説明

鍵盤楽器及び交換部品

【課題】鍵盤楽器の音質を質量の相違を利用して調整できるようにする。
【解決手段】ピアノ100は、脚部10aと、この脚部10aと交換可能であって質量の異なる脚部10bと備える。ユーザは、脚部10aと脚部10bとを交換することによって、ピアノ100の総質量を調整することができる。ピアノ100の脚部から床に対する荷重が変わると音質にも変化が生じるから、脚部を交換することにより、ピアノ100の音質を、質量の相違を利用して調整できるようにすることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤楽器及び交換部品の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばピアノなどの鍵盤楽器では、そのフレームにおいて共鳴現象が発生することがある。この共鳴現象は、時により、かなり耳障りとなり、演奏者にとっても気になるものであるため、発生しないほうが望ましい。これに対して、特許文献1には、錘を取り付けるための凹部が形成されたピアノフレームにより、美観を損なうことなくフレームの共鳴現象の防止を図る技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−57691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に、ピアノなどの鍵盤楽器において、全体の質量がその音質に影響することが知られている。そのため、ピアノの質量を変化させればピアノの響きを変化させることが可能である。このようなピアノの質量の変化による響きの変化を積極的に利用することで、鍵盤楽器の音質の調整が可能であると、ユーザは、自らの所望する音質で鍵盤楽器を演奏できるため、高い満足感を得ることができる。しかし、ユーザがピアノの質量を調整できる機構を持ったピアノは従来なく、上述した技術を用いてもフレームの共鳴を防ぐ程度であり、自由にピアノの質量を調整することはできなかった。
【0005】
本発明は上述の背景に鑑みてなされたものであり、鍵盤楽器の音質を質量の相違を利用して調整できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、鍵盤が設けられた胴体部であって、当該胴体部に接続される部品を有する胴体部と、前記部品と機能が同じで質量が異なり、前記胴体部において前記部品と交換可能な交換部品とを備えることを特徴とする鍵盤楽器を提供する。
【0007】
好ましい態様において、1以上の錘を備え、前記錘を着脱する機構が前記交換部品に設けられていることを特徴とする。
【0008】
また、別の好ましい態様において、前記交換部品に設けられた前記錘を着脱する機構の位置と当該機構に着脱する錘の質量とが、当該機構に当該錘を着脱した前後で、当該鍵盤楽器を上方からみたときの重心の位置が変わらないような位置と質量であることを特徴とする。
【0009】
また、別の好ましい態様において、前記部品は、前記胴体部が上部に有する開口部に取り付けられて開閉される第1の屋根と、前記第1の屋根以外の部品群とを含み、前記交換部品は、前記第1の屋根に代えて前記開口部に取り付けられて開閉され、前記第1の屋根とは質量が異なる第2の屋根と、前記部品群に含まれる部品の各々と機能が同じで質量が異なる前記交換部品であって、前記胴体部において前記部品と交換可能な前記第2の屋根以外の交換部品群とを含み、前記第1の屋根と前記第2の屋根との質量の差が、前記部品群と前記交換部品群との質量の差と同じか、又は近似していることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、鍵が設けられた胴体部と、前記胴体部に接続される部品とを備える鍵盤楽器における当該部品と交換可能な前記鍵盤楽器の交換部品であって、前記部品と機能が同じで質量が異なることを特徴とする鍵盤楽器の交換部品を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鍵盤楽器の音質を質量の相違を利用して調整できるようにすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ピアノの外観を示す図
【図2】図1中の矢視I−Iからピアノを見た断面図
【図3】変形例1におけるヒンジを表す断面図
【図4】変形例1におけるヒンジを表す断面図
【図5】変形例1における突上棒を表す断面図
【図6】変形例1における屋根を表す断面図
【図7】変形例2における脚部を表す図
【図8】変形例2におけるヒンジを表す断面図
【図9】変形例2における突上棒を表す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
以下に、図面を参照しながら本発明における実施形態について説明する。図1(a)は、鍵盤楽器の一例であるピアノ100の外観を示す図である。ピアノ100は、脚部10aが3本で1セットとなった脚部群10A、胴体部20、屋根30及び鍵盤40を備える。脚部群10Aは、胴体部20を支持することによりピアノ100を支える。脚部10aからなる脚部群10A及び屋根30は、胴体部に接続される部品の一例である。脚部10aは、キャスターを有し、ピアノ100を支持する。キャスターによって、ピアノ100は移動可能となっている。脚部10aは、胴体部20とネジ止めなどの方法により接続されており、ネジが弛められることによって胴体部20から分離可能である。
【0014】
胴体部20は、その上部に開口部21を有するほか、側板22、ヒンジ23、突上棒24及び響板25を備える。側板22は、胴体部20の側方の外周を構成し、響板25は胴体部20の底部を構成する。側板22及び響板25によって形成される収容空間に、鍵盤40の押下に応じて弦を打つ打弦機構(図示略)が収容されている。屋根30は、ヒンジ23によって胴体部20と接続されており、開口部21において開閉可能に設けられている。突上棒24は、その一端がヒンジ(非図示)によって胴体部20に対して可動式で接続されており、屋根30が開かれた状態において、屋根30に設けられた屋根皿31にその他端を突き当てることで屋根30が予め決められた角度で開かれた状態となるように支持する。ヒンジ23及び突上棒24は、胴体部に接続される部品の一例である。鍵盤40は、胴体部20の側部に設けられており、多数の鍵から形成されている。
【0015】
図1(a)では、脚部10aが3本で1セットとなった脚部群10Aを図示しているが、上述したように、この脚部10aは胴体部20に対して着脱可能であり、図1(b)に示すように、脚部10bが3本で1セットとなった脚部群10bが用意されている。この脚部10bは、ピアノ100の部品の種類としては脚部10aと同じものであるが、その質量が脚部10aとは異なる。脚部10bは、脚部10aと同様に、キャスターを有する。また、脚部10bは、脚部10aと同様に、胴体部20とネジ止めなどの方法により接続され、ネジが弛められることによって胴体部20から分離可能である。これにより、脚部10aと脚部10bとは交換可能となっている。ここで、脚部10aと脚部10bとは、材質が同じ、すなわち比重が同じである。図1(a)及び図1(b)に示すように、脚部10bは、脚部10aと比較して、胴体部20に近づくにつれて太くなっている。つまり、脚部10bは、脚部10aよりも体積が大きいから、脚部10aは、脚部10よりも質量が大きい。
【0016】
このように、ピアノ100は胴体部20に接続される部品と種類が同じで質量が異なり、胴体部20において上記部品と交換可能な交換部品を備えている。なお、部品の種類が同じとは、ピアノ100において機能が同じであることをいう。つまり、脚部群の場合、その機能は、胴体部20を支持することによりピアノ100を支えることである。ここで、或る部品とこの部品の交換部品とは、交換前後において同じ位置に同じ接続方法で接続される。つまり、脚部10a及び脚部10bの場合、交換前後において、同じ位置に、ネジ止めにより接続される。また、部品が交換される前後においてともに、鍵盤の押下に応じて発する音の振動は、胴体部20と胴体部20に接続される部品(交換部品含む)とに伝達される。
【0017】
前述したように、ピアノ100などの鍵盤楽器において、全体の質量がその音質に影響することが知られている。その理由の一つとして、ピアノ100と床はピアノ100の脚を介して連成系を構成していることが挙げられ、連成系を構成する要素のいずれかを変化させれば、全体の響きが変化する。従って、ピアノ100の質量を変化させ、連成系を変化させればピアノ100の響きが変化し音質を変化させることが可能である。本実施形態では、ピアノ100が、脚部10aと、脚部10aより質量が大きい脚部10bとを備えており、脚部10aと脚部10bとが交換可能であるから、ユーザはピアノ100の総質量を変更することができる。したがって、本実施形態によれば、ピアノ100のような鍵盤楽器の音質を、質量の相違を利用して調整できるようにすることが可能となる。このとき、同じような効果を狙うためにピアノ100においてフレームを交換する場合と比較して、胴体部20に対して接続されている部品を交換するだけでよいため、交換するための作業の手間が少なくて済む。
【0018】
<変形例>
以上の実施形態は次のように変形可能である。尚、変形例は適宜組み合わせて実施してもよい。
【0019】
(変形例1)
胴体部20に接続される部品と機能が同じで質量が異なる交換可能な交換部品は、脚部群10Bではなく、例えば、ヒンジ、突上棒又は屋根であってもよい。以下では、まずヒンジの例について説明する。
図2は、図1中の矢視I−Iからピアノ100を見た断面図である。図2において、胴体部20は、その外周を構成する側板22が開口部21に面する或る部分の上部において、ヒンジ23により屋根30と接続されている。ヒンジ23を構成するハネ上部231及びハネ下部232のうち、ハネ上部231が屋根30とネジ止めされ、ハネ下部232が側板22とネジ止めされている。ハネ上部231及びハネ下部232のネジが弛められることにより、ヒンジ23は、側板22及び屋根30と分離可能である。また、ハネ上部231のネジが弛められることにより、屋根30は、胴体部20から分離可能である。
【0020】
また、胴体部20の外周を構成する側板22のうち、ヒンジ23が設けられた或る部分と対向する位置にある他の部分において、ヒンジ26によって突上棒24が胴体部20に対して可動式で接続されている。また、突上棒24のうち、ヒンジ26が設けられていない一端が屋根皿31に突き当てられることにより、屋根30が支持されている。ヒンジ26においてネジが弛められることにより、突上棒24は、胴体部20と分離可能である。
【0021】
図3は、変形例1におけるヒンジ23aを表す断面図である。図3では、屋根30が、ヒンジ23aによって胴体部20と接続されるとともに、突上棒24によって支持されている状態が表されている。ヒンジ23aは、ヒンジ23と質量が異なるヒンジであって、ヒンジ23が側板22及び屋根30から分離されたときに、ヒンジ23に代えて側板22及び屋根30と接続されるヒンジである。つまり、ヒンジ23aは、ヒンジ23と交換可能なヒンジである。また、ヒンジ23aは、ヒンジ23と同様に、側板22及び屋根30とネジ止めなどの方法により接続されており、ネジが弛められることによって側板22及び屋根30から分離可能である。ここで、ヒンジ23とヒンジ23aとは、材質が同じ、すなわち比重が同じである。また、ヒンジ23及び23aの機能とは、屋根30を胴体部20に対して開閉可能に接続することである。
【0022】
図2及び図3に示すように、ヒンジ23aは、ヒンジ23と比較して、ハネ下部232aがハネ上部231aよりも厚みが大きい。つまり、ヒンジ23aは、ヒンジ23よりも体積が大きいから、ヒンジ23aは、ヒンジ23よりも質量が大きい。ここで、ハネ上部231aではなくハネ下部232aの厚みを大きくした理由は、以下の2点である。1点目の理由は、ハネ下部232aは、屋根30と接続されていない方のハネであるため、その厚みを大きくしても屋根30に対して重力方向にかかる外力が変わらず、屋根30を開閉するときの動作の負荷を増加させることがない、というメリットがあるためである。2点目の理由は、ハネ下部232aの厚みを大きくしても、ハネ上部231a及びハネ上部232aがぶつかり合って屋根30が最後まで閉じられないような事態を防ぐべく、ハネ上部231aの形状が複雑になることがないというメリットがあるためである。このようにしても、ピアノ100が、ヒンジ23と、ヒンジ23より質量が大きいヒンジ23aとを備え、ヒンジ23とヒンジ23aとが交換可能であることによって、ピアノ100の総質量が変更可能となり、実施形態と同様の効果を奏することが可能となる。なお、ヒンジ23又はヒンジ23aを屋根30及び胴体部20へ取り付ける箇所は、図2及び3等に示す箇所でなくてもよく、例えば胴体部20の上部にヒンジ23およびヒンジ23aが取り付けられてもよい。
【0023】
厚みを大きくする以外に、例えば次のようにして、ヒンジにおけるハネ上部よりもハネ下部の体積を大きくしてもよい。図4は、この変形例におけるヒンジ23bを表す正面図である。ヒンジ23bは、ヒンジ23及びヒンジ23aと交換可能なヒンジである。図4に示すように、ハネ上部231bよりもハネ下部232bは、正面から見て横方向(ヒンジ23bの駆動軸と平行な方向)に広い幅を持った形状となっており、ハネ下部232bの体積はハネ上部231bの体積よりも大きくなっている。ただし、ハネ上部231bとハネ下部232bの厚みは同じであるし、また、その材質も同じ、すなわち比重が同じである。つまり、ヒンジ23bにおいて、ハネ上部231bよりもハネ下部232bの体積が大きい分だけ、ヒンジ23bの質量が大きくなることになる。このようにしても、実施形態と同様の効果を奏することが可能となる。
【0024】
また、突上棒の厚みを大きくしてもよい。図5は、この変形例における突上棒24aを表す断面図である。図5では、屋根30が突上棒24aによって支持されている状態が表されている。突上棒24aは、突上棒24と質量が異なる突上棒であって、突上棒24が側板22から分離されたときに、突上棒24に代えてヒンジ26によって側板22と接続される突上棒である。つまり、突上棒24aは、突上棒24と交換可能な突上棒である。また、突上棒24aは、突上棒24と同様に、ヒンジ26によって例えばネジ止めなどの方法により側板22と接続されており、ネジが弛められることによって側板22から分離可能である。ここで、突上棒24と突上棒24aとは、材質が同じ、すなわち比重が同じである。また、突上棒24及び24aの機能とは、屋根30が予め決められた角度で開かれた状態が維持されるように屋根30を支持することである。
【0025】
図2及び図5に示すように、突上棒24aは、突上棒24と比較して、屋根皿31に突き当てられた一端よりもヒンジ26と接続された他端、すなわち側板22により近い側の方が、厚みが増している。つまり、突上棒24aは突上棒24よりも体積が大きいから、突上棒24aは、突上棒24よりも質量が大きい。図2に示した突上棒24が本発明における第1の突上棒に相当し、図5に示した突上棒24aは、本発明における第2の突上棒に相当する。ここで、図5に示すように、突上棒24aにおいて、その上方ではなく下方の体積を大きくする理由は、下方の体積が大きくなることに伴って突上棒を持ち上げるときの重心が下がることにより、ユーザが突上棒24aを上げ下げする動作が楽になるからである。このようにしても、実施形態と同様の効果を奏することが可能となる。
【0026】
また、屋根の厚みを大きくしてもよい。図6は、この変形例における屋根30aを表す断面図である。図6では、屋根30aが、ヒンジ23によって側板22と接続されるとともに、突上棒24によって支持されている状態が表されている。屋根30aは、屋根30と質量が異なる屋根であって、屋根30が側板22から分離されたときに、屋根30に代えてヒンジ23によって側板22と接続される屋根である。つまり、屋根30aは、屋根30と交換可能な屋根である。また、屋根30aは、屋根30と同様に、ヒンジ23においてネジが弛められることによって、側板22から分離可能である。ここで、屋根30と屋根30aとは、材質が同じ、すなわち比重が同じである。また、屋根30及び30aの機能とは、鍵盤40の押下に応じて弦が打たれたときに発する音を反響させるとともに、ピアノ100から発せられる音の反響の大きさや音の広がる方向を屋根の角度により調整することである。
【0027】
図2及び図6に示すように、屋根30aは、屋根30と比較して、開けられたときに側板22に近い側(つまりヒンジ23と接続されている側)が、開けられたときに側板22と遠い側(つまりヒンジ23と接続されていない側)と比べて厚みが増している。つまり屋根30aは屋根30よりも体積が大きいから、屋根30aは、屋根30よりも質量が大きい。図2に示した屋根30が本発明における第1の屋根に相当し、図6に示した屋根30aは、本発明における第2の屋根に相当する。ここで、屋根30aにおいて、ヒンジ23が接続されていない側ではなくヒンジ23が接続されている側の体積を大きくする理由は、これにより屋根30aを開くときの重心が下がり、ユーザが屋根30aを開閉する動作が楽になるからである。また、屋根30aにおいてヒンジ23が接続されている側の面の厚みを大きくし、それと比較して、その裏側にあたるヒンジ23が接続されていない側の面の厚みを小さくしてもよい。この場合も、屋根30aを開くときの重心が下がるから、ユーザが屋根30aを開閉する動作が楽になる。このようにしても、実施形態と同様の効果を奏することが可能となる。
【0028】
また、各部品において特定の部位の厚みを大きくする以外に、部品と交換部品との比重が異なるようにそれぞれの材質を異ならせてもよいし、交換部品において特定の部位とその他の部位との比重が異なるように材質を異ならせてもよい。要するに、機能が同じ部品及び交換部品の質量がそれぞれ異なればよい。例えば、脚部の場合、脚部10aと脚部10bとにおいて比重が異なる材質をそれぞれに用いればよい。例えば、交換部品のヒンジにおいて、ハネ下部の材質とハネ上部の材質との比重を異ならせても良い。また、例えば、交換部品の突上棒において、ヒンジ26と接続される側の一端の材質と他端の材質との比重を異ならせてもよい。このような突上棒は、本発明における第2の突上棒に相当する。また、例えば交換部品の屋根において、ヒンジ23と接続される側の一端の材質と他端の材質との比重を異ならせても良い。このような屋根は、本発明における第2の屋根に相当する。これらの場合、交換部品であるヒンジ、突上棒及び屋根において、その強度を保つことができる範囲内で、下方の材質と上方の材質との比重が異なればよい。
【0029】
ここで、銅の比重>アルミニウムの比重であるから、例えば交換部品のヒンジにおいて、ハネ下部の材質に銅を用い、ハネ上部の材質にアルミニウムを用いるといった具合である。また、カシの比重>スプルースの比重であるから、例えば交換部品の突上棒において、ヒンジ26と接続される側の一端の材質にカシを用い、他端の材質にスプルースを用いるといった具合である。このようにすれば、実施形態と同様の効果を奏するとともに、ピアノ100の総質量を大きくするだけでなく、小さくすることも可能となるから、調整可能な音質の幅がより広いものとなる。
【0030】
(変形例2)
実施形態及び変形例1において部品の交換が行われるにあたり、交換部品が着脱可能な錘を備えることにより、ピアノ100の質量をさらに調整可能としてもよい。
図7は、変形例2における脚部10cを表す図である。脚部10cは、脚部10aと同様に、キャスター11を有し、ピアノ100を支持する。キャスター11によって、ピアノ100は移動可能となっている。また、脚部10cは、例えば、胴体部20を支持する箇所とキャスター11に近い箇所との間の側面に、溝12を有している。そして溝12には、錘13がボルト及びナット14によって取り付けられている。錘13は、例えば図に示すようなプレート形状をしており、その材質には、例えば、真鍮、銅、ステンレスなどが用いられる。ここで、錘13における幅方向の長さ及び高さ方向の長さは、溝12における幅方向の長さ及び高さ方向の長さに収まるものであり、錘13の厚みは、溝12の深さに収まるものである。つまり、錘13の形状及び大きさは、溝12の形状及び大きさに合わせたものとなる。ボルト及びナット14が互いに締められたり弛められたりすることで、錘13はピアノ100に対して着脱可能である。
【0031】
ここで、ピアノ10において脚部10cは複数あるから、ピアノ100に対して錘13を複数取り付けることが可能である。このとき、錘13は、各々が異なる質量でもよい。また、一本の脚部10cにおいて、複数箇所に錘13が取り付けられてもよい。このようにしても、ピアノ100の総質量を変更可能であるから、実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0032】
ヒンジに錘が取り付けられてもよい。図8は、この変形例におけるヒンジ23cを表す正面図である。ハネ上部231c及びハネ下部232cには、ヒンジ23cを屋根30及び胴体部20に固定するためのネジ孔233cが複数設けられている。ハネ下部232cは、例えば図に示すような、ネジ孔233cに囲まれた領域に、溝234cを有している。そして、溝234cには、錘235cがボルト・ナット236cによって取り付けられている。錘235cにおける幅方向の長さ及び高さ方向の長さは、溝234cにおける幅方向の長さ及び高さ方向の長さに収まるものであり、錘235cの厚みは、溝234cの深さに収まるものである。つまり、錘235cの形状及び大きさは、溝234cの形状及び大きさに合わせたものとなる。ボルト・ナット236cが締められたり弛められたりすることで、錘235cはピアノ100に対して着脱可能である。
【0033】
ここで、胴体部20にはヒンジ23cが複数備えられているから、ピアノ100において錘235cを複数取り付けることが可能である。このとき、錘235cは、各々が異なる質量でもよい。また、一のヒンジ23cにおいて、複数箇所に錘235cが取り付けられてもよい。このようにしても、実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0034】
また、突上棒に錘が取り付けられてもよい。図9は、この変形例における突上棒24bを表す断面図である。図9では、屋根30が突上棒24bによって支持されている状態が表されている。突上棒24bは、例えば図11に示すように、屋根30と対向する側であって、ヒンジ26と接続されている方の一端における側面に溝241bを有している。そして、溝241bには、錘242bがボルト及びナット243bによって取り付けられている。錘242bにおける幅方向の長さ及び高さ方向の長さは、溝241bにおける幅方向の長さ及び高さ方向の長さに収まるものであり、錘242bの厚みは、溝241bの深さに収まるものである。つまり、錘242bの形状及び大きさは、溝241bの形状及び大きさに合わせたものとなる。ボルト及びナット243bが締められたり弛められたりすることで、錘242bはピアノ100に対して着脱可能である。
【0035】
図9に示すように、突上棒24bにおいて、その上方ではなく下方に錘が取り付けられる理由は、下方の質量が大きくなることに伴って突上棒を上げるときの重心が下がることにより、ユーザが突上棒24bを上げ下げする動作が楽になるからである。ここで、突上棒24bにおいて、各々が異なる質量である複数の錘242bのうちいずれかが取り付けられてもよい。また、突上棒24bにおいて、複数箇所に錘242bが取り付けられてもよい。このようにしても、実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0036】
また、これまでに述べた錘とは、ピアノ100の構造のうち、装飾に相当するものでもなく、また、従来のピアノにおいて楽器としての機能を司るものでもない部分であって、ピアノ100の質量を増加するために機能する部分を指す。また、着脱式の機構は、上述したボルト及び・ナットによるものに限らず、例えば、溝の縁に設けられた爪により錘が引っ掛けられる構成としてもよいし、溝の一方の縁から他方の縁へ掛け渡された面ファスナーなどにより錘を固定する構成としてもよい。また、胴体部20のうち側板22は、脚部やヒンジや突上棒に比べると、音が響く度合いが大きい部位である。この変形例では、このような部位である側板22に錘が取り付けられることがないため、錘により振動が阻害されるような音質的な影響を受けることを避けることができる。
【0037】
(変形例3)
屋根30と突上棒24とのうち少なくともいずれかを軽量化し、軽量化によって小さくなった質量と同じだけの質量をピアノ100に付加するようにしてもよい。例えば、屋根が軽量化されると、それに伴って屋根の強度が失われやすいという問題があるが、これに対しては、屋根の芯材に例えばコウリャンの乾燥茎からなる積層板を用いる。屋根の芯材にこのような積層板を用いると、スプルース、カエデ、ブナ等の通常用いられる木材と比較して、強度を維持したまま質量を軽くすることが可能なことが知られている。このように軽量化が行われることで、ピアノ100においてユーザが屋根を開閉する動作の負荷は、軽量化が行われない場合と比較して小さくなる。また、同様の軽量化が突上棒24に対して施されると、ピアノ100においてユーザが突上棒を上げ下げする動作の負荷は、軽量化が行われない場合と比較して小さくなる。このような軽量化が行われた屋根は、本発明における第2の屋根に相当する。また、このような軽量化が行われた突上棒は、本発明における第2の突上棒に相当する。
【0038】
前述したように、一般的に、ピアノにおいて、全体の質量がその音質に影響することが知られているから、屋根の質量が軽量化されると、軽量化された質量に応じてピアノの音質は変化することとなる。これに対して、軽量化前と同じ音質を確保するために、以下のような方法を用いる。変形例3においてピアノ100に付加される総質量(付加総質量という)Mは、軽量化前の屋根30及び突上棒24の質量をR0、軽量化後の屋根及び突上棒の質量をR1とすると、以下の式(1)で表される。
M≒R0−R1・・・(1)
ここで、付加総質量Mが、上記式を満たすように、質量のより大きい脚部10b、ヒンジ23a,23b、突上棒24a又は屋根30aが取り付けられればよい。また、付加総質量Mが、上記式を満たすように、脚部10c、ヒンジ23c又は突上棒24bに錘が取り付けられればよい。また、上記式(1)において左辺と右辺とが完全一致しなくても近似していればよい。ここでいう近似とは左辺と右辺との差が予め決められた範囲内に収まる場合のことであり、その範囲の大きさは、軽量化の前後でピアノ100の音質の違いが予め決められた範囲内に収まるような大きさである。この大きさは、ピアノ100の設計において予め求められればよい。
【0039】
また、付加総質量Mは、上述した式(1)で表されるものに限らず、屋根30及び突上棒24が軽量化された質量以上であってもよいし、以下であってもよく、例えば、錘の個数や1個当たりの錘の質量を変えることで調整可能としてもよい。
【0040】
このようにすれば、屋根および突上棒が軽量化されたときに、屋根を開閉する動作や突上棒を上げ下げする動作の負荷を小さくしながら、ピアノ100において軽量化前と同じような音質が得られるように調整することが可能となる。さらに、付加総質量Mを、屋根30及び突上棒24が軽量化された質量より大きくすることで、ピアノ100の音質をより重厚なものとしたり、付加総質量Mを、屋根30及び突上棒24が軽量化された質量より小さくすることで、ピアノ100の音質を軽いものとしたりというように、ピアノ100の音質を質量の相違を利用して調整できるようにすることが可能となる。
【0041】
(変形例4)
脚部を構成する複数の脚の各々にかかる重さの比率が変わらないようにすることで、演奏音の聞こえ方のバランスを保つようにしてもよい。ここで、演奏音の聞こえ方のバランスを保つとは、ピアノ100の周囲における各位置ごとの演奏音の聞こえ方について、バランスが変わらないことをいう。ピアノ100において、上方からみた重心の位置が変わると、脚部の各々に対する荷重が変化する。ここでいう上方からみた重心の位置とは、ピアノ100が置かれている設置面に垂直な方向からみたときの重心の位置ということである。例えば、3本の脚部10aをそれぞれ脚A、B及びCという表記で区別するときに、部品交換や錘などに起因して上方からみた重心の位置が変わることで例えば脚Aに対する荷重が小さくなった場合、これに応じて脚B及びCに対する荷重は大きくなる。このとき、脚Aから床に対する荷重も小さくなるため、脚Aが接続された箇所の胴体部20における共鳴音の音質は、脚B及びCが接続された箇所の胴体部20における共鳴音の音質よりも軽いものとなる。一方、脚B及びCから床に対する荷重は大きくなるため、脚B及びCが接続された箇所の胴体部20における共鳴音の音質は、脚Aが接続された箇所の胴体部20における共鳴音の音質よりも重く迫力のあるものとなる。このように、各々の脚部にかかる荷重の比率が変わると、ピアノ100の周囲における各位置ごとの演奏音の聞こえ方のバランスが変わってしまう。
【0042】
これに対して、例えば、ピアノ100において上方からみた重心の位置が変わらなければ、ピアノ100の総質量に変化が生じても、脚部の各々にかかる重さの比率は変わらない。従って、上方からみた重心の位置が変わらないように、脚部10a、ヒンジ23、突上棒24又は屋根30を質量の異なるものに取りかえたり、あるいは、錘を取り付けたりすればよい。錘の取り付け方、すなわち変形例2で説明した錘を着脱する機構の位置や、着脱する錘の質量、そして脚部10a、ヒンジ23、突上棒24又は屋根30をどれだけ質量の異なるものに取りかえるかは、予めピアノ100の設計時において、設計者が、コンピュータなどを用いてシミュレートを行うことで算出すればよい。錘を用いた具体例としては、まずピアノ100を多数のメッシュ部分に分割し、これらのメッシュ部分の質量と位置に基づいて、ピアノ100の重心の位置を求める。次に、錘を着脱する機構の各位置とこの機構に着脱する各錘の質量として、この機構にこの錘を着脱した前後で、ピアノの重心の位置が変わらないような位置と質量とを求める。重心の位置は、ピアノ100を構成する各部位の位置および質量の関数で表される。よって、この関数を用い、重心の位置を不変として、錘を着脱する機構の位置とこの該機構に着脱する錘の質量とを決めればよい。このようにすれば、ピアノ100の総質量を変更して音質を調整したときに、ピアノ100の周囲における各位置ごとの演奏音の聞こえ方についてバランスを保つことが可能となる。
【0043】
(変形例5)
鍵盤楽器は、ピアノ100に限らず、例えば響板のような音波放射体を備える電子鍵盤楽器であってもよい。この場合、電子鍵盤楽器は、例えば、鍵盤の押下に応じて記憶手段に記憶された音源に基づく音をスピーカーなどの放音手段から放音する。ここで、音波放射体として機能する響板は、例えばスピーカーを覆うように構成されている。そして放音手段から放たれた音が、響板により放射される。このような電子鍵盤楽器の場合でも、部品が交換される前後においてともに、放射される音の振動は、胴体部と胴体部に接続される部品とに伝達される。従って、上述した方法のいずれかを用いて、このような電子楽器の総質量を変更した場合であっても、実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
10a,10b,10c…脚部、10A,10B…脚部群、11…キャスター、12,234c,241b…溝、13,235c,242b…錘、14,236c,243b…ボルト及びナット、20…胴体部、21…開口部、22…側板、23,23a,23b,23c,26…ヒンジ、231a,231b,231c…ハネ上部、232a,232b,232c…ハネ下部、233b,233c…ネジ孔、24,24a,24b…突上棒、25…響板、30,30a…屋根、31…屋根皿、40…鍵盤、100…ピアノ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍵盤が設けられた胴体部であって、当該胴体部に接続される部品を有する胴体部と、
前記部品と機能が同じで質量が異なり、前記胴体部において前記部品と交換可能な交換部品と
を備えることを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
1以上の錘を備え、
前記錘を着脱する機構が前記交換部品に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項3】
前記交換部品に設けられた前記錘を着脱する機構の位置と当該機構に着脱する錘の質量とが、当該機構に当該錘を着脱した前後で、当該鍵盤楽器を上方からみたときの重心の位置が変わらないような位置と質量である
ことを特徴とする請求項2に記載の鍵盤楽器。
【請求項4】
前記部品は、
前記胴体部が上部に有する開口部に取り付けられて開閉される第1の屋根と、
前記第1の屋根以外の部品群と
を含み、
前記交換部品は、
前記第1の屋根に代えて前記開口部に取り付けられて開閉され、前記第1の屋根とは質量が異なる第2の屋根と、
前記部品群に含まれる部品の各々と機能が同じで質量が異なる前記交換部品であって、前記胴体部において前記部品と交換可能な前記第2の屋根以外の交換部品群と
を含み、
前記第1の屋根と前記第2の屋根との質量の差が、前記部品群と前記交換部品群との質量の差と同じか、又は近似している
ことを特徴とする請求項1に記載の鍵盤楽器。
【請求項5】
鍵が設けられた胴体部と前記胴体部に接続される部品とを備える鍵盤楽器における当該部品と交換可能な前記鍵盤楽器の交換部品であって、
前記部品と機能が同じで質量が異なる
ことを特徴とする鍵盤楽器の交換部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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