網目状の籠を通過して微細に粉砕されることから、高級アルコールとの接触反応面積が多くなり、無機金属塩と高級アルコールとの反応が高活性で進行するようになる。その結果、未反応の無機金属塩が残存しなくなり、高収率で、かつ粒度分布幅の狭い均一な粒径の金属複合超微粒子を得ることができるようになる。
【0024】
上記撹拌翼は、複数設けられているものであり、その段数は通常2〜5段、好ましくは2段である。また、撹拌翼の外周を覆うように網目状の籠が設けられ、少なくとも最上段の撹拌翼の外周を覆うように設けられているものであると、上記のような作用効果が有利に得られるようになるため、好ましい。
【0025】
上記撹拌翼の形状は、例えば、パドル型、プロペラ型、ディスパー型、タービン型などがあげられるが、液の上下対流を効率良く発生させる点でプロペラ型が好ましい。
上記網目状の籠の形状については、通常、撹拌翼直径の1.05〜1.5倍の外側の空間を囲む位置に設けられた楕円投影形状または立方投影形状などがあげられる。
網目状の大きさは通常、0.5〜10mm、特には1〜8mmであることが好ましく、空隙率は通常25〜90%、特には45〜85%であることが好ましい。
更に、網目状の籠の材質としては、好ましくは撹拌翼と同様のステンレスなどがあげられる。
【0026】
また、撹拌翼の設置位置については、通常、最下段撹拌翼の位置が反応器底部から撹拌翼直径の0.05〜1倍、特には0.1〜0.5倍となる位置であることが好ましく、一方、最上段翼の位置が液相部表面から撹拌翼直径の0.5〜1.5倍、特には0.7〜1倍の液中となる位置であることが好ましい。
【0027】
更に、多段の撹拌翼の間隔は、撹拌翼直径に対して、通常、0.5〜2倍、特には0.7〜1.5倍であることが好ましい。
【0028】
ここで、上記特定の撹拌翼を用いての撹拌混合は、例えば、図2に示すようにして行われる。ここでは、2段撹拌翼を例にして説明する。図示のように、2段撹拌翼1は、回転駆動源であるモーター(図示せず)にその上部が連結されるシャフト5と、シャフト5に固定されて、モーターにより駆動されてシャフト5を回転軸として回転し、軸方向下向きに流れを起こす上段撹拌翼部2と、上段撹拌翼部2の下方にシャフト5に固定されて、モーターにより駆動されてシャフト5を回転軸として回転し、上段撹拌翼部2と同方向の流れを起こす下段撹拌翼部3と、上段撹拌翼部2と下段撹拌翼部3との間でシャフト5に固定されたバスケット形状の網目状の籠部4とを有する。また、上記籠部4は、図示のように、その開口面が上向きになるようシャフト5に固定され、かつ、上段撹拌翼部2が籠部4の開口内に納められた状態(上段撹拌翼部2の外周を覆うように籠が設けられた状態)となるよう固定されている。
【0029】
そして、図示のように、高級アルコールと無機金属塩との混合液7が入った反応器6に、上記2段撹拌翼1を設置する。上記2段撹拌翼1が有する上段撹拌翼部2の上方にある混合液7は、モーターにより駆動されて回転する上段撹拌翼部2によって撹拌されながら軸方向下向き(矢印Aの向き)に流動し、籠部4の開口面を介して籠部4の内部に導入される。また、籠部4の内部において混合液7は、上段撹拌翼部2によって撹拌されながら軸方向下向きに流動すると共に、同様に回転する籠部4の遠心力によって、網目で適度に剪断されてこの籠部4の外部に流出される(矢印Bの向き)。このとき、撹拌、混合過程で発生した継粉も上記遠心力により、網目に衝突して細かく分解される。更に、籠部4の外部に流出された混合液7は、同様に回転する下段撹拌翼部3によって更に撹拌されながら、その一部は上方に流動し再び上段撹拌翼部2に撹拌されながら籠部4の内部に導入される(矢印Cの向き)。すなわち、混合液7は上段撹拌翼部2による撹拌及び下方流動、籠部4の遠心力による剪断、下段撹拌翼部3による撹拌及び上段撹拌翼部2への上方流動からなる循環的対流を繰り返すことになる。特に、この循環により、混合初期に発生した継粉も、繰り返し網目に衝突することになり、短時間に細かく分解される。
【0030】
なお、ここでいう網目状の籠部4は、ワイヤを編み込んで網目を形成したものに限定するものでなく、例えば、金属基板に多数の孔をあけて網目状に類似させた籠部4であってもよい。
また、上記籠部4は、シャフト5に固定させず、別の支持体に固定して、シャフト5と連動して回転しないようにしてもよい。
【0031】
また、前記のような循環的対流を良好に行い、撹拌混合を良好に行う観点から、撹拌時における上記撹拌翼(2段撹拌翼1)の回転速度は、通常200〜1200rpm、さらには300〜800rpmであることが好ましい。
【0032】
更に、前記のような循環的対流を良好に行い、撹拌混合を良好に行う観点から、下段撹拌翼部3の直径(Φ1)と反応器6の内径(Φ2)との比率(Φ1/Φ2)は、0.2〜0.7、特には0.25〜0.5であることが好ましい。
【0033】
このようにして高級アルコールと無機金属塩とを撹拌混合しつつ、両者の加熱反応を進行させる。上記加熱は、通常、上記反応器6を加熱することにより行われる。例えば、上記反応器6は、温度調節機能を有する反応器であり、特には加熱装置(加熱ジャケット等)であることが好ましく、更には還流凝縮器を備えたものであることが好ましい。また、反応器6の材質としては、ガラスライニングのものや樹脂ライニングのものが適宜用いられる。
【0034】
本発明における反応については、常圧状態で行っても加圧状態で行ってもどちらでもよいが、通常は常圧状態で行われる。
そして、本発明における加熱反応については、通常、40〜200℃で20〜300分間程度の加熱条件にて反応が行われる。また、上記反応は、2段階以上の多段階にて行うことが好ましく、特には2段階にて反応を行うことが好ましい。上記2段階の反応条件としては、まず、40〜70℃、特には50〜65℃で、20〜120分間、特には25〜90分間、殊には30〜60分間の加熱反応を行い、次いで、130〜200℃、特には140〜180℃、殊には150〜170℃で、20〜300分間、特には30〜240分間、殊には30〜180分間の加熱反応を行うことが好ましい。
【0035】
本発明においては、上述のように、2段階にて反応を行うことが好ましく、その前段反応においては、高級アルコール中に無機金属塩が分散し、上記無機金属塩が微細化され、後段反応においては、微細化された無機金属塩の微粒子と高級アルコールとの反応が高活性で進行する。この反応過程で無機金属塩の色調は、前段反応の進行により変化(銀の場合、茶褐色に変化)し、また、後段反応の進行により変化(銀の場合、青紫色に変化)する。
【0036】
本発明の反応では、反応の進行により水および炭酸等が副生するので、これら揮発物を後段反応においては留去しながら、反応を進行させることが好ましい。
【0037】
上記反応によって、金属を中心とし周囲に高級アルコール由来の有機残基により被覆された金属複合超微粒子を含む反応混合物が得られる。
【0038】
《冷却》
なお、本発明の反応の停止は、反応混合物を、通常80℃以下、好ましくは60℃以下に冷却することにより行うことができる。そして、上記反応が停止した後、例えば、反応混合物に、炭素数1〜3のアルコールを配合することにより反応混合物中の金属複合超微粒子が凝集しやすくなり、金属複合超微粒子が析出しやすくなる。上記炭素数1〜3の脂肪族アルコールとしては、例えば、エタノール等が好適である。
【0039】
《洗浄》
上記の反応によって、金属を中心とし周囲に高級アルコール由来の有機残基により被覆された金属複合超微粒子を含む反応混合物が得られるが、かかる反応混合物から金属複合超微粒子を分離した後、この金属複合超微粒子を低級アルコールで洗浄することが好ましい。この低級アルコールとしては、通常、炭素数1〜3の脂肪族アルコールであり、中でもエタノールが好適である。
【0040】
洗浄方法としては、通常、デカンテーション等の懸濁洗浄法が一般的であるが、その他、ふりかけ洗浄や流通洗浄等もあげられる。
ふりかけ洗浄としては、固定ケーキに洗浄液をふりかける方法や、遠心分離を行いながら洗浄液をふりかける方法等があり、また、流通洗浄としては、塔型洗浄機に例えば上方より金属複合超微粒子を投入し下方より洗浄液を投入する方法等がある。
上記懸濁洗浄法としては、例えば、反応混合物に低級アルコールを添加し、撹拌混合した後、静置し、その後沈降した金属複合超微粒子を分離する固液分離操作を繰り返すことにより実施される。この際の低級アルコールの反応混合物への添加は、混合物温度が50℃以下、好ましくは40℃以下となった以降であれば任意の時点で添加しても差し支えない。
【0041】
洗浄温度は、通常、20〜40℃であり、低級アルコールの使用量は、通常、金属複合超微粒子に対して1〜50重量倍である。また、洗浄回数は、目的とする純度の金属複合超微粒子となるまで繰り返し行われるが、通常、2〜10回である。
【0042】
《固液分離》
上記洗浄後、通常、固液分離により、金属複合超微粒子と洗浄廃液とを分離させ、洗浄廃液の除去が行われる。上記固液分離法としては、濾過、遠心分離等の手法で行うことができる。
【0043】
《乾燥》
洗浄後の金属複合超微粒子は、通常、乾燥処理を行う。乾燥温度は、通常、20〜80℃程度で行われる。また、乾燥後の固形物は、凝集している場合でも、摩砕等により容易に粉末状とすることができる。
【0044】
《金属複合超微粒子》
得られた金属複合超微粒子は、上記無機金属塩が反応分解して生じた金属を中心とし、その周囲に上記高級アルコール由来の有機残基により被覆された構成からなる超微粒子(ナノ粒子)である。
【0045】
本発明の製造方法により得られる金属複合超微粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜100nm、特に好ましくは2〜50nm、更に好ましくは3〜30nmである。上記金属複合超微粒子の平均粒子径は、例えば、つぎのようにして測定される。すなわち、測定対象となる金属複合超微粒子の母集団から任意の測定試料を取り出し、市販の透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、一定面積あたりの粒子の粒子径を、スケールバーを参考にして測定することができる。
【0046】
また、上記で得られる金属複合超微粒子は、例えば、熱重量分析(TG)測定および赤外吸収分析(IR)測定を行うことにより同定することができる。
【0047】
本発明で製造された金属複合超微粒子は、粒度分布幅が狭く、そのため、これを用いて焼成する場合の焼成温度が低く、しかも、均一で良好な金属面を得ることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
〔実施例1〕
加熱装置、還流凝縮器、および下記に示す条件の2段撹拌翼を備えた約1リットル反応器(ガラス製反応器:内径130mm×高さ140mm)(図2参照)に、まず、60℃に加温し溶融したミリスチルアルコール(和光純薬工業社製)200gを供給し、つぎに、紛状炭酸銀(鶯色)(日進化学社製)100gを添加した。
【0050】
〈2段翼撹拌機〉
中央理化社製、簡易型NCR100−CB5−D
下段撹拌翼部の直径:50mm
上段撹拌翼部の直径:50mm
上段撹拌翼部の周囲に設けられた網目状の籠の大きさ:直径53mm×深さ40mm
下段撹拌翼部と上段撹拌翼部との間隔:35mm
下段撹拌翼部の直径(Φ1)と反応器の内径(Φ2)との比率(Φ1/Φ2):0.4
網目状の空隙率:69%
【0051】
上記内容物を60℃で40分間、500rpmの撹拌下、反応を行い、次いで、内容物を加温し、15分かけて160℃に昇温し、同温度で2時間保持して反応を継続した。なお、上記反応の進行に伴い、反応後期は還流状態となった。
上記の前段反応において、混合物の色調は茶褐色に変化し、また、後段反応においては、青紫色に変化した。
【0052】
その後、内温を80℃以下に冷却し、これにエタノール50mlを徐々に添加し(撹拌条件:500rpm)、さらに、冷却を継続し、内温を40℃以下とし、3リットルビーカーに移液した。1リットル反応器もエタノールで洗浄し、その洗浄液も3リットルビーカーに加えた。
【0053】
洗浄処理は、分離された金属複合超微粒子に対してエタノール1リットルを加え、ガラス棒で撹拌した後、25℃下にて静置した。6時間程静置すると、反応混合物は、黄色透明な上澄み液と濃灰色の沈降部に分離した。つぎに、デカンテーションにて上澄み液を可能な限り排出した後、新たにエタノール1リットルをビーカーに加え、ガラス棒で良く撹拌した後、静置した。3時間程静置すると、ほぼ無色透明な上澄み液と、やや青みがかった濃灰色の沈降部に分離した。つぎに、デカンテーションにて上澄み液を可能な限り排出した。
【0054】
次いで、上記上澄み液を取り除いた残分である濃灰色の沈降部分(固形分)を、新たなエタノールを用いて、準備した桐山ロートに移し、吸引濾過を行った。なお、この桐山ロートによる吸引濾過により、充分に濾過が進むと、ロート上に残った固体(青色のケーキ)に亀裂が生じた。
【0055】
上記亀裂が生じた固体(青色のケーキ)が収縮し、スパチラを用いて割れるようになるまで乾燥し(約24時間)、さらに、ガラス棒にて粉砕できる程度になるまで乾燥を行った(約48時間)後、得られたケーキを粉砕し、粉末状とした。
【0056】
<同定>
上記乾燥し粉砕することにより得られた金属複合超微粒子粉末に関して、下記の装置を用いて熱重量分析(TG)測定および赤外吸収分析(IR)測定を行った。これら測定の結果、得られた金属複合超微粒子は、上記炭酸銀が反応分解して生じた銀を中心とした周囲に上記ミリスチルアルコール由来の有機残基(主にC1429COO−とC1327COO−)により被覆された金属複合超微粒子であることが確認された。なお、未反応炭酸銀由来のピークは検出されなかった。さらに、得られた金属複合超微粒子の平均粒子径について、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結果、4〜8nmであり、粒度分布幅の狭い超微粒子が得られたことが確認された。
【0057】
《熱重量分析(TG)測定》
測定機器:Perkin Elmer社製、「Thermal Analysis TG−7」
《赤外吸収分析(IR)測定》
測定機器:Nicolet社製、「Avatar360」
《平均粒子径の測定》
測定機器:日立製作所社製、「透過型電子顕微鏡 H−7100FA型」
【0058】
〔実施例2〕
まず、常温で固体状のラウリルアルコール(キシダ化学社製)(融点24℃)を準備し、これを50℃の乾燥機に入れ、5時間加温し溶融した。つぎに、加熱装置、還流凝縮器及び実施例1と同様の2段撹拌翼を備えた1リットル反応器(ガラス製反応器)に、上記溶融したラウリルアルコール100gを供給し、これに、粉状炭酸銀(鶯色)(日進化学社製)60gを添加した。
【0059】
上記内容物を50℃で1時間、500rpmの撹拌下、反応を行い、次いで、内容物を加温し、15分かけて140℃に昇温し、同温度で3時間保持して反応を継続した。なお、上記反応の進行に伴い、反応後期は還流状態となった。
その後は、実施例1と同様の操作を行い、金属複合超微粒子の粉末を得た。
【0060】
得られた金属複合超微粒子粉末に関して、実施例1と同様にして熱重量分析(TG)測定および赤外吸収分析(IR)測定を行った結果、上記炭酸銀が反応分解して生じた銀を中心とした周囲に上記ラウリルアルコール由来の有機残基(主にC1225COO−とC1123COO−)により被覆された金属複合超微粒子であることが確認された。なお、未反応炭酸銀由来のピークは検出されなかった。さらに、得られた金属複合超微粒子の平均粒子径について、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定した結果、4〜8nmであり、粒度分布幅の狭い超微粒子が得られたことが確認された。
【0061】
〔参考例1〕
実施例1において、ミリスチルアルコールと炭酸銀との加熱反応の際に、籠のない2段撹拌翼(籠がない以外は実施例1で使用の撹拌機と同じもの)を用いて撹拌を行った。それ以外は、実施例1と同様にして、サンプルである固体物を製造した。得られたサンプルについて、実施例1と同様にして同定、平均粒子径を測定した。
【0062】
得られたサンプル(固体物)のTEM観察では、8〜15nm(長径)となり、粒径分布の小さいものであることが確認され、TGA測定では、160〜180℃での大きな重量減少が認められず、かつIR測定でも、Ag2CO3由来の1375cm-1、1445cm-1のピークは認められなかった。このことから、金属複合超微粒子の製造工程において、籠付きの特殊2段撹拌翼を用いた場合の方が、粒径分布が小さくなり良好な方法であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の製造方法は、粒度分布幅の狭い、均一な超微粒子を高収率で効率的に製造することができる方法であり、これにより得られる金属複合超微粒子は、焼成する場合の焼成温度を低くすることができる。そして、例えば、半導体装置等の電子部品の微細配線等の形成材料や、半導体装置等の電子部品の電極間を電気的に接合する際に使用される導通材料等に有用である。
【符号の説明】
【0064】
1:2段撹拌翼
2:上段撹拌翼部
3:下段撹拌翼部
4:籠部
5:シャフト
6:反応器
7:混合液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機金属塩と高級アルコールとを加熱して反応させることにより、金属複合超微粒子を製造する方法において、前記反応を、下記構造を備えた撹拌翼(A)を有する反応器を用いて行うことを特徴とする金属複合超微粒子の製造方法。
(A)中心軸に沿って複数の撹拌翼を備え、かつ複数の撹拌翼の少なくとも一つの撹拌翼の外周を覆うように網目状の籠が設けられた撹拌翼。
【請求項2】
撹拌翼が2段撹拌翼であり、上部の撹拌翼の外周を覆うように網目状の籠が設けられていることを特徴とする請求項1記載の金属複合超微粒子の製造方法。
【請求項3】
上記反応時における撹拌翼の回転速度が、200〜1200rpmであることを特徴とする請求項1または2記載の金属複合超微粒子の製造方法。
【請求項4】
無機金属塩が金属炭酸塩であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属複合超微粒子の製造方法。
【請求項5】
高級アルコールが、炭素数6〜22のアルコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属複合超微粒子の製造方法。
【請求項6】
高級アルコールの使用割合が、無機金属塩100重量部に対して40〜500重量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属複合超微粒子の製造方法。
【請求項7】
生成した金属複合超微粒子が、金属を中心とし周囲に高級アルコール由来の有機残基により被覆されたものであり、平均粒子径が1〜100nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属複合超微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−87303(P2013−87303A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226465(P2011−226465)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】