鉄道車両用非接触給電システム
【課題】 地上側の鉄道レール間に給電コイル、車上側に集電コイルを設置するという簡単な構成により従来の設備を変えずに非接触給電を行い、しかもレールの発熱量を低減できる鉄道車両への非接触型給電システムを提供する。
【解決手段】 鉄道車両用非接触給電システムにおいて、軌道A上に敷設される鉄道レール2,2′間に配置される8の字形状の給電コイル3と、この給電コイル3に給電する高周波電源1と、前記鉄道レール2,2′を走行する鉄道車両4の底部に配置され、前記8の字形状の給電コイル3に走行時に対向する8の字形状の集電コイル6と、この集電コイル6に接続されるコンバータ7と、このコンバータ7に接続される充電式電池8とを備え、前記給電コイル3に対する前記集電コイル6の相対的移動により前記集電コイル6からの出力を前記充電式電池8に充電するようにした。
【解決手段】 鉄道車両用非接触給電システムにおいて、軌道A上に敷設される鉄道レール2,2′間に配置される8の字形状の給電コイル3と、この給電コイル3に給電する高周波電源1と、前記鉄道レール2,2′を走行する鉄道車両4の底部に配置され、前記8の字形状の給電コイル3に走行時に対向する8の字形状の集電コイル6と、この集電コイル6に接続されるコンバータ7と、このコンバータ7に接続される充電式電池8とを備え、前記給電コイル3に対する前記集電コイル6の相対的移動により前記集電コイル6からの出力を前記充電式電池8に充電するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用非接触給電システムに係り、特に、鉄道レール側に給電コイルを配置し、鉄道車両側の集電コイルにより集電する鉄道車両用非接触給電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、感電の心配や摩耗がなく、移動体や回転体にエネルギー供給の可能な非接触集電技術を用いた電池バスや工場内搬送装置の実用化が進んでいる(下記非特許文献1,2,3参照)。これらの背景には、地球温暖化に対する省エネルギー効果、安全性、保守性への期待がある。
【0003】
一方、最近の半導体の高速スイッチングにみられるようなパワーエレクトロニクスの発達、電磁界解析技術の高度化、磁性材料の進歩など、非接触集電技術に欠かせない要素も発達してきている。
【0004】
非接触給電システムを原理的に分類すると、
(a)電磁誘導を用いたリニア変圧器方式
(b)走行体の運動エネルギーを用いたリニア発電機方式
(c)電磁波を用いたマイクロ波方式
(d)その他(下記非特許文献4参照)
に分けることができる。
【0005】
上述の電池バスや搬送装置では、(a)方式すなわちリニア変圧器方式が採用されている。これは、(b)方式は磁気浮上式車両のような地上1次システムでしか実現できない(下記非特許文献5参照)ことや、(c)方式はエネルギー密度が極端に小さい等の理由からと考えられる。
【0006】
もっとも、(a)のリニア変圧器方式も高周波電流を使用するため渦電流損が大きい、ギャップ変動の影響が大きい等の克服しなければならない問題もある。 ところで、鉄道車両の非接触給電システムとして、リニア変圧器による給電(集電)方式を適用することが考えられている(下記非特許文献6〜8参照)。この場合、運転時のエネルギー供給の他、デッドセクションや保守基地での電力供給などへの利用が考えられる。しかしながら、在来鉄道では、互換性や相互乗り入れが重要視されるため、現状の設備や車両を大幅に変更することは難しい。このため、現在の車両限界や建築限界内に給電コイル等を配置しなければならない。
【非特許文献1】紙屋雄史,中村幸司,中村達,大聖泰弘,高橋俊輔,山本喜多男,佐藤剛,松木英敏,成澤和幸,「電動車両用非接触急速誘導充電装置の開発と性能評価(第1報)−送電部と受電部の設計最適化ならびに機器の性能評価−」,社団法人自動車技術会春季学術講演会前刷集(2007)
【非特許文献2】谷澤秀一,内藤信吾,「無接触給電搬送システムの技術と新市場」,DAIFUKU NEWS,No.161,pp.10−13(2001)
【非特許文献3】M.Bauer,P.Becker,Q.Zheng,“Inductive Power Supply(IPS) for the Transrapid”,Maglev 2006,Vol.2,pp.471(2006)
【非特許文献4】A.Kurs,A.Karalis,R.Moffatt,J.D.Joannopoulos,P.Fisher,M.Soljacic,“Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances”,SCIENCE,Vol.317,pp.83−86,July(2007)
【非特許文献5】T.Murai,S.Fujiwara,H.Hasegawa,K.Nemoto,H.Watanabe,Y.Furukawa,M.Shinobu,M.Igarashi,S.Inadama,H.Akagi,M.Oki,“Development of Linear Generators for Superconducting Maglev”,Maglev’98,pp.262−267(1998)
【非特許文献6】黒田玄,河村篤男,「移動体用非接触給電システムにおける高効率化検討および移動時の特性測定」,社団法人電気学会 半導体電力変換研究会,SPC−07−30(2007)
【非特許文献7】松下真也,及川康史,岩田卓也、金子裕良,阿部茂,「直列および並列共振コンデンサを用いた移動型非接触給電システム」,電気学会半導体電力変換研究会,SPC−07−29,2007
【非特許文献8】N.Fujii,K.Sakata,T.Yoshida,T.Mizuma,“Secondary Current Controlled Linear Induction Motor with Function of Linear Transformer for Wireless LRV”,ICEM 2008,ID 918(2008)
【非特許文献9】山本貴光,古谷勇真,米山崇,小川賢一,「燃料電池試験電車の構内走行試験等による燃費及び効率の評価」,鉄道総研報告,第22巻第2号(2008)
【非特許文献10】A.Diekmann,W.Hahn,K.Kunze & W.Hufenbach,“The support magnet cladding with integrated IPS pick−up coil of Transrapid vehicles”,Maglev 2006,Vol.2,pp.477−481(2006)
【非特許文献11】「PHOTO−Series EDDY ユーザーズマニュアル」,株式会社フォトン
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、鉄道では従来との互換性や相互乗り入れが重視されるため、現状の設備や車両を大きく変更して非接触給電を行うことは難しい。
【0008】
また、リニア変圧器方式の非接触型給電システムを鉄道車両に適用する場合、金属である鉄道レールへの渦電流による発熱が問題となる。そのため、鉄道レールを有する鉄道車両への非接触型給電システムへの適用は、いまだになされていないのが現状である。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、地上側に給電コイル、車上側に集電コイルを設置するという簡単な構成により従来の設備を変えずに非接触給電を行い、しかもレールの発熱量を低減できる鉄道車両への非接触型給電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鉄道車両用非接触給電システムにおいて、軌道上に敷設される鉄道レール間に配置され、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される給電コイルと、この給電コイルに給電する高周波電源と、前記鉄道レールを走行する車両の底部に配置され、走行時に前記給電コイルに対向し、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される集電コイルと、この集電コイルに接続されるコンバータと、このコンバータに接続される充電式電池とを備え、前記給電コイルに対する前記集電コイルの相対的移動による前記集電コイルからの出力を前記充電式電池に充電するようにしたことを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記給電コイルは絶縁支持板を、前記集電コイルの背面と前記車両の底部間には背面磁性体板を配置することを特徴とする。
【0012】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記給電コイル及び前記集電コイルは8の字コイルであることを特徴とする。
【0013】
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記高周波電源は20kHzオーダーの高周波電源であることを特徴とする。
【0014】
〔5〕上記〔1〕又は〔2〕記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記充電式電池はリチウムイオン蓄電池であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地上側の鉄道レール間に給電コイル、車上側に集電コイルを設置する簡単な構成により、従来の設備を変えずに非接触給電を行い、しかもレールの発熱量を低減できる鉄道車両用非接触型給電システムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の鉄道車両用非接触給電システムは、軌道上に敷設される鉄道レール間に配置され、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される給電コイルと、この給電コイルに給電する高周波電源と、前記鉄道レールを走行する車両の底部に配置され、走行時に前記給電コイルに対向し、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される集電コイルと、この集電コイルに接続されるコンバータと、このコンバータに接続される充電式電池とを備え、前記給電コイルに対する前記集電コイルの相対的移動による前記集電コイルからの出力を前記充電式電池に充電する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
鉄道車両への非接触給電システムの適用としては次の2つの方式が想定される。
【0019】
(i)レール方式:地上側に給電コイルまたはループを連続して設置し、常時車上に給電を行い走行する。
【0020】
(ii) ステーション方式:駅や給電ポイントに給電コイルを設置し、蓄電池等に充電を行って走行する。
【0021】
考え方としては、レール方式は非接触給電を使った電化であり、ステーション方式は、非電化区間の排ガスレス化と捉えられる。力行時の電力補助や回生電力吸収を考えると、レール方式・ステーション方式共に蓄電池等の車載は必須となる。
【0022】
図1は本発明の実施例を示す鉄道車両用非接触給電システムの模式図、図2はその側面図、図3はその要部断面図である。
【0023】
これらの図において、Aは軌道(地上配置)、1は高周波電源、2,2′は軌道Aに敷設される鉄道レール、3は鉄道レール2と2′間に配置される一回巻きの地上側の給電コイル(1次コイル:8の字コイル)、Bは地上側の給電コイル3の絶縁支持体、4は鉄道車両、5は鉄道車両4の車輪、6は鉄道車両4の底面に配置される車両側集電コイル(2次コイル:8の字コイル)、Cは車両側の集電コイル6の背面(車体底面と車両側の集電コイル6との間)に配置される背面磁性板(フェライト板)、7は車両側の集電コイル6に接続されるコンバータ、8はコンバータ7に接続される充電式電池(リチウムイオン蓄電池)である。
【0024】
なお、背面磁性板Cは鉄道車両4の底面に配置される種々の部材に対する磁気シールドとしてコイル回路を担保するために重要である。
【0025】
また、地上側の給電コイル3の絶縁支持体Bは軌道からの絶縁を確保するために重要である。
【0026】
これらの図に示すように、本発明では、レール方式の非接触給電システムとした。鉄道車両4は在来線狭軌の通勤近郊型電車を想定している。この鉄道車両4の電源構成は、リチウムイオン蓄電池8を搭載した試験車両の仕様を参考とした。すなわち、レール方式の非接触給電システムにより常時給電された電力を、力行時にはリチウムイオン蓄電池8から補助し、減速時にはそのリチウムイオン蓄電池8に回生して走行する。
【0027】
非接触給電システムの諸元としては、機械的な部分は在来線の車両限界を基準に算定し、電気的な部分はドイツのトランスラピッドの給電装置を参考とした。
【0028】
表1に非接触給電システムの概念設計例を示す。
【0029】
【表1】
より詳細に説明すると、列車は2車両を1セットとしている。給電コイルの出力電力は20kW/1コイル、地上側の給電コイル3と車上側の集電コイル6との間の間隔は75mm、給電コイルへの印加周波数は20kHz、コイル幅は600mmである。また、給電コイルの電流は200A, 巻回数は1回であり、一方、集電コイルの電流は60A、巻回数は20回である。なお、給電コイルへの印加周波数は、電波法に準拠して10kHz以下としても、出力は若干低減するが、システムとしては問題なく適用することができる。
【0030】
次に、問題となる鉄道レールの渦電流について説明する。
【0031】
ここでは、非線形動磁場解析の問題となる。レール進行方向については一様で無限長と見てよいため、2次元にて近似可能である。さらに、枕木方向については、車両−地上間で相対運動はなく、運動非連成である。
【0032】
解析コードには、A−φ法を用いた有限要素法であるフォトン社のEddyを使用した(上記非特許文献11参照)。
【0033】
図4は本発明の比較例を示す鉄道車両用非接触給電システムの模式図、図5は給電コイル及び集電コイルが8の字コイルである場合の解析モデル、図6は給電コイル及び集電コイルが矩形コイルである場合の解析モデルである。
【0034】
図4において、Aは軌道(地上配置)、11は高周波電源、12,12′は軌道Aに敷設される鉄道レール、13は鉄道レール12と12′間に配置される一回巻きの地上側の給電コイル(1次コイル:矩形コイル)、Bは地上側の給電コイル13の絶縁支持体、14は鉄道車両、15は鉄道車両14の車輪、16は鉄道車両14の底面に配置される車両側の集電コイル(2次コイル:矩形コイル)、Cは車両側の集電コイル16の背面(車体底面と車両側の集電コイル16との間)に配置される背面磁性板(フェライト板)、17は車両側の集電コイル16に接続されるコンバータ、18はコンバータ17に接続される充電式電池(リチウムイオン蓄電池)である。
【0035】
図5において、21は軌道の中心線、22は鉄道レール、23は給電コイル(1次コイル:8の字コイル)、24は背面磁性板(フェライト)、25は背面磁性板24に取付けられる集電コイル(2次コイル:8の字コイル)である。
【0036】
図6において、31は軌道の中心線、32は鉄道レール、33は給電コイル(1次コイル:矩形コイル)、34は背面磁性板、35は背面磁性板34に取付けられる集電コイル(2次コイル:矩形コイル)である。
【0037】
漏れ磁束の影響を検討するため、8の字コイル(Null−flux mode)(図5)と矩形コイル(Normal−flux mode)(図6)のモデルを作成した。この解析では、x方向を枕木方向、y方向を天上方向、z方向をレール進行方向とした。
【0038】
モデルは対象性を考慮して、yz面に反対称境界条件(ベクトルポテンシャルの接線方向が0)、x,y方向の遠方に対称境界条件(ベクトルポテンシャルの法線方向が0)を指定した。
【0039】
扱う周波数が高いため、渦電流の流れる鉄道レール22,32の表面部分は、表皮厚以下になるように細かく要素分割を行った。
【0040】
図7は解析のため非線形計算に使用したB−Hカーブを示す図であり、□はフェライト、○は鉄を示している。
【0041】
以下解析結果を順を追って示す。解析結果の横軸は電流値であり、表1に示した定格電流を1とした。鉄道レールへの電磁的な影響ということで、単位長さ当たりの発熱量を評価対象とした。
【0042】
まず、線形解析にて近似可能であれば、計算時間を大幅に短縮できるため、非線形解析との比較を行った。
【0043】
図8は線形解析と非線形解析での計算結果を示す図である。ここで、□は非線形解析、○は線形解析を示している。
【0044】
図8を見ると、電流の大きな領域で線形解析と非線形解析との計算結果に大きな乖離が生じることがわかる。また、鉄道レール、背面磁性板ともに定格値付近でも飽和領域に達しており、非線形解析が必要であることがわかった。
【0045】
図9は給電コイル及び集電コイルが8の字コイルの場合の定格電流時の磁束密度分布を示す図、図10は給電コイル及び集電コイルが矩形コイルの場合の定格電流時の磁束密度分布を示す図である。
【0046】
図9においては、集電(2次)コイル25の背面磁性板24と、鉄道レール22の表面に磁束が集中している様子がわかる。表面の渦電流により磁界が遮蔽されて、鉄道レール22内部には磁束が侵入していないことも読み取れる。
【0047】
一般的に、図4に示した矩形コイル同士よりも、図1に示した8の字コイル同士の方が周囲への漏れ磁束が小さい構成が可能である。そのため、鉄道車両への非接触給電システムにおいて、8の字コイルの方が過電流を低減し、鉄道レールの発熱を抑えることができる。
【0048】
そこで、鉄道レールの発熱を抑える試みとして、給電コイル及び集電コイルが矩形コイルと8の字コイルの場合の比較を行った。
【0049】
図11は矩形コイルと8の字コイルの場合の数値解析の結果を示す図であり、横軸に給電(1次)コイル電流(規格化)、縦軸に発熱量〔W/m〕が示され、また、◇は矩形コイル、○は8の字コイルの結果を示している。
【0050】
8の字コイルの方が鉄道レールの発熱量は小さかった。現状の車両限界や建築限界を想定すると、8の字コイルにより鉄道レールへの影響をより小さく抑えることができる。
【0051】
図12は給電(1次)コイル電流のみ、集電(2次)コイル電流のみ通電した場合の解析結果を示す図である。ここで、◇は給電(1次)コイル電流、○は集電(2次)コイル電流を示している。
【0052】
給電(1次)コイルの方が、幾何学的には鉄道レールに近接しているため、鉄道レールに与える影響が大きいと考えられた。しかし、今回の諸元では、集電(2次)コイル電流のアンペアターンが大きいため、集電(2次)コイル電流の影響が大きいことがわかった。発熱量で比較すると、電流値の自乗に比例するため、このような結果となったと考えられる。
【0053】
図13は鉄道レールの導電率を変化させた場合の解析結果を示す図である。
【0054】
一般的な鉄の導電率である1×106 〜1×107 〔S/m〕の範囲内を解析したところ、1桁変化させても発熱量は4割程度の違いしか発生しなかった。
【0055】
図14は給電(1次)コイル電流の位相と集電(2次)コイル電流の位相を変化させた場合の解析結果を示す図である。
【0056】
給電(1次)コイル電流と集電(2次)コイル電流の位相差を変化させると劇的に変化するような点がある。一方、実際の非接触給電では共振現象を利用するため、大きな位相差変化はない。そのため、図14では位相差を5deg.変化させた場合の結果のみを示した。この程度の範囲内では、大きな変化が見られないことがわかる。
【0057】
以上の解析結果から次のことがわかった。
【0058】
(1)数10kW級の電力を得るためには、電流値が大きくなるため、磁性体の飽和領域となり、非線形解析が必要となる。
【0059】
(2)給電(1次)コイルの周波数が20kHzと高いため、漏れ磁束による渦電流は鉄道レール表面部に集中する。
【0060】
(3矩形コイルと8の字コイルでは、8の字コイルの方が鉄道レールへの影響は小さい。
【0061】
(4) 集電(2次)コイルのアンペアターンが大きいため、鉄道レールへの影響は給電(1次)コイルより集電(2次)コイルの影響の方が大きい。
【0062】
(5)鉄道レールの導電率や給電(1次)コイルと集電(2次)コイルの電流の位相差の変化では、鉄道レールへの影響には大きな違いが見られなかった。
【0063】
このように、本発明では、地上側に給電コイル、車上側に集電コイルを設置することにより、鉄道車両への非接触給電を行うようにした。このとき鉄道では従来車両や設備との互換性が重視されるため、土木設備の大幅な変更は考えられない。
【0064】
ここでは、その鉄道レールへの電磁的な影響を抑えるため、鉄道レールの発熱量を評価対象として、コイル構成や物性値等を変化させ、有限要素法による電磁場解析により計算を行った。
【0065】
その結果、コイル構成を8の字形状にすることにより漏れ磁束による鉄道レール発熱が低減できることがわかった。
【0066】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の鉄道車両用非接触給電システムは、従来の設備や車両を変更することなく適用できる鉄道車両用非接触給電システムとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例を示す鉄道車両用非接触給電システムの模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す鉄道車両用非接触給電システムの側面図である。
【図3】本発明の実施例を示す鉄道車両用非接触給電システムの要部断面図である。
【図4】本発明の比較例を示す鉄道車両用非接触給電システムの模式図である。
【図5】給電コイル及び集電コイルが8の字コイルである場合の解析モデルである。
【図6】給電コイル及び集電コイルが矩形コイルである場合の解析モデルである。
【図7】解析のためのB−Hカーブを示す図である。
【図8】線形解析と非線形解析での計算結果を示す図である。
【図9】給電コイル及び集電コイルが8の字コイルの場合の定格電流時の磁束密度分布を示す図である。
【図10】給電コイル及び集電コイルが矩形コイルの場合の定格電流時の磁束密度分布を示す図である。
【図11】矩形コイルと8の字コイルの場合の数値解析の結果を示す図である。
【図12】給電(1次)コイル電流のみ、集電(2次)コイル電流のみ通電した場合の解析結果を示す図である。
【図13】鉄道レールの導電率を変化させた場合の解析結果を示す図である。
【図14】給電(1次)コイル電流の位相と集電(2次)コイル電流の位相を変化させた場合の解析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
A 軌道
1,11 高周波電源
2,2′,12,12′,22,32 鉄道レール
B 絶縁支持体
3,23 給電コイル(1次コイル:8の字コイル)
C,24,34 背面磁性体板
4,14 鉄道車両
5,15 鉄道車両の車輪
6,25 集電コイル(2次コイル:8の字コイル)
7,17 コンバータ
8,18 充電式電池(リチウムイオン蓄電池)
13,33 給電コイル(1次コイル:矩形コイル)
16,35 集電コイル(2次コイル:矩形コイル)
21,31 軌道の中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用非接触給電システムに係り、特に、鉄道レール側に給電コイルを配置し、鉄道車両側の集電コイルにより集電する鉄道車両用非接触給電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、感電の心配や摩耗がなく、移動体や回転体にエネルギー供給の可能な非接触集電技術を用いた電池バスや工場内搬送装置の実用化が進んでいる(下記非特許文献1,2,3参照)。これらの背景には、地球温暖化に対する省エネルギー効果、安全性、保守性への期待がある。
【0003】
一方、最近の半導体の高速スイッチングにみられるようなパワーエレクトロニクスの発達、電磁界解析技術の高度化、磁性材料の進歩など、非接触集電技術に欠かせない要素も発達してきている。
【0004】
非接触給電システムを原理的に分類すると、
(a)電磁誘導を用いたリニア変圧器方式
(b)走行体の運動エネルギーを用いたリニア発電機方式
(c)電磁波を用いたマイクロ波方式
(d)その他(下記非特許文献4参照)
に分けることができる。
【0005】
上述の電池バスや搬送装置では、(a)方式すなわちリニア変圧器方式が採用されている。これは、(b)方式は磁気浮上式車両のような地上1次システムでしか実現できない(下記非特許文献5参照)ことや、(c)方式はエネルギー密度が極端に小さい等の理由からと考えられる。
【0006】
もっとも、(a)のリニア変圧器方式も高周波電流を使用するため渦電流損が大きい、ギャップ変動の影響が大きい等の克服しなければならない問題もある。 ところで、鉄道車両の非接触給電システムとして、リニア変圧器による給電(集電)方式を適用することが考えられている(下記非特許文献6〜8参照)。この場合、運転時のエネルギー供給の他、デッドセクションや保守基地での電力供給などへの利用が考えられる。しかしながら、在来鉄道では、互換性や相互乗り入れが重要視されるため、現状の設備や車両を大幅に変更することは難しい。このため、現在の車両限界や建築限界内に給電コイル等を配置しなければならない。
【非特許文献1】紙屋雄史,中村幸司,中村達,大聖泰弘,高橋俊輔,山本喜多男,佐藤剛,松木英敏,成澤和幸,「電動車両用非接触急速誘導充電装置の開発と性能評価(第1報)−送電部と受電部の設計最適化ならびに機器の性能評価−」,社団法人自動車技術会春季学術講演会前刷集(2007)
【非特許文献2】谷澤秀一,内藤信吾,「無接触給電搬送システムの技術と新市場」,DAIFUKU NEWS,No.161,pp.10−13(2001)
【非特許文献3】M.Bauer,P.Becker,Q.Zheng,“Inductive Power Supply(IPS) for the Transrapid”,Maglev 2006,Vol.2,pp.471(2006)
【非特許文献4】A.Kurs,A.Karalis,R.Moffatt,J.D.Joannopoulos,P.Fisher,M.Soljacic,“Wireless Power Transfer via Strongly Coupled Magnetic Resonances”,SCIENCE,Vol.317,pp.83−86,July(2007)
【非特許文献5】T.Murai,S.Fujiwara,H.Hasegawa,K.Nemoto,H.Watanabe,Y.Furukawa,M.Shinobu,M.Igarashi,S.Inadama,H.Akagi,M.Oki,“Development of Linear Generators for Superconducting Maglev”,Maglev’98,pp.262−267(1998)
【非特許文献6】黒田玄,河村篤男,「移動体用非接触給電システムにおける高効率化検討および移動時の特性測定」,社団法人電気学会 半導体電力変換研究会,SPC−07−30(2007)
【非特許文献7】松下真也,及川康史,岩田卓也、金子裕良,阿部茂,「直列および並列共振コンデンサを用いた移動型非接触給電システム」,電気学会半導体電力変換研究会,SPC−07−29,2007
【非特許文献8】N.Fujii,K.Sakata,T.Yoshida,T.Mizuma,“Secondary Current Controlled Linear Induction Motor with Function of Linear Transformer for Wireless LRV”,ICEM 2008,ID 918(2008)
【非特許文献9】山本貴光,古谷勇真,米山崇,小川賢一,「燃料電池試験電車の構内走行試験等による燃費及び効率の評価」,鉄道総研報告,第22巻第2号(2008)
【非特許文献10】A.Diekmann,W.Hahn,K.Kunze & W.Hufenbach,“The support magnet cladding with integrated IPS pick−up coil of Transrapid vehicles”,Maglev 2006,Vol.2,pp.477−481(2006)
【非特許文献11】「PHOTO−Series EDDY ユーザーズマニュアル」,株式会社フォトン
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、鉄道では従来との互換性や相互乗り入れが重視されるため、現状の設備や車両を大きく変更して非接触給電を行うことは難しい。
【0008】
また、リニア変圧器方式の非接触型給電システムを鉄道車両に適用する場合、金属である鉄道レールへの渦電流による発熱が問題となる。そのため、鉄道レールを有する鉄道車両への非接触型給電システムへの適用は、いまだになされていないのが現状である。
【0009】
本発明は、上記状況に鑑みて、地上側に給電コイル、車上側に集電コイルを設置するという簡単な構成により従来の設備を変えずに非接触給電を行い、しかもレールの発熱量を低減できる鉄道車両への非接触型給電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕鉄道車両用非接触給電システムにおいて、軌道上に敷設される鉄道レール間に配置され、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される給電コイルと、この給電コイルに給電する高周波電源と、前記鉄道レールを走行する車両の底部に配置され、走行時に前記給電コイルに対向し、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される集電コイルと、この集電コイルに接続されるコンバータと、このコンバータに接続される充電式電池とを備え、前記給電コイルに対する前記集電コイルの相対的移動による前記集電コイルからの出力を前記充電式電池に充電するようにしたことを特徴とする。
【0011】
〔2〕上記〔1〕記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記給電コイルは絶縁支持板を、前記集電コイルの背面と前記車両の底部間には背面磁性体板を配置することを特徴とする。
【0012】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記給電コイル及び前記集電コイルは8の字コイルであることを特徴とする。
【0013】
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記高周波電源は20kHzオーダーの高周波電源であることを特徴とする。
【0014】
〔5〕上記〔1〕又は〔2〕記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記充電式電池はリチウムイオン蓄電池であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、地上側の鉄道レール間に給電コイル、車上側に集電コイルを設置する簡単な構成により、従来の設備を変えずに非接触給電を行い、しかもレールの発熱量を低減できる鉄道車両用非接触型給電システムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の鉄道車両用非接触給電システムは、軌道上に敷設される鉄道レール間に配置され、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される給電コイルと、この給電コイルに給電する高周波電源と、前記鉄道レールを走行する車両の底部に配置され、走行時に前記給電コイルに対向し、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される集電コイルと、この集電コイルに接続されるコンバータと、このコンバータに接続される充電式電池とを備え、前記給電コイルに対する前記集電コイルの相対的移動による前記集電コイルからの出力を前記充電式電池に充電する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
鉄道車両への非接触給電システムの適用としては次の2つの方式が想定される。
【0019】
(i)レール方式:地上側に給電コイルまたはループを連続して設置し、常時車上に給電を行い走行する。
【0020】
(ii) ステーション方式:駅や給電ポイントに給電コイルを設置し、蓄電池等に充電を行って走行する。
【0021】
考え方としては、レール方式は非接触給電を使った電化であり、ステーション方式は、非電化区間の排ガスレス化と捉えられる。力行時の電力補助や回生電力吸収を考えると、レール方式・ステーション方式共に蓄電池等の車載は必須となる。
【0022】
図1は本発明の実施例を示す鉄道車両用非接触給電システムの模式図、図2はその側面図、図3はその要部断面図である。
【0023】
これらの図において、Aは軌道(地上配置)、1は高周波電源、2,2′は軌道Aに敷設される鉄道レール、3は鉄道レール2と2′間に配置される一回巻きの地上側の給電コイル(1次コイル:8の字コイル)、Bは地上側の給電コイル3の絶縁支持体、4は鉄道車両、5は鉄道車両4の車輪、6は鉄道車両4の底面に配置される車両側集電コイル(2次コイル:8の字コイル)、Cは車両側の集電コイル6の背面(車体底面と車両側の集電コイル6との間)に配置される背面磁性板(フェライト板)、7は車両側の集電コイル6に接続されるコンバータ、8はコンバータ7に接続される充電式電池(リチウムイオン蓄電池)である。
【0024】
なお、背面磁性板Cは鉄道車両4の底面に配置される種々の部材に対する磁気シールドとしてコイル回路を担保するために重要である。
【0025】
また、地上側の給電コイル3の絶縁支持体Bは軌道からの絶縁を確保するために重要である。
【0026】
これらの図に示すように、本発明では、レール方式の非接触給電システムとした。鉄道車両4は在来線狭軌の通勤近郊型電車を想定している。この鉄道車両4の電源構成は、リチウムイオン蓄電池8を搭載した試験車両の仕様を参考とした。すなわち、レール方式の非接触給電システムにより常時給電された電力を、力行時にはリチウムイオン蓄電池8から補助し、減速時にはそのリチウムイオン蓄電池8に回生して走行する。
【0027】
非接触給電システムの諸元としては、機械的な部分は在来線の車両限界を基準に算定し、電気的な部分はドイツのトランスラピッドの給電装置を参考とした。
【0028】
表1に非接触給電システムの概念設計例を示す。
【0029】
【表1】
より詳細に説明すると、列車は2車両を1セットとしている。給電コイルの出力電力は20kW/1コイル、地上側の給電コイル3と車上側の集電コイル6との間の間隔は75mm、給電コイルへの印加周波数は20kHz、コイル幅は600mmである。また、給電コイルの電流は200A, 巻回数は1回であり、一方、集電コイルの電流は60A、巻回数は20回である。なお、給電コイルへの印加周波数は、電波法に準拠して10kHz以下としても、出力は若干低減するが、システムとしては問題なく適用することができる。
【0030】
次に、問題となる鉄道レールの渦電流について説明する。
【0031】
ここでは、非線形動磁場解析の問題となる。レール進行方向については一様で無限長と見てよいため、2次元にて近似可能である。さらに、枕木方向については、車両−地上間で相対運動はなく、運動非連成である。
【0032】
解析コードには、A−φ法を用いた有限要素法であるフォトン社のEddyを使用した(上記非特許文献11参照)。
【0033】
図4は本発明の比較例を示す鉄道車両用非接触給電システムの模式図、図5は給電コイル及び集電コイルが8の字コイルである場合の解析モデル、図6は給電コイル及び集電コイルが矩形コイルである場合の解析モデルである。
【0034】
図4において、Aは軌道(地上配置)、11は高周波電源、12,12′は軌道Aに敷設される鉄道レール、13は鉄道レール12と12′間に配置される一回巻きの地上側の給電コイル(1次コイル:矩形コイル)、Bは地上側の給電コイル13の絶縁支持体、14は鉄道車両、15は鉄道車両14の車輪、16は鉄道車両14の底面に配置される車両側の集電コイル(2次コイル:矩形コイル)、Cは車両側の集電コイル16の背面(車体底面と車両側の集電コイル16との間)に配置される背面磁性板(フェライト板)、17は車両側の集電コイル16に接続されるコンバータ、18はコンバータ17に接続される充電式電池(リチウムイオン蓄電池)である。
【0035】
図5において、21は軌道の中心線、22は鉄道レール、23は給電コイル(1次コイル:8の字コイル)、24は背面磁性板(フェライト)、25は背面磁性板24に取付けられる集電コイル(2次コイル:8の字コイル)である。
【0036】
図6において、31は軌道の中心線、32は鉄道レール、33は給電コイル(1次コイル:矩形コイル)、34は背面磁性板、35は背面磁性板34に取付けられる集電コイル(2次コイル:矩形コイル)である。
【0037】
漏れ磁束の影響を検討するため、8の字コイル(Null−flux mode)(図5)と矩形コイル(Normal−flux mode)(図6)のモデルを作成した。この解析では、x方向を枕木方向、y方向を天上方向、z方向をレール進行方向とした。
【0038】
モデルは対象性を考慮して、yz面に反対称境界条件(ベクトルポテンシャルの接線方向が0)、x,y方向の遠方に対称境界条件(ベクトルポテンシャルの法線方向が0)を指定した。
【0039】
扱う周波数が高いため、渦電流の流れる鉄道レール22,32の表面部分は、表皮厚以下になるように細かく要素分割を行った。
【0040】
図7は解析のため非線形計算に使用したB−Hカーブを示す図であり、□はフェライト、○は鉄を示している。
【0041】
以下解析結果を順を追って示す。解析結果の横軸は電流値であり、表1に示した定格電流を1とした。鉄道レールへの電磁的な影響ということで、単位長さ当たりの発熱量を評価対象とした。
【0042】
まず、線形解析にて近似可能であれば、計算時間を大幅に短縮できるため、非線形解析との比較を行った。
【0043】
図8は線形解析と非線形解析での計算結果を示す図である。ここで、□は非線形解析、○は線形解析を示している。
【0044】
図8を見ると、電流の大きな領域で線形解析と非線形解析との計算結果に大きな乖離が生じることがわかる。また、鉄道レール、背面磁性板ともに定格値付近でも飽和領域に達しており、非線形解析が必要であることがわかった。
【0045】
図9は給電コイル及び集電コイルが8の字コイルの場合の定格電流時の磁束密度分布を示す図、図10は給電コイル及び集電コイルが矩形コイルの場合の定格電流時の磁束密度分布を示す図である。
【0046】
図9においては、集電(2次)コイル25の背面磁性板24と、鉄道レール22の表面に磁束が集中している様子がわかる。表面の渦電流により磁界が遮蔽されて、鉄道レール22内部には磁束が侵入していないことも読み取れる。
【0047】
一般的に、図4に示した矩形コイル同士よりも、図1に示した8の字コイル同士の方が周囲への漏れ磁束が小さい構成が可能である。そのため、鉄道車両への非接触給電システムにおいて、8の字コイルの方が過電流を低減し、鉄道レールの発熱を抑えることができる。
【0048】
そこで、鉄道レールの発熱を抑える試みとして、給電コイル及び集電コイルが矩形コイルと8の字コイルの場合の比較を行った。
【0049】
図11は矩形コイルと8の字コイルの場合の数値解析の結果を示す図であり、横軸に給電(1次)コイル電流(規格化)、縦軸に発熱量〔W/m〕が示され、また、◇は矩形コイル、○は8の字コイルの結果を示している。
【0050】
8の字コイルの方が鉄道レールの発熱量は小さかった。現状の車両限界や建築限界を想定すると、8の字コイルにより鉄道レールへの影響をより小さく抑えることができる。
【0051】
図12は給電(1次)コイル電流のみ、集電(2次)コイル電流のみ通電した場合の解析結果を示す図である。ここで、◇は給電(1次)コイル電流、○は集電(2次)コイル電流を示している。
【0052】
給電(1次)コイルの方が、幾何学的には鉄道レールに近接しているため、鉄道レールに与える影響が大きいと考えられた。しかし、今回の諸元では、集電(2次)コイル電流のアンペアターンが大きいため、集電(2次)コイル電流の影響が大きいことがわかった。発熱量で比較すると、電流値の自乗に比例するため、このような結果となったと考えられる。
【0053】
図13は鉄道レールの導電率を変化させた場合の解析結果を示す図である。
【0054】
一般的な鉄の導電率である1×106 〜1×107 〔S/m〕の範囲内を解析したところ、1桁変化させても発熱量は4割程度の違いしか発生しなかった。
【0055】
図14は給電(1次)コイル電流の位相と集電(2次)コイル電流の位相を変化させた場合の解析結果を示す図である。
【0056】
給電(1次)コイル電流と集電(2次)コイル電流の位相差を変化させると劇的に変化するような点がある。一方、実際の非接触給電では共振現象を利用するため、大きな位相差変化はない。そのため、図14では位相差を5deg.変化させた場合の結果のみを示した。この程度の範囲内では、大きな変化が見られないことがわかる。
【0057】
以上の解析結果から次のことがわかった。
【0058】
(1)数10kW級の電力を得るためには、電流値が大きくなるため、磁性体の飽和領域となり、非線形解析が必要となる。
【0059】
(2)給電(1次)コイルの周波数が20kHzと高いため、漏れ磁束による渦電流は鉄道レール表面部に集中する。
【0060】
(3矩形コイルと8の字コイルでは、8の字コイルの方が鉄道レールへの影響は小さい。
【0061】
(4) 集電(2次)コイルのアンペアターンが大きいため、鉄道レールへの影響は給電(1次)コイルより集電(2次)コイルの影響の方が大きい。
【0062】
(5)鉄道レールの導電率や給電(1次)コイルと集電(2次)コイルの電流の位相差の変化では、鉄道レールへの影響には大きな違いが見られなかった。
【0063】
このように、本発明では、地上側に給電コイル、車上側に集電コイルを設置することにより、鉄道車両への非接触給電を行うようにした。このとき鉄道では従来車両や設備との互換性が重視されるため、土木設備の大幅な変更は考えられない。
【0064】
ここでは、その鉄道レールへの電磁的な影響を抑えるため、鉄道レールの発熱量を評価対象として、コイル構成や物性値等を変化させ、有限要素法による電磁場解析により計算を行った。
【0065】
その結果、コイル構成を8の字形状にすることにより漏れ磁束による鉄道レール発熱が低減できることがわかった。
【0066】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の鉄道車両用非接触給電システムは、従来の設備や車両を変更することなく適用できる鉄道車両用非接触給電システムとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施例を示す鉄道車両用非接触給電システムの模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す鉄道車両用非接触給電システムの側面図である。
【図3】本発明の実施例を示す鉄道車両用非接触給電システムの要部断面図である。
【図4】本発明の比較例を示す鉄道車両用非接触給電システムの模式図である。
【図5】給電コイル及び集電コイルが8の字コイルである場合の解析モデルである。
【図6】給電コイル及び集電コイルが矩形コイルである場合の解析モデルである。
【図7】解析のためのB−Hカーブを示す図である。
【図8】線形解析と非線形解析での計算結果を示す図である。
【図9】給電コイル及び集電コイルが8の字コイルの場合の定格電流時の磁束密度分布を示す図である。
【図10】給電コイル及び集電コイルが矩形コイルの場合の定格電流時の磁束密度分布を示す図である。
【図11】矩形コイルと8の字コイルの場合の数値解析の結果を示す図である。
【図12】給電(1次)コイル電流のみ、集電(2次)コイル電流のみ通電した場合の解析結果を示す図である。
【図13】鉄道レールの導電率を変化させた場合の解析結果を示す図である。
【図14】給電(1次)コイル電流の位相と集電(2次)コイル電流の位相を変化させた場合の解析結果を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
A 軌道
1,11 高周波電源
2,2′,12,12′,22,32 鉄道レール
B 絶縁支持体
3,23 給電コイル(1次コイル:8の字コイル)
C,24,34 背面磁性体板
4,14 鉄道車両
5,15 鉄道車両の車輪
6,25 集電コイル(2次コイル:8の字コイル)
7,17 コンバータ
8,18 充電式電池(リチウムイオン蓄電池)
13,33 給電コイル(1次コイル:矩形コイル)
16,35 集電コイル(2次コイル:矩形コイル)
21,31 軌道の中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)軌道上に敷設される鉄道レール間に配置され、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される給電コイルと、
(b)該給電コイルに給電する高周波電源と、
(c)前記鉄道レールを走行する車両の底部に配置され、走行時に前記給電コイルに対向し、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される集電コイルと、
(d)該集電コイルに接続されるコンバータと、
(e)該コンバータに接続される充電式電池とを備え、
(f)前記給電コイルに対する前記集電コイルの相対的移動による前記集電コイルからの出力を前記充電式電池に充電するようにしたことを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記給電コイルは絶縁支持板を、前記集電コイルの背面と前記車両の底部間には背面磁性体板を配置することを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記給電コイル及び前記集電コイルは8の字コイルであることを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記高周波電源は20kHzオーダーの高周波電源であることを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項5】
請求項1又は2記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記充電式電池はリチウムイオン蓄電池であることを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項1】
(a)軌道上に敷設される鉄道レール間に配置され、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される給電コイルと、
(b)該給電コイルに給電する高周波電源と、
(c)前記鉄道レールを走行する車両の底部に配置され、走行時に前記給電コイルに対向し、前記鉄道レールへの磁気的影響が低減される集電コイルと、
(d)該集電コイルに接続されるコンバータと、
(e)該コンバータに接続される充電式電池とを備え、
(f)前記給電コイルに対する前記集電コイルの相対的移動による前記集電コイルからの出力を前記充電式電池に充電するようにしたことを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記給電コイルは絶縁支持板を、前記集電コイルの背面と前記車両の底部間には背面磁性体板を配置することを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記給電コイル及び前記集電コイルは8の字コイルであることを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項4】
請求項1又は2記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記高周波電源は20kHzオーダーの高周波電源であることを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【請求項5】
請求項1又は2記載の鉄道車両用非接触給電システムにおいて、前記充電式電池はリチウムイオン蓄電池であることを特徴とする鉄道車両用非接触給電システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−125974(P2010−125974A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−302386(P2008−302386)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
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