説明

鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の予防又は改善剤。

【課題】鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の予防又は改善を目的とする。
【解決手段】ルチン及び/又はルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物を含有することを特徴とする。鉄化合物としてはクエン酸鉄、クエン酸第1鉄ナトリウム、グルコン酸第1鉄、乳酸鉄、フマル酸第1鉄、ピロリン酸第1鉄、ピロリン酸第2鉄、及び硫酸第1鉄が好ましい。錠剤、トローチ剤、顆粒剤、カプセル剤、飲料及びキャンディー等の形態で提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチン及び/又はルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物を含有することを特徴とする鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
貧血とは、末梢血のヘモグロビン濃度が低下した状態の総称である。貧血には、再生不良性貧血、悪性貧血等の症状の異なる種々のものが含まれるが、我国においてはヘモグロビンの重要な構成成分である鉄の摂取不足による鉄欠乏性貧血がその大部分を占め、深刻な問題となっている。
鉄欠乏性貧血になると、血液の酸素運搬機能が低下する。又、組織の酸素不足を補う代償機序が働く為、心拍出量の増加及び呼吸機能の亢進等が生じる。この為、鉄欠乏性貧血においては、倦怠感、動悸、息切れ、頭痛、めまい、耳鳴り、疲労、食欲不振、悪心等のいわゆる不定愁訴を伴うことが多い。鉄欠乏性貧血の治療には、一般的に硫酸第1鉄、フマル酸第1鉄、クエン酸鉄等の鉄化合物を配合した経口鉄剤が用いられる。又、鉄を速やかに吸収させる観点等から、種々の技術が開示されている。例えば、6炭糖由来の酸又は非毒性塩等と、鉄化合物を含む鉄分補給用組成物(特許文献1参照)、難消化性オリゴ糖及び鉄化合物を含有する貧血改善剤(特許文献2参照)、人又は動物への投与に適した第1鉄−糖−カルボキシレート錯体であることを特徴とするミネラル補給剤(特許文献3参照)である。しかし、経口鉄剤を投与しても、血液中のヘモグロビンの増加はきわめてゆるやかである為、経口鉄剤による鉄欠乏性貧血の治療は、通常4〜8週間を要する。
従って、経口鉄剤の投与のみでは、鉄欠乏性貧血の患者は長期間前述の不定愁訴に悩まされ、日常生活に支障をきたすこととなる。
【0003】
ルチンはソバの全草、エンジュの花や蕾等に含まれるフラボノイドの一種である。ルチンは、毛細血管の強化、出血予防等のいわゆるビタミンP作用を有する為、毛細管性出血の予防又は治療を目的とする医薬品に用いられている。又、抗酸化作用、紫外線吸収作用、退色防止作用も見出されており、食品、医薬品等の添加剤としても利用されている。ルチンは水に極めて溶解しにくい為、グルコースを付加して水溶性を改良したα−グルコシルルチン等のルチン誘導体が開発されている。
ルチン及びルチンの誘導体については、種々の用途が開示されている。例えば、ルチン、クエルセチン又はこれらの混合物を含む、高血中脂質濃度に因る疾患の予防又は治療用医薬組成物(特許文献4参照)、α−グルコシルルチンを有効成分とするむくみ改善剤(特許文献5参照)、α−グルコシルルチンを含有する抗感受性疾患剤(特許文献6参照)等である。
【0004】
エゾウコギは抗ストレス作用及び抗疲労作用等を有し、主として滋養強壮を目的とした医薬品及び食品に使用されている。抗ストレス作用に関しては、エゾウコギの抽出物を有効成分として含有するストレス性胃潰瘍の治療または予防剤(特許文献7参照)、エゾウコギ、ゴミシ、及びトチュウからなる抗ストレスを目的とした経口投与用組成物(特許文献8参照)等が開示されている。
【0005】
ルチン、鉄化合物、及びエゾウコギの併用に関しては、ルチンと鉄等を含有する貧血改善剤(特許文献9参照)、鉄とエゾウコギ等を配合した冷え性改善用組成物(特許文献10参照)が開示されている。しかし、ルチン、ルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物による、鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴に対する改善効果については何ら報告されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−250383号公報
【特許文献2】特開平7−145064号公報
【特許文献3】特開平1−86858号公報
【特許文献4】特表2002−524522号公報
【特許文献5】特開平10−182468号公報
【特許文献6】特開平3−27293号公報
【特許文献7】特開2002−3391号公報
【特許文献8】特開平9−227394号公報
【特許文献9】特開平5−246842号公報
【特許文献10】特開2003−40788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような事情に鑑み、本発明者らは鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の改善剤を得るべく鋭意検討した結果、ルチン及び/又はルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物を併用すると顕著な改善効果が発揮されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、ルチン及び/又はルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物を含有することを特徴とする鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の予防又は改善剤である。
【0009】
本発明に係るルチンは、フラボノールの一種であるクエルセチンにルチノース(ラムノース+グルコース)が結合した配糖体である。ルチンは、マメ科のエンジュ(Sophora japonica L.)の花や蕾、タデ科のソバ(Fagopyrum esculentum MOENCH)の全草、又はマメ科のアズキ(Phaseolus angularis CW.WIGHT)の全草を水又はエタノール等で抽出し、精製することで淡黄色〜淡黄緑色の結晶として得られる。
ルチンは毛細管性出血の治療剤等として医薬品に用いられている。又、着色或は酸化防止等の食品加物として用いられている。
【0010】
本発明に係るルチン誘導体とは、ルチンのルチノース残基の全部又は一部を他の基に置換したもの、或はルチノース残基に他の基を付加したものをいう。ルチン誘導体としては、特にα−グルコシルルチン及びイソクエルシトリンが好ましい。
α−グルコシルルチンは、グリコシダーゼ、トランスグリコシダーゼ等の転移作用により、ルチノース残基のグルコースにグルコースを等モル以上付加したものである。α−グルコシルルチンは、ルチンより水溶性に優れ、体内でルチンと同様の生理活性を有する。α−グルコシルルチンは、酵素処理ルチンの名称で酸化防止等の食品添加物として用いられている。
イソクエルシトリンは、クエルセチンにグルコースが結合した配糖体である。イソクエルシトリンは、アオイ科のワタ(Gossypium herbaceam L.)の花、クワ科のクワ(Morus alba)の花等を、水又はエタノール等で抽出し、精製することで淡黄色の結晶として得られる。又、ルチンのルチノース残基からラムノシダーゼでラムノースのみを外すことで得ることができる。イソクエルシトリンも、体内でルチンと同様の生理活性を有する。イソクエルシトリンは、ルチン酵素分解物の名称で酸化防止等の食品添加物として用いられている。
【0011】
本発明に係るルチン及びルチン誘導体は、天然物からの抽出・精製物、化学合成物等のいずれも使用することができる。又、ルチン或はルチン誘導体を含む天然物の粗抽出物を用いることもできる。更に、ルチン及びルチン誘導体は1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0012】
本発明に係る鉄化合物としては塩化鉄、硫酸鉄、及びリン酸鉄等の鉄の無機酸塩、クエン酸鉄、グルコン酸鉄、乳酸鉄等の鉄の有機酸塩、ヘム鉄及びフェリチン等の鉄とたんぱく質の結合物、並びに酸化鉄等を挙げることができる。鉄化合物は、食品或は医薬品に用いることができるものがより好ましく、特に、クエン酸鉄、クエン酸第1鉄ナトリウム、グルコン酸第1鉄、乳酸鉄、フマル酸第1鉄、ピロリン酸第1鉄、ピロリン酸第2鉄、及び硫酸第1鉄が好ましい。鉄化合物は市販品を用いればよく、1種又は2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0013】
本発明に係るエゾウコギ(学名:Acanthopanax senticosus Harms)は、ロシア、中国・日本の東北部に生息するウコギ科の植物で、ハリウコギ、シベリア人参、エレウテロコックスとも呼ばれる。本発明のエゾウコギは、エゾウコギの根、茎、枝、葉のいずれの部位も使用することができるが、特に根が好ましい。
本発明に係るエゾウコギの抽出物は、エゾウコギを水若しくはメタノール、エタノール、プロパノール、アセトン等の親水性溶媒、又はこれらの2種以上の混合溶媒で抽出し、必要に応じて濃縮、乾燥等することにより得られる。当該抽出物は、抽出液、濃縮抽出液又は乾燥抽出物等の種々の形態のものを用いることができる。
【0014】
本発明におけるルチン及び/又はルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物の投与量は、投与形態、症状、年齢、体重等によって異なるが、ルチン及び/又はルチン誘導体は1〜1000mg/日、好ましくは10〜500mg/日、鉄化合物は鉄に換算して1〜500mg/日、好ましくは1〜100mg/日、エゾウコギの抽出物はエゾウコギの乾燥物に換算して10〜20,000mg/日、好ましくは100〜10,000mg/日である。
【0015】
本発明の鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の改善剤は、医薬品又は食品として用いることができる。医薬品の形態としては、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤、内服液剤、懸濁剤、シロップ剤等が挙げられる。食品の形態としては、上述の医薬品的な形態に加え、ビスケット、クッキー、キャンディー、チョコレート等の菓子、食酢、醤油、ドレッシング等の調味料、ハム、ベーコン、ソーセージ等の食肉製品、かまぼこ、はんぺい等の魚肉練り製品、果汁飲料、清涼飲料、アルコール飲料等の飲料、パン、麺、ジャム等を採用することができる。これらの医薬品及び食品の中でも、摂取量を調整しやすい錠剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤、内服液剤及び飲料がより好ましい。又、医薬品及び食品の製造にあたっては、必要に応じて賦形剤、結合剤、滑沢剤、矯味剤、安定剤、ビタミン、ミネラル、香料等の医薬品及び食品の技術分野で通常使用されている補助剤を用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のルチン及び/又はルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物を含有することを特徴とする鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の予防又は改善剤には、当該不定愁訴に対し著しい改善効果が認められた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための最良の形態として実施例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に示す(%)は重量(%)を示す。
【実施例1】
【0018】
錠剤
<処方> 配合量(%)
1.ルチン 3.4
2.ピロリン酸第2鉄 2.3
3.エゾウコギの熱水抽出物(27:1) 4.2
4.還元麦芽糖水飴 60.0
5.乳糖 27.1
6.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
<製造方法>
成分1〜5に70%エタノールを適量加えて練和し、押出し造粒した後に乾燥して顆粒を得る。成分6を加えて打錠成形し、300mg/錠の錠剤を得る。当該錠剤を1日3錠摂取することで、ルチンを30mg/日、鉄を6mg/日、エゾウコギの抽出物をエゾウコギの乾燥物として1000mg/日摂取できる。
【実施例2】
【0019】
トローチ剤
<処方> 配合量(%)
1.ルチン 5.0
2.クエン酸第1鉄ナトリウム 19.0
3.エゾウコギの熱水抽出物(1:1、デキストリンを含む) 20.0
4.乳糖 30.0
5.コーンスターチ 24.0
6.ショ糖脂肪酸エステル 3.0
<製造方法>
成分1〜5に70%エタノールを適量加えて練和し、押出し造粒した後に乾燥して顆粒を得る。成分6を加えて打錠成形し、1000mg/個のトローチ剤を得る。当該トローチ剤を1日3個摂取することで、ルチンを150mg/日、鉄を60mg/日、エゾウコギの抽出物をエゾウコギの乾燥物として600mg/日摂取できる。
【実施例3】
【0020】
顆粒剤
<処方> 配合量(%)
1.ルチン 1.5
2.ピロリン酸第2鉄 2.0
3.エゾウコギの熱水抽出物(25:1) 1.0
4.還元麦芽糖水飴 70.0
5.セルロース 25.0
<製造方法>
成分1〜5に70%エタノールを適量加えて練和し、押出し造粒した後に乾燥して顆粒剤を得る。当該顆粒剤を1回1000mgずつ1日2回摂取することで、ルチンを30mg/日、鉄を12mg/日、エゾウコギの抽出物をエゾウコギの乾燥物として500mg/日摂取できる。
【実施例4】
【0021】
カプセル剤
<処方> 配合量(%)
1.ルチン 10.0
2.フマル酸第1鉄 10.0
3.エゾウコギの熱水抽出物(10:1) 20.0
4.コーンスターチ 60.0
<製造方法>
成分1〜4を混合し、2号硬カプセルに250mg充填してカプセル剤を得る。当該カプセル剤を1日3カプセル摂取することで、ルチンを75mg/日、鉄を24mg/日、エゾウコギの抽出物をエゾウコギの乾燥物として1500mg/日摂取できる。
【実施例5】
【0022】
飲料
<処方> 配合量(%)
1.α−グルコシルルチン 0.1
2.硫酸第1鉄(結晶) 0.3
3.エゾウコギの30%エタノール抽出物(8:1) 0.1
4.ショ糖 6.0
5.クエン酸 0.7
6.香料 適量
7.精製水で全量を100とする。
<製造方法>
成分7に成分1〜6を加え、撹拌溶解して濾過し、加熱殺菌して50mLガラス瓶に充填する。当該飲料を1日1本摂取することで、α−グルコシルルチンを50mg/日、鉄を30mg/日、エゾウコギの抽出物をエゾウコギの乾燥物として400mg/日摂取できる。
【実施例6】
【0023】
キャンディー
<処方> 配合量(%)
1.イソクエルシトリン 0.5
2.乳酸鉄 0.5
3.エゾウコギの10%エタノール抽出物(5:1) 5.0
4.還元麦芽糖水飴 94.0
5.香料 適量
<製造方法>
成分1〜4を水に溶解、分散させた後に145℃で煮詰める。90〜100℃まで冷却し、成分5を加えて混合する。5g/粒ずつ成形し、冷却してキャンディーを得る。当該キャンディーを1日4粒摂取することで、イソクエルシトリンを100mg/日、鉄を18mg/日、エゾウコギの抽出物をエゾウコギの乾燥物として5000mg/日摂取できる。
【比較例】
【0024】
顆粒剤 配合量(%)
<処方> 比較例1 比較例2 比較例3 比較例4
1.ルチン 1.5 1.5 0.0 0.0
2.ピロリン酸第2鉄 2.0 0.0 2.0 0.0
3.エゾウコギの熱水抽出物 0.0 1.0 1.0 0.0
(25:1)
4.還元麦芽糖水飴 70.0 70.0 70.0 70.0
5.セルロース 26.5 27.5 27.0 30.0
<製造方法>
実施例3と同様に、成分1〜5に70%エタノールを適量加えて練和し、押出し造粒した後に乾燥して顆粒剤を得る。
【実施例7】
【0025】
<方法>
鉄欠乏性貧血で不定愁訴を訴えている女性50名を対象に、実施例3の摂取による改善試験を行った。女性は10名ずつの5グループに分け、第1グループは比較例1、第2グループは比較例2、第3グループは比較例3、第4グループは比較例4、第5グループは実施例3の顆粒剤を1日当り2000mg3週間投与し、試験開始時及び終了時における症状についてアンケート調査した。調査項目は、息切れ・動悸、頭痛、めまい・耳鳴り、倦怠感・疲労感、及び食欲不振の5症状とした。各症状の程度は、症状が著しくて日常生活に支障をきたす;10点、症状がひどくて我慢できないことがある;7点、症状の自覚はあるが日常生活にはほとんど影響しない;3点、症状はない;0点とし、各症状の合計の平均値で試験開始時と終了時を比較した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
比較例3及び4は改善効果が認められない。比較例1及び2には改善効果が認められるが、実施例3はこれらより更に顕著な効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明に係るルチン及び/又はルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物を含有することを特徴とする鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の予防又は改善剤は、上記のように顕著な効果を有する。よって、鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の治療・改善を目的とする医薬品及び食品に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルチン及び/又はルチン誘導体、鉄化合物、及びエゾウコギの抽出物を含有することを特徴とする鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の予防又は改善剤。
【請求項2】
鉄化合物がクエン酸鉄、クエン酸第1鉄ナトリウム、グルコン酸第1鉄、乳酸鉄、フマル酸第1鉄、ピロリン酸第1鉄、ピロリン酸第2鉄、及び硫酸第1鉄からなる群より選択される一種又は二種以上である請求項1記載の鉄欠乏性貧血に伴う不定愁訴の予防又は改善剤。

【公開番号】特開2006−193428(P2006−193428A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−3654(P2005−3654)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(592262543)日本メナード化粧品株式会社 (223)
【Fターム(参考)】