説明

鉄微粒子、及びその製造方法

【課題】還元剤に起因する不純物の含有率が低く、磁気的及び/又は電気特性を有する、窒化鉄を製造するのに適した鉄微粒子を得る。
【解決手段】鉄微粒子は、100nm以下の平均粒子径を有し、かつ平均粒子径に対するScherrerの式によって計算される結晶子径の比((結晶子径)/(平均粒子径)の比)が、0.3以上である。また、鉄微粒子を製造する方法は、(a)有機溶媒中に鉄錯体が分散している分散体を提供すること、及び(b)鉄錯体を熱分解して、鉄微粒子を生成することを含み、鉄錯体が、アミン配位子及びカルボニル配位子を有する鉄アンミンカルボニル錯体であり、かつ分散体が、分散剤及び電解質を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄微粒子、及びその製造方法に関する。特に本発明は、微細な粒径及び高い結晶性を有する鉄微粒子、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録媒体、高透磁率材料、永久磁石材料、磁性流体等の分野において、鉄微粒子を用いることが、従来から提案されている。また、近年では、電子機器に搭載される基板において高周波の電磁場特性を制御するために、ニッケル、コバルト、鉄、又はこれらの合金からなる金属粒子を、フィラーとして基板に分散させることが提案されている。
【0003】
特に、飽和磁化が高くかつ保磁力が低い軟磁性特性を有する金属微粒子として、鉄微粒子を用いることが提案されている。また、鉄微粒子は、窒化鉄微粒子を製造するための原料としても注目されている。
【0004】
上記のような用途のための鉄微粒子の製造方法としては、大きく分けて、下記の(1)熱分解法及び(2)還元法の2つの方法が提案されている。
【0005】
(1)熱分解法
熱分解法では一般に、原料として鉄カルボニル錯体(Fe(CO))のような0価の鉄錯体を用い、オレイルアミン等の分散剤によってこの鉄錯体を有機溶媒中に分散させ、そして加熱によってこの鉄錯体を分解して、鉄微粒子を得る(特許文献1〜3)。
【0006】
(2)還元法
還元法では一般に、原料として、2価又は3価の塩化鉄のような鉄化合物を用い、水素化ホウ素等の還元剤によってこの鉄錯体を分解して、鉄微粒子を得る(特許文献3〜5)。
【0007】
しかしながら上記の熱分解法及び還元法のいずれによっても、結晶性が高い鉄微粒子を得ることは困難であった。
【0008】
このような問題に関して、特許文献6では、鉄イオンを還元剤により還元して鉄微粒子を得、このようにして得られた鉄微粒子を不活性雰囲気において熱処理することによって、鉄微粒子の結晶性を高めることを提案している。ここで、特許文献6では、アスペクト比が1.5以下、平均粒子径が300nm以下、かつ結晶子径が200〜800Åの鉄微粒子が得られるとしている。具体的には、特許文献6では、実施例において、650℃での加熱を用いて、アスペクト比が1.2、平均粒子径が220nm、かつ結晶子径が584.5Åの鉄微粒子を得ている。
【0009】
なお、本願発明者らは、窒化鉄(Fe16)微粒子を生成するために、アミン配位子及びカルボニル配位子を有する鉄アンミンカルボニル錯体を熱分解することを提案している(特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−299301号公報
【特許文献2】特開2010−222622号公報
【特許文献3】特開2006−342399号公報
【特許文献4】特開2009−62605号公報
【特許文献5】特開2008−138245号公報
【特許文献6】特開2010−24478号公報
【特許文献7】国際公開WO2010058801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記記載のように、特許文献6では、不活性雰囲気での熱処理によって鉄微粒子の結晶性を高めることを提案している。しかしながら、100nm以下の微細な粒径を有する鉄微粒子を得ようとする場合、熱処理を伴う特許文献6の方法では、焼結等の可能性が高く、現実的ではなかった。
【0012】
そこで、本発明では、微細な粒径及び高い結晶性を有する鉄微粒子を製造できる鉄微粒子製造方法を提供する。また、本発明では、微細な粒径及び高い結晶性を有する鉄微粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本件発明者らは、上記の課題を解決するための研究の結果、下記の本発明に想到した。
【0014】
〈1〉100nm以下の平均粒子径を有し、かつ上記平均粒子径に対するScherrerの式によって計算される結晶子径の比((結晶子径)/(平均粒子径)の比)が、0.3以上である、鉄微粒子。
〈2〉上記平均粒子径が50nm以下である、上記〈1〉項に記載の鉄微粒子。
〈3〉上記比が0.6以上である、上記〈1〉又は〈2〉項に記載の鉄微粒子。
〈4〉(a)有機溶媒中に鉄錯体が分散している分散体を提供すること、及び
(b)上記鉄錯体を熱分解して、鉄微粒子を生成すること、
を含み、上記鉄錯体が、アミン配位子及びカルボニル配位子を有する鉄アンミンカルボニル錯体であり、かつ上記分散体が、分散剤及び電解質を含有する、鉄微粒子の製造方法。
〈5〉上記電解質が、金属イオン、アンモニウムイオン、及びそれらの組合せからなる群より選択されるカチオンと、ハロゲンイオン、有機酸イオン、無機酸イオン、及びそれらの組合せからなる群より選択されるアニオンとの塩である、上記〈4〉項に記載の方法。
〈6〉上記分散剤が、炭化水素基を有するアミンである、上記〈4〉又は〈5〉項に記載の方法。
〈7〉上記分散体において、13C−NMRによる鉄アンミンカルボニル錯体と鉄カルボニル錯体とのピークの積分比(鉄アンミンカルボニル錯体/鉄カルボニル錯体)が、1以上である、上記〈4〉〜〈6〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈8〉上記分散体を80℃〜200℃の温度に加熱することによって、上記熱分解を行う、上記〈4〉〜〈7〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈9〉上記鉄アンミンカルボニル錯体が、式Fe(CO)(NH(式中、X=3、かつY+Z=12)を有する、上記〈4〉〜〈8〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈10〉上記電解質が、塩化アンモニウムである、上記〈4〉〜〈9〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈11〉上記分散体が還元剤を含有していない、上記〈4〉〜〈10〉項のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の鉄微粒子によれば、微細な粒径及び高い結晶性を有することによって、望ましい磁気的及び/又は電気的特性を有することができる。また、このような本発明の鉄微粒子は、鉄微粒子を窒化して窒化鉄を製造する方法において、好ましい原料として用いることができる。
【0016】
本発明の鉄微粒子製造方法によれば、微細な粒径及び高い結晶性を有する鉄微粒子、特に本発明の鉄微粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、鉄微粒子を製造する本発明の方法を説明するための図である。
【図2】図2は、窒化鉄微粒子を製造する従来の方法を説明するための図である。
【図3】図3は、実施例1で得た鉄微粒子のTEM写真を示す図である。
【図4】図4は、実施例1で得た鉄微粒子のXRD結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例2で得た鉄微粒子のXRD写真を示す図である。
【図6】図6は、実施例3で得た鉄微粒子のXRD結果を示す図である。
【図7】図7は、比較例で得た鉄微粒子のXRD結果を示す図である。
【図8】図8は、参考例で得た窒化鉄微粒子のXRD結果を示す図である。
【図9】図9は、実施例、比較例及び参考例で用いた鉄錯体の13C−NMR結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
《本発明の鉄微粒子》
本発明の鉄微粒子は、微細な粒径及び高い結晶性を有し、特に体心立方構造を有する鉄、すなわちα−鉄であってよい。
【0019】
(粒子径)
本発明の鉄微粒子は、平均粒子径が、100nm以下、70nm以下、50nm以下、又は30nm以下である。また、本発明の鉄微粒子は、平均粒子径が、1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってよい。
【0020】
この鉄微粒子の平均粒子径は、数平均の平均粒子径である。具体的には、この鉄微粒子の平均粒子径は、鉄微粒子についての透過型電子顕微鏡(TEM)写真を得、このTEM写真について、画像解析ソフトを用いて、各々の粒子に関して画像上で同一の面積をもつ円の径を求めて、得られるものである。
【0021】
ここで、透過型電子顕微鏡としては例えば、FEI社製の商品名TECNAI G2を用いて、75万倍又は150万倍のTEM写真を得ることができ、画像解析ソフトとしては、NEXUS NEW QUBEを用いて、120nm×120nmの範囲に存在するすべての鉄微粒子を画像処理することができる。
【0022】
(結晶性)
本発明の鉄微粒子は、平均粒子径に対するScherrerの式によって計算される結晶子径の比((結晶子径)/(平均粒子径)の比)が、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、又は0.8以上である。また、この比は、1以下であり、例えば0.95以下、又は0.9以下であってよい。この比の値が大きいことは、鉄微粒子の結晶性が高いことを意味している。
【0023】
なお、Scherrerの式は、X線回折分析(XRD)の結果に基づいて、下記に示すようにして、結晶子径(D(Å))を計算するものである:
D(Å)=K×λ/(β×cosθ)
(上記式において、
Kは、Scherrer定数であり、球形粒子の場合には0.9とすることができ、
λ(Å)は、XRDにおいて使用するX線の波長であり、CuKα線の場合には、1.5418Åとすることができ、
β(ラジアン)は、XRDにおける特定のピーク、例えば(110)面に起因する鉄ピーク、すなわち2θ=45°付近の鉄ピークの半値全幅の実測値であり、かつ
θは、XRDにおいて上記特定のピークが測定された回折角である)。
【0024】
ここで、このX線回折分析(XRD)結果を得るためには例えば、RIGAKU社のX線回折装置(RINT TTR III)を、下記の条件で用いることができる:
X線源: Cu−Kα(λ=1.5418Å)、50Kv−300mA(15KW)
光学系: 平行法
測定方法: 2θ/θ法
走査範囲: 25〜85°
走査ステップ幅: 0.05°
走査法: 固定時間(FT:Fixed Time)法、計測時間4秒
試料台: 単結晶シリコン標準試料台
【0025】
《鉄微粒子を製造する本発明の方法》
鉄微粒子を製造する本発明の方法は、(a)有機溶媒中に鉄錯体が分散している分散体を提供すること、及び(b)この鉄錯体を熱分解して、鉄微粒子を生成することを含む。ここで、本発明の方法では、鉄錯体が、アミン配位子及びカルボニル配位子を有する鉄アンミンカルボニル錯体であり、かつ分散体が、分散剤及び電解質を含有する。
【0026】
理論に限定されるものではないが、本発明の方法では、図1に示すように、分散体中の鉄錯体を熱分解する際に、電解質のカチオン(NH)、電解質のアニオン(Cl)、及び/又は電解質自身(NH−Cl)が、鉄アンミンカルボニル錯体(Fe(CO)(NH)の配位子、特にアミン配位子(NH)に作用(矢印)し、それによってこの錯体の凝集体の中心部において、高度に結晶化した鉄の成長が促進されると考えられる。
【0027】
これに対して、鉄錯体を熱分解する際に、分散体中において電解質を用いない場合、図2に示すように、錯体の凝集体の中心部において、アンモニウム配位子(NH)が取り込まれたままで錯体の分解反応が進行し、結果として窒化鉄が得られると考えられる。なお、このような窒化鉄の製造方法については特許文献7を参照できる。
【0028】
本発明の方法における熱分解は、分散体を加熱すること、例えば分散体を80℃〜200℃、特に120℃〜200℃の温度に加熱することによって達成することができる。
【0029】
本発明の方法では、還元剤、特に水素化ホウ素ナトリウムのような水素化物還元剤を用いずに反応を行うことができる。したがって、本発明の方法では、還元剤に起因する不純物の含有率が低い鉄微粒子を得ることが可能である。
【0030】
(電解質)
本発明の方法で用いる電解質としては、金属イオン、アンモニウムイオン、及びそれらの組合せからなる群より選択されるカチオンと;ハロゲンイオン、有機酸イオン、無機酸イオン、及びそれらの組合せからなる群より選択されるアニオンとの塩を用いることができる。
【0031】
より具体的には、カチオンである金属イオンとしては、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、白金、銀等の遷移金属のイオン;アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウム等)、アルミニウム、亜鉛、ガリウム等の典型金属のイオンを挙げることができる。ただし、カチオンとしては、アンモニウムイオンを用いることが、加熱等による除去が容易な点で好ましい。また、カチオンとして金属イオンを用いる場合には、使用する金属イオン及び反応条件等に依存して、鉄微粒子とこれらの金属の微粒子の混合物、又は鉄合金微粒子を得ることができる。
【0032】
アニオンであるハロゲンイオンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のイオンを挙げることができる。また、アニオンである有機酸イオンとしては、ギ酸、酢酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸等のジカルボン酸等のイオンを挙げることができる。また更に、アニオンである無機酸イオンとしては、硝酸、硫酸、スルホン酸、ホスホン酸等のイオンを挙げることができる。
【0033】
この電解質は例えば、鉄錯体中の鉄原子に対して、1mol%以上、3mol%以上、5mol%以上、10mol%以上、15mol%以上、20mol%以上の量で用いることができる。また、この電解質は例えば、鉄錯体中の鉄原子に対して、200mol%以下、100mol%以下、80mol%以下、又は50mol%以下の量で用いることができる。ここで、電解質の量が少なすぎる場合、本発明の効果を充分に得られないことがあり、また電解質の量が大すぎる場合、鉄微粒子の生成が困難になること、及び/又は鉄微粒子の生成後に電解質が不純物として残留することがある。
【0034】
(有機溶媒)
本発明の方法で用いる有機溶媒としては、使用する鉄錯体を分散させて保持することができる任意の有機溶媒を用いることができる。この有機溶媒としては例えば、炭化水素、特にC10〜C30の炭化水素(例えばC10〜C20の炭化水素)、より特にケロシンを用いることができる。
【0035】
(分散剤)
本発明の方法で用いる分散剤としては、鉄錯体の分散性を改良することができる任意の分散剤を用いることができる。この分散剤としては例えば、炭化水素基を有するアミン、特に炭化水素基を有する第1級アミン、より特にC10〜C30の炭化水素基を有する第1級アミン、更により特にC10〜C30のアルケニル基を有する第1級アミン、例えばオレイルアミンを挙げることができる。
【0036】
(鉄錯体)
本発明の方法では、鉄錯体として、アンモニア配位子及びカルボニル配位子を有する鉄アンミンカルボニル錯体を用いる。
【0037】
ここで、分散体において、13C−NMRによる鉄アンミンカルボニル錯体と鉄カルボニル錯体とのピークの積分比(鉄アンミンカルボニル錯体/鉄カルボニル錯体)は、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、8以上、又は10以上であってよい。
【0038】
この態様でのように、13C−NMRによる鉄アンミンカルボニル錯体と鉄カルボニル錯体とのピークの積分比(鉄アンミンカルボニル錯体/鉄カルボニル錯体)が比較的大きいことは、分散体における鉄アンミンカルボニル錯体の存在比が比較的大きいことを意味している。分散体における鉄アンミンカルボニル錯体の存在比が十分に大きいことは、工程(b)において、結晶性の高い鉄微粒子を得るために好ましいことがある。
【0039】
13C−NMRにおける鉄アンミンカルボニル錯体のピークとしては、231ppm付近のピークを観察することができる。なお、13C−NMRにおける鉄カルボニル錯体のピークは、212ppm付近に現れる。なお、この鉄アンミンカルボニル錯体は、式Fe(CO)(NH(式中、X=3、かつY+Z=12)、例えば式Fe(CO)(NH、又は式Fe(CO)(NHを有するものであってよい。
【0040】
本発明に関しては例えば、核磁気共鳴(NMR)装置として日本電子株式会社のECA−500(500MHz)を用いることができる。
【0041】
(鉄錯体−鉄アンミンカルボニル錯体の製造)
鉄アンミンカルボニル錯体の製造は、特許文献7で記載の方法によって行うことができる。具体的には、鉄アンミンカルボニル錯体の製造のためには、鉄カルボニル錯体を含有する有機溶媒、又は単独の鉄カルボニル錯体に、アンモニア又はアンモニア発生化合物を導入し、それによって鉄カルボニル錯体のカルボニル配位子の一部をアミン配位子で交換することができる。
【0042】
鉄アンミンカルボニル錯体の生成を促進するために、鉄アンミンカルボニル錯体の生成を加熱条件で行うことができ、例えば鉄アンミンカルボニル錯体の生成を80℃〜200℃、特に120℃〜200℃の温度で行うことができる。
【0043】
また、鉄アンミンカルボニル錯体の生成においては、生成した鉄アンミンカルボニル錯体が沈殿する条件、例えば鉄カルボニル錯体を含有する有機溶媒、又は単独の鉄カルボニル錯体が、分散剤を実質的に含有していない条件で行うことができる。鉄カルボニル錯体がケロシンのような有機溶媒に溶解するのに対して、生成物である鉄アンミンカルボニル錯体はケロシンのような有機溶媒に対して不溶性であるので、この場合には、生成した鉄アンミンカルボニル錯体の分離が容易になる。ただし、必要に応じて、分散剤を用いて、生成した鉄アンミンカルボニル錯体を有機溶媒中に分散させることもできる。
【0044】
分散剤を含有する条件、及び分散剤を含有しない条件のいずれにおいて鉄アンミンカルボニル錯体を生成する場合にも、生成した鉄アンミンカルボニル錯体を他の部分から分離し、随意に精製、乾燥等を行った後で、有機溶媒中に再分散させることによって、本発明で用いられる分散体を得ることができる。この場合には、13C−NMRによる鉄アンミンカルボニル錯体と鉄カルボニル錯体とのピークの積分比(鉄アンミンカルボニル錯体/鉄カルボニル錯体)を比較的大きくすること、すなわち分散体における鉄アンミンカルボニル錯体の存在比を比較的大きくすることが容易に達成できる。
【実施例】
【0045】
以下の例において、X線回折(XRD)分析、透過型電子顕微鏡(TEM)及び核磁気共鳴(NMR)分析は、上記に示すようにして行った。
【0046】
《実施例1》
〈鉄アンミンカルボニル錯体の生成〉
この実施例では、鉄カルボニル錯体(Fe(CO))にアンモニア(NH)を添加して、鉄アンミンカルボニル錯体を製造した。
【0047】
具体的にはこの実施例では、4.8gの鉄カルボニル錯体(Fe(CO))を、溶媒としての45mlのケロシンに加えて鉄カルボニル錯体含有溶液を得た。その後、このようにして得られた鉄カルボニル錯体含有溶液を、4時間にわたって110℃の温度に加熱しながら、アンモニア(NH)を100ml/分の量でバブリングによって供給して、鉄アンミンカルボニル錯体を生成して沈殿物として得た。すなわち、鉄カルボニル錯体がケロシンに溶解するのに対して、得られた鉄アンミンカルボニル錯体はケロシンに対して不溶性であり、沈殿物として析出した。
【0048】
得られた鉄アンミンカルボニル錯体を溶媒としてのケロシンから分離し、アルゴン雰囲気のグローブボックス内において150mlのヘキサンで遠心洗浄を3回(ヘキサン50ml×3回)行って、鉄カルボニル錯体を除去し、乾燥して、鉄アンミンカルボニル錯体を粉末状の生成物として得た。
【0049】
粉末状の生成物についてのFT−IR(フーリエ変換赤外分光分析)を行って、生成物がアミン配位子(NH)を有していることを確認した。また、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)を行って、生成物がアミン配位子(NH)及びカルボニル配位子(CO)を有していることを確認した。また、MS(質量分析)を行って、生成物の分子量が約438であることを確認した。これらの分析の結果からは、生成物が式Fe(CO)(NH(分子量(計算値):438)を有する鉄アンミンカルボニル錯体であると考えられる。
【0050】
粉末状の生成物についての13C−NMRの結果を図9に示す。図9からは、得られた粉末状の生成物において、13C−NMRによる鉄アンミンカルボニル錯体と鉄カルボニル錯体とのピークの積分比(鉄アンミンカルボニル錯体/鉄カルボニル錯体)が、約8であることが理解される。
【0051】
(鉄微粒子の合成)
上記のようにして得た粉末状の鉄アンミンカルボニル錯体0.2g、分散剤としてのオレイルアミン0.27g、及び電解質としての塩化アンモニウム(NHCl)0.004g又は0.009g(すなわち鉄錯体中の鉄原子に対して5mol%又は12mol%)を、溶媒としてのケロシン10mlに加え、得られた分散体を、16時間にわたって150℃の温度に加熱することによって、鉄微粒子を得た。
【0052】
得られた鉄微粒子についてのTEM写真を図3に示す。TEM写真に基づく平均粒子径は20nmであった。
【0053】
得られた鉄微粒子についてのXRD結果を図4に示す。このXRD結果によれば、塩化アンモニウム5mol%及び12mol%のときの鉄の結晶子径はそれぞれ、8nm及び16nmであった。
【0054】
したがって、塩化アンモニウム5mol%及び12mol%のときの(結晶子径)/(平均粒子径)の比はそれぞれ、0.4及び0.8であった。これは、この例で得られた鉄微粒子の結晶性が比較的高いことを意味している。なお、特許文献6の実施例では、平均粒子径が220nmであり、結晶子径が584.5Å(約58nm)であるので、この比の値は0.26である。
【0055】
《実施例2》
上記のようにして得た粉末状の鉄アンミンカルボニル錯体0.1g、分散剤としてのオレイルアミン0.12g、及び電解質としての塩化銅(CuCl)0.034g(すなわち鉄錯体中の鉄原子に対して25mol%)を、溶媒としてのケロシン10mlに加え、得られた分散体を、16時間にわたって150℃の温度に加熱することによって、鉄微粒子を得た。
【0056】
TEM写真に基づく平均粒子径は20nmであった。
【0057】
得られた鉄微粒子についてのXRD結果を図5に示す。このXRD結果によれば、鉄の結晶子径は15nmであった。
【0058】
したがって、鉄の(結晶子径)/(平均粒子径)の比は、0.75であった。これは、この例で得られた鉄微粒子の結晶性が高いことを意味している。
【0059】
なお、この実施例では、鉄微粒子が、銅粒子との混合物として得られた。
【0060】
《実施例3》
上記のようにして得た粉末状の鉄アンミンカルボニル錯体0.2g、分散剤としてのオレイルアミン0.27g、及び電解質としての臭化銅(CuBr)0.049g(すなわち鉄錯体中の鉄原子に対して25mol%)、酢酸銅(I)(CuOAc)0.042g(すなわち鉄錯体中の鉄原子に対して25mol%)、酢酸銅(II)(Cu(OAc))0.062g(すなわち鉄錯体中の鉄原子に対して25mol%)を、溶媒としてのケロシン10mlに加え、得られた分散体を、16時間にわたって150℃の温度に加熱することによって、鉄微粒子を得た。
【0061】
TEM写真に基づく平均粒子径はそれぞれ、20nm(臭化銅)、20nm(酢酸銅(I))、及び19nm(酢酸銅(II))であった。
【0062】
得られた鉄微粒子についてのXRD結果を図6に示す。このXRD結果によれば、鉄の結晶子径はそれぞれ、14nm(臭化銅)、15nm(酢酸銅(I))、及び13nm(酢酸銅(II))あった。
【0063】
したがって、鉄の(結晶子径)/(平均粒子径)の比はそれぞれ、0.7(臭化銅)、0.75(酢酸銅(I))、及び0.68(酢酸銅(II))であった。これは、この例で得られた鉄微粒子の結晶性が高いことを意味している。
【0064】
なお、この実施例では、鉄微粒子が、銅粒子との混合物として得られた。
【0065】
《比較例》
上記のようにして得た粉末状の鉄アンミンカルボニル錯体0.2g、分散剤としてのオレイルアミン0.27g、及び電解質の代わりとしてのマンガンカルボニル錯体(Mn(CO)10)0.134g(すなわち鉄錯体中の鉄原子に対して25mol%)を、溶媒としてのケロシン10mlに加え、得られた分散体を、16時間にわたって150℃の温度に加熱することによって、微粒子を得た。
【0066】
TEM写真に基づく平均粒子径は11nmであった。
【0067】
得られた微粒子についてのXRD結果を図7に示す。このXRD結果からは、結晶化が低い微粒子が得られたことが理解される。
【0068】
《参考例》
上記のようにして得た粉末状の鉄アンミンカルボニル錯体0.2g、及び分散剤としてのオレイルアミン0.27gを、溶媒としてのケロシン10mlに加え、得られた分散体を、16時間にわたって150℃の温度に加熱することによって、窒化鉄微粒子を得た。
【0069】
TEM写真に基づく平均粒子径は15nmであった。
【0070】
得られた窒化鉄微粒子についてのXRD結果を図8に示す。また、このXRD結果によれば、窒化鉄(Fe16)が得られたことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100nm以下の平均粒子径を有し、かつ前記平均粒子径に対するScherrerの式によって計算される結晶子径の比((結晶子径)/(平均粒子径)の比)が、0.3以上である、鉄微粒子。
【請求項2】
前記平均粒子径が50nm以下である、請求項1に記載の鉄微粒子。
【請求項3】
前記比が0.6以上である、請求項1又は2に記載の鉄微粒子。
【請求項4】
(a)有機溶媒中に鉄錯体が分散している分散体を提供すること、及び
(b)前記鉄錯体を熱分解して、鉄微粒子を生成すること、
を含み、前記鉄錯体が、アミン配位子及びカルボニル配位子を有する鉄アンミンカルボニル錯体であり、かつ前記分散体が、分散剤及び電解質を含有する、鉄微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記電解質が、金属イオン、アンモニウムイオン、及びそれらの組合せからなる群より選択されるカチオンと、ハロゲンイオン、有機酸イオン、無機酸イオン、及びそれらの組合せからなる群より選択されるアニオンとの塩である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記分散剤が、炭化水素基を有するアミンである、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記分散体において、13C−NMRによる鉄アンミンカルボニル錯体と鉄カルボニル錯体とのピークの積分比(鉄アンミンカルボニル錯体/鉄カルボニル錯体)が、1以上である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分散体を80℃〜200℃の温度に加熱することによって、前記熱分解を行う、請求項4〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記鉄アンミンカルボニル錯体が、式Fe(CO)(NH(式中、X=3、かつY+Z=12)を有する、請求項4〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記電解質が、塩化アンモニウムである、請求項4〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記分散体が還元剤を含有していない、請求項4〜10のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−193409(P2012−193409A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58093(P2011−58093)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト/Nd−Fe−B系磁石を代替する新規永久磁石の研究」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】