説明

鉄化合物と肥料成分を併用する蘚苔類および藻類の制御技術

【課題】芝生地に侵入した蘚苔類および藻類を防除すると同時に、芝生地に発生する空隙を埋める技術を提供する。
【解決手段】鉄化合物と窒素化合物を含む肥料成分を併用する蘚苔類および藻類の防除方法および防除薬剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
芝生地に侵入した蘚苔類および藻類の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ場のグリーンは、魚毒性の高い農薬の使用制限と芝生の刈高を低くする栽培法の導入によって蘚苔類および藻類が増加している。蘚苔類および藻類はグリーンの景観を損ね、パッティングクォリティーを悪化させる等の問題がある。現在、蘚苔類および藻類への対処は、殺菌剤、除草剤、殺藻剤などを併用しながら防除する方法が行われている。しかし、これらいずれの方法を用いても再生能力が高い蘚苔類や藻類を防除するためには、数ヶ月にわたる継続使用が必要とされている。
【非特許文献1】Algae and Mosses on Greens.Golf Course Management.September2000.Golf Course Superintendents Association of America.
【特許文献1】特許公開平11−106305
【0003】
米国において推奨される蘚苔類および藻類の防除方法の中には、わが国でアルカリ土壌改良用肥料もしくは芝生の色調改善に使用されている硫酸鉄を用いる方法が示されている。この方法は安定した蘚苔類および藻類の防除方法として家庭園芸用からゴルフ場まで広く普及している。
【特許文献2】特許公開2007−037519
【非特許文献2】EPAR.E.D.FACTS. Iron Salts.EPA−738−F−93−002.February1993.
【非特許文献3】Jim Douglas,and Wayne Vandre .MOSS CONTROL IN LAWNS.HGA−00133.Alaska Cooperative Extension.University of Alaska Fairbanks
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴルフ場のグリーンは、強い刈込み圧力と厳密な施肥管理のために芝生の生育は抑制され、蘚苔類および藻類が繁茂し易い条件を備えている。増加するゴルフ場のグリーンへの蘚苔類および藻類の侵入に対し、防除薬剤を散布した後に蘚苔類および藻類が除去されて発生する間隙は、新たな蘚苔類および藻類の再生に適した場所を形成することになり、継続的な薬剤の使用が必要になる。一方、継続的な薬剤の使用は芝生の生育を低下させ、また蘚苔類および藻類に有効な銅等を含んだ農薬類は環境生物に与える影響が大きく使用の制限が求められている。有効で安全と考えられる鉄イオンを用いる防除法においても、鉄イオンは速効的である半面、残効性に欠けるため防除後に発生する間隙が新たな芝で埋まるまで時間を必要とし蘚苔類および藻類の再発生を許す問題点がある。また、鉄イオンは芝生を一過的に濃色化させる問題も有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
蘚苔類および藻類は維管束系が発達していないため高等植物に比較して浸透移行性を有する薬剤であっても接触効果が中心になり、個体全体を枯死させることは困難である。効果的であるが環境に対する配慮から使用を制限せざるを得ない重金属に比べ鉄は、環境に普遍的かつ多量に存在する生物に必須な金属であり、散布後、防除活性が認められない酸化物に比較的速やかに変化する欠点を有するものの食品添加物、肥料など生活に密着した場所で広く利用されている安全性の高い金属である。また、鉄イオン処理によって芝生は暗緑色に変化するが、この変化は、アルカリ金属、アルカリ土類金属等、鉄以外の植物必須金属イオンを併用することで抑制することができる。
【特許文献3】特許公開2006−206560
【0006】
従って、蘚苔類および藻類の生息の場である間隙を速やかに芝生で充填させ、同時に、芝生の濃色化を抑制し健全な生育を促すためには、これらの植物必須金属と成長を促すその他の肥料成分を併用することが重要である。特に窒素化合物は有効である。一方、燐酸化合物は鉄イオンと反応して難溶性の燐酸鉄を形成し効果を低下させる場合があるので使用量、使用比率には注意が必要である。
【0007】
蘚苔類および藻類防除に使われる鉄は、第一鉄イオンであっても第二鉄イオンであってもよいことが知られている。鉄イオンを供給する無機化合物塩としては、水溶解度が高い硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩などいずれも使用可能である。特に、食品添加物などとして、われわれの生活圏で広く使用されている硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、ピロ燐酸第二鉄及びこれらの水和物が適している。特に、硫酸第一鉄水和物は、硫酸第二鉄などに比較して溶解後のpHが3〜4と高く、散布器具に常用されている金属をほとんど腐食することが無いために優れている。
【0008】
窒素化合物としては、速効性の肥料成分として使用されている硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、尿素などを使用することができる。但し、アンモニア、尿素など塩基性化合物は鉄イオンと混合溶解した場合、水溶解性の低い水酸化鉄を生成し効果の低下をもたらすことに留意する必要がある。
【0009】
植物必須金属イオン源としては、例えば、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、ピロ硫酸水素カリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸水素マグネシウム、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸銅、硫酸亜鉛など水溶性の高い強酸の塩が望ましい。一方、燐酸塩、弱酸の塩は条件によって水溶解度の低い鉄塩を生成して効果の低下をもたらすため留意が必要である。
【0010】
蘚苔類および藻類の防除には、平方メートル当たり2g以上の鉄イオンが必要であり、1回で防除する場合は4g以上が望ましい。一方、多量の鉄イオン処理は、芝生の生育を抑制することから一シーズンの使用総量を10g以下にすることが望まれる。
【0011】
処理時の窒素成分量は、施肥管理の状況によって異なるが、窒素として平方メートル当たり0.1g〜1gが適当である。
【0012】
処理時の鉄イオンに対する植物必須金属イオンの濃度は施用する金属イオンによって異なるが、おおよそ1%から20%である。
【0013】
使用に当たっては、鉄塩と肥料成分のそれぞれを溶解して、必要時に同時処理することも、少時、間をおいて別々に処理することもできる。また、固体の鉄塩と肥料成分の混合物を使用時に溶解させて用いることも、硫酸第二鉄溶液などに結晶析出のおこらない肥料成分を混合溶解させたものを用いることもできる。
【0014】
維管束系の未発達な蘚苔類および藻類を防除するには、散布むらをなくして浸透性を上げるために平方メートル当り100〜1000mlの散布水量が望ましい。
【発明の効果】
【0015】
鉄イオンと窒素化合物を含む肥料成分を併用することより速効的な蘚苔類および藻類の防除と芝生の回復を可能にする。
【0016】
鉄塩と窒素成分を含む肥料化合物を混合して調剤することにより簡便で使用時に誤りの少ない処理を可能にする。
【0017】
硫酸第一鉄と窒素化合物を含む肥料成分を併用することより散布器具に金属腐食を生じない鉄イオンを用いる蘚苔類および藻類の防除技術を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(薬剤調製例1)
硫酸第一鉄1水和物(FeSO・HO 冨士チタン株式会社製品)に、硫酸ナトリウム(NaSO 和光純薬工業株式会社商品)、硫酸カリウム(KSO 和光純薬工業株式会社商品)、塩化カリウム(KCl 和光純薬工業株式会社商品)、硝酸カリウム(KNO 和光純薬工業株式会社商品)、亜リン酸水素カリウム(KHPO 大道製薬株式会社製品)、カリ明礬(KAl(SO 和光純薬工業株式会社商品)、硫酸マグネシウム7水和物(MgSO・7HO 和光純薬工業株式会社商品)、硫酸カルシウム2水和物(CaSO・2HO キシダ化学株式会社商品)、および硫酸アンモニウム((NHSO 和光純薬工業株式会社商品)から選ばれる一点もしくは二点を下記表1に示す比率で混合調剤した。なお、KHPOの混合物は固結したため乳鉢で粉砕した。
【0019】
【表1】

【実施例1】
【0020】
平成19年8月30日、茨城県龍ヶ崎市にある龍ヶ崎カントリークラブ内のベントグラス内に発生したギンゴケ(Bryum argenteum)を対象として、平方メートル当たり薬剤調製例1に基づく薬剤を各々15g、および対照として硫酸第一鉄1水和物12gを500mlの水に溶解もしくは懸濁させて電動散布機(株式会社丸山製作所製)を用いて散布した。1区面積は0.5平方メートルの2反復で実施した。4日後、2週間後、4週間後におけるギンゴケ防除程度、2週間後における芝生の暗緑色化度順位、4週間後におけるギンゴケ防除後の芝生の芽詰りの度合いを0(変化なし)〜3(殆ど芽詰り)の3段階で調査した。試験期間中の施肥は行わず、刈り込みは1〜2日おきに実施した。防除程度は、処理前個体の90%程度以上が枯死◎、60%〜90%程度が枯死○、30%〜60%程度が枯死△、殆ど効果が認められない×で表した。その結果を下記表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
(薬剤調製例2)
硫酸第一鉄1水和物に、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム(KHSO キシダ化学株式会社商品)、硝酸カリウム、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸カルシウム2水和物、硫酸マンガン5水和物(MnSO・5HO 和光純薬工業株式会社商品)、硼酸ナトリウム10水和物(Na・10HO 和光純薬工業株式会社商品)、硫酸アンモニウム、および尿素((NHCO 和光純薬工業株式会社商品)から選ばれる化合物のいずれか一点以上を下記表3に示す比率で混合して調剤した。
【0023】
【表3】

【実施例2】
【0024】
平成19年9月20日、茨城県稲敷市にあるアスレチックゴルフクラブ内のベントグラス内に発生したギンゴケ(Bryum argenteum)および藻類を対象として薬剤調製例2に基づく薬剤を水に溶解もしくは懸濁させ電動散布機(株式会社丸山製作所製)で平方メートル当たり500ml散布した。苔防除の対照薬剤には、カルフェントラゾンエチル36.5%水和剤(商品名タスクDF 石原バイオサイエンス株式会社商品)、藻類防除の対照薬剤にはオキスポコフマール酸塩2.5%・マンゼブ65%混合水和剤(商品名ペンコシャイン 株式会社理研グリーン商品)を用いた。1区面積は0.5平方メートルの2反復で実施した。4日後、2週間後、4週間後におけるギンゴケおよび藻類防除程度、2週間後における芝生暗緑色化度順位、4週間後におけるギンゴケおよび藻類防除後の芝生の芽詰り度を0(変化なし)〜3(殆ど芽詰り)の3段階で調査した。試験期間中の施肥は行わず、刈り込みは1〜2日おきに実施した。防除程度は、苔の場合は処理前個体の90%程度以上が枯死◎、60%〜90%程度が枯死○、30%〜60%程度が枯死△、殆ど効果が認められない×で表した。藻類の場合は、藻類の発生している暗黒色化した空隙がほとんど見られない◎、僅かに認められる○、無処理区の半分程度△、ほとんど効果が認められない×で表した。その苔防除結果を下記表4、藻類防除結果を下記表5に示す。
【0025】
【表4】

【0026】
【表5】

【実施例3】
【0027】
平成19年9月20日、茨城県龍ヶ崎市にある龍ヶ崎カントリークラブ内のベントグラス内に発生した藻類を対象として薬剤調製例1の処方例9に基づく薬剤を水に溶解させ電動散布機(株式会社丸山製作所製)で平方メートル当たり500ml散布した。その後、2週間間隔で同じ薬量の薬剤を散布した。藻類防除の対照薬剤にはオキスポコフマール酸塩2.5%・マンゼブ65%水和剤を用いた。1区面積は0.5平方メートルの2反復で実施した。2週間後、4週間後、8週間後における藻類防除程度、および8週間後における藻類防除後の芝生の芽詰り度を0(変化なし)〜3(殆ど芽詰り)の3段階で調査した。試験期間中の施肥は行わず、刈り込みは1〜2日おきに実施した。防除程度は、藻類の発生している空隙がほとんど見られない◎、僅かに認められる○、無処理区の半分程度△、ほとんど効果が認められない×で表した。その結果を下記表6に示す。
【0028】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄化合物と窒素化合物を含む肥料成分を併用する蘇苔類および藻類の防除方法。
【請求項2】
硫酸第一鉄と窒素化合物を含む肥料成分を併用する蘚苔類および藻類の防除方法。
【請求項3】
鉄化合物に窒素化合物を含む肥料成分を混合した蘇苔類および藻類の防除剤。
【請求項4】
硫酸第一鉄に窒素化合物を含む肥料成分を混合した蘚苔類および藻類の防除剤。

【公開番号】特開2009−149590(P2009−149590A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341833(P2007−341833)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(593182923)丸和バイオケミカル株式会社 (25)
【Fターム(参考)】