説明

鎮静および睡眠促進剤

【課題】 本発明は、魚介類の抽出物を含有する睡眠促進剤および鎮静剤、並びに睡眠促進作用および鎮静作用を有する食品を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明者らは、魚介類の抽出物が生理作用に及ぼす効果に注目し、研究を重ねた結果、魚介類の抽出物が睡眠を延長する作用を有することを見いだし、さらに魚介類の抽出物が鎮静作用を有することを見いだし、本発明に想到した。すなわち、本発明は、魚介類抽出物を含有する睡眠促進剤および鎮静剤を提供する。また、本発明は、オキアミ抽出物を含有する睡眠促進剤および鎮静剤を提供する。また、本発明は、トリグリセリドまたはリン脂質を含有する睡眠促進剤および鎮静剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の抽出物を含有する睡眠促進剤および鎮静剤に関する。また、本発明は、睡眠促進作用および鎮静作用を有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
魚介類の抽出物は、生体に対して種々の作用を有することが知られており、多くの魚介類の抽出物について、その生体にける効果が研究されてきた。たとえば、魚介類の抽出物は、レプチンの分泌を促進することが知られている(特許文献1)。このレプチンの分泌を促進する抽出物は、脂肪細胞からのレプチン分泌量を増加させることにより、摂取カロリーを抑制し、糖および脂質の代謝を活性化させる。したがって、摂取カロリー過多およびカロリー消費低下に伴う肥満を抑制することができ、高血圧、糖尿病、高脂血症などのメタボリックシンドロームに対する予防および治療に役立つ。
【0003】
また、魚介類由来のタンパク質が、アンジオテンシン変換を阻害する効果を有することが知られている(特許文献2)。各種分解酵素で分解されたオキアミタンパク質に由来するペプチドが、アンジオテンシンI転換酵素(ACE)阻害活性を有していることが記載されている。
【0004】
また、魚介類由来のタンパク質は、脂質代謝を改善することが知られている。たとえば、魚介類由来のタンパク質が、血中コレステロール低下効果を有することが記載されている(特許文献3)。
【0005】
一方、近年、睡眠持続障害および不睡症などの患者が増加しつつあり、大きな社会問題となっている。そして、これらの疾患と中枢神経系の関係についての研究が盛んに行われており、種々の物質が睡眠作用に影響を及ぼすことが知られている。たとえば、内因性のウリジン誘導体が睡眠作用を有することが知られている(特許文献4)。
【0006】
また、カルノシンを中心とするヒスチジン関連ジペプチドは、睡眠を延長する効果を有することが知られており、ヒスチジンとヒスチジン誘導体の少なくとも一方を含むジペプチドを有効成分とする睡眠補助剤が記載されている(特許文献5)。
【0007】
その他、グリシンの服用により、いびきの発生が抑制されることが知られている(特許文献6)。さらに、グリシンは、睡眠時無呼吸を抑制し、睡眠時無呼吸による動脈血酸素飽和度低下を抑制することが記載されており、グリシン受容体に対してアゴニスト作用を有する化合物を有効成分とするいびきまたは睡眠時の呼吸障害の予防・治療剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-239500号公報
【特許文献2】特開2010-024165号公報
【特許文献3】特開2010-95456号公報
【特許文献4】特開平5-59087号公報
【特許文献5】特開2008-088162号公報
【特許文献6】特開2006-191933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、魚介類の抽出物を含有する睡眠促進剤および鎮静剤を提供することを目的とする。また、本発明は、睡眠促進作用および鎮静作用を有する食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、魚介類の抽出物が生理作用に及ぼす効果に注目し、研究を重ねた結果、魚介類の抽出物が睡眠を延長する作用を有することを見いだした。さらに、魚介類の抽出物が鎮静作用を有することを見いだし、本発明に想到した。
【0011】
すなわち、本発明は、魚介類抽出物を含有する鎮静および睡眠促進剤を提供する。
【0012】
また、本発明は、魚介類抽出物がオキアミ抽出物である、上記睡眠促進剤を提供する。
【0013】
また、本発明は、魚介類抽出物が魚介類由来のトリグリセリド、リン脂質、あるいはそれらを含有する画分である、上記睡眠促進剤を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含有する鎮静および睡眠促進剤を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含有し、睡眠促進作用または鎮静作用を有する旨の表示を付した食品(機能性食品)を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、睡眠促進作用または鎮静作用を有する旨の表示を付した食品を製造するための、魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸の使用を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含有する食品を、前記食品が睡眠促進作用または鎮静作用を有することを記載した説明書と共にパッケージした製品を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の魚介類抽出物を含有する睡眠促進剤および食品は、睡眠を延長する作用を有するため、睡眠を改善することができる。また、本発明の魚介類抽出物を含有する睡眠促進剤および食品は、鎮静作用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】オキアミ抽出物がペントバルビタール睡眠延長に及ぼす影響を示す図。
【図2】オキアミ抽出物がペントバルビタール睡眠延長に及ぼす影響の用量依存性を示す図。
【図3】レシチンがペントバルビタール睡眠延長に及ぼす影響を示す図。
【図4】オキアミ抽出物が自発運動量に及ぼす影響を示す図。
【図5】オキアミ抽出物の体温下降作用を示す図。
【図6】ホスファチジルセリン画分K-PSおよびホスファチジルコリン画分K-PCがペントバルビタール睡眠延長に及ぼす影響を示す図。
【図7】ホスファチジルセリン画分K-PSおよびホスファチジルコリン画分K-PCが自発運動量に及ぼす影響を示す図。
【図8】LPCE、EPAおよびDHAがペントバルビタール睡眠延長に及ぼす影響を示す図。
【図9】LPCE、EPAおよびDHAが自発運動量に及ぼす影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の鎮静および睡眠促進剤について説明する。本発明の鎮静および睡眠促進剤は、魚介類抽出物を含む。魚介類抽出物は、任意の魚介類に由来する抽出物であることができる。たとえば、オキアミ目に属する甲殻類、オキアミ、特にナンキョクオキアミ(Euphausia superba)に由来する抽出物であることができる。また、魚介類は、生、ムキミ、スリミ、凍結物、乾燥物および凍結乾燥物などの種々の状態の魚介類を使用することができる。
【0021】
魚介類抽出物は、任意の方法で魚介類から抽出することができる。たとえば、下記の実施例に示したように、魚介類を加熱して、遠心分離によって脂溶性画分、水溶性画分および固体に分離する。このとき脂溶性画分は、通常トリグリセリド含量が高い。また、水溶性画分を、さらに有機溶媒等と混合して遠心分離すると、通常リン脂質含量が高い画分が得られる。たとえば、オキアミを上記手順で処理した場合、脂溶性画分として、約90%がトリグリセリドである画分を得ることができる。また、有機溶媒画分として、約80%がリン脂質である画分を得ることができる。
【0022】
より詳細には、本発明に使用するオキアミ油は、上記の特性を有する限りいずれの方法で製造してもよく、たとえば国際公開第2010/035749号および国際公開第2010/035750号に記載された公知の方法を参照して製造することができる。少なくとも、国際公開第2010/035749A1号および国際公開第2010/035750A1号に記載された方法によって製造される脂質は、本発明のオキアミ油として好ましく用いることができる。オキアミ油は、たとえば、オキアミ由来の原料としての固形分から適切な有機溶媒で抽出することによって得ることができる。適切な有機溶媒としては、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコールもしくはブチレングリコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、トルエン、ペンタン、ヘキサンまたはシクロヘキサン等の単独または2種以上の組み合わせであり、好ましくはエタノールまたはヘキサン−エタノール混液である。その際、溶媒の混合比および原料と溶媒の比率は、任意に設定してもよい。
【0023】
上記オキアミ由来の原料としての固形分は、たとえばオキアミ全体またはその部分を圧搾することにより圧搾液を得て、この圧搾液を加熱して固形分と水溶性成分を分離させることによって得ることができる。
【0024】
上記の圧搾においては、一般的に用いられる機器を用いることができ、たとえば油圧式圧搾機、スクリュープレス、採肉機、プレス脱水機、遠心分離機等、またはこれらの組み合わせを用いることができる。
【0025】
上記圧搾液は、大気圧条件下、加圧条件下または減圧条件下において、50℃以上、好ましくは70〜150℃、特に好ましくは85〜110℃で加熱してもよい。この加熱によって固形分と水溶性成分を分離させ、ろ過または遠心分離等により固形分を得る。
【0026】
さらに、この固形分またはその乾燥物から脂質を抽出してもよい。脂質の抽出方法としては、一般に用いられる方法であれば特に限定されないが、溶媒抽出、pH調整もしくは酵素処理等によるタンパク質成分の分離除去、超臨界抽出等、またはこれらを組み合わせた方法が用いられる。好ましくは、有機溶媒による抽出、酵素処理した後の有機溶媒による抽出または超臨界二酸化炭素抽出が用いられる。溶媒抽出において用いる溶媒としては、適当な有機溶媒、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコールもしくはブチレングリコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、トルエン、ペンタン、ヘキサンまたはシクロヘキサン等を単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、ヘキサン=エタノール混液を用いて脂質を抽出する。この時、溶媒混合比または原料:溶媒比は、任意に設定すればよい。また、酵素処理において用いられる酵素としては、食品に用いられるものであれば特に限定されないが、プロテアーゼ、たとえばアルカラーゼ(登録商標)(ノボザイム社製)、プロテアーゼA、M、P、パンクレアチンF(天野エンザイム社製)等が用いられる。酵素処理のpHや温度条件等は、用いる酵素にあわせて設定すればよい。たとえば、山下隆司編、「新しい食品加工技術I」(工業技術会、1986年、p.204-284)に記載の方法等を参考にすることができる。また、超臨界二酸化炭素抽出法においては、常法に従って実施すればよく、たとえば山下隆司編、「新しい食品加工技術I」、工業技術会、1986年、p.79-102に記載された方法等を参考にすることができる。
【0027】
本発明の鎮静および睡眠促進剤に使用する魚介類抽出物は、上記脂溶性画分および水溶性画分のいずれの画分であってもよい。また、魚介類抽出物は、脂溶性画分および水溶性画分の混合物であることもできる。
【0028】
さらに、本発明の鎮静および睡眠促進剤は、魚介類抽出物の代わりに、トリグリセリド、リゾホスファチジルコリン(LPCE)もしくはレシチンなどのリン脂質またはエイコサペンタエン酸(EPA)もしくはドコサヘキサエン酸(DHA)などの多価不飽和脂肪酸を含むことができる。多価不飽和脂肪酸は、n-3系統およびn-6系統のいずれであることもできる。トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸は、任意の方法で製造することができ、市販の製品を使用することもできる。
【0029】
本明細書において、睡眠を促進するとは、睡眠に関わる生体の恒常性を保ち、自然な睡眠の進行を促すことをいう。睡眠促進剤は、睡眠を促進する作用を有するものをいう。また、睡眠促進剤は、睡眠の延長を促進する作用を有するものをいう。本明細書において、鎮静とは、しずめおちつかせることをいい、自発運動量を低減させることを含む。これらの作用より、本発明剤は、睡眠促進および鎮静効果の他、これらに関連する抗うつ、抗ストレス、抗疲労および緊張状態の緩和等に対しても効果がある。
【0030】
また、本発明の鎮静および睡眠促進剤は、上記の成分に加えて、任意の成分を含む組成物であることができる。たとえば、本発明の鎮静および睡眠促進剤は、医薬として使用される場合、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などと共に医薬組成物として提供することができる。医薬組成物に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。また、結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。また、崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。また、滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。また、着色剤は、医薬品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。また、医薬組成物は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。また、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤および可溶化剤などを添加してもよい。
【0031】
また、医薬組成物は、任意の形態の製剤として提供することができる。たとえば、医薬組成物は、経口投与製剤として、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤およびソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、エリキシル剤等の液剤であることができる。また、医薬組成物は、非経口投与のために、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの投与のための製剤であることができる。たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。
【0032】
また、本発明の鎮静および睡眠促進剤は、食品として提供することができる。すなわち、魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含有し、睡眠促進作用または鎮静作用を有する食品が提供される。本発明において、食品は、飲料を含む食品全般を意味し、サプリメントなどの健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品をも含む。たとえば、睡眠促進作用または鎮静作用を有する旨の表示を付した機能性食品が提供される。たとえば、オキアミ抽出物を含有する食品をそのまま提供することができる。また、他の食品に添加し、混合し、または塗布することなどにより、食品素材として、睡眠促進作用または鎮静作用を付与した食品を提供することができる。食品の他に、化粧品および餌料などとして提供することもできる。
【0033】
また、魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含有する食品を、当該食品が睡眠促進作用または鎮静作用を有することを記載した説明書と共にパッケージした製品として提供することができる。
【0034】
また、上記のように睡眠促進作用または鎮静作用を有する旨の表示を付した食品を製造するために、魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸の使用することができる。本発明の鎮静および睡眠促進剤、並びに食品には、限定されないが、睡眠促進作用または鎮静作用を奏するのに必要な量を含有することができる。本発明の鎮静および睡眠促進剤、並びに食品は、任意の量で魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含むことができ、たとえば100μg〜1000mg/kgの量で含むことができる。
【0035】
また、魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸は、医薬として患者に投与する場合、症状の程度、患者の年齢、体重および健康状態などの条件に応じて、限定されないが、成人であれば100μg〜1000mg/kg/日を経口または非経口的に、1日1回または2〜4回以上に分割して、適宜の間隔をあけて投与することができる。1回投与の場合は、就寝前に投与することが好ましい。
【実施例】
【0036】
実施例1 オキアミ抽出物の製造
オキアミ油は、たとえば、国際公開第2010/03749号および国際公開第2010/03750号に記載のいずれの方法によっても製造することができる。製造の具体例を以下に示す。
【0037】
漁獲直後のナンキョクオキアミ(10t)を採肉機(バーダー社製、型式BAADER605)を用いて圧搾することにより、圧搾液(3t)を得た。この圧搾液(800kg)をステンレスタンクに収納し、140℃の水蒸気を直接投与することにより加熱した。約60分の加熱により圧搾液の温度が85℃に達していることを確認した後、加熱を停止した。タンク底部のバルブを開放し、目合い2mmメッシュを通過する液状成分を自然落下により除去し、メッシュ上の固形分(熱凝固物)を同量の水(3t)でシャワリングすることにより洗浄した後、アルミ製のトレイに12kgずつ収納してコンタクトフリーザにより急速冷凍した。
【0038】
上記の冷凍された熱凝固物(1t)を水(3,000L)に投入し、撹拌しながら加熱して65℃に昇温させ、10分保持した。24メッシュのナイロンを用いて水切りし、固形分を水(3,000L、20℃)に投入した。撹拌を15分行った後、24メッシュのナイロンを用いて水切りし、さらに遠心脱水機(タナベ製遠心分離機O-30)で15秒処理することにより、固形分(512kg、水分63.8%)を得た。本発明においてこの試料をKC-1と呼ぶ。
【0039】
また、上記の冷凍された熱凝固物を凍結乾燥機にて凍結乾燥し、凍結乾燥物(185kg)を得た。本発明においてこの試料をKC-3と呼ぶ。
【0040】
また、このKC-3をエタノールにて抽出し、抽出物を得た。本発明においてこの試料をK-PCと呼ぶ。さらに、このK-PCを原料として、細川ら(J. Agric. Food Chem. 2000,48, 4550-4554)の方法に従ってホスファチジルセリン画分を得た。本発明においてこの試料をK-PSと呼ぶ。
【0041】
一方、国際公開第2010/03749号または国際公開第2010/03750号に記載された方法により調整したオキアミの熱凝固物に対し、34.3MPa、40℃の条件にて超臨界二酸化炭素による脂質成分の抽出を実施し、トリグリセリド高含有抽出物を得た。本発明においてこの試料をNTと呼ぶ。
【0042】
さらに、この抽出物(NT)の抽出残渣にエタノールを加え、再度同条件にて超臨界二酸化炭素による脂質成分の抽出を実施し、リン脂質高含有抽出物を得た。本発明においてこの試料をNPと呼ぶ。
【0043】
尚、本発明において、脂質組成は、ベンゼン:クロロホルム:酢酸=150:60:1.5の展開溶媒により分離した各脂質成分を薄層自動検出装置(三菱化学ヤトロン社製、型式イアトロスキャン(登録商標)MK-6)を用いて定量した。また、脂肪酸組成は構成脂肪酸を三フッ化ホウ素中メチルエステル化してガスクロマトグラフィー(アジレント・テクノロジー社、型式6890N)により分析した。使用したガスクロマトグラフィー用カラムは、J&W Scientific社、DB-WAX(型番122-7032)であり、キャリアガスは、ヘリウムを使用した。
【0044】
実施例2 オキアミ抽出物の睡眠促進作用
(オキアミ抽出物のペントバルビタール(PB)睡眠延長作用)
実施例1で得られたKC-1、KC-3、NPおよびNTをマウス(一群10匹)に500mg/kgで経口投与した。15分後にPBを40mg/kgの用量で腹腔内投与し、正向反射消失から回復までの時間を睡眠時間として測定した。なお、対照群(一群10匹)には、生理食塩水を経口投与し同様に実験し、比較評価した。水溶性画分は、生理食塩水に溶解した。脂溶性画分は、0.1% Tween80含有生理食塩水に溶解した。
【0045】
結果
図1に示したようにKC-1およびKC-3は有意なPB睡眠延長作用を示さなかったが、NPおよびNTは、経口投与においていずれも有意なPB睡眠延長作用を示した。結果は、平均±S.Eとして示してある。図中、*は、対照と比較した有意差(p<0.05)を示す。**は、対照と比較した有意差(p<0.01)を示す。
【0046】
(NPのPB睡眠延長作用における用量依存性)
図1で最も大きなPB睡眠延長作用を示したNPについて、100、250および500mg/kgをマウス(一群10匹)に経口投与した。投与15分後、PBを40mg/kgで腹腔内投与し、正向反射消失から回復までを睡眠時間として測定した。なお、対照群(一群10匹)には、生理食塩水を経口投与し同様に実験し、比較評価した。水溶性画分は、生理食塩水に溶解した。脂溶性画分は、0.1% Tween80含有生理食塩水に溶解した。
【0047】
結果
図2に示したように、NPにおいては、用量依存的な睡眠延長作用が認められた。結果は、平均±S.Eとして示してある。図中、*は、対照と比較した有意差(p<0.05)を示す。**は、対照と比較した有意差(p<0.01)を示す。
【0048】
(レシチンのペントバルビタール(PB)睡眠延長作用)
前述のオキアミ抽出物のペントバルビタール睡眠延長作用と同様に、オキアミ抽出物の代わりに卵または大豆由来のレシチン(和光純薬工業社製)を用いて試験を行った。
【0049】
結果
図3に示したように、大豆および卵のレシチンは、経口投与においていずれも有意なPB睡眠延長作用を示した。結果は、平均±S.Eとして示してある。図中、*は、対照と比較した有意差(p<0.05)を示す。**は、対照と比較した有意差(p<0.01)を示す。
【0050】
(オキアミ抽出物の自発運動量に及ぼす影響)
実施例1で得られたKC-1、KC-3、NPおよびNTをマウス(一群10匹)に500mg/kgで経口投与した。投与15分後、マウスをホールボード中央に置き、自発運動量を1セクション:5分毎4回(20分間)として、3セクション(60分間)自発運動量(総移動距離、立ち上がり回数など)をビデオトラッキングシステム(自発運動量解析装置)を使用して測定した。なお、対照群(一群10匹)には、生理食塩水を経口投与し同様に実験し、比較評価した。水溶性画分は、生理食塩水に溶解した。脂溶性画分は、0.1% Tween80含有生理食塩水に溶解した。
【0051】
結果
図4に示したように、KC-1、KC-3、NPおよびNTは、経口投与においていずれも自発運動量(総移動距離および立ち上がり回数)を減少する傾向が認められた。結果は、平均±S.Eとして示してある。
【0052】
(オキアミ抽出物の体温下降作用)
実施例1で得られたKC-1、KC-3、NPおよびNTをマウス(一群10匹)に500mg/kgで経口投与した後、マウス直腸温を経時的(0、5、10、15、30、45、60、90および120分)に測定して体温下降作用を検討した。なお、対照群(一群10匹)には、生理食塩水を経口投与し同様に実験し、比較評価した。水溶性画分は、生理食塩水に溶解した。脂溶性画分は、0.1% Tween80含有生理食塩水に溶解した。
【0053】
結果
図5に示したように、PB睡眠延長作用および自発運動量の検討の結果、効果が認められたNPは、体温下降作用も認められた。また、本作用は最大体温下降が45分に認められ、PB睡眠延長作用および自発運動量の結果とよく一致していた。結果は、平均±S.Eとして示してある。
【0054】
(ホスファチジルセリン画分K-PS、ホスファチジルコリン画分K-PCおよびEPA-28のペントバルビタール(PB)睡眠延長作用)
ホスファチジルセリン画分K-PS、ホスファチジルコリン画分K-PCおよびEPA-28(DDオイルタイプ2;日本水産株式会社製)をマウス(一群10匹)に500mg/kgで経口投与した。15分後にPBを40mg/kgの用量で腹腔内投与し、正向反射消失から回復までの時間を睡眠時間として測定した。なお、対照群(一群10匹)には、生理食塩水を経口投与し同様に実験し、比較評価した。水溶性画分は、生理食塩水に溶解した。脂溶性画分は、0.1% Tween80含有生理食塩水に溶解した。
【0055】
結果
図6に示したように、K-PS、K-PCおよびEPA-28は、いずれもPB睡眠延長作用を示したがK-PCとK-PSは同程度の延長作用を、EPA-28は最も強い作用を示した。結果は、平均±S.Eとして示してある。図中、*は、対照と比較した有意差(p<0.05)を示す。**は、対照と比較した有意差(p<0.01)を示す。
【0056】
(ホスファチジルセリン画分K-PS、ホスファチジルコリン画分K-PCおよびEPA-28の自発運動量に及ぼす影響)
ホスファチジルセリン画分K-PS、ホスファチジルコリン画分K-PCおよびEPA-28をマウス(一群10匹)に500mg/kgで経口投与した。投与15分後、マウスをホールボード中央に置き、自発運動量を1セクション:5分毎4回(20分間)として、3セクション(60分間)自発運動量(総移動距離、立ち上がり回数など)をビデオトラッキングシステム(自発運動量解析装置)を使用して測定した。なお、対照群(一群10匹)には、生理食塩水を経口投与し同様に実験し、比較評価した。水溶性画分は、生理食塩水に溶解した。脂溶性画分は、0.1% Tween80含有生理食塩水に溶解した。
【0057】
結果
図7に示したように、K-PS、K-PCおよびEPA-28は、経口投与においていずれも自発運動量(総移動距離および立ち上がり回数)を減少する傾向が認められた。結果は、平均±S.Eとして示してある。図中、*は、対照と比較した有意差(p<0.05)を示す。
【0058】
(リゾホスファチジルコリン(LPCE)、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)のペントバルビタール(PB)睡眠延長作用)
LPCE(シグマ社製)、EPA(日本水産株式会社製)およびDHA(日本水産株式会社製)をマウス(一群10匹)に500mg/kgで経口投与した。15分後にPBを40mg/kgの用量で腹腔内投与し、正向反射消失から回復までの時間を睡眠時間として測定した。なお、対照群(一群10匹)には、生理食塩水を経口投与し同様に実験し、比較評価した。水溶性画分は、生理食塩水に溶解した。脂溶性画分は、0.1% Tween80含有生理食塩水に溶解した。
【0059】
結果
図8に示したように、LPCE、EPAおよびDHAは、いずれもPB睡眠延長作用を示した。結果は、平均±S.Eとして示してある。図中、*は、対照と比較した有意差(p<0.05)を示す。
【0060】
(LPCE、EPAおよびDHAの自発運動量に及ぼす影響)
LPCE、EPAおよびDHAをマウス(一群10匹)に500mg/kgで経口投与した。投与15分後、マウスをホールボード中央に置き、自発運動量を1セクション:5分毎4回(20分間)として、3セクション(60分間)自発運動量(総移動距離、立ち上がり回数など)をビデオトラッキングシステム(自発運動量解析装置)を使用して測定した。なお、対照群(一群10匹)には、生理食塩水を経口投与し同様に実験し、比較評価した。水溶性画分は、生理食塩水に溶解した。脂溶性画分は、0.1% Tween80含有生理食塩水に溶解した。
【0061】
結果
図9に示したように、LPCE、EPAおよびDHAは、経口投与においていずれも自発運動量(総移動距離および立ち上がり回数)を減少する傾向が認められた。結果は、平均±S.Eとして示してある。
【0062】
(試験した試料中の脂肪酸含量)
大豆および卵のレシチン、並びにK-PS、K-PCおよびEPA-28に含まれる脂肪酸含量を測定した。
【0063】
それぞれの試料の脂肪酸含量は、表1に示したとおりであった。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類抽出物を含有する鎮静および睡眠促進剤。
【請求項2】
前記魚介類抽出物がオキアミ抽出物である、請求項1に記載の鎮静および睡眠促進剤。
【請求項3】
前記魚介類抽出物が魚介類由来のトリグリセリド高含有抽出物またはリン脂質高含有抽出物である、請求項1に記載の鎮静および睡眠促進剤。
【請求項4】
トリグリセリド、リン脂質、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含有する鎮静および睡眠促進剤。
【請求項5】
魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含有し、睡眠促進作用または鎮静作用を有する旨の表示を付した食品。
【請求項6】
睡眠促進作用または鎮静作用を有する旨の表示を付した食品を製造するための、魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸の使用。
【請求項7】
魚介類抽出物、トリグリセリド、リン脂質または多価不飽和脂肪酸を含有する食品を、前記食品が睡眠促進作用または鎮静作用を有することを記載した説明書と共にパッケージした製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−51865(P2012−51865A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198007(P2010−198007)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名「日本薬学会第130年会組織委員会」、刊行物名「日本薬学会第130年会 要旨集」 発行年月日 平成22年3月5日
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(506178140)学校法人順正学園 (10)
【Fターム(参考)】