説明

長尺の延伸フィルムの製造方法

【課題】幅方向の厚さムラや配向方向のバラツキが無く、光学特性の精度に優れ、巻き取り方向に対して所定の角度の範囲で配向軸が傾いた、広幅で長尺の延伸フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】固有複屈折値が負である材料からなり、少なくとも1300mmの幅方向に亘って、幅方向に対する配向角θの、値が30〜80°の範囲にあり、バラツキが1.0°以下であり、Nz係数の、値が−1.2〜−0.3の範囲にあり、バラツキが0.10以下である、長尺の延伸フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は長尺の延伸フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、性能向上のために様々な位相差フィルムが使用されている。この位相差フィルムは、その機能を十分に発揮するように、偏光子の偏光透過軸や、液晶セルの偏光透過軸などに対して、特定の種々の角度に遅相軸が傾くように、液晶表示装置に据え付けられる。この遅相軸の傾き角度は、表示装置の側辺に平行でも、垂直でもない角度となっている。
【0003】
上記のような、側辺に平行でも、垂直でもない角度に配向した位相差フィルムを得る方法としては、透明な樹脂フィルムを、縦延伸又は横延伸により配向させて長尺の延伸フィルムを得た後、その延伸フィルムの側辺に対して所定の角度で斜めに方形状に裁断する方法が広く知られている。しかしながら、この方法では、最大面積が得られるようにしても、裁断ロスが多量に生じ、延伸フィルムの利用効率が低い。
一方、所定の角度で斜めに配向された長尺の延伸フィルムでは、側辺に対して平行に切り取ることができ、延伸フィルムの利用効率が高くなる。このような側辺に対して斜めに配向したフィルムを延伸によって得る方法が、種々提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、連続的に供給されるポリマーフィルムの両端を保持手段により保持し、該保持手段をフィルムの長手方向に進行させつつ張力を付与して延伸する光学用ポリマーフィルムの延伸方法において、ポリマーフィルムの一方端の実質的な保持開始点から実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L1およびポリマーフィルムのもう一端の実質的な保持開始点から実質的な保持解除点までの保持手段の軌跡L2と、二つの実質的な保持解除点の距離Wが、|L2−L1|>0.4W の関係を満たし、かつポリマーフィルムの支持性を保ち、揮発分率が5%以上の状態を存在させて延伸したのち、収縮させながら揮発分率を低下させることを特徴とする光学用ポリマーフィルムの延伸方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂からなる長尺状フィルムを延伸することにより得られ、配向軸が長尺状フィルムの巻き取り方向に平行でも垂直でもない方向とされている長尺状光学フィルムの製造方法であって、前記フィルムが実質的に延伸される領域内において、対向しているフィルムの幅方向両端の移動速度の大きさが等しくかつ移動距離が異なり、フィルムの幅方向両端を保持する一対の治具の内、少なくとも一方がフィルム面に対して波打った形状のレール上を移動するようにして延伸を行うことを特徴とする長尺状光学フィルムの製造方法が開示されている。さらに特許文献2ではこの延伸工程を数回繰り返したり、予め縦方向または横方向に延伸した後、この延伸工程を行ったりしてもよいと述べている。
【0006】
しかしながら、これらの斜め延伸方法では斜めに皺や撚りが生じ、厚さムラが発生しやすい。そのために幅方向の厚さが均一で、巻き取り方向に特に40°以上傾いた配向角でバラツキ無く均一に配向した、1300mm以上の広幅なフィルムを得ることが実質的に不可能であった。そのために配向軸が斜め(フィルムの幅方向や長手方向から大きく外れた方向)になった、長尺で広幅の光学フィルムを工業的に大量生産することができなかった。
【0007】
さらに、特許文献3には、固有複屈折値が負である樹脂からなる層の両面に固有複屈折値が正である樹脂を積層してなる未延伸積層体を延伸して得られ、幅方向に対して105°±7°、又は75°±7°の方向に配向軸(遅相軸)を有する1/4波長板の長尺体が開示されている。
ところが、本発明者らの検討によると、上記特許文献に記載の延伸加工された長尺体は、製膜工程の際に皺が生じて破断しやすい上にこれを用いた液晶表示装置等の表示画質改善効果が不足する場合があることがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−86554号公報
【特許文献2】特開2003−232928号公報
【特許文献3】特開2005−284024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、前記の事情に鑑み、幅方向の厚さムラや配向方向のバラツキが無く、光学特性の精度に優れ、巻き取り方向に対して所定の角度の範囲で配向軸が傾いた、広幅で長尺の延伸フィルム及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、固有複屈折値が負の材料からなる長尺の未延伸フィルムを縦延伸して幅方向に対する配向角θが±1°以内である第一延伸フィルムを得、この第一延伸フィルムを第二延伸フィルムの巻き取り方向に対して特定の角度に繰り出してテンター延伸することにより、幅方向の厚さムラや配向角のバラツキが非常に小さく、光学特性の精度に優れ、幅方向に対して比較的大きな角度で配向軸が傾いた、広幅で長尺の延伸フィルムが得られることを見出した。
【0011】
さらに、本発明者は、固有複屈折値が負の材料からなり、少なくとも1300mmの幅方向に亘って、配向角θが幅方向に対し特定の角度範囲にあり、配向角のバラツキが1.0°以下であり、少なくとも1300mmの幅方向に亘って、平均Nz係数が−1.0〜−0.3の範囲にあり、Nz係数のバラツキが0.10以下である、長尺の延伸フィルムを用いることによって、偏光板や液晶表示装置の生産性を向上させることが可能になることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の態様を含むものである。
(1)固有複屈折値が負である材料からなり、少なくとも1300mmの幅方向に亘って、
幅方向に対する配向角θの、値が30°〜80°の範囲にあり、バラツキが1.0°以下であり、
Nz係数の、値が−1.2〜−0.3の範囲にあり、バラツキが0.10以下である、長尺の延伸フィルム。
【0013】
(2) 面内方向のリターデーションReが100〜300nmである、前記の長尺の延伸フィルム。
(3) 面内方向のリターデーションReのバラツキが10nm以内である、前記の延伸フィルム。
(4) 厚さ方向のリターデーションRthが−350nm〜−20nmである、前記の延伸フィルム。
(5) 平均厚さ30〜80μmで、厚さムラが3μm以下である、前記の延伸フィルム。
【0014】
(6) 固有複屈折値が負である材料からなる長尺のフィルムを縦延伸して、幅方向に対する配向角θが±1.0°以内である第一延伸フィルムを得る工程、
前記第一延伸フィルムを、第二延伸フィルムの巻き取り方向に対する繰り出し角度θが15°<θ<60°となるように繰り出しながらテンター延伸して、幅方向に対する配向角θが30°〜80°の範囲にある第二延伸フィルムを得る工程を含む、長尺の延伸フィルムの製造方法。
【0015】
(7) 前記第一延伸フィルムを得る工程における延伸倍率Rが1.1〜2.0であり、第二延伸フィルムを得る工程における延伸倍率Rが1.3〜2.0である、前記の延伸フィルムの製造方法。
(8) 前記の長尺の延伸フィルムと、長尺の偏光子とを積層してなる長尺の円偏光板。
(9) 前記の長尺の延伸フィルムを裁断してなる枚葉の延伸フィルム、又は前記の長尺の円偏光板を裁断してなる枚葉の円偏光板を備える液晶表示装置。
(10)IPSモードの液晶パネルを備える前記の液晶表示装置。
(11)反射型表示方式の液晶パネルを備える前記の液晶表示装置。
(12)半透過型表示方式の液晶パネルを備える前記の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の長尺の延伸フィルムは、長手方向または幅方向に平行にトリミングできるので、フィルムの廃棄部分が少なく、生産性に優れている。また、本発明の円偏光板は、液晶表示装置、特にIPSモードの液晶表示装置に用いた場合に、その表示画面の視野角が広くなり、表示画面のコントラストの低下や着色を防止することができる。
【0017】
本発明の製造方法によれば、幅方向の厚さが均一で、幅方向に対して、30°〜80°の方向に配向軸が均一に配向した、広幅な長尺の延伸フィルムを容易に得ることができる。斜めに配向軸が配向した長尺の延伸フィルムは、液晶表示装置などの位相差板として、好適である。具体的には、偏光板などの液晶表示装置に用いられる他の長尺の光学素子と、ある特定の角度で配向軸を傾けて重ねる際に、長手方向に対して斜めに配向軸を有する延伸フィルムを用いれば、他の長尺の光学素子と、ロール・トウ・ロールによる重ね合わせができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔長尺の延伸フィルム〕
本発明の長尺の延伸フィルムは、
固有複屈折値が負である材料からなり、
少なくとも1300mmの幅方向に亘って、
幅方向に対する配向角θの、値が30°〜80°の範囲にあり、バラツキが1.0°以下であり、
Nz係数の、値が−1.2〜−0.3の範囲にあり、バラツキが0.10以下である。
【0019】
本発明において、長尺とは、フィルム又は積層体の幅方向に対し5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍以上の長さを有するものをいう。具体的にはロール状に巻回されて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0020】
本発明の延伸フィルムに用いる固有複屈折値が負である材料は、その板状物(無配向物)を一軸延伸したときに延伸方向に面内で直交する方向が面内遅相軸になる材料である。固有複屈折値が負である材料としては、特に制限されず、芳香族ビニル重合体樹脂、アクリロニトリル重合体樹脂、メチルメタクリレート重合体樹脂、セルロースエステル重合体樹脂などを挙げることができる。これらの負の固有複屈折値を有する材料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中で、芳香族ビニル重合体樹脂、アクリロニトリル重合体樹脂及びメチルメタクリレート重合体樹脂を好適に用いることができ、芳香族ビニル重合体樹脂は、複屈折発現性が高いので特に好適に用いることができる。
【0021】
芳香族ビニル重合体樹脂は、芳香族ビニル単量体を主モノマー単位として含有する重合体樹脂である。
芳香族ビニル重合体樹脂としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−ニトロスチレン、p−アミノスチレン、p−カルボキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレンなどの芳香族ビニル単量体の単独重合体;または、芳香族ビニル単量体と、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、イソプレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイミド、酢酸ビニル、塩化ビニルなどの芳香族ビニル単量体以外のエチレン性不飽和単量体との共重合体を挙げることができる。これらは一種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中で、スチレン単独重合体、及びスチレンと無水マレイン酸との共重合体が好適である。
【0022】
負の固有複屈折値を有する材料は分子量によって特に制限されないが、重量平均分子量が、通常、10,000〜300,000、好ましくは15,000〜250,000、より好ましくは20,000〜200,000である。
また、本発明に用いる負の固有複屈折値を有する材料は、融点又はガラス転移温度Tgが好ましくは120℃以上、より好ましくは120〜200℃、特に好ましくは120〜140℃である。
【0023】
負の固有複屈折値を有する材料は、その製造方法によって、特に制限されないが、例えば、負の固有複屈折値を有する樹脂では、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法などで得ることができる。
【0024】
負の固有複屈折値を有する材料には、耐久性を持たせるなどのために、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤などが添加されていてもよい。
【0025】
本発明の延伸フィルムは、固有複屈折値が負である材料からなる層Aの板状物であるが、延伸フィルムの機械的強度を向上させるために、前記層Aの少なくとも片面に透明な材料からなる層Bを設けることによって、積層体Cとすることもできる。特に、積層体Cは、前記層Aの両面に透明な材料からなる層Bと透明な材料からなる層Bとを夫々積層させた構成であることが好ましい。このとき、層Bを構成する透明材料と層Bを構成する透明材料は、同じ種類でも、違う種類でもよい。
なお、本発明の延伸フィルムが前記積層体Cのような積層構造を有する場合においては、その無配向物を一軸延伸したときに延伸方向に面内で直交する方向が面内遅相軸になるように透明な材料を選択することが好ましい。
【0026】
前記透明な材料は、厚さ1mmの試験片を形成して測定した全光線透過率が、70%以上のものであればよく、80%以上のものがより好ましく、90%以上のものが特に好ましい。透明な材料としては、例えば、脂環式オレフィンポリマー、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、アクリル酸エステル−ビニル芳香族化合物共重合体樹脂、メタクリル酸エステル−ビニル芳香族化合物共重合体樹脂、ポリエーテルスルホンなどの熱可塑性樹脂、ディスコティック液晶等を挙げることができる。これらの中で、脂環式オレフィンポリマーやメタクリル樹脂が好適であり、特にメタクリル樹脂が好適である。
【0027】
前記脂環式オレフィンポリマーは、主鎖及び/または側鎖にシクロアルカン構造やシクロアルケン構造を有する非晶性の重合体である。機械的強度や耐熱性などの観点から、主鎖にシクロアルカン構造を含有する重合体が好適である。また、シクロアルカン構造としては、単環、多環(縮合多環、橋架け環など)が挙げられる。シクロアルカン構造の一単位を構成する炭素原子数は、格別な制限はないが、通常4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個の範囲であるときに、樹脂フィルムの機械的強度、耐熱性、及び成形性の諸特性が高度にバランスされ好適である。
脂環式オレフィンポリマーとしては、例えば特開平05−310845号公報、特開平05−097978号公報、米国特許第6,511,756号公報に記載されているものが挙げられる。
【0028】
脂環式オレフィンポリマーを構成する脂環構造を有する繰り返し単位の割合は、好ましくは55重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。脂環式オレフィンポリマー中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合がこの範囲にあると透明性および耐熱性の観点から好ましい。
【0029】
脂環式オレフィンポリマーとしては、ノルボルネン系樹脂、単環の環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂、およびこれらの水素化物を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン系樹脂は、透明性と成形性が良好なため、好適に用いることができる。
【0030】
ノルボルネン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との開環共重合体、又はそれらの水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体若しくはノルボルネン構造を有する単量体と他の単量体との付加共重合体、又はそれらの水素化物等を挙げることができる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環(共)重合体水素化物は、透明性、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適に用いることができる。
【0031】
ノルボルネン構造を有する単量体としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、7,8−ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン(慣用名:メタノテトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、およびこれらの化合物の誘導体(例えば、環に置換基を有するもの)などを挙げることができる。ここで、置換基としては、例えばアルキル基、アルキレン基、極性基などを挙げることができる。また、これらの置換基は、同一または相異なって複数個が環に結合していてもよい。ノルボルネン構造を有する単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
極性基の種類としては、ヘテロ原子、またはヘテロ原子を有する原子団などが挙げられる。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、ハロゲン原子などが挙げられる。極性基の具体例としては、カルボキシル基、カルボニルオキシカルボニル基、エポキシ基、ヒドロキシル基、オキシ基、エステル基、シラノール基、シリル基、アミノ基、ニトリル基、スルホン基などが挙げられる。飽和吸水率の小さいフィルムを得るためには。極性基の量が少ない方が好ましく、極性基を持たない方がより好ましい。
【0033】
ノルボルネン構造を有する単量体と開環共重合可能な他の単量体としては、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテンなどのモノ環状オレフィン類およびその誘導体;シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエンなどの環状共役ジエンおよびその誘導体;などが挙げられる。
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との開環共重合体は、単量体を公知の開環重合触媒の存在下に(共)重合することにより得ることができる。
【0034】
ノルボルネン構造を有する単量体と付加共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどの炭素数2〜20のα−オレフィンおよびこれらの誘導体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロオレフィンおよびこれらの誘導体;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエンなどの非共役ジエンなどが挙げられる。これらの単量体は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、α−オレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体およびノルボルネン構造を有する単量体と共重合可能な他の単量体との付加共重合体は、単量体を公知の付加重合触媒の存在下に重合することにより得ることができる。
【0035】
ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環共重合体の水素化物、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の水素化物、およびノルボルネン構造を有する単量体とこれと付加共重合可能なその他の単量体との付加共重合体の水素化物は、これら開環(共)重合体又は付加(共)重合体の溶液に、ニッケル、パラジウムなどの遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、水素を接触させて、炭素−炭素不飽和結合を好ましくは90%以上水素化することによって得ることができる。
【0036】
ノルボルネン系樹脂の中でも、繰り返し単位として、X:ビシクロ[3.3.0]オクタン−2,4−ジイル−エチレン構造と、Y:トリシクロ[4.3.0.12,5]デカン−7,9−ジイル−エチレン構造とを有し、これらの繰り返し単位の含有量が、ノルボルネン系樹脂の繰り返し単位全体に対して90重量%以上であり、かつ、Xの含有割合とYの含有割合との比が、X:Yの重量比で100:0〜40:60であるものが好ましい。このような樹脂を用いることにより、長期的に寸法変化がなく、光学特性の安定性に優れる光学フィルムを得ることができる。
【0037】
本発明に用いる脂環式オレフィンポリマーの分子量は使用目的に応じて適宜選定されるが、溶媒としてシクロヘキサン(重合体樹脂が溶解しない場合はトルエン)を用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーで測定したポリイソプレン(溶媒がトルエンのときは、ポリスチレン換算)の重量平均分子量(Mw)で、通常10,000〜100,000、好ましくは15,000〜80,000、より好ましくは20,000〜50,000である。重量平均分子量がこのような範囲にあるときに、フィルムの機械的強度および成形性が高度にバランスされ好適である。
【0038】
脂環式オレフィンポリマーの分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は特に制限されないが、通常1.0〜10.0、好ましくは1.1〜4.0、より好ましくは1.2〜3.5の範囲である。
【0039】
前記メタクリル樹脂は、メタクリル酸アルキルエステルを主モノマー単位として含む重合体樹脂である。
メタクリル樹脂としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの単独重合体;アルキル基の水素がOH基、COOH基もしくはNH基などの官能基によって置換された炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの単独重合体;またはメタクリル酸アルキルエステルと、スチレン、酢酸ビニル、α,β−モノエチレン性不飽和カルボン酸、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸アルキルエステルなどのメタクリル酸アルキルエステル以外のエチレン性不飽和単量体との共重合体を挙げることができる。これらは一種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうちアクリル酸アルキルエステルがメタクリル酸アルキルエステルとの共重合に好適である。好適なメタクリル樹脂では、官能基によって置換されていてもよい炭素数1〜4のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルを好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99.9重量%、さらに好ましくは50〜99.5重量%含有し、アクリル酸アルキルエステルを好ましくは0〜50重量%、より好ましくは0.1〜50重量%、さらに好ましくは0.5〜50重量%含有する。
【0040】
前記層B(層B及び層B)を構成する透明な材料は、融点又はガラス転移温度Tg(透明な材料の種類が異なる場合はTgb1、Tgb2)が好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上、特に好ましくは90℃以上である。さらに層Bを構成する透明な材料及び層Bを構成する透明な材料の融点又はガラス転移温度Tgは、前記負の固有複屈折値を有する材料の融点又はガラス転移温度Tgよりも低いことが好ましく、Tgよりも15℃以上低いことがより好ましく、Tgよりも20℃以上低いことが特に好ましい。このような構成にすることによって、前記積層体Cの機械的強度をより向上させることが可能となる。
【0041】
層Bを構成する透明な材料及び層Bを構成する透明な材料は、その製造方法によって、特に制限されず、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法などで得ることができる。好適なガラス転移温度を持ち、フィルム成形性に優れた層B及び/又は層Bを構成する透明な樹脂を得るために、連鎖移動剤を重合時に使用することが好ましい。連鎖移動剤の量は、単量体の種類及び組成に応じて適宜決定する。
【0042】
層Bを構成する透明な材料及び層Bを構成する透明な材料には、耐光性、耐熱性などを持たせるために、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、ゴム粒子などが添加されていてもよい。
【0043】
紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させるために添加される。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤等公知のものが使用可能である。中でも、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール;2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−4’−クロロベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン;p−tert−ブチルフェニルサリチル酸エステル、p−オクチルフェニルサリチル酸エステル等が好適に用いられる。これらの中でも、特に2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)が好ましい。紫外線吸収剤の濃度は、波長370nm以下の透過率が、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下となる範囲で選択することができる。紫外線吸収剤を含有させる方法としては、紫外線吸収剤を予め透明材料中に配合する方法;溶融押出成形時に直接供給する方法などが挙げられ、いずれの方法が採用されてもよい。
【0044】
紫外線吸収剤の量は、紫外線吸収剤の種類によってその効果が異なるので、フィルムの色調を悪化させること無く紫外線を効率的に遮断することができる量に適宜調整すればよい。
【0045】
本発明の延伸フィルムは、フィルムの幅方向(フィルムの巻き取り方向(長手方向)にフィルム面内で垂直な方向)を0°としたとき、その配向角θが30°〜80°の範囲内にあり、用いられる表示装置の設計によってこの範囲内での最適値が選択されるが、特に、その配向角θが40°〜50°の範囲内にあるとき、本発明の延伸フィルムの機械的強度が向上する。配向角θがフィルムの幅方向に対して上記角度範囲に向いていることで機械的強度が向上するフィルムが得られる詳細な理由はわかってないが、配向軸が上記角度範囲にあることによって幅方向又は長手方向の張力が分散され、遅相軸又はそれに直交する方向に張力が集中しなくなるので、巻き取り工程などにおいて、フィルムが破断し難くなると考えられる。
【0046】
本発明の延伸フィルムは、配向角のバラツキが、少なくとも1300mmの幅方向に亘って1.0°以下であり、好ましくは0.8°以下、より好ましくは0.6°以下である。配向角のバラツキが1.0°を超える延伸フィルムを、偏光板と貼り合せて円偏光板を得、これを液晶表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、コントラストを低下させてしまうことがある。
なお、配向角θは、市販の偏光顕微鏡を用いて、延伸フィルムを幅方向に50mm間隔で測定した値の平均値である。また、配向角θのバラツキは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値である。
【0047】
本発明の延伸フィルムは、フィルムの面内の遅相軸方向の屈折率をn、フィルム面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率をn、フィルムの厚さ方向の屈折率をnとしたとき、(n−n)/(n−n)で表されるNz係数が−1.2〜−0.3の範囲、好ましくは−1.2〜−0.5の範囲、より好ましくは−1.2〜−0.7の範囲にある。Nz係数がこの範囲内にあると、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。
【0048】
本発明の延伸フィルムは、Nz係数のバラツキが、少なくとも1300mmの幅方向に亘って、0.10以下、好ましくは0.08以下である。Nz係数のバラツキが0.10を超えると液晶表示装置に組み込まれた際、色ムラなどの表示品位低下の原因となる。
なお、Nz係数は、市販の位相差測定装置を用いて、延伸フィルムを幅方向に50mm間隔で測定した値の平均値である。また、Nz係数のバラツキは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値である。
【0049】
本発明において、延伸フィルムの面内方向のリターデーションReは、用いられる表示装置の設計によって最適値が選択されるが、好ましくは100〜300nmである。なお、Reは、面内遅相軸方向の屈折率nと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nとの差(屈折率差Δn)にフィルムの平均厚さdを乗算した値(Re=(n−n)×d=Δn×d)である。
【0050】
本発明において、延伸フィルムの面内方向のリターデーションReのバラツキは、少なくとも1300mmの幅方向に亘って、好ましくは10nm以内、より好ましくは5nm以内、特に好ましくは2nm以内である。前記面内方向のリターデーションReのバラツキを、上記範囲にすることにより、液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることが可能になる。
【0051】
本発明の延伸フィルムは、式〔1〕で表される厚さ方向のリターデーションRthが、好ましくは0nm未満、より好ましくは−350nm〜−20nm、特に好ましくは−250nm〜−120nmである。
Rth={(n+n)/2−n}×d 〔1〕
なお、nは面内遅相軸方向の屈折率、nは面内遅相軸に直交する方向の屈折率、nは厚さ方向の屈折率、dは平均厚さである。
このような厚さ方向のリターデーションRthを持つ延伸フィルムを、コレステリック規則性を有する層を含む円偏光分離素子と組み合わせて液晶表示装置に用いたときには、表示画面を斜め方向から観察したときにも、正面方向から観察した場合と同じ色合いであり、画面の着色が起きにくくなる。なお、この屈折率は、自動複屈折計(例えば、王子計測器(株)製「KOBRAシリーズ」等)により測定することができる。
【0052】
本発明の延伸フィルムが、前記積層体Cのような積層構造を有する場合においては、層B及び/又は層Bの配向度ΔPが0.1×10−4以上9.0×10−4以下であることが好ましく、0.3×10−4以上0.6×10−4以下であることがより好ましい。前記ΔPが上記範囲にあることによって、偏光板との接着性がより良好となる。なお、配向度は式〔2〕で定義される値である。
ΔP=(n+n)/2−n 〔2〕
【0053】
また、前記積層体Cにおいて、層B又は/及び層Bの面内方向のリターデーションReが0nm以上15nm以下であることが好ましく、1nm超10nm未満であることがより好ましく、層B及び層Bの面内方向のリターデーションReがともに1nm超10nm未満であることがさらに好ましい。前記面内方向のリターデーションReが上記範囲を満たすことにより、良好な光学特性を得ることができる。
【0054】
前記厚さ方向のリターデーションRth及び面内方向のリターデーションReの測定は、光入射角0°(入射光線が本発明の延伸フィルム表面に垂直となる状態)で、幅方向に50mm間隔、流れ方向に長さ1000mmの範囲で50mm間隔で自動複屈折計にて行う。そして、全測定結果を平均したものを、各層の厚さ方向のリターデーションRth、面内方向のリターデーションReとする。また、面内方向のリターデーションReのバラツキは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値である。
【0055】
本発明の延伸フィルムを、コレステリック規則性を有する層を含む円偏光分離素子と組み合わせる1/4波長板として用いる場合には、該延伸フィルムの面内方向のリターデーションReを100〜155nmの範囲になるように調整することが好ましい。なお、Reは(n−n)×dで定義される値である。面内方向のリターデーションReを上記のような範囲に調整することによって円偏光分離素子によって分離された円偏光を効率的に直線偏光に変換することができる。
【0056】
本発明の延伸フィルムは、平均厚さ(総厚さ)が、機械的強度などの観点から、好ましくは20μm以上200μm以下、より好ましくは40μm以上180μm以下である。
また、本発明の延伸フィルムが、前記積層体Cのような積層構造を有する場合においては、層Aの平均厚さは、好ましくは10〜150μm、より好ましくは20〜100μmであり、層B及び層Bの平均厚さは、好ましくは20〜180μm、より好ましくは30〜150μmである。さらに、層Bの平均厚さ/層Aの平均厚さの比は3/1〜1/3、好ましくは2/1〜1/2である。また層Aの平均厚さ/層Bの平均厚さの比は1/3〜3/1、好ましくは1/2/〜2/1である。なお、層Bと層Bとは同じ平均厚さでなくても良いが、反りなどを防止するためにほぼ同じ平均厚さにするのが好ましい。
また、本発明の延伸フィルムの幅方向の厚さムラは、巻き取りの可否に影響を与えるため、少なくとも1300mmの幅方向に亘って、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることが特に好ましい。
平均厚さ及び総厚さは、以下の手順で測定する。まず、延伸フィルムの幅方向に50mm間隔で反射分光膜厚計を走査して、延伸フィルムの(各層の)厚さを測定する。次に、この測定を延伸フィルムの流れ方向に50mm間隔で、長さ1000mmに亙って行う。そして全測定結果を平均して(各層の)厚さとする。総厚さは、各層の平均厚さの合計とする。また、厚さムラは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値とする。
【0057】
本発明の長尺の延伸フィルムは、幅が少なくとも1300mm、好ましくは少なくとも1500mmである。本発明の長尺の延伸フィルムは、その製造工程において、任意に、延伸後にその幅方向の両端を切り落として作成されるが、この場合、上記でいうフィルムの幅は、両端を切り落とした後の寸法とすることができる。
【0058】
本発明の延伸フィルムは、残留揮発性成分の含有量が、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下である。残留揮発性成分の含有量が多いと経時的に光学特性が変化するおそれがある。揮発性成分の含有量を上記範囲にすることにより、寸法安定性が向上し、面内方向リターデーションReや厚さ方向リターデーションRthの経時変化を小さくすることができ、さらに本発明の円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。
なお、揮発性成分は、分子量200以下の物質であり、例えば、残留単量体や溶媒などが挙げられる。揮発性成分の含有量は、フィルム中に含まれる分子量200以下の物質の合計として、フィルムをクロロホルムに溶解させてガスクロマトグラフィーにより分析することにより定量することができる。
【0059】
本発明の延伸フィルムは、飽和吸水率が、好ましくは0.03重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下、特に好ましくは0.01重量%以下である。飽和吸水率が上記範囲であると、面内方向リターデーションReや厚さ方向リターデーションRthの経時変化を小さくすることができ、さらには本発明の円偏光板や液晶表示装置の劣化を抑制でき、表示画像を長期間良好な状態に保つことができる。
飽和吸水率は、JIS K7209に準拠して、フィルムの試験片を23℃の水中に24時間、浸漬し、試験片の質量変化、すなわち、浸漬前と浸漬後の質量の差を測定して求め、浸漬前の質量に対する百分率として表される値である。
【0060】
〔長尺の延伸フィルムの製造方法〕
本発明の製造方法においては、まず、固有複屈折値が負である材料からなる長尺のフィルムを縦延伸して、幅方向に対する配向角θが±1.0°以内である第一延伸フィルムを得る(第一延伸工程)。
【0061】
本発明の製造方法に用いる長尺のフィルム(以下、「原反フィルム」と記すことがある。)を構成する材料は、本発明の延伸フィルムで説明したものと同様のものが挙げられる。
長尺の原反フィルムは、公知の方法、例えば、キャスト成形法、押出成形法、インフレーション成形法などによって得ることができる。これらのうち押出成形法は、前記残留揮発性成分量が少なく、前記飽和吸水率が小さく、且つ、寸法安定性にも優れるフィルムが得られるので好ましい。この原反フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、フィルムラミネーション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち押出成形法が好ましい。
【0062】
前記原反フィルムを構成する材料の溶融温度は、押出成形ができる温度であれば、特に制限されず、通常200〜300℃である。
ダイに供給された溶融材料は、ダイスリップを通過し、溶融フィルムとして押し出される。ダイから押し出された溶融フィルムは、第一冷却ロール(キャストロールとも言うことがある。)で引き取られ、冷やされ、原反フィルムになる。
延伸後の光学特性を均一にするため原反フィルムの厚さムラは極力小さくする必要があり、最大値−最小値の値で3μm以下、好ましくは2μm以下が好ましい。
【0063】
なお、本発明の延伸フィルムが、前記積層体Cのような積層構造を有する場合には、例えば、前記層Aを構成する負の固有複屈折値を有する材料と、前記層B及び前記層Bを構成する材料とを共押出して、ダイスリップを通過させて溶融フィルムを得、該溶融フィルムを第一冷却ロールで引き取って原反フィルムを得、次いで該原反フィルムを延伸することによって容易に得られる。
層Aを構成する負の固有複屈折値を有する材料と、層B及び層Bを構成する材料とは、先ず、余分な水分や有機揮発分が、真空乾燥等によって除去され、それぞれ別々に、一軸押出機や二軸押出機等によって溶融され、共押出成形用のダイに供給される。ダイとしては、フィードブロック方式や、マルチマニホールド方式などがあり、適宜選択することができる。
【0064】
本発明の製造方法に用いる長尺の原反フィルムの幅は、延伸フィルムを構成する材料や延伸フィルムの幅、延伸倍率により決めればよいが、少なくとも1000mmあることが好ましい。
【0065】
上記第一延伸工程では、公知の縦延伸法が用いられる。例えば、加熱したフィルムをロール間の周速差を利用し流れ方向に延伸する手法を用いることが可能である。加熱手段としては、ロール内に循環させた熱媒を加熱することでロールそのものを加熱する方法、ロール間に赤外線ヒーターを設置する方法、ロール間にフロート式のオーブンを設置する方法などがある。中でも、均一な延伸を行うことが可能なフロート方式が好ましい。
【0066】
第一延伸工程における延伸倍率Rは、好ましくは1.1〜2.0、より好ましくは1.2〜1.8である。延伸倍率Rがこの範囲にあると、第一延伸フィルムの幅方向の厚さムラ、配向角のバラツキを抑えることができる。
【0067】
第一延伸工程における延伸温度は、原反フィルムを構成する固有複屈折値が負である材料の融点又はガラス転移温度Tg(℃)に対し、Tg(℃)以上Tg+30(℃)以下の範囲から適宜選択される。前記延伸温度がTg(℃)未満では成形性が不足しクレーズ等の欠陥を生じることがある。逆にTg+30(℃)を超えるとフロー延伸となり有効な大きさの屈折率差Δnを得難くなる。また、本発明の延伸フィルムが、前記積層体Cのような積層構造を有する場合には、延伸温度を、層Bを構成する材料及び層Bを構成する材料の融点又はガラス転移温度Tg(材料の種類が異なる場合はTgb1、Tgb2)よりも15℃〜60℃高い温度、好ましくは20℃〜50℃高い温度で、且つ、Tg〜Tg+30℃を満たす温度とすることが好ましい。このような条件で延伸を行うと、層B及び層Bの配向度及び面内方向レターデーションを上記した範囲に調整することができる。
【0068】
第一延伸フィルムは、幅方向に対する配向角θが±1.0°以内の範囲にある。また、第一延伸フィルムの屈折率差Δnが0.001〜0.003の範囲にあることが好ましい。配向角θは、フィルムの幅方向と配向軸とで形成される角度のうち、小さい方の角度である。
【0069】
第一延伸フィルムは、巻芯に巻きとり、巻回体にしてから、後述する第二延伸工程に供給してもよいし、巻芯に巻き取らずに第二延伸工程に供給してもよい。
【0070】
次いで、前記第一延伸フィルムを斜め延伸して、幅方向に対する配向角θが30°〜80°である第二延伸フィルムを得る(第二延伸工程)(斜め延伸工程と言うこともある)。
【0071】
第二延伸工程では、前記第一延伸フィルムを、第二延伸フィルムの巻き取り方向に対する第一延伸フィルムの繰り出し方向の角度θが、15°<θ<60°、好ましくは25°<θ<55°となるように繰り出しながらテンター延伸して、配向角θが幅方向に対して30°〜80°、好ましくは40°〜50°の範囲にある第二延伸フィルムを作製する。本明細書では、このフィルム巻き取り方向に対するフィルム繰り出し方向の角度を繰り出し角度という。前記繰り出し角度θをこの範囲にすることにより、本発明の如き大きな配向角をもつ斜め延伸フィルムにおいても広幅で均一な物性を得ることが可能となる。
【0072】
第二延伸工程における延伸倍率Rは、好ましくは1.3〜2.0、より好ましくは1.5〜1.9である。延伸倍率Rがこの範囲にあると幅方向の厚さムラを小さくすることができる上に幅を広くすることができる。延伸倍率Rが2.0より大きくなると、第一延伸工程によるフィルムの配向がほぼ消失するおそれがあり、本発明の延伸フィルムの配向角θが前記範囲とならないおそれがある。延伸倍率Rが1.3より小さくなると、第一延伸工程によるフィルムの配向が強く残存するおそれがあり、本発明の延伸フィルムの配向角θが前記範囲とならないおそれがある。
なお、第二延伸工程における延伸倍率は、幅方向の長さ変化量から求めることができる。具体的には、延伸前フィルムの幅をW、延伸後フィルムの幅をWとすると、延伸倍率はW/Wにより求めることができる。
【0073】
第二延伸工程においては、テンター延伸機の延伸ゾーンで、幅方向で延伸温度に差を付けると幅方向の厚さムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。幅方向で延伸温度に差をつける方法としては、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差をつけるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。
【0074】
第二延伸工程における延伸温度は、フィルムを構成する固有複屈折値が負である材料の融点又はガラス転移温度Tg(℃)に対し、Tg(℃)以上Tg+30(℃)以下の範囲から適宜選択される。前記延伸温度が、Tg(℃)未満では成形性が不足しクレーズ等の欠陥を生じることがあり、Tg+30(℃)を超える温度ではフロー延伸となり、目的のリターデーション(ReやRth)を発現させるのに十分な分子配向を得ることが出来ない。また、本発明の延伸フィルムが、前記積層体Cのような積層構造を有する場合には、延伸温度を、層Bを構成する材料及び層Bを構成する材料の融点又はガラス転移温度Tg(材料の種類が異なる場合はTgb1、Tgb2)よりも15℃〜60℃高い温度、好ましくは20℃〜50℃高い温度で、且つ、Tg〜Tg+30℃を満たす温度とすることが好ましい。このような条件で延伸を行うと、層B及び層Bの配向度及び面内方向のリターデーションReを上記した範囲に調整することができる。
【0075】
第二延伸工程について図を参酌して説明する。
図1は本発明の製造方法を好適に実施できるテンター延伸機の一例を示す概念図である。図2は図1の延伸機におけるレール部分の把持手段を示した図である。図3は図1の延伸機におけるレールパターンを説明するための図である。角度θは、フィルム巻き取り方向に対する繰り出し角度である。
【0076】
図1に示すテンター延伸機は、繰り出しロール(第一延伸フィルムB巻回体)21と、巻き取りロール22と、予熱ゾーンA、延伸ゾーンBおよび固定ゾーンCからなる恒温室10と、フィルムを搬送するための把持手段が走行するレール11と把持手段12(図1及び図3では把持手段の図示を省略している。)とを少なくとも備えている。
【0077】
把持手段12は、繰り出しロール21から引き出された第一延伸フィルムBの両端を把持し、予熱ゾーンA、延伸ゾーンBおよび固定ゾーンCからなる恒温室内に第一延伸フィルムBを導き斜め延伸する。そして、巻き取りロール22の手前で斜め延伸された第二延伸フィルムBを開放する。把持手段から開放された第二延伸フィルムBは巻き取りロール22によって巻き取られる。左右一対のレール11は、末端のない連続した無限軌道を有し、上記のように走行した把持手段を、恒温室の出口側から入口側に戻すようになっている。
【0078】
第一延伸フィルムB(図1中、1と表記)は、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンからなる恒温室内を通過している間に、把持手段からの張力によって延伸される。
予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンは、それぞれ独立に温度を設定でき、それぞれのゾーンでは温度が、通常、一定に保たれている。各ゾーンの温度は適宜選択できるが、未延伸フィルムを構成する固有複屈折値が負である材料のガラス転移温度Tg(℃)に対して、予熱ゾーンはTg〜Tg+30(℃)、延伸ゾーンはTg〜Tg+20(℃)、固定ゾーンはTg〜Tg+15(℃)である。
【0079】
本発明においては幅方向の厚さムラの制御のために延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。特に本発明においては把持手段付近の温度をフィルム中央部よりも高めにすることが好ましい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターを幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンの長さは適宜選択でき、通常、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さが通常100〜150%、固定ゾーンの長さが通常50〜100%である。
【0080】
把持手段12は、例えば、配置の変形が可能なレール11上を走行する。レール11は、フィルムが所望の角度で延伸されるように、配置される。図1においては、このレールの配置を、フィルム走行方向が下記に述べる方向になるように、設定されている。なお、本発明においてフィルム走行方向は、フィルム引き出しロールからフィルム巻き取りロールまでのフィルム幅方向の中点を結んだ線の接線の方向である。
【0081】
予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境目13および延伸ゾーンと固定ゾーンとの境目14には、フィルムが通過できるスリットを有する仕切板が設置されている。予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境目および延伸ゾーンと固定ゾーンとの境目、すなわち、仕切板は、固定ゾーンのフィルム走行方向49に対して直角になっていることが好ましい。
【0082】
予熱ゾーンAは、予熱ゾーンのフィルム走行方向47に直角な方向のフィルム長さを実質的に変えずにフィルムを温めながらフィルムを搬送するゾーンである。予熱ゾーンのフィルム走行方向は、フィルムの繰り出し方向に平行な方向であり、通常、引き出しロールの回転軸と直交している。
【0083】
延伸ゾーンBは、延伸ゾーンのフィルム走行方向に直角な方向のフィルム長さを大きくしながらフィルムを搬送するゾーンである。延伸ゾーンにおけるフィルム走行方向は、延伸ゾーンが図1のように傾きを変えずに一定の角度で広がったレール配置においては、予熱ゾーンと延伸ゾーンの境目におけるフィルムの中点から延伸ゾーンと固定ゾーンの境目におけるフィルムの中点に結んだ直線の方向である。
【0084】
図1では延伸ゾーンのフィルム走行方向は予熱ゾーンのフィルム走行方向47と一致しているが、ずれていてもよい。ずらす場合は図1中、予熱ゾーンのフィルム走行方向よりも上向きにずらすことが好ましい。
【0085】
固定ゾーンCは、固定ゾーンのフィルム走行方向49に直角な方向のフィルム長さを実質的に変えずにフィルムを冷ましながらフィルムを搬送するゾーンである。固定ゾーンのフィルム走行方向49は、フィルムの巻き取り方向に平行な方向であり、通常、巻き取りロールの回転軸と直交している。
【0086】
本発明の製造方法では、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンにおけるフィルム面が互いに略平行であることが好ましい。すなわち、引き出しロールから出たフィルムは、捩れずに、平らなままで、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび固定ゾーンを通過し、巻き取りロールに巻き取られるのが好ましい。
【0087】
本発明の製造方法では、前記把持手段の走行速度がフィルム両端で略等しいことが好ましい。図2には、向かい合う一対の把持手段間に破線を記した。延伸は延伸開始点付近で始まり延伸終了点付近で終了する。延伸開始点とは、上記一対の把持手段間の間隔が広がり始める点であり、図2ではS1およびS2である。延伸終了点とは、上記一対の把持手段の間隔が一定になり始める点であり、図2ではE1およびE2である。本明細書では、このE1とE2とを結ぶ方向を、斜め延伸工程における延伸方向と言うことがある。なお、この斜め延伸工程における延伸方向は、第一延伸フィルムの繰り出し方向に略直交する方向である。
把持手段の走行速度は適宜選択できるが、通常、10〜100m/分である。左右一対の把持手段の走行速度の差は、走行速度の1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが特に好ましい。
【0088】
図3に示すように、予熱ゾーンの走行方向(フィルム繰り出し方向)47が、固定ゾーンのフィルム走行方向(フィルム巻き取り方向)49に対して、角度θ傾いている。図3では下側にレールが屈曲しているが、図3の予熱ゾーンのフィルム走行方向の線を軸に線対称にした、上側に屈曲しているものであってもよい。繰り出し角度θは、得られる第二延伸フィルムの配向角θに対して、15°<θ<(θ−90°)+5°、好ましくは25°<θ<55°の範囲となるようにする。
【0089】
延伸ゾーンは、フィルム走行方向が変化せずに直線状になっていてもよいし、段階的または連続的にフィルム走行方向が変化していてもよい。レールの開き角度は延伸倍率に応じて適宜選択できる。
【0090】
固定ゾーンの走行方向(フィルム巻き取り方向)は、図3に示すようにθの角度で予熱ゾーンの走行方向(フィルム繰り出し方向)から傾いている。このために、図中の上側把持手段は下側把持手段よりも遠回りすることになる。このために、図2中で、上側把持手段がE1に達したときに、それに対応する下側把持手段はE2に達している。固定ゾーンのフィルム幅方向から見たときにE2はE1よりも先の位置に進んでいることになる。
【0091】
以上のようにして恒温室内を通過した延伸フィルムは、巻き取りロールの手前で把持手段から開放され、巻き取りロールに巻き取られる。また、必要に応じて、巻き取りロールに巻き取る前に、テンター延伸機の把持手段で把持されていたフィルムの両端をトリミングしてもよい。また、巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを重ねて同時に巻き取ってもよいし、延伸フィルムの少なくとも一方、好ましくは両方の端にテープ等を張り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、上記フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えばポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
【0092】
本発明の延伸フィルムは、上記の製造方法によって容易に得ることが可能で、複屈折の高度な補償が可能なので、それ単独あるいは他の部材と組み合わせて、位相差板や視野角補償フィルムとして、液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに広く応用が可能である。
【0093】
例えば、上記のように、本発明の延伸フィルムを1/4波長板として用いる場合には、円偏光分離素子と貼り合わせ、液晶表示装置に用いることができる。
円偏光分離素子としては、特開平6−235900号公報、特開平8−271731号公報、特開平11−231130号公報、特開2005−91825号公報などに開示されているコレステリック規則性を有する層を用いた円偏光分離膜などが知られている。
【0094】
本発明の延伸フィルムと円偏光分離素子との貼り合わせに接着剤(粘着剤を含む)を用いる場合、接着剤からなる接着層の平均厚さは、通常0.01μm〜30μm、好ましくは0.1μm〜15μmである。この接着層を構成する接着剤としては、アクリル接着剤、ウレタン接着剤、ポリエステル接着剤、ポリビニルアルコール接着剤、ポリオレフィン接着剤、変性ポリオレフィン接着剤、ポリビニルアルキルエーテル接着剤、ゴム接着剤、塩化ビニル・酢酸ビニル接着剤、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS共重合体)接着剤、その水素添加物(SEBS共重合体)接着剤、エチレン・酢酸ビニル共重合体およびエチレン−スチレン共重合体などのエチレン接着剤、および、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸エチル共重合体、およびエチレン・アクリル酸エチル共重合体などのアクリル酸エステル接着剤などを挙げることができる。
【0095】
また、前記1/4波長板と、円偏光分離素子とを組み合わせたものに、さらに直線偏光子を組み合わせることができる。直線偏光子は、円偏光分離素子で分離された円偏光が1/4波長のReを有する本発明の延伸フィルムによって変換された直線偏光を透過する向きに配置される。
【0096】
本発明の長尺の円偏光板は、本発明の長尺の延伸フィルムと、長尺の偏光子とを積層してなるものである。
本発明に用いられる偏光子は、直角に交わる二つの直線偏光の一方を透過するものである。例えば、ポリビニルアルコールフィルムやエチレン酢酸ビニル部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムにヨウ素や二色性染料などの二色性物質を吸着させて一軸延伸させたもの、前記親水性高分子フィルムを一軸延伸して二色性物質を吸着させたもの、ポリビニルアルコールの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等のポリエン配向フィルムなどが挙げられる。その他に、グリッド偏光子や異方性多層フィルムなどの反射性偏光子が挙げられる。偏光子の厚さは、通常5〜80μmである。
【0097】
積層形態としては、本発明の延伸フィルムを偏光子の両面に積層させても片面に積層させてもよく、また積層数に特に限定はなく、2枚以上積層させてもよい。偏光子の片面のみに、本発明の延伸フィルムを積層した場合は、残りの片面に偏光子の保護を目的として、従来の保護フィルムを積層してもよい。
【0098】
従来の保護フィルムとしては、適宜な透明フィルムを用いることができる。中でも、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮蔽性等に優れる樹脂を有するフィルム等が好ましく用いられる。その樹脂の例としては、トリアセチルセルロースの如きアセテート重合体、脂環式オレフィンポリマー、鎖状ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートの如きポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、アクリル重合体等が挙げられる。
【0099】
本発明の長尺の円偏光板を得るための好適な製造方法は、本発明の延伸フィルムの巻回体および偏光子巻回体からそれぞれ同時にフィルムおよび偏光子を引き出しながら、該延伸フィルムと該偏光子とを密着させることを含む方法である。斜め延伸フィルムと偏光子との密着面には接着剤を介在させることができる。延伸フィルムと偏光子とを密着させる方法としては、二本の平行に並べられたロールのニップに延伸フィルムと偏光子を一緒に通し圧し挟む方法が挙げられる。
【0100】
本発明の長尺の延伸フィルムまたは長尺の円偏光板は、その使用形態に応じて所望の大きさに切り出して、位相差板または偏光板として用いられる。この場合、長尺のフィルムの巻き取り方向に対して、垂直または平行な方向に沿って切り出すことが好ましい。
【0101】
本発明の液晶表示装置は、切り出された前記円偏光板を備えたものである。
本発明の液晶表示装置の一例としては、偏光透過軸を電圧の調整で変化させることができる液晶セルと、それを挟むように配置される前述の円偏光板とで構成されるものが挙げられる。また、前述の延伸フィルムは位相差板として、光学補償、偏光変換などのために液晶表示装置に用いられる。なお、液晶表示装置には、液晶セルに光を送りこむために、表示面の裏側に、透過型液晶表示装置ではバックライト装置が、反射型液晶表示装置では反射板が、通常備えられている。なお、バックライト装置としては、冷陰極管、水銀平面ランプ、発光ダイオード、ELなどが挙げられる。
【0102】
液晶表示装置に備わっている液晶セルの表示モードは特に制限されず、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどを挙げることができる。中でも、IPSモードであることが好ましい。
【0103】
液晶表示装置は、光のとり方によって、反射型、透過型、および半透過型に大きく分類される。透過型は、液晶パネルの背後に光源となるバックライトを配置し、そのバックライトからの光を液晶パネルに透過させ観察者に視認させるものである。一方反射型は、外光を液晶表示装置のおもて面から取り入れて。液晶パネル背後の反射板で反射させて、その反射光を液晶パネルに透過させ観察者に視認させるものである。半透過型は外光があるときには反射型で、外光が無いときには透過型として作動するようにされたものである。
本発明の延伸フィルム又は円偏光板は、反射型、透過型、および半透過型のいずれにも用いることができるが、半透過型又は反射型液晶表示装置において、その表示画面の視野角が広くなり、表示画面のコントラストの低下や着色を防止することができるので、好適である。
【0104】
本発明の液晶表示装置には他の部材を備えていてもよい。例えばプリズムアレイシート、レンズアレイシート、光拡散板、導光板、拡散シート、輝度向上フィルム等の部材を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
【実施例】
【0105】
本発明を、実施例及び比較例を示しながら、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
本実施例における評価は、以下の方法によって行う。
【0106】
(1)厚さ
延伸フィルムの幅方向に50mm間隔で、反射分光膜厚計〔大塚電子社製 FE−3000〕を走査して、延伸フィルムの(各層の)厚さを測定する。この測定を延伸フィルムの流れ方向に50mm間隔で、長さ1000mmに亙って行う。全測定結果を平均して(各層の)厚さとした。厚さムラは、各測定値の最大値から最小値を差し引いた値とした。
【0107】
(2)配向角
延伸フィルムの幅方向に50mm間隔で、位相差計(王子計測社製、KOBRA-WIST)を用いて、フィルムの面内遅相軸の方向(フィルムの幅方向とのなす角度)を測定する。この測定を延伸フィルムの流れ方向に50mm間隔で、長さ1000mmに亙って行う。全測定結果を平均して配向角θとした。また、配向角の最大値と配向角の最小値の差を配向角のバラツキとした。
【0108】
(3)Re,Rth,Nz係数
位相差計(王子計測社製、KOBRA-21ADH)を用いて、フィルムの幅方向に50mm間隔で面内方向のレターデーションRe,厚さ方向のレターデーションRth及びNz係数を測定し、それらの平均値をそれぞれRe,Rth及びNz係数とした。Nz係数の最大値とNz係数の最小値との差をNz係数のバラツキとした。
【0109】
(4)ガラス転移温度
JIS K 7121に準拠して、示差走査熱量分析法(DSC法)により測定した。
【0110】
実施例1
特公昭55−27576号の実施例3に記載の方法で、ゴム粒子を製造した。ゴム粒子は、球形三層構造を有し、芯層が、メタクリル酸メチルおよび少量のメタクリル酸アリルからなる架橋重合体であり、中間層が、アクリル酸ブチル、スチレンおよび少量のメタクリル酸アリルからなる架橋重合体であり、殻層が、メタクリル酸メチルおよび少量のアクリル酸エチルからなる重合体である。ゴム粒子の数平均粒子径は0.19μmであった。
メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂(メタクリル酸メチル/アクリル酸メチル(質量比)=97.8/2.2の共重合体樹脂、ガラス転移温度105℃)70部と、前記ゴム粒子30部とを混練して、メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂組成物(以下、PMMAと記す。ゴム粒子30%含有。)を得た。
前記メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂組成物と、固有複屈折値が負であるスチレン重合体樹脂(ダイラークD332、ノヴァケミカルジャパン社製、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ガラス転移温度125℃、以下PSTと記す。)と、前記メタクリル酸アルキルエステル重合体樹脂組成物とを、それぞれ押出機で溶融させ、共押出用のダイに供給した。供給された溶融樹脂はダイスリップを通過し、PMMA/PST/PMMAの三層構造の溶融フィルムに成形された。溶融フィルムを第一冷却ロールに引き取り原反フィルム(幅1350mm、PMMA層の平均厚さ60μm/PST層の平均厚さ40μm/PMMA層の平均厚さ60μm)を得た。
この原反フィルムを、そのまま連続してフロート方式の縦延伸機に供給し、表1に示す条件で第一延伸を行い、配向角θが巻きとり方向に垂直な(幅方向)に対し0.1°に配向した第一延伸フィルムを得た。
【0111】
次いで、該第一延伸フィルムを、第二延伸フィルムの巻き取り方向に対する繰り出し角度θ=40°で図1〜図3に示すテンター延伸機に供給し、表1に示す条件で第二延伸を行い、フィルム両端300mmをトリミングして、幅1530mmの長尺の第二延伸フィルムを得た。得られた長尺の第二延伸フィルムは上記幅方向に対し均一なものであり、皺や破断もなかった。
延伸条件、第一延伸フィルム及び第二延伸フィルムの特性を表1に示す。
【0112】
透過軸が幅方向にある長尺の偏光板(サンリッツ社製、HLC2-5618S、厚さ180μm、幅1340mm)と、第二延伸フィルムとを、ロール・トゥ・ロールで貼り合わせて幅1340mmの円偏光板の巻回体を得た。この巻回体から切り出した円偏光板を、IPS(インプレーンスイッチング)モードの反射型液晶表示装置のバックライト側の偏光板と置き換え、上記第二延伸フィルムを貼り合わせた側が液晶セル側に配置されるように組み込んで反射型液晶表示装置を作成した。作成した液晶表示装置の表示特性を目視により正面方向や斜め方向から確認したところ、全幅にわたり色ムラが観察されず、良好な表示であった。また、斜め方向から観察しても、正面方向から観察した場合と同じ色合いであり、画面の変色は見られなかった。
【0113】
比較例1
原反フィルムをそのまま連続してテンター延伸機に供給し、表1に示す条件で斜め延伸を行い、巻き取り方向に対して配向角θが45°である延伸フィルムを得、巻き芯に巻きとった。この延伸フィルムの特性を表1に示す。延伸処理1回だけで得られた延伸フィルムは、配向角のバラツキやNz係数のバラツキが大きく、均一性が不十分なものであった。
さらに、得られたこの延伸フィルムを用いた他は、実施例1と同様にして円偏光板及び反射型液晶表示装置を作成した。この延伸フィルムを用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置の表示特性を目視により正面から確認したところ、画面内に若干色ムラが観察された。また、斜め方向から観察すると、正面方向から観察した場合と異なる色合いであった。
【0114】
比較例2
表1に示す条件で、第一延伸及び第二延伸を行った他は、実施例1と同様にして、第一延伸フィルム、第二延伸フィルムを得た。(但し、第二延伸フィルムは、厚さムラが大きいために巻きズレが極端に大きくなり、巻きズレ由来の変形が一部に見られた。)さらに、第二延伸フィルムから切り出した位相差フィルムの面内遅相軸と偏光板から切り出した偏光フィルムの吸収軸とが45°の角度になるように貼合して円偏光板を得、次いで、実施例1と同様にして、この円偏光板を備える反射型液晶表示装置を得た。第一延伸フィルム及び第二延伸フィルムの特性を表1に示す。この第二延伸フィルムは、配向角のバラツキが大きく、均一性が不十分なものであった。この第二延伸フィルムを用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置は、画面内に色ムラが観察された。また、斜め方向から観察すると、画面内に色ムラが観察された。
【0115】
比較例3
表1に示す条件で、第一延伸及び第二延伸を行った他は、比較例2と同様にして、第一延伸フィルム、第二延伸フィルム、円偏光板及び反射型液晶表示装置を得た。(但し、第二延伸フィルムは、厚さムラが大きいために巻きズレが極端に大きくなり、巻きズレ由来の変形が見られた。)第一延伸フィルム及び第二延伸フィルムの特性を表1に示す。この第二延伸フィルムは、配向角のバラツキが大きく、均一性が不十分なものであった。この第二延伸フィルムを用いた円偏光板を備える反射型液晶表示装置は、画面内に色ムラが観察された。また、斜め方向から観察すると、画面内に色ムラが観察された。
【0116】
比較例4
表1に示す条件で斜め延伸を行った他は、比較例1と同様にして、延伸フィルムを得た。この延伸フィルムの特性を表1に示す。なお、この延伸フィルムは、連続的に巻き取っていると皺ができ、破断(クラックが発生)した箇所が散見されることがあった。
【0117】
【表1】

【0118】
比較例1の結果から、斜め45°の一軸延伸を行うと、得られる延伸フィルムの物性のバラツキが大きくなり、液晶表示装置の表示画質の改善効果が不足することがわかる。また、比較例2や3の結果から、縦延伸の後に斜め延伸を行う二段延伸において、繰り出し角度が大き過ぎたり、第一延伸フィルムの配向角のバラツキが大きすぎたりすると、得られる延伸フィルムの物性のバラツキが大きくなり、液晶表示装置の表示画質の改善効果が不足することがわかる。さらに、比較例4の結果から、斜め15°の一軸延伸を行うと、得られる延伸フィルムに皺などが生じることがあることがわかる。
【0119】
一方、本発明の方法を用いると、配向角が大きな斜め延伸フィルムを、皺を生じさせずに製造できることがわかる。また、斜め延伸工程における繰り出し角度θが小さくても、得られる延伸フィルムの配向角を大きくすることができ、且つ、第一延伸工程における延伸方向に面内で直交する方向(第一延伸フィルムの面内遅相軸の方向)と斜め延伸工程における延伸方向に面内で直交する方向との間の方向に、延伸フィルムの面内遅相軸を精度よく発現させることができる。そして、得られる本発明の延伸フィルムは、広幅で厚さムラが小さく光学特性に優れ、液晶表示装置の表示画質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】図1は、本発明の製造方法を好適に実施できるテンター延伸機の一例を示す概念図である。
【図2】図2は、図1の延伸機におけるレール部分の把持手段を示した図である。
【図3】図3は、図1の延伸機におけるレール配置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0121】
1:フィルム
10:恒温室
11:レール
12:把持手段
13:予熱ゾーンと延伸ゾーンとの境目
14:延伸ゾーンと固定ゾーンの境目
21:繰り出しロール
22:巻き取りロール
47:フィルムの繰り出し方向
49:フィルムの巻き取り方向
S1,S2:延伸開始点
E1,E2:延伸終了点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の延伸フィルムの製造方法であって、
前記長尺のフィルムは、
固有複屈折値が負である材料からなり、
少なくとも1300mmの幅方向に亘って、
幅方向に対する配向角θの、
値が30°〜80°の範囲にあり、
バラツキが1.0°以下であり、
Nz係数の、
値が−1.2〜−0.3の範囲にあり、
バラツキが0.10以下である、
長尺の延伸フィルムであり、
前記製造方法は、
固有複屈折値が負である材料からなる長尺のフィルムを縦延伸して、幅方向に対する配向角θが±1.0°以内である第一延伸フィルムを得る工程、
前記第一延伸フィルムを、第二延伸フィルムの巻き取り方向に対する繰り出し角度θが15°<θ<60°となるように繰り出しながらテンター延伸して、幅方向に対する配向角θが30°〜80°の範囲にある第二延伸フィルムを得る工程を含む、長尺の延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
第一延伸フィルムを得る工程における延伸倍率Rが1.1〜2.0であり、第二延伸フィルムを得る工程における延伸倍率Rが1.3〜2.0である、請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−99958(P2013−99958A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−15861(P2013−15861)
【出願日】平成25年1月30日(2013.1.30)
【分割の表示】特願2007−76400(P2007−76400)の分割
【原出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】